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No.20629の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。生生世世 (ほのぼのラブコメ)[兄二](2010/08/02 00:00)
[1] 其の二 俺とどうかしてる日常。[兄二](2010/07/29 22:08)
[2] 其の三 俺とメイドと妙な気配。[兄二](2010/08/01 23:57)
[3] 其の四 俺とニート二人について。[兄二](2010/08/07 22:44)
[4] 其の五 俺と私の八月七日。[兄二](2010/08/10 22:44)
[5] 其の六 俺と身長。[兄二](2010/08/10 22:44)
[6] 其の七 俺と笑うあの人。[兄二](2010/08/13 22:36)
[7] 其の八 俺とこの時期。[兄二](2010/08/23 11:01)
[8] 其の九 俺とアホの子とアホ。[兄二](2010/08/20 23:19)
[9] 其の十 俺と新聞と猫。[兄二](2010/08/23 22:03)
[10] 其の十一 俺と買い物。[兄二](2010/08/27 21:56)
[11] 其の十二 俺とそろそろ――。[兄二](2010/08/31 01:05)
[12] 其の十三 俺と太陽。[兄二](2010/09/02 21:56)
[13] 其の十四 掌を太陽に。[兄二](2010/09/05 21:17)
[14] 其の十五 俺も周りも落ち着いて。[兄二](2010/09/09 22:14)
[15] 其の十六 いつも通りと変わった一日。[兄二](2010/09/15 21:33)
[16] 其の十七 俺と午睡。[兄二](2010/09/15 21:31)
[17] 其の十八 俺とお前。[兄二](2010/09/23 22:16)
[18] 其の十九 俺と勉学。[兄二](2010/09/23 22:12)
[19] 其の二十 俺と煙草。[兄二](2010/09/26 22:39)
[20] 其の二十一 俺と甘いお菓子。[兄二](2010/10/03 21:51)
[21] 其の二十二 俺と秋空。[兄二](2010/10/03 21:54)
[22] 其の二十三 俺と彼女の評価について。[兄二](2010/10/06 22:36)
[23] 其の二十四 俺と鯖。[兄二](2010/10/09 22:23)
[24] 其の二十五 俺と手袋。[兄二](2010/10/13 21:41)
[25] 其の二十六 俺と炭水化物。[兄二](2010/10/17 23:17)
[26] 其の二十七 俺とメイドの空模様。[兄二](2010/10/20 22:27)
[27] 其の二十八 俺と秋と言えば。[兄二](2010/10/30 22:51)
[28] 其の二十九 俺と小さいあの人。[兄二](2010/10/30 22:26)
[29] 其の三十 俺と月見草。[兄二](2010/11/03 23:35)
[30] 其の三十一 俺と動かない銀子。[兄二](2010/11/06 22:34)
[31] 其の三十二 俺と答案。[兄二](2010/11/10 22:41)
[32] 其の三十三 俺と手袋とマフラー。[兄二](2010/11/13 22:37)
[33] 其の三十四 俺とロマンスはスコープの輝き。[兄二](2011/01/29 20:37)
[34] 其の三十五 俺と不調。[兄二](2010/11/21 23:05)
[35] 其の三十六 俺と隣の家事情。[兄二](2010/11/27 22:58)
[36] 其の三十七 俺とこたつより。[兄二](2010/11/28 22:14)
[37] 其の三十八 俺と学校の怪談再来。[兄二](2010/12/01 22:21)
[38] 其の三十九 俺と厄日。[兄二](2010/12/05 22:23)
[39] 其の四十 俺と誕生日。[兄二](2010/12/08 22:04)
[40] 其の四十一 俺と風邪。[兄二](2010/12/11 22:12)
[41] 其の四十二 俺と手加減。[兄二](2010/12/19 00:54)
[42] 其の四十三 俺と悪魔祓い。[兄二](2010/12/28 22:39)
