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No.20629の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。生生世世 (ほのぼのラブコメ)[兄二](2010/08/02 00:00)
[1] 其の二 俺とどうかしてる日常。[兄二](2010/07/29 22:08)
[2] 其の三 俺とメイドと妙な気配。[兄二](2010/08/01 23:57)
[3] 其の四 俺とニート二人について。[兄二](2010/08/07 22:44)
[4] 其の五 俺と私の八月七日。[兄二](2010/08/10 22:44)
[5] 其の六 俺と身長。[兄二](2010/08/10 22:44)
[6] 其の七 俺と笑うあの人。[兄二](2010/08/13 22:36)
[7] 其の八 俺とこの時期。[兄二](2010/08/23 11:01)
[8] 其の九 俺とアホの子とアホ。[兄二](2010/08/20 23:19)
[9] 其の十 俺と新聞と猫。[兄二](2010/08/23 22:03)
[10] 其の十一 俺と買い物。[兄二](2010/08/27 21:56)
[11] 其の十二 俺とそろそろ――。[兄二](2010/08/31 01:05)
[12] 其の十三 俺と太陽。[兄二](2010/09/02 21:56)
[13] 其の十四 掌を太陽に。[兄二](2010/09/05 21:17)
[14] 其の十五 俺も周りも落ち着いて。[兄二](2010/09/09 22:14)
[15] 其の十六 いつも通りと変わった一日。[兄二](2010/09/15 21:33)
[16] 其の十七 俺と午睡。[兄二](2010/09/15 21:31)
[17] 其の十八 俺とお前。[兄二](2010/09/23 22:16)
[18] 其の十九 俺と勉学。[兄二](2010/09/23 22:12)
[19] 其の二十 俺と煙草。[兄二](2010/09/26 22:39)
[20] 其の二十一 俺と甘いお菓子。[兄二](2010/10/03 21:51)
[21] 其の二十二 俺と秋空。[兄二](2010/10/03 21:54)
[22] 其の二十三 俺と彼女の評価について。[兄二](2010/10/06 22:36)
[23] 其の二十四 俺と鯖。[兄二](2010/10/09 22:23)
[24] 其の二十五 俺と手袋。[兄二](2010/10/13 21:41)
[25] 其の二十六 俺と炭水化物。[兄二](2010/10/17 23:17)
[26] 其の二十七 俺とメイドの空模様。[兄二](2010/10/20 22:27)
[27] 其の二十八 俺と秋と言えば。[兄二](2010/10/30 22:51)
[28] 其の二十九 俺と小さいあの人。[兄二](2010/10/30 22:26)
[29] 其の三十 俺と月見草。[兄二](2010/11/03 23:35)
[30] 其の三十一 俺と動かない銀子。[兄二](2010/11/06 22:34)
[31] 其の三十二 俺と答案。[兄二](2010/11/10 22:41)
[32] 其の三十三 俺と手袋とマフラー。[兄二](2010/11/13 22:37)
[33] 其の三十四 俺とロマンスはスコープの輝き。[兄二](2011/01/29 20:37)
[34] 其の三十五 俺と不調。[兄二](2010/11/21 23:05)
[35] 其の三十六 俺と隣の家事情。[兄二](2010/11/27 22:58)
[36] 其の三十七 俺とこたつより。[兄二](2010/11/28 22:14)
[37] 其の三十八 俺と学校の怪談再来。[兄二](2010/12/01 22:21)
[38] 其の三十九 俺と厄日。[兄二](2010/12/05 22:23)
[39] 其の四十 俺と誕生日。[兄二](2010/12/08 22:04)
[40] 其の四十一 俺と風邪。[兄二](2010/12/11 22:12)
[41] 其の四十二 俺と手加減。[兄二](2010/12/19 00:54)
[42] 其の四十三 俺と悪魔祓い。[兄二](2010/12/28 22:39)
