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No.18972の一覧
[0] 蒼海の波濤【火葬戦記・日欧戦モノ】[waiwai](2010/07/26 00:40)
[1] 第一章“開戦”  第二話[waiwai](2010/06/19 12:17)
[2] 第一章“開戦”  第三話[waiwai](2010/06/19 12:17)
[3] 第一章“開戦”  第四話[waiwai](2010/06/19 12:17)
[4] 第一章“開戦”  第五話[waiwai](2010/06/19 12:16)
[5] 第一章“開戦”  第六話[waiwai](2010/06/19 12:15)
[6] 第一章“開戦”  第七話[waiwai](2010/06/19 12:15)
[7] 第一章“開戦”  第八話[waiwai](2010/06/19 12:13)
[8] 第一章“開戦”  第九話[waiwai](2010/06/19 12:13)
[9] 第一章“開戦”  第一〇話[waiwai](2010/07/03 09:08)
[10] 第一章“開戦”  第一一話[waiwai](2010/07/03 09:07)
[11] 第一章“開戦”  第一二話[waiwai](2010/07/17 07:28)
[12] 第二章“激浪”  第一話[waiwai](2010/07/25 21:38)
[13] 第二章“激浪”  第二話[waiwai](2010/07/25 21:37)
[14] 第二章“激浪”  第三話[waiwai](2010/08/07 06:59)
[15] 第二章“激浪”  第四話[waiwai](2010/08/07 19:03)
[16] 第二章“激浪”  第五話[waiwai](2010/08/14 08:54)
[17] 第二章“激浪”  第六話(今回長いのでご注意ください)[waiwai](2010/08/21 07:54)
[18] 第二章“激浪”  第七話[waiwai](2010/08/28 08:31)
[19] 第二章“激浪”  第八話[waiwai](2010/09/11 09:18)
[20] 第二章“激浪”  第九話[waiwai](2010/09/18 08:39)
[21] 第二章“激浪”  第一〇話[waiwai](2010/09/25 08:38)
[22] 第二章“激浪”  第一一話[waiwai](2010/10/02 08:38)
[23] 第二章“激浪”  第一二話[waiwai](2010/10/02 08:39)
[24] 第二章“激浪”  第一三話[waiwai](2010/10/16 09:06)
[25] 第三章“煉獄”  第一話[waiwai](2010/10/16 09:08)
[26] 第三章“煉獄”  第二話[waiwai](2010/10/31 08:38)
[27] 第三章“煉獄”  第三話[waiwai](2012/03/19 22:56)
[28] 第三章“煉獄”  第四話[waiwai](2010/11/20 08:14)
[29] 第三章“煉獄”  第五話[waiwai](2010/11/20 08:40)
[30] 第三章“煉獄”  第六話[waiwai](2010/11/27 08:02)
[31] 第三章“煉獄”  第七話[waiwai](2010/12/04 08:23)
[32] 第三章“煉獄”  第八話[waiwai](2010/12/11 08:36)
[33] 第三章“煉獄”  第九話[waiwai](2010/12/18 08:53)
[34] 第三章“煉獄”  第一〇話[waiwai](2010/12/25 08:35)