[43] 其の四十四 俺と悪魔祓いというか。[兄二](2010/12/23 22:14)
[44] 其の四十五 俺と奴の誕生日。[兄二](2010/12/25 21:04)
[45] 其の四十六 俺と年の瀬。[兄二](2010/12/28 23:11)
[46] 其の四十七 明けましておめでボグシャア。[兄二](2011/01/01 22:12)
[47] 其の四十八 俺と大人の色香について。[兄二](2011/01/05 22:21)
[48] 其の四十九 俺と彼女の家。[兄二](2011/01/08 22:36)
[49] 其の五十 働く俺。[兄二](2011/01/11 22:00)
[50] 其の五十一 俺と悪魔。[兄二](2011/01/14 22:27)
[51] 其の五十二 俺と日常。[兄二](2011/01/17 21:31)
[52] 其の五十三 俺と狭き世界の日常。[兄二](2011/01/20 22:42)
[53] 其の五十四 俺と閻魔の休日の過ごし方。[兄二](2011/01/23 22:13)
[54] 其の五十五 俺と死亡遊戯。[兄二](2011/01/29 20:36)
[55] 其の五十六 俺とお前の遠距離恋愛。[兄二](2011/01/29 20:34)
[56] 其の五十七 俺とシュークリーム。[兄二](2011/02/01 23:18)
[57] 其の五十八 俺と節分。[兄二](2011/02/04 23:32)
[58] 其の五十九 俺と鎧。[兄二](2011/02/08 21:49)
[59] 其の六十 俺とあの日の少し前。[兄二](2011/02/12 23:23)
[60] 其の六十一 俺と奴の命日。[兄二](2011/02/14 22:46)
[61] 其の六十二 俺と奴の命日は終わったはずだ。[兄二](2011/02/17 22:28)
[62] 其の六十三 俺と弦楽器。[兄二](2011/02/20 22:04)
[63] 其の六十四 俺と心は侍。[兄二](2011/02/23 22:33)
[64] 其の六十五 じゃら男には友達が少ない。[兄二](2011/02/26 22:56)
[65] 其の六十六 俺と紅茶。[兄二](2011/03/04 21:49)
[66] 其の六十七 俺と小豆洗い。[兄二](2011/03/04 21:48)
[67] 其の六十八 俺と百合。[兄二](2011/03/10 22:55)
[68] 其の六十九 俺と妾。[兄二](2011/03/10 22:55)
[69] 其の七十 俺と手繋ぎ日常。[兄二](2011/03/13 17:12)
[70] 其の七十一 俺と貴方の近距離恋愛。[兄二](2011/03/16 21:49)
[71] 其の七十二 俺と日記。[兄二](2011/03/19 22:17)
[72] 其の七十三 絶対霊障祟神[兄二](2011/03/21 21:47)
[73] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「一」[兄二](2011/03/23 21:01)
[74] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「二」[兄二](2011/03/25 21:05)
[75] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「三」[兄二](2011/03/29 22:29)
[76] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「祓」[兄二](2011/04/01 22:35)
[77] 其の七十四 俺と事件の裏側で。[兄二](2011/07/17 15:56)
[78] 其の七十五 俺と手繋ぎ。[兄二](2011/04/07 23:19)
[79] 其の七十六 俺と構ってにゃん子。[兄二](2011/04/10 21:41)
[80] 其の七十七 俺と婆。[兄二](2011/04/14 23:01)
[81] 其の七十八 俺と更に。[兄二](2011/04/18 00:46)
[82] 其の七十九 俺と睡眠。[兄二](2011/04/20 22:28)
