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No.20629の一覧
[0] 俺と鬼と賽の河原と。生生世世 (ほのぼのラブコメ)[兄二](2010/08/02 00:00)
[1] 其の二 俺とどうかしてる日常。[兄二](2010/07/29 22:08)
[2] 其の三 俺とメイドと妙な気配。[兄二](2010/08/01 23:57)
[3] 其の四 俺とニート二人について。[兄二](2010/08/07 22:44)
[4] 其の五 俺と私の八月七日。[兄二](2010/08/10 22:44)
[5] 其の六 俺と身長。[兄二](2010/08/10 22:44)
[6] 其の七 俺と笑うあの人。[兄二](2010/08/13 22:36)
[7] 其の八 俺とこの時期。[兄二](2010/08/23 11:01)
[8] 其の九 俺とアホの子とアホ。[兄二](2010/08/20 23:19)
[9] 其の十 俺と新聞と猫。[兄二](2010/08/23 22:03)
[10] 其の十一 俺と買い物。[兄二](2010/08/27 21:56)
[11] 其の十二 俺とそろそろ――。[兄二](2010/08/31 01:05)
[12] 其の十三 俺と太陽。[兄二](2010/09/02 21:56)
[13] 其の十四 掌を太陽に。[兄二](2010/09/05 21:17)
[14] 其の十五 俺も周りも落ち着いて。[兄二](2010/09/09 22:14)
[15] 其の十六 いつも通りと変わった一日。[兄二](2010/09/15 21:33)
[16] 其の十七 俺と午睡。[兄二](2010/09/15 21:31)
[17] 其の十八 俺とお前。[兄二](2010/09/23 22:16)
[18] 其の十九 俺と勉学。[兄二](2010/09/23 22:12)
[19] 其の二十 俺と煙草。[兄二](2010/09/26 22:39)
[20] 其の二十一 俺と甘いお菓子。[兄二](2010/10/03 21:51)
[21] 其の二十二 俺と秋空。[兄二](2010/10/03 21:54)
[22] 其の二十三 俺と彼女の評価について。[兄二](2010/10/06 22:36)
[23] 其の二十四 俺と鯖。[兄二](2010/10/09 22:23)
[24] 其の二十五 俺と手袋。[兄二](2010/10/13 21:41)
[25] 其の二十六 俺と炭水化物。[兄二](2010/10/17 23:17)
[26] 其の二十七 俺とメイドの空模様。[兄二](2010/10/20 22:27)
[27] 其の二十八 俺と秋と言えば。[兄二](2010/10/30 22:51)
[28] 其の二十九 俺と小さいあの人。[兄二](2010/10/30 22:26)
[29] 其の三十 俺と月見草。[兄二](2010/11/03 23:35)
[30] 其の三十一 俺と動かない銀子。[兄二](2010/11/06 22:34)
[31] 其の三十二 俺と答案。[兄二](2010/11/10 22:41)
[32] 其の三十三 俺と手袋とマフラー。[兄二](2010/11/13 22:37)
[33] 其の三十四 俺とロマンスはスコープの輝き。[兄二](2011/01/29 20:37)
[34] 其の三十五 俺と不調。[兄二](2010/11/21 23:05)
[35] 其の三十六 俺と隣の家事情。[兄二](2010/11/27 22:58)
[36] 其の三十七 俺とこたつより。[兄二](2010/11/28 22:14)
[37] 其の三十八 俺と学校の怪談再来。[兄二](2010/12/01 22:21)
[38] 其の三十九 俺と厄日。[兄二](2010/12/05 22:23)
[39] 其の四十 俺と誕生日。[兄二](2010/12/08 22:04)
[40] 其の四十一 俺と風邪。[兄二](2010/12/11 22:12)
[41] 其の四十二 俺と手加減。[兄二](2010/12/19 00:54)
[42] 其の四十三 俺と悪魔祓い。[兄二](2010/12/28 22:39)
