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No.21417の一覧
[0] せめて勇者として召喚してほしかった[古時計](2011/08/29 01:34)
[1] せめて勇者として召喚してほしかった2[古時計](2011/08/24 23:20)
[2] せめて勇者として召喚してほしかった3[古時計](2011/08/24 23:20)
[3] せめて勇者として召喚してほしかった4[古時計](2010/11/02 02:01)
[4] せめて勇者として召喚してほしかった5[古時計](2011/08/30 22:48)
[5] せめて勇者として召喚してほしかった6[古時計](2010/11/02 01:59)
[6] せめて勇者として召喚してほしかった7[古時計](2010/10/30 17:26)
[7] せめて勇者として召喚してほしかった8[古時計](2011/08/30 22:47)
[8] せめて勇者として召喚してほしかった9[古時計](2011/02/18 23:23)
[9] せめて勇者として召喚してほしかった10[古時計](2011/02/21 12:42)
[10] せめて勇者として召喚してほしかった11[古時計](2011/03/04 00:55)
[11] せめて勇者として召喚してほしかった12《前編》[古時計](2011/03/10 01:30)
[12] せめて勇者として召喚してほしかった12《後編》[古時計](2011/03/21 16:10)
[13] せめて勇者として召喚してほしかった13[古時計](2011/07/18 21:24)
[14] せめて勇者として召喚してほしかった14[古時計](2011/07/24 19:01)
[15] せめて勇者として召喚してほしかった番外1[古時計](2011/08/16 00:23)
[16] せめて勇者として召喚してほしかった15[古時計](2011/07/31 17:27)
[17] せめて勇者として召喚してほしかった16[古時計](2011/08/16 00:24)
[18] せめて勇者として召喚してほしかった17[古時計](2011/08/21 20:00)
[19] せめて勇者として召喚してほしかった18[古時計](2011/08/31 01:14)
[20] せめて勇者として召喚してほしかった番外2[古時計](2012/01/05 00:43)
[21] せめて勇者として召喚してほしかった19[古時計](2012/08/17 02:02)
[22] せめて勇者として召喚してほしかった20[古時計](2012/09/17 22:26)
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[21417] せめて勇者として召喚してほしかった18
Name: 古時計◆c134cf19 ID:86ac8b53 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/31 01:14
「クエエエエエ!」

「きゃあああああああ!?」

朝、けたたましい声で目が覚める。

「クククエ、クククエ、ク―エー!」

火サス? どこでそんなメロディを……て俺だ。

ふああ、とあくびをしながらも昨日の闖入者を寝かした部屋に向かう。

「クエ、クエ、クエエエエ!」

「やあああ、やめて!やめて! もう何? 何なの!?」

扉をあけると空き部屋のソファで横になっている件の少女とその上でつつく攻撃を繰り返している我が家の三番目の住人?である雛鳥。

「あ、ちょっとあなた! なんなのコイツ! 寝てたら急に襲われたんだけど!」

「コイツじゃない。コルネリウス・ショウペンハウエル・ヨースティン・ウルバラブロンという名前がある」

「こ、こる?」

「コルネリウス・ショウペンハウエル・ヨースティン・ウルバラブロンだ。因みに精霊獣だからある程度の知性がある。だから名前を呼べば止めてくれるぞ」

「え、えーと、えと、コルネリウス・ショウペンハウエル・ヨースティン・ウルバラブロン! つつくのやめなさいコルネリウス・ショウペンハウエル・ヨースティン・ウルバラブロン!」

「クエエエエエエエ!」

ドツドツドツドツ!

そして全く止める気配のないコルネリウス・ショウペンハウエル・ヨースティン・ウルバラブロン。

「全然止まんないじゃないの! 何とかしなさいよ!」

「ったく、朝から騒がしいな。おい、『コショウ』もうすぐご飯作ってやっから止めろ」

「クエ」

ぴょん、と飛び降りこちらに二本足で歩いてくるコルネリウス・ショウペンハウエル・ヨースティン・ウルバラブロン。

「名前全然違うじゃない! 何よコショウって!?」

「違くねえよ。本名コルネリウス・ショウペンハウエル・ヨースティン・ウルバラブロン。ただあまりに長いから略してコショウと呼んでるうちにそっちが本名だと思ったらしくてな。

