何回か練習しているところで案の定ベリトから連絡が来た。
『ただいまー。すまんな、ちょっと遅くなったよ』
『おう、こっちは投げナイフの練習してたからちょうどよかったよ。訓練場だとナイフの消費が無いようで助かった』
『お、これで遠距離の選択肢が増えたか』
『これで釣りのときや、後衛にアクティブが向かったときに対応しやすくなった』
『へぇ、そいつはいいことだ。ぜひとも俺のためにがんばってくれ』
『なんか引っかかる言い方だが…。まぁいい、それなりに当てにしてくれ。
ただ、慣れるまではとっさに投げるのが難しそうだからうまく行かないことがあるのは覚悟しておいてくれ。』
『りょうかい。ま、そのときは現状と変わらず盾で凌ぎながらお前の方によっていくしかないからな』
『まぁ、そうだな。とりあえず、俺も落ちて雑事を片付けてくる。
セシーさんが来たらさっきお前に渡した分を渡しておいてくれ。
俺が戻ってきたら俺が預かっていた分をお前にまた渡すから。
合流してから落ちるのは面倒だからな。』
『あいよ。そんじゃ、俺はとりあえず神殿に行ってくるかな。あ、武器屋と防具屋は行ったのか?』
『武器屋には行ったが防具屋はまだだな。
とりあえず、前回買った装備で困ってないから更新は今回見送ろうと思う。
行きたいなら、お前だけで行っておけばいいぞ。その方があの爺も喜ぶだろうしな…』
『NPC相手になにいってんだよ。まぁ、いいや。とりあえず神殿と店周りして時間つぶすことにするよ。
なるべく早く帰ってくれると助かるな。』
『分かった。それじゃ落ちるぞ。』
チャットで会話しながら訓練場を出てきた俺は、その場でそのままログアウトした。
現実に戻った俺は、生理的欲求を片付けることにする。
トイレに行って、昼に買って来た食材で飯をでっち上げて食べる。
なんだか最近、適当に作れる料理ばっかりうまくなってきたな…
一人暮らしの性なのかもしれないが。
時間を見れば9時半ごろ。落ちたのが9時前ほどだった
もう少しゆっくりしても怒られないだろう。
あいつもなんだかんだで一時間ほど落ちてたのだし。
俺はシャワーを浴びることにして、出てきたのが10時前ほどだった。
そろそろログインすることにしよう。
ログインし、訓練場の前に降り立った俺はベリトへチャットを飛ばす。
『こちらジスティア。今戻ったぞ。現在宿屋に移動中』
『おせーよ。とりあえず俺も宿に向かうわ』
『すまんすまん。そっちはどうしてたんだ?』
『いろいろ店を回ってたな。あとは、スキルをどうするか悩んでた。まぁ、結局「神の祝福」の上昇に使ったけど』
『そういや、俺はスキル保留中だったな。なにあげようかな…
投げナイフに遠距離修練いるかもしれんと思って保留していたんだが、訓練所でやってみたら無くてもいけそうだったからな。
どうしたもんか。今持ってるパッシブ系を伸ばすのが鉄板ではあるが…』
『いくつ上がったんだ?』
『さすがに1ずつだぞ。そろそろ一回の狩りでいくつもLvが上がるようなことはなくなってきたようだな』
『俺も1ずつだったな。2桁に行こうかってところだから順当なところか』
確かにほかのゲームでもそろそろあがりにくくなってくる頃である。
スキルがまだ揃わず、Lvもあがりにくくなるこの時期はいろいろと辛い。
『そういや、セシーさんには会えたか?』
『おう、セシーさんにお金とか渡しておいたぞ。あと、セシーさんは他の友人と狩り行くっていってた。
俺も誘われたけど、お前待ちだってことで遠慮しといた』
『何だ、遠慮せず行けばよかったのに』
『んー、俺の場合、不用意に人間関係広げると面倒なことが多いからな。
緩衝材が居ないと中々そういう気にはなれん』
『お前の自業自得だろ、それ。
あと俺を矢面に出すのはやめてくれ。俺がロリコンに見られるだろうが…』
『心配しなくても手遅れだから諦めろって』
『俺はお前と違ってロリコンじゃないんだよ。言われ無き様に言われるのは勘弁して欲しい』
『俺はロリコンじゃねぇっつってるだろ!』
