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No.21417の一覧
[0] せめて勇者として召喚してほしかった[古時計](2011/08/29 01:34)
[1] せめて勇者として召喚してほしかった2[古時計](2011/08/24 23:20)
[2] せめて勇者として召喚してほしかった3[古時計](2011/08/24 23:20)
[3] せめて勇者として召喚してほしかった4[古時計](2010/11/02 02:01)
[4] せめて勇者として召喚してほしかった5[古時計](2011/08/30 22:48)
[5] せめて勇者として召喚してほしかった6[古時計](2010/11/02 01:59)
[6] せめて勇者として召喚してほしかった7[古時計](2010/10/30 17:26)
[7] せめて勇者として召喚してほしかった8[古時計](2011/08/30 22:47)
[8] せめて勇者として召喚してほしかった9[古時計](2011/02/18 23:23)
[9] せめて勇者として召喚してほしかった10[古時計](2011/02/21 12:42)
[10] せめて勇者として召喚してほしかった11[古時計](2011/03/04 00:55)
[11] せめて勇者として召喚してほしかった12《前編》[古時計](2011/03/10 01:30)
[12] せめて勇者として召喚してほしかった12《後編》[古時計](2011/03/21 16:10)
[13] せめて勇者として召喚してほしかった13[古時計](2011/07/18 21:24)
[14] せめて勇者として召喚してほしかった14[古時計](2011/07/24 19:01)
[15] せめて勇者として召喚してほしかった番外1[古時計](2011/08/16 00:23)
[16] せめて勇者として召喚してほしかった15[古時計](2011/07/31 17:27)
[17] せめて勇者として召喚してほしかった16[古時計](2011/08/16 00:24)
[18] せめて勇者として召喚してほしかった17[古時計](2011/08/21 20:00)
[19] せめて勇者として召喚してほしかった18[古時計](2011/08/31 01:14)
[20] せめて勇者として召喚してほしかった番外2[古時計](2012/01/05 00:43)
[21] せめて勇者として召喚してほしかった19[古時計](2012/08/17 02:02)
[22] せめて勇者として召喚してほしかった20[古時計](2012/09/17 22:26)
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[21417] せめて勇者として召喚してほしかった12《前編》
Name: 古時計◆c134cf19 ID:86ac8b53 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/10 01:30




それは朝食の時間に起きた。

「ところでサトー、今日の予定だけど」

何か猛烈に嫌な予感。

「さ~て飯も食べ終えた事だしさっさとギルドに行くかな~」

話題を振りかけたシオの言葉に被せるようにして食器を片づけ始める。

「隣町のシナモでどうやら勇者の触媒の一つが競りに出されるという噂を聞いたんだ」

「ヘーそうですかそうですか。んじゃ気をつけていってらっしゃい。なんならしばらく帰ってこなくていいから。俺もギルドに行くから」

この流れは危険だと俺の経験と勘が言ってる。早々に話を切り上げて去るべきだと告げている。

「馬車を用意してあるから御者を頼めるかい? ああ心配はいらないよ。誰でも簡単にできるタイプの馬を頼んどいたから」

「あーあー聞こえない聞こえない、なんか俺を連れていくとか言ってるけど空耳空耳」

「やれやれ、クローブの街しか知らないサトーに他の街を見せてあげたいという僕の気持ちを無碍にするなんてサトーは酷いね」

悲しそうに首を振っても絶対に行かないぞ!

お前の誘いに乗ってまともになった事が一度でもあったか!

この前だってミントに髭の話したら一度すごい悲しそうな声で「そんな、あなたもなの?」と言われたんだぞ!

「いや、俺さっきも言ったけど今日仕事があるから」

「バルサさんには許可を得ておいたよ」

バルサさん! お願いだからシオの頼みを無条件で聞くの止めてください!

「でも他にもミコさんの手伝いもあるし」

「『最近サトー君頑張ってくれてるから旅行気分で休んできなさい』と微笑みと共に言われたよ」

ミコさん! その優しさが今は憎いです!

「他にスーちゃんと遊ぶ約束が」

「僕がサトー借りてもいい? と聞いたら顔が赤くなるくらいに凄い勢いで頷いてくれたよ」

スーちゃん! 分かってたけどそれはやっぱり悲しい!

「セウユにロリについて語ろうって言われてて」

「プライドを売る精神は認めるけどセウユは今は東の森の湖にちっこい妖精がでるって聞いてそっちに行ってるはずだよ」

セウユ! あの変態肝心な時にいやがらねえ!