[43] 其の四十四 俺と悪魔祓いというか。[兄二](2010/12/23 22:14)
[44] 其の四十五 俺と奴の誕生日。[兄二](2010/12/25 21:04)
[45] 其の四十六 俺と年の瀬。[兄二](2010/12/28 23:11)
[46] 其の四十七 明けましておめでボグシャア。[兄二](2011/01/01 22:12)
[47] 其の四十八 俺と大人の色香について。[兄二](2011/01/05 22:21)
[48] 其の四十九 俺と彼女の家。[兄二](2011/01/08 22:36)
[49] 其の五十 働く俺。[兄二](2011/01/11 22:00)
[50] 其の五十一 俺と悪魔。[兄二](2011/01/14 22:27)
[51] 其の五十二 俺と日常。[兄二](2011/01/17 21:31)
[52] 其の五十三 俺と狭き世界の日常。[兄二](2011/01/20 22:42)
[53] 其の五十四 俺と閻魔の休日の過ごし方。[兄二](2011/01/23 22:13)
[54] 其の五十五 俺と死亡遊戯。[兄二](2011/01/29 20:36)
[55] 其の五十六 俺とお前の遠距離恋愛。[兄二](2011/01/29 20:34)
[56] 其の五十七 俺とシュークリーム。[兄二](2011/02/01 23:18)
[57] 其の五十八 俺と節分。[兄二](2011/02/04 23:32)
[58] 其の五十九 俺と鎧。[兄二](2011/02/08 21:49)
[59] 其の六十 俺とあの日の少し前。[兄二](2011/02/12 23:23)
[60] 其の六十一 俺と奴の命日。[兄二](2011/02/14 22:46)
[61] 其の六十二 俺と奴の命日は終わったはずだ。[兄二](2011/02/17 22:28)
[62] 其の六十三 俺と弦楽器。[兄二](2011/02/20 22:04)
[63] 其の六十四 俺と心は侍。[兄二](2011/02/23 22:33)
[64] 其の六十五 じゃら男には友達が少ない。[兄二](2011/02/26 22:56)
[65] 其の六十六 俺と紅茶。[兄二](2011/03/04 21:49)
[66] 其の六十七 俺と小豆洗い。[兄二](2011/03/04 21:48)
[67] 其の六十八 俺と百合。[兄二](2011/03/10 22:55)
[68] 其の六十九 俺と妾。[兄二](2011/03/10 22:55)
[69] 其の七十 俺と手繋ぎ日常。[兄二](2011/03/13 17:12)
[70] 其の七十一 俺と貴方の近距離恋愛。[兄二](2011/03/16 21:49)
[71] 其の七十二 俺と日記。[兄二](2011/03/19 22:17)
[72] 其の七十三 絶対霊障祟神[兄二](2011/03/21 21:47)
[73] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「一」[兄二](2011/03/23 21:01)
[74] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「二」[兄二](2011/03/25 21:05)
[75] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「三」[兄二](2011/03/29 22:29)
[76] 俺と鬼と賽の河原と。絶対霊障祟神「祓」[兄二](2011/04/01 22:35)
[77] 其の七十四 俺と事件の裏側で。[兄二](2011/07/17 15:56)
[78] 其の七十五 俺と手繋ぎ。[兄二](2011/04/07 23:19)
[79] 其の七十六 俺と構ってにゃん子。[兄二](2011/04/10 21:41)
[80] 其の七十七 俺と婆。[兄二](2011/04/14 23:01)
[81] 其の七十八 俺と更に。[兄二](2011/04/18 00:46)
[82] 其の七十九 俺と睡眠。[兄二](2011/04/20 22:28)
[83] 其の八十 俺とツンデレ。[兄二](2011/04/23 21:44)
