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No.19828の一覧
[0] 少女の愛した狼 第三部完結 (和風ファンタジー)[スペ](2022/01/30 08:17)
[1] 命名編 その一 山に住む狼[スペ](2010/11/01 12:11)
[2] その二 出会う[スペ](2010/11/08 12:17)
[3] その三 暮らす[スペ](2010/10/23 20:58)
[4] その四 おやすみ[スペ](2010/06/28 21:27)
[5] その五 雨のある日[スペ](2010/06/29 21:20)
[6] その六 そうだ山に行こう[スペ](2010/06/30 21:43)
[7] その七 天外という老人[スペ](2010/07/01 20:25)
[8] その八 帰る[スペ](2010/07/03 21:38)
[9] その九 拾う[スペ](2010/07/12 21:50)
[10] その十 鬼無子という女[スペ](2010/11/02 12:13)
[11] その十一 三人の暮らし[スペ](2010/07/07 22:35)
[12] その十二 魔猿襲来[スペ](2010/07/08 21:38)
[13] その十三 名前[スペ](2010/09/11 21:04)
[14] 怨嗟反魂編 その一 黄泉帰り[スペ](2010/11/01 12:11)
[15] その二 戸惑い[スペ](2011/03/07 12:38)
[16] その三 口は災いのもと[スペ](2010/11/08 22:29)
[17] その四 武影妖異[スペ](2010/12/22 08:49)
[18] その五 友[スペ](2010/10/23 20:59)
[19] その六 凛とお婆[スペ](2010/10/23 20:59)
[20] その七 すれ違う[スペ](2010/10/23 20:59)
[21] その八 蜘蛛[スペ](2010/10/23 20:59)
[22] その九 嘆息[スペ](2010/10/23 20:59)
[23] その十 待つ[スペ](2011/03/25 12:38)
[24] その十一 白の悪意再び[スペ](2010/12/01 21:21)
[25] その十二 ある一つの結末[スペ](2010/11/08 12:29)
[26] 屍山血河編 その一 風は朱に染まっているか[スペ](2010/11/04 12:15)
[27] その二 触[スペ](2010/11/09 08:50)
[28] その三 疑惑[スペ](2010/11/13 14:33)
[29] その四 この子何処の子誰の子うちの子[スペ](2010/11/20 00:32)
[30] その五 虚失[スペ](2010/11/22 22:07)
[31] その六 恋心の在り処[スペ](2010/11/29 22:15)
[32] その七 前夜[スペ](2010/12/13 08:54)
[33] その八 外[スペ](2010/12/22 08:50)
[34] その九 幽鬼[スペ](2010/12/27 12:12)
[35] その十 招かざる出会い[スペ](2011/01/03 20:29)
[36] その十一 二人の想い[スペ](2011/01/07 23:39)
[37] その十二 味と唇[スペ](2011/01/16 21:24)
[38] その十三 雪辱[スペ](2011/02/16 12:54)
[39] その十四 魔性剣士[スペ](2011/02/01 22:12)
[40] その十五 血風薫来[スペ](2011/05/25 12:59)
[41] その十六 死戦開幕[スペ](2011/02/24 12:21)
[42] その十七 邂逅[スペ](2011/03/20 20:29)
[43] その十八 妖戦[スペ](2011/03/23 12:38)
[44] その十九 魔弓[スペ](2011/03/31 09:00)
[45] その二十 死生前途[スペ](2011/05/17 08:55)
[46] その二十一 仙人奇怪話[スペ](2011/05/22 21:31)
[47] その二十二 魔狼と魔剣士[スペ](2011/06/05 20:58)
[48] その二十三 真実[スペ](2011/06/20 12:56)
[49] その二十四 別離[スペ](2011/09/02 23:49)
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[19828] その十四 魔性剣士
Name: スペ◆52188bce ID:e5d1f495 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/01 22:12
その十四 魔性剣士


 鬼無子とひなの危惧を無駄なものにして、五体無傷な姿を凛と雪輝が見せてから、そのまま樵小屋に戻る流れになった。
 二人の姿を見て明らかにほっとした顔をしたひなを見て、流石に凛も今更ながらに雪輝と戦う事と傷つける可能性に対する罪悪感を再認識し、お茶に誘うひなに断りの言葉を告げられなかったのである。
 お二人が無事でなにより、とかんらかんらと妙に晴れやかな顔で笑う鬼無子に、凛はいささか訝しげな視線を寄せたが、気にするほどの事ではないと割り切って、そのままひなに手を引かれるままに足を動かした。
 直前まで確かに命のやり取りをしたはずであるのに、雪輝にまるで気にした様子がない事もあって――いつもの事ではあるが――凛はすっかり毒気を抜かれてしまった。

「お前も疲れたであろうから、茶でも一杯飲んでゆくと良い」

「そういうお前は平気の平左って所だな」

 凛を気遣う余裕さえ見せる雪輝に返した凛の言葉が、多少棘のあるものであっても止むを得ないものであろう。
凛がどれだけ技術と知恵を尽くしてもなお傷一つ与えられぬ相手に気遣われるなど、恥辱そのものといってよかろう。

「私の場合はただ在るだけで天地の気を取り込み、血肉に変えているからな。戦いながらでも常に力を補充しているも同然だ。戦い方を考えれば天地が滅びでもしない限りにおいては永劫に戦い続ける事も出来る。多分だがな」

 多分、と口にする時に雪輝は両前肢の肩を奇妙に動かした。人間でいえば肩を竦めたと映っただろうか。人間に酷似した動作をする事の多い雪輝であったが、ひょっとしたら体構造そのものが純粋な狼とは異なるからこその芸当であるかもしれない。

「どだい、お前に持久戦を挑むのは最初から間違いで、消耗を狙うのも狙いどころを大いに外しているってことかい」

「少なくとも人間のお前には得策ではあるまい。私とお前が生物としてあまりにも差が大きい事はお前とて否定はすまい? 私が気を取り込む以上の速さで消耗を強いるか、私と天と地との繋がりを断てるのならばともかくな」

「あたしが狙うなら前者の方法だけど、なんというかなぁ」

 そうは口にはしたもののそれが途方もない難事であると悟り、凛はますます雪輝に傷を付ける事さえ難しいのだと言う事を思い知らされて長い溜息を吐いた。
 樵小屋に着くと、凛は背中から外して脇に抱えていた刃蜘蛛を土間に降ろしてから、ひなの勧めるままに囲炉裏の前に座布団を敷いて、どっかとその上に座り込む。
 それに続いて鬼無子が座り込み、やや遅れてひなが雪輝を伴って茶請けを持ってくる。木盆の上に蒸し饅頭と焼き栗が乗せられていた。ひなが雪輝を伴っているのはこれらの品に熱を通すのに力を借りたからだ。
 早速と言わんばかりに、凛はほくほくとした焼き栗の皮を剥き始める。

「今回も結局あたしが負けちまったけどさあ、今度はなに持ってくればいい?」

 決闘に負けたのは事実と認め、凛は多少敗北の悔しさを滲ませてはいたが、約束を遵守するつもりで口にした。

「義理固い事ですな、凛殿は。そこら辺の具合はひなの方に聞いていもらえるかね」

 鬼無子に水を向けられたひなは左の人差し指を顎に添えて、必要になりそうなものを思い描いたが、いますぐに必要となりそうなものは思いつかない様子であった。

「この前のお買いもので大体済みましたから、いますぐにというものはないかと思います。でもこれからの季節は初めての事ですから、その時になってから要るものが出てくるかもしれませんね」