「えーとミリンにデートに誘われてて」

「嘘はつかないように」

分かってるよ! アイツ男だし! と言うか万が一誘われてもそれ絶対シオ関係だから! 行くわけないから!

「ふ、腹痛と頭痛と腰痛が」

「さっきまで仕事にいこうとしてたでしょう」

さすがに無理があったか。

「全く、一体何が不満なんだい?」

いや不満ってわけじゃないけど旅は慣れてないから遠慮しとくわ

「何もかも全部だよコンチクショウ!」

「サトー、本音と建前が逆になってる」

おおう、びーくーる、びーくーる

「とにかく俺は行かん! お前と行くとロクなことにならん。前回みたいなのはこりごりだ!」

あえてシオのほうを見ずにフンっと背を向ける。

「……そうか。それなら仕方がないね」

後ろからシオの寂しそうな声が聞こえる。

―――いや駄目だ! ここでしょうがない、とついていけばとんでもない目に合うのは分かりきってる!

ここは心を鬼にしてシオを一人で行かせるのが正解だ。

「ラニマ!」



あがががががががががががががが






















「…あれ? ここは…」

「あ、起きたんだサトー。昨日はあまり眠れなかったのかい? いくら隣街に行くのが楽しみだからってちゃんと寝なきゃ駄目だよ」

目が覚めたら何故か荷馬車に乗って寝ていた。

前では馬を繰っているシオが俺を見て苦笑している。

「はい、手綱変わって。ここまでずっと僕だったんだから後は頼むよ。君にもいい経験になるだろうし」

「お、おう」

言われるままに前の御者席に移りシオから手綱を受け取る。

…あれ? なんだこの状況?

「隣街?」

「そうだよ。覚えてないのかい? そう言えばサトー、なんか夢見てたでしょ?

お前と行くとロクなことにならん。とか寝言で言ってたよ」

寝言? あー言われてみればそんな事言ったような記憶があるけどあれは夢か。

「昨日は隣街に行くと聞いてあんなに喜んでたのに本当はそんなこと思ってたのかい? だとしたら酷いなあ」

「あ、いや、そんなことないぞ。いいね隣街、楽しみだな!」

「そう? 嫌々じゃないんだね? 別に無理に来なくても良かったんだけど」

「おお、もちろんだ! 嫌なわけないぞー」

まるで覚えてないがシオがせっかく誘ってくれたのに傷つけるようなことはしちゃいけないよな。

こうして馬車に乗ってるってことは自主的に来たんだろうし。

俺がそう言うとシオは良かった、とほっとしたように笑った。

さすがニコポ持ち。男の俺が見ても本当にイイ笑顔だ。

…けど何故だろう? シオの笑顔の裏に悪魔の羽根と尻尾が見える気がするのは?
















せめて勇者として召喚してほしかった12《前編》















馬車に揺られて数時間。最初は慣れなかったが時間がたつにつれ馬の扱いもだんだん分かってきたのでたまに走らせてみたりと色々やっているうちに隣街についてしまった。

たどり着いたシナモの街はクローブのように頑丈な防壁に覆われているわけではなくただ塀のような壁が伸びているだけだった。

ただ門の部分だけはしっかりとした作りになっていて門兵が立っていた。

関所のようなチェックでもされるのかとすこし身構えていたのだが予想に反して一瞥しただけで通されてしまった。

シオ曰く、ここらは強力な魔物もあまり現れず、かと言って目玉になるような特産品もないが丁度立地的に王都とクローブの間の宿場町として栄えているそうだ。

因みにこの国、イザードで辺境にあるクローブの街なのだが規模では上位に食い込むらしいためそれなりに物流もある。

このまま南に行けばいくつかの街を越えて王都に、北西に行けば隣国のニスォク、北東に行けば我らがクローブの街に行けるとのこと。

規模としてはクローブの街の方がはるかに大きいのだが宿場町と言うだけあってたくさんの人で溢れていた。

ただ、何というか少しガラの悪い人達が多い気がする。他にも高そうな服を着た偉そうな人達も見かける。

旅人の格好なんてあまり詳しくないからなんとも言えないがそういう人達ではなさそうだなと知識のない俺でも推測出来た。



「ここでオークションがあんのか」

馬車を街の入り口のところで預かってもらってシオと二人で中に入る。その際に絶対に失くさないでね、とやけに重たい鞄を持たされた。

競りで持ってくるものと言われれば想像はつくのでしっかりと肩にかけ掏りにも合わないように気をつける。

もう夕日で赤く染まっている町並みを見つつシオに尋ねる。

「うん、競り自体は始まるのは夜中だから後数時間ってとこだね。それまでは食事でもしてすごそう。勇者の触媒を落札したらさっさと帰った方がいいだろうしね」

「あん? 泊まらないのか? 夜までいて帰ったら家に着くの下手すりゃ朝になるぞ」

せっかくの旅行なんだしゆっくり見物でもしたいんだが。

「うん。そうだけどあまり長くいるのは危険だしね」

危険? …おい、大丈夫か、この旅?