[84] 其の八十一 俺と未知との遭遇。[兄二](2011/04/27 22:02)
[85] 其の八十二 俺と白いワンピース。[兄二](2011/04/30 23:59)
[86] 其の八十三 俺とお悩み相談。[兄二](2011/05/03 22:49)
[87] 其の八十四 俺と父親度。[兄二](2011/05/06 22:19)
[88] 其の八十五 俺と謎の李知さん。[兄二](2011/05/09 22:16)
[89] 其の八十六 俺と覇気。[兄二](2011/05/13 21:46)
[90] 其の八十七 如意ヶ嶽由壱は焦らない。[兄二](2011/05/16 22:07)
[91] 其の八十八 俺とお前の恋の駆け引き。[兄二](2011/05/20 22:33)
[92] 其の八十九 俺と死亡遊戯弐。[兄二](2011/05/22 22:29)
[93] 其の九十 俺と鍛錬。[兄二](2011/05/25 22:08)
[94] 其の九十一 俺と厠を行ったり来たり。[兄二](2011/05/29 22:01)
[95] 其の九十二 俺と山崎春の山崎祭り。[兄二](2011/06/02 21:44)
[96] 其の九十三 俺と既知との遭遇。[兄二](2011/06/05 21:58)
[97] 其の九十四 Dances Under The Half Moon.[兄二](2011/06/09 21:29)
[98] 其の九十五 Dances Under The Full Moon.[兄二](2011/06/12 21:42)
[99] 其の九十六 Dog Fight.[兄二](2011/06/16 21:54)
[100] 其の九十七 俺と狐に化かされて。[兄二](2011/06/19 22:41)
[101] 其の九十八 俺と死亡遊戯参。[兄二](2011/06/24 21:17)
[102] 其の九十九 俺と贈答品。[兄二](2011/06/27 22:04)
[103] 其の百 俺とあの子。[兄二](2011/07/03 20:23)
[104] 其の百一 山崎愛の一人劇場。[兄二](2011/07/07 21:41)
[105] 其の百二 俺と飼うとか飼われるとか。[兄二](2011/07/17 15:55)
[106] 其の百三 俺と道端の煙草。[兄二](2011/07/14 22:14)
[107] 其の百四 俺と年上の女性。[兄二](2011/07/17 22:27)
[108] 其の百五 俺と二重衝撃。[兄二](2011/07/21 22:13)
[109] 其の百六 私と夏。[兄二](2011/07/24 23:01)
[110] 其の百七 ああ素晴らしき夏。[兄二](2011/07/27 20:38)
[111] 其の百八 俺と写真機という名のカメラ。[兄二](2011/07/31 21:23)
[112] 其の百九 俺と祭る夏。[兄二](2011/08/04 22:02)
[113] 其の百十 俺とフワジャン。[兄二](2011/08/07 22:24)
[114] 其の百十一 俺とエプロン。[兄二](2011/08/17 22:40)
[115] 其の百十二 夏は甘くない。[兄二](2011/08/17 22:39)
[116] 其の百十三 俺とひんやりとした。[兄二](2011/08/17 22:38)
[117] 其の百十四 俺とぬか喜び。[兄二](2011/08/21 23:12)
[118] 其の百十五 俺の知らないところで千日手。[兄二](2011/08/25 22:10)
[119] 其の百十六 俺と愛沙と閻魔。[兄二](2011/08/29 22:31)
[120] 其の百十七 俺と不真面目な件について。[兄二](2011/09/01 22:09)
[121] 其の百十八 俺とSとM。[兄二](2011/09/04 21:45)
[122] 其の百十九 俺と敗北。[兄二](2011/09/11 22:27)
[123] 其の百二十 なんと単純な。[兄二](2011/09/15 21:47)
[124] 其の百二十一 しろがねの錬金術師[兄二](2011/09/18 22:20)
