<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

オリジナルSS投稿掲示板


[広告]


No.19828の一覧
[0] 少女の愛した狼 第三部完結 (和風ファンタジー)[スペ](2022/01/30 08:17)
[1] 命名編 その一 山に住む狼[スペ](2010/11/01 12:11)
[2] その二 出会う[スペ](2010/11/08 12:17)
[3] その三 暮らす[スペ](2010/10/23 20:58)
[4] その四 おやすみ[スペ](2010/06/28 21:27)
[5] その五 雨のある日[スペ](2010/06/29 21:20)
[6] その六 そうだ山に行こう[スペ](2010/06/30 21:43)
[7] その七 天外という老人[スペ](2010/07/01 20:25)
[8] その八 帰る[スペ](2010/07/03 21:38)
[9] その九 拾う[スペ](2010/07/12 21:50)
[10] その十 鬼無子という女[スペ](2010/11/02 12:13)
[11] その十一 三人の暮らし[スペ](2010/07/07 22:35)
[12] その十二 魔猿襲来[スペ](2010/07/08 21:38)
[13] その十三 名前[スペ](2010/09/11 21:04)
[14] 怨嗟反魂編 その一 黄泉帰り[スペ](2010/11/01 12:11)
[15] その二 戸惑い[スペ](2011/03/07 12:38)
[16] その三 口は災いのもと[スペ](2010/11/08 22:29)
[17] その四 武影妖異[スペ](2010/12/22 08:49)
[18] その五 友[スペ](2010/10/23 20:59)
[19] その六 凛とお婆[スペ](2010/10/23 20:59)
[20] その七 すれ違う[スペ](2010/10/23 20:59)
[21] その八 蜘蛛[スペ](2010/10/23 20:59)
[22] その九 嘆息[スペ](2010/10/23 20:59)
[23] その十 待つ[スペ](2011/03/25 12:38)
[24] その十一 白の悪意再び[スペ](2010/12/01 21:21)
[25] その十二 ある一つの結末[スペ](2010/11/08 12:29)
[26] 屍山血河編 その一 風は朱に染まっているか[スペ](2010/11/04 12:15)
[27] その二 触[スペ](2010/11/09 08:50)
[28] その三 疑惑[スペ](2010/11/13 14:33)
[29] その四 この子何処の子誰の子うちの子[スペ](2010/11/20 00:32)
[30] その五 虚失[スペ](2010/11/22 22:07)
[31] その六 恋心の在り処[スペ](2010/11/29 22:15)
[32] その七 前夜[スペ](2010/12/13 08:54)
[33] その八 外[スペ](2010/12/22 08:50)
[34] その九 幽鬼[スペ](2010/12/27 12:12)
[35] その十 招かざる出会い[スペ](2011/01/03 20:29)
[36] その十一 二人の想い[スペ](2011/01/07 23:39)
[37] その十二 味と唇[スペ](2011/01/16 21:24)
[38] その十三 雪辱[スペ](2011/02/16 12:54)
[39] その十四 魔性剣士[スペ](2011/02/01 22:12)
[40] その十五 血風薫来[スペ](2011/05/25 12:59)
[41] その十六 死戦開幕[スペ](2011/02/24 12:21)
[42] その十七 邂逅[スペ](2011/03/20 20:29)
[43] その十八 妖戦[スペ](2011/03/23 12:38)
[44] その十九 魔弓[スペ](2011/03/31 09:00)
[45] その二十 死生前途[スペ](2011/05/17 08:55)
[46] その二十一 仙人奇怪話[スペ](2011/05/22 21:31)
[47] その二十二 魔狼と魔剣士[スペ](2011/06/05 20:58)
[48] その二十三 真実[スペ](2011/06/20 12:56)
[49] その二十四 別離[スペ](2011/09/02 23:49)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[19828] その二十四 別離
Name: スペ◆52188bce ID:97590545 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/02 23:49
その二十四 別離


 青い空の果てまで届く様な狼の遠吠えが妖哭山の隅々にまで響き渡り、それまで狂乱の闘争に耽っていた妖魔達全てが、雷に打たれたかの如く動きを止めて遠吠えの聞こえて来た方角へと、一つの例外もなく意識を向ける。
 白い水飛沫をあげる川の流れを朱に染めて戦っていた魚妖と水妖も、互いの首に爪を食いこませ合い空中でもつれあっていた妖鷹と肉食雀の群れも、流された血でぬかるんだ大地の上を駆け激突を繰り返していた邪妖精と妖虎も。
 あと一歩で敵対している者の命を奪えるという所で、あるいはあとわずかで殺されるという窮地にありながらも、妖魔達は戦う事、殺し合う事を忘れて、自分達の産まれて来た意味が果たされた事を、ただ噛み締めた。
 なぜならその遠吠えは、この妖哭山が造り出され、これまで無数の妖魔達が血で血を洗おう戦いを繰り広げ、死に続けてきた目的が半ば達成された事を伝えていたからだ。
 この世界を支配する八十八万柱の神のいずれかが、同胞である神さえ葬れる最強の手駒を産み出すべく用意したこの妖哭山という試験場。数え切れぬ多種多様な妖魔達という実験体達。そして白銀の狼とその器に封入された異世界の魂。
 天外という想定外の要素の介入によって一度は狂ったそれらの歯車が、ようやく噛み合い始めたのである。
 本来の自意識に目覚めた雪輝の魂と最強の肉体である狼の器がようやく完全な同調を果たし、黄昏夕座という外の世界からやって来た招かれざる来訪者を倒したのと、妖哭山の目的が半ば達成されたのはまったく同時の瞬間であった。
 そして雪輝の『完成』を知ったのは、雪輝と夕座の決着の場からやや離れた所で、かつては配下として率いていた同族と争っていた狗遠も同じだ。
 雪輝と夕座がほぼ互角の戦いを繰り広げた影響を受けて、樹海の地形や景観は大きく変わっており、根元からへし折れた木々が折り重なり、抉られた土や砕かれた巨岩が無数に散らばっている。
 ただでさえ巨木が折り重なるように枝葉を伸ばして視界と行動を妨げる悪条件が、雪輝達の戦いの余波でさらに悪化しているのが現状だ。
 その中を灰色の毛皮を持った狗遠と、狗遠より一回りか二回りほど小さい狼達が風のごとく走り回り、時折牙と爪を閃かせて血飛沫を散らしていた。
 雪輝に手出しを禁じられ距離を置いていた狗遠であったが、その間に雪輝達が妖哭山内部に足を踏み入れた事に気付き、決着を着けるべく探し回っていた飢刃丸に捕捉され、血を分けた弟と同胞を相手に容赦と慈悲を捨てた戦いを繰り広げていたのだ。
 自身よりも小柄な――それでも一般的な狼を上回る大きさなのだが――妖狼達が飛びかかってくるのを、親が子をあしらう様に軽々と蹴散らしていた狗遠は、雪輝の遠吠えを耳にするのと同時に全身の細胞がざわめくかの如き感覚を覚えて、あろうことかそれまで躍動させていた四肢の動きを止めて青く晴れ渡る空を見上げる。
 これ以上ないほどの致命的な隙であるにも関わらず、周囲の妖狼たちのみならず妖狼を指揮しているだろう飢刃丸に至るまでが狗遠と同じように、雪輝の遠吠えを耳と全身と、そして魂で聞いていた。
 雪輝の遠吠えに魂まで奪われたかの如く呆然と空を見上げていた狗遠だったが、不意にその口元から笑い声が零れ始める。
 愉快で愉快で仕方がないと、堪えようとしても堪え切れない笑い声だ。

「く、くくくく、くっくっくっく。くははははは」

 雪輝の遠吠えの余韻が消えつつある中、高らかにこれ以上面白い事は無いと告げる代わりに狗遠の咽喉から零れる笑い声が、木々の間で反復し合い、かつての長の奇行を前にして周囲の妖狼達が怯えたように狗遠に視線を集める。
 狗遠の牙で首筋を噛み切られて体の大半を自身の血で染める者、両前肢をへし折られて赤茶けた地面を舐めている者、腹を爪で割られて薄桃色の臓物を撒き散らし絶命寸前の者と死の淵にある妖狼達も例外ではなく、狗遠の高笑いがまるで死神の足音であるかのように怯える様子を見せている。
 くっく、と咽喉を震わせる狗遠を制止したのは妖狼達の群れを割って姿を見せた、左耳が半ばから欠けている赤毛の狼である。
 狗遠から妖狼族の長の座を奪い、雪輝に対する悪意をわずかも隠さぬ危険な狼の妖魔、飢刃丸。のそりのそりと狗遠とそう変わらぬ巨躯から周囲の妖狼とは一線を画する重厚な妖気を発しながら、どろりと粘ついた暗い感情を溜め込んだ瞳で、姉を見つめる。
 自らの牙で確かに致命傷を負わせたはずの姉が、こうして自分の目の前で息をしている事を、飢刃丸は大した問題とは捉えていなかった。
 今度こそ完全に息の根を止めてくれる、と極めて単純かつ確実な問題の解決方法を考えているからだ。

「姉者、なにがおかしいのだ?」

 ようやく笑い声を咽喉の奥に引っ込めた狗遠が、危険な響きの混じる声音を出す弟を見る。ほんの数日前に反逆の牙を向けられたばかりの筈だが、随分と久しぶりに会った気分であった。
 狗遠に傷を負わせ逃亡させてから今日に至るまでの間、相当の数の妖魔を屠り、死肉を食い漁って来たのは間違いがない様で、最後に狗遠が見た時に比べて飢刃丸が全身から溢れさせている妖気の質と量は数段増している。
 少なくとも狗遠ではもはや敵わぬほど強大な妖魔となっているのは間違いがあるまい。あの陰湿さばかりが目立った奴が大したものだ、と狗遠は心のどこかで弟の成長を喜ぶ余裕があった。我ながら奇妙な事だ、と嘆息しながら狗遠は口を開く。