「まあ、その為に買い物行ったんだからそうなるわな。とりあえずは保留かねえ」

 焼き栗を三つほど口の中に放り込み、凛は予め予想していた通りの答えが返ってきたな、と心中でうんうんと首を縦に振る。
 鉄瓶に直に触れて中身の香草茶を温めていた雪輝が、顔を上げて口を開いた。穏やかな声音で話す事の多いこの狼にしては珍しく、固い声音で在った事がこの場に居た三人の少女達の注意を引いた。
 雪輝は一度だけひなの顔を見て、口にすべきか逡巡した様子を見せたがいまのひなならば、下手に気を病むまいと思い直して開いた口を閉ざしはしなかった。

「愉快な話ではなくて済まぬが、これからの事で話しておかねばならぬ事がある。町で出会ったという黄昏某という剣士と、帰り道で出会った村人らの事だ」

 蒸し饅頭を口に運ぶ手を止めた鬼無子と、両手で湯呑を包むように持っていたひなが、雪輝の次の言葉を待って真剣なまなざしを向ける。
 この場に居た誰もに少なからぬ因縁のある話題であり、そして正しくこれからの未来を左右する一大事に他ならない。

「ただ出会った、だけで終わりはすまい。それ位の事は私の頭でも分かる。だがそれ以降の事を正確に予想するには、私は余りに知識が不足している。私にできるのは迫る脅威を力づくで払うことくらいだろう。そこで鬼無子、君の知恵を拝借したい。このような場合、どの様な事態になる目算が高いだろうか。出来る事は多くはないかもしれぬが、起こりうる事態を想定しておく事は無駄ではあるまい」

 真摯に自分を見つめる雪輝に鬼無子は、これまでの経験と持ちうる知識を全て動員して雪輝の期待に答えるべく、しばし思考の海に沈んでから答えを出した。

「そうですな。それがしの意見もたぶんに推測を含むものとなりますが……。まず黄昏夕座にはそれがしに流れる血の事はほぼばれていると見て良いでしょう。そして夕座めが妖魔改であり、ひなの件が村人たちから妖魔改に伝えられていたとして、雪輝殿を大狼と勘違いしてですが、彼らが討伐に動く可能性はまず半々といった所」

「その根拠は?」

「まずこの妖哭山自体の環境が極めて劣悪である事が大きいのです。そもこの山は文字通り桁違いに凶悪な妖魔の数が多く、妖魔でない獣の類も恐ろしく攻撃的な性情のものがほとんどです。まさに死地と呼ぶべきかような場所に、更にはその山の主とされる大妖を討つために戦力を送るとなれば、それこそ小城や砦を落とす以上の数と質とを揃えなければなりますまい」

「百姓の願い程度でそれだけの戦力を動かす事はあり得ぬと? それでは可能性が半々どころかほぼ零であろう」

「金も人も物も要り様になりますゆえ、まずはないでしょう。ましてや昨今の日照りでろくに米の収穫が見込めぬ昨今となれば、到底許容できぬ願いである事は明白。しかし」

 鬼無子の脳裏に浮かび上がるのは、あの黄昏夕座という若者の青白い美貌。だが鬼無子の記憶に鮮明に刻み込まれた美貌の剣士の顔が齎すのは、言い知れぬ不安であった。
 これまで対峙した事のない類の異様な雰囲気と戦慄を禁じ得ない剣技の凄まじさもさることながら、あの若者には鬼無子の本能に最大の警鐘を鳴らさせる何かがある。

「あの黄昏夕座。あやつめばかりは何をしでかすか、それがしにも想像が着きませぬ。夕座が妖魔改の、といってもまだ妖魔改と決まったわけではありませんが、もしそれなりの立場にあるとしたならば、大狼を討つのに必要な戦力を集める事は可能かと」

「分かった。近日中にこの山に私を討ちに来るかもしれぬ可能性は馬鹿に出来ぬという事だな。では山の民は外の者達から助力を請われたならばどのように対応する、凛?」

 鬼無子の言葉に耳を傾けていた凛は唐突に話を振られて、少々驚いた表情を浮かべたが確かにこれまでになんどか山に入ろうとする外の者達に、案内を頼まれた事がある、と集落の大人たちが口にしていた事を思い出す。
 国家選抜規模の討伐隊が妖哭山に赴くと言うなら、山の民を利用しない手はないだろう。凛は、すぐに顔を引き締めてあまり考えるのには向いていないと自覚しているなりに、精一杯考えを巡らせる。

「あたしは交渉役じゃないからはっきりと言えないけど、そうだなあ、基本的にあたしら見たいな山の民は、外の連中と接点はそんなにもたないし、それが国の政(まつりごと)に関わる様な連中ときたら尚更さ。
 ただ大昔に恩義があったり山の民の血が流れていたりとかした場合は多少の便宜を図る事はある。あとはたまにだけど忍びとか草とか呼ばれてる連中に道具をくれてやったり、技術の一端を明かしたりして交流を持っている連中もいるってよ。
 あたしら錬鉄衆はこの山でしか取れない鉱物とか環境に魅入られて居着いた部族でさ、山の民の中でもけっこう異端な方なんだ。んなわけで物々交換以外では本当に、外の連中とは没交渉だから、要請があってもそうは受けないと思う」

「権力を笠に着てこられても話を断ると考えて良いのか?」

 ここで凛は、むぅ、と声に出して腕を組み眉根を八の字に寄せて言いづらそうな雰囲気を纏う。

「うん、そうだな。織田家の総領とかが出てくると分からないな。村長とかに聞かないとはっきりしない所があるんだけどさ。織田家の始祖がどれかの神さんにこの国に連れてこられた時に、別の山の民が助力した事もあって織田家は山の民の諸部族とつながりが深いんだよ。そこの縁で山の道案内とか頼まれると怪しくなるかな」

「妖哭山に住まう人間の集団となれば、頼ろうとは誰しもが思いつくだろうからな。多少の無茶をしてでも山の民に水先案内人をさせる位の事はするか。なれば外の連中から要請が来たなら、私への義理立てなどは考えずとも良い。相手の望みを叶えてやれ」

 雪輝の言葉に、凛はぎょっとした顔を浮かべた。ひなの安全と幸福を最優先にする雪輝であるから、ひなの身に危険が及ぶ可能性がある以上は山の民に断固として妖魔改への協力を拒絶するよう願うかと思っていたが、当の狼から出てきたのはその逆の言葉ではないか。
 凛ほどではないにせよそれなりに驚き、同じように考えた鬼無子が雪輝にどういうつもりか、と問いかける視線を向ける。

「私にとって最も大切なのはひなだ。これは天地が覆ろうとも変わらぬ。だが、だからといってひなの為になにもかもを犠牲にしてはひなを悲しませ、傷つけるだけであろう。場合によっては山に入った時に私が姿を見せて即座に返り討ちにすれば済む話でもある」

