次は武器や防具を見に行こう。
数時間前に来たばかりの武器屋にいき、素材を換金してもらう。
牙が16本で80cになった。
これで手持ちのお金が81cになったが、武器を新しくするには足らなかったので武器の新調はまた次の機会だな。
俺の知り合いにこの店を薦めておいたと伝えると、親父は融通を利かせてくれると言っていた。
やはり、このゲームのNPCは柔軟性が高いと改めて思う。
さて、次に向かうのは防具屋だ。
まずは素材を買い取ってもらう。毛が11個に皮が6個で、全部で2sの金になった。
チェンパーからの素材も買ってもらおうと爺に渡すと、そのうち一つを指して忠告してきた。
これは素材ではなく魔法の羽根というアイテムらしい。
俺は手にとってしげしげと確認してみると脳裏に効果が浮かんでくる。
魔法の羽根:魔法のかかった羽根。使用した者を最後に登録したポータルへ転送させる。
「ポータル?」
はじめてみる単語に思わず、疑問の声を上げてしまう。
それをきいた爺は、驚きに目を見開いた…ような気がする様子で此方に話しかけてきた。
「おぬし、ポータルを知らんのか?それでも旅人か?」
「しらないのだからしょうがないだろうが」
爺はやれやれとでも言いたげにため息と共に首を振って答える。
「おぬしが戦闘不能になったら加護を与えたもうた神の力によって安全な場所に移動させてくれるのは分かっておるか?」
「理由は今まで知らなかったが、移動するのは知っていたな」
「ふん、不信心な。では、そのときどこに運んでくれるのかしっておるか?」
「知ってるよ。中央広場にあるモノリスの下だろ?」
「なんぞ、しっておるではないか。そのモノリスの近くにあるのがポータルだ」
セーブポイントのことかよ!
全く、紛らわしい名前にするから分からなかったよ。
「ポータルを使えば、一度開いた事のあるポータルならば他の場所から転送していただけるぞい。
大抵の大きな街にはポータルとモノリスが鎮座しておるから他の街に行ったら真っ先に確認するべきだのう」
ああ、新しいシステムが加わってそれに伴って名前に変更されたのか…
街と街との間の移動が面倒だというのはクローズ時代に多くあった意見だった。
それに対応した結果なのだろう。
一度たどり着いた街なら即座に移動できるのは便利で助かる。
もっとも、俺が次の街に移動できるのがいつになるのかは全く持って不明ではあるが…
しかし、このアイテムを使えば狩り場などからすぐに街に移動することが出来たのか…
これをあらかじめ知っておけばドスリビリオンに追いかけられるようなことは無かったのかもしれない。
「そのアイテムを売るなら25cで買い取るぞい」
ん…、買取で25cってことは売値が50cってことか?
高っ! やはり、俺のドスリビリオンとの追いかけっこは回避不能だったようだ…
これは何かの時のために取っておくのが良いだろう。
売らずに袋に残しておくことにする。
「ならば、虫の触覚が一個で6c、虫の足が1個で12cであわせて18cだな」
死にそうになるまでがんばったのに、その成果が18cとは…
いや、魔法の羽根を手に入れたのだから十分リターンはあったのか?
