「相変わらずの変態的な姿だな」
「顔を合わして早々、失礼な物言いだな。そんな礼儀知らずだったとは知らなかったぞ。
そもそも、なんでそんな言葉が出てくるんだ、どこから如何見ても美少女だろうが」
「その姿が美少女なのは認めるさ」
「うむ、姉貴渾身の作だからな」
こいつの姉貴はアバターアーティストと呼ばれる職についている。
非常に新しい職業で、名前が広まりだしたのもここ数年だろう。
その中でも彼女(彼)の姉はさきがけとなった存在で業界で一目置かれているらしい。
仕事内容はわざわざ説明しなくても分かるだろうが、見栄えのいいVR用の外装を客のニーズに応えて作るという仕事だ。
一般のゲーマーにはなじみが薄いが、VRで広告を展開している企業の受付嬢やVRショッピングでの店員など外見を気にする仕事は現実と変わらず多岐にわたる。
その外見が自由にいじれるのがVRなのだから、見栄えの良い外装データを作る腕を持った人間が引っ張りだこになるのは当然だろう。
しかも、この業種は半ば彫刻家のような芸術性が求められる比重が多く、本人の感性など特殊技能に近いものを必要とする。
そのため本当に腕の良いアバターアーティストは数が少ないのだ。
この男は、VRで支援職を始めるに当たりかわいい女の子の姿でやりたいと姉に相談したらしい。
正直、この時点で奴の正気を疑うが、さらにすごいのがこの後だ。
この話にかの姉が尋常じゃなく食いついてきた。
何でもたまには仕事ではなく趣味全開で外装を作りたかったらしい。
これは秘蔵のデータだと言って引っ張り出してきたものに、武の意見を加え、アーティストのネットワークを駆使して評価をもらい作成したとのこと。
武がデータをもらったとき姉貴は恍惚とも取れるとてもやりきった表情をしていたと言っていた。
この弟にしてその姉ありとしか言うことが出来ないだろう。
そして、そのデータとやらが目の前の少女の姿である。
まぁ、確かに光の加減によって淡く紫に輝く銀髪など一般的な商取引では奇抜すぎて使えないだろう。
そういったフラストレーションを全開にしてこの姿を作ったと言っていたそうだ。
だからといって弟が女装するのに全力で支援する姉というのはいかがなものか…。
というわけで、その道のプロが集まって全力投球した姿が美少女でないわけが無い。
…ないわけが無いが、だからといって中身が男だと知っているとそれ以上になんというか…こう…
素直に見ほれることが出来ない気持ちになるのだ…
ちなみに、この姿で愚かな男が良くつれるのは先ほど見たばかりだが、何もつれるのは男ばかりではない。
女も釣れるのである。もっとも、感情は180度逆だが。
一目で作っていると分かる外見なのだから気にしなければいいと思うのだが、世の女性たちはそうは割り切れないらしい。
「わー、すごいかわいいねぇー」と目が笑っていない笑顔でよってくることがまれにある。
まぁ、本心から言っている場合もあるが、その場合は別の意味で目が怪しいときだ。
女同士の「かわいい」は決してほめ言葉ではないとは誰の言葉だったか…
ちなみに、そういった女性は中身が男だと分かると一気に好意的になる。
いや、外見上はもともと好意的なのだが…
しかも、別に演じているわけでなく男の態度を通しているのもつぼに嵌るらしい。
ああ、ちゃんとドン引きして離れていく常識人も居るので心配しないでほしい。
あと、自分も外観を作ってほしいという人も後を絶たないらしいがすべて断っているとのことだ。
ここまで衆目を集める容姿をしているのに本人はまったく気にしていない。
横に居る俺のほうが気まずいぐらいだ。
まぁ、一緒にVRをやって長いのでもうなれたことではあるのだが。
ちなみに、ここまでした奴の行動理念はタダ一つ
「かわいい女の子に癒してもらったほうがうれしいだろうが!」
その意見には全面的に賛同するが自分が癒すほうにまわっては本末転倒だと思うのだが…
さて、無事にたけ…ベリトと合流を果たし、もはや慣れてしまった視線による洗礼を受けたところで狩りへ向かうとしよう。
「さて、取り合えず外に出て狩りに向かうか」
「おう、て言うかお前の武器は槍かよ…。相変わらずだなお前」
「馬鹿、槍はすごい武器だぞ。昔から槍の三倍段といってだな…」
「それを言うなら剣道だろ。てか、もしかしてお前、回避槍か?」
「なんか文句あるのか?」
「いや、文句は無いけどさ…。相変わらずだなお前」
さっきも聞いた台詞を繰り返すベリト。失礼な。
ちなみに、ベリトは高めのかわいらしい声をしている。
非常に外見とマッチして可愛らしい。
外見とはマッチしているが口調とはマッチしていないのが悲しいところではある。
この声もどっかの有名な合成士から提供をうけたとかうけないとか…真偽は知らない。
「さし当たって何を狩るかだな」
「何でもいいぞ。俺は後ろで応援してるだけだし」
「いや、働けよ」
「むしろ、お前が俺のためにしっかり働けよ♪」
いやらしい事を、すばらしく可愛らしい笑顔でのたまう。
残念、だが俺にその笑顔は通用しない!
