再び武器屋に戻った俺は親父に何本かの槍を見せてもらっていた。
「今のお前が使える槍はこの程度だな」
そういって奥から出してきたのは、訓練場で使った最低グレードよりも幾分かましといった槍ばかりであった。
「知ってると思うが、槍は扱いが難しいからな。あまりオススメしない。
それでも使うというなら、当分はその槍を使って弱い敵で練習するのがいいだろう。
他の武器はすぐ先に行ってしまうだろうが、そこは槍の我慢のしどころだな。
極まった槍使いはすべての敵を単独で粉砕することが出来るとも言われている。
それを目指すのならぜひともがんばってくれ」
どの槍も性能に大差ないようなので、一つ一つふってみて使いやすい長さの槍を選んでいく。
「槍には通常の2mほどのもののほかに片手で使える1.2m~1.5mほどの短槍、3mを越える長槍などがあるな。
長槍は主に戦争などの密集隊形で使うもので、おまえの用途にはあわないだろう。
短槍はとり回しがよく、場合によっては盾等と併用することが可能だな。ただし、その分攻撃力に劣るといえる」
「短槍を2本持つことは出来ないのか?」
俺はふと思った疑問を口にする。
対して武器屋の親父は渋い顔をして返してきた。
「不可能ではない。ただ、オススメはしないな。
槍に限らず片手で扱える武器はすべて二刀流が可能だ。
だが、大きな力を持っていないとまともに振り回すことも出来ないだろう。
さらに、意識が2分されるわけだからそれぞれの武器を片手で使う場合の倍ほど慣れていないとダメだ。
両手で別の武器を扱うこと自体に慣れてくれ問題は解決するだろうがこれは組み合わせが違えば感覚も全く違うはずだ。
少なくとも今のお前の技量では夢物語もいいところだぞ」
分かりにくいが、まとめると二刀流をやるにはSTRの制限が大幅に増える、熟練度が2倍程度必要になる、二刀流という独立した熟練度が存在する。それは組み合わせる武器種毎に別で蓄積されるといったところだろうか?
このNPC特有の回りくどい説明はどうにかしてほしいところだが、直接的に言われると興ざめなのは確かだしな…
こちらを立てればあちらが立たずというやつだな。
「いや、思いついたから言ってみただけだ。やってみようと思ってるわけではないよ」
「そうか、それならばいいのだが。二刀流も極めれば非常に強力になると聞いている。
いつか試してみるのもいいだろう」
「分かった、ご忠告痛み入る。ふむ、とりあえずこの両手槍にするか」
「おう、それなら30cといったところだ。まぁ、負けるといった手前だ、25cでいいだろう」
「ありがとよ」
俺は親父に例を言いながら金を渡し槍を受け取る。
ぼろっちいのは確かだがこの世界で始めて手に入れた武器だ。
思い入れの深いものになるだろう。
「西に2つ向こうの通りに、知り合いがやってる防具屋がある。
裏通りで分かりにくいがよってみると良いだろう。その旅人の服だけでは不安だからな。
ステファンの紹介だと言えば多少負けてくれるかも知れんぞ」
「おう、また武器を代えようと持ったときに世話になりに来るよ」
そういいつつ、武器屋を後にし紹介された防具屋に向かうことにした。
少々入り組んだ場所にあったがすぐに防具屋を見つけることが出来た。
ミニマップに詳細な位置が表示されていたからだ。
どうやら、道を聞いたり紹介を受けたりするとマップに反映されるらしい。なかなか便利だから覚えておこう。
防具屋に入ると、表通りにあった武器屋と違い若干埃っぽい空気だった。
中にいた陰気な爺が話しかけてくる。
店構えからして期待してなかったが、また女の子じゃなかった…
「いらっしゃい…」
「ステファンの紹介できたんだが」
「ほお…、あいつの紹介とはお前さんなかなかやるねぇ」
「取りあえず、70cでそろえるだけそろえたいんだが良いものはあるか?」
「ふむ…、お前さん獲物はその両手槍かねぇ…、耐久と回避どちらを重視するんだい…?」
「回避だな」
ビルドの基本コンセプトだから即座に答える。
その様子をみて、爺は若干目を開いた…気がしないでもない。
「めずらしいねぇ…、まあいい、そこでまってな…」
そういって奥へ引っ込む爺。
手持ち無沙汰になった俺は適当に周りにおいてある防具を眺めて暇をつぶすことにした。
武器や防具はこんなゲームをやる男にとって逆らえない吸引力を持っている。
ただ眺めているだけでも十分楽しめるものだ。
暫くそうしていると、奥から爺が戻ってきた。
手に持っているのは、靴と膝当て、篭手、額当ての4つだ。
小物ばかりなのが少々意外だ。
「まずはこの靴…。回避を重視するなら足元をしっかりさせるのが基本だよ。
これが少々いいもので35cといったところかねぇ…
次に膝当て、これも回避を重視する足元の補強だねぇ。これが15cだのう。
小手は盾を持っていなくても軽い攻撃ならブロックする事できるぞい。
両手武器のような重いものは無理だがね…
まぁ、これは20cと言うところだのう。
最後に額当てだが、安物だが急所を守るのは当然の心構えじゃ。これが10c。
まぁ…、あわせて80cだがステファンの紹介と言うし70cに負けてやるわい。
鎧については今着てる旅人の服で当分は良いだろう。
下手に重くても回避には邪魔だしのう。
もっとも軽い皮鎧なぞ70cじゃそもそも足らんからのう。
金がたまって皮鎧がほしくなったらまた来るがいい。
適当に見繕ってやるわい」
俺は爺に渡された装備を一通り身に付けてみる。
今までわらじのようなサンダルのようなものを履いていたのに比べると、なるほど確かに確りとした靴を履くと足回りの動きやすさが段違いだ。
膝当てを付け、篭手をはめ、額当てを頭に巻くといよいよ冒険が近い気がして、気分が盛り上がる。
この爺さん見かけによらずいい人っぽいな。
女の子じゃなくてがっかりしてごめん。
「ありがとう、これで心置きなく外に出られるよ」
「まぁ…、先はながいだろうがせいぜい死なないようにがんばんな」
これで残りの所持金はたった8cだ。
稼ぐためにも早速、街の外に行ってモンスターを狩ることにしよう。
俺は防具屋の爺に礼を言って外に出ると、ここから一番近いであろう南門に向かって歩き出した。