疑わしげな目線をシオに送ってもシオは何も反応しない。

「あ、言い忘れてたけどこの街では絶対僕の傍を離れないようにね」

「おい!? ホントに俺この旅に同意してたのか!?」

普段の俺なら間違いなく断ってるはずなんだが!?

「あそこの店で食事にしよう。あそこは以前食べたことあるけどシチューがなかなかのものだよ」

「…無視ですかそうですか」

最早諦めの境地というものは俺にとってごく当たり前のものとなってしまった。

まあどうせ後で分かるだろ。こうなったら幾ら聞いても教えてはくれなさそうだしそれなら俺に出来る事は俺の不幸に繋がらない事を願うだけだ。

余談だがシチューは絶品だった。今度ミコさんにシチューの作り方を教わるとしよう。







「皆さま長らくお待たせいたしました! ただいまよりシナモの街主催アンダーグラウンドオークションを開催します!」

「おいこらシオ!」

ステージの上で仮面をかぶった司会者が会場全体に響き渡るような声で進行しているなかで隣に座ったシオの胸倉をつかむ。

会場の入り口は何処かの同盟のような目立たない場所にある上にゴツいスキンヘッドの二人組が阿吽像のように立ってるし。

参加費として結構な金額を取られたし。

300人は入りそうな回りの客はどいつもこいつも何処か堅気じゃなさそうな雰囲気を身に纏ってるし。

挙句の果てには「君の髪は目立つからこれ被ってて」とフードを渡されるし!

「これ闇市じゃねえか!」

「そうだよ」

何を当たり前のように言いやがりますかコイツは!

「シナモの街は宿場町としての表の顔の他にこういう密売などを扱う裏の顔もあるんだ。王都からは遠いし他国とも近いから昔はごろつき達の溜まり場だったんだよ。

そんななか頭のいいある盗賊がここを支配して上手くまとめあげた結果今のような形になったんだ」

なるほど。門の所で対してチェックされなかったのはそういう人の出入りが多いからか。

さっきの門でのことを思い出し納得する。

「最初の頃は国とのいさかいもあったけど色々あって今は黙認状態。

他にも賭場や娼館もある。これらは旅行者用から一般人はまず入れないものまでとピンキリだね。今回のこれは間違いなく後者だけど」

「娼館…」

「何を反応しているんだい」

「う、うっせえ。ちょっと想像しちゃっただけじゃねえか」

主にピンク色の妄想をしてしまっただけだ。

しょうがねえだろ! 俺も男なんだし!

「寄らないからね」

「分かってるよ!」

いちいち言わんでいいわ!

むなしい気持ちになりつつ怒鳴り返す。

…それにしても

「俺来る必要あったのか?」

ジンの石の時にも思ったけど基本シオは一人で勇者の触媒を集める方が多いから俺が必要になると言うのは珍しい。

まだ触媒は5分の1くらいしか集まってないけどそのうち俺が関わったのは今のところ幸福草とジンの石、ミントの髭くらいだ。

「僕もこの規模のは初めてだからね。一人で来てもつまらないじゃないか」

「本当にそれだけか?」

「あとはまあ念のため」

またそれか。 だから念のためってなんだよ?

「まさか俺を出品してるとかじゃねえだろうな?」

黒髪黒目はある意味珍しい存在だしそう言う可能性もありうる。

「猫ってただそこにいるだけで癒されるよね」

「なんだいきなり」

「癒されもせずに特に役にも立たないものを珍しいってだけで買う人はいないよ」

「なるほど…ってお前それは物凄く失礼だぞ!」

「なんだい? 僕が君を売ったりなんかしないと言ったのに何が不満なんだい?」

「だあああああ! 久しぶりにコイツ殴りてえええ!」

お客様お静かにお願いします

あ、はい、すいません

スキンヘッドの人に後ろから丁寧だが低い声で注意される。

「超怖かった」

「闇市で暴れる人もいるからああいう警備の人達は冒険者で言えば最低でもCランクはある人達らしいよ」

「俺速攻で死ぬな」

怒られたから小声で会話する俺達をよそに競りが始まったらしくステージの上には良く分からない鳥が出されていた。

「まずは一品目! 数が減少したために今では狩猟を禁じられている紅嘴鳥! 見てください、このルビーのごとき鮮やかな嘴を! 

