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No.18737の一覧
[0] 戦え!戦闘員160号! 第12話:『番外編・天才科学者とぼんくら戦闘員』[とりす](2011/01/20 18:29)
[1] 第01話:『超展開!? 地球に降りた二つの宇宙人!』[とりす](2010/05/10 19:18)
[2] 第02話:『対決! 魔法少女プリンセス・フリージア!』[とりす](2010/05/11 18:38)
[3] 第03話:『新たなる決意! 戦闘員としての一歩!』[とりす](2010/05/14 12:31)
[4] 第04話:『運命の出会い? もうひとりの魔法少女!』[とりす](2010/05/18 17:01)
[5] 第05話:『奇策! 160号の罠!』[とりす](2010/05/22 19:45)
[6] 第06話:『嵐の予兆!? 束の間の非日常!』[とりす](2010/05/27 21:19)
[7] 第07話:『黒星からの使者! わがまま皇女様のご指名!?』[とりす](2010/06/02 16:16)
[8] 第08話:『御門市観光! 引き寄せられた逢瀬!?』[とりす](2010/06/13 07:45)
[9] 第09話:『決戦! 御門市廃ビルでの死闘! 前編』[とりす](2011/01/01 19:33)
[10] 第10話:『決戦! 御門市廃ビルでの死闘! 後編』[とりす](2011/01/14 03:37)
[11] 第11話:『王の帰還! 黒き星の思惑!?』[とりす](2011/01/18 05:09)
[12] 第12話:『番外編・天才科学者とぼんくら戦闘員』[とりす](2011/01/21 08:42)
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[18737] 第08話:『御門市観光! 引き寄せられた逢瀬!?』
Name: とりす◆bdfaf7a6 ID:ea56ae31 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/13 07:45
「うむ、揃ったようじゃな。では参るぞ」
「へえへえ」

 地球を調査しに遠い銀河の彼方からやって来たノワールの使い、アルシャムス皇女の実地調査が決まってから、数分後。
 服装を改めた俺達三人は、転送ポットに乗って地上へと向かっていた。
 皇女様は同じような背丈のヴェスタから借りたワンピース。
 ナミ子は自前なのか、チュニックにレギンスというシンプルな出で立ちに、念のためということで深く帽子をかぶらせている。
 そして俺はいつぞやと同じ、支給されたパーカーにジーンズという適当な格好である。
 やや不恰好ではあるが、他人から見れば少なくとも異星人とそれが造りだした改造人間の一味には見えまい。……見えても困るのだが。

(しっかしこれ、周りから見たらどんな三人組に見えるんだろうな)

 やっぱり兄と妹×2……ってのが無難な線だろうか。
 そのうちの一番小柄な奴が一番身分が高いというのが、なんとも俺達のデコボコ具合を上手く表しているような気がした。

「よい天気じゃ。歩き回るにはうってつけじゃの~」

 青い空の下に出た皇女殿下が、ん~とおもいきり伸びをする。
 確かに見上げれば、空は快晴。雲ひとつなく、お洗濯とおデートには最適な昼下がりだった。ついでに俺の気持ちも目下駄々下がりである。
 それというのも、この皇女様土地見物が決まった後、二人が着替えを行っていたその最中、俺は一人作戦室に呼び出され、我らが大将ディアナ様によって口すっぱく注意を受けているからだ。

「いいか、160号。あの方はノワールにとって掛け替えのない御身であると同時に、総帥のご寵愛を授かっている姫のご身分でもあらせられる」
「はあ……」
「間違っても粗相のないようにしろ」
「そりゃもちろん気をつけますが」
「いいか、間違っても、間違っても、ま、ち、が、って、もっ! あの方を不自由にさせることや不機嫌にさせることは回避しろ。貴様の命をもってしてもだ」
「…………」
「本来ならば私がついていきたいところ、殿下の申し出によって貴様が選ばれたのだ。その意味を深く理解し、全力でその任務を遂行しろ。……いいか、間違うなよ。貴様の優先順位を。もしまがり間違ってあの方の麗しいお顔に皺一つでもあってこの基地に帰還してみろ。即刻貴様を解体してやる」