『そういうなら鏡を見てから出直して来い。それでも言うなら良い眼科紹介してやるぞ』
『なんにしろだ、お前が居ないところだとうるさいのが沸いてくることが多いからな』
『中身は男だって言えば良いじゃねぇか』
『直結君はこちらの主張なんて聞きやしねぇよ。
十中八九、中身の女が男を演じてると取られるのが落ちだ』
『全く男は馬鹿ばっかりだな』
『俺たち男だけどその意見には全面的に賛同するよ』
話しながら歩いていると、いつの間にやら目的地の宿屋に到着していた。
『お、宿屋到着。休むついでにクエストの情報集めるか。』
『俺もそろそろ着くな。
そういや…、これって同じ部屋に入れるのか?見ながら相談したほうが早いだろ』
『どうだろな?とりあえず俺は先に入っておくから受付のオバちゃんに聞いてみたらどうだ?』
『まぁ、そうするか。』
俺は宿屋に入り、オバちゃんに挨拶してから部屋へと向かう。
部屋に入ると早速机に向かい、掲示板を確認し始める。
暫くすると扉の向こうからオバちゃんがベリトを部屋に上げていいか確認してきた。
わざわざ口頭じゃなくてもよさそうな物だが妙にこったつくりになってるな。
俺が了承の旨を伝えると、扉が開きベリトが入ってくる。
「いらっしゃい」
「おう、これって同じ部屋に入るのは可能なんだな。料金とかどうするんだろう?」
「入れないならそれはそれで不便だしな。金はほかに部屋取った人しか入れないとか?
しかし、わざわざ口頭でオバちゃんが聞きに来るとは思わなかったな」
「ん、そうなのか?確かにちょっと裏に行ってたみたいだったが…。
結局入る扉は一緒だよな。いつも入る部屋にお前がいたって感覚のほうが近い」
「この部屋は確実に俺の使ってる部屋だけどな。ほらそこに花が挿してあるだろう?」
俺はそういってチェストの上に置いてある花瓶を指す。
そこには三輪の花が挿してある。
「お、ほんとだ。というか、その花どうしたんだ?」
「中央広場の花売りで買った。道聞くときにな」
「ふーん、それって枯れるのか?」
「とりあえず、まだ2日目だから分からんが多分枯れないんじゃないか?」
「それじゃ、花屋の仕事も先がないな…」
「ああ、そういわれるとそうだが…、NPCにそんなこと言うのもナンセンスだろう。
ちょっとあの子がかわいそうな気もするが…」
「あの子?」
「ああ、花売りの子はティーンに届かないぐらいの女の子なんだよ」
「なんだ…、人を散々ロリコン扱いしておいて、実はお前はペドだったのかよ…」
「お前…、言うに事欠いて何てこと言いやがる。
だいたい、そういう方向の発想しか出てこないお前の方が頭沸いてるだろうが」
「いやいや、お前を客観的な視点で見た評価ですよ?」
「お前の視点の時点で信用に値せんわ。…とりあえず、馬鹿なこと言ってないで本題に戻るぞ」
何で、花の話からこんな馬鹿な話に繋がるのかベリトの脳みそに疑問を抱くが、切りがないのでとりあえず方向を修正する。
「まぁ、今回は誤魔化されておこう。なんだっけ?クエストを探すんだっけ?」
「ああ、さっき調べてたんだが、街に酒場ってあるんだな。そこでクエストの斡旋があるらしいぞ」
「いや、知ってるよ。というか今までお前が知らなかったことにびっくりだ」
「そういわれてもな、行く用事も今まで無かったし。特に説明もされなかったんだからしょうがないだろう。
そういうお前は、お前はどこで知ったんだ?」
「いや、俺は序盤はクエストで上げたっていっただろ。そのときにお世話になったぞ」
「なるほどな…。どうする酒場に行くか?」
「悪くないと思うが、あそこにあるクエストは宅配だとか素材集めだとか、よくて雑魚の討伐がいいところで面白そうなのはなかったと思うぞ。
できるなら、街NPCから受けられる固有のイベントクエストがやりたい所だろ」
「まぁ、それはそうだが…。あんまりよさげな情報は挙がってないな。
やっぱ、クエスト攻略をするようなプレイヤーは現状じゃLv上げに力を注いでるんだろうな」
「あー、確かになぁ。BOSS討伐系のクエストだと越すのにも有る程度のLvが必要になっちまうしな。
