ウルフの噛み付きと、三連突きの消費で結構減ってしまったスタミナをベリトの回復してもらう。
「どうやら、リンクではないようだな。個別撃破が出来そうでよかったよ」
「そうだな、一匹殺すのにこの減りじゃ4匹きてたら死んでたかな?」
「どうだろうな。シャルロッタさんの頑張りにも寄るからな…」
「私は1匹ぐらいなら抱えられるでしょうけど、2匹となると自信がないわ」
「ま、行き当たりばったりなのはいつものことだ。情報がない以上は出たとこ勝負なのはしょうがないだろ」
「確かに他にやりようがないとは思うが…」
「とりあえず、追加のウルフが来る前に目の前のを始末しようぜ」
俺は2匹目のウルフにナイフを投げるため槍を置いて再度近づいていく。
俺は先ほどと同じように間合いを計り、ナイフを投擲する。
だが、投擲モーションに入った時点で狙ったウルフとは違う個体がこちらへと歩いてきた。
俺はいやな予感がするがいまさらモーションは止められない。
腕を振り切ってモーションが終わると共に、歩いてきたウルフは不意に顔を上げ… …目が合った。
俺はチャットを使ってベリトに報告する。
『ミスった。2匹来る。三連突きを多用するからフォロー頼む』
『あいよ。任された』
先ほどと同じように投げた後すぐさま下がり槍を取る。
すでに目が合ったウルフはこちらに向かって走ってきている。
このときばかりは投げたナイフが外れてくれるのを願うが、願い届かずナイフは狙い通りに中ってしまった。
だが、幸いにしてこちらに向かってくる2匹のウルフは時間のずれがある。
最上は2匹目がこちらに来る前に1匹倒しきってしまうことだが…、さすがにそれは厳しいだろう。
なるべくダメージを重ねておくぐらいしか方法がないな。
敵との間合いにあわせ長めに持った槍を構え、1匹目のウルフを待ち構える。
間合いに入ったところで俺は即座に三段突きを発動させた。
突きは点の攻撃であるので斬るなどに比べて避けられやすい。
だが、三段突きは俺が一回突くことが精々な時間で三回の突きを放つのだ。
つまりは…、比べ物にならないほど穂先の速度が速い。
ただの突きであったなら、野生の勘と身のこなしで避けられていただろうが、その加速された突きは避ける間を与えず見事に突き刺さる。
一度刺されば、それによって動きが鈍るのも当然で続く2,3発目も過たず刺さる。
出来ればすぐさま三連突きをもう一度打ちたいが、システム上無理なものは俺にはどうしようもない。
俺は、絶妙のタイミングで飛んできたベリトのヒールでスタミナが回復するのを感じつつ、バックステップして体ごと後ろに下がり槍を引き抜くと、着地と共にそのまま突く。
三連突きのダメージから復帰したばかりのウルフはあえなくその突きにも食らうのだった。
さらに俺は同じようにバックステップしながら槍を抜き、3度目の攻撃に備える。
1匹目は見事に足止めに成功しているが、もう1匹にはなんら妨害がないため勢いよく走り寄ってきている。
この時点で、とうとう2匹目は1匹目を追い抜き俺の間合いに侵入してきていた。
俺は、牙を見せ唸りながら寄ってくるウルフに攻撃をしたい誘惑に駆られるが、ここでこちらを攻撃しても意味がないのは分かっている。
第一に、1匹目のウルフを倒しきるのが大事なのだから。
心理的圧迫に耐え、俺は1匹目のウルフに向けて三連突きを発動させた。
間に入れた普通の突きでは動きを鈍くする程の効果は見込めなかったのだが、三連突きは先ほど言ったように避けられずらい。
すでに、大きなダメージを与えているウルフはその攻撃をあえなく食らい地に伏せるのだった。
それを確認すると共に、俺は次の目標へと意識を移すが…
すでに、その攻撃を避けるタイミングは逸していた。
わき腹に走る激痛。