「お前も分かっているだろう。愚かな弟よ。お前も聞いた筈だ、雪輝の叫びを。あれに敵う者は最早この山にはおるまい。蛇どもの雌長も、虎どもの若造もな。ましてや貴様などでは」

「その目は節穴か、姉者よ。貴様を長の座から追い落としてから今日に至るまで、おれがどれだけの妖魔共を喰らい我が身の血肉と力に変えてきたか、それを知るまい。おれはかつて奴に敗れたおれではないのだ」

 飢刃丸に応じるように狗遠は心中で嘲笑う。確かに自分はどれほどの妖魔を飢刃丸が喰らってきたのかは知らない。
 同時に、狗遠はこう思う。
 だがお前も知らないだろう、弟よ。あの白銀の狼が、どれほど強大な存在であるかを、そして今、なったのかを。ああ、良い気分だ。実に良い気分だ。やはり雪輝を番にと望んだ自分は間違っていなかったと、狗遠は愉悦に浸る。
 狗遠はあの皺まみれの老人の言っていた事を完全に理解しているわけではなかったが、それでも雪輝が妖哭山でも無二の強大かつ特殊な存在である事は本能で理解している。
 その雪輝を見染めたのがほかならぬ自分であるのだから、少しばかり自慢げな気分になるのも無理はないだろう。
 狗遠は足元で呻いていたかつての配下である妖狼の首を、左の前肢で呆気なく踏み折ると愚かなる弟を見た。
 妖哭山に産まれた妖魔の全ての血に含まれている狂乱の因子が、いまも狗遠に争いに狂え、雪輝と戦いかの存在が最強であるかを証明せよ、と絶えず命じているが、狗遠はそれを意思の力で屈服させた。
 冗談ではない。妖哭山最強は雪輝だ。先ほどの咆哮と共に山を震わせた妖気の凄まじさが、なによりもその事を雄弁に物語っている。そして私は奴と番になりこの山を制覇するのだ。
 狗遠は、血の刻印に従わんとする己の身体にそう強く言い聞かせて、目の前の弟達と対峙し続ける。
 自身の肉体にさえ逆らって雪輝と傍らにあろうとする狗遠の心を、天外は愛と称したが、はたしてそれが事実であるかどうか、狗遠がそれを認めるかどうか、狗遠自身にさえ分からぬ事であったろう。

「さて、飢刃丸よ。貴様の心臓に私の牙を突き立てるのに、雪輝の手を煩わせるまでもない。なにより私に牙を剥いた貴様の首を噛み千切るのを他の奴に任せるほど、私は優しく出来てはおらぬ」

「おれとの力の差も分からぬか。いっそ哀れというものよ、姉者。死して我らの血肉となれい」

 姉と弟と。
 雪輝を巡る立場の違いから対立する二頭の妖魔は、死力を尽くした戦いの幕を開いた。



 腕に繋がれた管から紫色の血を妖魔化に対する抑制薬として受け入れたまま、鬼無子は空中に投影されている雪輝の姿を、凝然と見つめていた。その瞳の中には歴戦という言葉も霞む死闘を重ねた退魔士として、目の前の妖魔の力を図り知ろうとする動きもあった。
 夕座によって死の淵にまで追い詰められた、あろうことか雪輝自身が山からの避難を促した狸親子が夕座の手に掛ったという事を聞いた瞬間、映像越しにさえ鬼無子の全身を泡立たせるほどの怒気と殺気を嵐のごとく噴出し、次に鬼無子が認識したのは首を半ば噛み破られて激流へと落下してゆく夕座の姿。
 鬼無子の目をもってしても影さえも追う事が出来なかった、それまでとは比べ物にならぬほど速く無慈悲な、雪輝の一撃によるものだ。
 白猿王の一件から今日に至るまで短期間の間に雪輝が死闘を繰り返し経験した事と、かつてないほど追い込まれて死に瀕した事、更に狸親子に待ち受けていた悲惨な運命が、雪輝の覚醒を促す要因となり、潜在能力を爆発させた結果であろう。
 いま、雪輝は凶暴な水棲の妖魔達がひしめく激流の中に飲み込まれた夕座を見届け終え、狸親子の魂の安息を祈る様に遠吠えをしている。
 その姿に、鬼無子はただただ悲しみばかりを覚えていた。
 妖刀紅蓮地獄の特殊な力によって、雪輝の全身から鮮血が溢れだして、白銀の毛皮が余す所なく血の色に染まる瞬間を目撃した時などは、治療の事など頭の中から消え去りすぐさま助けに行かんとした鬼無子であったが、例え雪輝を見捨てる事になろうとも鬼無子の治療を行うと事前に公言していた天外によって止められている。
 身を預けていた寝台から跳ね起きようとした鬼無子は、目に見えない何百人もの人間に抑え込まれているかのように身じろぐことしかできず、この場で唯一そのような真似のできる天外に向けて、火を噴くかの如き激情を湛えた視線を浴びせた。
 しかし視線だけでも睨みつけられた者の視線を貫いておかしくない鬼無子の激情は、天外の横顔に浮かぶ創造する事も出来ないほど冷たい表情によって、瞬く間に沈められてしまった。
 その天外の横顔に鬼無子は肝心なことを失念していた事を悟る。そう、この天外という老人は雪輝にとっては必ずしも味方と呼べる存在ではなかったではないか。
 もし雪輝が妖哭山の創造主の意図どおりに神の手駒としての使命に目覚めたならば、底の知れない不気味な老仙人は全力を持って雪輝を排除せんと動くだろう。
 かつてこの妖哭山に産み落とされたばかりの雪輝と戦い、その機能に異常を生じさせるほどの力を持っている事は、これまでの話から分かっている。仮に天外が全霊を尽くしたならば、雪輝とて滅せられないという保証はないのだ。
 そこまで思い至った鬼無子に険しい視線を向けられている事に気付いた天外が、嫌に粘っこい笑みを口元に浮かべて、鬼無子を振り返る。

「危惧しておることは手に取る様に分かるが、安心することだの。まだ雪輝の奴は神の手駒ではなく雪輝としての人格を保持しておる。あの馬鹿狼が雪輝である限り、わしは手を出さぬよ」

 天外は鬼無子にそう告げて、いつの間にか手元に浮かべていた光の板に視線を映し、目まぐるしく表示される数字や記号を読み取る作業に集中し始める。鬼無子には皆目見当もつかないが、その光の板に表示されている数字などが雪輝の状態を示すものなのだろう、と推測する位の事は出来た。
 いまひとつ天外の言う事に関しては信頼を置きかねる事実が、鬼無子にとっては一抹の不安となって心に影を落とす。

「かつて、天外殿が戦ったと言う時の雪輝殿もいまのような強さだったのでしょうか」

「んん? そうだのう、身体能力で言えば奴がただの駒として産み落とされた時の状態に匹敵しておるの。本来の人格が目覚めた事で器である狼の肉体との和が乱れて、これまで雪輝の奴は持てる力を完全には発揮できておらなんだが、それもこの土壇場と試験が最終段階に入った影響でどうにかなったようだからの」

 光の板から視線を外さずに、天外が返した言葉に引っ掛かる物があり、鬼無子はかすかに細首を傾げた。元より雪の様に白い肌であったが、妖魔の血と神の血が争っている影響を受けているのか、そのまま透き通って消えてしまいそうなほどに顔色が悪い。

「身体能力、という事は雪輝殿には本来であればまだ何か別の力があると?」

「まあ、そうなるかの。今、あいつは熱量を操作することで炎や氷を操る力を持っておるが、あれは至極原始的な魔術や陰陽術に通じるものがある。わしが初めて矛を交えた時、奴はわしも知らん魔術や精霊術を使ってきおった。雪輝の奴、元いた世界では相当に腕の立つ術使いだったのかもしれんの。だからこそその魂が神の目に留まったと考えるべきかもしれん」

「ではいずれ雪輝殿は本来産まれた、その異世界とやらの術も使えるようになると?」

「推測ばかりの話になるがの。ただそれには雪輝が狼の肉体に封じられた事で失った記憶を蘇らせる必要があるじゃろうて。まあそれを抜きにしても今の奴は十分に強い。並大抵でない妖魔でもあれに勝てるものはそうはおらんの。それよりも鬼無子ちゃんや、この後の事、ようく考えておいた方がええぞ」

「……黄昏夕座が倒された事で織田家が総力を上げて雪輝殿の排除に動くかもしれぬと言う事でしょうか?」

 にやり、と天外は鬼無子の言葉に新たな笑みを浮かべて答えた。その笑みが、鬼無子の回答では不足であると語っている。

「それとも神の造り出した存在である雪輝殿に惹かれて、妖魔共や邪教徒達、あるいはこの妖哭山の創造主の魔の手が伸びるやもしれぬという意味でございましょうか」

「ふむ、やはり雪輝の奴には勿体無いの。そこまで考えつけば、ま、満点をやっても良いの。雪輝はわしらと違って神の定めた制約に縛られぬ存在じゃ。例えこの世に現出する神が地に落ちた影のごとき映し身に過ぎぬとても、その影を払拭する事の出来る存在というのは目障りなことこの上ないからの。
 明日かそれとも遠い未来の事かはわしにも分からぬが、雪輝の奴が創造主以外の神にも目を着けられてもおかしくはあるまい。神の尖兵や信徒らとの戦いとなれば、最悪今の世界の均衡は崩れて世は乱れ、混沌の時代が来るやもしれぬ。
 あるいはそれこそが雪輝の創造主の目論見かもしれぬし、あるいは単に暇つぶし程度に過ぎぬかもしれん。如何せん、神々にとってこの世は遊び場に過ぎんからの。途中で飽きて遊びを放置する神も居るから予測が着かんで、どうにも性質が悪いわい」

