冒険者ギルドのカウンターの前で俺はぼけっと今回の依頼の事を考える。
初めての討伐依頼ということで少し緊張していたのだが結果は戦闘なしか。
楽といえば楽だったがスキルもほとんど上がらなかった。
まぁ戦闘は今後に期待しよう。
それにしてもフォレストクーガーは結構可愛かったな。
最初はすごく怖かったがマタタビ人間の効果が出たあとはちょっと大きいネコと化していた。
そういえばこのゲームはモンスターをペットにすることはできるのかな?
できるなら可愛いモンスターを連れて癒しにしたいところだ。
現実では一人暮らしだからペットを飼い難いからな。
やはり飼うならネコ系か。
マタタビ人間があればいくらでも捕まえ放題な気もする。
「なるほど、わかりました」
おっと完全に意識があらぬ方へ飛んでいた。
「あの森にフォレストクーガーが移住していたのは把握していませんでした。こちらの不手際です。申し訳ありません」
「いっいえ、別に怪我もしてないですし」
「いえ、依頼のランク指定はこちらの仕事ですのでそれに問題があったのですからギルドの責任です。フォレストクーガーはそれほど強力なモンスターではありませんがそれでもランクEに回すような仕事ではないのです。お詫びといっては何ですがギルドポイントに20ポイント加算しておきます」
ラッキー。
フォレストクーガーのおかげでギルドポイント得しちゃったな。
そういえばそのフォレストクーガーはどうなるんだろう。
俺のせいで討伐とかされちゃったらなんか可哀相だな。
「フォレストクーガーってどうなるんですか?」
「どうといいますと?」
「討伐とかされてしまうんですかね?」
「そのような依頼があれば討伐されるかもしれませんが依頼がなければこちらから干渉することはありません。討伐してギルドに得があるわけでもありませんし」
確かに。
むしろ放置しておいたほうが依頼が増えてギルド的には良かったりするんだろうか。
まぁ一安心だ。
「報酬の方はどうしますか?」
「現金でお願いします」
「かしこまりました」
うーむ、そろそろ銀行に口座を作ったほうがいいのかなぁ。
「イツカさんのギルドポイントが100を超えましたのでランクアップを行うことができます」
そう言われてギルドカードを見ると115になっていた。
さっきおまけでもらった20ポイントで100を超えたようだ。
「説明をお聞きになりますか?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました。ランクアップを行うためにはランクアップクエストというものを受けていただく必要がございます。イツカさんはランクEですので『誘いの洞窟』攻略が目標となります。この誘いの洞窟はギルドが管理をしているダンジョンでランクEのギルド員しか入ることができません。この洞窟に入り証しを持ち帰ることが達成条件です」
「え~っと中にはモンスターがいるんですよね?」
「はい、います」
「もし失敗した場合はどうなるんですか?」
「このクエストには達成期限はありません。なので最終的に証しを持ち帰ることができればランクアップです」
ふむ、失敗しても何度も挑戦できるのか。
ということは難易度的に結構高めで何度も挑戦させて実力をつけさせようってことなのかな。
「わかりました。ランクアップクエストを受けます」
「かしこまりました。ランクアップクエストを受ける際はギルドにお越し下さい。ギルドのワープゲートから直接洞窟に入ってもらうことになります」
ワープゲート…そういうものもあるのか!
まぁ取り敢えずは準備をしないとな。
ギルドから出ようと振り返るとすぐ目の前に誰かが立っていた。
「ぬぉっ、近っ!!!」
思わず声を出してしまった。
そこに立っていたのはライカンスロープの女性だった。
頭上を見ると名前は表示されない。
どうやらプレイヤーのようだ。
相手ははっとした表情で一歩下がった。
「すっすまん」
「いえ」
軽く会釈をして俺はカウンターを譲った。
なんであんなに近くにいたんだろう。
首をかしげながらギルドから出る。
ランクアップクエストの準備のためにジェシーの所に行くかな。
討伐依頼の尻尾以外のアイテムの用途も聞きたいしな。
ネズミの肉とか何に使うんだろう、食えるのかな?