何はともあれこれで所持金がほぼ3sになった。
折角だから、防具の更新をしよう。
「爺さん、靴と篭手を新しくしようと思うんだが良いのは無いか?出来れば、篭手はブロックしやすいものが良いな」
「そうさな…。ほう、お前さん速さと器用さはなかなかのもんじゃないか。それならこれも扱えるだろう」
そういって、奥から新しい靴と篭手を持ってきてくれる。
靴は確りした皮で出来ているようで頑丈そうだし、足首までの網上げで確りと足を守ってくれそうだ。
篭手は少々重そうだが、鉄板を一部に使っているのか頑丈そうに見える。
今までのに比べると格段に心強くみえる。
「靴はここで手に入るものとしてはだいぶ良いものだぞ。
篭手はブロックを重視したもので若干重くなっているが、おぬしの力なら大丈夫だろう」
「ああ、よさ気だな。いくらだ?」
「靴が90c、篭手が1sだな」
若干高いが必要経費だろう。俺は購入する事に決める。
靴が上のほうに来たということは、この街での想定滞在時間は結構短いのかも知れない。
他の街への移動を考えてもいいのかも知れないが、まだ一日目であることだし、どうせレべリングレースには乗れないのだから、あせらずいくことにしよう。
「ああ、そうだ爺さん、聞きたいことがあるんだが」
「なんだ…?藪から棒に」
「さっきまでリビリオンを相手にしていたんだが、そいつの突進を篭手でブロックしようとして弾き飛ばされたんだがどういうことか分かるか?」
「なんだ…、そんなことか。
はじめにも言っただろう、大きい攻撃はブロックできないと。
小型の相手の攻撃なら篭手でもすべてブロックが可能だが、中型の攻撃は弱い攻撃でないとブロックはできんぞい。
リビリオンは中型だし、突進は強攻撃だ。ブロックできんのも道理だのう。
渡すときに説明しただろうが、鳥頭め」
そんな詳しい話は聞いてねぇよ!と反論したくなるが、そういわれていたのを忘れていたのは確かだ。
というか、客を罵るとかこの爺は客商売なめてんのか。
ベリトに紹介したのは間違いだったかもしれん。
そういや、この爺にもそのこと言っておかないとな…
「ああ、理解した。ありがとよ。
そうだ、爺さん、俺の知り合いがここにくるかもしれん。
そのときはよろしく頼むよ」
「ふん、気が向いたらな」
まぁ、この爺さんならこれ以外の返事は期待できないだろう。
さしあたってここでの用事は終わったことだし、宿屋に行っていったんログアウトすることにしよう。
さて、宿へと移動し部屋に入って机に向かう。
ログアウトしに来たといっても折角だし掲示板で情報がないか確認してみよう。
ステータスボードを呼び出して、ページを変更し掲示板を表示させる。
だいぶ人も集まりスタダ組も一息ついたのか結構な情報が交換されていた。
とりあえず、興味深く今後も注視していこうと思うスレがいくつかあった。
新しいスキルについて語るスレ
ドロップしたものを報告するスレ
スキル変更点まとめ
武器熟練度に関して
マイノリティーな型のやつ集まれ!
あたりが興味を引かれる。
くだらないスレも乱立しているが、それなりに面白そうなものもあったので気が向いたときに読んでみようと思う。
あと、晒しスレが立っていたがゲーム内掲示板は書き込んだ人のキャラネームが強制的に表示されるので全く意味を成してないようだった。
とりあえず、それなりにレスがついている様だったが大半はスレ主に対する罵声のようだ。
罵声を書き込んでる人たちは自分の名前が表示しているのに気づいてないのだろうか…?
もしかすると、スレ主の目的はこれだったのかもしれない…
ある意味、正しく晒しスレの目的を達しているともいえるな。
新しく分かった情報としては、エンチャント技系にリチャージタイムが追加されたこと。
そのほかにもリチャージタイムが追加されたスキルが多いこと。
剣士系のいくつかのスキルの詳細が分かったこと。
リビリオンの首飾りはなかなかのレア率であったこと。
AIがすごいと思っている人が結構いること。
宿屋での熟練度成長率減少のリセットの条件の詳細が広まっていること。
スタダ組のLvが15を超えていること。
大人用紙オムツ会社の株がまた上がったこと。
ポータル移動には金がかかって一回50cだということ。
ぐらいだろうか。
有益な情報もいくつかあってなかなか有意義な時間だった。
さて、今が大体夜の11時ぐらいか…
ログオフして3時間ほど仮眠を取ろう。
明日も平日であるから、起きたころにはこの人入りも一段落していることだろうしな。
俺は、宿屋で一端VRからログアウトし、現実に戻ってきた。
そのまま3時間後にアラームをセットして仮眠を取る。
ここで、朝まで寝してしまうとおきたときガッカリするので注意が必要だな。
□□□□□□□□□□□□□□□□
無事に仮眠からおきることができ、大体時間は夜の2時ほどだ。
ベットから這い出した俺は、眠気を覚ますために熱めのお湯でシャワーを浴びる。
その後、ありあわせの材料でメシをでっち上げて食べる。
うまくも無いがまずくもない。
メシを食べ終えて、腹が落ち着くまで携帯端末で匿名巨大掲示板にアクセスする。
やはり此方では余り情報が流れていないようだ。
多少あったとしても、ゲーム内の掲示板ですでに紹介されているようなものだった。
俺が書き込んでもいいのだが、めんどうだし、時間がもったいないのでやめておく。
多分俺のような思考をするやつが多いから、あちらに情報が流れていないのであろう。
そんなことをやっていると大体2時半ほどになった。
腹も落ち着いたので早速VRに接続して、RtGoにログインする。
降り立った先はログアウトした場所であるところの宿屋の中だ。
この宿屋は一日15cだと言っていたが、24時間という意味なのだろうか?