[43] 其の四十四 俺と悪魔祓いというか。[兄二](2010/12/23 22:14)
[44] 其の四十五 俺と奴の誕生日。[兄二](2010/12/25 21:04)
[45] 其の四十六 俺と年の瀬。[兄二](2010/12/28 23:11)
[46] 其の四十七 明けましておめでボグシャア。[兄二](2011/01/01 22:12)
[47] 其の四十八 俺と大人の色香について。[兄二](2011/01/05 22:21)
[48] 其の四十九 俺と彼女の家。[兄二](2011/01/08 22:36)
[49] 其の五十 働く俺。[兄二](2011/01/11 22:00)
[50] 其の五十一 俺と悪魔。[兄二](2011/01/14 22:27)
[51] 其の五十二 俺と日常。[兄二](2011/01/17 21:31)
[52] 其の五十三 俺と狭き世界の日常。[兄二](2011/01/20 22:42)
[53] 其の五十四 俺と閻魔の休日の過ごし方。[兄二](2011/01/23 22:13)
[54] 其の五十五 俺と死亡遊戯。[兄二](2011/01/29 20:36)
[55] 其の五十六 俺とお前の遠距離恋愛。[兄二](2011/01/29 20:34)
[56] 其の五十七 俺とシュークリーム。[兄二](2011/02/01 23:18)
[57] 其の五十八 俺と節分。[兄二](2011/02/04 23:32)
[58] 其の五十九 俺と鎧。[兄二](2011/02/08 21:49)
[59] 其の六十 俺とあの日の少し前。[兄二](2011/02/12 23:23)
[60] 其の六十一 俺と奴の命日。[兄二](2011/02/14 22:46)
[61] 其の六十二 俺と奴の命日は終わったはずだ。[兄二](2011/02/17 22:28)
[62] 其の六十三 俺と弦楽器。[兄二](2011/02/20 22:04)
[63] 其の六十四 俺と心は侍。[兄二](2011/02/23 22:33)
[64] 其の六十五 じゃら男には友達が少ない。[兄二](2011/02/26 22:56)
[65] 其の六十六 俺と紅茶。[兄二](2011/03/04 21:49)
[66] 其の六十七 俺と小豆洗い。[兄二](2011/03/04 21:48)
[67] 其の六十八 俺と百合。[兄二](2011/03/10 22:55)
[68] 其の六十九 俺と妾。[兄二](2011/03/10 22:55)
[69] 其の七十 俺と手繋ぎ日常。[兄二](2011/03/13 17:12)
[70] 其の七十一 俺と貴方の近距離恋愛。[兄二](2011/03/16 21:49)
[71] 其の七十二 俺と日記。[兄二](2011/03/19 22:17)
[72] 其の七十三 絶対霊障祟神[兄二](2011/03/21 21:47)
[73] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「一」[兄二](2011/03/23 21:01)
[74] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「二」[兄二](2011/03/25 21:05)
[75] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「三」[兄二](2011/03/29 22:29)
[76] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「祓」[兄二](2011/04/01 22:35)
[77] 其の七十四 俺と事件の裏側で。[兄二](2011/07/17 15:56)
[78] 其の七十五 俺と手繋ぎ。[兄二](2011/04/07 23:19)
[79] 其の七十六 俺と構ってにゃん子。[兄二](2011/04/10 21:41)
[80] 其の七十七 俺と婆。[兄二](2011/04/14 23:01)
[81] 其の七十八 俺と更に。[兄二](2011/04/18 00:46)
[82] 其の七十九 俺と睡眠。[兄二](2011/04/20 22:28)