「となりますと雪輝殿は創造主や他の神々にその存在を黙認、ないしは放置される可能性もあるのですか」

「まあ無きにしも非ずとしか言えんなあ。雪輝の奴が盛大に神殺しでもやらかさん限りはわりと大丈夫かもな」

 天外のその返事を最後に、鬼無子と天外の間で会話はぱたりと絶えて、一端別れた狗遠との合流を計り、動き始めた雪輝へと両者の視線は吸い寄せられた。



 妖哭山外側の麓にほど近い開けた場所に、天幕を張っただけの簡素な妖魔改の拠点が築かれていた。
 現状の妖哭山では内側のみならず外側にも争乱と血臭に満ちていたが最外縁部に位置する場所である為、比較的風の運ぶ血の臭いは薄く、絶え間ない妖魔達の争いと断末魔の声もどこか遠い。
 天幕の周囲ではまだ動ける妖魔改の隊員達の他に、かねてよりの約定に従って錬鉄衆の戦士達数名が警護に就いているが、妖魔改側が到着の期日を偽った事と、山の民の雪輝に対する好意が原因となって、両者の間には硬質の空気が流れて、会話が交わされるような友好的な様子はない。
 そしてその拠点の最も奥深い場所で、金糸と銀糸の刺繍が煌びやかな座布団を敷いた切り株の上に腰かけていた派手な装いの男が、手に持った小さな鈴を凝視していた。
 紫の黛と青の口紅で彩った端正な顔立ちに、洒脱に着崩した紫色の着物、長い黒髪に鷹の羽の飾りが着けられており、なんともは異様な風体の青年だ。
 夕座の援軍として妖哭山に駆け付けた妖魔改の弓使い伊鷹である。水晶細工を思わせる大きな弓を左肩に持たせかけて、右手に摘んだ銀の鈴を眼の前まで持ち上げてしげしげと眺めている。
 りぃん、とかすかな風に揺れて銀鈴は耳に心地よい音を立てている。伊鷹はその音にしばし耳を預けていたが、ほどなくして心底驚いたという顔を拵える。
 伊鷹が手に持っている銀鈴は夕座の状態を知らせる為の特殊な鈴だ。伊鷹は、妖魔改の精鋭たちの中でも最強の一角に名を連ね、かつ過去の行動から危険視されている夕座の監視役を任されている。
 かつて一度は冥府へと旅立った織田信風の魂を呼び戻し、黄昏夕座として蘇らせる際に服従の術式を施しておいたとは言え、類稀なる精神と魂の強さを兼ね備える夕座に新しい織田の当主達は現在に至るまで極めて強い警戒の念を抱いてきた。
 これまでも伊鷹以前に夕座の監視役として妖魔改の中でも特別腕が立ち、信用のおける者達が選ばれており、もはや慣例となっている。
 伊鷹はいつのまにか自分の視界の端に膝を突いて待機していた影座へと視線を映し、独特の口調で話しかける。手の中の銀鈴がまた、りぃん、と鳴る。妖魔ひしめく魔窟には相応しくない清涼な響きである。

「お聞き、影座。夕座殿がどうやら倒されてしまったようだよ。いやいやぁ、私もこれはちょっとぉ、信じられない事だねぇ。黄昏夕座百五十年の歴史の中で初めての事じゃないのかい? とはいえこれは拙いねぇ。すぐに引き上げの準備をお始めな。先に帰した怪我人達と合流して引き上げないと。戻ったら上に報告、いや警告しなきゃならないねぇ」

 夕座が倒された事が心底信じ難い様で、伊鷹は口を開く間も信じられないと首を横に振るう仕草を繰り返し、いまだ音を鳴らす銀の鈴に瞳を向けている。
 妖魔改の中で監視役であると同時に夕座の相棒としての役割も担っている伊鷹でさえ、こうも動揺を露わにするのだから、心底から夕座に心酔している影座はどう反応するかと言えば、まるで石像が口を開いたかのように淡々と言葉を伊鷹に返した。

「承知いたしました。四半刻(三十分)以内に撤収の用意を終えまする」

 果たして影座の心中いかばかりか。伊鷹はあえて言及する事もなくこちらも淡々と自身のすべきことを頭の中で整理し、優先順位を割り振ってゆく。

「よろしくお願いするよぉ。私は私の役割を果たさないとねぇ。夕座殿も世話を焼かせる御仁だぁ」

 夕座の敗北の動揺と衝撃を忘れ去り、伊鷹はそれまで腰かけていた切り株からいかにも難儀そうな様子で腰を上げ、それまでどこか気だるげであった鋭い瞳に胡乱な光を宿す。
 ゆらゆらと瞳の奥で揺れる光は、捉えた獲物を決して逃さず射殺す狩人の光、そして人の世を乱す魔性を討つ誇り高き退魔士の光であった。

「大狼、か。これから色々と厄介な事を引き起こしてくれそうだねぇ」

 同じ妖魔改に属する人間でありながら夕座と伊鷹とではっきりと異なる点の一つに、夕座は妖魔改に属しながらも、あくまでも自身の欲望を叶える事を最大の目的としているのに対し、伊鷹は妖魔改の人間として妖魔や邪教の信徒達を討つ事を使命として強く認識している事が挙げられる。
 そして国家の霊的な守護を担う者達にとって、織田家の霊的戦力において切り札と言える黄昏夕座を撃破するほどの妖魔は、後々の災いとなる事を避ける為に早々に滅するべき、という考えに行きつくのは、至極当然の事であった。



 妖哭山に住まう人間達、錬鉄衆の隠れ里に凛と祈祷衆総帥であるお婆の口利きで匿われているひなが、不意に唯一外の光景が見える鉄格子の嵌められた窓へと黒瑪瑙を思わせる円らな瞳を向けた。
 いまもどこかで妖魔同士の殺し合いが行われているとは信じ難い平穏が、錬鉄衆の隠れ里には満ちている。だがそれは奥底に不安と恐怖を押し込めた薄氷の平穏である事を、誰よりも里の人間たち全員が理解していた。
 鉄格子に区切られた空はどこまでも青く晴れ渡り、ひなの黒い瞳を同じ色に染めてしまおうと企んでいるかのようだ。
血の赤に染まりつつある大地の色を映して、空の青が血の赤に変わらぬのが不思議なほど、妖哭山の大地には死と血と怨念が渦巻いているのに、青空だけが我は知らぬとばかりに変わらぬ色を維持している。
 見回りの合間を縫ってひなの話し相手になりに来ていた凛が、ひなにやや遅れて同じように窓へと視線を向ける。凛の瞳に映るのはやはり何の変哲もない青い空。自分達の苦労も知らず、腹が立つくらいに晴れてやがる、と凛は益体もない悪罵を心中で零す。
 ひなと同じように窓を見上げた凛だが、何かを感じたひなと違い凛は何かが聞こえたわけでも、見えたわけでもなかったようで、不思議そうに窓からひなへと視線を映した。

「ひな、どうかしたのか」

 凛に声を掛けられたにもかかわらず、ひなは視線を窓の外へと向け続けたまま、くしゃりと幼さの中に美貌の片鱗を覗かせつつある顔を歪めて、悲しげに口を開く。

「私にもよくわかりません。ただ、とても悲しい声が聞こえました。雪輝様だと思います」

「雪輝の声が聞こえたのか」

「はい」

 過酷な妖哭山の暮らしで研ぎ澄まされた凛の聴覚には、ひなの言う様な雪輝の声は届かなかったが、その事を訝しむよりも、凛はひなと雪輝の間でならそう言う事もあるだろうと納得する方が先だった。
 まだ出会って半年も経っていないと言うにも関わらず、ひなと雪輝は人間と妖魔という種の壁を越えた絆を育み、実の親子か兄妹の様に仲睦まじく暮らしている。
 あるいは雪輝という強大な妖魔の傍らにあり続けた影響で、ひなと雪輝との間になにか霊的なつながりが結ばれている可能性もある。以上の事から、凛はひなが雪輝の声を聞いたと言う事を否定する気にはならなかった。

「ひなになら雪輝の声が聞こえてもおかしくは無いけれど、あいつの悲しそうな声か。そりゃよっぽどの事があったってことだろうが……」

 考えたくはないが場合によっては鬼無子の身に何かあったということだろうか、と凛は腕を組み太い眉を逆八の字に潜めて腕を組み、難しげな顔で咽喉の奥から唸り声を零す。
 まるで気まぐれな猫が生涯を左右する選択肢を突きつけられて苦悩しているかのようである。凛の予想は半ば外れていた。この時ひなに聞こえたのは狸親子の運命を知り、夕座を倒したすぐ後に雪輝が上げた遠吠えの響きであった。
 妖哭山の内側と外側は明確に山頂部によって区切られ、雪輝の遠吠えは妖哭山の内側で反響し合い留められていたが、やはりと言うべきか互いにとって特別な関係にあるひなの耳には届いていたようである。