もうこっちじゃないと反応しなくなった」

因みに命名はシオである。略式になった事に腹を立てていたがいきなり食料とみなしたお前にどうこう言われたくない。

「ちょっと! あたしあなたのペットに襲われたのよ! 謝罪の一言とかお詫びに下僕になるとか言いなさいよ!」

「何を堂々と自分の要望唱えてんだ。 大体昨日お腹減ったからってわざわざご飯作ってやったのにそのあと勝手に腹が膨れて眠っちゃったのは嬢ちゃんだろう。

泊めてやったこっちに感謝してほしいくらいだ」

「それとこれとは話が別よ! ちょっと何処行くのよ!」

「厨房に朝飯作りに行くんだよ。あー、なんか食いたい物あるか嬢ちゃん?」

「あたしトマト食べたい!」

「…………」

アホな子だとは思ってたけどここまでか。

さっきまでの怒りは何処へやら厨房へ向かう俺の後を嬉しそうについてくる嬢ちゃんとコショウをカルガモみたいと思った俺は悪くないはず。














せめて勇者として召喚してほしかった18

















吸血鬼の少女来訪1日目




「あぐあぐ」

取りあえず朝だったので軽めにBLTサンドを作ってあげたのだがこちらの世界にはサンドイッチはなかったため物珍しいのか目をキラキラさせながら食べている。

「んじゃ俺は仕事あるからゆっくり食ってな。コショウ、部屋のもん遊んで壊すなよ。でないとシオに焼きとりにされかねないしな」

「クエエエ」

シオの恐怖を思い出し震えるコショウを確認すると食べ終わった自分の分の皿を台所に持っていく。食堂と台所は繋がっているので洗い物をしている間にも後ろから嬢ちゃんの声が聞こえてくる。

「ゴクン、ふう、おいしかった。なかなかやるじゃないあなた…ってあれ? いない?」

聞いてなかったのか。一つの事しか集中出来ないってホントに子供だなぁ。

「うーん、あれ? 今あの人がいないんなら逃げるチャンスじゃない? っ、こうしちゃいられないわ!」

そう言ってトタタ、とかけ足が玄関の方へ向かって、って不味い!