[83] 其の八十 俺とツンデレ。[兄二](2011/04/23 21:44)
[84] 其の八十一 俺と未知との遭遇。[兄二](2011/04/27 22:02)
[85] 其の八十二 俺と白いワンピース。[兄二](2011/04/30 23:59)
[86] 其の八十三 俺とお悩み相談。[兄二](2011/05/03 22:49)
[87] 其の八十四 俺と父親度。[兄二](2011/05/06 22:19)
[88] 其の八十五 俺と謎の李知さん。[兄二](2011/05/09 22:16)
[89] 其の八十六 俺と覇気。[兄二](2011/05/13 21:46)
[90] 其の八十七 如意ヶ嶽由壱は焦らない。[兄二](2011/05/16 22:07)
[91] 其の八十八 俺とお前の恋の駆け引き。[兄二](2011/05/20 22:33)
[92] 其の八十九 俺と死亡遊戯弐。[兄二](2011/05/22 22:29)
[93] 其の九十 俺と鍛錬。[兄二](2011/05/25 22:08)
[94] 其の九十一 俺と厠を行ったり来たり。[兄二](2011/05/29 22:01)
[95] 其の九十二 俺と山崎春の山崎祭り。[兄二](2011/06/02 21:44)
[96] 其の九十三 俺と既知との遭遇。[兄二](2011/06/05 21:58)
[97] 其の九十四 Dances Under The Half Moon.[兄二](2011/06/09 21:29)
[98] 其の九十五 Dances Under The Full Moon.[兄二](2011/06/12 21:42)
[99] 其の九十六 Dog Fight.[兄二](2011/06/16 21:54)
[100] 其の九十七 俺と狐に化かされて。[兄二](2011/06/19 22:41)
[101] 其の九十八 俺と死亡遊戯参。[兄二](2011/06/24 21:17)
[102] 其の九十九 俺と贈答品。[兄二](2011/06/27 22:04)
[103] 其の百 俺とあの子。[兄二](2011/07/03 20:23)
[104] 其の百一 山崎愛の一人劇場。[兄二](2011/07/07 21:41)
[105] 其の百二 俺と飼うとか飼われるとか。[兄二](2011/07/17 15:55)
[106] 其の百三 俺と道端の煙草。[兄二](2011/07/14 22:14)
[107] 其の百四 俺と年上の女性。[兄二](2011/07/17 22:27)
[108] 其の百五 俺と二重衝撃。[兄二](2011/07/21 22:13)
[109] 其の百六 私と夏。[兄二](2011/07/24 23:01)
[110] 其の百七 ああ素晴らしき夏。[兄二](2011/07/27 20:38)
[111] 其の百八 俺と写真機という名のカメラ。[兄二](2011/07/31 21:23)
[112] 其の百九 俺と祭る夏。[兄二](2011/08/04 22:02)
[113] 其の百十 俺とフワジャン。[兄二](2011/08/07 22:24)
[114] 其の百十一 俺とエプロン。[兄二](2011/08/17 22:40)
[115] 其の百十二 夏は甘くない。[兄二](2011/08/17 22:39)
[116] 其の百十三 俺とひんやりとした。[兄二](2011/08/17 22:38)
[117] 其の百十四 俺とぬか喜び。[兄二](2011/08/21 23:12)
[118] 其の百十五 俺の知らないところで千日手。[兄二](2011/08/25 22:10)
[119] 其の百十六 俺と愛沙と閻魔。[兄二](2011/08/29 22:31)
[120] 其の百十七 俺と不真面目な件について。[兄二](2011/09/01 22:09)
[121] 其の百十八 俺とSとM。[兄二](2011/09/04 21:45)
[122] 其の百十九 俺と敗北。[兄二](2011/09/11 22:27)
[123] 其の百二十 なんと単純な。[兄二](2011/09/15 21:47)
[124] 其の百二十一 しろがねの錬金術師[兄二](2011/09/18 22:20)