「雪輝様が泣いていらっしゃいます。どうして私は、こんな時に雪輝様のお傍にいないのでしょう」

 ひなの円らな瞳から大粒の涙が零れだし、それはやがて流れとなってひなの左右の頬を濡らしながら顎を伝い、固く握りしめられたひなの拳の上に滴り落ちた。
 雪輝の悲しみに共感したひなの悲しみと、傍にいる事の出来ない自分に対する情けなさと悔しさが、涙に変わってひなの拳の上に落ちて、ぽたり、ぽたりと音を立てる。
 ああ、雪輝がこの場にいたなら何を置いてもひなの涙を止めたいと願ったことだろう。ひなに涙を流させない為に雪輝は存在していると言うのに、雪輝によってひなが涙を流すとは何たる皮肉である事か。

「それはひなの所為じゃないよ。ひなが悪いんじゃない」

「でも、とても悔しいです。雪輝様をお慰めしたいのに、私に何の力もないからお傍にいる事も叶わないなんて。私には雪輝様以上に大切なものなんてなにもないのに」

 ひなの言葉の中に雪輝に対する大きな依存を聞き取り、その危険性にかすかに眉を潜めながら、それでも凛はひなを慰める事を選んだ。
 錬鉄衆を生の中心に置く凛では、ひなと雪輝の関係を変えるほどまでには踏み込めない。少女と狼の関係に変化を齎せるほど近い関係にあるのは、いまは鬼無子一人くらいのものだろう。

「だったら雪輝が帰って来た時に泣き顔を見せられないってことは分かるだろう。今は好きなだけ泣いていいから、あいつが帰って来た時には笑顔を見せられる様に出来るな」

 凛はひなの傍らに腰を降ろして小さなひなの体を抱きしめる。小さな子供は安心させる時、誰かのぬくもりを伝えることが一番確実である事を、凛は経験上知っていた。

(早く帰ってこいよ、雪輝。ひなの涙を止めるのにはお前の無事な姿が一番なんだからよ)



 妖哭山を震わせる遠吠えの木霊が消えた頃、雪輝は夕座との戦いの影響によって無残に破壊され尽くした樹海の中を、狗遠の匂いを追っていた。
 先ほどから大地を駆ける無数の足音と争いの音が雪輝の耳に届き、狗遠を囲む憶えのある匂いや血の匂いがある事も、雪輝の心中に焦燥の念を抱かせる。
 夕座との戦いに巻き込まぬように狗遠に手出しを禁じたが、夕座との戦いに没頭するあまりに狗遠とはぐれてしまった事が悪方向に働き、飢刃丸との戦いを狗遠だけに委ねる結果になってしまった。
 無事であれと願う想いに突き動かされる雪輝の肢は、まもなく念願の場所へと雪輝を導いて動く事を止める。
 狗遠に返り討ちにあって襤褸屑同然になった妖狼達の死骸が散らばっているのは良い。
 雪輝とても予期していた事だ。一度自分を裏切ったものを同胞とはいえ狗遠が許す筈もない。長の座に返り咲いたらかつてよりはるかに厳しく一族の者達を扱ったことだろう。
 だから雪輝の肢を止めたのは息絶えた妖狼達の死骸ではなく、荒く息を吐きながら大量の血を流して大地に倒れ伏す狗遠の姿だ。そのすぐ傍には口元を姉の血で濡らし凶光を瞳に宿す飢刃丸がいる。
 内臓を傷つけられたのか咽喉の奥から溢れる血を吐きながら、狗遠はかすかに首を持ちあげて、青く濡れた満月を思わせる雪輝の瞳と視線を交錯させた。

「狗遠、すぐ天外の所に運ぶ。いま少し待て」

 安堵したのだろう。狗遠の体がかすかに弛緩する。意識を失ってはいないようだが、傷の深さからして長い事放置はしておけない。
 まるっきり自分を無視する雪輝の言動に、飢刃丸が牙を軋らせて瞳に揺れる凶光を更に強く暗いものに変えて、雪輝を睨みつける。まだ雪輝が妖哭山の内側で暮らしていた時、雪輝に返り討ちにあった記憶が、飢刃丸の脳裏に克明に蘇っていた。

「銀狼、貴様はいつもそうだ。妖魔達の事など、そしておれの事などまるで眼中にないと言う態度を取る」

「飢刃丸か。私が憎くてたまらぬという顔をしているな」

「当たり前だ。おめおめと生き恥を晒し今日に至るまで生き延びたのは、いつか貴様のそのすかした面をおれの牙でずたずたに噛み千切ってやる為よ。その為ならば屈辱にも耐えよう。そしておれは数多の妖魔共を喰らってここまで力を着けた。既に姉者とておれの敵ではない」

 飢刃丸の猛る殺気に応じて周囲を囲んでいた生き残りの妖狼達は、巻き添えになる事を恐れて一歩二歩と下がっている。飢刃丸から叩きつけられる殺気と妖気を風に柳と受け流しながら、雪輝は飢刃丸へと静かな瞳を向ける。

「血を分けた姉と弟で殺し合う事に躊躇も何もないか。この山を造った神はよほどの性悪の様だな。飢刃丸よ、お前を生かしておく事は禍根を残すこととなる故、貴様の望み通り今度こそお前の命運を断つ」

 雪輝にしては珍しい情けを欠片も含まぬ非情の宣言である。だがそれは飢刃丸にとって拭い難い新たな屈辱として受け止められ、飢刃丸の総身からは新たな黒々とした感情と共に殺意が陽炎のごとく立ち上る。

「断てるか、貴様ごときに!」

「できるとも」

 夕座との戦いで負った瀕死の重傷は、雪輝の感情の爆発と同時に周囲の気脈を強制的に吸い上げた事で、極小さな傷に至るまでが全て完治し、膨大な失血も補填されている。体調は完璧といって良い状態にある。
 魂と肉体の調和がとれた事で、雪輝の天地の気を喰らう力も強化され、例え怨念に毒されて穢れに満ちた気であろうとも体内で浄化し、問題なく血肉に還元できる段階に至っている。
 夕座との死闘による消耗が欠片もない雪輝と、姉を打倒し怨敵を前にしてこれ以上ないほど精神を高ぶらせた飢刃丸とが、小細工なしに真っ正面から激突する。
 雪輝と飢刃丸の踏みしめていた大地が爆発し、風をぶち抜き、音の壁を越えて双方が交錯し、雪輝の咬み合わせた牙からぼとぼとと大量の血が零れ落ちて大地に新たな赤色の斑点を散らす。

「言うた通りであろう。お前の命運はこの場で断つと」

 雪輝はその言葉と共に口腔の中の飢刃丸の肉を吐き捨てた。雪輝の背後では頭の右半分をぽっかりと抉られた飢刃丸が、灰色の脳漿をどろりと零しながら、信じられぬと残る左目を見開きながら雪輝を振り返り、呆気なく崩れ落ちた。
 夕座との戦いを経験する前の雪輝であったなら、こうも容易く飢刃丸を倒す事は出来なかっただろう。いや、狗遠を無傷で倒すほどの力を獲得した飢刃丸だ。雪輝との実力差はほとんど遜色の無いものだっただろう。
 しかし夕座に限界まで追い詰められ、主水親子の悲運を知って激情を爆発させた事によって、身体能力を完全に発揮できるようになった雪輝の力は、妖魔を喰らって力を高めた飢刃丸の想像をはるかに上回っていた。
 飢刃丸が余りにも呆気なく倒された事に周囲の妖狼達が動揺に襲われる中、雪輝はそれきり飢刃丸への興味を失い、目を細めて愚かな弟の末路に血まみれの笑みを浮かべている狗遠の傍へと歩み寄る。
 左肩の付け根と腹部が大きく斬り裂かれて、息を吸って肺が膨らむ度に新たな血が溢れだし、血に濡れた内臓がかすかに見える。

「くく、馬鹿な……弟よ。……自分の分というものを、弁えて、おらんからこういう目に……遭うのだ」

「あまり喋るな。外で私がお前を拾った時よりも傷は深いぞ。それと血まみれで笑われるとちと怖い」

「ふん」

 雪輝はそっと鼻先を狗遠の傷口に近付けて、自分の肉体を元の気へと還元してから狗遠の肉体に適合するように調整し、流し込む。純度の高い気は生命力そのものと等しく、例えそれが妖魔であろうとも肉体の傷を癒す助けになる。
 雪輝の鼻先から白銀の光が狗遠の傷口へと流れ込み、見る間に新たな細胞が生まれ、断たれた神経が癒着し、失われた血液が見る間に造り出されて、傷そのものが消えてゆく。
 不覚にも飢刃丸に負わされた傷が癒え、更には新たに力が流れ込んでくる感覚に、狗遠は素直に驚きを露わにしたが、そのまま雪輝にされるがままでいた。

「応急手当に過ぎんが、せぬよりはましであろう。時に狗遠よ」

 むくりと横たえた体を起こし、狗遠は雪輝の顔を真正面から見つめて問い返した。

「なんだ?」

「私の傍に寄れ。最後の敵が来る」

「な」

 なに、と狗遠が口にするよりも早く雪輝が狗遠に体を密着させ、体内で練っていた気を周囲に展開し、分厚い妖気の膜と変えて自分と狗遠を保護する。
いまや妖哭山最強の妖魔と呼べるだけの身体能力を覚醒させた雪輝の超知覚が、すぐ身近にまで迫った脅威を感じ取ったのである。
 周囲の妖狼達が再び狗遠の膝下に着くべきかと躊躇する間に、それは雪輝達に襲いかかって来た。薄紫色の巨大な球体である。それを雪輝は妖気と途方もない気体状の毒が混じった吐息であると看破していた。
 完全に雪輝と狗遠を球形に囲い込む雪輝の防御圏は、その毒の吐息に耐えたが周囲の妖狼達や環境は耐えられなかった。
妖魔達の血に濡れていた大地や、無数の砕けた木々、雪輝達を伺っていた妖狼達が毒の吐息に飲まれるやいなや、瞬きをする間こそあれ、見る間に全身を崩壊させて液状に変わってゆく。
毒を持った妖魔は珍しくは無かったが、ここまで強力な毒性を有している個体はそう多くはない。毒の吐息が飛来した方角に険しい視線を注ぎ、雪輝は妖気の防護膜を維持するのと同時に背後の方向に妖気を流しこんで、毒を払い安全な道を作る。

