さて、取りあえず投げた後に取りやすい槍の放し方という方向で考えてみるか。
真っ先に思いつくのが、その場の地面に槍と刺して立てておくことだろう。
これならば、片手でナイフを取り出しながら槍を立てそのまま投げるといったことが出来るだろう。
実際にやってみれば、ちゃんとナイフは投げれたし投げた後に槍を持ち直すことも簡単だった。
しかし、この方法には大きな問題がある。
戦闘を行うのが、ちゃんと槍が刺さる地面ばかりではないだろうということだ。
槍が立たないほど硬い岩盤の上かもしれないし、石畳の床の上などもありえるだろう。
現状ではやわらかい土ばかりのところだったので当分困らないかも知れないが、こういったものは癖になる。
あらかじめそういったことを想定して練習しておかないといざというときに咄嗟に失敗しかねない。
まぁ、悪くない方法だと思うが、ほかにいいものが無いときに採用することにしよう。
うーむ、そうは言ってもなかなかに思いつかないな…
とりあえず、刺さずに立てて槍が倒れる前に投げれないか試してみることにしよう。
…結果は惨敗だ。
倒れ始めた槍を掴みなおすのは大変だし、自分の体と反対に倒れはじめたときには掴む事すらおぼつかない。
あらかじめ倒れる方向が決まるように若干の角度をつけて放せば、投げて掴もうとする前に倒れきってしまう。
そもそも、そんな角度の調整をしながら立てるなんてことを戦闘中に咄嗟に出来るわけが無いではないか…
と、今気づいたが地面に突き刺すのも敵を相手にしていたときでは無理だな…
うーむ、やはり投げナイフと槍の共存は無理なのだろうか…?
本来的に短剣を主とする盗賊系が多く使うようだが、短剣だったら仕舞うのもすぐだしもともと片手だから使いやすいのだろうな。
だがせっかく買ったんだしどうにか使えるようにしたい。
とりあえず、こういうときは一つ一つ段階を踏んで検証を進めた方がいい。
まず、何を持って槍を装備していると判定されるかだな。
まずは柄を握らずに手のひらで支えている状態で投げてみる…
…失敗。これは持っていると判定されるようだ。
ならば次は手のひらでなく手の甲で支えてみる…
…失敗。ものすごく投げにくい上やはり持っていると判定される。
肘で挟んでみる。
…失敗。
脇に抱えてみる。
…失敗。
肩にもたせかけてみる。
…成功した!
紐でくくって腰につけてみる。
…やはり成功。
腰につけた槍を手で支える
…失敗。
そのまま手を放す
…成功。
これはどうも手が槍に触れていると装備しているという判定を受けるようだ。
それまでの実験から考えると肩から先の腕全体がその判定を受ける部位であると考えられるな。
これを踏まえると腕全体を使用せずに槍を保持しナイフを投げるということか…
うーむ…、やはりいい手段が思いつかない。
足を使うにも投げる動作に踏み込みが必要な場合もあるだろうし、なかなかうまく行かないだろう。
そもそも、そんなに器用に足が動かない。
これは素直に地面に投げておくのが一番なのか?
だが、戦闘中にそんなことしたらやはり危険だよな…。
そもそも、敵と相対してるのにナイフを投げるなんてほかに意識を割く事事態が間違いなんだろうか。
タダでさえ回避型で敵に注意を払わなければならないのだし…
しかし、これが出来るようになるとドスリビ戦でベリトにいったタゲを受け取りに行ったような行動が非常に楽になる。
さらに言うなら、投げナイフはほかの戦士系の信仰神では習得が難しいと言うのだから出来れば物にして差別化を図りたいところでもある。
回避しつつナイフを投げて敵を引き付ける…
うむ!考えるだにかっこいいではないか!
む…?
かっこいいといえば…
たとえば、槍を上に投げてみるのはどうだろう?
後衛に敵がが着たら、すかさず槍を上へ放り、ナイフを投げ、落ちてきた槍を掴み戦闘継続…
やべぇ、中二病全開だな…
だが、それがいい!
よし、技術的に難しかろうがこの方針で行くか!
正直、地面に槍を転がすよりはマシだし。
失敗して掴み損ねても同じ条件になるだけだからな。
槍を立てておくのも敵の攻撃の余波を受けやすくて、受けた場合槍が遠くに飛んでいきかねない。
それに比べれば上にある分攻撃を受けずらいだろう。
うむ、理論武装も終えたことだしこの案を採用しよう!