[83] 其の八十 俺とツンデレ。[兄二](2011/04/23 21:44)
[84] 其の八十一 俺と未知との遭遇。[兄二](2011/04/27 22:02)
[85] 其の八十二 俺と白いワンピース。[兄二](2011/04/30 23:59)
[86] 其の八十三 俺とお悩み相談。[兄二](2011/05/03 22:49)
[87] 其の八十四 俺と父親度。[兄二](2011/05/06 22:19)
[88] 其の八十五 俺と謎の李知さん。[兄二](2011/05/09 22:16)
[89] 其の八十六 俺と覇気。[兄二](2011/05/13 21:46)
[90] 其の八十七 如意ヶ嶽由壱は焦らない。[兄二](2011/05/16 22:07)
[91] 其の八十八 俺とお前の恋の駆け引き。[兄二](2011/05/20 22:33)
[92] 其の八十九 俺と死亡遊戯弐。[兄二](2011/05/22 22:29)
[93] 其の九十 俺と鍛錬。[兄二](2011/05/25 22:08)
[94] 其の九十一 俺と厠を行ったり来たり。[兄二](2011/05/29 22:01)
[95] 其の九十二 俺と山崎春の山崎祭り。[兄二](2011/06/02 21:44)
[96] 其の九十三 俺と既知との遭遇。[兄二](2011/06/05 21:58)
[97] 其の九十四 Dances Under The Half Moon.[兄二](2011/06/09 21:29)
[98] 其の九十五 Dances Under The Full Moon.[兄二](2011/06/12 21:42)
[99] 其の九十六 Dog Fight.[兄二](2011/06/16 21:54)
[100] 其の九十七 俺と狐に化かされて。[兄二](2011/06/19 22:41)
[101] 其の九十八 俺と死亡遊戯参。[兄二](2011/06/24 21:17)
[102] 其の九十九 俺と贈答品。[兄二](2011/06/27 22:04)
[103] 其の百 俺とあの子。[兄二](2011/07/03 20:23)
[104] 其の百一 山崎愛の一人劇場。[兄二](2011/07/07 21:41)
[105] 其の百二 俺と飼うとか飼われるとか。[兄二](2011/07/17 15:55)
[106] 其の百三 俺と道端の煙草。[兄二](2011/07/14 22:14)
[107] 其の百四 俺と年上の女性。[兄二](2011/07/17 22:27)
[108] 其の百五 俺と二重衝撃。[兄二](2011/07/21 22:13)
[109] 其の百六 私と夏。[兄二](2011/07/24 23:01)
[110] 其の百七 ああ素晴らしき夏。[兄二](2011/07/27 20:38)
[111] 其の百八 俺と写真機という名のカメラ。[兄二](2011/07/31 21:23)
[112] 其の百九 俺と祭る夏。[兄二](2011/08/04 22:02)
[113] 其の百十 俺とフワジャン。[兄二](2011/08/07 22:24)
[114] 其の百十一 俺とエプロン。[兄二](2011/08/17 22:40)
[115] 其の百十二 夏は甘くない。[兄二](2011/08/17 22:39)
[116] 其の百十三 俺とひんやりとした。[兄二](2011/08/17 22:38)
[117] 其の百十四 俺とぬか喜び。[兄二](2011/08/21 23:12)
[118] 其の百十五 俺の知らないところで千日手。[兄二](2011/08/25 22:10)
[119] 其の百十六 俺と愛沙と閻魔。[兄二](2011/08/29 22:31)
[120] 其の百十七 俺と不真面目な件について。[兄二](2011/09/01 22:09)
[121] 其の百十八 俺とSとM。[兄二](2011/09/04 21:45)
[122] 其の百十九 俺と敗北。[兄二](2011/09/11 22:27)
[123] 其の百二十 なんと単純な。[兄二](2011/09/15 21:47)
[124] 其の百二十一 しろがねの錬金術師[兄二](2011/09/18 22:20)