「雪輝、この毒は」

「ああ、これだけの毒を扱えるのは紅牙くらいのものだろう。狗遠、お前はこの場から出来るだけ早く離れて天外の元へ行け」

「っ、私も!」

「駄目だ。これ以上先を言わせるな」

 足手纏いだからか、と狗遠は噛み締めた牙の奥まで出かかった言葉を飲み込む。妖哭山最強の名を争う紅牙は、確かに飢刃丸にさえ及ばなかった狗遠では真っ向から戦うには難しい相手だ。
 いまの雪輝でもなければ紅牙と真っ向から戦う事は出来まい。自らの牙を砕きかねぬほど噛み締めながら、狗遠は自身の無力を呪いつつゆっくりと後ずさりを始めた。奇しくもこの時、雪輝へ愛情を注ぐひなと狗遠は同じように自分自身の無力を呪っていた。

「おい、雪輝」

「なんだ。あまり時間は無いぞ」

「こう言う事を言うのは性に合わぬが、死ぬなよ。私と番になって子を成すまで、何が何でも死ぬな」

 誰かを案じる言葉を口にするなどおそらく生まれてから初めてなのだろう。狗遠は慣れぬ事をしていると実感しているのだろう、苦々しく口にする。
 自分の身を案じてくれていると言うのに、口にする言葉とまるで正反対の狗遠に、雪輝は穏やかな微笑を返した。なかなかどうして狗遠にも可愛い所がある物だな、と感心していたのである。
 度胸があると言うべきか、頭のねじの締め方が緩いと言うべきか。ここら辺が雪輝の雪輝たる由縁であろう。

「任せろ。死ぬ理由は一つもない」

「なら、良い」

 後ろ髪を引かれる思いなのだろう。狗遠はこちらを振り向いた雪輝の瞳を名残惜しげに見つめてから、踵を返して雪輝が毒気を払って作った道を走り始める。
狗遠の気配が遠のいてゆくのを感じながら、雪輝は最後の最後で出てきた大物との戦いを前に、静かに、深く息を吸い込む。
いまだ周囲に残留している紫色の毒を、防御膜の外側に発生させた炎で焼き払い、雪輝は視線を上方へと傾ける。雪輝の巨躯を丸ごと飲み込んでなお余りあるほどの巨大な影が、前方に現れた大蛇から投射されて、雪輝の視界から太陽を覆い隠している。
その全身を視界に収めるのが困難なほどに巨大な大蛇は、一つだけになった瞳に雪輝の姿を映し、感情の伺えぬ視線を浴びせかけている。

「紅牙、久方ぶりだな。だが変わらぬ姿とは言い難いな」

「ますますもって小生意気になったな、狼よ」

 妖鷹族との死闘で片目を失い、大筒の直撃にもびくともしない筈の鱗はあちらこちらで剥がれ落ち、乾いた血が蛇体に赤い斑点を散らしている何とも無残な姿のままで、蛇妖族の長である紅牙は、雪輝の皮肉をさらりと受け流す。
 潰された目玉こそまだ再生してはいなかったが、この雪輝をして戦いを避ける強大な妖魔である雌蛇は、鱗と目玉を除く傷のほぼすべてが完治していた。
 先ほどの毒の吐息を砲弾のごとく飛ばしてきたのは、この紅牙に間違いない。雪輝は紅牙の存在に気付くのと同時に、蛇妖族が周囲に隠れていないか探りを入れていたが、今のところ半径一里以内に紅牙以外の蛇妖の気配や臭いは感じられない。
 紅牙以外の蛇妖達はまだ他の妖魔達と交戦状態にあるのかもしれない。そうであるのなら雪輝にとっては好都合ではあるが……。

「それでお前もこの山の実験に従事しているというわけか、古き蛇よ」

 どこか疲れた声音で雪輝は答えた。生きる事に疲れを感じはじめた老人を思わせる声であった。
 天外に自分の存在の真実について告げられた時は特に堪えた様子を見せなかった雪輝であるが、現在の山の狂乱状態や自身が神の意図によって生み出された操り人形である、という事実はこの呑気な狼にとってもそれなりに精神的な衝撃を与えていた様だ。

「ほう、その話、良くも知っていたもの。天外にでも聞かされたか?」

「ああ。聞いて愉快な話ではなかったがな。大狼も私と同じ実験の産物だったのだろう」

「あれはお前には遠く及ばぬ未熟者であった。それゆえ我らに牙を剥かぬ限り放っておいても構わなんだが、大狼の次に生み出されたお前はそうも行かん」

「お前も他の妖魔同様に、血の刻印に従って私との戦いを欲するか」

「お前を倒す事は望む。だが私は我らに刻まれた宿命に従うつもりはない」

「どういう意味だ?」

 四肢を開き、かすかに重心を低く落として戦闘態勢に移行しながら、雪輝は闘志の炎に新たな薪をくべて、周囲の気を取り込み体内で循環させて、更に強大な力へと変える。
 目の前の狼の総身から発せられる妖気の質と量が、以前とは比べ物にならない事を感じながら、紅牙はしゅう、と薄紫色の毒混じりの吐息を吐く。
 食い殺してきた獲物の血で赤く染まったという牙から透明な毒液を滴らせながら、紅牙は言葉を紡いだ。

「この山が強大な妖魔を産み出す為の実験場である事を、私は卵から孵ったばかりのまだ無力な子蛇でしかなかった頃に知り、そして時を経るにつれてこう思う様になったよ。ではその実験が終わった時、私達はどうなるのか、とな。
 もしこの山の創造主の意図通りの存在が完成したなら、妖哭山と我らは役割を終えた事になる。では役割を終えた我らにはどんな結末が用意されているのか?」

 紅牙の危惧が、雪輝には手に取る様に理解できた。この時、雪輝は紅牙に対してある種の共感を抱いていた。自らの運命を顔も知らぬ第三者によって定められ、敷かれた道の上を歩む事を強要された者同士の、同情にも似た共感。
 妖哭山という壮大な規模の実験場を用意し、おそらくは数千年単位という長期間に及ぶ実験も、世界そのものを創造した神からすれば片手間にできる程度の事に過ぎないだろう。
 ましてや神にとってこの世界の事象は全て遊びの範疇に含まれる。
 そんな神からすれば役割を果たした妖哭山や妖魔達など、切り捨てるのにわずかな躊躇を抱く事もないだろう。
 天変地異、例えば天空から隕石が無数に飛来するか、あるいは大規模な地震、あるいは山を根こそぎ流す様な途方もない大嵐……それらの手段を持って妖哭山全体を壊滅させる方法を取る可能性も馬鹿に出来ない。
 妖哭山における実験の終了は、同時にそこに住まう妖魔達の運命に終焉が訪れる可能性を強く孕んでいる。その事を、紅牙は誰に言うでもなくただ一匹で案じ続け、その果てに導きだした答えに従って、今、雪輝と対峙しているのだ。
 確かに大地と触れあい、また鱗同士が擦れ合っている筈だと言うのに、紅牙の巨体は物音一つ立てずにうねくって、雪輝に対して鎌首をもたげた体勢を維持する。
 雪輝は、かすかに目を細めてこれまで敵としてしか認識していなかった蛇妖族の長へと、哀れみを交えた視線を向ける。少なくとも目の前の蛇妖は自分などよりもはるかに長い時を、人知れず苦悩と共に生きてきた事には間違いなかったから。

「なるほど、な。ならば実験が終わらぬ限りは少なくとも妖哭山とそこに住まう妖魔達が用済みにはならない、とお前が考えたわけか」

「賢しい奴め。だがその通りだ。大狼程度ならばまだ実験が終わりを迎えたわけではない事は明白故、私は歯牙にもかけなかった。お前も人間の童を連れていた時、あの時はまだお前は私にとって絶対の脅威ではなかったゆえ、見逃した。
 だが、今のお前は別だ。今のお前ならば創造主の目的に沿うだけの力があるだろう。お前を持ってこの山の実験が終わりとなるのなら、私はそうならぬよう抗う。 お前を倒し山の実験を存続させ、一族の命運を繋がねばならぬ。お前の次の存在も、その次の存在も、私はその全てを倒してこの山を存続させるぞ、狼よ」

「そうか……。お前のその信念に免じて討たれてやりたいと思わぬでもない。が、私には約束がある。狗遠と、鬼無子と、そしてひなと、必ず生きて変えると交した約束がある。紅牙よ、敬意を払うに値する蛇よ、お前はここで終わりだ」