すぐさま洗い物を止めて嬢ちゃんの後を追いかける。

だが廊下に出た俺の目に入ってきたのはもう扉に手をかけている嬢ちゃんの姿だった。

「おい、やめろ!」

「あ、ふっふーんだ。油断したわね。大人しく食べている振りをして隙を作り逃げ出すというあたしの作戦に見事に引っ掛かったわね」

俺が追いかけてきたと気付いたが自分の位置関係から絶対の有利さを感じ取った嬢ちゃんが自慢げに胸を張る。

いや嬢ちゃんさっきの発言から間違いなく思い付きだろうとか突っ込みたいけど今やるべきはそれじゃない。

「待て、考え直せ。いいからその扉をあけるな」

「いやよ。昨日は不覚を取ったけど外に出て魔力が使えるようになったらこっちのもんなんだから」

俺の警告に耳を貸す事なくガチャリ、と扉をあけるとその隙間からサッと外へ飛び出してしまう。

嫌な予感が倍増し直ぐに嬢ちゃんの後を追うように外に出る。

そして

「いやああああ! 熱いぃ! 焼けるぅ! 灰になっちゃうぅ!」

「ああやっぱりか! もう言わんこっちゃない!」

燦々と輝く朝日を浴びてプスプス煙を出しながら庭先をゴロゴロ転がる吸血鬼の少女がそこにはいた。






「死ぬかと思ったじゃない」

「不死身の吸血鬼が一番言わなそうなセリフだよなソレ」

転がる嬢ちゃんを捕まえてさっさと家に連れ戻す。

全く、何のためにカーテンを全部しきっぱなしにしてたと思ってるんだこの子は。

「それにしても」

煙が収まり代わりにシュウウ、と日を浴びて火傷になった箇所が再生していく嬢ちゃんを見ると改めてこの子が吸血鬼なのだと実感する。

魔力は封じてても吸血鬼としての本質は変わらないらしい。見た目は幼い少女そのものなのにな。

……そういや精霊獣とか魔物とか見てきたけど人型の人外って初めてだな。

「当たり前でしょ。あたしは生まれつきの吸血鬼なんだから再生力は最高レベルよ。その代わり弱点もそれなりに多くなっちゃうけど」

「……弱点て言うとさっきの日光とか十字架とか銀とかニンニクとかそういうのか?」

「大体そうだけどジュウジカって?」

「こういうの」

取りあえずスペシウム光線よろしく腕を十字に組む。

「みぎゃあああああああ!」

「あ、ワリ」

予想以上の反応だったので直ぐに止める。

椅子から転げ落ちた嬢ちゃんは俺が十字を組むのをやめると顔を真っ赤にしながら詰め寄ってきた。

「ヒドいじゃないのよ! 今アタシは魔力封じてるからこんな距離でソレ見たら大ダメージ確定よ!」

「…そうか。いや悪かった。まあしばらく休んでろ。俺は用を済ませたら仕事行くから。昼はどうすんだ?」

「夜になるまで寝るにきまってるじゃない。棺桶ある? 出来れば寝心地がいいのがいいんだけど」

「ねえよ。寝心地いい棺桶ってどんなんだ?」

もし有ったらシオにどういう事か問いたださなきゃいけなくなる。

俺用とか言われたら流石に付き合いを考えなきゃならない。

コショウに「夜になったら起こしてよ。そしたらここから出てあの人間を下僕にするんだから」と声のデカイ内緒話をしている少女を放っておいて必要な道具を取りに行く。

腕であんだけ効果あったんなら木でも充分だろ。




その日、サトーが帰るより早く起きた少女は出口という出口に吊るされた十字架を見て悲鳴を上げ続ける事となった。









吸血鬼の少女来訪3日目



「ほれ、今日のご飯はオムライスだぞ」

「うわ、何これ!? お米の上に卵が乗ってる?」

「ふふん、半熟にしてトロリとした触感とトマトケチャップで炒めたライスの絶妙なうまさをとくと味わうがいい」

シオが帰るまで手の打ちようが無かったので少女を家に置いとくようになってから早3日。

……今考えたら俺コレ普通に少女拉致監禁じゃね?

いや、命狙われてんのこっちなんだから正当防衛みたいななんかでセーフのはず!

なお、どこぞのロリコンどもに明け渡すという考えはある意味最悪の人身売買の気がしたので即行却下。

それにしてもこの少女、捕まっている自覚があんのか?

帰ってきたら普通に飯を要求するわ退屈だからなんかしろだのやたら馴染んでるんだが。

まあこっちとしては泣き叫ばれるよりはずっと助かってるしシオが帰ってくるまでの我慢だ。

大抵のものをうまそうに食ってくれるのも嬉しいし。

最近ではミコさんから教わった料理に加え元の世界の料理のレパートリーも増えてきているのでその成果が出るのは嬉しい。

……元の世界に戻ったらその手の就職も考えてみようかな。

「アタシ卵きらーい。これいらない」

ポイッ

ポトリと床に落ちる黄金色に輝く卵。

俺の中の何かが切れる音がした。

「手前ぇ! なんて事を! なんて事をしやがる!」

「ええええ! 何でいきなり怒りだしたの!?」

「この卵はなあ! この卵はなあ! 雛鳥になるかもしれなかった運命を俺達の糧となるためにその命を犠牲にしてくれたかけがいのないものなんだぞ!

それを、それを、よく平気で捨てられるなあ! 見ろ! コショウの円らな瞳を!」

「コショウを?」

「クエエエエ」

「? いつもと変わらないじゃない?」

「馬鹿野郎! 一見何の変化も見られないようだがその実同族の命がないがしろにされた事に深い悲しみを携えたその瞳に気付かないのか!