[125] 其の百二十二 快速スタンピード[兄二](2011/09/23 22:19)
[126] 其の百二十三 ハートフルボッコ。[兄二](2011/09/28 21:00)
[127] 其の百二十四 大体三十九度。[兄二](2011/10/02 22:09)
[128] 其の百二十五 俺と飲まれないでくれ本当に。[兄二](2011/10/05 22:24)
[129] 其の百二十六 俺とハニーバイト。[兄二](2011/10/09 21:20)
[130] 其の百二十七 俺と飲まれないでくれ本当に2。[兄二](2011/10/13 22:14)
[131] 其の百二十八 俺とベアー。[兄二](2011/10/18 23:24)
[132] 其の百二十九 俺と女子力。[兄二](2011/10/24 22:37)
[133] 其の百三十 俺と温かい手。[兄二](2011/10/28 21:34)
[134] 其の百三十一 生温ハロウィン。[兄二](2011/10/31 22:36)
[135] 其の百三十二 俺と熱と看病と。[兄二](2011/11/04 23:23)
[136] 其の百三十三 俺と回転。[兄二](2011/11/09 22:16)
[137] 其の百三十四 俺と赤い青い。[兄二](2011/12/04 22:27)
[138] 其の百三十五 俺と呪いの藁人形。[兄二](2011/12/04 22:27)
[139] 其の百三十六 俺と思い出の地。[兄二](2011/12/04 22:26)
[140] 其の百三十七 俺とサービス過剰。[兄二](2011/12/04 22:26)
[141] 其の百三十八 俺と飲まれないでくれ本当に3。[兄二](2011/12/04 22:26)
[142] 其の百三十九 俺と生首と事件。[兄二](2011/12/04 22:25)
[143] 其の百四十 俺と女の強さについて。[兄二](2011/12/08 20:53)
[144] 其の百四十一 乙女と言う名の男前。[兄二](2011/12/12 22:42)
[145] 其の百四十二 俺と首。[兄二](2011/12/15 21:51)
[146] 其の百四十三 俺と長さ約10.6メートル、幅約30センチメートルの布。[兄二](2011/12/23 22:44)
[147] 其の百四十四 俺と家事手伝い兼湯たんぽ。[兄二](2011/12/28 01:00)
[148] 其の百四十五 俺と聖誕祭。[兄二](2012/01/03 21:40)
[149] 其の百四十六 俺と大掃除。[兄二](2011/12/31 10:34)
[150] 其の百四十七 俺と彼女は店主。[兄二](2012/01/03 22:05)
[151] 其の百四十八 俺と怒り変換。[兄二](2012/01/09 22:25)
[152] 其の百四十九 俺というべきか私と言うべきか。[兄二](2012/01/15 22:34)
[153] 其の百五十 俺か私か、それともわたしか。[兄二](2012/01/19 21:44)
[154] 其の百五十一 彼女と俺の平行線。[兄二](2012/01/23 22:30)
[155] 俺と彼女の恋の行方。[兄二](2012/01/25 22:21)
[156] 其の百五十二 俺と棒が。[兄二](2012/01/29 22:24)
[157] 其の百五十三 俺とまさかの客。[兄二](2012/02/04 01:24)
[158] 其の百五十四 俺と襟巻き。[兄二](2012/02/05 22:41)
[159] 其の番外編「馬鹿」[兄二](2011/01/01 22:08)
[160] 其の番外編「身勝手だからこそ」[兄二](2011/01/01 22:05)
[161] 人物設定[兄二](2010/09/02 21:53)
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[20629] 其の六十七 俺と小豆洗い。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:e9b0a832 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/04 21:48
俺と鬼と賽の河原と。生生世世