[125] 其の百二十二 快速スタンピード[兄二](2011/09/23 22:19)
[126] 其の百二十三 ハートフルボッコ。[兄二](2011/09/28 21:00)
[127] 其の百二十四 大体三十九度。[兄二](2011/10/02 22:09)
[128] 其の百二十五 俺と飲まれないでくれ本当に。[兄二](2011/10/05 22:24)
[129] 其の百二十六 俺とハニーバイト。[兄二](2011/10/09 21:20)
[130] 其の百二十七 俺と飲まれないでくれ本当に2。[兄二](2011/10/13 22:14)
[131] 其の百二十八 俺とベアー。[兄二](2011/10/18 23:24)
[132] 其の百二十九 俺と女子力。[兄二](2011/10/24 22:37)
[133] 其の百三十 俺と温かい手。[兄二](2011/10/28 21:34)
[134] 其の百三十一 生温ハロウィン。[兄二](2011/10/31 22:36)
[135] 其の百三十二 俺と熱と看病と。[兄二](2011/11/04 23:23)
[136] 其の百三十三 俺と回転。[兄二](2011/11/09 22:16)
[137] 其の百三十四 俺と赤い青い。[兄二](2011/12/04 22:27)
[138] 其の百三十五 俺と呪いの藁人形。[兄二](2011/12/04 22:27)
[139] 其の百三十六 俺と思い出の地。[兄二](2011/12/04 22:26)
[140] 其の百三十七 俺とサービス過剰。[兄二](2011/12/04 22:26)
[141] 其の百三十八 俺と飲まれないでくれ本当に3。[兄二](2011/12/04 22:26)
[142] 其の百三十九 俺と生首と事件。[兄二](2011/12/04 22:25)
[143] 其の百四十 俺と女の強さについて。[兄二](2011/12/08 20:53)
[144] 其の百四十一 乙女と言う名の男前。[兄二](2011/12/12 22:42)
[145] 其の百四十二 俺と首。[兄二](2011/12/15 21:51)
[146] 其の百四十三 俺と長さ約10.6メートル、幅約30センチメートルの布。[兄二](2011/12/23 22:44)
[147] 其の百四十四 俺と家事手伝い兼湯たんぽ。[兄二](2011/12/28 01:00)
[148] 其の百四十五 俺と聖誕祭。[兄二](2012/01/03 21:40)
[149] 其の百四十六 俺と大掃除。[兄二](2011/12/31 10:34)
[150] 其の百四十七 俺と彼女は店主。[兄二](2012/01/03 22:05)
[151] 其の百四十八 俺と怒り変換。[兄二](2012/01/09 22:25)
[152] 其の百四十九 俺というべきか私と言うべきか。[兄二](2012/01/15 22:34)
[153] 其の百五十 俺か私か、それともわたしか。[兄二](2012/01/19 21:44)
[154] 其の百五十一 彼女と俺の平行線。[兄二](2012/01/23 22:30)
[155] 俺と彼女の恋の行方。[兄二](2012/01/25 22:21)
[156] 其の百五十二 俺と棒が。[兄二](2012/01/29 22:24)
[157] 其の百五十三 俺とまさかの客。[兄二](2012/02/04 01:24)
[158] 其の百五十四 俺と襟巻き。[兄二](2012/02/05 22:41)
[159] 其の番外編「馬鹿」[兄二](2011/01/01 22:08)
[160] 其の番外編「身勝手だからこそ」[兄二](2011/01/01 22:05)
[161] 人物設定[兄二](2010/09/02 21:53)
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[20629] 其の八十六 俺と覇気。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:cebe264f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/13 21:46
俺と鬼と賽の河原と。生生世世








