神殿で階位の上昇を確認する。
祭壇に上がり、女神像の前で祈りを捧げる。
すると、いつもどおり不思議な空間に自分が居るのが感じられた。
そして、目の前に現れる…いや、居たというべきか?
俺は現れた瞬間を認識できていないのだから。
そんな凛々しくも不思議な存在から、涼やかな声が流れ出る。
「ジスティア・ネイシーよ。
汝は順調に力を伸ばしておる様だな。
汝の位階は8から9に上がった。
新たに3つの種を得ることが出来るだろう。
新たな力を持って次なる試練へと挑むが良い。
汝は難敵に果敢に立ち向かい、人たる知恵をもって退けたるは評価に値するぞ。
汝が仲間の信頼を勝ち取り、連携を行うなどすばらしきことである。
また、危機に際し一丸と成りてその苦境を脱することも見事であった。
だがな、ジスティア・ネイシーよ。
確かに、汝の行動は我が信仰に背くことは無かった。
だが、戦士としての心が聊かかけておるようにも感じられたぞ。
我が信仰は規律有る行動によって守られる。
だが、同時に戦士としての心も強くあるように我は望む。
汝の進む道では聊か難しいことであるだろう。
だが、その険しき道を進みきったときこそ、汝は大きな力を得ることが出来る。
汝ならばその道を進むことが出来ると期待しておるぞ。
さて、これらの行動を鑑みて、我が力の一端を貸し与え、更なる力を振るうことを許可する。
汝の我への信仰が9の位階にあることを認めよう。
我が信仰の体現者としての立場をゆめゆめ忘れることなく、更なる活躍を期待するぞ。
我は汝を見守っておる。より一層精進するがよい」
結果は階位と信仰が1Lvずつの上昇だった。
しかし、アラナスの言う戦士の心ってのはガチンコでがんばれってことなのだろうか?
別に釣りに専念しててもペナルティは発生しないようだけど、好みの美人さんに頼まれたら否とはいえないよな。
たとえそれがNPCだったとしても!
ふーむ、改めてPTでの立ち位置を考えるべきかもしれないな。
それはさて置き、さすがにそろそろ一気に2Lv上がるのは難しくなってきたようだ。
だが、3~4時間の狩りで1Lv上がるのだから、ネットゲーとしてはまだまだ上がりやすい方だろう。
経験点が確認できないのでその狩り場が効率の計算が出来ないため、良し悪しがはっきりしない。
そのため、亀が経験点的に美味しいかどうかは不明では有るのだが。
ステータスだがSTRが一段落したので、DEXとAGIに振ることにした。
---ステータス----------------------
名前 ジスティア・ネイシー 位階9
信仰神 戦神アラナス 信仰9
STR 15+6(23)
VIT 1+3(4)
AGI 11+5(17)
DEX 10+5(16)
INT 1+2(3)
MND 1+2(3)
-----------------------------------
スキルは、迷うがとりあえず保留としておくことにする。
槍修練を上げることも考えたのだが、投げナイフを使うのならば遠距離修練を新たに取るのも良いかもしれないと思ったからだ。
とりあえず、武器屋の親父に投げナイフのことを相談してみてから考えようと思う。
しかし、そろそろ長期的視点に基づいた中期計画をまじめに立てるべきかもしれないな。
刺し当たってLv20あたりでどんな感じのステータスにするかを考えておくべきだな。
まあ、今すぐやらなければいけないことでもない。
今は取りあえず、先に用事を済ませておくことにするか。
俺は神殿を後にし武器屋に向かった。
いい加減この道も通いなれたものだな。
「よう親父、また世話になりに来たぞ」
「おう、お前さんか。今度はどうした?あの槍は当分使えると思うんだが」
「ああ、今回は槍の話じゃないんだ。
さっき組んだ仲間に投げナイフを使ってみたらどうかってアドバイスを貰ってな。
どんなものがあるのか見に来たんだ」
「ほう、投げナイフねぇ…。
お前さん確かアラナス様の加護を受けてるんだったよな?なら確かに悪い選択肢じゃないな」
「ん?アラナス様は投げナイフにも加護があるのか?」
「なんだい、お前さん。知らないのか?
戦士系三柱で唯一投剣に加護を与えてくださるのがアラナス様だぞ」
「へぇ、それは知らなかったな。
なら何もしなくても最低限のものは装備できるんだな。
ダメだったら投擲修練のスキルを取ろうかと思ってたんだが…」
「遠距離修練のスキルが取れることからもアラナス様の加護が投剣にもかかることが分かるだろうに。
加護の範囲から出る武器であったならその武器に対応するスキルなんかも修得することは出来ないぞ?