 もはや交すべき言葉は無いと、雪輝と紅牙の双方が悟る。雪輝は交した約束の為に。紅牙は自らの信念の為に。両者は互いの存在を否定しなければならぬのが定めであった。
 紅牙と雪輝との距離は十間(約十八メートル)。紅牙にとっても雪輝にとっても一瞬もあれば十二分に詰める事の出来る距離だ。
 先手を取ったのは雪輝である。爆発的に増大した妖気に任せて紅牙の蛇体全てを包み込むほどの途方もない規模の冷気を瞬時に発生させ、瞬き一つをする間に紅牙を見上げるほど巨大な氷の山の中へと閉じ込める。
 蛇妖は総じて冷気に弱い。例え紅牙ほどの蛇妖としては最高峰に位置する個体であっても、冷気を弱点とする生物的特性は変わらない筈だ。
 これで終わればいいが、終わる筈がない、という雪輝の思いが伝わったわけでもあるまいに、氷山の中に閉じ込められた紅牙の蛇体から、なにか虫の羽音に酷似した低い音が発し始め、音が大きくなるのに合わせて分厚い氷山に内側から罅が走り、雪輝の目の前で粉状にまで細かく砕け散る。
 雪輝の瞳は確かに見た。紅牙の数万枚を越えるだろう鱗一枚一枚が極微細な振動を放っているのを。紅牙の蛇体全体を覆う無数の鱗一枚一枚が、超振動を発生させて氷山を内側から破砕したのだ。
 毒に関しては以前から雪輝の知識にあったが、振動を発生させて物体を破壊する力はこれまで知らなかった事だ。強敵の秘めていた新たな脅威に、雪輝は舌打ちを零しながら真っ直ぐに駆けだす。
 第一歩の時点でつい数刻前までの最高速度に到達した雪輝は、鱗の剥げている箇所めがけて跳躍し、妖気を乗せた前肢の爪を叩き込む。
 分厚い肉を妖気の爪が水を割く様にほとんど手ごたえなく切り裂く。鱗の無い箇所であれば、雪輝の攻撃は十分に紅牙に通じる。
 紅牙の潰れた左目側の死角から飛びこむ雪輝を、紅牙はあえて一撃を受けてから迎え撃った。
 前肢の先端から不可視の妖気の爪を長く伸ばし、一息に紅牙の肉を裂いた直後の雪輝にうねる紅牙の蛇体が真正面から叩きつけられたのである。
 体表に展開している妖気の防御膜と体毛に限界まで妖気を流し込み、集中的に防御力を高めた雪輝は、それでもなお骨の奥まで届く衝撃に襲われて、そのまま弾き飛ばされて大地に叩きつけられる。
 巨大な窪地が出来るほどの衝撃で背中から大地に叩きつけられた雪輝は、それでもさしたる痛痒を感じている様子はなく、巻き起こる粉塵の中心地で、すぐに体勢を直して紅牙へと視線を映す。
 紅牙は思いきり深く息を吸い込んで咽喉の辺りを大きく膨らませていた。背筋のど真ん中を稲妻で焼かれる様な衝撃を感じ、雪輝はすぐさまその場から大きく飛び退いた。
 直後、顎を限界まで開いた紅牙の咽喉奥から、先ほど雪輝と狗遠目がけて放たれた猛毒混じりの吐息の砲弾が立て続けに連射されて、次々と雪輝へと降り注ぐ。
 吐息に含まれる猛毒もさることながら、純粋な破壊力も小さな砦くらいなら一撃で粉砕せしめる、途方もない代物だ。
 風を置き去りにするほどの速さで樹海の中を走る雪輝を精密極まりない速度で捕捉し続け、紅牙が吸い込んだ吐息の続く限り猛毒の砲弾を撃ち続けた。
 一瞬前まで雪輝のいた空間に着弾した吐息は、まず直径十五間(約二十七メートル)はあろうかという巨大な窪みを大地に穿ち、次いで拡散した猛毒が凄まじい勢いで大地と大気を溶解させている。
 肉体と魂の調和が整った事で、能力を劇的に向上させた雪輝をしても背筋に寒い物を覚える厄介極まりない攻撃といえる。
 ただ幸いなのは妖気がある限り熱量操作を続けられる雪輝と違い、紅牙はあくまで自身で分泌する毒と吸い込んだ大気の蓄えが続く限り、という弾数制限があることだ。
 紅牙が吸い込んだ大気を全て出し終えた瞬間を見計らい、紅牙を中心に円を描く様に回避行動を取っていた雪輝は、急激に方向を転換して紅牙目がけて激しく大地を蹴って迫る。
 高速で大地を走る雪輝に押しのけられた大気が荒れ狂い、岩や木々の破片を巻きあげられている。例え鬼無子や夕座であっても果たして反応しうるかどうか、それほどの速さで雪輝は紅牙へと飛びかかった。
 紅牙は雪輝の姿を無事に残っている右目ではっきりと捕捉し、真紅の牙を露わにして大口を開き、雪輝の体に大穴を開けんと迎えうつ。
 さしもの雪輝といえども紅牙の猛毒と牙が相手では、一撃で致命傷に至ってもおかしくは無い。
 千分の一秒単位での反応で、雪輝は四肢の先端に妖気を滞留させて即席の足場と変えて、空中で鋭角に軌道を転じわずかな距離を開いて、がちんと火花を散らして噛み合わされた紅牙の牙から逃れる。
 わずかに零れた毒が雪輝の左脇腹の毛に触れて、見る間に白銀の毛並みが黒く変色して腐れ落ちる。雪輝はすぐさま新たに妖気を放出して付着した毒を払うのと同時に、加速して紅牙の左頭部の付け根にほど近い箇所に、自分自身を弾丸として叩き込む。
 雪輝自身にも凄まじい衝撃の反動があり、雪輝は大きく後方に弾かれるが、空中で身を捻り体勢を正して軽やかに大地に着地する。
 一方で紅牙は圧倒的な質量差があるにもかかわらず、大きく頭部を逸らしもんどり打って仰向けに倒れ込んでいた。
 紅牙の巨体に数百本の樹木が押し潰され、幾重にも重なる破砕音を奏で上げる。紅牙が仰向けの状態から体勢を直す前に追撃を、と狙う雪輝を左方から山の崩落を思わせる巨大な尻尾が、横殴りに襲い掛かってくる。
 ただ雪輝に倒されただけではない、ということだろう。
 咄嗟に紅牙の尾と自身との間に氷壁を五重に展開し、雪輝は直上に飛び上がる。
 雪輝の妖気が混入した氷壁は同等の厚みの鉄に数倍する強度を誇っていたが、紅牙の尾の前にはぴんと張った薄紙程度の抵抗しか示さず、呆気なく砕かれる。
 五枚の氷壁は合計一秒ほどの時間を稼ぎだし、雪輝にとって回避を成功させるのにはその一秒で十分であった。
 尾が抉り抜いた大気の乱れに体を流されかけて、体勢を乱されてそれを修正する事に意識を割いた瞬間、置き上がり恐ろしい速度でなおかつ音一つ立てずに迫っていた紅牙の頭部が、巨大な戦鎚となって雪輝の体を真正面から捉えて吹き飛ばす。
 体中の骨という骨や内臓がそのまま口の中から溢れだしてしまいそうになるのを、必死に堪えて、雪輝は吹き飛ばされる中で無理矢理に妖気を操作して方向を転換し、強引に着地する。
 ごはぁ、と血と胃液を交えて液体を吐いて口元を汚し、雪輝が苛立ちを隠さぬ声で言う。

「この、石頭がっ」

「貴様に言えた義理か」

 雪輝の視界をあっという間に埋め尽くす速さで迫りくる紅牙目がけて、雪輝は冷気ではなく紅蓮の業火で応じた。雪輝の扱う事の出来る最大級の冷気でさえ、紅牙には通じぬ事から、打てる手を全て確かめる腹積もりであった。
 はっきりと鱗の欠損が目立つ今の紅牙であれば、普段なら通じぬ様な炎熱による攻撃も、通じる可能性がわずかでもある。
 何の前触れもなく足元から出現し、天まで焦がさんと燃え猛る炎の海に飲まれた紅牙は、しかしそれでもわずかも勢いを減じることは無く、わずかに鱗の剥げた箇所の肉を炭状へと焦がしたきりで、雪輝へと迫りくる。
 氷山を砕いた超振動は効果を発揮するまでわずかながら時間を要する事から、業火を突破したのは超振動ではあるまい。雪輝の瞳は、わずかに紅牙の鱗の隙間に残っている紫色の液体に気付く。

「毒の膜で自身を覆い尽くしたか、器用な真似を!」

「貴様ほどではないわ!」

 叩きつけられる紅牙の頭部を右方への跳躍でかわし、雪輝は稲妻のように鋭く大地を駆けて、連続して紅牙の蛇体へと再び体当たりと爪牙を用いた斬撃を叩き込む。
 蛇と狼の互いの信念と存在をかけた戦いなど知らぬとばかりに降り注ぐ陽光を跳ね返し、白銀の光が格子のごとく紅牙を囲い込んで百、二百と瞬く間に攻撃を重ねて行く。
 流石に罅が走り紅牙の鱗がわずかずつ砕け始めるが、同時に紅牙と激突する度に大きく妖気を削られる雪輝も、傷こそないが消耗を強いられた。
 というのも紅牙が全身に常に振動を纏いだしており、接触するだけでも傷を負わされてしまい、それを防ぐためには妖気の防御膜を展開しなければならないからだ。
 炎熱にしろ氷結にしろ雪輝の保有する遠距離攻撃手段ではどうしても紅牙の守りを突破するには及ばず、決着を着けるには近接戦で致命の一撃を加えなければならない。
 紅牙の頭部を死角となる顎下から全身を弾丸に変えてかちあげ、わずかに作った隙に周囲の気脈から一気に力を吸い上げ、消耗した妖力を補充。同時に反撃の体勢を即座に整えた紅牙からの、返しの一撃に備えて回避と防御の用意を整える。
 これを先ほどから延々と繰り返し、不死身かと疑いたくなるほど弱る様子を見せない紅牙を相手に、雪輝は絶え間ない猛攻を加え続けていた。
 雪輝の牙と爪が唸り、生み出される業火と冷気は周囲の地形を変えながら幾度となく紅牙を包み込み、巨体そのものが比肩する者の無い巨大な武器である紅牙は、猛毒滴る牙と鱗から発せられる万物を原子にまで分解する超振動、毒液を交えた大気の砲弾で応じている。
 延々と繰り返される両者の戦いは、数刻の時を経て太陽が山々の稜線を夕焼けの色に染めながら沈むまで膠着状態を維持していた。