[35] 第三章“煉獄”  第一一話[waiwai](2011/01/16 22:29)
[36] 第三章“煉獄”  第一二話[waiwai](2011/03/06 10:49)
[37] 第三章“煉獄”  第一三話[waiwai](2011/03/06 10:43)
[38] 第三章“煉獄”  第一四話[waiwai](2011/05/29 12:36)
[39] 第三章“煉獄”  第一五話[waiwai](2011/05/29 12:35)
[40] 第三章“煉獄”  第一六話[waiwai](2011/05/29 12:36)
[41] 第三章“煉獄”  第一七話[waiwai](2011/07/09 08:50)
[42] 第三章“煉獄”  第一八話[waiwai](2011/12/19 23:59)
[43] 第三章“煉獄”  第一九話[waiwai](2012/03/19 22:55)
[44] 第四章“混沌”  第一話[waiwai](2012/07/15 20:09)
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[18972] 蒼海の波濤【火葬戦記・日欧戦モノ】
Name: waiwai◆d857e3b9 ID:f5c40944 次を表示する
Date: 2010/07/26 00:40
一九四二年六月七日  トラック諸島




 日本海軍の太平洋における最大拠点であるトラック諸島。豪州に睨みを利かせることのでき、かつ泊地とするに適した地理的条件も兼ね備えたここは、大型機の発着も可能な広大な飛行場や多数の要塞砲が設置されるなど、日本海軍の一大拠点として存在していた。
 特に、日英間の緊張が高まる中、パラオやマーシャル諸島と共にトラック諸島の重要性はより一層高まっていた。こちらが保持していれば豪州方面への抑えとして機能するが、逆に英側に奪取された場合、マリアナ諸島やフィリピンへの侵攻の足がかりとなってしまう。そのため、一九四一年九月より海軍基地航空隊の精鋭や南方防衛を担う第二艦隊が常駐するようになっていた。
 とはいえ、未だ英側が軍事的行動を起こさないため、臨戦態勢とは程遠い状況だった。この日も、何事も無く過ぎていく──筈だった。





「……あれ?」
 この日、冬島に設置されている陸上用電探のスコープを覗いていた兵が怪訝な声を上げた。
「どうした?」
「いや……何か一瞬、反応があった気がしたんだが……」
 同僚がそれを聞き、同様にスコープを見つめる。数瞬後、確かに反応があった。ただ、かなり微弱なものではあったが。
「味方……じゃないよな」
「そんなわけねえだろ。南に飛んだ機体なんてここ数日一機もねえぞ」
 その兵はそう答えつつ、隊内電話を繋げた。当直将校に連絡するためである。
「最近おとなしくなってたが、例の“定期便”がまた始まったのかもな」
 彼の言う“定期便”とは、ラバウルやポートモレスビーより飛来するようになった小規模な編隊のことだ。日英間の関係が悪化した直後の一九四一年七月以降、散発的にトラックやパラオに飛来しては上空を旋回して去っていく、という挑発を繰り返す行動のことである。それが基地航空隊の進出の一因ともなっていた。戦時ならいざ知らず、平時に対空砲火を撃ち上げるなどするわけにはいかない。
「こちら冬島監視哨。電探に反応、感三。方位一五〇、距離およそ七〇浬」
『了解した。当直中隊を上げる』
 彼らの上官は短く答えると電話を切った。程なくして、彼らの上空を幾つもの爆音が通過していった。
「……おい、ちょっと待て。おかしいぞ……」
「何がだ?」
 電探担当の兵が再度上げた不審の声に、同僚は再びスコープを覗き込み──硬直した。
「反応増大……き、機数、五〇……六〇……七〇……嘘だろ、おい……」