[125] 其の百二十二 快速スタンピード[兄二](2011/09/23 22:19)
[126] 其の百二十三 ハートフルボッコ。[兄二](2011/09/28 21:00)
[127] 其の百二十四 大体三十九度。[兄二](2011/10/02 22:09)
[128] 其の百二十五 俺と飲まれないでくれ本当に。[兄二](2011/10/05 22:24)
[129] 其の百二十六 俺とハニーバイト。[兄二](2011/10/09 21:20)
[130] 其の百二十七 俺と飲まれないでくれ本当に2。[兄二](2011/10/13 22:14)
[131] 其の百二十八 俺とベアー。[兄二](2011/10/18 23:24)
[132] 其の百二十九 俺と女子力。[兄二](2011/10/24 22:37)
[133] 其の百三十 俺と温かい手。[兄二](2011/10/28 21:34)
[134] 其の百三十一 生温ハロウィン。[兄二](2011/10/31 22:36)
[135] 其の百三十二 俺と熱と看病と。[兄二](2011/11/04 23:23)
[136] 其の百三十三 俺と回転。[兄二](2011/11/09 22:16)
[137] 其の百三十四 俺と赤い青い。[兄二](2011/12/04 22:27)
[138] 其の百三十五 俺と呪いの藁人形。[兄二](2011/12/04 22:27)
[139] 其の百三十六 俺と思い出の地。[兄二](2011/12/04 22:26)
[140] 其の百三十七 俺とサービス過剰。[兄二](2011/12/04 22:26)
[141] 其の百三十八 俺と飲まれないでくれ本当に3。[兄二](2011/12/04 22:26)
[142] 其の百三十九 俺と生首と事件。[兄二](2011/12/04 22:25)
[143] 其の百四十 俺と女の強さについて。[兄二](2011/12/08 20:53)
[144] 其の百四十一 乙女と言う名の男前。[兄二](2011/12/12 22:42)
[145] 其の百四十二 俺と首。[兄二](2011/12/15 21:51)
[146] 其の百四十三 俺と長さ約10.6メートル、幅約30センチメートルの布。[兄二](2011/12/23 22:44)
[147] 其の百四十四 俺と家事手伝い兼湯たんぽ。[兄二](2011/12/28 01:00)
[148] 其の百四十五 俺と聖誕祭。[兄二](2012/01/03 21:40)
[149] 其の百四十六 俺と大掃除。[兄二](2011/12/31 10:34)
[150] 其の百四十七 俺と彼女は店主。[兄二](2012/01/03 22:05)
[151] 其の百四十八 俺と怒り変換。[兄二](2012/01/09 22:25)
[152] 其の百四十九 俺というべきか私と言うべきか。[兄二](2012/01/15 22:34)
[153] 其の百五十 俺か私か、それともわたしか。[兄二](2012/01/19 21:44)
[154] 其の百五十一 彼女と俺の平行線。[兄二](2012/01/23 22:30)
[155] 俺と彼女の恋の行方。[兄二](2012/01/25 22:21)
[156] 其の百五十二 俺と棒が。[兄二](2012/01/29 22:24)
[157] 其の百五十三 俺とまさかの客。[兄二](2012/02/04 01:24)
[158] 其の百五十四 俺と襟巻き。[兄二](2012/02/05 22:41)
[159] 其の番外編「馬鹿」[兄二](2011/01/01 22:08)
[160] 其の番外編「身勝手だからこそ」[兄二](2011/01/01 22:05)
[161] 人物設定[兄二](2010/09/02 21:53)
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[20629] 其の十七 俺と午睡。
Name: 兄二◆adcfcfa1 ID:af92209e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/15 21:31
俺と鬼と賽の河原と。生生世世