「そんなに簡単な相手ではありませぬぞ、雪輝殿」

「その様な相手ほど、無残な結果に終われば二度目が躊躇われよう。こちらにも危険は大きいが、あまり容易い相手ばかりで二度三度と繰り返されるよりは良い」

 この時、雪輝が密かに初めて人間を牙に掛ける覚悟を決めていた事を、鬼無子だけが敏感に察していた。おそらく山の民は傷つけずに済ますであろうが、外から来た者達には慈悲なき殺意を剥き出しにするだろう。
 この心優しく穏やかな気性の狼が、殺意を露わにする様な事態になることを考えると、それだけで鬼無子は胸が痛みを覚え、心が悲しみを訴えるが、場合によってはなにより必要になるものだと同時に理解してもいた。
 少なくとも黄昏夕座は、殺さずに済むほど容易い相手ではない。例え鬼無子が眠れる妖魔の血を解放しても、雪輝が全身全霊で戦いを挑んだとしても、殺さぬ様に手心を加えては勝ちの目を拾う事は出来ないだろう。
 雪輝は、これまで無言を通しているひなの顔を真正面から見た。これまでどおりの生活いつまでも続くわけではないとこの少女に伝える事は、必要であると分かってはいてもひどく胸の痛む行為であった。

「ひなよ、何時の事になるかは分からぬがおそらく近日中にこの山に私を討たんとする人の手が入るだろう。その時は私は自ら討って出てでも人間達を迎え討つ。ここまで通すつもりはないが、いざという時にすぐに逃げられる様に用意をしておきなさい。そして覚悟も」

 なんの、とは雪輝が言わなかったが、ひなには通じた。だからひなは答えた。ただ一言だけ。

「はい」

 目の前の狼が自らの為ではなく、自分の――ひなの為に戦う事を理解している事を、ひなの円らな瞳がなにより雄弁に物語っていた。


 織田と朝廷の領内を股にかけて悪逆非道を働く“赤死党(せきしとう)”呼ばれる野盗の集団が存在している。
 その不吉な名前は、実のところ彼ら自身が名乗ったわけではない。彼らが通り過ぎ去った後に残されるその惨状から、赤い死という例える言葉が生まれ、それが転じて赤死党という名が誰言うでもなく広まったのである。
 死の風と共に広まる噂話を耳にした活動初期のある赤死党の党員が、これはいいと気に入った為に自分達の名として認めて、自称した事で現在に至るまで定着した。
 盗賊の類の中には商家に押し入っても誰ひとり怪我を負わす事もなく、鮮やかな手並みで盗みを働く者もいるが、生命に対する扱いに置いてこの赤死党と呼ばれる集団は、その逆の道のみを行く集団であった。
 男手をや老人達を残らず始末して子供や女を人買いに売りさばくわけでもなく、凌辱の果てに腕を斬り、足を斬り、首を落とし、死の淵に落とすことしかしなかった。
 老若男女の区別なく彼らは盗みを働く時もそうでない時も目に映る人間という人間を、殺戮の嵐の中に巻きこみ、血の雨を降らしては無残に斬り刻まれた屍が転がる大地に吸わせていったのである。
 無論、その様な人間の道に背く非道を働く集団の存在を国家が許すはずもない。
数十、数百名からなる犠牲者がたびたび生まれては、赤死党の名前が世間に恐怖の風を吹かしていた時、遂に三百名からなる討伐隊が赤死党を完全に包囲し、赤死党に所属していた凶徒六十名余を血祭りに上げ、彼らが多くの民草に与えてきたのと同じ運命を齎した。
 しかし、己を除くすべての党員を犠牲にして生き延びた頭目は再び同規模かそれ以上の集団をたちまちのうちに作り上げ、数年の休息を経た後に再びその悪名と凶行を轟かせる事となる。
 国と赤死党との戦いは休戦期を挟みながら実に百年あまりにおよび、織田家と朝廷がそれぞれ独自に編成した討伐隊との死闘を繰り広げながら、赤死党は壊滅と再興を繰り返して今日に至るまで存在し続けていた。
 赤死党はその凶暴極まりない所業の数々ゆえに、多くの民草を恐怖に陥れる一方で、多額の賞金が掛けられた最高峰の賞金首集団でもあり、所属しているだけでも国家以外の賞金目当ての者どもから恒常的に狙われ、生命の危機が伴侶のごとく傍に在る事を享受せねばならない。
 その危険性は過去十回に及ぶ壊滅のうち、三回が私兵集団や徒党を組んだ素浪人、呪術士集団の手による事実が何よりも雄弁に物語っている。
 であるにも関わらず壊滅してからさほど時を置かずして再興が成されるのは、頭目が凶行の果てに得られる財貨に一切の興味を示さず、全て手下どもの好きにさせている事が大きな理由の一つだ。
 通常、盗人の集団となれば序列の順に得られる報酬の額は大きくなる。しかし赤死党に限っては、最大の取り分を有するはずの頭目が、金にも女にも酒にも一切の興味を示さず、ただ人々の殺戮にのみ終始している。
 そしてもう一つの理由は、その頭目自身にある。
 百年もの時を超えて赤死党が活動し続ける理由、頭目が財貨を必要としない理由は、頭目の素性が人間に在らざる事にあった。
 頭目は米も、酒も、魚も、肉も、水も必要なかった。
 疲れた体を癒す為に体を横たえる褥も、雨風をしのぐ為の屋根も必要なかった。
 七尺に届く長身は骨にかろうじて皮を張り付けた様に異常に細くまるで針金を思わせ、風に靡く髪は血で懲り固めた様な赤に染まり、罅割れの走る分厚い唇からは黄色く薄汚れた牙が覗き、瞳は黒一色に濁って如何なる光も灯る事はない。
 その身体からは風の無い日でも無色の死の気配が漂い、傍に在るだけで命を吸われているかのような錯覚に襲われる。あるいはこの男は冥府の穴の入口に立ち、生と死との境を分かつ番人なのかもしれぬ。
 人殺しなどなんとも思わぬ――それこそ喜々として親さえ手に掛けた凶漢でさえ、この頭目の傍に在る事どころか、視界に映す事さえ忌避するほど、この頭目は人間と同じ造作をした存在ながら、人間にはあり得ぬ気配を纏う存在である。
 人の皮を被った妖魔。それが頭目の正体であった。
 舌鼓を打たせる美味な料理や酒でもなく、切り口から零れたばかりの湯気を立てる鮮血の色を目で楽しみ、匂いを胸一杯に吸い込むのが好きだった。
 百、二百と斬り刻んだ死体の二つに割られた頭部から零れる脳漿や原型を留めぬまでに刻まれた目玉、寸刻みにされた臓物が何日も野ざらしにされて野鼠や野鳥に貪られる様を見るのが好きだった。
 妻子を守らんと立ち向かってくる父親の首を刎ね飛ばし、この子だけはと幼い我が子を腕の中に抱く母親を、その子供ごと刺し殺すのが好きだった。
