俺と鬼と賽の河原と。生生世世
石を削って、モアイを作るのにも慣れてきた今日この頃。
俺、百七つ石を積んだら、最上段にこのモアイを置くんだ……!
という、死亡フラグを立ててみることにする。
「実はもう、モアイも作ってあったりして……」
そうすると、俺は百七つ積んだ時点で凶弾に倒れ、儚くもモアイが砕け散ることになる、と。
……まあ、百七つも積めないから意味ないけどな。
と、そんなところで、不意に足音が聞こえてきた。
やばい、前さんだ。
仕事を怠けてモアイを作ってたことがばれたら最後、挽肉にされて、ダンボールを混ぜられ、売られてしまうだろう。
そして、ハンバーグになる、と。
どちらかといえば、そぼろ丼もお勧めだが、この際どうでもいい。
俺が危ない。
隠すんだ、急いで。
ぱっと体の後ろに持ってくれば……。
と思ったら気がついたらこのモアイを含めて今ここにあるのは五体目。
無理ですね。はい。無理です。
隠し切れない。だれだこんなに無駄にモアイ作った奴。先生怒らないから出てきなさい。俺か。
これは、言うしかないのか?
『変わった形の石ですね』
すると、予想される回答はこちら。
『しね』
そして、目だ! 耳だ! 鼻!! と粛清されることは間違いないだろう。
と、まあ、くだらないことを考えているうちに手遅れである。
もう、この際真面目に石を積んでいたが、親指で擦れてこうなったことにしておくか。
……よし、諦めよう。
この際挽肉なったらその時はその時だ。
前さんが俺の目の前にやってくる。
絶対に前さんの視界にこのモアイは飛び込むことだろう。
それが俺の最後の時だ――。
「ねえ、薬師」
はい、最後の時がやってまいりました。
「今日、薬師の家に寄ってっていい?」
「ん? ああ……。……あれ?」
……あれ?
「藍音、俺はもう駄目かもしれん」
「どうしたのですか?」
「俺は幻覚を見ているらしい。もう死んでいるはずなのに」
「……どこに問題が?」
「……それもそうか」
そうして、俺は前さんを家に招いた。
其の八十六 俺と覇気。
「おじゃまします」
「おうさ、ゆっくりしてってくれ」
そんなこんなで俺は、前さんを座敷に通した。
俺の部屋? 見ても楽しくないぞ。
「所で、なんでうちに来たんだ?」
そして、わざわざ前さんがきた理由だが、よくわからない。
ただ、前さんは来たいと言っただけだ。
答えもまた、曖昧なものが返ってくる。
「んー、ちょっとね」
苦笑気味に呟かれた言葉は、ぼかされるように消えた。
まあ、今更そんなことで不快感を示すような仲でもない。
なんとなく来たってんならそれはそれでいいだろう、と俺は納得した。
しかし、二人ひたすら微動だにせず動くのは少々歓迎しがたい。
何かないものか、と俺は思考を繰り広げた。
「どうする? 将棋でも指すかね?」
「ん、それはいいかな? 別に」
……まあ、前さんがいいというなら仕方ない。
黙って、座る。
そして、だんまり決め込むこと数十秒。
「ねえ、そっち、行っていい?」
不意に、前さんは言った。
無論、断る理由もない。
「ん、ああ」
前さんが、隣に座る。
一体これはどういうことなんだろうか。
妙な空気だ。
そんな奇妙な空気の中、更に前さんは口を開いた。
「もう少し、近くに行ってもいいかな?」
本当にどういうことなんだ。
まあ、しかし、別にそんくらいなら構わない。
「ああ」
そうして、俺と前さんの間に空気が入る隙間もなくなり。
隣り合って、ぴったりと二人、座る。
なんとも微妙な気分だ。
前さんはどういうつもりなのだろうか。
俺を困らせて楽しんでるのか。
俺は、結局不動のまま動かないでいる。
時刻だけが、唯一つ、動き続けていた。
「ねぇ、薬師」
「なんだ」
「んー、なんでもない」
なんか変だ。今日の前さんは。
どこが変かといわれれば、覇気がない。
しかし、目立ってこう、変わっているわけでもないのだ。
明らかに沈んでるとか、外見に変化があるとか。
そんな感じではない。無理をしているのかも知れないが。
「なんかあったのか?」
「ん? 心配してくれてるの?」
前方を向いていた前さんが俺を見る。
俺は頷いて返した。
「ああ。一応な」
「じゃあさ」
前さんは言う。
やっとこれで、前さんの不審さに答えが出るのであろうか。
この状況は、些か落ち着かないのだ。
前さんはもっとこう、元気があって、金棒振り回してきて、俺の頭部が弾け飛ぶような活気が……。
……俺の健康的に、今が最高の状態じゃね?
