首飾りのおかげで狩りの回転数が早くなった俺は調子よくリビリオン狩りを続ける。
倒した後に残るアイテムをいつもどおり拾おうとして、いつもどおりでないことが起こった。
近くをフラフラ飛んでいたチェンパーが、いきなり機敏な動きで近づくとアイテム掴みあらぬ方向へ飛んでいこうとする。
――ルートモンスターか!
そういえば、奴はルートモンスターだった。
ルートモンスターとは、地面に落ちているアイテムなんかを持ち去ってしまう甚だ迷惑なモンスターだ。
まぁ、倒したときに何処かで手に入れたものも一緒に落とすかもしれないので夢があるといえばそうなのだが、もって行かれた方としてはとても悲しい。
唯でさえ金銭効率が悪いリビリオンだ。ドロップを持っていかれてはたまらない。
しかも、今もっていかれたのは一番高く売れる皮だ。
俺はあわてて飛び去ったチェンパーを追いかける。
何とかチェンパーに追いつき一撃を与える。
これでとりあえず自分に向かってくるはずで逃げられることは無いだろう。
あせった心を落ち着けて、こちらに向かってくるチェンパーに相対する。
先に仕掛けてきたのは向こうだ。
流石に空を飛んでるだけあって動きが機敏である。
これは攻撃を当てるのは大変かも知れない。
クリティカルや突きを狙うのはやめ、柄をつかった打撃を中心に立ち回るべきだろう。
チェンパーの攻撃をギリギリで避けると、強く握った槍を振り回して殴りかかる。
しかし、敵は変則的な軌道を描いて槍を避けた。
予期していた反動が無かったため、上体が槍に流され隙を晒してしまう。
チェンパーはその隙を見逃さず体当たりをして来る。
とっさに体をずらしクリティカルこそ回避したが、ダメージを受けてしまった。
攻撃力が低いのか、そこまで大きなダメージでないことが救いだ。
再度俺は、槍を振って殴りかかる。
今度は避けられても良いように加減したため、向こうも余裕を持って避けたようだ。
そこで俺は無理やり槍を止め、敵が避けた方向に槍を跳ね上げる!
流石にこの動きは意表をついたのか、槍はチェンパーを見事に捉えた。
不安定な体勢からの一撃で倒しきることは出来なかったが打撃のおかげで奴は怯んでいる、次の一撃で決められるだろう。
我ながら今の一撃はうまくやったと思う。
これもVRゲームならではの醍醐味である自由度の高さだろう。
確実にしとめるよう気合を入れ、力を込めて槍を振り下ろす。
だが、突然背中に強い衝撃を受けて踏鞴を踏み、攻撃が外れてしまう。
―なんだ!?何が起こった!?
予想外の事態に混乱し体勢を立て直すのが遅れる。
その間に怯んでいたチェンパーは体勢を立て直してしまった。
チェンパーはそのまま俺に体当たりを行ってくるが、体勢が崩れたままの俺に出来るのは苦し紛れに篭手でブロックを試みることぐらいだ。
幸いにして、ブロックは成功しダメージを減らすことは出来たが、安心するまもなくまたも横から衝撃を受ける。
―くそ!一体なんなんだ!?
まったく状況がつかめず、反撃の糸口が見つからない。
とりあえず現状の把握が最優先だと思い、勢いに逆らわず地面を転がっていったんその場を離れることにする。
転がった先で立ち上がり振り返るとそこには2匹のチェンパーがこっちに向かって飛んできているところだった。
―しまった!リンク効果の援軍か!