現に杖や本なんかはアラナス様では加護を受けられんから、魔器修練も取れんだろうが」
確かに、そういわれればそうだったかも知れない。
まぁ、何はともあれ投げナイフを使うことは可能であるようだ。
「なら、俺でも使えそうなものを幾らか見繕ってくれないか?予算としては2sほど有るんだが」
「投げナイフはある意味消耗品だからなそんなに高いもんじゃない。
ただ、ある程度の数を持っていかないとすぐになくなってしまうだろうな。
とりあえず、今のお前さんが使えるのは、下から2ランクぐらいのものしかない。
当然攻撃力は期待できんし、投げてもバランスが悪くてうまく当たらんこともある。
それでも良いなら用意するが」
「まぁ、最初はしょうがないだろう。それこそ使っていって慣れないとな。
それに、もともとダメージに期待して使うわけじゃないからそれで構わないさ。よろしく頼むよ」
「あいよ。それで何本ほど要るんだ?」
「そうだな…、さっき消耗品っていってたが、一回使ったら壊れるのか?」
「さすがにそこまでやわじゃないさ。
だが、投げた先が分からず拾えないと数が減っていくから、少し多めに持っていくのが良いと思うぞ」
「なるほどな…。まぁ、とりあえず20本ほど有れば十分だろう」
「まいどあり。一本2cだから全部で40cだな」
俺は金と引き換えに錆びかけたボロい鍔の無いナイフの束を引き取った。
「投剣は慣れないとうまくいかないからな、実戦で使う前に訓練場の案山子相手に練習した方が良いぞ」
動作補助があれば何とかなるんだろうが、それに頼り切るのは俺の趣味ではない。
ベリトもまだ帰ってこないし、暇つぶしがてら訓練場で練習しておくことにする。
折角中央広場に来たので、ついでに花売り少女と会話を楽しんでおくのを忘れない。
この世界に降り立ったとき以来ご無沙汰だった訓練所は、続々と人を吐き出している。
まだ、2日目で、今はゴールデンタイムなのだ。
新規参入者はまだ多いのだろう。
俺はその流れに逆らうように中に入ると、俺の願いを裏切って例のうるさいマッチョがこっちを見ていた。
また、こいつにかかわることになるのかと気が滅入るが他にNPCも見当たらないためこいつに話しかけるほかにない。
俺はため息をついて、そいつのもとに向かった。
「よう、久しぶりだな」
「おう!お前か!今日は一体何の用でここに来たのだ!?」
「投げナイフの練習にきたんだが…」
「なるほどな!それならば右の扉に出たところで練習すると良いぞ!」
「分かった。ありがとよ」
なぜ、練習場所を訊くだけの会話ですでに耳が痛くなるのか…
俺は気を取り直して、言われた扉に向かう。
扉の向こうには少し広めの広場があり、その一角に案山子が何体か立っていた。
投げナイフは投げた後に見つからないと無くなるといっていたが…
流石に練習フィールドなら減らないで居てくれるかも知れない。
やはりタダではないので、出来れば減らないでほしいところである。
さて、練習ということだが基本的には動作補助で前に飛ばせることは出来るだろう。
投げナイフの経験はまったく無いのでこれがないと満足に的に投げることすらできない。
逆に言えば、投げること事態の練習はすることが無いとも言える。
熟練度が少々上がるだろうが、現状では焼け石に水であろうし、狩り中に使うほうが多分熟練度の上がり早いと思われる。
ならば、なぜわざわざ訓練場に来たかといえば、いくつか確かめておきたいことがあったからだ。
一つは槍を持った状態でなげることができるかどうかである。
これは両手武器を使っている俺には非常に重要なことだ。
盾と片手などの装備であれば、どの道どちらかを放さなければナイフを持つことが出来ないが、両手武器の場合片手で持ちつつナイフを投げるといったことが出来てしまう。
これがシステム上許されるのかが焦点だ。
俺は、まず槍をその場においた状態でナイフを袋から出し、的となる案山子から数歩離れてナイフを投げる。
俺の体は半ば自動的に動き、無意識のうちに効かせたスナップによってナイフは刃先を前に風を切って飛んでいく。
これが現実ならば、ナイフは無様に回転してしまっているだろう。
そして、ナイフは見事に案山子の腹に突き刺さった。
今度は、槍を左手に持ち、右手にナイフを持って、そのまま案山子に向かってナイフを投げる。
今度は明らかに先ほどの動きが出来ず、ナイフは刃先を前に飛ぶどころか無様に回転しながら案山子にぶつかり手前に落ちるのだった。
やはりシステム上の両手武器を持った状態で、片手を使うような動作は認められないらしい。
動作補助が無ければ満足に投げることが出来ない俺ではナイフの投げるときには武器を手放さないといけないようだ。
この結果は予想通りではあるが…、出来れば外れてほしい予想であった。
せっかく投げナイフというサブウェポンを得て行動の幅が広くなったのに、槍を放さなくてはならないとなると一気に選択肢が狭くなってしまう。
だが、システム上そうなっているのだから嘆いていても始まらない。
どうにかやりやすいように考えなければならないだろう。
俺が投げナイフを使う状況として考えられるのは今のところ2つの場合だと思われる。
一つはモンスターを釣ってくるときに使う場合。
もう一つは、後衛へアクティブモンスターが迫ったときにタゲを取るための攻撃である。
敵を釣る場合には、武器を放していたところでさして問題は無いだろうが、後者の場合は別だ。
投げた後に、敵が迫ってくるのが確実であるし、そもそもほかの敵を相手にしているときに投げなければいけないかもしれない。
そんなときに悠長に武器を放していては命がいくらあっても足らないだろう。
しかし、武器を放さなければナイフを投げれないのだからとんだジレンマだ。
こうなった以上は、放した後に再度持ちやすいように、或いはシステム上放していると判定させるような持ち方を見つけなければならないようだな…