 担当の兵が震える声を出した時には、同僚は隊内電話に飛びついて送受器に怒鳴りつけていた。
「こ、こちら冬島監視哨!反応多数!敵機の数は……一〇〇以上!」











「おいおい、話が違うだろ……」
 当直中隊を率いる上村正樹大尉は引きつった笑みを浮かべて呟いた。久々の“定期便”だと出撃前に聞いていたが、どう見てもそれではない。“定期便”は双発機のブリストルブレニム爆撃機が数機で構成されていた。そのため、常に一個中隊程度が警告を行う一式陸攻と共に出撃していたのだが、目の前の編隊は軽く見積もっても一〇〇機近い。その上、ほとんどの機体が単発機のようだ。
「全機、高度四〇(四〇〇〇メートル)まで上がるぞ。こちらからは手を出すなよ」
 米国製の無線電話で部下に命令を下しつつ、彼は機体を上昇に移らせた。眼前の大編隊──おそらく英国の航空隊──の高度は約三〇〇〇。万が一の場合があったら攻撃に有利な体勢をとれるようにしたのだった。
 だが、あちらの指揮官もそうはさせるつもりは無いらしい。編隊から一部が分離し、上村の中隊と同じ高度に占位した。その数、一六。彼らの倍である。
「……ちっ、さすがにそう簡単にはいかせてくれないか……」
 敵機は記憶にある限り、ホーカー“ワイバーン”艦上戦闘機。英海軍の最新鋭機で、二〇ミリ機関砲、一二.七ミリ機関砲各二門を装備し、最大時速五三八キロの機体である。対する上村らが操るのは零式艦上戦闘機二二甲型と呼ばれる機体だ。現在の数の上での主力である零戦二一型の発動機を『栄』一二型から二一型とし、多少の防弾装備を追加した機体である。武装は長銃身の二〇ミリ機銃と七.七ミリ機銃が各二丁。最高速度は五四〇キロを記録している。
(ちょいとまずいな、こりゃ……)
 上村は機体を一定の速度で旋回させつつ思う。性能差はほぼ互角。仮に空戦となった場合、格闘戦に持ち込めばこちらが有利になれるかもしれない。だが、二倍の敵相手にどこまでやれるのか?という疑問もある。
 そうこうしているうちに、竹島を飛び立った一式陸攻が到着した。そして、英語で警告を呼びかけだした。
『貴隊は我が国の領空を侵犯している。速やかに変針せよ。繰り返す、速やかに変針せよ』
 呼びかける搭乗員の声は少し震えている。一〇〇機以上の編隊と向かい合っているのは恐怖を感じさせるのだろう。──と、上村は対峙しているワイバーンが動きを変えたことに気づいた。
「……っ!全機、回避しろ!」
 無線に怒鳴りつつ操縦桿を倒し機体をロールさせる。次の瞬間、一瞬前まで機体のあった場所を何条もの火箭が通り抜けていった。脇の下を冷や汗が流れるのを感じつつ、彼は一式陸攻を見やった。
 陸攻は四機のワイバーンに食らいつかれていた。右の発動機から炎が出ている。火はあっという間に機体を包み込み、真っ逆さまに墜ちていった。
『三番機墜落!』
『二小隊四番機墜落!』
「全機、交戦を許可する!……くそったれがっ!」
 部下の悲鳴に叫ぶように命令し、上村はスロットルを開いた。胸の内にはみすみす部下を死なせた自分と、騙し討ちを仕掛けてきた英軍に対する憤りがあった。速力を上げた零戦が一機のワイバーンに食らいつく。その機体は右へ左へと機体を振り逃れようとしている。だが、その程度で振り切ることは出来ない。
 照準器の環にワイバーンが入ってきた。上村は発射把柄を握った。零戦の両翼から太い火箭が延び、敵機の左翼を直撃した。大口径の炸裂弾は一撃で主翼を吹き飛ばす。揚力を失ったワイバーンは真っ逆さまに墜落していった。
 戦果を喜んでいる暇は無い。未だ十数機がこちらを狙っているのだ。ちらりと、敵編隊を見やると、増速し一直線にトラック諸島に向かっている。島々の上空には胡麻粒のような黒い点が幾つも浮いているのが分かった。おそらく、追加で上がってきた戦闘機隊だろう。あちらの編隊は彼らに任せるしかない。