いや、まあ、しかし、とにかくだ。
落ち着かない。理屈じゃないのだ。被虐趣味はないが、まあ、前さんはいつも通りなのが落ち着く。
だから、不審さの理由を聞こうと俺は居住まいを正すのだが。
「膝、貸してよ」
「……おう?」
不審さの理由って奴はどこに消えたんだい?
手品師もびっくりの消失である。
「じゃあ、借りるね?」
前さんは、俺の胡坐をかいた太腿の上に頭を乗せた。
赤い、紅色の髪が畳の上に、放射状に広がる。
「ぬうん……」
非常に、微妙な気分だ。
拍子抜けとか、色々とない交ぜになって、微妙な気分だ。
前さんは俺の膝に頭を預けながら、俺の前方を向いていて、表情を見て取ることはできない。
「どうしたの? 薬師。いきなり唸ったりして」
「いや、なんでもない」
呟いて、俺は上を見上げた。
天井があるだけだ。
果たして俺にどうしろってんだこのやらう。
結局、前さんは俺の膝の上に乗ったまま、何をするでもない。
俺は結局落ち着かない。
俺たちの間にあるのは、たまに訪れる前さんの身じろぎの音だけだ。
「ねえ、薬師」
そんな中、前さんが寝返りを打つようにまっすぐ俺を見上げた。
俺は前さんを覗き込む。
「なんだね」
やっぱり、覇気がない。
元気がない。儚い。
「あたしのこと、好き?」
本当に、いきなりなんだってんだ。
「あー……」
「あ、答えなくてもいいよ」
先んじて、言葉をかぶせられる。
「薬師が素直じゃないの、知ってるから」
そう言って、彼女はにへらと笑った。
「『嫌いな奴に、膝枕なんてするもんか』、なんてね?」
茶化すように前さんは言う。
「ぬう……」
お手上げだ。もうどうしようもない。
俺は諦めて、話題を変えることにした。
「前さんよ」
「なぁに?」
「足が疲れてきたんだが」
果たして、俺の抗議は伝わるのだろうか。
この憂鬱状態、そう、あれだ。あれ。
えー、メランコリー。アンニュイ。その辺な前さんが相手だから、はんなりと拒否される気がしないでもない。
「うん」
うん。
うんと返ってきたか。
じゃあ、次はなんだ。
却下か。それとも、うん、そう。で終わりか。
しかし。
「じゃあ、交代しよっか」
その答えは予想外だった。
「……何を?」
前さんの膝の上で、俺は考える。
なんだ、この状況。
……。
「楽しいか? 前さんよ」
「うん」
そうか。
楽しいのか。
俺は寝返りを打って前さんを見上げた。
なら、いいのだろう。
いいんだろう、多分。
しかしだ。
しかし、ちょっとまあ。
「前さん」
「なに?」
気に食わないことが一つ。
だから言う。
「好きだ」
「ふうん? ……えっ?」
「……」
「え……!?」
まあ、別にされるがままであることに文句は無いが。
しかし、まあ、予測されればそれを上回ることがしたいというのも人情である。
つまるところ、反骨心。
「好き嫌いで言ったら間違いなく好きだろ、多分」
実際、得がたい友人である。口に出すのは恥ずかしいだけで。
「えっと……!」
「じゃ、俺は寝るわ」
俺は目を瞑る。
「……からかわないでよ。もう、薬師ったら」
「ああ、どうも仕事をミスしたらしくてな。落ち込んでたんだが……」
「ふーむ、なるほど。やっぱりな」
季知さんに話を聞いたら、どうやらそういうことだったらしい。
ふむ、じゃあ、明日は前さんにそれとなく元気をつけられるよう頑張ってみるか。
翌日。
「おはよう薬師っ! 今日もいい天気だね」
……あれ?
