ベリトと合流した俺はクエストを消化する。
といっても、NPCの間をたらいまわしにされているだけだが。
最終的にある民家にたどり着き、中の商人からドスリビリオンが居るせいで旅に出ることが出来ないから倒してくれと頼まれた。
俺は途中からだったのでさっぱり話が見えなかったのだが、ベリトに聞くとそれなりに面白かったらしい。
よし、それじゃあ雪辱に向かうとしようか!
折角街に戻ってきたが、特にやることも無いのでとっとと南門を抜け、ドスリビの下に向かう。
「そういや、ドスリビのリポップってどれ位なんだろう?」
「掲示板にはそのあたりの情報は載ってなかったな。まぁ、他のPTに狩られないように祈るしかないだろ」
「確かにそうだが…、これで取られると不完全燃焼だなぁ…」
さて、幸いにしてドスリビはまだ健在だった。
さっきのようにならないように念入りに周りにいるリビリオンを排除する。
当然、余裕で倒せるので熟練度上昇もかねて三連突きを多用してみる。
やはり予想通り三段突きを入れれば、後一撃で沈めることが出来た。
さっきの戦いでリビリオンを一撃で落としていられれば大分違ったんだろうと思う。
だが、終わったことを言ってもしょうがない。
リビリオンを掃除し終えた俺たちは再度ドスリビに挑戦する。
いくら掃除をしたからといって、新たに近寄ってくるかもしれないし新たに出現することもありえる。
警戒することは必要だろう。
もっともその役目はベリトが負ってくれるだろうが。
俺が避けて攻撃し、かすったダメージや時々使う三連突きでスタミナが減ったらベリトが回復してくれる。
前回同様、ドスリビリオンは当たればタダではすまない攻撃だが、いかんせん鈍重な動きである。
注意して立ち回ればそうそう当たることはない。
だが、やはり元の回避力が足らないのかかする程度に食らうのは避けようが無かった。
冷や汗をかく場面もあったがベリトの支援で事なきを得た。
やはり、ベリトが居るのは心強い。
ドスリビリオンの攻撃の方法も前か後ろの足で殴りかかってくるぐらい。
不用意に離れると突進が来るのがその巨体ゆえ脅威であるが、立ち回りで離れすぎなければ問題ない。
俺はダメージを着実に重ねていき、いよいよドスリビリオンの動きが鈍くなる。
そろそろ鳴声を上げて味方を増やそうとするだろう。
だが、その機が大体分かり、こちらはてぐすね引いて待っているのだ。
前回のような無様を晒すわけには行かない。
俺はドスリビの鳴声を警戒しつつ、戦闘を続ける。
さすがに注意力が散漫になったせいで被ダメが増えたが、すかさずベリトがフォローしてくれる。
ドスリビリオンはいったん攻撃をとめ空に見上げる。
前回は、予想外の行動にあっけに取られてしまったが、今回は万全の体勢で待っていたのだ。
この千載一遇のチャンスを逃すことは出来ない。
俺は鳴声をあげようとしているドスリビの鼻っ面に渾身の力で石突を叩き込む。
その攻撃を食らったドスリビは驚いたように声を出すのをやめ、怯んでいる。
それまでも頭に打撃をいれていたのに全く怯ま無かったことを考えると、やはり鳴声を上げるタイミングでの打撃は有効であるようだ。
そのまま、何時ものように槍を右脇で縦に回して上からの袈裟切り、振り切った下段の構えからの突き上げを叩き込む。
周りにリビリオンが居ないため、鳴声の効果を防げたのかは今ひとつ分からないが、大きなダメージを与えることには成功しただろう。
元々弱っていたのだ、あと少しで倒せるだろう。
だが、気を抜くわけには行かない。
一発のラッキーパンチで形成が一気に逆転することがありえるのがAGI型の宿命なのだから。
周りに敵が居ないことは常にベリトが確認してくれているはずで、俺は目の前の敵に集中すればいい。
そのまま俺は堅実にダメージを与えていって…
とうとう、ドスリビリオンは力尽き地に伏せたのだった。
戦闘が終了した俺は、緊張の糸が切れその場に座り込む。
そこにベリトが近づいてくる。
「ご苦労さん」
「おう、疲れたよ。避け続けるのが神経使うな」
「マインド値は減ってないだろ?」
「まぁ、そうなんだけどな」
くだらないジョークを言い合い、終わったことを実感する。
やはり、一撃でもいいのを貰えば昇天しかねない攻撃を延々と避け続けたのだ。
VRでは体の疲れを知らないといっても精神的なものは別である。
「なんかいいもの出た?」
「確認してないが…、装備品の類はなさそうだから期待しないほうがよさそうだな」
「そいつは残念だな」
光と消えたドスリビリオンの置き土産は幾つかの素材アイテムの様だった。
一見、リビ系列のドロップ素材だが、さすがに同じものということは無いだろう。
見た感じ質も高そうだし、高く売れそうである。
もっとも記念に残しておこうかとも思っているが。
「フォロー助かったよ」
「まぁ、俺に出来ることはこれぐらいだしな」
「謙遜するな、それが無かったら倒すのは無理だったぞ」
「まぁ、それはいいけど。しかし、あれだな。鳴声を防いだらえらく余裕だったな」