 腹を割られて腸をぶちまけて鞴の様に大きな音を立てて呼吸する子供の目の前に立ち、必死に縋りつこうとする手から一歩遠ざかり、それでもなお助かろうと腸を零しながら這いずって近づいてくる子供が息絶えるのを見守るのが好きだった。
 だから頭目には金も、酒も、食べ物も、女も必要なかった。
 自分の目の前で誰かが死ねばいい。それが自分の手によってなら尚更良い。食の快楽も性の快楽も必要ない。殺戮の快楽、あるいは、死の快楽があれが良かった。
 そんな頭目であったから、赤死党の党員達から人望を集める様な事はなかったが、およそ尋常な欲望を欠片も持ち合わせぬ性情故に、彼らに零れてくる財貨や女は幾らでも貪れたし、何より頭目は強かった。
 国家が選りすぐった精鋭による討伐隊の襲撃をたびたび受けながらも、ついぞ頭目が討たれなかった事実が、彼の実力の証明と言えるだろう。
 血の雨を降らし、屍で丘を築くほど殺戮を重ねてきた頭目は、凡百の兵士などそれこそ百人を集めても首の無い死体が百人分出来上がるだけの実力を備えている。
 また頭目が妖魔であるが故に、頭目よりも弱い妖魔などは党員に襲い掛かる様な事はなく、その為に赤死党は大胆に野を駆けずり回り、追手の目を眩まして闇に紛れるのも容易であった。
 そして頭目も徒党を組む事の利便性を理解するだけの知恵を持ち合わせており、押し入った家々や村落でどれだけ残虐無惨な行いをしても、決して赤死党の党員には手を下さなかった事で、党員達から奇妙な信頼を得ていたのである。
 今代の赤死党はのべ五十名。そのうち八体が頭目の力に魅かれるか、あるいは力でもって屈服された妖魔達であった。
 構成人数こそかつての規模と比べれは多いとは言い難かったが、それだけの数の妖魔が所属したのは初の事であり、歴代でも一、二を争う凶悪性を有していた。
 人間の血脂肪をたっぷりと浴び、白骨で研いでいるも同然の殺人を重ね続けた刀槍や、火縄銃、大筒、火矢で武装し、呪術を扱うはぐれ陰陽師や破戒僧といった霊的戦闘能力者を有し、妖魔抜きの人間のみの戦力でも、正規の訓練を受けた軍を相手に互角以上の戦いを行える、野盗としては異常な質を備えた殺戮戦闘集団といえよう。
 そして今、赤死党はある運命の下り道を歩んでいた。
 世界は昼さがりだと言うのに、空は灰色の分厚い雲に覆われて、陰鬱な暗色に染まっていた。
 あるいは太陽が眼下に広がる光景を目撃するのを拒絶した為であったかもしれない。
 刀や槍を持ったまま肘から切断された腕、揃って同じ位置で斬り飛ばされた足、腹筋を断たれて胃の中身をぶちまけている胴体、恐怖の相をむざむざと刻んだまま刎ねられた首、額から股間までを縦一文字に斬られて断面を晒している者。
 大は四肢を切断された者から小は文字通り寸刻みにされた者まで、数えれば千近い肉片に寸断された人体を余すことなく集めれば四十一人分の死体が出来上がる。
 膝丈まで届く草花が延々と広がる草原の一帯を、夥しい量の血ともとは人間であったと判別できないほど斬り刻まれた肉片や臓腑が撒き散らされて、おぞましい赤色に染めている。
 吹き行く秋風が爽快さを感じさせるはずの草原は、いまやこの世のものと思えぬおぞましい殺戮劇の舞台へと変貌していたのである。
 そして草原の一角をおぞましく汚らわしく占領しているのは人間の死体ばかりではなかった。
 下半身が黒と黄色の縞模様の巨大な蜘蛛で上半身は大胆に乳房を晒す美女の姿をした半人半虫、損傷の激しい鎧兜で身を固めた骸骨、人面を備えた五つ首の蛇、頭と胴が虎で四枚の烏の翼を持ち蟹の足を持った妖魔、と赤死党に属していた八体の妖魔そのすべてが、一体の例外もなく醜悪な死に様を晒している。
 それを成したのは赤死党を追い込み包囲した百名からなる忍装束の者たちではなかった。血の海と屍の山の中で一刀を片手に、陰鬱な光を満身に浴びる若者ただ一人によって、神夜国有数の残虐無惨な殺戮集団は、今度こそ完全な壊滅の憂き目を見ているのだった。
 若者は青い着流しの背に闇色の鞘を背負い、腰まで届く黒髪は纏めるでもなく風の吹くままにそよいでいる。
 水も滴る――どころではなく水が触れる事も恥じ入るような恐るべき美貌の若者であった。
 着流しの合わせ目から覗く肉体を覆う肌は、あらゆる死病に冒された病人の色をしていたが、その肌を盛り上げる筋肉は一部の隙もなく鍛え上げられて鞭のごとく絞りこまれ、余計な肉片や脂肪など一辺たりとてもなく、この若者が武の道を歩む者だと示している。
 眉目秀麗という言葉を人間にする事が出来たならば、この若者が出来上がるだろう。ただし、その性、邪悪なりと付け加えなければなるまい。
 世界を照らしあげる陽光が輝いていようとも世界を青い黄昏に変える、不可思議な雰囲気を纏う美の化身のごとき妖剣士黄昏夕座。
 七風の町で四方木鬼無子と芸術的なまでの剣劇を演じたこの謎の若者こそが、世に凶行と悪名を轟かす赤死党を、頭目を残して皆殺しにした張本人に他ならなかった。
 鬼無子とその愛刀崩塵によって、腰に佩いていた名刀朱羅を失った夕座の手には、優美な曲線を描きながら鈍く銀に輝く、実に全長四尺(約百二十センチ)に及ぶ長刀が握られている。
 一般的な刀剣がおおよそ二尺三寸、鬼無子の崩塵も長刀の類だがそれでも三尺二寸三分だが、夕座の手にあるのはそれらよりもなお長い刀であった。
 夕座の従者である忍の影座に用意させた一振りであろう。
 緑の色彩に包まれていた草原は、いまや降り注いだ鮮血の雨によって朱に染まっていると言うのに、夕座の血の流れる事を知らぬ白く透き通った肌や青一色に染め抜かれた着流しには、一滴の返り血も浴びてはおらず、右手に提げる長刀の刃にもまた血の粒は付いていない。
 妖魔を含めた四十九名を孤剣一振りを手に、残らず斬殺しながら返り血の洗礼を浴びることなく、夕座はむくつけき幼子に向けるのが似合う穏やかな笑みを浮かべていた。
 草原に吹く風は妖魔と人間の血が混ざり合って異様な匂いを醸し出している。吸い込んだ端から鼻の粘膜を刺激し、二度と呼吸したくないと心底思わせる様な異臭である。
 それを肺腑を満たすまで一杯に吸い込みながら、夕座は笑みの形をそのままに目の前に立って、自分を睨む赤死党頭目に語りかけた。