 そう考えなおし、上村は次の獲物を探し求めた。彼の中隊の役目は、こちらの敵機をあちら側に行かせないようにすることだけだった。










「左四〇度、大編隊接近。飛行場に向けて進行中の模様」
「友軍機、敵編隊に向かいます!」
 第二艦隊旗艦『伊勢』の艦橋に見張り員の声が響く。第二艦隊司令長官の近藤信竹中将は双眼鏡で上空を見つめた。各飛行場から急遽舞い上がった戦闘機隊が、敵編隊へと向かっていく。その数はおよそ半分程度しか見当たらない。
「してやられましたな……」
 参謀長の白石万隆少将が悔しげに呟いた。近藤も双眼鏡から目を離し苦い顔で応じる。
「仕方あるまい。こちらには一切の情報が入っていないのだからな」
 彼らとしても、内地の連合艦隊(GF)司令部から何の情報も入っていないために対応のしようがなかった。むしろ、完璧な奇襲にも関わらず直掩隊を上げられたトラックの基地航空隊には感嘆すべきだろう。
 戦闘機隊は果敢に攻めかかっているようだが、全て阻止するには至っていない。やがて、環礁の上空に黒煙が発生する。対空射撃が開始されたのだろう。
「長官、本艦は出撃準備完了しました」
 機関長と連絡を取り合っていた『伊勢』艦長の武田勇大佐が報告してきた。ほぼ同時に、見張り員と電信員の新たな報告も届く。
「『日向』より信号。『我、出撃準備完了』」
「『扶桑』『山城』より信号。『機関ニ異常無シ』」
「九戦隊より入電です。『我、出撃準備完了』」
「……不幸中の幸い、とでも言うべきですかな。我々が動けるというのは」
 上げられた報告を聞き、主席参謀の柳沢蔵之介大佐が複雑そうな表情で呟いた。第二艦隊はこの日の早朝から訓練を行う予定だったため、乗組員は全て艦内にいた。また、出港を早朝としていたため、機関が既に始動状態にあったことも幸いしていた。
 だからといって、空襲に際して何ら役に立つわけでもない。こちらに仕掛けてくるならともかく、飛行場を狙ってくる敵機に艦艇は無力だ。現に、直掩や対空砲火では阻止できなかったらしく、幾つかの島々から黒煙が立ち昇っている。気がつけば、空襲も終わっていたようだ。敵編隊は姿を消していた。
「長官、トラック基地司令部より被害報告です」
 伝令から電文の綴りを受け取った通信参謀の中島親孝少佐が近藤に呼びかけた。そして、内容を読み始める。
 春島、竹島飛行場、滑走路及び基地施設に多数被弾、使用不能。楓島飛行場、損害軽微。その他、基地設備への若干の損害有り──これがトラック基地司令部からもたらされた損害報告だった。二艦隊司令部の空気は一層重くなった。
「竹島をやられましたか……陸攻は出せませんな」
 柳沢が飛行場の方角を見ながら呟く。トラック諸島には軍用機を運用する飛行場が三か所ある。大型機の発着も可能な竹島、戦闘機部隊を配備している春島。そして、つい数カ月前に完成した楓島である。英軍は、竹島の飛行場を叩けば、攻撃を受ける可能性は少なくなると気付いたのだろう。
「哨戒中の九七大艇より入電です!『我、英艦隊発見。位置、『トラック』ヨリノ方位二〇五度、一八〇浬。針路四五度。速力二二ノット。空母六、戦艦ニ』……ここで途切れております」
 その報せに艦橋がざわめきに包まれた。近藤は目を閉じ、沈黙している。こちらに一八〇浬も先の敵艦隊を攻撃する術は無く、対する敵艦隊は未だ航空隊が健在であると思われる空母六隻。戦力差は明らかであった。
「トラック司令部より再度入電!『基地ノ損害甚大。防衛ハ極メテ困難ト判断。現時点ヲ以テ『トラック』ヲ放棄ス。二艦隊ハ、速ヤカニ脱出サレタシ』」
 その電文を聞き、近藤は素早く命令を下した。
「艦隊全艦に通達。これより我が二艦隊はトラックより退避、マリアナ諸島へ向かう」
「は!」
