「あと七ヶ月の命か……やった事を考えれば仕方ないな……」
バルガスが落ち込んでいる。
「七ヶ月以内に魔王倒せばいいじゃねーか」
「元からそのつもりですしね。まずは1000ルビタリスを集めますよ」
「お前、後悔とか罪悪感とか挫折とか不可能って言葉知っているか?」
「僕だって負けた事くらいありますよ。今回だって計算違いでこっちに火の粉が掛かってきましたしね。後悔は……あの時は、彼女の事を知らなかったから、仕方ないかなぁ。まあでも、今回は結果オーライなのでは?」
「領主が! 死んでるじゃねーか!」
「異教徒なんだから仕方ないじゃないですか」
あにきにさからうのはこれからもやめておこう。
俺は魔王に同情したが、実際に悪い事やっているらしいので咎める事も出来ない。
「……ほんとうに、魔王を倒せるの?」
蚊の鳴くような声で問いかけるラピス。
俺は力強く頷いた。
「俺は勇者だから、多分設定的に出来ると思う」
「何言っているのか、わけわからないわよぉ……。この犬! 駄犬! 兄弟で女王様と犬なんてイかれてるわよ! 無敵で人の目を気にしないのもいい加減にしなさいよ!」
ラピスは涙をポロポロと零す。
「心配はいらないって。でも、こうなったら1日も無駄に出来ない。ルビタリスを集めるから、手伝ってくれ」
ラピスはこっくりと頷いた。
そういうわけで、俺達はレベル上げの為に戦うという申請をあげに行った。
ところが人手が足りなく混乱しているから手伝えという事で、ラピスとラーデスの監督の下、仮の領主を連れてくることになった。嫌疑は嫌疑、働いた代価は代価という事で、きちんと前金も貰える。ありがたい。
「なあ、ラピスは何を貰えたら嬉しい? お花か? それとも甘い物か?」
「そうですね。一般的に女性が何を貰えたら喜ぶかは私も知りたいです」
「そうねぇ……」
「くだらない。雑草がなんの役に立つというのだ」
「ラーデス様は、何を貰えたらときめきますか?」
ラピスの質問に、ラーデスは迷うことはなかった。
「ゴブリン魔将軍の首だな。それを貰えるのならば、嫁いでも構わん」
「ええ……」
「んー。それはそれで嬉しいかもですけど、私はお花でも嬉しいかな」
「ラピスはゴブリンの首が欲しいのか!?」
俺がビックリして聞くと、ラピスは頷いた。
「だって、私の為にそこまで頑張ってくれたって事でしょう? あまり無理をして欲しくもないけれど、それでも貰えたらキュンとすると思う」
「ああ、そこまでの英雄にだったら何をされても構わん」
ええ……。
「私はリキにはお花をプレゼントされたいな」
「とっておきの花を探すぜ!」
途中の店で甘い物を買って皆で食べ、馬車で近くの街まで向かう。
ラーデスは顔パスで、若干恐れられながら領主の館に案内された。
領主は立派そうな人だったけど、顔を青ざめさせて動揺していた。
「火炙りだと!? もう!? 疑いが掛かって1日もせず!?」
「確実な証拠が出ている。それで仮の領主が必要だ」
「そ、それにしたって、十分に審議を行うとか……。濡れ衣の可能性も」
「そうして街が異教徒に滅ぼされるのを待つのか?」
「相変わらず、最前線は血なまぐさいな……。わかった。仮の領主には息子を送ろう。妾腹の子だが、そこそこに頭は回る」
「感謝する。では早速連れて行く。持ち物は必要ない」
あまりにもあっさりと、浚うように連れて行く。
連れてこられたのは兄貴よりもちょっと年上くらいの若い青年だった。レオさんと言うらしい。
命じられて、すぐ出立と言われて、少し下を向いて。そして、笑顔で了承した。
この世界は偉い人も大変なんだと思った。
帰り道で、黒いローブの男達が立ちはだかった。
「異端審問官ラーデス。そちらの子供を渡して貰おう」
「駄犬共と野良。レオを守れ。それぐらいは出来るだろう」
ラーデスの言葉に頷く。
俺とバルガス、ラピス、兄貴はレオを囲う。
初めての、命がけの対人戦だった。
こっちはそうじゃなくとも、相手は殺す気で来るんだ。
戦いは、兄貴が敵の目玉にナイフを投擲する事から始まった。
「ふはははははははははは! 断罪! 断罪! 断罪!」
ラーデスが派手に魔法で吹っ飛ばす横で、兄貴が舞いながらサクサク扇で首を切っていた。
俺とバルガス、レオは寄り添って固まり、ラピスは油断無く相手の攻撃を防御する。
程なく戦闘は終わった。
「……人殺し」
レオは呟く。
「人殺し! お前達はそんなに偉いのか!? 人の命は尊いものだ、本来こんなゴミみたいにされるものじゃない! 領主の娘はまだ幼かったと聞く、そんな子を殺して、人を殺して、そんな者達に担がれたくはない!」
「レオ様!」
俺は何も言えず、おろおろとする。
そこで、倒れた人がよろよろと何かを投げたのに気づいた。
「逃げろ!」
咄嗟にレオを庇う。
「何か」から、トロールとでも言うべき三体の化け物が現われた。
「若き領主殿よ。お前が一人殺すのを戸惑う間に、相手は村を、街を、国をほろぼさんとしてくると知れ。自らの、そして仲間の命か、相手の命か。簡単な選択問題だ」
「そんなの、私は嫌だ!」
気持ちを置き去りにしたまま、戦闘が始まった。