そう考えると大分安く感じるな…
少なくとも俺は後数回は利用するだろうし。
そういえば、ログアウトした状態で宿屋の制限時間が着たらどうなるのだろうか?
ポータルに飛ばされるか、そのまま宿屋に出て一回出るまでは居られるのかどちらかか。
まぁ、そう大した問題ではないし忘れることにしよう。
さて、あたらためて此方の掲示板を確認するが寝る前とさして変わった情報は無かった。
ふむ、活動を開始する前に武…いや、ベリトがどうしてるか確認してみるか。
俺はステータスボードを呼び出し、コンタクトページを表示させてチャットを開始する。
『こちら、ジスティア。今、仮眠から復帰した。そっちの調子はどうだ?』
『まぁ、ぼちぼちだな。3-4になったぞ』
『お前…、それは早くないか?第一、おまえ支援職だろ。どうやってあげたんだよ』
『道歩いてたら優しいお兄ちゃんが回復剤いっぱいくれたから、がぶ飲みしながらリビ狩ってた。
つーか、それに関してはむしろお前が遅いだろ』
なんと言うことだろう…。
俺はやはり友達としての関係を見直さなければならないようだ。
対応する声が冷たくなるのもしょうがないだろう。
『ネカマめ』
『いや、俺はネカマじゃねーから!』
『その行動のどこがネカマじゃないんだよ。このロリコン女装趣味』
『ネカマじゃねーっつってんだろ!
…いや、さっきのは冗談だって。装備そろえてあまった金で回復剤を買ったんだよ。
んで、回復剤使いながらリビの牙が出るまでがんばって倒して、門番のクエ終わらせたあとは街の中でお使い系クエストこなしてあげたんだよ!
あと俺はロリコンじゃない!』
『どうだか。とりあえず、今の姿を鏡で見てから言い直せ』
『嘘じゃねーよ! 証拠に俺の信仰だけ妙に高いだろ?
なんか、神様が言うにはいっぱい人の役に立つ行動をしたのを評価するとか言ってあげてくれたんだよ!』
『ほう、なかなかによく出来た言い訳だな』
『嘘じゃねーって!
正直、回復剤が切れる前にリビの牙が出なかったらお前を呼び出そうと思ってたんだぞ!
はじめから入ってた5本の傷薬のおかげで何とかなったけどな。
第一リビの狩り場はいも洗い状態で、回復剤がぶ飲みだろうがまともな狩りにならなかったんだぞ』
どうやら嘘では無さそうだな。
友人関係を考え直さなくても良いようだ。
『分かった分かった。最初から疑って無かったよ。お前はちゃんと一線は守る男だと信じてたよ』
『さっきの声は本気としか思えなかったがな』
まぁ、本気だったしな。
『で、感想はどうだ?』
『よく出来てると思うぞ。一週間自主休講する程度には…な』
皮肉げに言ってくるが、その程度はなんとも思わん。
『そうか、なら当分一緒にプレイできるな』
『…、まぁ、そういうことだな。どうする?合流するか?』
『そうだな、お前今どこにいるんだ?』
『シャルライラの神殿だな。今階位あげたところだ。大体、南門の近くかな』
『なら、南門の倉庫前で集合しよう』
『倉庫って?』
『南門の前にデカイ箱が置いてある。その前だな』
『ああ、あの箱か。了解。今から向かうよ』
行き先も決まったことだし宿屋を出て南門に向かう。
だが、歩きながらでも話せるのがボイスチャットのよい所だ。
『階位上がったんだろ。大体どんな感じにしたんだ?』
『どんな感じっていわれてもな。回復系に必要そうなものを適当にとっただけだぞ。
ステータスは、INT=MNDだな。そのうちDEXも伸ばさないといけないだろうが、 現状じゃ詠唱のあるスキルを取ってないから後回しだ』
『詠唱とDEXに関係があるのか?』
『まぁ、簡単に言えばDEXが高いと詠唱を短縮してもよくなる。それと、口が回るようになるらしい』