 鬼みてえな表情で詰め寄られ、散々皇女様に対する注意を受けてきたのだ。
 そりゃ憂鬱にもなる。
 この小さなお姫様の虫の居所がどこにいるのかは知らないが、その機嫌一つで簡単に俺の命が決まるのである。
 慎重にいかないとな……。
 俺はごほんと一つ咳払いし、頭の中で幾つかの言葉を選択しつつ、皇女に向かっていまだかつてない丁寧さで問いかけた。

「では殿下。まずはどこから回りますか? こう見えても俺、これまでノワール軍が戦ってきた場所のデータとか全部閲覧してますから、どこからでも案内できますよ」
「は? 何故そのような場所に行かねばならんのだ。アホかお主は」

 皇女様の表情ランクが一つ下がった。分解確定。

「えぇぇぇっ!? だ、だって、地球の調査に参られたんでしょっ!?」
「うむ、そうじゃぞ。まずはこの星の文化から調査していくことにしよう。ナミ子、劇場に案内せえ」
「映画館っすか? じゃあこっちすねー」

 すたすたと歩いていくナミ子と、それについて行く皇女殿下。
 その二つの背中を呆然と見送りながら、俺はひきつく頬をおさえられずにいた。
 な、なにゆえ映画館……?

「せんぱーい、何ぼやぼやしてるっすかー? とっとと行くっすよー」
「早く来んか! 我は退屈は好かんぞ!」
「お、おう!」

 慌てて二人の後を追いつつ、なんとなく俺は、この後の自分に降りかかるであろう不運を想像し始めていた。





 映画館で大長編アニメを2本連続で見た後、ポップコーンを食べきった皇女様に次は甘い物が食べたいと言われてアイスの3段を(ナミ子と共に)奢り、

「ん~、甘くて美味しいのじゃ。ノワールではこのような物は生産されておらんからの~」
「改造されてもアイスは美味しいっす~」
「160号、おかわりじゃ。今度は5段を持ってこい」
「あせんぱい、ついでにナミ子の分もお願いするっす。や~、太る心配がないってサイコーっすね!」
「……へい」

 次は何か身体を動かしたいと言うので近くにあったゲームセンターで体感シミュレーションを(俺のお金で)体感してもらい、

「おお~、またパーフェクト。すごいっすねー」
「ふん、当たり前じゃ。このような子供だまし、我の手にかかればちょろいもの」
「まあナミ子が昔出したレコードより8点低いっすけどね」
「な、なにぃっ! おい160号、もう一度じゃ! さっさと投入せんか!」
「あー、見てたらナミ子も体動かしたくなってきたっす。久々に挑戦しようかなー」
「……へいへい」

 ……で、続いて星の風土を調べたいと言うので御門市で一番の大手デパートに連れて行き、またそこの地下から屋上まで全て順に巡っていくことになって、食品部門で試食したり玩具売り場で立ち止まったりナミ子が服を見たいとか言い出してまたそれに付き合う羽目になったりして――

「そ、そろそろ休憩にしませんか……殿下……」
「なんじゃ、だらしない奴じゃのう。ナミ子はまだまだ元気そうじゃぞ」
「そうっすよせんぱい。いくら女の子とのお付き合いに慣れてないからってバテるの早すぎるっす」

 女二人にぶーぶー言われながらも俺は必死に男としての権利を主張し、ようやく安息の地を得ることにお許しが出たのだった。
 いや、ていうかなんで俺こんな両手にいっぱいの荷物持ってるの?
 案内役だったはずなのに、いつのまにか完璧にただの荷物持ちになってるし……。

「つ、つかれたぁ」

 近くにあったカフェのオープンテラスに腰を落ろした瞬間、今までの疲れが一気に来て、テーブルにばたりと上半身を倒れ付す俺。

「邪魔じゃ、ばかもの。カップがおけんじゃろうが」

 ……が、すぐにテーブルから払いのけられる。よろよろと身体を起き上がらせ、仕方ないので背もたれに大きく身体を預けることでそのかわりとした。

「情けない奴め。それが地球での戦局を覆した男の姿か?」
「んなタイソーなもんじゃないですよ……ぶへえ」

 俺の真正面に座った殿下の嘆息交じりとジト目の反応に、俺はぐったりとして応える。
 と、やや遅れてトレイをもってナミ子がやって来た。俺の隣に座り、トレイに乗っかっているカップの一つをこちらに差し出してくる。