などと考えながら通りを歩いていると後ろから声をかけられた。
「ちょっとそこの君」
振り返ると先程のライカンスロープの女性だった。
「あーさっきの。何か御用ですか?」
「えーっと先程は済まなかった」
「いえ、特に気にしてません。御用はそれですか?」
「いっいやそれもあるのだが他にも用事があってだな」
話をするには少し遠かったので少し近づいた。
すると女性は近づいた分だけ下がった。
…ショックだ!
俺の傷付いた表情に気がついたのだろう。
女性は慌てて弁解を始めた。
「違うんだ!別に君のことが嫌いとかではないんだ。ただ…その…匂いが…」
さらにショック!
仮想空間なのに体臭がするなんて。
しかも避けられるほど酷いとか悲しすぎる。
思わずその場にへたり込む。
「ハッ!違うぞ、べっ別に臭いとかそういうわけじゃなくてだな」
あたふたと弁解を続ける。
この人はいい人なのかもしれない。
「いいんです。俺の体臭が臭い事を教えに来てくれたんですよね?イゴキヲツケマス…」
「だから違うと言ってるじゃないか。むしろいい匂いというかなんというか。さっきも思わず嗅いでいたら君が振り向いて驚いたんだ」
「ほっ本当ですか?」
「ああ、本当だから立ち上がってくれ。他人が見たら私が君を虐めているみたいじゃないか」
臭いわけじゃなくてよかった。
立ち上がり俺は女性に尋ねた。
「体臭のことじゃなかったら一体何の御用でした?」
「えーっとその前に君何か香りのでる道具とか使っているんじゃないか?ちょっと香りに酔ってしまいそうなんだ」
「道具?今持っているのは身につけている装備とかしかないと思うんですが。あとは薬草とかネズミの肉とか」
「説明しにくいんだが甘い香りというか嗅いでいると気持よくなってくるというか」
うーむ、一体どの道具がいけないんだろう。
モンスターのドロップアイテムは取り出せば匂いもするだろうがアイテムボックスに入っているんじゃ匂いもしないし。
ライカンスロープだから匂いに敏感でボックス内の匂いも感知できるのかな?
…ん?
ライカンスロープ?
「あのぉ、もしかしてあなたはネコ系のライカンスロープですか?」
「ああ、モデルはオセロットだ。それがどうかしたか?」
「いえ、ちょっと匂いの心当たりが。オープンステータスウィンドウ」
ステータスウィンドウを開きクラスを器用貧乏に変更する。
「おや、匂いがなくなったな」
やっぱりかぁぁぁ。
どうやらマタタビ人間はライカンスロープにも効果が及ぶみたいです。
「取り敢えず立ち話も何だからそこの店へ入らないか?」
指し示した先は落ち着いた感じの店舗だった。
女性についてなかにはいるとコーヒーのいい香りが漂っていた。
どうやらここは喫茶店のようだがこのゲーム、そんなものまであるのか。
オープンβ初日からやっているが今まで口にしたものはポーション位だったので飲食物があるということに気がついていなかった。
財政的に色々なお店を見てまわるということができなかったというのもあるが。
「コーヒーでいいかな?」
「あ、はい」
「オリジナル2つ」
女性はなれた様子で注文をした。
「この店よく来るんですか?」
「ん?ああ、見つけたのは最近だがお気に入りの店だな。そういえば自己紹介もまだだったな。私の名前はノエルだ」
「俺はイツカです」
「イツカ君か。よろしくな」
「こちらこそ。それでノエルさんは」
「ノエルでいいよ」
「えっとノエルは俺に何の用だったんです??」
「先程ギルドで後ろにいたんで聞こえたのだがランクアップクエストに挑戦するのかい?」
「ええ、さっき手続きしました」
「実は私もランクアップクエストを少し前に受けたんだ。それで一人で挑戦してみたんだが見事に失敗してね。だから誰かとPT組んで挑戦できないかと考えてたんだ」
「なるほど。誘いの洞窟でしたっけ?そんなにヤバイんですか?」
「私が入ったところはそれほど強いモンスターがいたわけじゃなかったんだ。ただトラップとかに気を取られている間に敵に近づかれてしまってね。私一人じゃ少し厳しいかなと感じたんだ」
「武器スキルは弓かなんかですか?」
「いや私は魔法使いなんだ」
魔法使い?
