「教祖様―!」
「キャー! ドリステン様のご加護を私にくださーい!」
「教祖様―!」
あー。俺、確かに夢とか、何になりたいかとか、無かったけどさ。
兄貴と主神様に言われるままに、教祖様に収まっちゃったのはどうかと思うんだ。
こっちの世界でも、加護を与える方法を神様達は考えてて、それの手伝いもさせられてる。もしかして、俺、異世界の神々の総元締めの神官になるかも。嫌だなぁ。
「なぁに落ち込んだ顔してるのよ。能天気だけが取り柄の馬鹿なんだから、笑ってなさいよ、犬!」
妻のラピスが俺の耳を引っ張った。痛い痛い。
彼女とラーデスの身柄は、大混乱の内に、家で預かる事となった。
研究所に5年も缶詰はきつかったな……。
そして、俺とラピスは結婚した。
ラピスは自力で関係各所とコネを作り、警察へと入った。いつも生き生きと働いている彼女を見ていると、パッションパッション言って踊っている自分がたまに情けなくなる。
いや、怪我人を癒す尊い仕事だってわかってるさ。わかってるけどな。
ああ、どうして医者って路線を思いつかなかったんだろう……。と言っても、俺なんかの頭で医者になれるはずが無いか。
皆も、それぞれの道を歩んでいた。
魔術を役立てる方法の職種が多い。ていうか、そうでもしないと俺達の居場所が無かったんだけど。
ラーデスは、自衛隊に入った。警察といい、自衛隊といい、身元不詳の人間が普通だったら絶対に入れるはずのない場所だ。大混乱と異世界人って事がプラスに働いたんだろうけど、二人は本当に凄いと思う。
兄貴だけど、証券会社に勤めるエリートだ。
さっきも言ったように、力を生かす職種でもないと俺達の居場所はなかった。なのに、実力で証券会社への就職をもぎ取った兄貴は凄いと思う。
目下の悩みごとは、落ち着いてきて約束通り妻……は無理の様ですから愛人になりに来ましたと言って現れた巫女アリスと、既に兄貴と結婚していたラーデスとの仲を取り持つ事だ。
ラーデスもアリスも、もう向こうにも居場所はないから、兄貴が娶るのは反対しないけど……。日本って一夫一妻制だよなぁ。ちゃんと二人とも幸せにしろよ?
一応、幸せって呼べる生活を送れてる。
でも、それでも俺は思うのだ。何か、どこかで納得いかない。
もしかして俺ら、騙されてるんじゃね?
『主神様―。あの研究所襲撃、主神様の権限で何とかならなかったのですか? 結局、あの研究は裏から手をまわして続行させたそうではないですか』
『……うっそれが……の……。だって……悔しいではないか……』
『は?』
『わ、ワシだってドラゴン焼き食べたかった! そう思うとくやしゅーてくやしゅーて、酒かっくらって巫女アリスめーとか恨み事吐きながら寝てたら一歩遅かったんじゃー』
『……ドリステンよりたち悪いですよ、それ』
『言うな……とにかく、ツトム達には最大限の援助をする。それでよし! 良いな!』
『はいはい。わかりましたから、その穴埋めとドリステンとメリールゥの加護で崩れたパワーバランスの解決策の提示を急いでください。これ書類です』
『くう……ドリステンの馬鹿ものー!』
『あんたの監督責任でしょーが。やれやれ、人間を装って研究所を立てたのに全部水泡に帰された私の事も、少しは察してくれませんかね』
『外界との接触を禁じればよかったろーに』
『あーあー聞こえなーい』
『あーあーワシも聞こえなーい』
やっぱり、何か騙されてる気がする。……ま、いいか。