「ギルドに行く前に、少し出かけましょうか」
俺とバルガス、兄貴で市場に行った。
噴水を眺めながら、小声で話し始める。恋バナ?
「裏を取りました。バルカス、貴方は好事家に狙われています」
「えっ」
声を出した俺とバルガスを、兄貴は視線で黙らせた。
「直接的に望んでいるのは領主の娘ですが、領主も関わっています。やり方はめちゃくちゃですが、領主を後ろ盾とする力のある人身売買組織です」
「そんな……」
「どうにもならないのか?」
「領主は異教徒の疑いがあります。異教徒は王様でも躊躇なく火炙りだとか」
「こわっ」
「まあ、神様と邪神がリアルにいる世界ですから、仕方ないんでしょうね。そこでバルガス。質問があります」
「え? ……え?」
戸惑うバルガスに、兄貴は問うた。
「惚れた女の為に、この町を無政府状態にする覚悟はありますか?」
ピシャーン! 俺とバルガスに雷が降った。無政府? 無政府!?
「も、もし異教徒じゃなかったら……」
「異教徒だった事にします」
ピピピシャーン! 俺とバルガスに雷が降った。もはや関係ないじゃん!
「後は、貴方次第です。あのままだと、彼女も危ないですよ」
「君だったら、どうする?」
「私ですか? 私は彼女の敵対する他人を種族事滅ぼせますし、そのように動いてます」
「!!?」
「ど、どういう事だ、兄貴!?」
「私が魔王を狙うのは彼女の為です。魔王が正義か悪かなんて、一顧だにしません」
「あ、そうか。確かに俺ら、魔王に事情聞いてない……」
バルガスは、口を何度も開閉した。
「異世界から来た侵略者か何かか?」
勇者です。俺は懸命にも、その言葉を飲み込んだ。
その翌日、俺達は牢屋にいた。牢屋の窓はなく、鉄格子の他に俺と兄貴は鎖で縛られていた。
「こ、ここはどこですか?」
「う、うわー。全く知らない所にいるー」
そう言って白々しく騒ぐ。
バルガスを通じて、フィーさんに頼んで俺達を売って貰ったのだ。
そして、バルガス達は俺達が異教徒だと告発する。指輪があるから、神殿は俺達の位置を把握している。そして、兄貴はどこからか異教徒の証を手に入れてきていた。
これを使って罪をかぶせれば、丸焼きと無政府状態の街が出来るというわけだ。
これ、ゲームだから問題ないよな? ゲームでも想定されてないんじゃないか? 不安だ。バグって壊れたら、そんがいばいしょーとかさせられないよな?
とにかく騒いでいると、ドレス姿の可愛いけどきつい顔立ちの女の子が降りてきた。
女の子……えっ この子15歳ぐらいなんだけど!?
「ふふふふふ。こんにちは、穢らわしいお人形さん」
「あ、あああ、兄貴。作戦変えない?」
「変えませんよ、何言っているんですか、リキ」
「だってこんなに可愛くてちっちゃな子なんだぜ!?」
「そうですね。白骨死体をコレクションする趣味のある女の子ですね」
兄貴の視線を追うと、腐りかけの死体や白骨死体があった。うう、でも……。
「こんな事、望んでやったんじゃないだろ?」
「とっても面白かったわ! 断末魔大好き!」
「Oh……」
俺は途方に暮れて兄貴を見た。兄貴は良い笑顔だ。
怪獣大決戦の様相を示してきたそれに、俺は尻尾を丸めて丸まった。
「あら、ふふふ。勇猛そうな見た目なのに、可愛らしい事。でも残念。貴方の大きな体は、それじゃちっとも隠れないわよ」
そうしていると、なんだか騒がしい音がする。思わず耳を澄ませる。
『断罪! 断罪! 断罪! 魔王に組みする者は全て塵となるがいい!』
しわがれた、でも迫力と張りのある声。この声の主は、きっとラーデス様だ。エルフのお姫様。声からして歴戦の将軍にしか思えないけれど。
とにかく、兄貴の作戦通りだ。俺は慌てて耳を伏せて、手で押さえた。何も聞こえぬように。でも、それは全くの無駄で。扉が乱暴に開けられる。
「お嬢様! お逃げ下さい、ラーデス様です! ああっ」
飛び込んできたメイドが切り伏せられてなんかいない。足を濡らすのは血なんかじゃない。
「こんにちは、民無きエルフのお姫様。今日は何の御用かしら?」
「貴様には異教徒の嫌疑が掛けられている。故に殺す。火炙りにして殺す」
「あら、怖い。そんな証拠がどこにあるのかしら?」
「実は、浚われる時にすりとっておきました。この人は異教徒です!」
「そっそれは異教徒の証! 馬鹿な、嘘よ! 陰謀よ! 私のどこが異教徒に見えるのよ!」
「ハハハハハ! これは面白い。この牢屋を見る限り、そのようにしか見えないが?」
「混血を嬲ってどこが悪いの!? 彼らは神に反した者よ!」
「様をつけろ、この不信心が! 疑わしき時点で悩む余地もない。引っ立てろ!」
「いやああああああああああああああああああ!!」
ぶるぶる。恐ろしすぎる。疑わし気を罰せよ、かよ。
「ああ、異端審問官ラーデス様! お救い下さりありがとうございます!」
「ふん。随分と余裕たっぷりなのだな。怪しい。お前も火炙りだ!」
「えっ」
動揺の気配。どうしよう。兄貴も凄かったがラーデスって奴も凄いぜ!