生後三年とまだまだ若い雄でございます。それでは早速参りましょう! まずは50万ネルから!」

「51万!」

「52万5千!」

司会者の声に続くように客側からどんどん値が上がる。

ネルというのはこの世界の通貨の単位で、計算した結果大体1ネルが10円くらいと考えてるからあの鳥は500万円以上か…



高ッ!!



「おい、これ凄い規模じゃねえの?」

「まあ闇市の中じゃトップクラスだろうね。言っとくけどこの手の競りは後になるほど高くなるんだ。今の鳥は安いものだよ」

「因みにお前はいくら持ってきてんの?」

「800万」

えーっと……ハッセンマンエン……

わお、セレブって怖い。

パンピーの感覚じゃとてもじゃないけど現実味がなく漢字変換すら出来なかった。

「それって全財産?」

「まあ必要最低限のお金は残してあるよ」

「そんなんで大丈夫か」

「ギルドは命をかける仕事が多いからね。Sランクの仕事をこなせば大金はすぐに手に入るから問題ないよ」

流石Sランク! 俺達(一般人)に出来ないことを平然と言ってのける、そこに痺れる憧れる、訳が無い。

今さらながら何故俺はその手の才能がないのかと手を握りしめる。

「もともと冒険者って言うのは一獲千金を夢見る者達が始めた職業だからね。ダンジョンや秘境で財宝などの探索を行ってたのがそもそもの始まりなんだ。

命の保障が出来ないにも関わらず今でも門を叩く者が減らないのはそう言った理由もあるんだ」

確かに冒険者の人達はロマンとか好きそうな人達の方が多かったな。

やれ珍しい剣を洞窟で見つけただの強い魔物を倒しただの子供みたいに自慢する人達を見てるのは実際にはクエストになんざ行けるはずもない俺でも羨ましく思えるくらいだったし。

「にしても勇者の触媒って金かかんだな」

「言ったでしょ。勇者の触媒を集めるには一生を遊んで暮らせるだけのお金がかかるって。今回のだけじゃないしまだまだお金が必要になってるから僕がSランクでなければまず資金集めなど不可能だろうね」

はいはい、お前はすげえ魔法使いだよ。

「75万、他に誰かおりませんか? …はい! 125番のかた、75万にて見事に紅嘴鳥、落札です!」

シオと会話をしているうちに落札されその回の競りの終了を知らせる木槌の音が鳴る。

拍手と共にそのまま奥へと連れて行かれる希少な鳥。

何が起こってるのか分かっていないようで時折くっと首を回していた姿が見えた。

俺は動物は好きか嫌いで言えば間違いなく好きだと言えるレベルだ。

絶滅動物のドキュメンタリーなど見た時はその無情さに過去に戻れたら俺が動物を救ってやるなどと馬鹿なことを考えたものだ。

だからあの希少だと言われた鳥の今後が気になる。

「なあシオ、あの鳥、この後どうなるんだ?」

「そうだね…観賞用として生かされるのなら運がいいほうかな。あの手の金持ちはそういう希少価値の生き物を命としてではなく芸術品と考えるだろうから多分剥製にされると思う」

落札した成金っぽい男性を見てシオが気に食わなさそうに答える。

どうやらそういうのはシオも嫌なようだ。

「なんとかなんねえのか? 800万もあるならお前が買ってやるってのは」

「残念だけど無理だ。僕が狙ってるのは炎輝竜の牙っていう非常に価値の高いものなんだ。恐らく最後にくるだろうし最低でも600万ネルは必要だと思う。僕の予算は800万だからそれまでは一切無駄に出来ない」

「でも」

「駄目。僕にとって一番大切なのは勇者を召喚する事だ。そのための触媒を集めるためにギルドで働いている。あの鳥を救ったとしてそれで勇者の触媒を買えなきゃ何の意味もない。

大体、僕にそんな事する権利はないんだよ。冒険者である以上僕も日々いろんな命を奪ってるんだ。人間に害を為す、依頼を受けた、理由は様々だけど殺しているという意味ではあの男とも対して変わらない。