「せんぱい、ご注文のコーヒー持ってきたっすよ」
「ああ、助かる……」
「ほら、飲ませてあげるっすから」

 疲労困憊には冷えたコーヒーで喉を潤すのが一番だ。
 もはや動く体力もない俺に、隣からナミ子がゆっくりと口元にカップを傾けてくれる。なんていい後輩なんだ。結婚しようナミ子。
 液体が口を通ると同時、激痛と熱が喉を焼く。

「あちぇえっ!? ごほっ、ごほっ!」

 なんでホット!? もう初夏だというのにホット!?
 あと痛い! 口内は痛覚切ってねえのかよ! 舌切り自殺推奨設定!?

「わはははははははっ!!」

 目の前では殿下が大笑いしてるし……。

「がほっ、ごほっ……おい、ナミ子てめぇ……」
「お気に召しませんでした? 頼まれた通りのコーヒーっすけども」
「召さねえよ! なんでこの暑いのにわざわざホット頼んでくるんだよ!」
「いえ、アイスかホットかは注文になかったんで、ナミ子の好みで選ばせてもらいました。冬より夏派ですし」
「明らかに嫌がらせだろ!? 分かっててやっただろナミ子ォ!」

 涙目で咳き込む俺に、ナミ子はにやにやと笑うだけである。なんちゅう悪魔だこいつ。
 見ろナミ子、殿下も大笑いしてはいるが、この子供じみた悪意に内心では呆れてるぞ。

「ちなみに、ホットにしたらどうじゃと提案したのは我だ」

 共犯だったー! ていうか首謀者が目の前にいた!

「……勘弁してくださいよ、本当に……」

 ようやく落ち着いてきた喉に気を遣いながら、再びため息をつく。

「許せ。ヴェスタがお主と楽しそうに戯れておったのでな。つい我も同じことをしたかったのじゃ」
「はあ……」

 なんというか、姿と同じで、子供みたいなことをする人だ。
 いや、それは今日一日付き合ってみて、幾度となく抱いた感想だった。
 楽しそうに遊び、楽しそうに食べ、心の赴くままに行動する。そのキラキラした瞳や時折見せる屈託ない笑顔は、まさしく子供の表情のそれと同じだった。
 どうしても、皇女という立場には似つかわしくない……そんなイメージがある。

「うむ、しかしこうして羽を伸ばしたのは、もう何十年振りになることか。久しぶりにおもいきり遊んだのう」
「何十年ぶりって……。そんなお歳でもないでしょう、殿下」

 俺が苦笑交じりにそう言うと、殿下は口元を釣り上げ、静かに微小を漏らした。

「我は幼生固定されておるからの。確かに齢は見た目どおりのまま止まってはいるが、生きた年数は貴様達の何十倍もある」
「幼生固定?」
「子供の姿のまま、成長を止める技術のことじゃ。我らノワール人は皆早熟な造りになっていてな。特に頭脳は我くらいの年齢がもっとも発達していて、あとは衰える一方になる。エテルの扱いも、子供のほうが全てにおいて都合がよいのじゃ。だから、国の重鎮や優秀と判断された子供は、幼少時に幼生固定を受け、不老の身となる」

 カップのオレンジジュースに口をつけながら、さらりとなんでもないことのように言っているが……いや、それを「なんでもない」と感じる程度には、俺も麻痺しているということなのだろうか。
 改造人間にされてから、もう2ヶ月の時が流れている。
 人体を改造する組織だ。不老を授けることくらい、なんら不思議ではない。

「ま、確かに今更っすよねー。ナミ子たちもこうやって改造されてるわけですし」

 だからってお前は馴染むの早すぎんだよ新人改造人間。
 まだ生まれて二週間くらいだろお前。

「我らが全能の主であるアテナ総帥なぞ、生まれる前から幼生固定が決定されていたほどだ。我らのような姿をしている者ほど、ノワールでは重要視されている存在といってもよい。もっとも、この肉体ではどうしても生身での戦闘が不得手になる故、戦の担い手はあえて幼生固定を受けさせていない者もいるがの」