 石を削って、モアイを作るのにも慣れてきた今日この頃。

 俺、百七つ石を積んだら、最上段にこのモアイを置くんだ……!

 という、死亡フラグを立ててみることにする。


「実はもう、モアイも作ってあったりして……」


 そうすると、俺は百七つ積んだ時点で凶弾に倒れ、儚くもモアイが砕け散ることになる、と。

 ……まあ、百七つも積めないから意味ないけどな。

 と、そんなところで、不意に足音が聞こえてきた。

 やばい、前さんだ。

 仕事を怠けてモアイを作ってたことがばれたら最後、挽肉にされて、ダンボールを混ぜられ、売られてしまうだろう。

 そして、ハンバーグになる、と。

 どちらかといえば、そぼろ丼もお勧めだが、この際どうでもいい。

 俺が危ない。

 隠すんだ、急いで。

 ぱっと体の後ろに持ってくれば……。

 と思ったら気がついたらこのモアイを含めて今ここにあるのは五体目。

 無理ですね。はい。無理です。

 隠し切れない。だれだこんなに無駄にモアイ作った奴。先生怒らないから出てきなさい。俺か。

 これは、言うしかないのか?

 『変わった形の石ですね』

 すると、予想される回答はこちら。

 『しね』

 そして、目だ! 耳だ! 鼻!! と粛清されることは間違いないだろう。

 と、まあ、くだらないことを考えているうちに手遅れである。

 もう、この際真面目に石を積んでいたが、親指で擦れてこうなったことにしておくか。

 ……よし、諦めよう。

 この際挽肉なったらその時はその時だ。

 前さんが俺の目の前にやってくる。

 絶対に前さんの視界にこのモアイは飛び込むことだろう。

 それが俺の最後の時だ――。


「ねえ、薬師」


 はい、最後の時がやってまいりました。


「今日、薬師の家に寄ってっていい?」

「ん? ああ……。……あれ?」


 ……あれ?








「藍音、俺はもう駄目かもしれん」

「どうしたのですか?」

「俺は幻覚を見ているらしい。もう死んでいるはずなのに」

「……どこに問題が?」

「……それもそうか」


 そうして、俺は前さんを家に招いた。












其の八十六 俺と覇気。













「おじゃまします」

「おうさ、ゆっくりしてってくれ」


 そんなこんなで俺は、前さんを座敷に通した。

 俺の部屋? 見ても楽しくないぞ。


「所で、なんでうちに来たんだ?」


 そして、わざわざ前さんがきた理由だが、よくわからない。

 ただ、前さんは来たいと言っただけだ。

 答えもまた、曖昧なものが返ってくる。


「んー、ちょっとね」


 苦笑気味に呟かれた言葉は、ぼかされるように消えた。

 まあ、今更そんなことで不快感を示すような仲でもない。

 なんとなく来たってんならそれはそれでいいだろう、と俺は納得した。

 しかし、二人ひたすら微動だにせず動くのは少々歓迎しがたい。

 何かないものか、と俺は思考を繰り広げた。


「どうする? 将棋でも指すかね?」

「ん、それはいいかな? 別に」


 ……まあ、前さんがいいというなら仕方ない。

 黙って、座る。

 そして、だんまり決め込むこと数十秒。


「ねえ、そっち、行っていい?」


 不意に、前さんは言った。

 無論、断る理由もない。


「ん、ああ」


 前さんが、隣に座る。

 一体これはどういうことなんだろうか。

 妙な空気だ。

 そんな奇妙な空気の中、更に前さんは口を開いた。


「もう少し、近くに行ってもいいかな?」


 本当にどういうことなんだ。

 まあ、しかし、別にそんくらいなら構わない。


「ああ」


 そうして、俺と前さんの間に空気が入る隙間もなくなり。

 隣り合って、ぴったりと二人、座る。

 なんとも微妙な気分だ。

 前さんはどういうつもりなのだろうか。

 俺を困らせて楽しんでるのか。

 俺は、結局不動のまま動かないでいる。

 時刻だけが、唯一つ、動き続けていた。


「ねぇ、薬師」

「なんだ」

「んー、なんでもない」


 なんか変だ。今日の前さんは。

 どこが変かといわれれば、覇気がない。

 しかし、目立ってこう、変わっているわけでもないのだ。

 明らかに沈んでるとか、外見に変化があるとか。

 そんな感じではない。無理をしているのかも知れないが。


「なんかあったのか?」

「ん? 心配してくれてるの?」


 前方を向いていた前さんが俺を見る。

 俺は頷いて返した。


「ああ。一応な」

「じゃあさ」


 前さんは言う。

 やっとこれで、前さんの不審さに答えが出るのであろうか。

 この状況は、些か落ち着かないのだ。

 前さんはもっとこう、元気があって、金棒振り回してきて、俺の頭部が弾け飛ぶような活気が……。

 ……俺の健康的に、今が最高の状態じゃね?