さすがに2日目じゃ、奴らのLv上げの熱もまだ冷めないわな。じゃあ、どうするんだ?」
「とりあえず酒場へ行ってみよう。
お前が受けてたときのLvより上がってるんだから受けることができるクエストが増えてるかも知れんからな」
「確かにそれはありえるか…
なら、とりあえずは酒場に向かって置いてあるクエストを見た塩梅で次の行動を決定することにしよう」
「異議なし。妥当なところだな」
「うし、なら動くとするか!」
俺たちは酒場に向かって歩き出す。
と、言っても俺は酒場の位置を知らないので先に歩くベリトについていくだけだが。
「酒場ってどこら辺にあるんだ?」
「4つのメインストリートにそれぞれあるらしいぞ。俺が行ってたのは、例のごとく南通りの店だが」
「店によって受けられるクエストが違ったりするのか?」
「他の店に行ったことが無いから知らないけど、それもありえるかもな。
でもまぁ、店を回ってまでやるクエストじゃないぞ。ほんとに雑用系ばっかりだからな。
コンプリートしたいようなやりこみをしたいなら別だが」
「はじめの街でこれなんだから、この世界全体でいったいいくつのクエストがあるんだろうな…?」
「どうだろな?
町がいくつあるか知らないけど、さすがに全部がここ並に広いってことは無いんじゃねーか?
たしか、公式設定でもこの街は発展してるほうって話だったと思うぞ」
「かもしれんが、そうだとしても結構な数があるよな」
「まー、確かにな。全部消化しようと思うと相当たいへんそうではあるな」
「ネトゲなんだからそれぐらいでちょうどいいのかもしれないが…」
酒場に着くとベリトは真っ先におくにある掲示板に向かっていった。
俺はなんとなく、カウンターの奥でグラスを磨いているマスターに会釈をしながらそれに続く。
しかし、正にイメージどおりの酒場だな…。
少し暗めの店内に、いくつかの丸机とそれを囲む椅子がある。
そこには冒険者だろうか、幾人かが座って何かを飲みながら話しているようだ。
さらには、カウンターの向こうには強面のマスターが仏頂面でグラスを磨いているなど正に冒険者の酒場といった感じだ。
暫く周りを眺めていた俺は、ベリトがすでに掲示板の内容を確認しているのに気づき足を進めることにする。。
俺がベリトに追いつくと、それに気づいてベリトがこちらを向く。
「ダメだな。俺が来てたころとさして変わってない。雑用ばっかりだな」
「ふむ、そいつは残念だな…」
そういいながら俺も掲示板に目を向ける。
いくつかのメモが張ってあり、それぞれに依頼内容と報酬、依頼人とその位置が簡単に書かれていた。
○人を探しています。手伝ってください。 20c 南西街3-4 マリア
○材料買取!リビの皮売ってください。1個16c 南東街1-5 皮工房マイク
○固定PTM募集。時間に余裕がある方一緒に狩りませんか? 気軽に「Anton」までチャットを飛ばしてください。
○討伐依頼。リビの異常繁殖のため間引きの手伝いを願いたい。狩った数にて歩合制。 南門門番アントニー
○わたしのねこちゃんをさがしてください。 5c みなみまち3-2 ターニャ
○素材採集の護衛を願いたい。目的地:南東の森 1s 南通り西5番 調合屋:加調封薬 シャルロッタ
…etc
「数は多いがぱっとしないのが多いな…」
「まぁ、あえて言うなら素材採集の護衛かな。
言ったこと無いところに行く依頼だしそれなりに楽しそうだ」
「確かにな。ところで…、なんだこのPTM募集ってのは?
PCも掲示板に張り出せるのか?」
「まぁ、ここに張ってあるってことはできるんだろうな。こんな方法でほんとに集まるのか疑問ではあるが…」
「別に悪くないんじゃないか?掲示板でもPTの募集スレがあったし、同じことだろ」
俺たちめぼしいものを掲示板横のサイドテーブルにあったペンとメモ用紙を使ってタイトルだけ書き取るとそのまま空いている机に向かった。
少し落ち着いて、メモした物をもとにどれがいいかを相談することにしたのだ。