「ふぅ……」

「どうしたのご主人。物憂げに溜息なんてついて」

「いや、な。近々また、要らんことに巻き込まれそうでなー……」

「あはは、ご主人も好きだねー」

「好きじゃねー。むしろ嫌いだ」

「えー?」

「俺なんてもう小豆洗って生きていきたいくらいだっての」

「ご主人がスーツの袖巻くって小豆洗うとか面白いね?」




「……よし、決めた。俺、小豆洗いになる」




「……ご主人、正気?」

「正気も正気。俺はある事実に気がついた」

「どんな?」

「天狗だから悪い。誰も小豆洗いに荒事を押し付けまい」

「まあ、そうかもしれないけど」

「そう、表舞台に出てこないような妖怪ならばいいわけだ」

「うん」

「その点小豆洗いは申し分ない」

「そっか」

「小豆を洗う地味さ。そもそも姿のない妖怪だと伝えられることもしばしば」

「そうだね」

「これほど地味な妖怪がいまだかつて居ただろうか。いや、いない」

「つまり?」





「小豆洗いに俺はなる」












其の六十七 俺と小豆洗い。













「時ににゃん子」


 座敷に座って猫と話す。

 見た目とても危ない人だが、返事はちゃんと返ってきた。


「なぁに? ご主人、愛の告白?」


 なんだかにゃん子は唐突に人間状態になって、わざとらしく小首を傾げながら寝ぼけたことをいっているが、黙殺する。


「小豆洗いになるにはどうしたらいい?」

「知らにゃい」

「神殿にでも行けばいいのかね……、それとも職安で斡旋してるか?」

「……してないと思うよ?」


 まあ、そりゃしてないだろう。


「そもそも、小豆洗いって職業じゃないよな」

「うん」

「種族か、どうやったらその壁を越えられるだろうな」

「むずかしいと思うけど」

「ああ、しかし俺は越えるぜ、その壁を」

「ご主人かっこいー」

「いや、むしろ小豆洗いってのは職業でも種族でもない」

「じゃあ、なんなの?」

「生き方だ」


 今俺格好良いこと言った。


「つまり、小豆をとぐことこそ肝心」

「うん」

「要するに」

「要するに?」

「小豆を買って来よう」





















「ご主人とお出かけだー」

「小豆って普通に売ってるもんかねー」


 歩く俺の隣の塀を、黒猫が歩いている。


「あ、でも先に作戦会議しようよ」


 にゃん子が、唐突に声を上げる。


「ん、もう取り敢えず小豆洗うで決定したじゃねーか」

「んー、ほら、小豆洗い業界も今厳しいみたいだし」

「うわ、なんだそれ初耳だ」

「小豆の価格が高騰して大変らしいよ?」

「うわぁ、なんだそれ世知辛い」


 初めて聞いたぜ小豆洗いの事情なんて。


「お前さん小豆洗いに知り合いなんているのかよ」


 居たら紹介しろよ。参考にするから。

 なんて言ってみたのだが、隣の黒猫は曖昧に口を開いた。


「んー、会議で聞いただけだし」

「会議ってなんだよ」

「空き地の」

「ああ、アレか」

「うん、アレ」


 どうやら空き地に猫が集まって、というお話らしい。

 まあ、信用度に関しては微妙な井戸端会議だ。

 しかし、にゃん子の言う作戦会議とはなんだろうか。

 すでに方針は決まっているはずなのだが。

 そう、小豆を買う、この一言に尽きる。


「でもまあ、ほら、小豆買って洗うだけだしな?」


 言うと、にゃん子は唐突に俺の前に降り立った。

 そして、人間状態に戻り、俺に指を突きつける。


「あまい、あまいよご主人! 適当に買った市販品の小豆に、百均のボウルで小豆洗って小豆洗いなんてガムシロップみたいだよっ?」

「ぬ」


 一理、あるかも知れん。


「小豆洗いはね、小豆を洗うことに全てをかけてるんだよ? 全精力全て掛けて。全ての人生掛けて小豆洗ってるのにご主人は……」