 いや、まあ、しかし、とにかくだ。

 落ち着かない。理屈じゃないのだ。被虐趣味はないが、まあ、前さんはいつも通りなのが落ち着く。

 だから、不審さの理由を聞こうと俺は居住まいを正すのだが。


「膝、貸してよ」

「……おう?」


 不審さの理由って奴はどこに消えたんだい?

 手品師もびっくりの消失である。


「じゃあ、借りるね?」


 前さんは、俺の胡坐をかいた太腿の上に頭を乗せた。

 赤い、紅色の髪が畳の上に、放射状に広がる。


「ぬうん……」


 非常に、微妙な気分だ。

 拍子抜けとか、色々とない交ぜになって、微妙な気分だ。

 前さんは俺の膝に頭を預けながら、俺の前方を向いていて、表情を見て取ることはできない。


「どうしたの? 薬師。いきなり唸ったりして」

「いや、なんでもない」


 呟いて、俺は上を見上げた。

 天井があるだけだ。

 果たして俺にどうしろってんだこのやらう。




















 結局、前さんは俺の膝の上に乗ったまま、何をするでもない。

 俺は結局落ち着かない。

 俺たちの間にあるのは、たまに訪れる前さんの身じろぎの音だけだ。


「ねえ、薬師」


 そんな中、前さんが寝返りを打つようにまっすぐ俺を見上げた。

 俺は前さんを覗き込む。


「なんだね」


 やっぱり、覇気がない。

 元気がない。儚い。


「あたしのこと、好き?」


 本当に、いきなりなんだってんだ。


「あー……」

「あ、答えなくてもいいよ」


 先んじて、言葉をかぶせられる。


「薬師が素直じゃないの、知ってるから」


 そう言って、彼女はにへらと笑った。


「『嫌いな奴に、膝枕なんてするもんか』、なんてね?」


 茶化すように前さんは言う。


「ぬう……」


 お手上げだ。もうどうしようもない。

 俺は諦めて、話題を変えることにした。


「前さんよ」

「なぁに?」

「足が疲れてきたんだが」


 果たして、俺の抗議は伝わるのだろうか。

 この憂鬱状態、そう、あれだ。あれ。

 えー、メランコリー。アンニュイ。その辺な前さんが相手だから、はんなりと拒否される気がしないでもない。


「うん」


 うん。

 うんと返ってきたか。

 じゃあ、次はなんだ。

 却下か。それとも、うん、そう。で終わりか。

 しかし。


「じゃあ、交代しよっか」


 その答えは予想外だった。


「……何を?」


















 前さんの膝の上で、俺は考える。

 なんだ、この状況。

 ……。


「楽しいか? 前さんよ」

「うん」


 そうか。

 楽しいのか。

 俺は寝返りを打って前さんを見上げた。

 なら、いいのだろう。

 いいんだろう、多分。

 しかしだ。

 しかし、ちょっとまあ。


「前さん」

「なに?」


 気に食わないことが一つ。

 だから言う。


「好きだ」

「ふうん? ……えっ?」

「……」

「え……!?」


 まあ、別にされるがままであることに文句は無いが。

 しかし、まあ、予測されればそれを上回ることがしたいというのも人情である。

 つまるところ、反骨心。


「好き嫌いで言ったら間違いなく好きだろ、多分」


 実際、得がたい友人である。口に出すのは恥ずかしいだけで。


「えっと……!」

「じゃ、俺は寝るわ」


 俺は目を瞑る。


「……からかわないでよ。もう、薬師ったら」

















「ああ、どうも仕事をミスしたらしくてな。落ち込んでたんだが……」

「ふーむ、なるほど。やっぱりな」


 季知さんに話を聞いたら、どうやらそういうことだったらしい。

 ふむ、じゃあ、明日は前さんにそれとなく元気をつけられるよう頑張ってみるか。












 翌日。


「おはよう薬師っ! 今日もいい天気だね」


 ……あれ?