「妖魔が八体に人間が四十一。五十引く四十九で、残りはお主一人。しかし、お主だけで四十九よりは楽しめよう」

夕座の口元に浮かんでいるのは、鬼無子と刃を交える前に浮かべていたのと同種の笑みであった。
 老若男女を問わず殺戮の限りを尽くした悪鬼羅刹と、その様な外道どもから人々を守る職に在った鬼無子も、夕座にとっては自分が楽しめる相手であればまるで気にならぬらしい。
 針金を束ねて生皮を張り付けて無理矢理人型にしたような頭目は、右手に柄尻から切っ先に至るまでが夜闇の様な漆黒に染まった剣を手にしていた。幅四寸、刃長三尺の柄、刃、鍔の全てが一つの鉄から打ち出された古風な品である。
 直剣から立ち上る妖気は陽炎となって正常な大気を歪め、物質化する寸前の途方もない密度だ。ともすれば頭目の放つ妖気を飲み込みこまれかねぬほどに強力かつ邪悪さである。
 木乃伊の一歩寸前のような罅割れまみれの顔は能面のごとく如何なる感情も浮かべてはおらず、赤死党党員皆殺しの渦中にあってもなんら感慨を覚えてはいない様だった。
 七尺超の長身を二足歩行の猫を思わせる前傾姿勢をとり、直剣の切っ先がかすかに赤く濡れそぼる地面に突き刺さっている。
 はだけた襤褸そのものの上衣から覗く体は、病床の床に在る臨終間近の病人でさえこうはなるまい、と思わせるほど残酷なまでにはっきりと肋骨の形が浮かび上がり、内臓など一つもないかのように痩せ細っている。
 刀剣を振るうどころかまともに立って歩く事さえできない憔悴しきった姿である。常人ならば。そして夕座が自ら刃を手に対峙する相手が常人であるはずもない。
 いや、常人か否かなど問うまでもなかっただろう。
 頭目は動いた。災厄を運ぶ黒き死風とでも言うべきか、頭目の動いた後には累々と屍ばかりが続くのだと、対峙するものに確信させる動きであった。
 漆黒の斬閃が夕座の首に走り、それは夕座の浮かべた笑みをなんら揺るがす事が出来ずに、夕座の手に在る長刀に呆気なく弾き飛ばされた。
 かつて赤死党を討伐すべく挑みかかってきた兵士の首を、十人まとめて斬り飛ばした一刀であったが、夕座は涼しげな顔を変えようともしない。そよ風を感じ心地よさに笑みを浮かべている、そんな風情である。
 頭目の顔には如何なる感情の色も浮かび上がってはいない。必殺の一刀を弾かれた事に対する驚きも、恐るべき敵の力量に対する恐怖も、強敵を前にした歓喜も、なにも。
 夕座は青い風となって走った。銀に輝く三日月を手に青い妖風は黒い死風に襲い掛かる。
 血に染まる草原で二色の風は交差したその瞬間、無数の火花が眩く散り、風は留まることなく互いの脇を走り抜け、二間の距離を置いて背後を振り返り、再び対峙する。
 世にも美しい若者の手によって命運を断たれた凶賊達の怨嗟の声が風に乗る中、夕座は笑みを深く刻み直し、再び頭目へと駆け寄った。
 二色の風は絡みあいながら大地を這いずる大蛇のごとく激突と離別を繰り返し、たっぷりと血を吸ってぬかるむ地面という悪条件下にも関わらず、瞬時に無数の剣閃が両者の間で煌めいては消えてゆく。
 二つの刃が交差する時、漆黒と白銀の刀身は無数の光の粒を産み落としては、朱に染まる世界を煌々と照らしあげ、二人の剣士が死臭漂う世界の住人である事を知らしめる。
 超高濃度に圧縮された剣戟の応酬は、夕座の放った縦一文字の斬撃によって決着を見る事となった。
 ぎぃん、と強く重い音が一つ響き渡るや、頭目が頭上に横一文字に掲げた直剣は握る手ごと万歳の体勢に弾かれ、守るモノの無くなった頭目の額に夕座の長刀は呆気ないほど簡単に食い込み、頭蓋骨や脳髄、背骨、五臓六腑を尽く二つに斬り裂いて、股間から抜けた。
 人体を縦に二分割にする。およそ人間の膂力では不可能な現象であるが、黄昏夕座の手に掛れば、呼吸をするように容易に起こせる事象へと格下げされる。
 まるで元から血が流れていなかったように断面から一滴も血を零さぬ頭目の死体に、夕座は興味の尽きぬ視線を向けていた。

「対峙していた時から分かってはいたが、それは死体か。そして赤死党の真の頭目は、そちらであろう」

 自らの作りだした縦一文字に斬られた死体から、夕座は視線を死体の握る直剣へと動かす。
 するとどうであろうか。
 夕座の視線と言葉を待っていたかの如く直剣の刀身の真ん中に人間のものと変わらぬ瞳が開き、ぎょろりと動いて夕座を見つめるや、二つに割られた頭目の死体の内、直剣を握る右半身がひょいと立ちあがった。
 たった今斬り殺したばかりの相手が、右半分になって立ちあがる。知らぬ間に悪夢の世界に放り込まれたのかと錯覚する様な現象を前に、しかし夕座は楽しみだと言わんばかりに笑みを浮かべるきり。
 孤影悄然と佇む夕座の周囲を取り囲む影が一つ、また一つ、と赤濡れの大地から立ち上がり始めているではないか。
 それらは咽喉をぱっくりと裂かれ、あるいは心の臓を一突きにされ、あるいは腰から上を斬り飛ばされ、あるいは、あるいは、あるいは……四十一通りの死に方をした赤死党の党員達の死体!
 寸断された肉体が自ら意思ある生き物のごとく癒着し合い、ふたたび人体の形を再構築したのである。
 死の国の新たな住人となったはずの彼らが立ちあがり、自らを包囲されてなお、夕座は愉快な見世物を目の当たりにしているようにしか見えない。
 つっと死体の内三人の手が持ち上げられ、それぞれ手に握る品を夕座へと向ける。夕座の両側頭部と、背中に狙いを付ける。
 火縄銃である。火薬の匂いがかすかに朱色の大気に混じり始めた時、三つの銃口から同じだけの数の鉛玉が射出されて、狙い澄ました通りに夕座へと襲い掛かる。
 肉を穿つくぐもった音――ではなく鳴り響いたのは一連なりの、硝子を打ち合わせた様に高く澄んだ三つの音であった。
 音が鳴り響いた瞬間、夕座を中心に半円の軌跡が描かれて、その半円の三か所で眩い火花が瞬いた事に気付いたものが、果たしてこの場にどれだけいただろうか。
 見ればそれまで長刀を手にしたままだらりと下げられていた夕座の右腕が、地面と平行に真横一文字に伸ばされている。
 ああ、そしてその夕座の周囲で火縄銃を持っていた三人の死人の額に、新しく丸い穴があいてそこから夥しい量の血液と脳漿がどろりと流れ落ちている。
 もし、その瞬間を克明に目撃していた者が居たとして、一体どれだけの人間が夕座の起こした現象を理解できただろうか。
 左右と背後から襲い来る銃弾を、目もくれずに長刀をたった一度振るっただけで全て弾き、あまつやそれらの弾丸を射手の額へと狙って送り返すなどという、神業いや凄まじき魔技を。
 額に鉛玉を喰らってなお倒れぬ死人らの様子に、夕座はふむと一つ零す。納得の響きの強い“ふむ”であった。

「一度死ねばもう二度とは死なぬのが道理か。しかし四十一人の生者が死者に変わった所で私は滅ぼせぬよ」

 それを証明する為であったか、それまで一歩を踏まずにいた夕座が右半分だけになった頭目に大胆にも背を向けて、再び立ち上がった死人達の群れへと笑みをそのままに突っ込んだ。
 自らの血で濡れた獲物を構え直して夕座を迎え撃たんとする死人達に、夕座の長刀が唸りを挙げて襲い掛かる。
 死臭深き風を巻いて、四尺の銀刃は自らこそが死を司る神とばかりに死人達の肉を斬り裂いてゆく。
 突き出される槍穂を掻い潜り、振るわれる刀を紙一重にかわし、するりするりと夕座の体は冥府の坂を上って再び立ち上がった死体達の間を縫うように駆け抜けてゆく。
 縦に、横に、斜めに、孤月を、半円を、円を、直線を、あらゆる斬撃の軌跡が周囲の空間を粗方埋め尽くした時、四肢の欠損や首なしになってなお立ちあがった死人達は、一体残らず四肢を付け根から斬り飛ばされ、胴を二つにされ、八つ裂きという他ない惨憺たる姿に変わっていた。
 夕座が死人の群れに飛び込んでから十と数える間に、四十一人の死人は数百を超える死せる肉片という姿形にされたのである。
 深手を与えられてなお立ちあがる生命なき死人共であっても、身じろぎさえ出来ぬほど刻まれては、完全に無力化されたも同然だ。
 蘇らせた死人達が瞬く間に再びもの言わぬ骸と変わってもなお、半分だけの頭目とその手に握られた直剣に変化の色は見られない。
 再び屍の山の中に立つ夕座の長刀は、変わらぬ銀に輝いている。夕座の振るう太刀の剣速が死人らに流れる血液の粘着力に勝り、数十数百と刃が振るってなお、その刀身に血の珠粒が纏わりつく事を拒絶し、尚且つ刃毀れの一つもない。
 夕座はゆるゆると長刀の切っ先を持ち上げて、頭目の手に握られた直剣へと向ける。それこそが真に夕座が討つべき赤死党そのものなのだ。