 命令を聞き、艦隊司令部は再び動き出した。命令が慌ただしく各艦に伝えられる。最初に動き出したのは第四水雷戦隊の軽巡『那珂』と第二、第九、第二四の三個駆逐隊一二隻である。第九戦隊の重巡『青葉』『衣笠』『古鷹』『加古』がそれに続く。
「長官、出します」
 武田の呼びかけに、近藤は黙って頷いた。『伊勢』は排水量二万九九〇〇トンの巨体を震わせ、ゆっくりと前進を開始した。その後方に、第四戦隊の僚艦『日向』『扶桑』『山城』が続く。環礁外に出る際、いつ「敵機襲来!」や「雷跡!」の叫びが聞こえてくるかと緊張が走ったが、幸い、そのような事態に見舞われることも無く環礁外へと出ることが出来た。陣形を対空戦闘用の輪形陣に組み直し、艦隊は針路をマリアナ諸島へと向けた。





 出港してから数十分後、見張り員の報告が届いた。
「後方より機影。数三〇。味方機と認む」
「トラックからの直掩隊か……」
 近藤は近づいてくる爆音に耳を澄ませながら呟いた。この数分前、トラックの司令部から直掩機を出す旨の電文を受け取っていた。そこには、直掩隊はトラックには戻らないため、搭乗員を第二艦隊側で救助して欲しい、とも記されていた。トラック司令部は壊滅的であり復旧が困難な基地よりも健在な第二艦隊を守ることを選んだのだ。
 彼らの決断に報いるには、一隻でも多く艦を生き残らせねばならない。近藤はそう決意していた。
 そして、恐れていた物は、とうとうやってきた。
「二一号電探、感三。方位一七〇度、距離四〇浬」
 電測長からの報告が艦橋に響く。敵の第二波攻撃はトラックではなく第二艦隊を狙ってきたのだ。第一波でトラックの基地機能はあらかた奪ったと判断したのかもしれない。
「対空戦闘用意。直掩隊に迎撃を命じよ」
 近藤は重々しい声で命令を発した。命令を受けた零戦隊は次々に翼を翻し敵編隊に向かっているだろう。機数では倍以上だが、彼らの働きが第二艦隊の命運を決めると言っても過言ではない。
「友軍機、交戦始めました」
 見張り員の報告が届く。しばらくして、見張り員が叫び声を上げた。
「後部見張りより艦橋!敵編隊、直掩隊を突破!数四〇、突っ込んでくる!」
「対空戦闘始め。目標は各艦に一任」
「高角砲、撃ち方始め!」
 近藤の命令に続き、武田の指示が飛び、『伊勢』の両舷に二基ずつの一二.七センチ連装高角砲が咆哮した。
「四戦隊各艦、撃ち方始めました」
「九戦隊、撃ち方始めました」
「四水戦、撃ち方始めました」
 見張り員が僚艦の動きを報せてくる。艦隊上空にどす黒い黒煙が立て続けに発生する。
 不用意に艦隊に接近したワイバーンが至近で炸裂した高角砲弾の弾片で主翼を断ち切られ、艦爆、艦攻にも撃墜機が発生する。だが、英軍機は損害を恐れずに接近してくる。
「敵艦爆、『扶桑』『山城』に急降下!左九〇度、五〇!」
「敵雷撃機、低空に降下!『扶桑』『山城』を狙う模様!右一〇〇度より接近!」
「『扶桑』と『山城』を狙ってきたか……!」
 見張り員の報告に近藤は唸り声を上げた。輪形陣の中で後方に位置する『扶桑』『山城』が捕捉されたのだ。
 艦爆が翼を翻し降下に移る。更に、雷撃機らしい機体が低空に舞い降り、『扶桑』と『山城』に狙いを定める。
 『伊勢』を始めとする輪形陣の右側の艦艇が『扶桑』を、『日向』以下の左側の艦艇が『山城』に援護の火箭を放つ。更に狙われた両艦もジグザグに回避運動をとりつつ対空砲火を放つ。『扶桑』に襲いかかる一機の艦爆が弾幕の中に突っ込む形となり、エンジン・カウリングから火を噴き出して落下する。更にもう一機、今度はコクピットを直撃したのか、原形を保ったまま墜落していく。
 対空砲火が上げた戦果はその二機だけであった。残りの機体は臆することもなく次々に投弾していく。やがて、見張り員の報告が入った。
「『扶桑』に爆弾命中!直撃箇所不明!」
「『山城』に爆弾命中!直撃箇所は、艦橋の模様!」
