武器屋のおっさんの言うとおりもう暫く道を南に進んだところで、左手に特徴的な建物が見えてきた。
ギリシャ時代の建物に有るような柱が多く立ち並び屋根を支えている。
名前を登録した場所と雰囲気が似ているかも知れない。
神殿の大きさの割りに小さい出入り口から中に入ると、そこにはそれなりに人がいる様だった。
このうち何割かはPC(プレイヤーキャラクター)なのだろう。
俺と同じようにアラナスの加護を受けるために来ていると思われる。
奥に進んでいくと神殿の最奥には美麗なステンドグラスから差し込む色とりどりの光を受け、勇壮な姿を見せる戦乙女の像が鎮座していた。
あの像がアラナスの姿を象ったものなのだろう。
荘厳な空気と共に心地よい緊張感が回りに漂っている。
俺は暫く勇壮な神像を眺めていたが、当初の目的を思い出し加護を受けるために行動を始める事にした。
周りを見回して観察するに、どうも像の右側にある受付のシスターに話しかければよい様だ。
神像の前では、おそらくPCであろう人が跪き祈りを捧げている。暫くして、祈りを捧げていた人は立ち上がると神殿の外へと出て行った。
外見的には特に変わったところを感じれなかったのだが、あれで加護を得たということなのだろうか?
疑問を抱きつつも、俺は受付をしているシスターの元に向かった。
「こんにちわ、貴方もアラナス様の息吹に包まれますように。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちわ、アラナス様を信仰するものたちの末席に加えていただければと願いにきたのですが」
「あら、新たにこの街にいらした旅人の方ですね?
この街を代表して歓迎させていただきますわ。
貴方が道行きの末、至ることが出来ることを願っています。
アラナス様に加護を願うのでしたら、神像の前に行き貴方の思うとおりにお祈りください。
アラナス様はきっと貴方の願いに答えてくれることでしょう」
特に祈りの方法などについて手順などの形式はあまり重要視されていないようだ。
個人的に非常に好感が持てるスタイルだが、実際の神が分かりやすい形で答えてくれるこの世界だからこそなのかも知れない。
神像を見るにちょうど人が途切れているようだ。早速お祈りにいってこよう。
さて、祈りを捧げるのに形をこだわらないとは言えさすがにこの雰囲気で拍手を打つのは場違いだろう。
見よう見真似ではあるが、キリスト教的な姿勢で祈ることにする。
神像の前にひざ立ちになり胸の前で手を組み目を閉じて頭をたれる。
ふと、周りの空気が変わったのに気づき頭を上げ目を開くと一面が真っ白になっている空間に変わっている。
目の前にはアラナスと思われる剣を佩き鎧を身に着けた凛々しい女性が現れていた。
「ジスティア・ネイシーよ、汝に我が加護を与えよう。
我が加護にふさわしき振る舞いを心がけ、力だけでなく心をも磨くことを我は望む。
旅により力を蓄え、いずれ我らが元へとたどりつかんことを楽しみにしているぞ」
その声は美しく、まさに天上の調べといえるだろう。
短い言葉ではあったが心に響く言葉であったのは間違いない。
そしてふと意識を戻せば、自分は神像の前に跪いた状態に戻っていた。
これで加護を受けることが出来たのだろう。
確かに、さっきまで感じられなかった存在を自分の中に感じることが出来る。
俺は立ち上がると体の調子を確認しながら祭壇から降りる。
ステータスボードと呼ばれる半透明のガラス板のようなものを表示させ、ステータスを確認してみると、STR、AGI、DEXが増加しているのが確認できた。
これが信仰神によるステータス補正なのだろう。
また武器熟練度に関しても剣、槍、棍が10、その他近接武器が5に増えていた。
これが熟練度補正というものだろうか。
中空に浮いているガラス板のようなステータス画面を眺めてながら考え込んでいるとシスターから話しかけられた。
「無事に加護を得ることが出来たようですね。おめでとうございます。
共にアラナス様を信仰するもの同士、助け合っていきましょう」
「あ…、はい、ありがとうございます」
考え込んでいたときに話しかけられたのでちょっと動揺してしまった。
「貴方は加護を得ることによって、神の力の一端を受け入れることが可能になりました。
この種をお受け取りください」
そういって横に置いてあった色とりどりの種が入った箱を指し示す。
「この種は神々の力の一端を封じ、非力な私たち人間に受け入れることができるようにしたものです。
これを飲むことによって、力、体力、速さ、器用さ、知性、精神力などの力を得ることができるでしょう。
今初めて加護を受けた貴方であれば、全部で12個分の種に宿る力を自分の物とすることができるでしょう。
たとえそれ以上に飲んだとしても、貴方の体では受け入れきれず意味が有りませんよ」
取り合えず、初期ステータスの設定をしなさいという事だろうか。
特化したほうが良いか分散したほうが良いか悩むところだが、どうせその内すべて上げていくのだから均等に上げることにする
STR、AGI、DEXに対応する種をそれぞれ4個ずつ選び飲み込んだ。
勘違いかも知れないが、なんか強くなった気がしないでもない。
ステータス画面を確認すると、ちゃんとあがっていたので問題ないだろう。
「貴方が経験をつむことによって、貴方の体はまた種に宿る力を受け入れることが可能になることでしょう。