 いつもより前さんが上機嫌だ。


「モアイ作ったらぶっ飛ばされる方の前さんだ」

「なにそれ」

「ぶっ飛ばすだろ?」

「うん」


 ……まあ、いいか。














―――
そろそろ次のシリアスネタも考える頃。
次はあっさりうす塩味の一話終了型小話風味のシリアス予定。







返信


通りすがり六世様

憐子さんが就寝時服を着ているところが想像できない……!! ……ニーソックスとか?
リムジンに関しては、うちの近くに式場があるので、目撃したことはあります。実物で見ると驚きの長さで素人目には運転しにくそうでした。
しかし、本当にやりそうですね、薬師。でも、多分便利屋みたいなことしてる薬師が一番悪いと思います。
設定に関しては、一通り、かなりの量メモが取られてはいるんですけど、明らかに私にしか分からないはしょり具合でして。要望があれば書き起こさないと駄目かなぁ、と。


SEVEN様

憐子さんは、いっそ、『恥乙女(はじおとめ)』でもいいと思いますよ。全裸健康法です。
しかし、でかいにも関わらずクロゼットとか、無謀すぎましたね、李知さん。
いつか鍋にでも収まる気ですかね。明らかに無理ですけど。もしくは巨大鍋を用意するか。
そして、キャプテン氏の「ボールは友達、怖くないよ」の台詞は、かめはめ波のようなボール喰らってそんな台詞吐くキャプテン氏の方が断然怖い=ボール怖くない。という意図なんでしょうか。


奇々怪々様

あえて十円傷付けに行く輩もいるやも知れませんが、あれを壊すのは相当な背徳感でしょう。
ただ、リムジンからトランスフォームしたほうが、どちらかといえば壊しちゃいけない気がします。男の子のロマン的に。
まあ、それより、薬師の日ごろの行いは悪いですよ。今回も『好きだ』とか言ったり。
そして、つまるところ山崎君は愛沙の技術さえおっつけば何でもいいのです。さあ、ここらで妄想をぶちまけてみたりどうでしょう。


春都様

ぶれません。憐子さんはぶれません。ただ、一直線に全裸です。もう、容赦なく。
薬師に譲歩したとして、裸、前開けYシャツが限度だと思います。無論薬師のYシャツで。
しかし、そこまでBBAの恐怖が……。まあ、一瞬BBAネタでもやろうかと思った私もまた末期。
こう、運転主はBBAかよ、みたいなネタを頭に過ぎらせたんですが、即刻却下しました。


黒茶色様

しかし、今回の件で、全裸とメイド服への反響が凄まじきことこの上なし。
あれですかね、こう、これで着衣派か全裸派かの違いが分かる、と。自分はどっちでもいけます。
就寝用メイド服は、多分、手触りがいいんです。あと、通気性とか。
そして、多分脱がしやすい、と。ついでに、半脱ぎ状態で映える構成。まあ、そういうことでしょう。


羅刹様

極限までパニクると諦観がやってきて、最終的にどうなるのか。
李知さんの場合は拗ねました。まあ、ホラー映画とかでも極限まで追い詰められると突如キレる人とかいますよね。
就寝用メイド服は、通気性、手触り、夜の営みに適したメイド服となっております。
しかし何故か知らないけれど、藍音さん一人なのにメイ度値半端ないと思います。




最後に。


通常用メイド服 家事に適した動きやすい素材。
外出用メイド服 フォーマルな場にも。光沢など、少し違った高級感。
戦闘用メイド服 丈夫でありながら、伸縮性に富む素材。また、武装の収納スペースも。
就寝用メイド服 質感にこだわった夜のメイドスタイル。通気性もよく、また、脱がされることも意識したチャック、ボタン位置調整などを行っております。




デザインは皆一緒。


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