謝れ! コショウと犠牲になった卵に謝れ!」

「そ、そうだったの!? ごめんなさいコショウ! アタシ全然気付かなかった!」

「うう、今日のオムライスは我ながら会心の出来だったのに」

「クエエエエ」

コショウを抱きながらさめざめと泣く吸血鬼の少女。

四つん這いになって嘆く俺。

そして抱きつかれながら平然と落ちた卵を食ってるコショウ。






基本この家はシオがボケたらサトーが突っ込み、サトーがボケたらシオが突っ込むことでバランスが取れている。

よってどちらかがおらず他の全員がボケだった場合突っ込みがまるでいなくなるためこのようなカオスになる。

ともかく、突っ込む事はたくさんあるが一つだけ。








それは無精卵だ。












吸血鬼の少女来訪8日目




「あー疲れた、ただいまー」

いつもよりもくたびれた声が漏れたのを自覚する。

帰宅時間ギリギリ前にクエストが大量に入ったのでその整理に追われて随分遅くなってしまった。

普段ならこういうときにはミコさんの賄いを食べてくるのだが今は嬢ちゃんがいるためそうもいかない。

帰り際にミコさんの「あら? 食べてかないなんて珍しいわね? もしかして誰か家に待たせてるの?」とピンポイントな質問をされた時はビビった。

言ってもいいんだけどここで言うと何か大変な事になる気がしたので黙っている。

その後のミコさんの「シオ君が聞いたらどんな反応するかしらね。やっぱり嫉妬にかられて…」という発言は聞かなかったことにしたい。

ミコさんの愛読書は究極の愛のものだからなあ。

さて、嬢ちゃんももうとっくに起きているだろうと居間の方に向かうと嬢ちゃんの声とコショウの鳴き声がする。

? なんかやってんのか?