いつもより前さんが上機嫌だ。
「モアイ作ったらぶっ飛ばされる方の前さんだ」
「なにそれ」
「ぶっ飛ばすだろ?」
「うん」
……まあ、いいか。
―――
そろそろ次のシリアスネタも考える頃。
次はあっさりうす塩味の一話終了型小話風味のシリアス予定。
返信
通りすがり六世様
憐子さんが就寝時服を着ているところが想像できない……!! ……ニーソックスとか?
リムジンに関しては、うちの近くに式場があるので、目撃したことはあります。実物で見ると驚きの長さで素人目には運転しにくそうでした。
しかし、本当にやりそうですね、薬師。でも、多分便利屋みたいなことしてる薬師が一番悪いと思います。
設定に関しては、一通り、かなりの量メモが取られてはいるんですけど、明らかに私にしか分からないはしょり具合でして。要望があれば書き起こさないと駄目かなぁ、と。
SEVEN様
憐子さんは、いっそ、『恥乙女(はじおとめ)』でもいいと思いますよ。全裸健康法です。
しかし、でかいにも関わらずクロゼットとか、無謀すぎましたね、李知さん。
いつか鍋にでも収まる気ですかね。明らかに無理ですけど。もしくは巨大鍋を用意するか。
そして、キャプテン氏の「ボールは友達、怖くないよ」の台詞は、かめはめ波のようなボール喰らってそんな台詞吐くキャプテン氏の方が断然怖い=ボール怖くない。という意図なんでしょうか。
奇々怪々様
あえて十円傷付けに行く輩もいるやも知れませんが、あれを壊すのは相当な背徳感でしょう。
ただ、リムジンからトランスフォームしたほうが、どちらかといえば壊しちゃいけない気がします。男の子のロマン的に。
まあ、それより、薬師の日ごろの行いは悪いですよ。今回も『好きだ』とか言ったり。
そして、つまるところ山崎君は愛沙の技術さえおっつけば何でもいいのです。さあ、ここらで妄想をぶちまけてみたりどうでしょう。
春都様
ぶれません。憐子さんはぶれません。ただ、一直線に全裸です。もう、容赦なく。
薬師に譲歩したとして、裸、前開けYシャツが限度だと思います。無論薬師のYシャツで。
しかし、そこまでBBAの恐怖が……。まあ、一瞬BBAネタでもやろうかと思った私もまた末期。
こう、運転主はBBAかよ、みたいなネタを頭に過ぎらせたんですが、即刻却下しました。
黒茶色様
しかし、今回の件で、全裸とメイド服への反響が凄まじきことこの上なし。
あれですかね、こう、これで着衣派か全裸派かの違いが分かる、と。自分はどっちでもいけます。
就寝用メイド服は、多分、手触りがいいんです。あと、通気性とか。
そして、多分脱がしやすい、と。ついでに、半脱ぎ状態で映える構成。まあ、そういうことでしょう。
羅刹様
極限までパニクると諦観がやってきて、最終的にどうなるのか。
李知さんの場合は拗ねました。まあ、ホラー映画とかでも極限まで追い詰められると突如キレる人とかいますよね。
就寝用メイド服は、通気性、手触り、夜の営みに適したメイド服となっております。
しかし何故か知らないけれど、藍音さん一人なのにメイ度値半端ないと思います。
最後に。
通常用メイド服 家事に適した動きやすい素材。
外出用メイド服 フォーマルな場にも。光沢など、少し違った高級感。
戦闘用メイド服 丈夫でありながら、伸縮性に富む素材。また、武装の収納スペースも。
就寝用メイド服 質感にこだわった夜のメイドスタイル。通気性もよく、また、脱がされることも意識したチャック、ボタン位置調整などを行っております。
デザインは皆一緒。