そういえばステータスにMPがあったな。
でも魔法使いってローブとか着て木の杖か何かを持っているイメージだった。
「獣人が魔法使いだとおかしいかい?」
「えーっと獣人は盗賊とか戦士ってイメージだったもので」
「まぁそうだろうね。実際獣人はそっちの方にステータス補正がかかってるみたいだしね」
「そうなんですか。でも魔法は楽しそうですね。どうやったら覚えられるんですか?」
「ははは、そう簡単には情報は教えられないな。君が私と組んでくれるってんなら教えてあげなくもないが」
うーむ、やはり情報はこの世界では重要だな。
でも簡単にPTを組むってのはどうなんだろうか。
「なっなんだったらさっきの香りの情報と交換でもいいぞ」
「そんなに気に入ってくれたんですか?」
「いやっ!別にそういうわけじゃないぞ!!」
ものすごい反応だ。
恐るべし、マタタビ人間。
でもマタタビ人間の情報と交換で魔法の情報か。
どうなんだろうか。
どっちの情報が重要なのか皆目見当もつかない。
でもせっかくのプレイヤーとの接触だし情報交換しておくか。
「わかりました。さっきの匂いの情報と交換で」
「そっそうか!ししし仕方がないな。魔法はだな西区にある魔法ギルドで習うことができるんだ。ただし教えてもらうには雑用をしてギルドポイントを稼ぐか誰かからの推薦状を貰わないと習うことができないんだ。ただし魔法を教えて貰うごとに結構な額の寄付金が必要になるから気をつけたほうがいいぞ」
うーむ、大した情報でもなかったかな。
ギルドがあるってことは街をうろついていれば気づけたかもしれない。
まぁしょうがないか。
「それでさっきの良い香りの正体はなんなんだ?アイテムかい?」
「あーアレはですねクラスの付加効果なんですよ」
「何?どいうことなんだ?」
「マタタビ人間というクラスの効果で猫科の生き物を魅了するらしいです」
「それが私にも効果を及ぼしたということか」
「おそらくは。依頼の帰りでクラスを変えるのを忘れてたんですよ」
「それの効果はどれほどのものなんだ?」
「んーっと取り敢えず猫科のモンスターがものすごい懐きましたね」
ガタッ!
ノエルが身を乗り出した。
「えっと、どうしました?」
「そのクラスはどうやって入手したんだ!?」
ものすごく興奮してらっしゃる。
耳はピンと立ち目はランランと光っている。
正直ちょっと怖い。
「あの少し落ち着いてですね」
「どうやって取得したのかと聞いているんだ!」
誰か助けてくれ。
「お待たせしました。オリジナルコーヒーでございます」
天の助けだ!
スキル&アイテム等変化なし
所持金1000Gold
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あとがき
ついにイツカが他プレイヤーと接触です。
というかマタタビ人間うらやましすぎる
感想返し
>>セイキさん
モンスターテイマー面白そうですね
さらにイツカが自力で戦わなくなりそうですがw
>>赤楝蛇さん
取り敢えずは生存させておきました
ただこいつをペットにすることはないかな?
>>○よさん
一人だとイツカは何時まで経っても戦闘しなさそうなのでPTフラグを立ててみました
あと魔法の設定もちょっと出してみた
ただイツカは色物スキルに走りそうですけども
あと俺がパニック状態でした
>>はきさん
一応街の周りには小動物的な練習用モンスターが居るはずなんだがひきこもりなもんで…
図書館は定期的に通わせたいですね
>>したさん
一応明記されていないところでもログアウトや日にち経過が起こっている設定
イツカは社会人のライト層なんで適当にスキルを習得していくと思われます
変態構成って憧れるよね!
>>通行人Dさん
思考操作は結構難易度が高いみたいです
そのうち使いこなせるようになるとカッコいいね
今回コーヒーが出てきたんでそのうち料理スキルとかも触れていきたい
感想ありがとうございます