少し気になったので音を立てないように近づいて扉を軽く開けて中を確認してみると






「いいコショウ? 今からあなたはあたしの城に入ってきた人間の役ね。あたしは城の吸血鬼だから」

「クエエエエ」

「じゃあ始めるわよ」

よいしょ、と椅子の上に立ちふんぞり返る嬢ちゃんの傍に羽をパタパタさせながらコショウが近づく。

コショウに対し不敵な笑みを浮かべた嬢ちゃんは手に持った本を見ながら朗々と語り出す。

「良く来たわね人間。あなた達の行動など無駄だと分からないのかしら?」

「クエエエエ」

「へえ、なかなか勇敢じゃない。でもその程度で私を倒そうだなんて考えが甘いとしかいいようがないわ」

「クエ、クエエ」

「いいわ。そんなに死にたいのなら見せてあげる。闇の眷属にして夜の王の一族たる吸血鬼の力を!」

「クエエエエエ!」

「………うん、イイ感じ! これで威勢のいい人間が攻めてきたときのパターンの練習はバッチリなんだから!」

「クエ」

「よおし、次は旅人の前に現れてその人間の血を吸うバージョンをやるわよ!」

「クエエ!」






「……………」

玄関の方に戻って一度扉を開けてから大きな声で「ただいま」と言う。

居間の方からドタバタと騒がしい音がしたのを確認してから再び居間へ向かう。

「あら、やっと帰って来たの? 随分おそかったじゃない」

椅子の上でカップを持ち上げて今気付いたと言うように俺を見る嬢ちゃん。

「おお、遅くなんてごめんな。今からご飯つくるからちょっと待っててくれ」

「早くしなさいよ。あたしお腹減ったんだから」

少しすまし顔で文句を言う嬢ちゃんに軽く返事をしながら台所へ向かう。

嬢ちゃんとソファの間に見えた本のことは知らない振りをしてあげるのが大人というものだろう。










吸血鬼の少女来訪10日目






休日なので今日は早起きする必要が無い。

久しぶりに惰眠でも貪るかとでも思っていたのだが

「いくわよコショウ! 突撃ぃ!」

「クエエ!」

「ぐふぉう!」


長椅子に寝る俺の上に飛び乗った二つの物体に強制的に目を覚まさせられる。

「な、何すんだ?」

「あなた今日休日なんでしょ? せっかくだからつきあいなさいよ」

「あん? ていうか嬢ちゃん朝になるんだからそろそろ寝る時間だぞ?」

「大丈夫! 今日あなたが休日って聞いて夜の間寝てたから! ほら、まずはあたし達のご飯を作りなさいよ」

「クエエ」

半眼で起き上がった俺の袖をぐいぐい引っ張って台所につれてこうとする嬢ちゃんと早く餌が欲しいのか甘噛みしてくるコショウ。

「ああ分かった分かった。袖が伸びるから引っ張んな」

「何言ってるのよ? 早くしないと遊ぶ時間が減るじゃない!」

一週間近くコショウとばかり遊んでて飽きがきたのかやたら騒がしい嬢ちゃんの要望は凄まじくご飯を作る時以外は一日中遊びっぱなしだった。



「ほら、何か聞かせてよ!」

「あー、昔々あるところにシンデレラという女の子がいてだな」

「ツンデレラ?」

「シンデレラな。 それじゃ『べ、別に舞踏会に行きたくなんかないんだからね!』とか言っちゃいそうじゃねえか」

何かお話でもしてと言われれば俺の世界のおとぎ話でも聞かせてやり



「じゃああなたが鬼ね。あたしとコショウが隠れるから50秒したら探しにきなさいよ!」

「はいはい、ほれ行くぞ、いーち、にー、さーん」

「わわ、もう!? 急ぐわよコショウ!」

「クエ!」

遊びたいと言えばコショウを交えてかくれんぼをしたりと我ながらよくつきあったものである。


夜になるとそれなりに疲れたが嬢ちゃんの方はもっと疲れたらしくコクンコクンと船をこいでいる。

「おーい、もう寝た方がいいんじゃないか? 疲れてんだろ?」

「い、いやよ。夜は吸血鬼の本分なのよ。それに…このくらいの事であたしが……疲れる………なんて…………くぅ」

「っと」

話しながらついに限界が来たのかパタリと横になった嬢ちゃんを受け止める。

すやすやと眠る姿は見た目通りの年齢としか思えない。

いや、実際は俺より年上なんだろうけど魔力を封じてるせいで身体能力が下がっている今は年相応の子と変わらないんだろう。

よっ、と嬢ちゃんを抱え直して寝室に連れていき横にして毛布をかけた後明かりを消して部屋を去る。

やれやれ、手のかかるお嬢ちゃんだ。普段の言動もあまり歳上という気がしないからまるで……

そこまで考えて愕然とした。


俺の最近の行動って娘もった父親の行動じゃねえ?

今日なんか完全に休日に家族サービスするお父さんじゃん。

まだ結婚どころか恋人もいないのに!

落ち込む俺を慰めるようにコショウがツンツンつつくのが逆に辛かった。









吸血鬼の少女来訪15日目




「ほれ さっさと口にいれろ」

「い、いやよ。だってソレ苦いんだもん」

「そんな事ねえからほれ」

「ム、ムグ! ん、んく、ゴクッ、ひどいじゃない! いきなり口に突っ込むなんて!」

「嬢ちゃんが嫌がるからだ。で、味はどうだった?」

「え、そうね、思ったほど悪くなかったわ。むしろおいしかったわ」

「だろう? 何事も先入観は良くないぞ」

「しょ、しょうがないじゃない! 見た目だってあんまよくないし ちょっと匂いもしたし」

「まあその辺は我慢してくれ。ほらまだまだあるぞ」

「うん」










そのあとは自分から口に運ぶ嬢ちゃんを見て思わず笑みが浮かぶ。

最初は嫌がっていたのにこうも上手くいくとやはりこの方法は間違っては無かったようだ。

「上手いもんだろ、ピーマンの肉詰めは?」

「そうね。ピーマンは嫌いだったけどこれなら食べられるし」

初めて作ったので形が悪かったがお気に召してくれてなによりだ。

夕食を終えて一息つくと今日が月末だと気付く。

「そういやもうすぐシオの奴が帰ってくるな」

「コショウの毛ふわふわー……? シオってだれ?」

「ここの家の主で嬢ちゃんの探してた魔法使いだよ」

「それってあなたでしょ?」

コショウに抱きつきながら小首を傾げる嬢ちゃん。

「だから俺は違うっての。黒髪黒目は魔力を一切持たないって言ってるだろ?」

「それってかもふらあじゅって奴でしょ。そんなんでアタシを騙せると思ったら大間違いなんだから」

「あーもう、どうにか俺が魔力持たないって証明する方法はないのか?」

「あるわよ」

最後の方はほとんど独り言だったが予想外にその返事は嬢ちゃんから返ってきた。

「あるのかよ、だったらなんで早く言わない?」

「え? いいの? その方法を試しても?」

「俺が違うとはっきりするんなら別にかまわん。で、どうやるんだ?」

「じゃあまずしゃがんで」

何をやるつもりなのか分からないが嬢ちゃんの言うままにしゃがむ。

コショウから離れた嬢ちゃんがとことここっちに歩いてきたと思えば俺の頭を両手でつかんで少し右に寄せると自分の顔を左に寄せていって……って!

「おいちょっとま」

カプ、んちゅううう

「うおおおおおい! 何血を吸ってんだああああああ!?」

「きゃあ!?」

驚きのあまりに嬢ちゃんを突き飛ばす。

小さな悲鳴を上げた嬢ちゃんだがそれどころじゃない。

今吸われた! 確実に少し吸われた! どうしよう!? 俺は魔力とかの抵抗がないから多分吸血鬼化とかに抵抗できない!