「がはっ」

 紅牙の残る右目を潰さんと踊り掛った所を、狙い澄まされた反撃の一撃で叩き落された雪輝は、地面の上を何度も跳ね飛びながらかろうじて四肢を踏ん張って大地の上に立つ。
 膨大な量の気を取り込み、自身の力へと還元して戦い続けてきた雪輝であるが、予想をはるかに上回る紅牙の強さに、既に周囲の気脈はあらかた枯渇し始めており、これ以上周囲から気を補充するのは難しい状態であると言える。
 となれば賭けの要素が大きくなるが、一撃で勝負を決めに掛らねばなるまいと雪輝は腹を括る。
 いくつもの円形の窪みが出来上がり、そこがかつて長い年月を経た巨木の生い茂る樹海であったなどと、誰が見ても信じられぬほど荒れ果てた戦場で、雪輝は大きく肩で息を吐きながら紅牙の瞳を正面から見据える。
 紅牙もまた決着を強く意識した雪輝の瞳に感じるものがあった様で、攻撃を控えて雪輝の言葉を待っていた。雪輝が大きく消耗を強いられていた様に、一見堪えていない様に見える紅牙も、意識が半ば朦朧とするほどの傷を蓄積していた。

「終わりにしようか、紅牙」

「そうだな」

 お互いの命を狙う敵対者とは思えぬほど穏やかな声音で短い言葉を交わし合い、雪輝と紅牙は一瞬の沈黙を共有する。雪輝が狙うはただ一点のみ。紅牙がもまた雪輝が一撃で勝負を着ける為にどこを狙うかを理解していることだろう。
 深く肺一杯まで空気を吸い込み、雪輝は紅牙へと真っ向から飛び掛かる。両者の間に開いていた二十間の距離は一瞬でさえ長く感じられる時間で、無と化した。

「ぐるおぁああああ!!!」

「死ねぃいい!!!」

 ぐばっと水音を立てて開かれた紅牙の鮮血をぶちまけた様に赤い口内には、大量の毒が溜め込まれていた。まさに雪輝の狙い通りの展開であり、同時に紅牙の狙った通りの展開でもあった。
 鱗に覆われていない上に一撃で致命傷を与えうる場所として雪輝が選んだのは、紅牙の口内、そして紅牙もまた雪輝の狙いを看破しここで決着を着けるべく自分の口内に大量の毒を分泌して溜め込んでいたのである。
 雪輝は空中で妖気によって形成した足場を蹴って更なる加速を得て、躊躇なく紅牙の口の中へと突撃する。体表上を高速で対流する妖気の防御膜にありったけの妖気を回し、螺旋状に高速回転させる事で貫通性能を向上させる。
 ばくん、と勢いよく紅牙の口が噛み合わされて、雪輝の視界は暗黒に閉ざされる。紅牙が特別濃厚に、そして大量に分泌した毒は凄まじい勢いで雪輝の攻防一帯の防御膜を侵食し、わずかに防御膜を突破した牙の数本が雪輝の左半身を掠める。
 瞬時に体の内側から腐ってゆく言語に絶する痛みに襲われながら、雪輝は更に紅牙の口内で加速を重ねる。体内を犯す紅牙の猛毒への対抗よりも攻撃に残る妖気を投入し、激突した紅牙の口内の肉のさらに奥へ、奥へと進む。
 紅牙の口腔へと雪輝が突入し、ぴたりと紅牙の動きが止まって数秒後、ぼこりと音を立てて紅牙の後頭部が膨れ上がり、限界まで伸びたそれはやがて内側から巨大な爆発が起きたように弾け飛び、母胎を裂いて産まれた血まみれの鬼子のように紫の毒液と紅牙の毒血に塗れた雪輝が姿を現す。
 勢い凄まじく紅牙の後頭部を突き破り、紅牙の上顎から上を吹き飛ばした雪輝はやがて重力の鎖に全身を囚われて、ゴミのように大地に叩きつけられる。
 雪輝に遅れる事五秒、脳味噌を吹き飛ばされた紅牙の体がゆっくりと横倒しになり、鼓膜を破りかねない地響きを立てる。さながら局所的な地震といっても過言ではないほどの振動が辺り一帯を襲う。
 その振動で意識を半ば喪失していた雪輝が、四肢を投げ出して倒れていた姿勢からかろうじて首を起こして、絶命した紅牙の姿をうっすらと開いた瞳に映す。
 ぼとり、と音を立てて雪輝の左前肢が付け根から溶け落ちた。全身を余すことなく毒に置かされていたが、口内で牙を受けた左半身の損傷があまりに酷い。
 四肢の一つを失いながら、なんとか立ちあがろうと震える体に鞭を打ち、雪輝は足掻いていた。

「早く、鬼無子と、ひなの、所に……帰らないと。心……配、している、だろう、から」

 もはやまともに目も見えず意識もはっきりとしていないのだろう。雪輝はどちらへ向かえば良いのかもわからずに、夢の国の中に迷い込んだかのようにふらふらと彷徨し始める。しかし毒に侵された体は満足に動く事が出来ず、一歩進む事さえ覚束ない有り様である。
 そして雪輝は三歩進んだ所で力尽きて、小さな音を立てて倒れた。



 冬の冷たさを多く孕んだ秋の風が吹く様になり、一層寒さが肌を嬲る様になっていた。幸いにして秋の空は天高く晴れ渡り、この世に生きるあらゆる生き物を全て祝福する様に太陽が煌々と輝いている。
 妖哭山の最外縁部にあたる麓に、傷の癒えた鬼無子とひなと一人の青年の姿があった。
ただしひなはいつもの野良着姿ではなく庶民の一般的な旅装姿である。三人ともが穏やかな笑みを浮かべて談笑に耽っている。
 ひな達と会話を交わしているのは、あの黄昏夕座の美貌もかすむかのような、夢にさえ見る事の出来ない美貌の青年であった。
 本物の銀さえも色あせて見えるだろう白銀の髪と、青く濡れた満月を思わせる鮮やかな色彩の瞳、目鼻顔立ちの彫りは神夜の人々よりも深く異国の情緒を感じさせる。背丈は六尺ほどで体つきは柳の様なしなやかさとたくましさを兼ね備えている。
 老いも若いも、そして男と女の区別なく魅了して心まで奪う、まさに人ならざる美貌の主という他ない。しかしどこか天性の人の良さが滲んでおり、纏う雰囲気も春霞に包まれている様な穏やかなものだから、不思議と人懐っこい印象を与える。
 苦労を知らずに育った大店の若旦那――ただし途方もない美しさの――と言えば誰もが納得しそうだ。空の色を思わせる水色の袴姿であったが、背中に大きな風呂敷包みを背負っているのが、道化の様な愉快さがある。
 だがその青年の左腕は付け根から失われている様で左袖は風に靡いており、また左目は固く閉ざされている。この様子では左目を失明しているのであろう。
 ひながよいしょ、と小さな声を出して背中に小さな風呂敷を背負う。

「これでもう忘れものはありませんね、雪輝様」

 ひなの満面の笑みを向けられた青年――主水に人間への変化の術を教わり、見事人間へと化けて見せた雪輝は、にっこりと途方もなく美しいのに、その癖親しみやすさの滲む好もしい笑みを浮かべて愛する少女に答える。

「ああ、小屋を離れるのには寂しさを覚えるが、仕方あるまいな」

 紅牙がとの死闘の果てに、力尽きて気を失った雪輝であったが、かろうじて治療の終わった鬼無子と、合流していた狗遠がその場に駆け付けた事で、奇跡的にも命を繋ぐことに成功し今日に至っている。
 その代償として雪輝は左腕を付け根から失い、左目は完全に失明し、左耳の聴力も喪失し、左足も日常生活を送るには十分に動くのだが、戦闘を行うには支障が生じる程度に問題が残っている。
 妖哭山最強の妖魔であった紅牙を倒した事で、妖哭山の実験が終了になるかという危惧を雪輝は抱いていたが、今のところその様な気配はなく、狂乱に陥っていた内外の妖魔達も本来の性質を取り戻し、外部に進出していた内側の妖魔達は全て元いた場所に戻っている。
 今回の戦いで多くの妖魔の集団が主戦力と長を失っており、暫くの間は子を増やし新たな長を決める事に時間を費やす事になるだろう。
 雪輝が山に留まり続ける事によって実験が継続されるかもしれない可能性と、夕座を退けた雪輝を危険視した織田家が本格的な討伐隊を指し向ける危険性から、雪輝とひなと鬼無子は妖哭山を離れる事を、話し合いの末に決めていた。
 今日はその旅立ちの日であった。樵小屋は管理を山の民に委ねて、旅に必要な荷物は全て整理してある。織田家の追跡を割ける為、鬼無子の土地勘と伝手のある大和朝廷を目指して、西に旅する予定である。
 雪輝と鬼無子とひなは揃って山の方角へと視線を向ける。そこには雪輝達を見送りに来た凛の姿があった。名残惜しさをたっぷりと薄い胸の中に溜め込んでいるのだろう、凛の瞳は先ほどから潤みっぱなしである。