1匹目に止めを刺した隙を突かれ、避ける間もなく腹に噛り付かれたのだ。
痛みからしてクリティカルをもらってしまったのか大分スタミナを持っていかれた。
三連突きを使った直後でスタミナが減っていた所だったのもあり、すでに5割を切っている。
スタミナ減少による曲線効果でステータスが減り始めている俺はウルフの攻撃を避けることすらおぼつかないかもしれない。
噛み付いていたウルフは牙を抜くとそのまま横に回って再度噛み付いてきた。
唯でさえクロスレンジが苦手な槍という武器で、1匹目をつぶす為に長めに持った現状ではまともに対応が出来ない。
俺が出来るのは、篭手を使ってブロックを試みることぐらいだ。
だが、篭手のブロック成功率はDEXに依存する。やはり、曲線によって減算を受けており成功率は落ちているのだ。
この攻撃を受けると、本格的にステータスが下がるため次の攻撃を凌ぐのはさらに難しくなるだろう。
だが、その攻撃が決まる前にベリトからのヒールが飛んできた。
俺の心配は何とか杞憂に終わりそうだ。
曲線効果で下がっていたステータスも戻り、ブロック率が戻ったのも影響したのか、はたまた俺の運がまだ捨てたものではなかったということなのか。
ブロックは成功し、大幅にダメージを減らすことに成功する。
俺はすぐさまバックステップで距離をとり槍を持ち替える。
接近戦に対応するため、短めにもった俺はウルフに相対するが…。
すでに戦闘は俺の手から離れていた。
後ろからこちらに来ていたシャルロッタが2匹目のウルフに切りかかったのだ。
俺の投げナイフなんてちんけなダメージしか入ってないため、タゲはすぐさまシャルロッタに移っている。
あせる必要が無くなった俺は、確りと力をため気合一閃、三段突きを繰り出す!
後ろからの不意打ち気味で繰り出された三段突きを食らい動きが止まったところでシャルロッタの攻撃が入る。
それで殺しきるまでは行かなかったが、2人に挟まれたウルフはすでに詰んでいる。
すぐに命を散らす結果となるのだった。
「予想以上に危なかった…。ベリト、2回目のヒールが遅かったから焦ったぞ。
1回目はすぐに飛んできたのに。どうしたんだ?」
「あー、ほら、シャルにお前の援護をするように指示してた」
「うん、私が頼まれてたのはベリトちゃんの護衛だから。
ベリトちゃんにジスティアさんの加勢して欲しいって頼まれたからそちらへ行ったのよ」
「ああ、なるほどね…。助かったよ、ありがとう」
あんまりにも言動が人間臭いから忘れてたけど、そういえばシャルロッタはNPCだったな…。
初期の指示がベリトの護衛と固定されていたから、能動的にこちらに加勢するような行動を取ってくれるはずはないか。
で、ベリトはその指示のためにヒールが遅れたと…。
「ところで、1匹目を倒したのは大分うまく行ったと思うんだがどうだ?」
「よかったんじゃないか?もっとも、攻撃外してたら致命的だった気がするが」
「それは確かにな、三連突きの命中増加に助けられたのは否定できないな。
長めに槍を持った状態で接敵されると本当にどうしようもないのは今回でよく分かったよ。
特にこんな障害物が多い場所だとな…」
「とりあえず、残りの1匹倒して先に進もうぜ」
「おう、そうだな」
俺は残った一匹をしとめるため、再度ナイフを投げる。
別に残り1匹なので投げナイフで釣ってくる必要はないのだが、練習のために投げておく。
どうせなので、槍を持ったままの投擲を試してみる。
案山子相手の練習では出来るようになっても実戦で使えなければ意味がないからだ。
槍を左手で持ったまま右手でナイフを取り出し、左手の槍を一瞬浮かし手から離れたところでモーションを開始する。
投擲モーションが開始するとすぐさま手に落ちてきた槍を握る。