「いたた、ちょっと何するのよ!」

慌ててイー、と口を開けて牙が生えてないか確認したりしている俺にお尻をさすりながら嬢ちゃんが文句を言ってくる。

「こっちのセリフだ! 魔力あるか確認するって言ってたのに何いきなり人の血を吸ってるんだ!?」

「何って……うわ! 何この血!? 魔力が全然ない! どういう事?」

「こっちが聞きたいわ!」


お互い少し落ち着いて話を聞くとどうやら血液内の魔力を調べようとしたらしい。

吸血鬼たるもの血に関してはかなりうるさいから魔力の量くらい飲めばすぐ分かるから吸ったとのこと。

なお血を吸っただけでは吸血鬼にはならず自身の魔力を送り込むことで支配するのだとか。

つまり魔力を封じてる今は心配いらないらしい。一安心である。

嬢ちゃんの方も俺の血が全く魔力がこもってない事が分かりようやく俺が魔法使いでないと気付いた。

「じゃああなたホントに魔力が無かったの?」

「やっと信じてくれたか。そう。だから俺を狙っても何の意味もないしもうすぐここの魔法使いも帰ってくるからあとはシオになんとかしてもらえばそれで終わりってわけだ」

具体的にどうすればいいのか分からないがシオならこの嬢ちゃんが俺達を襲わないようにする方法くらい知ってんだろう。

たぶん呪いとか誓約みたいのをかけるとかあるだろうし。

退治するとかだと流石に気が咎めるから止めるつもりだが。

「そ、そんな、あ! じゃあその魔法使いに頼めばアタシの下僕になってくれるかしら?」

「それはない。アイツはプライド高いしめちゃめちゃ強いぞ? 嬢ちゃんの嫌がってる変態くらい強いぞ」

「う、嘘!? あの変態と同じような奴がいるの!?」

「ああ、なんたってシオもセウユもSランクだからな」

「あ、あんな変態が他にもいるなんて…」

あん? 今の言い方だとシオ=変態になってる?

俺はシオの強さ=変態(セウユ)の強さと言ったつもりなんだが

………まあいいか。







同時刻 ある場所にて



「なんか今物凄く不愉快な気分になった」

「グギャアアアアアアアアアア!!」

「うん? まだ動けたのかい? 悪いけど今すっごくイライラしてるんだよね。早い所終わらせて僕も帰りたいんだ。だからさっさと退いてもらえるとうれしいんだけどね!」

三つ首の巨大な犬と真正面から魔法を放ち戦うシオがいたがその怒りはここにはいない同居人に向けられていた。

帰宅後の彼らの喧嘩がどうなったかは文字数にして5000字を超えるので割愛させていただく。

















…なんだろう、理不尽な怒りを向けられた気がする。

「ううう、そんな変態がまだいたなんて、そんなの下僕になんか出来ないじゃない」

勘違いしたままの嬢ちゃんだがどうせシオが帰ってくればその誤解も解けるだろうから放っておく事にする。

「どうしよう………―――あ、来る」

「あん? どうした?」

俺の問いには答えず唐突に呟いた嬢ちゃんはどんどん身体を震わせていく。

「来る! 来ちゃう! アイツがここに来る! やだ! やだ! アイツがここに来ちゃう!」

自分の身体を抱き締めるようにガタガタと震える嬢ちゃんがひたすら何かが来ると叫び続けている。

何が来るって………まさか!

いや、アイツは確かこのまえ長期クエストに出かけたばっかだぞ! 予定では早くとも来月の終わりごろのはずだ!

そんなに早く終わる訳が……―――







「……ょぅ………」







何か今外の方から声が聞こえた!

「嬢ちゃん! 無事でいたかったら絶対に声を上げるな! コショウ! 嬢ちゃんの傍についていてやれ!」

「クエエエ!」

黙って頷く嬢ちゃんと了解と鳴き声を上げたコショウを置いて玄関から飛び出る。

既に日は暮れ視界は暗闇に埋まっている。

それでも方向くらいは分かるのでキッとクローブの街の方を見据える。

「……よ………」

案の定、声はそちらの方から聞こえてくる。その声の主の姿は全く見えない。

「………う…ょ…」

しかしどんどん大きくなっていく声がその接近を知らせている。

マジかよ! くそ! 俺一人でどうにかなるのか? 奴を食い止めることが出来るのか?