「むう……、一理あるな。いや、二理と少しくらいは認めよう」

「だから、喫茶店辺りで一回どうするか考えようよ」


 確かに……、そうするのが無難か。

 って、なんか丸め込まれた気がするが、気のせいか。


「そうだな、そうするのがいいかもしれないな。丁度良く、そこに喫茶店もあることだし」


 そして、丁度よく。思ったよりも利用回数の多い、常に閑古鳥が雄たけびを上げる店はそこにあった。

 いつもの店だ。果たして閻魔妹はいるだろうか。居たら小豆洗いに付いて詳しく訪ねたいのだが。


「いらっしゃいませ……、って貴方、また女連れで……」


 からんからんと音を鳴らして店内に侵入すれば、そこには由比紀の姿が。

 果たしてなにを呆れているのか知らないが、疲れた表情だ。


「ところで閻魔妹よ。お前さん、小豆洗いについて詳しいか?」

「……ごめんなさい、質問の意味が良く分からないわ」




















 誰も居ない、寂しいまでの喫茶店の一角に陣取って、俺はにゃん子に問う。


「で、俺はどうすればいいんだ?」

「んー、まずは小豆とかより先に個性をどうにかしないといけないんじゃないかにゃー?」

「個性……、って小豆洗うだけじゃいかんのか」


 他に何があるんだと訪ねた俺に、あまいあまいとにゃん子は指を左右に振った。


「今更ご主人が小豆洗ったってダメダメ。小豆洗いなんてたくさんいるのにご主人がちょっと小豆洗っても小豆洗ってるご主人だよ。現存する小豆洗いに負けない個性がなきゃ」

「まあ、なあ……」

「にゃん子を頭に乗せるとかどうかな?」

「何故」

「マスコット」

「何故マスコット」

「トレードマークでもいいよ」

「いや、しかし……」


 確かに、妖怪は地域ごとに話が違ったり、各伝承での目印のようなものがあったりする。

 牛鬼のように、ある地方では牛の胴に鬼の頭だったり、頭が牛で胴が鬼だったり、果ては蜘蛛の胴だったりと、各地方ごとに特色があるものだ、が。

 小豆洗いと黒猫の関係性が良く分からない。

 いや、でも、あれか。


「いないよかマシか」

「うんうん、人生妥協が肝心だねっ」


 俺の妥協に、にゃん子がうれしそうに肯く。


「じゃあ、次だ」


 そう黒猫と一緒に現れる小豆洗いという個性を手に入れたことだし、次の話だ。


「……何か選んでくれるかしら?」


 と、思ったところで、由比紀から声が掛かる。

 確かに何も頼んでなかったな。

 思い直して、俺は口にする。


「お茶で」

「喫茶店でそのチョイスはありえないわ」

「駄目か」


 そして、普通の緑茶を要求した俺を差し置いて、今度はにゃん子が声を上げた。


「あ、じゃあショートケーキとカフェオレでっ。カフェオレは牛乳八割に砂糖二十七杯ねっ!」

「それはもうミルクカフェじゃないわ」


 うん、その通りだ。コーヒー味の砂糖ですらない何かが出来上がるだろう。


「が、まあ。それ二つずつくれ」

「……牛乳八割に砂糖二十七杯の砂糖的半液状物質を?」

「いや、普通のでいいから」


 信じられない、とばかりの顔をして聞いてくる由比紀に、俺は手を振って否定。

 すると、にゃん子が横槍を入れる。


「……ご主人にケーキって、似合わないよね?」


 そこかよ。


「……うるせー」

「そういうハイカラなのよりほら、ご主人はようかんとか食べてればいいよ」

「だ、そうだ」


 言いながら、由比紀を見る。

 匙を投げたがごとく由比紀は溜息をついた。


「……喫茶店よ、ここは」

「もちろん、茶店じゃない、と」

「ええ」


 肯く由比紀。

 そんな時、カウンターの奥から店主の声が。


「あるよ、羊羹。本当は由比紀君の休憩のお茶請けにしようと思っていたのだがね……。お客様の願いとあらば、不肖、この私、断腸の思いで! 実に遺憾ながら!! 提供いたしますが、いかが?」