リンクモンスターとは通常時はノンアクティブだが、近くで同種のモンスターが戦っていると救援に来る性質を持ったモンスターだ。
手を出したときに回りにいないのを確認したつもりだったのだが、あせっていたため見逃したか、あるいは戦闘中に寄ってきたかのどちらかだろう。
そのまま突進してくる二匹に対し一匹の攻撃は避けるものの、もう一匹の攻撃を食らってしまう。
さらに最悪なことに、いったん目を離したためにどちらがダメージを与えていたチェンパーかが判別できない。
さし当たってどちらかを落とさないと、このままどんどん敵が増えることになる。
そうなれば、いくら攻撃が軽いとはいえすぐにダメージが蓄積してしまうだろう。
スタミナ曲線の効果で50%を切ればもはやまともに戦うことも出来なくなる。
VITに振っていない俺はスタミナ総量も低い。
先ほどから何発がもらっているためリミットも近く、まさに危機的状況だ。
まず俺は袋から傷薬を取りだし使用する。
その間に二匹のチェンパーの攻撃を食らうが薬の回復量のほうが多く、さし当たっての危機を回避する。
次にあてずっぽうだが狙いを一匹に定め、渾身の力で槍を振るう。
後の回避を考えずに振るった槍は一匹を見事打ち据えることに成功する。
しかし、そいつは新しく入ってきた方だったらしく倒すには至らない。
追撃をしてしとめ切ろうとするがもう一匹の横槍が入り、避けられてしまう。
もう一度、二匹の攻撃に甘んじながら傷薬を使う。
その上で再び攻撃を行うが今度は避けられてしまう。
再び2匹に攻撃を受け、薬で回復した分が飛んでいく。
しょうがないので、また薬で回復して被ダメ覚悟の攻撃を敢行する。
この攻撃が当たらなければ、また傷薬を使うはめになるだろう。
幸いにして俺の振るった槍は何とかチェンパーを捉え、一匹を始末することが出来た。
思わす安堵の息を吐く。
しかし、後一匹残っている。油断は出来ない。
俺は残っている一匹に向き直って構え直し…
…またも背後からの衝撃に体勢を崩された。
―くそが!また追加か!
心の中で盛大に毒づきながら、二匹ともを視界に入れるために横に移動しながら後ろを視界に入れる。
新たに開けた視界に入ってきたのは、憎たらしい援軍のチェンパーではなく…
…唸る木槌とそれに打ち据えられ弾け飛ぶチェンパーの姿だった。
予想外の出来事に、思考がとまりかけるが敵は一匹ではない。
援軍がいなくなったのなら好都合だ。
残る一匹に改めて向き直ると、こちらに向かって突進してきたところだった。
攻撃を何とか回避することに成功し、こちらに向かって方向転換をしているチェンパーに槍を叩き込んだ。
その一撃で何とかしとめ切れたらしく、チェンパーは地に落ちた。
とりあえず戦闘が終了したのを確認して構えをといてへたり込む。
そんな俺に、鈴の転がるような澄んだ声が話しかけてくる。
「危なそうだったから手を出しちゃったけど、余計なお世話だったらごめんね?」
それは、先ほど見たラビリオンを一方的に撲殺していた槌使いの女性だった。
「師匠…」
「え?ししょう?」
「あ、いえ、なんでもないです。危ないところを助けてもらってありがとうございました。
おかげで何とか凌げたようです」
「そっか、横殴りで怒られたられたらどうしようかと思ってたんだ。助けることができて良かったよ。
お互いなかなか大変そうだけどがんばろうね」
「あ、はい、がんばりましょう」
それじゃね。と声を最後に師匠は離れていった。
予想外の事態に思考がもれて思わず師匠と呼んでしまった。
本人は気に留めてなかったようだが、気づかれていたらと思うと顔から火が出そうだ…
とりあえず、周りに散らばっているチャンパーのドロップを回収する。
彼女が仕留めた分も落ちたままだったがいまさらそれを渡すだけに追いかけるのも変な話だ。
まぁ、ここはありがたく頂いておこう。
この乱戦のきっかけとなったリビの皮もしっかりと回収し袋に入れる。
袋の中身を確認すると結構な数の素材が集まっていた。
今の一件で回復剤もだいぶ消費してしまったしそろそろ街に戻るころあいかも知れない。
結構な数のリビリオンを狩ったことだし階位も上がっているだろう。
サービス開始からずっとやってるにしては階位の上がりは遅いほうだろうが、その程度もともとの覚悟の上だ。
幸い、同じ敵を狩るのはそう苦痛に感じる性質ではない。
じっくりと育てていこうと思う。