ゲーム世界に戻ると、ラーデス達が体は傷一つなくても、服がボロボロの状態で俺達を待っていた。
「ラーデス、どうしたんですか?」
「あいつらは別同隊を用意していてな。それの相手に手間取った。……しかし……」
ラーデスの瞳から、ぽろぽろと涙が零れおちて、俺達は慌てた。
「誰か、犠牲者が!?」
「違う……。違うんだ……。逆なんだ……。魔将軍を倒したのに、死人が出てなくて……。そうなんだろう? 倒したんだろう? なんか、凄いな……」
「ふふふ、他の魔将軍の首もガンガン狩りますよ!」
ラーデスはごしごしと涙を拭う。
「お前が言うと、夢物語も子供の遊びのようだ」
ゲームだから遊びなんだけど。
そして、ラーデスは兄貴に手を伸ばす。
「連れて行ってくれ。お前の行く所、どこまでもついて行こう」
「じゃ、情報収集の方はお願いします」
「く……ククク……ああ、任された!」
「リキ! 私も、私もついていくんだからね。今度は、戦う時も一緒なんだから!」
ラピスが言うので、俺はラピスの手を握った。
「ああ、ラピスがいるだけで、何倍も強くなれる」
「ば、馬鹿……」
そして俺達は、旅支度を整えて、次の冒険へと出かけるのだった。
「え? トロール魔将軍が倒された……?」
「ダークエルフ魔将軍なら、先日首を取られたよ」
「聞いてくれ、ついに死霊魔将軍が倒されたんだ!」
だが、魔将軍たちはことごとく打ち倒されていた。
「何故だ!? このままでは手柄をあげられない……!」
兄貴は腕を思い切り宿の机に叩きつける。
「落ち着け、ツトム。ドリステン様とメリールゥ様のご加護だ。何か、ある程度レベルをあげると怖い程便利な呪文が次から次へと覚えられるからな。まあ、ドリステン様の場合は初めに覚えられる呪文二つが反則級だ。下さる報償品も凄まじく上等な物ばかりだ。全く予想外だが、補助神の中では最高峰と言っていいだろう。それを信仰した者達の快進撃も頷ける。だが、ツトム。ツトムとリキが、最初の信者だという事に変わりはない」
「あー……。確かに、盲点でした……。メリールゥ様の信者は、もう僕一人ではないんですよね……。仕方ない。少々早いですが、魔王でも倒しますか。どこにいるんでしたっけ?」
ラーデスは、それに目を丸くした。そして、ぐらりと傾いで、笑いだす。
「ククク……ハハハ……アーッハッハッハッハッハ! そうか! 魔王でも倒すか! お前は、本当に、本当に規格外だ……! どうしよう、どんどん好きになる……こんな気持ち、初めてだ」
「ラピス、俺も、俺も魔王でも倒すとするか! ほら、俺にドキドキしないか?」
「二番煎じが効くと思わない事ね、犬。本当に私を口説きたいなら……貴方の言葉で口説いてよ」
「好きだ、ラピス!」
ぶんぶんと尻尾が勝手に揺れる。何これ、何これ。俺と兄貴、こんなに幸せで良いんだろうか。ゲームでもいい、ラピスが好きだ。
ラーデスはひとしきり笑った後、涙を拭いた。
「だが、少し時間をくれ。魔王退治にはそれなりの準備が必要だ。神殿と連絡を取ろう」
「僕は多人数で攻めるよりも、少人数で暗殺者方式の方が目があると思うのですがね。そこは任せます」
「任されるがいい。まずは、首都に向かおう。貴人用の転移魔法陣があるが、我らなら使わせてもらえるだろう。一週間、時間をくれ」
ラーデスの指示に従った俺達を待っていたのは、パレードだった。
人が大勢集まり、俺達を称えている。
俺達は正装とやらをさせられて、馬車に乗せられていた。
なんか、こんだけの人に囲まれているって怖いな……。誰もかれも浮かれて、熱狂している。兄貴は平気で手を振っているけど。
『なんかやばいかも。拠点に軍が集まってる』
夏梅からの全体チャットで、兄貴の顔が、一瞬強張った。
『今は、注目を浴びているので動けません。とにかく防備を固めて下さい』
『わ、わかった』
後の時間は、気が気じゃなかった。
パレードが終わると、足早にラーデスが駆けよって来る。
「ツトム。異端審問官としての仕事が入った。何か、神の名を騙る不届き者が現れたらしくてな。我がライバール帝国の威信をかけて、叩き潰さねばならん。どうやら、邪教徒アリスも関わっているらしい。それで、形式的な物だが、いくつか確認させてほしい。あいつらは混血の組織らしいのだ。それで、お前達も念の為に検査を……」
「すいません、ラーデス。僕達は、行かなくては。聖なる巫女、アリスを守らんが為に。ドリステン様! メリールゥ様! 戻りますよ」
兄貴は言い、驚愕しているラーデスを置いて、信じられないという顔で俺を見ているラピスを置いて、俺の手を引いて拠点へと戻った。
「大変じゃ、大変じゃ」
マルゴー爺が慌てている。
「マルゴー爺は安全な所へ逃げて下さい! ログアウト出来ないんですか!? 状況は!」
「駄目じゃ、ワシでは世界の壁を超える事は出来ん。もう駄目じゃ、皆、今のうちにログアウトするんじゃ」
神々は苦悩した顔で言った。
「すまぬ。我らは、信者達と戦う事は出来ない。そして、我らが現世に降りているとばれるわけにもいかない。我らはここで引く」
「えー。ワシ嫌だ。まだ遊び足りな……むぐぐ」
ドリステン様が他の神々に口を塞がれる。
「構いません。これは、元々僕達の戦いです」
「本当に済まぬ。我らが原因なのに……! ドリステンの馬鹿ですら気付かれなかったのに……!」
「はぁ……例えそうだとしても、それを防げなかったのは僕らの責任です」
ため息を吐いて、兄貴は言う。そして、次々とやって来るメンバーと視線を交わし合い、それぞれの武器を合わせた。
「よかった。皆さんが逃げようなんて言わなくて」
「覚悟はして来てるさ。混血魂を見せてやろうぜ。俺ら、チートなはずだろ?」
何、この俺一人だけ置いていかれてる雰囲気。
「リキはパッションをお願いします。……貴方は支援系ですし、人を殺さなくても結構ですから」
「だな」
頷きあって、彼らは外に走る。
俺も急いでそれを追いかけて、呻いた。なんだよ、アレ。
女装した若い、けど筋骨隆々の男共が扇持って並んでいて、その後ろで女の子達がマラカスでパッションパッション言っている。
「これは……色んな意味できつそうですね……」
兄貴は苦笑いをする。そして、武器を構えた。