 アテナ、総帥。
 それが、こいつら黒き星のボスの名前か。そういや聞いたことなかったな。
 なんつうか、雲の上の存在過ぎて実感も沸かないけど。どうせ出会うこともないだろう。
 ……しっかし。
 改めて目の前の少女を見る。言動はどう見たって子供のそれなのに、実は何十年も生きているとか言われても、俄かには信じがたいよなぁ。
 まあもちろん、そんな失礼なこと口に出して言いはしないけど。

「じゃー殿下は、本当なら80歳くらいのおばあちゃんなんすね」
「ナミ子さん口が過ぎますよっ!?」

 お前なんでそんな直球なの!? 今日俺がどんだけ肝を冷やしたと思ってるんだ!
 しかし殿下はナミ子の失言に怒るばかりか、気を良くしたように軽快に笑う。

「そんな可愛らしい歳ではない。ま、ヴェスタに比べたら、我もそれくらいの子供と言えるがな」
「え? アイツのほうが、殿下より年上なんですか?」
「ふふふ。まあ、いずれ機会があれば本人に聞くとよいじゃろう。奴も女の端くれ、自身の歳を他人から男にバラされたくはあるまい」
「……ンな神経持ち合わせてないでしょ、あいつは……」

 どう考えてもヴェスタとはイコールで繋がらない言葉の数々に、脱力したようにうめく。
 そんな俺に、殿下は「仲が良いの」なんて呟きながら、くっくっくっと喉の奥で笑うだけだった。





「あ、せんぱい」
「んー? なんだよナミ子」
「見てください、この期間限定ケーキ、今日までらしいっすよ」

 見ればやけに大人しいと思ったら、隣で店のメニューとにらめっこしていたナミ子が写真を指差してそんなことを言った。
 確かに、写真に写っている高級そうなチーズケーキの横には、今日を示す日付がシールで貼られている。

「そうみたいだな」
「美味しそうっすよね」

 なんとなく、ナミ子の真意を即座に汲み取り、俺は半眼で興味なさげに告げる。

「……欲しいなら、買ってきたらどうだ? 止めはせんぞ俺も」
「殿下、これ美味しそうっすよね」

 あ、てめぇ! ずるいぞ、殿下にふりやがって!
 そうなると今までの流れから考えると――

「む? 確かに美味しそうじゃの。よし160号、今すぐ買ってこんか」
「やっぱり! い、いやナミ子、さすがにそれは自分で買えよ。今日一日の身に覚えのない散財で、もう俺の財布はボロボロなんだよ」
「やだ……せんぱい、デートで女の子にお金払わせる気っすか……?」

 信じられないといわんばかりの表情で身をよじり、ふるふると身を震わせるナミ子。
 殿下まで、身も凍るような冷たい視線を投げかけてくる。

「引くわー。甲斐性のなさが浮き出るようじゃのう」
「そんなんだからせんぱいは童貞のままなんすよ。あと財布がマジックテープ式ってところがもうサイアクっす」

 なんで俺、付き合ってもいない後輩からこんなボロクソ言われなきゃいけないんだ……?
 あと財布は組織支給の物だから俺の趣味でもねえよ。お前だってその財布だろうが。
 ……あ、こいつだから支払いを頑なに拒んでやがったのか!
 一人だけ俺の金で財布買いやがって、おかしいとは思ってたんだ。

「ほらほらせんぱい、早くしないと売り切れちゃうっすよ」
「売り切れねえよ……ったく、分かった分かった! 行くから待ってろ!」
「わーい」

 無邪気に喜ぶナミ子にあらん限りの悪意を心中で毒づきながら、俺はやや強引にイスを押して席を立つ。

「……きゃっ」

 それがまずかった。後ろを歩いていた人に気付かず、おもいきりイスをぶつけてしまったようだ。

「あ、すみません! 大丈夫で――」
「…………ぁっ」

 慌てて頭を下げようと振り返り、その相手の顔を見て、俺は少なからず驚いた。
 目元の隠れた前髪と、全身から醸し出している大人しそうな雰囲気。
 以前とは違って涼しそうなキャミソールにその身を包んでいるものの、彼女の姿は強烈な印象として記憶に残っていた。

「君は……公園のときの」

 間違いない。丘の上公園で絡まれていた女の子だった。
 イスをぶつけたのは俺のほうだというのに、彼女は恐縮そうに何度もぺこぺこと頭を下げる。

「あ、いや。ごめんね、ケガなかった」
「……はぃ。だ、だいじょうぶ……です」

 相変わらず奥ゆかしい声音をしているが、以前よりもやや声に張りがあるような気がした。
 恐らく極度の人見知りからくる小声だろうから、初対面の時とは違って、単純に少しだけ俺に慣れたというのもあるんだろう。

