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No.19315の一覧
[0] 【チラ裏から】扼神八波の厄介事体験記【オリジナル・コメディ?】[黒条非日](2011/05/18 09:31)
[1] 田中君の世界考察[黒条非日](2011/05/18 11:37)
[6] 扼神八波の厄介事体験記 序[黒条非日](2011/05/18 10:12)
[7] 1.[黒条非日](2011/05/18 10:01)
[8] 2.[黒条非日](2011/05/18 10:06)
[9] 3.[黒条非日](2011/05/18 10:11)
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[19315] 2.
Name: 黒条非日◆42027da6 ID:5d60ef97 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/18 10:06


「おはよーっす」
「おぉ、二条! タイヘンだタイヘンだヘンタイだー!」
「お前のことか、徳井」
「違うもん! 変態じゃないもん! よしんば変態だとしても俺は変態という名の紳士だし!」
「もう黙れよ」


 あの後暫く呆けていた少年が我に返り、急いで教室に入ればそれを出迎えたのは朝っぱらから何とも騒がしいクラスメイトだった。
 いかにも軽薄そうな逆立てられた金の髪。180程の身長は人に威圧感を与えそうなものだが、弧を描いた狐のように細い目と彼特有の雰囲気がどこか愛嬌のようなものを感じさせる、そんな少年だ。


 全体的な造りとしてはそう悪くはないのだが、発言からも知れるように何というか残念、と言う言葉が異様に似合う男である。
 そんなうるさい友人を一言の元に斬って捨て、並斗は自分の席に座った。そのままついてきていた友人、徳井遍司は並斗の冷たい返事をさして気にした様子もなくその後ろの机に腰掛け変わらぬ調子で話を続けた。


「オイオイオイオイ、二条君よぉー。いいのかい? 聞かないのかい? 大ニュースだぜ、大ニュース。聞かなきゃ絶対損するってー」
「分かった分かった。で何がどうしてどうしたって? まさかお前に彼女が出来たってのか?それなら腕の良い精神科医を紹介してやるから三秒以内に脳内彼女に別れを告げろ」
「ハッ、精神科医程度に消されるようなら俺の愛もそこまでだって事だろ。良いだろう、その挑戦受けてやるぜ! ……じゃなくてさー、ほーら教室の様子をよく見てみるんだ二条くん。何時もとは違うだろ?」


 男らしいんだか、そうじゃないんだかよく分からない台詞を吐く徳井に促され、並斗は教室を見渡した。言われてみれば、平時より雰囲気が浮ついているのが感じられる。主に男子。


 しきりに鏡を見たり、髪を整えたり、制汗剤を香水と勘違いした奴がひたすら自分にスプレーしている様子を見て、徳井は肩を竦め小馬鹿にしたような態度を見せる。


「な? 見ろよ、この無様に舞い上がった男子共の面を。ありもしないアバンチュールに期待する浮ついた雰囲気を! だがまぁ、コレも仕方ねぇって訳だ。入学して早一ヶ月。この中途半端な時期に何と転校生だってよ! うぉぉ! テンション上がってきたー!」


 急に奇声を上げる徳井を見て、他の男子生徒がうんうんと分かったように頷いている。どうやら男子間に妙な結束力とでも言うべきものが働いているようだ。
 逆に女子生徒達は落ち着いたもので、楽しみそうな雰囲気は出しているものの男子のようにバカ騒ぎはしていない。どちらかというと騒ぐ男子を冷たい目で見ている。温度的には真冬の早朝もかくや、と言った程度の冷たさだった。


「こんな時期の転校生なんて普通じゃない。どっかの組織の美少女エージェントか、はたまた安住の地を捜し遙か極東までやって来た美少女吸血鬼か、それともこの地に巣くう怪異を退治しに来た美少女エクソシストか! くぅぅ! 俺の脳内回路が唸りを上げるぜー!」
「碌なもんじゃないな、お前の脳内回路とやらは。そろそろ現実を見ようぜ。そんなのが現実に有り得る訳無いだろう。小説の見過ぎだっつーの、全くどいつもこいつも。それに転校生なら――」
「おぉっと! 皆まで言うな、二条。フッフッフ、どうせ転校生が女かどうか分からないって白けたこと言うんだろ? しかぁーし! その程度はとっくにリサーチ済み。西條のケヴィン・ミトニックと呼ばれた俺を嘗めるなよ!」


 ビシッ! と掌を突きつけ制止を掛ける徳井に、並斗は胡乱げな眼差しを向ける。


「ちなみに情報源は?」
「ん? あぁ、学校で迷ってる子を職員室まで案内したって隣のクラスの山田が言ってた」
「ケヴィン・ミトニックと何の関係があるんだよ。つーかお前パソコンなんてインターネット開くので精一杯だろうが」
「んなことねーよ。ゲームのインストールぐらい出来るって」
「誰でも出来るわ、んなこと」