「良い本はあったかね」

「知らねー。こういうのは畑違いでな。手探りだよ」


 下詰神聖店。どこにこんな空間あるんだっていうくらいの図書館じみた書庫にて。


「まあ、支援は惜しむまい。どうどん勤しんでくれるがいい」


 本を探す俺を見守っていた下詰は、親切すぎて落ち着かなかった。


「気持ち悪いな。下詰、どうせ裏があるんだろーが」


 守銭奴な訳でもないが、下詰は決して妥協しない。

 対価無しに決して物を売りはしないのだ。物を売っているという誇りがあるのかどうかまでは知らないが。

 対価の種類にはこだわらない。しかし、絶対に何か受け取る。

 だから、絶対に何か利益があるはずだ、と言えば、下詰は頷いた。


「まあ、その通りであるな。魃という生き物に価値は見出しているよ」

「お前さんのことだから、さほど心配はしてないが、一体何をする気なのやら」


 流石に非人道的と言える行いとなれば、黙っていられはしないが。

 横目で下詰を見た俺に、彼は薄く笑った。


「活性化。これがあれば中々有効な道具が作れそうだと考えている。やることは、装飾品を一日身につけていて貰うだけだな。まあ、そこは本人との交渉になるが」

「ははん、お前さんのやりそうなことだ」

「だから、早めに結界を完成させてくれたまえ」

「簡単に行くなら運営がとっくにやってるだろーに」


 吐き捨てるように呟いた言葉に、下詰は今度は愉快そうに笑う。


「そうでもないかもしれん、と言っておこう」

「なんでだよ」

「運営ができなかったのは、組織上制約を受けるからだ」


 わかりやすく言ってしまえば、と下詰は続けた。


「御禁制の品という奴だな。体面上、運営が使えない手だ。他にも、一定の費用がかかる、とか等があるな」


 確かに、閻魔の性格上も、運勢の体面上も、御禁制の品とやらは使えないだろう。

 一定の費用がかかる場合もまた、その費用を賄うのは税である。それを魃のためだけに多少なりとは言え使うのもまた、難しい。


「用は手段を選ばなければいい、ってか?」

「まあ、そのようなものだな」

「考えてみるよ」












其の十七 俺と午睡。













 夕暮れのマンション。そこに俺は入るなり、電気をつけることにした。


「よお、いるかー?」


 俺は今、閻魔のお宅にお邪魔している。

 それなりに立派なマンションの最上階というやつだ。

 何でまた、と聞かれれば、前回の事件中最も世話になったというか、一番迷惑を掛けた相手故に、菓子折りの一つでも持ってくか、とここ数年で一番の殊勝さを俺が見せたわけだ。

