僕は雨が好きだ。
「~~~♪」
この季節は雨がよく降る。
ざあざあ降っても良い。
しとしと降っても良い。
ぽつぽつ降っても良い。
どんな降り方でも僕は好きだ。
それが雨ならば僕はどんな形でも受け入れる。
▽
正しい主人公の倒し方 第零話
~あめ、あめ、ふれふれ~
▽
久しぶりの雨に僕の心は浮き浮きしっぱなしだ。
あの台風が去ってしまった日から天気は飽きるほど晴れが続いた。
毎日雨でも僕は構わないぐらいなのに。
「あめあめ~ふれふれ母さんが~」
鼻歌では満足できずについ声に出してしまった。
「じゃのめでお迎え……。『じゃのめ』って何だろう?」
立ち止まってその言葉の意味を考えてみた。
じゃ飲め、邪の眼、蛇の女、ジャの芽。
候補は浮かぶけど、一向に答えが出ない。
今日は久しぶりに一人で登校したので相談できる相手もいない。
康弘ならまだしも加奈に聞いたところでマトモな答えが来るとは到底思えない。
仕方なく僕は再び歩き始めた。
道端に誇らしげに咲いているのは紫陽花。
コンクリートの壁をマイペースにのそりのそりとよじ登る蝸牛。
側溝からはアマガエルが一匹出てきた。
カエルの合唱はこの季節の風物詩だ。
ゲコゲコと五月蝿くも愛嬌のある歌声を披露してくれる。
アマガエルはじっと僕の方を見つめてくる。
とても可愛らしい目だ。
僕がいくら近づこうとも逃げやしない。
ああ、雨はいい。
雨音が好きだ。
僕の好きなものに会える。
靴の汚れも取ってくれる。
それに、心のなかに溜まったものも流してくれるような気がして。
たまらなく雨が好きで、どうしようない。
気がついたら正門に到着していた。
しばらく雨に会えなくなる事を残念に思う。
帰る頃には、もう止んでしまいそうだ。
僕は傘を少しずらして、見上げた。
そこにはあの桜の木があった。
桜の木は、いつの間にか葉桜になっていた。
緑色に生い茂った葉桜。
残念ながら桜の木はここから衰退の一途を辿る。
なぜなら、次の季節には葉すら落ちてしまい丸裸になってしまうからだ。
つまるところ、春まで待たないといけないのだ。
だが、春になれば桜は咲き誇る。
「そのときになったら、勝てるのかな……」
ふいに僕は『じゃのめ』の事を思い出した。
頭の中にあったワードを組みあせて一番納得の行くものが出来た。
蛇の目、これに違いない。
だけど僕は蛇が苦手だ。
体はニュルニュルとしていて、舌でチロチロと挑発までしてくる奴ら。
極めつけはあの眼だ。狙った獲物を逃がさないあの鋭い眼。それが蛇の目。
母さんがそんな眼して待っていたら、僕だったら裸足で逃げてしまうだろうね。
でも、いつまでも逃げ出しているだけではいけない。
僕は強くならなければいけないから。
「……目標を作ることが大切である」
その言葉を僕は信じる。
選択していくことで得られる未来。
それなら、次の目標が必要だ。
僕を満足させてくれて、なおかつ成長させてくれるようなもの。
「ああ、毎日楽しくてしょうがないよ」
クスクス笑いながら、僕は皆が待つ学園の中へ入っていった。
楽しい学園生活は、まだまだ続く。