 女子の視線も何のその。再び痛々しい叫びを上げ始めた徳井に並斗が朝出会った少女の事を話そうとすれば、何を勘違いしたのか先回りして更に見当違いな事を話し始める。
 並斗としてはこの友人にハッキングよりも先にエアリーディングを覚えて貰いたいところだ。既に女子の視線は液体窒素並の冷たさを帯び始め、教室内は温度差で嵐が発生しそうなくらいになっている。


 こういう所がモテない要因なんだろうなー、と並斗は徳井にもはや憐憫さえ感じさせる視線を向けるが、彼はそれに気付く様子など爪の垢ほども見せず更に言葉を重ねていく。


「隣の山田くん情報だとコレがスッゲー美人らしいのよ。腰まで届くロングの金髪で碧い目した子らしくてさー。外人さんだぜ、外人さん」
「へ?」


 ここに来て情報の齟齬が発生した。並斗が出会った転校生、扼神八波はちょっとばかり小柄で茶色のセミロングの髪と黒い瞳を持った少女だったはずだ。美少女という表現はまだしも、外人というのはどうにも頷きかねた。


「なんつったけなー? 何かカレーやらシチューが大好きそうな国出身だって聞いたけど」
「はぁ? インドか?」


 内心首を傾げる並斗を知る由もなく数少ない情報を思いだそうと考え込む徳井に、涌いてきた疑問はひとまず置いておくことにした。
 適当にカレーで連想した国を答えるが、インドで金髪碧眼というのはどうにもイメージ的に違う気がする。


 それにしても自称とは言え、一流のハッカーを名乗る割にはなんとも頼りない情報ばかりだ。そもそもパソコンを使えないのに何故ハッカーの名前など名乗るのか、正直最初から間違っている。
 そんなノリと思いつきだけで生きているような友人に並斗は溜息を禁じ得なかった。


「カレー、ルゥ? シチューの、ルー? るールーるー?」
「……いや、まさか無いとは思うけどルーマニアか?」
「あぁ! それそれ」


 つっかえが取れたような晴れ晴れとした様子を見せる徳井を横に並斗は机に突っ伏した。
 確かにマイナーと言えばマイナーな国ではあるが、まさか吸血鬼を語る友人がその原点でもあるヴラド・ツェペシュの出身国も知らないというのは確かに絶句するに値するだろう。


「どうした、二条。眠いのか? もうすぐHRも始まるんだから寝るなよ」
「頼むから喋るな。疲れる」
「おいおい、転校生来るってのにそんなテンションじゃ駄目だろうよ。ま、ウチのクラスに来るって決まった訳じゃないのは確かだけどな。他のクラスだったら昼休みにでも見に行こうぜー。約束な!」


 最後まで高いテンションで去っていく徳井に、人と話すのってこんなに疲れるものだったか、と今までの人生を思い返しつつ並斗は突っ伏したまま手を振ることで答えた。


 ちょうど徳井が席に着いたと同時に校内中に響くチャイム。教師はどうか知らないが、学生にとっては一日の授業の始まりを感じさせる忌々しい音色だ。


「――皆さんお早う御座います」


 遅れて数秒。教室の戸を開く音と同時に、風鈴の音色のような涼やかな声が聞こえた。
 突っ伏していた並斗が顔を上げる。流石に教師の声が聞こえてからもそんな状態を続ける気はなかった。
 入ってきたのはスーツ姿をした妙齢の女性。その女性はまるで背筋に棒でも入ったようにまっすぐな姿勢を取り、美しい歩き方の見本のような所作で教壇の前に立った。


 刀のように鋭い目つきとその凛々しい雰囲気も相まってまるで男装の麗人のようだ。短く揃えた烏羽色の髪もそれを助長しているのだろう。彼女の名を忍足忍。並斗達の担任に当たる人物だった。


 クールビューティーと言う言葉を人にしたならきっとこんな感じになるだろう、とそんなイメージを人に抱かせる女性だった。
 その容姿もあり生徒からの人気も高い。特に女子から熱烈な好意を寄せられているとは徳井の言である。徳井には珍しく説得力のある話であり、思わず納得してしまった程だ。


「皆さんに今日は嬉しいお知らせがあります。今日からこのクラスに新しい仲間が増えることになりました」
「来た来た来た来た来たー! っしゃー! これで俺にもやっと春が来――ぶっ!」
「五月蠅いですよ、徳井君。少し落ち着いて下さい」