『へぇ、それでスキルは?』
『魔器修練、ヒーリング、湧き上がる精神の三つだな。現状じゃ、後ろでヒールするぐらいしか戦闘には貢献できんぞ』
『十分だな。今の俺の狩りは半分以上が自動回復待ちの時間だ。お前と経験点を半分にしてもおつりが来る』
『お前…、人を歩く回復剤扱いとは、えらくなったもんだな』
『事実、それしかできないだろうが。心配しなくてもお前の成長には期待してるよ』
『残念ながらVRだから、これ以上胸は大きくならんぞ』
『お前は…、…相変わらず面白い脳みそをしているな。このロリコンが』
『ロリコンじゃねぇっつってるだろうが!この鳥頭が!』
『どうだか。とりあえず、今の姿を鏡で見てから言い直せ』
馬鹿話を続けながら集合場所に向かう。
『まぁ、お前がロリコンなのは置いておいて、装備なんかは整えたのか?』
『俺はロリコンじゃねぇ! …まぁ、装備は一通りそろえたぞ。
あ、そうだ。お前の言って店に行ったらほんとにおまけしてくれたぞ。
このゲーム、力を入れるところを明らかに間違えてるだろ』
『へぇ、一応あの後に店に行ったからよろしく言ってはいたんだが…。このゲーム、力を入れるところを間違ってるな』
『全くだ、会話してるとNPCだということを忘れそうになる』
『俺はもういっそNPCと思わないことにした。運営も其れを望んでるだろうしな』
『まぁ、それが賢いかもな。てことで、装備は一通りだな。クエスト報酬で金も結構たまったからさっき買い足したばっかりだ。
当分はこれで大丈夫だろ。お、俺は倉庫前に着いたぞ』
『俺ももう少しだな。ちょっと待ってろ』
すこしして、俺も倉庫が遠目に見えるあたりまでたどり着いた。
よく見ると、倉庫箱の近くで暇そうに杖をいじっている深い藍色のローブを来た女の子がいるのが分かる。
年のころ14歳ぐらいだろうか、腰ほどまである紫がかった綺麗な銀髪を首の後ろで纏めて流し、綺麗な青い瞳をもつ小さな顔がバランスのよい体の上に乗っている。
その少女は俺が近づいたのに気づくと、こちらに向かって太陽のような満面の笑みを浮かべ、手を振って存在をアピールして来た。
その姿は通りがかった人が思わず一端足を止めてしまうぐらいにはかわいらしい。
そう、見 た 目 は とてもかわいらしい。
俺はそれに手を振り返すような愚行を犯すような真似はせず、仏頂面のままそこに近づく。
ちなみに俺の容姿は黒髪黒目で現実から余りいじってないような十人並みだ。
彼女は、一向に急ぐ気のない俺に焦れたのか俺の方に自分から近づくことにしたようだ。
手を振るのをのやめ、胸に抱いた大きな杖で走り難そうにしながら此方によってくる。
一生懸命走っているように見えるその姿もまた可愛らしい。
注目を集めていた彼女が走り始めてその方向を見、その目的地が俺であることに気づいた男どもが俺に殺意のこもった視線を向けてくる。
そんな男どもに俺は声を大にしていいたい。
――こ の 中 身 は 男 だ !
俺の下にまでたどり着いたベリトが、息を整えている様子は確かに可愛らしい。
が、中身を知る俺にそれ以外の感情が沸くはずもない。
というか、こいつがロリコンの女装趣味でないとしたら、そのカテゴリーに当てはまるやつはいないと思う。
俺にガンを飛ばしてくる男どもももう少し考えろと言いたい。
VRの姿はおおむね現実の姿をベースにするのが一般的だが、ここまで作ってるのが分かるキャラもそうそう居ないだろうが。
ちなみに、この姿を知ってるから最初にあったお兄さんに回復剤を貰ったという話を即座に信じたわけでもある。
全くもって男は馬鹿ばっかりだな。