とにかく、俺達は引っ立てられた。
中央神殿の前の広場に連れて行かれる。
中央神殿にはいくつも杭が打ち立てられ、大量に薪が用意されていた。
早速俺らは括り付けられた。
「私達は全くの無実です」
全くの無実だとは言えない気がする。めっちゃ罪をかぶせようとしたし。実際今、沢山の人が火炙りになろうとしている。バルガスまで!
今にも火をつけようとしているとき、女の子が飛び込んできた。
「ラーデス様、お許し下さい!」
「ラピス……!」
「彼らが疑わしいというのなら、私が監視します。混ざり物だから怪しいなんて公平ではありません! 神様が真実混ざり物を見放していたというのなら、何故私をガルギルディン様は加護してくれたというのですか!」
「ラピス、いい! お前まで疑われる!」
そう思いながらも、俺は胸を痛めていた。
バルガスの為なんだろうか。その為に、命を賭しているのだろうか。
「リキは! リキは、私の事を可愛いって言ってくれた。同じ混ざり物のバルガスでさえ言ってくれなかったのに! それに、彼は無垢なる弱き物。見捨てたら、ガルギルディン様に顔向けできません!」
マジかよ、バルガス最低だな。ラピスは天使のごとく可愛いだろ。
それに、それに……俺の、俺の為に命を掛けてくれているのか。凄い衝撃だった。女の子が、それも小さな女の子が、俺を守ろうと、命をかけて。
「彼らはきちんと、ルビタリスを吸収できます。神の加護を得ています。ドリステン様とメリールゥ様の信徒は珍しく、きっと魔王退治の助けにもなります!」
ラピスが差し出したルビタリスを、空気を読んで吸い取る。
「……神様は偉大すぎて、人の罪を認識されぬ時がある。」
「それでも! それでも、どうか」
ラピスは跪いた。俺の為に女の子が膝を……!
「わかりました。7ヶ月以内に、魔王を退治しましょう。いくらスパイだって、自分の陣営の親玉は殺さないでしょう? それが叶わなかった時は殺して下さい」
「七ヶ月だと? はっ 随分大きく出たものだな……良いだろう。それが叶わぬ時は私自ら殺してやる」
こうして、俺と兄貴とバルガスは命を救われたのだった。
領主一族は、本物の証拠も見つかり、処刑されちゃったけど……。
バルガス、たった一人の女の為に街を無政府状態にするなんて……
でも。でも、ラピスの為なら。
俺も、ラピスの為なら誰にだって立ち向かえるかも知れない。
とにかく、俺達は解放された後、命の対価の一部として神様について聞き取りを受けていた。
「ドリステン様の教義は……えーと、パッション、ですか?」
「そうだ。パッションだ」
そうして、俺は実際に儀式を行ってみる。
『ほれ。ほれ! もう泣くな、メリールゥ。信者が怖いと言っても、たかが人間じゃろうて……』
なんだか取り込み中みたいだ。
「次に、メリールゥ様の教義は……」
「これです」
兄貴はへにょっとした。
「ふざけているんですか?」
「神様の事でふざけるはずがないでしょう。これが教義です」
そしてもういちどへにょっとした。
へにょ。へにょ。へにょ。
「\(′▽`)ノ」
「今のはメリールゥ様の意思を上手く表現出来ましたよ!」
「そ、そうですか……。ルビタリスボックスは……首輪と、ガーターベルト、と。贈り物はマラカスと扇……うーん……。呪文とかは使えないんですか?」
「今、ルビタリスを溜めているところだ」
「そうですか……。ちなみに、何故その神様にお仕えする事にしたのですか?」
「俺にぴったりだと思ったから」
「僕にぴったりだと思ったからです」
そういう兄貴は、ビックリするほど優しい顔をしていた。
『メリールゥ! メリールゥ! 落ち着くんじゃ! 人間に神は取って食われんから安心するんじゃ! 泣くな!』
「ククククククククク……メリールゥ様、素直になるのですよ……」
気のせいだったかも知れない。
本来のプロット
悪い組織に狙われる。
人質を取られたバルガスに裏切られる。
あわやという所で回復呪文を手に入れる。
バトルとかある。
ラーデスが助けに来るがついでに火炙にされかける。
ラピスが助けてくれる。
バルガスが仲間になる。
だったのですが、勉が鎧袖一触にしてしまいました……。
この騒動一週間の予定だったのですが。
あと2日どうしよう。