「君もカフェに? ……はは、当たり前か。地元の人だもんね」
「……はい。その、お友達と……。……ぁの、あの時は、お礼も言えなくて……」
「え? 何度も聞いたよ。気にしてないって」

 俺の言葉に、やや頬を熱で赤らめた少女の口元に柔らかな笑みが浮かぶ。
 なんというか、いまどき珍しいくらいに恥ずかしがり屋な娘なんだなあ。
 けどやっぱりこの娘と会うと癒されるよなあ。周囲には頭のおかしな将軍とか博士とか魔法少女とかお姫様とか後輩とかしかいないから、この希少な存在は俺の爽やかな清涼剤となって全身を駆け巡る。

 たったったっ……

「あ、そうだ。よかったら一緒にお茶でもどうかな? ちょうど俺もこれから買いに――」
「杏に気安く声かけてんじゃないわよっ!!」
「ぶべらっ!?」

 駆け足と共に怒声が鼓膜を突きぬけ、同時に脇腹あたりにとんでもない衝撃が伝わる。
 気付いたら俺はわけもわからず慣性に従って吹き飛ばされ、数メートル先のコンクリートに向かって頭からダイブしていた。冗談みたいに吹っ飛び、成す術もなく地面に転がる俺。

「ぁ、あ、ああっ……」
「杏、大丈夫だった? 変なことされてない? だから一人で勝手に行っちゃ駄目だって行ったでしょ? この辺はナンパも多いんだから」
「……っ!(ふるふる)」

 突然飛び蹴りで現れた勝気そうな少女とこちらをおろおろと見比べるあの子の視線を痛いくらい受けながら、俺はなんとかよろよろと立ち上がった。
 ま、もちろん痛みはないので、この辺は多少演技である。

「いっつー……」
「ちっ、しぶといわね。ほら、杏あっち行こっ! 菫も待ってるわよ!」
「ぁ、あ、あのまっ、まって……っ、わ、」

 強引に手をとられて店内へと入っていく女の子は、最後まで申し訳なさそうにこちらをちらちらと見やっていたが、結局後から現れた女の子には勝てず、売られる羊のように引きずられながら、やがて店内へと姿を消してしまった。

「……なんだったんだ……一体」

 蹴られた腹をさすりながら、こちらは呆然とするしかない。
 怒りより先に、なんだか呆気にとられてしまった。
 ……いや、なんつうか。世の中にはいろんな人がいるんだなぁ。

「おい見たか、二人とも。あーいう非常識な女の子にはなっちゃいかんぞ」

 仕方なく店の扉から視線をはずし、俺はなんとなく気恥ずかしさに頭をかきながら、連れの二人のほうを振り向く。

「…………っ!!」
「……っ、…………っ!」

 笑いすぎて過呼吸に陥っていた。
 ……いや、もうなんでもいいや……。ケーキ買いに行こう……。
 苦しんでいる二人に背を向け、俺はとぼとぼと店のほうに向かって歩くのだった。



 結局基地に戻る最後の最後まで、視察らしい視察は行われぬままであった。
 俺、何しに行ったんだろう……。





※次回、巡る思惑


一度だけ、宣伝タイム。
①オリジナル板で、『腹黒魔女の落とし方~奮闘記160号~』という別連載はじめました。この戦闘員を読んでくださっている方は、にやりとできる内容かもしれません。
まあにやりというかモロネタバレというか、まあこれ以上はノーコメント。

②サイト作りました。というのは、この戦闘員SSの、本筋とはまったく関係のない僕の趣味でしかない番外編を掲載する場所が欲しかったからです。
そっちではこっちとはまったく繋がらないわき道ストーリーで、160号の休日を描いてみたり、地球の犯罪組織『R.O.D.』に二つの宇宙人勢力が互いに別の思惑で挑んだりとか、もう誰得でしかない話をひっそりとやる予定です。
ナミー子さんの過去話とか、本筋に関連することはこっちでやりますのでご安心を。


はい以上宣伝乙。今回限りですのでご容赦ください。


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