「操れるのは人間の死体だけの様だな。しかし、私も今更死体を斬り刻んで楽しみを覚えるほど青臭くはない。まあ、あの四方木の姫君の死体なら刻み甲斐もあろうがな。いい加減、本性を現すがよい。呪わしき死を与える古剣、“骸女(むくろめ)”よ」

 死人軍団の壊滅か、あるいは夕座の言葉が引き金となったのか、骸女という銘を与えられた直剣に開かれた瞳が血の色に染まり、その刀身から膨大な妖気が堤を破った洪水のごとく溢れだし、夕座の全身を打つ。

「男を待たせるは女の甲斐性か。待たされるのは好かぬが、たまには良かろう」

 長刀の峰で右肩をとんとん、と軽く叩きながら夕座は洒脱に立ち姿を崩して、赤死党の頭目と思われていた死体を操っていた骸女の次の手を待つ。
 強者ゆえの余裕や傲慢というよりは生来の天の邪鬼な気性がそうさせているのだろうか。まるで自分の生命の危機には頓着する様子は見られない。
 骸女の放出する妖気を浴びて、夕座に寸断された四十一人分の死体とさらに残り左半分の頭目の死体が、見えざる手に持ち上げられたように浮きあがり、右半分の頭目の死体へと殺到する。
 さながら死体に群がる蟻の大群か烏の群れを思わせる光景であったが、その実、貪られているのは骸女を握る右半分ではなく、引き寄せられた死体達の方である。
 殺到した死体は他の死体を押し潰し、肉と骨と髪と神経と内臓とが磨り潰し合って、水飴の様に溶け合って行く。
 半分になっていた頭目の死体と党員達の死体とで四十二人分の死体が、ぐじゅぐじゅと水音を立てて新たに大量の血を零しながら融け合って行くさまは、到底この世のものとは思えぬ、魂まで狂い尽くした狂気画家のものした一連の絵画の様であった。
 一万人の常人が目撃すれば、その全員が狂気の渦の底に落とされて、残りの生涯を発狂したままで終えてしまうだろう。
 その光景を前に夕座はと言えば、軽く口を開いてそこに左手を添えていた。
 くあ、と夕座の青白い唇から小さな呟きが口から零れる。
 なんということだろう。この若者は死体と死体が一つに融け合って行く異常事態を前にして、呑気な事にいや状況を考えれば呑気などというものではなく、気でも狂ったのか疑がわれかねぬ事に、欠伸を漏らしたのである。
 本当に人間なのかと思わず疑ってしまうほどの美貌に相応しく、この若者の精神は尋常な人間には理解の及ばぬはるか深淵の彼方に在るのだろう。
 目尻に浮かんだ涙の滴を左手の人差し指で拭う夕座の視線の先で、ようやく死人達の融合は終わりを迎えんとしていた。
 歪かつ醜悪極まりない影を血に落としていた異形は、一応は人間と呼べるだけの形を整える。
 夕座の唇から、再びの“ふむ”。
 ずちゃり、とそれが一歩を踏み出した時、血管が破裂するのに似た音と共に赤い血飛沫が飛散する。
 それは肌を引き剥がし、血の滲む筋肉で八尺に及ぶ巨体を構成した見るもおぞましい異形の巨人であった。
 全身をしとどに濡らす血の色の奥で、全身のあらゆる場所で一斉に瞼と唇が開き、その奥から瞳と歯と舌とが覗いた。八十四の瞳と四十二の口を持った肌のない鮮血の巨人の右手には、刀身に一つの瞳を開いた骸女が。

「元々の頭目が、そうさな、ざっと三百人ほどの死体から選りすぐった部品で作ったもの。それに四十一を足して三百四十一人分の死体で作った操り人形か。邪なる神の一柱が生み出したという魔器の一つ骸女。この目で見られるとは、これはまさしく光栄」

 骸女とは自らの意思と邪悪な魂とを持った生きた剣であった。さほど高位の神が生み出したわけではないが、それでも神の手から成る古代の魔剣が本性を剥き出しにして放つ気配は、世界をそのまま死へと導くかのごとく圧倒的なもの。
 骸女の死者を操る力は、不死者とされる魔物の最高位種にも匹敵しよう。それは西の海を越えた先に存在する大陸の更に西方の地域でリッチと呼ばれる生前の自我と知性を維持する不死者や、月夜の覇王種たる吸血鬼の更にその種の中の上位存在に肩を並べるほど。
 骸女の作りだした屍の巨人が一歩を踏み、三百四十一人分の脚力が凝縮され、骸女の妖力によって強化された踏み込みへと変わる。正しく地面は爆発し、血によって赤く染まった土の花となる。
 音の壁をも超える踏み込みの先に居た夕座の手は、その踏み込みと等速で動く。肩を叩いていた長刀が目のも止まらぬ速さで動くや、耳を劈く高音が辺り一帯に鳴り響く。
 夕座の長刀と巨人の振るう骸女は互いに大気との摩擦によって灼熱を帯び、刀身を赤く燃やしている。
 夕座の体が宙を舞う。
 人間は生まれ落ちてから自らの肉体を壊さないように、脳が肉体に枷を掛けて本来の肉体の能力を発揮できない様に自制している。
 しかし微に細にと斬り刻まれた死体から再構築された屍の巨人に、その様な枷は存在せず、更に骸女の妖力が加わるとなれば巨人の膂力は、肉体の自壊を考慮せずに本来の身体能力を発揮した人間三百四十一人だけでは済まない。
 その巨人が繰り出す全力の一刀を受けてなお、弾き飛ばされただけで済んだ事実が、夕座もまた人間の規格を超えた存在である事の証明といえよう。
 だがここでいま一度、しかし、と言わねばならない。
 宙を舞う、という言葉をそのままに体現して、骸女の一撃を受けた夕座の姿は歌舞伎の一場面が唐突に再現されたかのように、雅でなおかつ美しい飛翔姿であった。
 あるいは千人力にも届くであろう骸女の一撃を受けてなお、夕座の肉体には如何なる損傷もなく、握る長刀に刃毀れ一つとて見られない。
 音よりも早い剣速と常人には及びもつかぬ剛力の合わさった一撃を、この妖美な若者は暴れる馬の手綱を捌く様に完全に御していたのである。
 音もなく大地に降り立つ姿は、広げた翼を折り畳む鶴を思わせるどこまでも優雅で気品に満ち溢れたものだった。
 右八双の構えに長刀を動かしながら、夕座は背中に開いた無数の瞳でこちらを見つめる骸女を静かな狂気を湛える瞳で見つめる。