「よ」

焦りと緊張の中月明かりが僅かにその影を映す。

「う」

一瞬、はるか遠くに見えたはずのその影は人間が出せるスピードを遥かに超えた速さでこの家に迫る。

「じょグバアア!!!」

その影は全くスピードを落とすことなく接近し、そして結界に見事にぶち当たった。

……人間って全速力で走って壁にぶつかれば死ぬこともあるって聞いた事あるんだけどコイツはやはり人間ではないらしい。

ぶつかった衝撃は多少は有ったらしいが結界の内側から見たセウユは怪我ひとつない。



「こ、これは一体!? 結界? だがそれがなんだと言うのだ! 例えどんな障害があろうとこの私の道を、夢を、信念を! 止めることなど出来るものか!」

「カッコいい事言ってるけどお前がやろうとしてるのは普通に犯罪だからな」

精悍な顔を引き締めながら強敵に相対したようなセリフを吐くな。

シオの結界を力づくでどうにかしようとしているセウユを止めるべく近づいて声をかける。

「む? おお! 誰かと思えば同志サトーではないか! そうか、ここはシオと君の家だったか」

「ああ久しぶりセウユ。あと同志言うな。…俺の記憶が正しければお前はまだクエストの期間中だった気がするんだが」

「うむ。相違無い。実はクエストの期間中にロリコン同盟から連絡が入ってな。驚いた事にここクローブで私の追い求めていた吸血鬼の幼女の姿を見た者がいたのだ!

それを聞いていてもたっても居られなくなった私はこうしてはせ参じたということだ」

ロリコン同盟はオリシュのおかげで他の者達の知らない連絡方法があるらしい。全く無駄な使い方だ。

「おいイイのか? Sランクともあろう者がそんな簡単にクエスト放棄なんかしちゃギルドの沽券にかかわるんだぞ?」

「問題ない。連絡を受けてからすぐさま件のクエストを終わらせてきた」

「…確かセウユの受けたクエストってある村の近くに存在するアンデットの討伐だよな? 何処からわいてくるかわからないから二ヶ月ほどかけて発生源をじっくり探し当てるはずじゃ」

「これもひとえに幼女への愛が為せる業よ」

なんて無駄なバイタリティ!

「っとこうしてはおれん! 同志サトーよ! 実は吸血鬼の幼女はこの屋敷の事を探っていたらしいのだ! もしもこの家に彼女が訪れたのなら同志である君の事だ。

必ず丁重におもてなしをしているはず!」

チクショウ、思いっきり否定したいけどなまじ本当の事だから反論できない。

「さあどうだね同志サトー! ここに吸血鬼の幼女はいるのかね!? ここしばらく会えていないのだ。今度こそ、今度こそ名前を伺わなければ!」

「………………」

ここで嬢ちゃんを引き渡すのは簡単だ。魔力を封じてる嬢ちゃんは普通の子供と何ら変わらないのだから。

引き渡せば俺の安全も保障される。

俺の答えは決まっている。

「ああ来たよ。十数日前にね」

後ろから息をのむような雰囲気がした。

「おお! ではここにいるのかね!?」

期待という文字を目に浮かべたセウユは結界の壁にぴったりと張り付いたまま俺の返答を待つ。

セウユはまあ悪い奴ではない。変態ではあるが悪人ではない。それくらいが分かる仲ではある。

だがこの十数日。一緒に暮らした俺の中に芽生えた感情がそれを拒否した。

「いや、俺が魔力を持たない人間だと知ったら興味を失ったようにそのまま南の方へ飛んでいったぞ」

「何!? 幼女を1人で旅に出させたのか! それでも君はロリコンかね同志サトー!」

「同志言うな。俺はロリコンじゃないって言ってるだろ」

「むうううう、今は同志サトーの不甲斐なさを正している時間はない! 十数日前に南に飛んだと言ったな同志サトー?」

「ああ。まっすぐ南に飛んでいったぞ」

「こうしてはおれん! 早くしなければ追いつけないではないか! 同志サトー! 帰ったらその時に君には色々教えねばならぬ事があるので忘れぬように。

ではサラバだ!」




ようじょーーーーー!とドップラー効果を放ちながら南に向かって真っすぐに走り去るセウユを確認してから家に入り玄関の十字架を外す。

そして十字架が見えない位置で外の様子をうかがっていた嬢ちゃんを落ちつかせるように抱きあげてそのまま外へ連れ出す。

嬢ちゃんは黙っていたが俺が持ち上げるとキュ、と服を掴んできた。よほど怖かったらしい。

家を出た後結界の端ぎりぎりまで歩きそこで嬢ちゃんを下す。

俯いたままだが幸い人肌に触れたおかげか震えも止まりしっかりと自分の足で立ってくれた。

「ほれ、あの変態は南に行ったから逆の北にでも行けばまあ会う事はないだろう」

「……あの変態と知り合いだったのね」

「…ああ、この家はあの変態がまた来るかもしれないからもう来ない方がいいぞ」

「……どうして?」

「あん?」

「どうしてあたしをかばってくれたの? アタシあなたの事殴っちゃったり下僕にしようとしたのに」

顔を上げた嬢ちゃんは不安と困惑でいっぱいの顔をしながら俺の顔を見つめた。

エルフの親子の時と言いどうして俺は誰かを助けるたびにその理由を聞かれなきゃいけないんだ?