 と、言うのは半分嘘だ。俺が殊勝になんてなるものか。

 まあ、実のことを言うと、心配になったのである。

 忙しさにかまけて、俺はしばらくまともに閻魔の家に行っていなかった。

 仕方ないといえば仕方がない。閻魔から始まった事件なのだから。

 しかし、しかしである。

 閻魔の家事能力は、零。

 否、負の方向へ突き抜けている。

 よって、もしや、閻魔の部屋は腐敗聖域と化しているのではあるまいか、と俺はここに来たわけだ。

 しかし、返事がない。

 まあ、閻魔も忙しいやつだ。仕事を止めたら死ぬかもしれない。マグロみたいに。

 だから、別に居ても居なくても構わないと思って、俺は脚を進める。


「む、意外と綺麗だな。閻魔妹が掃除くらいはしてるのかね」


 そして、予想に反して、部屋は綺麗。

 窓の桟を指で擦っても無駄。姑ごっこも出来やしない。

 と、溜息を吐いたそんなときだ。


「むう? 居たのか」


 ソファの上に、閻魔の姿。相変わらずの三つ網と、セーラー服であった。

 そして、その閻魔はソファの上に力なく鎮座し、眼を閉じている。


「し……、死んでる……っ」


 嘘だ。

 死んだように眠っているだけである。

 形のいい鼻をつまんだら、苦しそうにしていたから間違いない。

 まあ、起こすこともあるまいと、俺は手を離した。

 そして、溜息交じりに――、


「まったく、制服が皺になるぞ」


 って、俺、今何を言った。俺はこいつのオカンか。

 やばいな、こいつの母親ぶりが板についてきている。俺は人知れず恐怖を覚える。

 しかし、まあいい。それよりも、だ。

 気を取り直し、俺は閻魔を見る。


「平和な面して寝てるなー……」


 平和な面、安らかに、だ。その穏やかな眠りっぷりは異常である。死んでるんじゃないかと疑うほどに。

 まあ、だが、寝てるのは別にいい。閻魔だって寝る。

 起こすこともない、というかどうせ仕事で疲れているのだ、寝かせておこう。

 そう考えて俺はソファに座った。

 座って、黙る。

 当然話す相手は居ない。部屋には俺と閻魔だけ。閻魔は寝ている。

 そうして三十秒。


「暇だな」


 俺はぼそっと呟いた。

 早くも、飽きていた。

 辺りを見回す。しかし、何もない。緩やかに時間が流れているだけだ。

 暇つぶしもない。ぷらいばすぃとか、そんなモンがあった部屋でもないのだが、勝手に漁るのもいかん。

 そんな時、ふと、閻魔が俺の目に入った。


「幸せそうな顔して寝やがって」


 溜息交じりに苦笑。

 こんなのが、地獄の長だってんだからしょうもない。

 こうやって見たらただの女学生じゃあるまいか。

 そんなことを思って閻魔を見ていると、ふと思った。

 柔らかそうだな。

 そう思ったら、既に俺は閻魔の頬を指でつついている。気になったことを決して放置はしないのだ。

 ぷにぷにと、柔らかい感触を楽しむ。


「本気で柔らかいな」


 どれくらいそうしていただろうか。

 次に、俺の興味の対象は髪へと移った。

 さらさらと、手を透き通る髪を撫ぜる。

 もう既に、俺とこれじゃ別生物だな、と俺は笑う。

 ざる蕎麦と月見蕎麦くらい違う。蕎麦には変わりないのだが。

 そして、あいも変わらず閻魔は幸せそうに眠っている。


「んん……」


 不意に上がった声に、起こしてしまったか、と思うものの、


「薬師さぁん……」


 結局寝言だ。

 夢の中でも俺に面倒ごとを押し付けているのだろうか。


「薬師さん……、ずっと、うちに……」


 ずっとうちに?

 もしや、ずっとうちで家政夫してろこのインターネットウミウシが、とでも?

 果たして夢の中で俺はどうなっているのだろうか。

 まあいいか。なんか俺も眠くなってきたしな。

 俺は大きく欠伸をして、目を閉じたのだった。

























「んぅ……、あれ……? 私、何時の間に眠って……」


 浮上する意識。

 隣に感じる体温。

 由比紀だろうか、と隣を見て、私の頭は沸騰することになった。


「へ……? ひゃわっ!?」


 私の妹はこんな黒いスーツを着ていないし、そこまで大きくもないし、髪も黒くない。


「や、やや、やくしさんっ!?」


 彼は、私の隣で、力なく座っている。眼は閉じたまま。


「ど、どうしてここにっ?」


 答えはない。

 それに、指紋認証に彼も登録してあるのだ。当然入れる。入れて当然。

 落ち着こうと、私は深呼吸を繰り返す。


「えっと、薬師さん?」


 やっと落ち着いた心で、薬師さんを呼ぶ。

 しかし、返事はなかった。


「死んでる……っ、わけないですよね……」


 殺しても死にそうにない。地獄でそれを言うのは矛盾が生じるわけだが。

 ともかく、安らかに、彼は寝息を立てている。


「幸せそうに寝てますね……」


 見上げた横顔に、そう呟いた私の頬は少しだけ熱い。

 それにしても、本当に安らかに眠っている。

 別にそれは構わない。

 結局、物事の解決に彼を使ってしまうのは私で、彼の疲れの一端を担っている。

 だから、寝かせてあげようと、起こすこともなく、私は黙っていることにした。

 しかし――、落ち着かない。依然と頬は熱い。

 でも、このソファから降りようとも……、思わなかった。恥ずかしい。恥ずかしいけれど――。

 戸惑うように私は視線をさまよわせる。

 外は既に暗かった。だいぶ寝ていたらしい。そして、いつの間にか電気が点いている。薬師さんが付けたのだろうか。

 しかし、暗くなってしまった今、窓の向こうを見ても、何もない。

 時間だけが、緩やかに流れている。

 そんな時、ふと、彼が私の目に入る。


「薬師、さん……」


 どんな感触を、しているんでしょうか……?