「え、ちょっと……」

「よし買った、と言いたいところだが、閻魔妹が涙目で恨めしげににらんできそうだから普通にケーキで」

「かしこまりました」


 店主の声が聞こえ、ほっと息を吐いた由比紀もまた、それの準備へと去って行く。

 俺とにゃん子だけが取り残された。


「さて、じゃあ、次にどうするか」


 そうして、話は本題へと戻る。


「んー。次は何をするか決めたらどうかな?」

「へ? 小豆洗うんじゃねーの?」


 小豆洗いに小豆を洗う以外の職務があるとは意外だ。

 と、聞いてみれば、にゃん子は顎に人差し指を当てて考え込む素振りを見せた。


「んー、ほら。聞いたら川に落っこちるとか。人攫うとか、何もしないとか、逆に縁起いいとか」

「あー」


 なるほど、小豆洗いに付随するなにか、ということか。納得だ。

 確かに、小豆洗いと一口に言っても、だ。

 一番有名なのはその音に誘われると川に落ちる、だが、群馬や鳥取あたりでは人を攫うと言うし、福島は音が気になって外に出てみても何もいないという。

 貧乏で赤飯が炊けなくて困っていた農家が小豆洗う音を聞いて外に出ると赤飯が置いてあったという話もある。

 法師の姿で現れて、そこへ子持ちの女が小豆持って川へ行くと早く嫁ぐとか。

 要は、俺、いや、俺とにゃん子で新しい属性を作ろうということだ。


「しかし、川に落としたりするのはごめんだな。閻魔に怒られそうだし」

「うん、そだね。というか、二番煎じもよくないし」

「まあ、音がしても何も居ないって言うのは音を風に乗せて送ればいいわけだし楽なんだろうが」

「でも、風なんて使ったら結局天狗じゃん」

「だよな」


 どうするか、とだらしなく椅子に座りなおす俺に、にゃん子は言う。


「あとで考えようよ。ほら、ケーキ来たよ?」

「おー、そーだな」
















「ねえねえ、ちょっと思ったんだけどさ。こう、小豆を洗う音が聞こえたら黒い猫がその人のほうを見ながら横切るっていうのはどうかな?」

「ああ、なんとなくそれっぽいな。実害もないから怒られないだろ」


 にゃん子にしてはありな案だ。


「うんうん」


 笑って、にゃん子がケーキを口に運ぶ。


「じゃあ、ご主人のマスコットは完璧ににゃん子でおっけーだねっ」

「まあ、そーなるな」


 そりゃ、横切って貰ったりとかな。

 する以上はにゃん子が隣に居ないと困る。

 にゃん子が他の猫を斡旋してくれるならその限りではないが、そんなこともないらしく。


「んー、じゃあ、決定っ。んふー」


 にやにやするにゃん子に、俺は怪訝な目を向けようかとも思ったが、本人が楽しそうなのでいいか、と結局ケーキを食う。


「あ、ご主人」


 そんな時、不意ににゃん子は俺のほうを見て、唐突に机に乗り上げた。行儀が悪いな。

 そして、なんだ、どうした、と言う前に、俺の頬に生暖かい感触。


「んっ、ご主人、クリームついてる」


 にゃん子が身を乗り出して、俺の口元をなめている。


「……おい」


 なんつーか、くすぐったいものがあるのだが。


「んーっ、取れたよ」


 しばらくして、にゃん子が離れる。


「とりあえず。行儀が悪いぞ」

「うん」


 非難するように俺が言えば、にゃん子は素直に机から降りようとした。

 聞き分けがよくて助かるぜ。


「でも、その前にっ」


 と、そこで不意打ち。

 唇にちゅ、とやわらかい感触。


「えへー、ご主人とキスしたー」


 ……何を突然。

 まあ、猫と口付けなんて猫愛好家の中では日常茶飯事らしいが。

 衛生に気をつけろよ、と言ったら、それで死ぬなら本望である、と返ってきたことがある。

 尊い馬鹿な奴だった。


「んー、ご主人反応うすーい」

「あー、すまん、どうでもいいこと考えてた」

「うにゃー、ひどい。乙女のキスなのにー」

「乙女っつーか、猫だろ」

「うん。雌猫だよ? と、それはまあいいや! 話も纏まったし帰ろっか」

「ああ、そうだな」


 憐子さん。俺、立派に小豆洗いやっていけそうだよ。














 重要なことに気がついたのは、夕暮れ時、家に帰ってからである。


「……小豆買って来てねー……」