あの鳥だってもしかしたら冒険者の誰かが依頼で捕獲したものかもしれない。それなのにこんなところで正義感を振りかざすのはただの偽善でしかない」

無表情になりながらも強く告げるシオにそれ以上は何も言えずに新たに出てきた二品目を見るしかなかった。





幸いというか何というかその後に出てくるのは今は亡き王朝の最後の王の剣とか頭ほどの大きさの宝石とかで生き物は一切出てこなかった。

いや、もちろんそれらも表ざたには不味い物らしいが、元々異世界から来た俺にとってそんなのはピンとこないのでなんとも思わない。ここらへんは価値観の違いだろう。

シオの言うとおり後半になるにつれて値が上がってきており今しがた落札された絵は300万を超えていた。

「さあ! 残すところあと二品となってしまいました! お財布に余裕は有りますか? 有るのならここでぱーっと使ってしまいましょう!

後の事を考えるなんて競りでやってはいけません! 欲しいのなら全額かけても手に入れる、それがコレクターと言えるでしょう! ではいきましょう!

第14品目はこちらです! 初めてみる方も多いでしょう! その美しさに目を奪われて声を出すのを忘れないでくださいね!」

大仰な台詞で客をあおった司会者が指し示した先には薄布を身にまとい首に枷をつけられ怯えて歩いてくる綺麗な緑の髪をした親子だった。

黒以外の髪の色などいくつもあるこの世界ではそのくらい何も珍しくはなかった。

ただ一つ、その親子の耳が普通と違うことを覗けば



「エルフ…」

「すげえ、ホントに耳とがってる」



シオの驚いた声と俺の間の抜けた感想が同時に漏れる。

会場には大きなどよめきが走り、近くに居る者達同士で口々に何かを話している。

「皆さんご存じの通りエルフは滅多に人前に姿を現す事はありません! 隣国ニスォクにある入ったら二度と出られない迷宮森にのみ暮らすと言われる彼女たちですが今回幸運にも森から出てきたところを捕獲に成功しました。

しかも親子! 母親の方は見ての通りかなりの美貌の持ち主。娘の方はその愛らしさは天使のよう! その価値は皆さまならどれほどかおわかりでしょう!」

指さされた親子は確かに綺麗だった。

人の雰囲気とは違う彫像のような、別の美しさというものを感じた。

だがそれも泣き顔でまぶたをはらし震えて怯えきってしまっていては台無しだった。

そんな姿は他の客には見えていないのかただ歓声が上がるばかりだ。

「おい! あれって人身売買じゃねえか! ここはあんなのまでやんのか!」

「……この闇市に法なんてないよ。あるのはただ一つ、競りというルールだけ。それ以外は何でも許されるんだ」

嫌悪感を隠そうともしないシオの言葉が俺は信じられなかった。

この世界に来て騒がしいことばかりだったけど、どれもこれもなんだかんだで嫌じゃなかった。

でもこんなのって、同じような姿をしてる相手を売り物として扱って、それを平然と行なってるなんて。

知らず顔が引きつる。

酷く気持ちが悪い。

回りにいる客が同じ人間だと思えなくなった。

顔を歪めてるのは俺とシオのみ。

他の顔が示すのは興味、興奮、下卑た欲望。

非合法の客として来ている以上異端なのは俺達のほうなんだろう。

「なお今回は特別に親のみ、子のみ、親子両方の三つの形で行なっていきます。親子両方は無理と言う方でも片方ならチャンスあり!

もちろん両方欲しいと言う方は二人の合計金額以上を提示していただければ問題ありません! それではいきましょう! 親200万ネル、子150万ネル、親子で350万ネルでスタート!」

興奮気味に告げた司会者の声を塗りつぶすほどにあちこちから声がかかる。



「子に170万!」

「親に230万!」

「両方に410万!」



声がかかる度にステージの上でビクリ、と震えるエルフの親子。

娘の方は必死に母親にしがみついている。

母親の方は手を組んで何かに一生懸命祈っている。

彼女の信じる神に祈ってるのだろうか。

だがここに居る奴らはどいつもこいつも嫌な顔をしている奴らばかりだ。

誰に買われたとしてもどんな運命を辿るかなんて考えたくもない。

神様なんてものがいるのなら何で彼女達がここにいる?