「はん、あほなことを言うな。働かざるもの食うべからずだ、ドロップ品分配してやらんぞ」
「いや、冗談抜きで戦闘中にヒール飛ばすぐらいしかできねぇし」
「心持の問題だろ。そういうのは」
「だから、真心込めて応援するって言ってるじゃねーか。先にけちをつけてきたのはお前のほうだぞ」
…あれ?
釈然としないがそういわれると俺が悪い気がしてきた…
まぁ、いいか、どうせ泥沼な話だし流しておこう。
「話を戻すと、どこに行くか決まらないと移動できないだろうが。どこか無いのか?」
「どこかって言われても、街で引きこもってた俺が外のことなんか知るわけないだろうが。
お前こそ掲示板とか見てたんだったらなんか無いのかよ」
「そういった情報は無かったな…。まぁ、ここでグダグダしててもしょうがないな。
とりあえず歩いていってめぼしいもの見つけたら狩ってみることにするか」
「賛成~」
とりあえず、方針が決まったところで歩き出す。
「ところで、お前は成長したら何が出来るんだ?」
「まぁ、胸で挟めるまでになるのは無理だな」
…なにを?などと誰が返してやるものか。
「…っ、このロリコン女装趣味やろうが…。それ以上下ネタ振ったらPT解消するぞ」
「ロリコンじゃねぇっつってんだろ! しかし、お前も相変わらず潔癖だなぁ…
ゆとりを持って生きたほうが人生楽しいぞ?」
「鏡見てから言い返せ。潔癖じゃねぇよ。
その姿のお前とその手の話をしてると、俺がロリコン扱いされるんだよ!
下ネタ禁止でさっきの質問に答えな」
「それに関しちゃ、ペア組んでる時点で手遅れだろ。
まぁ、一般的な支援職と思ってもらえれば構わんと思うぞ。
回復したりステータス上げたりとか。光属性の攻撃魔法も基本的なのだけ覚えるな。
光属性の攻撃魔法は光神タリアヴィーの領分だから、シャルライラでは重視されてない。
一言でいえば純粋火力にはなれない、完全支援系だ」
「お前…、自覚があったのかよ…。
あと、俺としてはお前こそ相変わらずだといいたいがな。ところでステータス上げるのはすぐ覚えられそうなのか?」
「いくつか前提スキルがあるからすぐには無理だな。もしかしたら、クローズからスキルツリー変わってるかもしれないが」
「掲示板で確認した情報ではスキルツリーの追加はあっても変更は無いんじゃないかってことだったけどな」
「掲示板ねぇ…、どうせまだ実際に確認したやつは居ないんだろうからどうなるかわからんだろうが…
まぁ、話半分ぐらいで聞いておくか」
話をしながらフィールドを歩く。現在は大体夜中の3時。
いくらサービス開始初日だと言ってもこの時間になればさすがに人は減る。
南門前のフィールドはいも洗い状態からまともに狩りになるかもしれない程度には回復していた。
ちなみに、ベリトは歩きつつ周りの苦戦してそうなPCにヒールを飛ばしている。
ベリト曰く、ただの熟練度稼ぎだそうだ。が、された方はかわいい女の子に回復してもらってうれしそうである。
リビが多く生息していた地域を抜け、俺がハエに殺されそうになった辺りだ。
周りにはリビの代わりにリビリオンが多くなってきた。
「うお、デカいリビがいる」
「リビリオンだな。俺は階位を3から5までこいつを狩って上げた」
「こいつにするか?」
「階位3の俺がソロで安定して狩れる程度だぞ。階位5に上がって、さらにヒーラーいるんだからもっと先に進もう」
デカいリビというと俺はドスリビを思い浮かべるのだが、そういえばドスリビに追いかけられたのもこの辺りだったかも知れない。
この時間だと処理されずに闊歩している可能性がある。
警戒しておいて損は無いだろう。
「ここらへんにどでかいリビがいるぞ。多分エリアボス。
この時間帯だと処理されてなくてそこら辺歩いてるかもしれないから注意して行くぞ」
「まじで!?よし、そいつを見物に行こうぜ!」
「おいおい、話聞いてなかったのか?
たぶんエリアボスだぞ。今の俺らが勝てるわけないだろうが。踏み潰されるのが落ちだ」
「見に行くだけだって!」
そういってベリトが意気揚々と歩き出す。
俺はため息を一つついてその後に続いた。
目的が変更され、ドスリビ見学ツアーに早変わりした俺たちは適当にふらふらとフィールドを彷徨っていた。
俺は時折見かけるリビを一刀の下に光に返しながら、一人勝手に進むベリトについていく。
まぁ、街に引き篭もってたというから、この景色が珍しくてテンションが上がっているんだろう。
気持ちはわからなくもないのでしばらく好きにさせて置こう。
夜の草原の中、月明かりに照らされ淡く輝く銀の髪をなびかせて楽しそうに歩く様は非常に絵にはなるのだが…
「見つからないものはしょうがないだろ。誰かに狩られたのかもしれないし、狩り場探しに戻るぞ」
「残念だが、そうするか…」
そのまま先に歩いていくと、遠めに見えていた森が近づいてきた。