「ようやくこの言葉を口にできる。“面白い”とな」

 骸女の巨躯が血の煙に囲まれた。高速の移動によっていまなお全身から溢れる血潮が弾かれて、飛沫と変わったのである。
 夕座に背を向けたままであったはずの骸女は、跳躍の最中に取り込んだ筋肉と骨格の位置を体内で組み替えて、夕座に正面を向ける。
 想像できるだろうか。確かに背中を見せたままこちらへ跳躍したはずの敵が、その最中に血をしぶかせながら肘も膝も腰も、こちらへ向けて内側から組み替える様子を。
 中空で夕座の長刀と骸女の刀身が激突した。どちらの刃も折れぬのが不思議なほどの激突であった。ましてや弾き飛ばされたのが骸女の方であるとは。
 右の踵が血でぬかるむ地面にわずかに沈み込むのに合わせ、夕座は正面から踏み込んだ。骸女が同じく夕座めがけて突進した事で、両者は図らずも鏡合わせの様な動きを示した。
 骸女の刀身は夕座の胴へと叩きこまれ、夕座はそれを横に動いてかわしざま、小手を斬る。分厚い肉を裂く感触が夕座の手に伝わる。
 痛覚を有さぬ骸女は斬られた事になんの動揺も見せずに、刀身を上段へと移行したところで、自身の頭上にかざす様にした夕座が突いた。夕座の手から白銀の雷が放たれたかと見えるほどの速さであった。
 骸女の咽喉仏に開いていた目玉のど真ん中を貫き、長刀の切っ先がぼんのくぼから飛び出る。
 夕座は楽しげに笑みを浮かべたまま口を動かした。

「水桜(すいおう)流武術“<風鐸>影之伝”。私に技を使わせるとは見事」

 突いた刀身を引き抜くと同時に、夕座は自身の首を斬り飛ばさんと横一文字に振るわれる魔性の刀剣を、足元が水に変わったかの様に身を沈めて躱す
 逆さに靡いた夕座の黒髪の先端が、骸女の刃に鮮やかに断たれる。同時に夕座の手から再び迸る雷と見紛う一太刀。
 同じく水桜流“漂葉”。本来は横に並んで歩いていた相手が唐突に斬りかかってきた際に、咄嗟にかがみこんで相手の脛を断つ。
 三百人超の筋肉と骨とが圧縮され更に骸女の魔力で保護された屍の巨人の脛を、かっと硬質の物体を断つ音を立てながら、夕座の長刀が右から左へと切断し、すぐにその斬線が上下から押し潰されて消失する。
 元が千以上の肉片に断たれた死体の融合体であるから、尋常な方法ではまともに傷を与える事も出来ないということだろう。
 夕座は自身の斬撃が無効化された事にも動揺は見せず、かがんだ姿勢から飛蝗の類を思わせる跳躍を見せて、今度は右から左へと骸女の首を長刀が横断する。
 林咲夢想流居合術“天車引留”(はやしざきむそうりゅういあいじゅつ・てんしゃひきとめ)。
 居合術ながら既に抜刀した状態からの一撃であったが、林咲流の老達人・常井某なる人物が、六人の山賊の首を刎ねたという一太刀は、邪悪汚穢なる巨人の首を鮮やかに刎ね飛ばし、噴水のごとく新たな血を噴きながら、巨人の首が飛ぶ。
 本来ならば鼻と口が在る場所に第三、第四の瞳が開いている巨人の首を、首無しになった巨人の左手が掴み止めて、乱暴に斬り口に押し当てるや切断された脛が復元したのと同じ現象が起き、巨人の首が癒着する。
 いまだ宙を舞う夕座に首を戻した巨人の左手が伸びる。首を掴もうが頭を掴もうが胴を掴もうが、掴んだ瞬間に中身ごと握り潰せる。
 その危険性は夕座も看過できぬと見え、夕座はその左肘から先を斬り、それが癒着する一瞬の隙を突いて巨人の胸を蹴り飛ばし、その反動を利用して距離を取った。

「歯応えのある相手なのは良いが、苦痛に苛まれて零れる声がないのは物足りぬな」

 早くも興が冷めたのか、熱の抜け切った夕座の言葉を侮辱と捉える知性が骸女に存在していたのか、四間の距離を取った夕座めがけて巨人が大山の崩落を連想させる突進を仕掛けた。
 夕座は如何なる意図の下によってか、長刀の刃を口に加えて両方の手を空にした。自殺願望? あるいは素手で十分という根拠の不明瞭な自信の表れか。
 巨人が振るうは横薙ぎの一太刀。夕座はそれを紙一重にかわし、かわした刃が上段に振りかぶられた瞬間に、大胆不敵にも頭から巨人の懐へと飛び込んだ。
 握りしめた両方の拳を肋骨に食い込ませ、骸目を握る巨人の右手を肩を担ぐようにして逆を取り、夕座の空いている左手は真っ直ぐに伸びて巨人の咽喉を握りしめている。
 居賀流派勝新柔術(いがりゅうはかつしんりゅうじゅうじゅつ)の秘技“鐺返(こじりがえし)”である。
 本来は刀を抜き放った瞬間に合わせて仕掛ける一技であるが、夕座なりの工夫を加えたものであろう。
 夕座と巨人との身長差はおおよそ二尺近く、鐺返を仕掛ける夕座の足は巨人の脇腹や太ももを足場にしており、対人を想定した柔術の技そのままというわけにはゆかない。

「どれ、これでも鳴かぬか?」

 夕座の両腕により一層の力が加えられ、筋肉の瘤が盛り上がりを見せるのにわずかに遅れて、夕座の左手が握りしめていた巨人の咽喉が一瞬で握り潰される。
 夕座の暴力はそれだけに終わらず血に塗れた左手で、逆を取っていた巨人の右肩を掴み、思い切り体を捻るや、肩の付け根から巨人の右腕そのものを捻じ切ったのである。
 巨人の全身から吹いている血と、捻じ切られた断面から噴き出した血で全身を赤く濡らす夕座の目の前で、捻じ切った右腕と握り潰した筈の咽喉が、血液に変化するや否や損傷部分に吸い込まれる様に戻り、瞬きする間もなく損傷を埋め尽くして元の形を再構築する。

「ふむ。飽きたな」

 なお痛みを訴えぬ巨人に心底からの思いを夕座は口にした。巨人が大上段に骸女を振り上げた時、夕座は後ろに手を伸ばして地面に突き刺していた長刀の柄を握っていた。
 そして、これまでの剣速が鈍間に見えるほどの神速の縦一文字の斬撃が巨人の頭から股間までを両断する。
 もし、骸女の意識が人間に近く言語化する事が出来たならば、馬鹿め、無駄な事を、と夕座の行動を嘲笑ったかもしれない。
 だが、瞬時に癒着する筈の屍で出来た肉体はいっかな癒着する事はなく、それどころかゆっくりと右半身と左半身とが離れ始め、大地に倒れ伏す過程で見る間に元の千近い肉片へと戻ってゆくではないか。
 ついには骸女を握っていた右手もいくつもの肉片と砕けた骨へと変わり、骸女が大地に深々と突き刺さる。
 血の水溜りと肉片の小山の中に突き立つ骸女へと夕座が歩を進めた。たった一撃で骸女の作りだした巨人を滅ぼした長刀を片手に、悠々と。

「不思議であろうな。なに、私が遊ぶのを止めただけの話よ。これなるは妖刀・紅蓮地獄。神の手による品ではないが、それでもお主と同等かそれ以上の妖力を秘めた神夜国が誇る妖刀魔剣の一つ。もっともなまくらでも斬り方を工夫すれば、お主の呪術を斬る程度の事は出来るがな」