この状態を私どもは『階位が上がった』と表現しております。
しかし、特に目立った変化が起こるわけでは有りませんので、貴方がそれに気づくことは難しいかも知れません。
神殿に来ていただければ、階位の上昇を確認することが可能となります。
ですので定期的に神殿に足を運んでいただき確認することをお勧めします。
また、この確認は守護を受けた神の神殿でなくても可能ですのでご安心ください」
つまりは経験値が溜まっていても自動的にLvアップはしないから、最寄の神殿に行って認定してもらう必要があると。
さらに、上がっているのなら種を食ってステータスを上げなさいとそういうことなのだろう。
「また、これから信仰している神殿に来ることによってステータス曲線の調整が可能になります。
ステータス曲線の説明をいたしますか?」
なるほど、いろいろな説明のための強制イベントなわけか…。
そういえば、出ようとはしなかったけど加護を得る前に街を出ようとすると止められたのかも知れないな。
ステータス曲線については事前情報で大まかなことは調べていたが、チュートリアルでの武器種のこともあり変更が有るかも知れない。
俺はありがたく説明を聞くことにした。
「貴方はスタミナ、マインドの量によって力や素早さ、器用さ、知性といったものが変動していくのです。
スタミナが多く残っているときに比べ、少なくなっているときに十全に力が出せないのは当然ですよね?
マインドに関しても同じことです。つまり、その変動を示すものがステータス曲線なのです。
しかし、神の加護によりこのような変動を有る程度自由に変更することが出来るのです。
ただし、何処かを増強すれば他が弱体してしまうため注意が必要です」
つまり、特化するか平均化するかの二種類を選べるという事だろう。
前者は瞬間火力を期待し、後者は安定感を期待するといったところだろうか。
「分かりにくいでしょうか?
では、具体例を挙げてみましょう。例えば、スタミナが十分に残っている状態では普段の力よりも大きな力を発揮できるようにすることも可能です。
しかし、その分スタミナが大きく減ってしまったときに全く力を出せない事態になってしまうかもしれません。
逆にスタミナが十分に有るときはあまり力を出せませんが、スタミナが減り危機が訪れたときに普段以上の力が出せるようになるといった調整も可能となります。
細かくは実際に設定をしながら覚えていくのがよいでしょう。
この加護は使いこなせば貴方に大きな力を与えてくれるでしょう。
貴方がアラナスの息吹に包まれますように」
事前に調べたて理解したものと大差ない説明であり、これに関しては大きな変更点はなさそうだ。
どうやら神殿内部でしか変更か出来ない仕様のようである。
せっかくなので実際にいじってみよう。
ステータスボードをスタミナ曲線の変更画面に切り替える。
どうやら割合の各点にステータス倍率を指定していくようだ。0%、25%、50%、75%、100%の5点で指定できるようになっている。
現状は、100%=1倍、75%=0.9倍、50%=0.8倍、25%=0.7倍、0%=0.6倍で設定されて直線を描いている。
この単純減少が初期設定なのだろう。
取りあえず、全項目を下げれるだけ下げてみる。するとすべてが0.5倍となり余剰ポイントが15となった。
曲線は0.5倍の位置を横一文字の直線を描いている。
そのまま100%の項目をあげれるだけあげてみる。すると100%が1.2倍となり余剰ポイントは8に減った。
曲線は0.5倍の位置の横一文字の直線から75%を越えたあたりで急激に立ち上がって100%の1.2倍につながっている。
なるほど、大体システムが把握できた。
とりあえず、悩んだがスタミナ曲線は100%、75%、50%が1倍で、25%、0%が0.5倍となる無難なところにしておくことにした。
次はマインド曲線だが、これはあまり悩まないでいいだろう。
当分使う余地がないのだから取り合えず100%時に最大値にしておくことにする。
スタミナ曲線と違いこちらの最大値は1.1倍、最小値は0.6倍といじる範囲がスタミナに比べ少なくなっている。
これも信仰神による差別化の一つなのだろうか?
結果として、マインド曲線は100%、75%が1.1倍、そのほかが0.6倍と設定しておくことにした。
さて、なんだか結構時間を食ったな。
後回しにしていた武器屋に向かおう思い神殿の出口へと足を進める。
その途中に入ってきた人を見るとなんとなく加護を受けていないということが分かる。
どうやら、加護を受けたことによってそうで無い人との見分けができるようになったようである。
多分、他のPCを見て信仰神の判別ぐらいは出来るようになったのだろう。
そんなことを考え、燦燦と照りつける太陽の下、神殿を後にし来るときに立ちよった武器屋に向かった。
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名前 ジスティア・ネイシー 位階1
信仰神 戦神アラナス 信仰1
STR 5+4(9)
VIT 1+0(1)
AGI 5+3(8)
DEX 5+3(8)
INT 1+0(1)
MND 1+0(1)
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