 またぞろ叫びだした徳井の頭が急に跳ね上がる。辺りに散らばる白い粉。
 なかなか衝撃的な光景ではあるのだが、このクラスの生徒は見慣れすぎて驚く気もせずそれを為した人物へと目を向けた。
 視線を向けられた張本人。教壇に立つ忍足女史はその氷のような美貌を一切動かしていない。ただその腕だけが先程と違い、徳井の居る方向へといかにも何か投擲しました、と言った具合に伸ばされている。


「いてぇ……。愛がいてぇよ、忍ちゃん……。――あだぁ!?」
「誰が忍ちゃんですか。仮にも教師と生徒という間柄なのですから先生と呼びなさい、先生と」


 相も変わらず空気の読めていない徳井に二本目のチョークが突き刺さる。
 ここまでされて置いて周りの生徒から同情の視線が一つもないのが徳井が徳井たる所以だろう。並斗も呆れたような目を徳井に向けている。


「――……つぅう。忍せんせい! 何で俺の時だけ警告無しで迷い無くチョーク投げるんッスか? 他の奴にはちゃんと注意してからじゃないッスか」
「正直、貴方に何度も注意するよりそっちの方が効率的だからですが何か文句でもあるのですか?」
「あります! いくら俺が微Mだからって限度というものが――はうッ!?」
「HR中に不謹慎な言動は慎むように。貴方に付き合っていると朝の内に転校生の紹介が出来なくなってしまうのでもう喋らないで下さい」


 三度目。今までよりも強めに投げられたのか徳井が完全に沈黙する。心なしか投げる方の忍足女史の額にも青筋が浮かんでいるような気がする。そろそろ我慢の限界だったようだ。
 何時も通りの無表情に浮かぶ青筋というものもかなりシュールではあるが、それにツッこめる猛者は並斗も含め教室には存在していなかった。
 忍足女史は静かになった教室を見渡し、その様子に満足したように頷くと彼女が入ってきた扉へと声を掛けた。


「それではどうぞ、扼神さん」


 その声の後、ガラリと教室の戸が開く。入ってきたのは茶色の髪を肩の辺りで揃えた小柄で可愛らしい、しかし並斗にとっては見覚えのある少女だ。
 一瞬教室の男子が沸き立つが忍足女史に視線を向けられ、再び一瞬で黙る。ちなみに徳井はまだチョークをぶつけられた体勢で止まっている。どうやら気絶しているらしい。


「それでは自己紹介をお願いします」
「扼殺の扼に、疫病神の神。七転八倒の八と波乱の波と書いて扼神八波です! これからこのクラスでお世話になることになりましたので宜しくお願いしまーす!」


 満面の笑みでそう自己紹介する八波。しかしとんだ自己紹介もあったものである。
 どうやったらそこまでマイナスのイメージしか湧いてこない単語で自分の名前を表現できるのか。隣に立つ忍足女史も唖然とした雰囲気をしている。勿論無表情だが。
 もうちょっと紹介の仕方があるだろう、と呆れたように視線を向けると、その視線に気付いたのか八波が彼の方に顔を向けた。


「あっ! 二条だ! 同じクラスだったんだー? 奇遇だねー」
「? 二条君は扼神さんと知り合いなのですか?」
「へっ? あ、あぁ。朝にちょっと……」


 八波の言葉に忍足女史が首を傾げながら並斗へと声を掛けた。彼女は返ってきた答えに顎に手を当て考え込むようにすると、何かを思いついたようにぽんと手を打った。


「それなら丁度いいですね。二条君は扼神さんが学校に慣れるまで面倒を見てあげて下さい。扼神さん。二条君の後ろの席が空いているのでそこに座って下さい。何か学校のことで分からないことがあれば私か彼に聞くように」
「りょうかいでーす」


 自分の意志など関係なく矢継ぎ早に決まった処遇に並斗がぽかんとしていると、彼の後ろの席に着こうと歩いてきていた八波は並斗の前で一度止まり、からかうようにニヤリと笑った。


「必然偶然、合縁奇縁。ま、ま、ま、これも一つの良縁かもよ? そんじゃ、しばらくヨロシクねー、にっじょうくーん♪」
「……つーかお前、あんだけ意味深げな台詞吐いといてこれかよ!? 再会早すぎだろ!」


 ニヒヒ、と笑って席に着こうとする八波に並斗は彼女が入ってきた当初から我慢していた思いの丈を叫ぶが、しかし――。


「二条君、静かに」
「……すいませんでした」


 結局、忍足女史の一睨みで封殺されるというそんな何とも締まらない終わり方に落ち着くのだった。



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