ため息をつきつつも目線を同じにするためにしゃがんで出来る限り優しい声を出す。

「何だかんだ言って嬢ちゃんとの生活も楽しかったしな。一回は娘が出来た父親の気分になっちゃった位だ。

そんな子供を守るのは大人として当然だろ? ホントはシオと相談しようと思ってたけどこれ以上ここにいたらまたセウユが嬢ちゃんの存在に感づくかもしれないしな」

俺の答えを聞いた嬢ちゃんは顔を一度くしゃくしゃにすると目を袖で擦る。

「うん! あたしも楽しかった! お父様と一緒に暮らしてた頃を思い出したもの!」

二コリと笑うと一緒についてきたコショウをギュッと抱きしめる。

「じゃあねコショウ。あんたと遊ぶのも楽しかったわよ」

「クエエエエエエエエ」

どこか寂しそうな声を上げたコショウと名残惜しそうに離れそのまま結界の外へと一歩踏み出す。

トン、と結界を超えるとバサリと音を立てて蝙蝠のような翼が嬢ちゃんの背中から飛び出た。

「あ、そう言えば」

羽をはばたかせて身体を浮かせた嬢ちゃんが何かを思いだしたように振り返る。

「あたしあなたの名前聞いてなかった。何て言うの?」

「あん? …そういや十数日も一緒にいたのに言ってなかったな。サトーだ。佐藤秀一」

「サトー、ね。…あたしはロミ。モ・ロミ・ヤマサ。 ロミでいいわよ」

話しながらだんだんと空に浮かんでいく嬢ちゃん、いやロミは魔力が使えるようになった今もやはり子供のようにしか見えない。

「サトー! また遊びにくるからその時はまたトマト料理作ってよ!」

「あん? いや、ここは変態が気付くかもしれないから危ないって言ったろ?」

「いいじゃない。お父様みたいなら会いに来ても。それに……大人なら守ってくれるんでしょ?」

虚をつかれた気がした。次に浮かぶのは自然と苦笑。

「ああ、いつでも遊びに来い。ただし、下僕にはなんねえぞ」

「いいわよ。その代わり他のものになってもらうんだから」







こうして吸血鬼の少女との生活は再開の約束をして終わりを告げた。



















吸血鬼の少女が去ってから数日後






「お、新しいクエストが入ってきた。えーっと何々?」












【緊急依頼 奇声を上げる人型の魔物の討伐】


先日、土の月の風の第三日より奇声を上げながら南下する正体不明の魔物がクローブ周辺で現れた。

対象はひたすら正確に南へ直進しておりその際に進路上にあるものは全て破壊している。

木の切れはしや泥などで分かりづらいが人型であると判明したため高位の魔物、もしくは魔族とギルドは断定。

このままでは王都へとぶつかるのではないかと懸念されるためここにクエストとして冒険者を招集する。

対象ランク A以上

報奨金 400000ネル




※目撃証言によると「ジョヨウジョヨウ」と良く分からない言葉だったため古代語を使う可能性有り

※目が真っ赤に染まっていたため吸血鬼の可能性あり




























「……………」

クエストの紙を破り捨てるとバルサさんに断りを入れてロリコン同盟に向かう。

なんとしても連絡をとってやめさせなければウチのギルドが潰れる!

しかもその原因に一枚噛んでる俺が無事で済むはずがない!


背中から出る汗を感じながら北へ向かったはずのロミを思い浮かべる。


ごめんロミ。もしかしたら俺あの家にいられないかもしれない。


そうならないことを祈りつつも全力で走る事になった。

















あとがき

ながい! 15日目だけで5000字を超えている!

でももう吸血幼女編は終わらせたかったので詰め込みました。

ロリはしばらく書きたくないです。





……一応いっときますけど今回フラグが立ったとしてもそれは父親フラグですよ?










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