「何だと!?」
 近藤は思わず声を荒げた。『扶桑』の被害は分からないが、『山城』は致命的な被害を受けたのだ。艦橋に被弾するということは、一時的に艦の針路が変えられなくなるのである。
 この時、被弾した数は『扶桑』に三発、『山城』に二発であった。『扶桑』の方は副砲と高角砲の一部に損害が出たのみで済んだ。しかし、被弾数は少ないとはいえ、『山城』の損害は深刻であった。一発は二番砲塔に命中したものの弾き返されたのだが、もう一発は艦橋トップを直撃。艦長以下、艦橋内の乗組員を全滅させてしまったのである。このため、指揮系統を失った『山城』は艦隊の動きについていけず、僚艦の援護を受けられない位置に飛び出してしまった。
 そして、それを見逃す英海軍航空隊では無かった。直進する『山城』に肉薄し、雷撃を見舞ったのである。回避運動の取れない『山城』はいい的であった。やがて、立て続けに水柱が上がる。
「『山城』被雷!四……いえ、五です!傾斜しています!」
「『扶桑』被雷!数二!」
 見張り員の絶叫に近藤は全身の力が抜けるような感覚を味わった。魚雷を五本食らい、傾斜している上に指揮系統をやられた『山城』が復旧する可能性は低い。
「『扶桑』より信号。『我、出シウル速力一七ノット』」
「『山城』より信号。『復旧ハ絶望的。退艦許可願ウ』」
「……許可する、と返信してくれ。それと、『海風』『江風』に乗組員の救助をするよう伝えてくれ」
 力無く命ずる近藤。『航空機で戦艦を沈めることは不可能』という立場の大艦巨砲主義者である彼にとって、目の前で自説を覆されたのがショックだったのかもしれない。二隻の駆逐艦が『山城』に横付けし、救助活動を開始する。
 だが、第二艦隊を襲う災厄はこれだけに収まらなかった。
「二一号電探に反応。感三。方位二〇〇度、距離三五浬」
「なっ……」
「まだ別の機動部隊がいたのか……!」
 電測員の報告に白石が絶句し柳沢が呻き声を上げた。攻撃隊の出現間隔からしてトラックを襲った機動部隊では無い。在泊艦艇への攻撃を命じられた部隊だったのかもしれないが、今の第二艦隊司令部には敵情は分からない。
「『山城』の退艦を急がせろ!全艦対空戦闘用意!」
「直掩隊に迎撃命令!」
 近藤は矢継ぎ早に命令を下した。数を半分程度に減らした零戦が再び敵のいる方角へ飛び立ち、各艦の対空砲が空を睥睨する。第二艦隊の災厄はまだ始まったばかりであった。









 後に、『第一次トラック沖海戦』と呼称される一連の海戦は日本海軍の完敗で幕を降ろした。
 早朝より英機動部隊の奇襲を受け、トラック諸島基地群は壊滅。環礁内に停泊していた第二艦隊主力は戦闘機隊の援護を受けつつ脱出を図ったものの、英機動部隊の度重なる空襲と潜水艦による襲撃を受け、戦艦『日向』『扶桑』『山城』、重巡『衣笠』『古鷹』、駆逐艦三隻を喪失。戦艦『伊勢』、重巡『青葉』、駆逐艦二隻が大破。他、重巡『加古』、軽巡『那珂』等、多数の艦が損傷した。
 この海戦は、“史上初めて航行中の戦艦を航空機で撃沈した事例”として海軍史に残る戦いとなった。この結果、各国海軍は空母戦力を重視するようになる。
 翌一九四二年六月八日。英仏蘭を中心とする“欧州連合”は日米両国に宣戦布告。数年に渡る大戦が幕を開けようとしていた。




















後書きみたいな何か
 某海戦シミュレーションゲームでSS書いてみようとしたが、無茶なことに気づいたので何となく前々から考えていた日英戦(っぽい物)を書いてみた。
 何かおかしな点があったらご指摘願います。
 ……ちなみに、作者は扶桑型にいい印象を持っていません。なんか某海戦ゲームのせいで打たれ弱いイメージがあるもので。


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