 湧き上がった思いはそれだ。

 どきどきと、心臓を高鳴らせながら、私は指を伸ばす。

 すぐそこの距離が、遠い。指がさまよう。

 そして、たっぷりと時間を掛けて、遂に私の指が彼の頬を捉える。


「あ……、思ったよりやわらかい」


 ふにふにと、彼の頬をいじる。

 彼の顔に触れるのはあまりない経験だった。

 背の低い私では、基本的に彼の頭部に向かって手を伸ばすことはないのだ。

 逆ならばよくあるのだが。


「こ、この機に……、ちょっとだけ」


 心中が語りかける甘いささやきに、いとも簡単に私は屈した。

 次は、頭に手を伸ばす。

 やっぱり、男の人ですね……。

 少しだけ、自分より硬い髪。

 彼の頭を、撫でる。

 初めての経験だった。

 更に頬は熱くなり、心臓は破裂しかねないほど騒ぎ出す。


「あと、もうちょっと……、少しだけ」


 少しだけ、と私は彼の顔に接近した。中腰になり、顔の高さが同じになる。

 そして、彼の肩を掴み、少しずつ、顔を近づける。

 心臓が早鐘を打つ。頬は火を噴きそうだった。頭はくらくらして、思考がまとまらない。

 そして――。


「むぅ……、閻魔……」

「ひゃいっ!?」


 びくぅっ、と面白いほど私の肩は震えた。

 あわてて、私は椅子に深く座り込む。

 起きてる……?

 ちらちらと、私は彼を横目で見る。彼は未だに眼を閉じたままだった。

 あ、寝言か何かですか……。

 でも、私をいきなり呼ぶなんて……。


「閻魔……」


 もう一度、声が聞こえる。私はその声に耳を傾けた。

 何を言うのかと、今か今かと待ち続ける。

 そして――。


「着替えたもんは……、かごの中に入れとけと――」






「貴方は私の母親ですか」




 思わずつねってしまった私は悪くない。




















 夜、とあるマンション。


「いきなりつねるとは鬼畜だな」

「ええとですね……、ごめんなさい」

「まあいいさ、飯でも作るか」

「あ。ありがとうございます」

「ところで、疲れてんのか?」

「誰かさんが要塞を叩き切ってくれたので、後始末がたいへんだったんですよ」

「悪かった」

「知りませんっ。あの後鬼達総出で落ちる要塞を押さえたんですからねっ!?」

「むしゃくしゃしてやった。要塞なら何でも良かった。今では反省している」

「謝罪に心がこもってませんっ!!」

「ところで、なに食いたい?」

「あ、カレーが良いです」

「ほいほい」


 マンションの最上階では、しばし騒がしい声が響いていたという。














 ただ、それも静かになった時――、


「美沙希ちゃん、ただいま……、って。妙に仲よさそうね」


 寄り添いあって眠る二人の姿があったとか。




























―――
第二期初閻魔メイン。ただ、ここまでメイン張ってなかったとか気のせいな気がしてくる不思議。
ぺけ美のときに出すぎだったんですね分かります。




明後日の夕飯の献立程度に重要なお知らせ。

基本的に三日に一回十時前後更新を標榜しているこの作者ですが、このたび資格試験を受けることとし、補習を受けることとなりました。
とある資格試験といっても、危険物の乙四なのですが、それに向け補習を行うので、更新の時間帯が安定しない可能性があります。ご了承下さい。
まあ、分かり易く言うと、更新が十一時になったり十二時なったりするやもしれません、とだけ。
日が空くわけでもないからそこまで気にすることもないかもしれませんが一応。