「なあ、本当に山を出て行っちまうのか?」

「仕方あるまい。私達がこの山に留まってはさらに厄介事が襲いかかって来かねぬ。山の民に迷惑をかけよう」

 それ位は気にしなくていいのにさ、と凛はそっぽを向いた。どこか頬が赤いのはひな達と別れる寂しさもあるが、人間に変化した時、予想だにしなかった美貌を披露した雪輝の顔を正面から見られないことにも関係しているだろう。
 ぐずる凛を慰める様にひなが声をかけた。左前肢を失った姿で帰還した雪輝の姿を見た時は、丸一日泣き通して悲しんだものだが、今は心の整理が着いた様でいつも通りに年齢不相応に落ち着き払った調子を取り戻している。

「今生の別れというわけではありません。いつかまたここに戻ってこられます。ですから、その時までどうかお健やかに、凛さん。凛さんは本当に良くしてくださって、私、お姉さんが出来たみたいで嬉しかったです」

「ひなぁ~、本当にいい子だよぉ」

 ひしとひなに抱きついておいおいと泣く凛の姿に、雪輝と鬼無子は顔を見合わせて苦笑する。かねてから凛がひなを実の妹のごとく大切に思っていた事は知っていたが、よもやこれほどとは思わなかったのである。
 そのまま暫くの間凛はひなに抱きついて離れなかったが、よしよしとひなが凛の背中を撫でて慰めているうちに踏ん切りが着いたのか、やがてひなの背中にまわした腕を解き、ひなを解放する。

「外で何か困った事があったら山の民を頼るんだぞ。内の長とお婆の紹介状があれば大抵の所なら宿くらいは貸してくれるからさぁ。気が向いたら顔を出せよ、ここに戻ってこいよ」

「ふふ、これではひなとどちらが子供なのか、分かりませぬな、凛殿」

「ちぇ、あたしだってらしくないって事くらいは自覚しているさ。でも寂しいもんは寂しいんだからいいじゃないか」

 鬼無子の言葉に凛はますます拗ねる様子を見せる。困ったものだと三人は顔を見合わせたが、いつまでもこうしてじゃれ合ってばかりもいられない。まだ陽の高いうちに大和朝廷を目指して旅立たねばならない。
 三人の空気の違いを察したのだろう。凛はそれ以上ひなを引き留める事はせずに、ただ寂しさと悲しさを湛えた瞳を向けるきり。

「ではな、凛。お前との決着を着けられずに済まぬとは思うが、いずれまた会う時まで息災であれよ」

「凛さん、これまで本当に良くしていただいてありがとうございました。凛さんの事は絶対に忘れません。ですから凛さんもお怪我などしないでくださいましね」

「短い間ではありましたが、それがしにとって掛け替えの無い記憶となる日々でありました。折を見てまたこの山に戻ってくる事もありましょう。その時にはまた変わらぬお付き合いをお願いいたします」

「うん、皆も、本当に怪我とか気を付けてな」

 最後にひながぺこりと凛に頭を下げて、三人は凛に背を向けて妖哭山の麓から西へと向けて歩み始めた。凛は、その背中が見えなくなるまで長い事そこに立ち続けた。一頭の妖魔と二人の少女達の進む未来が、少しでもより明るく幸福である事を、願いながら。
 一番歩幅の小さいひなに合わせてのんびりと妖哭山周囲の荒野地帯を進む雪輝達は、鬼無子の語る大和地方の話に好奇心を隠さずに質問をしながら、これから自分達に待ち受ける未来を想い、のんびりと足を進めている。
 そうしていると不意に雪輝が左の方に生えている数本の木陰に向けて、こんな風に声をかけた。

「私としてはもう一人くらい旅の道連れが増えても構わぬのだが、どうだね」

「雪輝様?」

 とひなは不思議そうに手を繋いでいる雪輝の顔を見上げたが、鬼無子はと言えば雪輝と同じものに気付いていた様で、一国の姫君と見えるせっかくの気品ある顔立ちを盛大に歪めて、木陰から姿を見せた一人の女性を睨みつける。
 まるで灰を頭からかぶった様に髪の色から着物に至るまで、灰色一色で整えた女である。
 身の丈は五尺と七寸と雪輝ほどではないにせよ、この国の標準的な身長を越えていてすらりとした長身は雪輝と同じようにしなやかでいながら、くびれる所はくびれ、出る所はきっちりと出ており、全体的に非常に調和のとれた体つきをしている。
 眼差しは鋭く人見知りをする子供であったら一睨みされただけで泣き出してしまいそうだ。険の強さが目立つがまず一級の美女である事は変わりない。
 擦り切れた草履を履いた足が、ゆっくりとではあるが雪輝達の方へと向かって歩き出し、灰色の美女はどこかぶっきらぼうにこう言った。

「お前が望むのなら一緒に行ってやっても構わん。今更一族の元に戻る気もなくなったしな」

 実際、飢刃丸の死に続き紅牙と雪輝の戦闘に巻き込まれた事で妖狼族の主だった戦士達はほとんど死に絶えており、群れを維持する事はほぼ不可能となっていた。今更長の座に返り咲くだけの価値は、狗遠の中ではなかったのだろう。

「なら一緒に行こうか、狗遠」

 薄く笑みを浮かべて告げる雪輝に、ふん、と狗遠はつまらなそうに鼻を鳴らしたが、尻のあたりの布地がもぞもぞと動いている事から、隠している尻尾は素直に同行を誘われた喜びを露わにしているらしい。
 唐突に姿を見せた女性の正体が分からず小首を傾げているひなに、鬼無子が耳打ちして今回の騒動で共闘した雌狼の妖魔である事を伝えると、ひなはあら、という顔を拵えてから深々とお辞儀した。
 ひなに頭を下げられた狗遠は、ひなの左手と雪輝の右手が固く握りしめられている事に気付き、また、ふん、と鼻を鳴らした。
 雪輝が自分以外の雌と慣れ慣れ親しくしている事は面白くないことこの上ないが、今は雪輝と行動を共に出来る事の喜びから上機嫌で、それ位は許してやろうと言う気分になっていたのであろう。
 狗遠が雪輝の知り合いであると言う事からそれだけでひなはもう警戒はしていない様子であったが、狗遠を雪輝を巡る恋敵であるとはっきりと認識している鬼無子は、正面から狗遠と睨み合いをはじめ二人の視線がぶつかりあって、勢い激しく目に見えない火花を散らしている。

「二人とも、置いて行くぞ」

 鬼無子と狗遠が火花を散らし合っている間に、雪輝とひなは足を動かす事を再開しており、いつのまにか距離が開いていた。慌てて鬼無子と狗遠が雪輝達の後を追い始める。

「雪輝様」

「うん?」

 こちらを見上げてくるひなに、雪輝はなんだね、と口にする代わりに首を傾げて問いかけた。

「とても賑やかになりそうですね」

「そうだな。旅は道連れと言うし、道中は賑やかな方がよかろう」

 はい、とひなは答えてから、そう言えば、と以前から気になっていた事を雪輝に聞いてみることにした。

「そういえば、雪輝様は今年で御幾つになるのですか? 百歳くらいですか?」

「ん? いやそこまでは長生きしていないな。確か……」

「確か?」

「今年で五歳くらいかな」

 直後、ひなと鬼無子の挙げた驚愕の叫び声を、青い空が吸いこんでいった。良く晴れた空は今日が旅の始まりには最良の日であると主張しているかのようだった。

<完>

というわけで第三部これにて終了でございます。雪輝たちの山での戦いが終幕を迎えるため、これまでに比べ非常に長いものとなりました。これまでお付き合いくださった皆様には心からの感謝を捧げます。
また雪輝ですが産まれた時から二十代前半の状態であったので、外見年齢は別に子供ではありませんし、精神年齢も外見よりやや幼い程度です。

ではご感想への返信です。

白いクロさま

はい。第三部最終話を除けば最大の危機でしたが、そこは主人公補正といいますか、まあ土壇場の切り札で逆転でございます。

通りすがり様

過分なお言葉、心に染み渡るかのようです。当初からあった設定ではありますが、なかなか表に出す機会がなく、少々唐突に過ぎたかなと危惧しておりましたが、お褒めの言葉を頂き安堵しております。

天船様

第四部に持ち越しかと思わせておいて蛇の問題は解決しました。妖魔改も伏線を感じさせる動きを見せましたが、今回は退却しています。雪輝にとっては失うものの多い戦いだったかもしれませんが、同時に避けては通れぬものでもありました。

taisaさま

天外は非常になぞに満ちたキャラとしてつくってありいます。ある意味で非常に便利なおじいさんです。ぎりぎり善人かな? という位に胡散臭い人なので信頼はあんまりされておりませぬが。雪輝の前世などについてなどまだなぞを残していますがそれらも今後飽かしてゆく予定にはなっておりますので、お楽しみに。

Lさま

予定としましては本当に子宝に恵まれた大家族になってもらう予定です。修羅場もいっぱいというのが私の技量で書きうるかどうか怪しい所ですが。幸せ一杯にはなるかなと思います。

ヨシヲさま

( ゚∀゚)o彡°モッフる!モッフる!(挨拶返し)
とまあこんな感じでもし夕座が負けたときのこととかをあらかじめ決めてあったので、素直に妖魔改は退却しました。まあいかにも、な感じになっておりますが。ま雪輝はぶちキレた時に体力気力が完全回復していましたので、そのまま連続先頭に突入で。中ボス二体からラスボスまでセーブポイント無しの強制戦闘イベントと言ったところでしょうか。

ここまでお付き合いくださり誠にありがとうございました。また今後もお付き合いいただければ幸いと存じます。
感想、誤字脱字などお待ちしております。

7/3 22:28
7/4 08:51、15:00
7/5 08:45


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028692960739136