 結果、再び自室で会議勃発。


「んもー、仕方ないなー。じゃあこの際、新妖怪猫洗いとかいいんじゃにゃい? にゃん子貸すよ?」

「ほう……、確かに、夜中に黒い猫を撫でる男とか不吉っぽくていいかもしれないな」


 ……なんかにゃん子に丸め込まれてる気がしてきた。










「あ、お前さん、人間状態に戻るなよ、おい」

「やだー。もうこの際飴買い幽霊とか産女とかそんなんでもいいと思うよっ」

「……まったく」

「にゃん子はご主人のマスコットで相棒だもん」


 そう言って、にっこり笑うにゃん子。

 釈然としないが……、まあ、そうなんだろう。


「まあ……、そーだな」




 膝の上、黒猫だけが、ほくそ笑む。





「んふー」






















―――
結局、今回の話で何が言いたいのかといえば、にゃん子大勝利。





返信



春都様

藍音さんは今日も平常通り運行しております。藍音さんは基本Sだけど、薬師に対してはMの人。
そして、勝てる試合しかしないであろう藍音さんの勝負を普通に受けてしまう薬師のお馬鹿さん。
結局藍音さんに甘いのが透けて見えております。
基本的に好き放題口にしてるように見えて、変な所で回りくどい藍音さんは今日も薬師にくびったけ。


奇々怪々様

流石の藍音さんでも、ストーカー仕様の部屋に居ると、ベッドの上で恥ずかしげにころんころん転がっちゃうんです。
そして、不意打ちじゃなければたいしたダメージもないのに、不意打ちなせいでクリティカル。これが要塞の本領か……。
とりあえず、薬師は藍音さんの写真を財布に忍ばせて、女性陣にリンチにされればいいと思います。
男に見せたら式の日取りを決められそうな気がします。


SEVEN様

一流のエンターテイナーな琴弾きならきっと……! まあ、しませんよね。というか琴って割るの大変そうだし。
とりあえず、薬師の頭でお琴割りを敢行したいと思います。どうせ奴なら痛いで済むでしょうし。
そして、薬師のSは相手が嫌がることを前提とした部分で、無自覚M向けなんです。つまり、相手からヘイヘイカモンカモンカモン! されるとどん引きするんです。
そして引かれてドMがきゅんときて更に引いてきゅんときて更に引く無限機関が完成します。


通りすがり六世様

勝負を買っても得をしない的な意味なら通るかもしれないけれど明らかに苦しいです。誤字です。指摘に感謝です。修正します。
琴は、安物で五万、余裕で十万行って、五十万とか越えるそうですね。さすが楽器、恐ろしい。
学校で触れたことだけはありますが、アレだけでかいものを畳相手に振り回して割るとかいう時点で正気の沙汰じゃありませんね。
しかし、藍音さんの全力ぶりは凄まじい。油断をすればあっというまですよ。別にあっという間でもいいはずなんですが。


黒茶色様

メイドゲットには、館の主になる必要があるんですかね。
よほど金も要るのだ、と言うことでしょうか、非常に世知辛い。
それとも、私が紅茶の機微もわからないハイパーマーベラス庶民だから悪いのか。
まるで中世の貴族のような暮らしぶりと気品を見につける必要があるのか……、ハードルが高いです。


空箱様

メインが多くないといえば、ビーチェですね分かります。なるほど。
あ、違いますか。では魃ですか。やはり出て日が浅いですしね、ええ、はい。
あ、違う。まあ、でも想い出せなくても問題ないですよ。
漫画なんかでよく言うじゃないですか……、無理に思い出さないほうがいい、と。


男鹿鰆様

お久しぶりです。気がつけばテストとか始まってましたが、いつもどおり更新です。
とりあえず、六十六のアレは誤字でした、はい。修正しておきますね。
じゃら男は久々に出たと思ったら幸せいっぱい携えての出演です。各方面から妬ましいとか死ねばいいとか温かいお便りが。
AKMさんは出ないことがステータス。むしろ簡単にあっさりぽろっと出してしまうのも勿体無くなってきた今日この頃。渾身のタイミングで出したい。でも、渾身のタイミングっていつなのだろうか、と。






最後に。

米とぎ婆とかも居るらしいですね。


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