 自らに終焉の運命を告げる審判者を前に、骸女の刀身からは一層激しく憎悪に満ち溢れた狂気の気配が溢れだす。
 血に濡れた全身を打つその気配を浴びて夕座は呟く。

「心地よし」

 骸女の刀身の中央に開かれていた瞳に、無造作に長刀――紅蓮地獄の切っ先が突きこまれる。
 莫大な魔力と神代の製造法と素材によって鍛造された刀身は、いとも容易く貫かれて、邪神が生み出したという邪悪な剣はひどくあっけない結末を迎えた。
 見る間に罅が柄尻にまで走り砂となって砕け散る骸女にそれ以上の興味は示さず、夕座は唇を濡らすどす黒い血を舐め取る。甘露と言わんばかりに笑む夕座は、凄艶とも淫靡ともとれる妖しい雰囲気を纏っていた。

「影座よ」

「ここに」

 それまで百名の忍装束の包囲網の中には、夕座と骸女以外の気配はなかったというのに、夕座の呼ぶ声にこたえて、いつのまにか片膝を突く影座の姿が夕座の背後に在った。

「良き刀じゃ。朱羅が霞むほどにな。良くやってくれた」

「身に余る光栄にございます。夕座様」

 影座の声は偽りなき感激に震えていた。少なくともこの影座にとって夕座は崇拝といっても過言ではない敬意を抱く主であるらしい。

「これで国境を騒がす屑どもの掃除は終いじゃ。私は七風に戻る。戻り次第、例の大狼とやらの件を片づけるぞ」

「はっ」

 打てば響く、とはこのことであろう。しかしながら夕座は影座の返事に面白そうな笑みを浮かべて背後を振り返った。

「これまで百年以上放っておいてなぜ、とは聞かぬのか? お前なら真に私が望んでする事に口を挟まぬのは承知の上ではあるが。まあよい。お前は先に戻って適当に数を集めておけ。三流のもどき共でも妖魔をおびき寄せる餌代わりにはなる」

「委細お任せを」

「それで良い。いままでもこれからもな。では影馬(えいま)、影兎(えいと)よ、私の前に」

 影座がその場を離れるのにやや遅れて、小柄な忍びが二人、どこからともなく夕座の眼前に現れる。
 露わになっている素顔は共に良く似た顔立ちの、十代半ばほどの美少女達であった。夕座の配下たる忍で在る事を考えれば、可憐な美貌の主であってもそれぞれが一人で十人、二十人の兵にも匹敵する強者に違いない。
 影兎が姉、影馬が妹に当たる双子の姉妹である。共に幼い顔立ちの中にぞっとするほどの美の片鱗を覗かせ、白い肌に赤い唇とあどけなさの中にどこか不釣り合いな艶やかさを秘めた瞳と、漁色家でなくとも思わず欲情の念を抱きかねぬ二人であった。
 簡単な見分け方としては影馬が長くのばし先端を斬り揃えた髪を後頭部で纏めて、馬の尾の様に垂らしているのに対して、影兎は髪を二つに分けて組みひもで纏めて逆さに、それこそ兎の耳のように立てていることだ。

「少々昂っておる。戻って褥を清めておくが良い。いいや、止めじゃ。この場で鎮める事とする。服を脱ぎ、尻をこちらに向けよ」

 それがどんなに突拍子もなく辱めを与える物であっても、夕座の命令は二人にとって絶対であった。
 二人はまだ大人になりきらない子供の顔に、恥じらいの色を浮かべるでもなく淡々と腰帯を解いて、夕座の命令を忠実に実行する。
 恥じらいの色がない? いいや、違う。遂に生まれたままの姿を晒して夕座に尻を高々と掲げて二穴を晒し、まるで畜生の様な体勢をとった二人の顔はこれから与えられる快楽と恥辱に対する期待と不安に、紅潮しているではないか。
 夕座がまともな人間の精神と肉体の持ち主ではない様に、その彼から与えられる快楽もまた、到底人間の領域に収まるものではない事を、この姉と妹は骨の髄まで教え込まれていた。
 全身を汚らわしい野盗の血で濡らしたまま、夕座は翌朝に至るまで双子の姉妹を犯し続けたが、その心に浮かんでいたいのは七風で刃を交えた鬼無子の美貌であった。
 あの時、夕座は鬼無子の身体にかすかに残っていた狼の匂いを嗅ぎ取っていたのである。狼、すなわち鬼無子が懐に入れていた雪輝の体毛の残り香を。
 そしてその後、妖魔改に訴え出てきた苗場村の者達の訴えの中に出てきた生贄の少女と共にいたという女の剣士の特徴は、まさしく鬼無子そのもの。
 夕座は大狼を討つと言いながら、その実、妖哭山に鬼無子が居ると直感的に悟り、先日の宣言通り、力づくで鬼無子を手に入れるつもりであり、大狼――実際には雪輝なのだが――を討つのはついでに過ぎない。
 影馬と影兎が何十回目かになる絶頂の嬌声を挙げた時も、夕座の脳裏に在ったのは鬼無子の姿であった。

<続>

遅れていた感想へのお返事を。

>ドクターKさま

お褒めの言葉をありがとうございます。自分には過分な言葉ですが、流石にどこぞの賞に応募するほどの自信はちょっとないので、こちらでお世話になってゆこうかと思っております。

>天船さま

森の異変に、外から来る脅威と、今までに増して鬼無子と雪輝が苦労することになってしまいますです。我ながら気の毒というか申し訳ないと申しましょうか。
雪輝の能力のふり幅はかなり大きいので使いこなすと強力です。使いこなせていないのでムラがあるのが現状ですね。
受胎告知に関してはその内鬼無子も大人になるかもしれませんしならないかもしれません、とだけ。

>ヨシヲさま

( ゜∀゚)o彡°モッフる!モッフる!(挨拶返し)

前回で鬼無子もある程度ふっきれたのでそろそろお風呂なり何なりひなと雪輝と三人一緒に楽しみ出す事でしょう。味覚にしろ雪輝は純粋な狼ではないのでそこら辺に差異がある事を後々描写してゆく予定です。鬼無子とのキスは、描写されてなくとも朝起きた時と寝る前とか出かける時にはひなと一緒にしていると思っていただいてよいかと思います。
凛との関係もそうですが血生臭い冒頭に関しても今回の編のうちに決着が着きますです。

>マリンドアニムさま

いままでなら既に終っているはずの話数を超えてもほのぼのしておりましたが、そろそろそれもおしまいとなり、シリアス一直線になる予定です。鬼無子の壊れ具合もひなにばれて腹を括ったので、雪輝がよほどの事をしなければ多少は改善されるかもしれませんね。

>taisaさま

これからも雪輝はおまじないと称したり挨拶といって、ひなと鬼無子と場所を考えずにああいう事をしてゆくでしょう。凛あたりに躾けられそうですけれど。鬼無子の夢も、違った形で適うかもしれませんし、諦めるにはまだ早いですよね。


なお本編中に出てきた水桜流武術 → 水鴎流武術、林咲夢想流居合術 → 林崎夢想流居合術、居賀流派勝新柔術 → 為我流派勝新柔術、という実在の武術の名称をもじったものです。菊地秀行さんの作品好きな方なら一度は目にする機会があったかと思います。とくに林崎夢想流は魔界学園やらなんやらで出ていましたし。

ではではここまでお読みくださった皆様とご感想を下さった方々に格別の感謝を込めて、ありがとうございました。次回もよろしくお願い申し上げます。

1/29 22:54 投稿
1/30 22:08 天船さまからご指摘のあった箇所他修正。


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