返信。


SEVEN様

流れに身を任せ、自然体で生きる男、由壱。一番薬師の周囲のことを理解しているんじゃないかと思われます。
ただ、兄に薬師を添えた時点で既にして終了。手遅れも手遅れ、誰もが匙を投げます。
しかし、ネコ耳スク水のコスプレをさせる兄というのはいかがなものかと。
あと、十ロリは違うんですっ……! ホームポジションが右にちょっとずれてただけなんですッ……。僕は無実なんです。


奇々怪々様

薬師の周りにある分かり易い属性を合体させると、ネコ耳眼鏡メイドになります。流石に未亡人とかはコスプレの範疇がいなので不可ですが。
あと、薬師はなんだか知らないけれど珍妙なダメージならよく受けてますよ。金棒受け止めて手に穴開いたりとか。すぐ直るからどんどん行けば良いのに。
というかむしろ今回由美の行動に一番ダメージ受けてましたけどね。やっぱり精神ダメージが一番いい気がします。平成の孔明由壱と、ヒロインが組めば薬師を倒せるんじゃないですかね。
しかし、ロリ神様のお告げですか……、なるほど、増量しろと。


通りすがり六世様

驚きの誤字です、申し訳ありません。見直したときに気付けば良いものを、すっかりスルーしてました。すぐに頭部ってどういうことだ。
そして、きっとトゲアリトゲナシトゲトゲTシャツも、親しい人、冗談の通じる人相手ならきっと人気者です。滑ったら地獄ですが。
そいで、前回は総て由壱の手のひらの上という、そんなお話です。
そんな孔明は、これから先もきっと面白おかしくヒロインズを動かしてくれるに違いありません。薬師がげぇっ!とか言う紐近いです。


Eddie様

由壱の成長はまだまだ止まりません。最終的に悟りきって新たな宗派を作るまで――!!
後、薬師は薬師で、父として生きてます。ただし、余計なほどに父として生きるから皆困る。男として生きろよと。
そして、薬師の心情的には、由美に悩みがあるのか、自分の脳がクレイジーなのか、どちらか二択。迫られてると一瞬でも過ぎったならば、今頃藍音さんに美味しく頂かれてます。
意外と自分の脳を信用していないんですね、薬師は。まあ、あの脳を信用しろというのも酷ですが。


光龍様

全てを許す微笑み。由壱。明らかに神への階梯を上り詰めています。どこに行こうというのやら。
精神的には薬師よりも大人かもしれません。薬師を反面教師にいい男になってくれると良いですね。
そのまま悟り開いて女に興味なくなる可能性もある辺りなんともいえない状況ですが。
果たして、由壱は自分もかわいい彼女が欲しい、と思っているのか、女自体食傷気味だと思っているのか。


志之司 琳様

薬師とその周囲を見守り、手のひらの上で踊らせる男、由壱。ラスボスはこいつか……!! 由壱が本気を出したら薬師をノイローゼに出来るのではあるまいかと。
憐子さんは、かわいい子を面白おかしく応援したい派。完全に愉快犯です。でも、それでいい雰囲気になったらなったでちょっと嫉妬しちゃう、勝手なお人。まあ、全体的に薬師が悪いです。
あと、地獄において死にたくなる事象に、薬師に常識を説かれるのと、閻魔に私生活を説教されるの二つは高ランクであると思います。
そしてなるほど、十ロリは間違っていなかったんですね。世界が間違っていたと。そういうことですか。柱は、何時だそうかとどきどきしてます。







最後に。

セーラー服の女学生の頬をぷにぷにと突付くスーツの男。どこからどう見ても怪しいことこの上ないです。


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