誰もあの親子達を救おうだなんて思ってない。

欲望のままに彼女達に金をかけて物として扱ってる。



「子のみに280万!」

「親に308万!」

「親に315万!」

「子に290万!」

「おやあ? どうやら皆さん親子両方買うのは諦めたみたいですね? 可哀そうですねえ。引き裂かれる親子、最後には手を伸ばしあい名前を呼ぶもその距離は離れていく。

ああ何という悲劇でしょう」

司会者の嘘泣きに会場の一部から笑いがこぼれる。



―ッなにがおかしいんだよ!



「シオ!」

「…言ったはずだよ。僕の目的は勇者の触媒だ。他にお金をかける余裕はない」

「だけど、だけどよ! あのままじゃあの親子どんな目にあうか分かんねえぞ!?

運よくマシな状況になっても離ればなれにされちまってもう2度と会えねえかもしんねえんだぞ!」

「………」

溜まらず懇願するもシオは意見を変えない。

ただじっとその親子を見続けている。

「はい、ただいま親に330万、子が305万となっております! 他にいらっしゃいませんか? いなければそれぞれの方に落札となりますが?」

その言葉に女の子は涙を流しながら首を振って離れたくない、と言うようにさらに強く母親にしがみつく。

その子を母親は片手で頭を撫でつつもひたすらもう一方の手で何かを握って祈っている。

その姿が俺の身近な笑顔が素敵な無音の子とその母親と被って。

落札しようとしている奴らを睨むように探す。

親を落札しようとしているのはでっぷりと脂ぎった身体つきの高そうな服を着た中年、子の方は人相が悪徳大臣のお手本のような男だった。

どちらも善意などまるでない表情で。

まわりの反応もそれが当たり前のようで。

この世界に来てから俺の常識が通じないことなんざ山ほどあった。

これもその一つだってことで受け入れていいのか?

…駄目だろ、それは。いくら異世界だからってこれを簡単に受け入れちゃ駄目だろ!

ちくしょう! どうにもなんねえのかよ! オリ主とかヒーローとかだったらここでステージに乗りこんで助けに行ったりする流れじゃねえか。

何で力を持ってねえんだ俺は! いや、持ってなくてもいいじゃねえか、せめて助けようと動くくらいはしろよ俺!

でも、足は動かない。

動いてくれない。

ビビってる。

乗り込んでも無駄だと冷静な俺が止めている。

どうせすぐに取り押さえられる。

さっきの見張りの男たちはCランクもあるんだ、まず敵わない。

行ったところで何も出来ない。

力がない奴は大人しくしているべきだ。

自己満足のために命を無駄にする必要はない。



――うるせえな。い、い、か、ら、う、ご、け、よ!!



思いっきり足を殴る。

震えが止まる。足が動く。

よしっ!

こちとら刹那的に動く今時の若者なんだよ! 後の事なんかいちいち考えてられっか!




「それでは親330万、子305万でそれぞれ落さ



      「親子両方で650万!」


つ、と」




司会者が終わりにしようとした瞬間、会場全体に響き渡る大声。

会場の後方で立ち上がったまだ若い声の主に注目が集まる。

走ろうと立ち上がりかけてた俺も動きを止めた。止めざるを得なかった。

「あ、り、両方で650万が出ました! さあどうします? 別で手に入れたいなら親なら345万、子は320万以上でなければいけませんよ!」

「さ、350万!」

「子に325万!」

「両方で700万!」

下卑た欲望など微塵も感じさせない張りのある強い意志のこもった声。

金額に引いたのか、その声に気圧されたのかは分からないが会場はシンと静まり、司会者すらも、さっきまで泣いていたエルフの女の子までも黙ってその声の主を見つめていた。

数秒、その何倍も長く感じた沈黙は我に返った司会者の声で破られた。

「出ました! 両方で700万! 他にどなたか居ますか! …はい! 見事! 40番の方がエルフの親子両方を落札です!!」

拍手と共にエルフの親子はステージの端へと歩かされていく。ただその姿を見ても俺は悲壮感に落ちたりはしなかった。

もう一度声の主を見る。

静かに座るシオは無表情にも悲しんでいるようにもどこかほっとしているようにも見える複雑な顔をしていた。






その後、シオはそのオークションが終わるまで一言も喋らなかった。

予想通り最後に出てきた子供ほどの大きさの炎輝竜の牙は500万から始まり最終的には760万で落札された。

俺達はそれを、黙って見ているしかなかった。







後書き


後半へ続きます。3日以内くらいに投稿します。では


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