あ、そうだ。まだ試しておかないといけないことがあったんだった。
この練習はとりあえずおいておいて、次の検証に移らないとな。
まぁ、これはすぐ終わるだろうしさっさとやってしまおう。
次に確かめておかなければならないのは、距離による命中率の変化である。
動作補助によって投げるのだから距離による命中はシステマティックに決まってくるだろう。
現在、ナイフ自体の補助や投剣熟練度も低いからある意味検証に適している。
まぁ、そこまで詳しく検証つもりは無いから、とりあえず現状の有効射程距離を確認するだけだが。
とりあえず案山子からどのぐらい離れるのかという基準だが…
まぁ、槍の長さでいいか。親父も大体2mぐらいと言っていたしそんなもんだと俺も思う。
俺は案山子から槍の長さごとに横線を引いて投げる位置を決めていく。
部屋の角から対角までで10本の横線を引くことが出来た。
対角線で20mか…以外にこの部屋広かったんだな。
先の実験で投げたナイフを回収して2mラインに立つ。
取りあえず手持ちのナイフ20本を投げる。すべて命中した。
胴体の中央を狙ったのだが、全部狙った中央付近に集まっている。
検証として信頼性を考えるととてもではないが試行回数が足らないが、当たった場所の集まり具合を考えて2mでは必中として良いだろう。
次に4m…すべて命中。さすがに2mのときより集まりが悪いが大体狙いからそんなに外れない位置で当たっている。
これも必中と考えておいていいだろう。
次に6m…すべて命中。何本が外れそうになったのも有ったが取りあえずすべて当たった。
それなりに大きい的であるなら必中と考えておいていいだろう。
リビやチェンパーのサイズはたまに外すことがあるかもしれないな。
次に8m…17本命中。やはり、狙った場所から外れる距離が長くなってきている。
だが、概ね当たるものと思っておいても大丈夫だろう。
後衛に行った敵を引き付けるなどの行動では少々不安が残る距離ではある。
次に10m…10本命中。だいぶ外れる本数が多くなってきた。
この命中率では何をするにも正直信頼できない。
結論とすると釣りなんかで使う分には10m~8mほど、出来れば8m以下。
タゲの引き受けなどには8m~6mほど、出来れば6m以下という結論だろうか。
熟練度の低さとナイフ自体の補正が無いことを考えれば十分すぎる結果だろう。
もっとも戦闘の火力として考える、或いは遠距離武器のメインとして考えるにはまったく足らないだろうが…
現在俺が求めているのは取りあえず当たればいいというだけなのだからこんなものなのかも知れない。
今度AGIとDEXを振ったり熟練度が上がっていけば命中率が上がるらしいから狙える有効射程距離も上がっていくだろう。
とりあえず、投擲修練のスキルは取得しなくても何とかなりそうである。
これが分かったことは大きいだろう。
結構、のりでスキルを決めているところがあるのは自覚しているが、取らなくて良いものが分かればそれに越したことは無い。
それと狙った中央から外れたナイフが均等に散らばっているのを考えるとやはり狙いに関しては予想通りシステマティックに決まっているのだと思われる。
これも大きい情報だな。
よし、さし当たって検証するのも終わったし、槍を持った状態からの投擲を練習するか!
とりあえず俺は腰溜めに槍を構えた状態から槍を軽く上に投げ、投げナイフを取り出して投げる。
うむ、余裕で間に合わない。
俺の足元には取り損ねた槍が転がっている。
うーむ、もっと高く上げるべきだったか。
それを踏まえてもう一度やってみる。
槍を構えさっきよりも高めに放り、ナイフを取り出して投げる。
うむ、今度はギリギリだったが間にあった。
しかし、取り損ねる所だったからまだ高く放る必要があるみたいだ。
再度挑戦する。
先ほどよりも高く槍を放り、ナイフを取り出して投げる。
タイミング的には十分槍を取ることが出来たが、高く上げたため落下の速度が速くなっており非常に掴みにくい。
あと、高く上げた分だけ落ちてきた場所がずれるな…
案の定、掴むのに失敗し槍は地面に転がることとなった。
うーむ、難しいな…
かっこよさを考えてこのスタイルにしたのに、槍を取り損ねるとかかっこ悪いにもほどがある。
どうにかして物にしないと…
余り高く投げるのも問題だろう、槍から手を話している時間は最小にすべきだ。
ん…?
放す時間を最小にか…。
そういえば、放した状態で行動補助が起動しモーション中に槍に触ったらどうなるのだろうか?
触った時点でモーションがキャンセルされるのか、そのままモーションが続行されるのか…
キャンセルされるならされるで使いでが有りそうだし、モーションが継続されるなら投擲の行動補助を開始するときだけ放していれば良いことになる。
まぁ、モーション中に槍を持つことでバランスが崩れて狙いが逸れる可能性も考えられるな…。
早速試してみることにしよう。
同じように左足を前に槍を右の腰溜めに構えた状態から、左手で槍を持ったまま右手でナイフを取り出す。
この時点では槍も投げナイフも共に行動補助を受けることはできないだろう。
左手て持った槍を手の中で軽く投げ、掌に槍が接触しないと感じたところでナイフを投げ始める。
当然すぐにやりは手の中に落ち左手を握るが、右手は自動的に動く感覚のままだ。
そのままナイフを投げきり振りきった右手でそのまま槍を持ち直す。
おお、成功した。
ナイフもちゃんと狙い通り案山子に突き刺さっている。
足を構えたままにして、右手の肩から先だけで投げるように意識したおかげか、左手で槍を掴みなおした影響はほとんど無いようだ。
当然本来なら全身を使って投げるよりも威力も射程も劣るはずだろうが、威力はともかく射程に関してはシステマティックに決まってくることを考えると案外変わってないことも考えられる。
先ほどざっと検証した感覚として、投げ方を変えても命中力に変化が無かったからだ。
もしそうであるならばこの投げかたは非常に有益であると思える。
ほとんど槍を放す時間が無く、投擲の熟練度が上がってモーションの中断が任意にできる様になれば危機的時間を圧倒的に減らせる。
槍を上に放ってナイフを投げると言う中二病的かっこよさがお蔵入りになってしまうのが唯一の難点か…。
後は、体勢的にとっさに出来るようになるのが大変だと言えるが、それは上に放る方法でも同じことだ。
練習して慣れていくしかないだろう。
手順のおさらいとしては、
1、槍を片手で持ち、もう片方でナイフを取り出す。
2、槍から手を放して、ナイフを投げ始める。
3、モーションが始まったらすかさず槍をキャッチ。
4、投げモーションが終わったら、槍を両手で持って投擲終了。
こんなところだな。
言葉にすれば簡単だが…、なかなか慣れるのは大変そうだ。
いい加減時間も経った事だし、そろそろベリトが戻ってくるだろう。
それまで出来るだけ練習することにしよう。