「前回失敗した原因はあの鳴声による乱入だしな。それが無けりゃこんなもんだろ」
「それもそうか」
「よし、目標も達したし街に戻ってクエストの完了報告に行くか」
俺たちは連れ立って街へに向かって歩き出した。
街へと着いた俺たちは受けたクエストの報告をした。
商人のおっさんは大仰に俺たちを迎えたあと散々俺たちのことをほめながら、報酬金を渋ろうとしてきやがった。
当然、拒否し続けるとついに観念したのか話通りの報酬金を出してきた。
NPCの癖に報酬金を渋ろうとは、油断も隙も無いな…
報酬として2sのお金を貰った。
今回は予め掃除のために狩ったリビリオンのドロップぐらいしか直接的な金銭収入が無い。
この2sは助かった。
経験点の現在値が分からないため、報酬に経験点がもらえるのかは不明だが序盤のベリトはそれでLvをあげたといってるのだから含まれるのだろう。
苦労した分ぐらいの量があるといいのだが。
この後俺たちは分かれて神殿に向かい階位の上昇を確認したが、どちらも上がっていなかった。
ボスを倒したとはいえ、デスペナの後にさして量を倒したわけではない。
階位が上昇していないのも当然といえるだろう。
その後、宿屋で集合し次の目的地である海岸に向かう予定だ。
そこでベリトが花を摘みに行くと言って一旦ログアウトした。
こういった雑事でいちいちログアウトしなければいけないのはVRの不便なところなのかも知れない。
余談だが、「花を摘みに行く」というのは、トイレにいってくるということを示す隠語だ。
元々は登山用語の筈なのだが、なぜかネットゲームの世界でもよく使われる。
さらに言うなら「花摘み」は女性が使う表現であり、男が使うならば「雉を撃つ」が正しい。
つまり武が使うなら雉撃ちに行くと言うべきである。
いや、その台詞はベリトが言ったんだから花摘みであってるのか?
武が戻ってくるまでの間の暇な時間を愚にもつかないことを考えて潰す。
掲示板を読んでくるほどの時間は無いだろうなと思ったからだ。
少ししてベリトが再度ログインしてきた。
俺たちは海岸に向かうため北門に向かって宿屋から出発したのだった。
中央公園を素通りし、北門に向かって歩く。
中央公園は、中央と謳っておきながら若干待ちの北のほうにある。
よって、南通りよりも北通りの方が短い。
ちなみに俺は、中央公園よりも北に行くのは初めてだったりする。
さして掛からず北門にたどりつき、道具屋を見つけるもドスリビ雪辱戦では結局アイテムを使わなかったため見送ることにする。
北門を出るのにも特に問題は無かった。
南門の時と同じように門番に止められるかと思ったのだが…
あれはどの門からでも出ようとしたときに起こるイベントであったのだろうか?
北門を出ると南門からの景色とは、全く違う大自然を感じられる。
足元の草原は変わらないが、前を見たときには大きな河の流れを見ることが出来る。
ここから程近い川岸にはいくつもの船が止まっており、河渡しを行っている様である。
なんだか、RPGでよくある川を渡ったら敵が一気に強くなるという法則を満たしている気がするな…
まぁ、とりあえず現在の目的地は河の向こう側に渡る必要は無い。
このまま河を下流に下っていけば目的地の海岸に着くだろう。
そのまま西に向かって歩き出そうとしたところをベリトが引き止めた。
「あの船使って下流に送ってくれねーかな?」
たしかに、船があって川下に下りるんだからわざわざ徒歩で行く必要は無いだろう。
もしかしたら送ってくれるかもしれない。
出来るのなら大幅な時間短縮になることだし、確認してみることにする。
…結果は残念ながら出来ないとのこと、この川は結構流れがあるのでいったん河口まで降りると戻ってくるのが大変なんだそうだ。
まぁ、そんな簡単に狩場に直行できるほど甘くは無いらしい。
しょうがないので俺たちは川にそって歩いて移動することにする。
VR内なので体力は関係なく、ずっと走って移動することも可能ではあるが、取り合えずはじめてくる場所であるのでのんびり歩いて景色を楽しむことにした。
しかし、定期的に街に戻らなければならないシステムが多々あるのに、こうも狩場までの移動に時間がかかるのはよろしくない。
VR空間でのことだから見た目と実際の移動距離が違うのは十分ありえるのだが、なんらかの対応策がほしいところだ。
もしかしたら、初めの街に無いだけで馬のような乗り物を売っている場所もこの世界にはあるのかもしれない。
もしあるのであれば、出来るだけ早く手に入れたいものだ。
川沿いに進み田園地帯を抜けてしばらく進むと海岸が見えてくる。
海というのはなかなかに心躍る要素だ。
内陸出身のおれはなかなか現実において海を見る機会はないため特にそう思う。
白い砂浜が海岸線に続いてる。
其処ではのそのそと歩く亀とそれらを狙うPCが散見された。
予想よりも混んでいない。
周りを見ると、やはり遠距離系が多いらしく火の玉などや矢が飛んでるのが見える。
どうも近接系はこの場では少ないようだ。
そのため、槌を振るって亀と殴り合っている女性の姿は結構目立っていたのだった。