傍から見る分には槍を持ったまま投げているように見えるだろう。
肩から先しか投擲に使用しないため飛距離が短くなるようだが、どの道そんな遠い距離では狙いがずれすぎて中らないため関係ない。
ナイフは見事ウルフに刺さり、ウルフはこちらに向かってくる。
それを待ち構える俺は、三段突きを駆使して近づく前に殺しきるのだった。
投げたナイフを回収した後、俺たちは道を先に進んでいた。
シャルロッタの話ではもうすぐ目的地に着くらしい。
このままモンスターが現れないと楽なのだが…。
俺の願いが通じたのか、目的地の湖畔にたどり着くまで戦闘は発生しなかった。
道の横に入った場所で何本かウッドスピリットが生えているのも見かけたし、ウルフが歩いているのも発見したが、わざわざ狭い場所に入っていくほど酔狂ではない。
特に射程圏内に入るわけでもなかったので俺たちは無視して先に進んだのだった。
目的地の湖畔は木が立ち並んだ森の中とは一転して開けた草原のようになっていた。
ここから先はシャルロッタは戦力としてカウント出来ない。
いっそう気を引き締めなければならないだろうが、森の中で槍を振るうことに比べたらこちらのほうが楽なものである。
視界が広く確保できるため奇襲も早々受けないだろう。
あったとしても横沸きしたときぐらいだ。
また、月明かりに照らされた夜の湖畔というのもまた乙なものだ。
この景色を眺めるぐらいは許されるだろう。
シャルロッタは採集を行っているのか草原をうろちょろしている。
たまに森から出てくるウルフにタゲられているが、その前に俺がナイフ投げてタゲをとり処理をする。ベリトは主に索敵を担当だ。
言ってみればこの状態は固定拠点で狩りをしているのと変わらないようなものだ。
たとえ戦力が落ちていたとしても、移動しながらの行き道よりも気分は楽である。
暫くの間そのように掃除をしながらシャルロッタの採集を見守るのだった。
「よし、これだけあれば十分でしょう!あとは水を汲んで帰って終わりね」
持ってきた袋にいっぱいに何かを詰めたあとそれを背負ってシャルロッタが話しかけてきた。
「水はどうやって持って帰るんだ?」
「瓶に入れて抱えて帰るのよ」
「瓶?」
そんなものは持ってなかったと思うのだが…
そう思い聞いてみると、シャルロッタは腰の袋から一抱えの瓶を取り出した。
「そこにはいるなら、袋に入れて帰えればいいんじゃないの?」
「残念ながらね、旅人さんのものと違ってこれは入れることが出来るだけなのよ。
そのままの状態で保存したりは出来ないって話をしたわよね?
水とかハーブとかは私の袋に入れると劣化しちゃって台無しになっちゃうのよ」
「なら、俺たちが入れて帰るとか…」
「貴方たちのことは信用してるけど、こればっかりはね…。それに、他の神を信仰する袋に入れると調合がうまく行かなかったりするのよ」
まぁ、クエスト進行上しょうがないことなのだろう。
「ということで、帰り道は私は戦闘に参加できないからよろしく頼むわよ!」
さて、帰り道の布陣だが最優先で守るべき人が変わったため隊列を変更する。
先頭が俺なのは相変わらずだが、真ん中にシャルロッタ、一番後ろにベリトという並びだ。
ベリトにウルフが来た場合は、ナイフを投げて俺がタゲを受け取る。
それまでは盾を駆使して耐えてもらうほかない。
今回は戦闘中に後ろからこられると行き道とは比べ物にならないほど危険だろう。
今考えれば、戦力が多い行きの行程で無理をしても道そばに居たウルフを狩っておくほうがよかったのかも知れない。
いまさら後悔してもしょうがないことであるが。
シャルロッタは、重い瓶を抱えているため移動速度もそれ相応に遅くならざるを得ないのだから帰り道思っていたよりもハードな行程になりそうだ。