防具屋を出たあと、南門に向かう。
道具屋によってアイテムを買った後はそのまま狩りに行くことにしよう。
暫くして、門の近くまで来た。
聞く所によるとここら辺に道具屋があるらしいが…
と、周りを見渡すと探すまでも無く明らかにそれっぽい看板を掲げた店が何軒かあるのが分かる。
折角だし、まずは冷やかしで値段を比較してみよう。
3軒ほどはしごした結果、防具屋の爺さんの言うとおりほぼ値段に差は無かった。
どこで買ってもさして大差なかったので最後に見た店で、初級傷薬を6個、念のための解毒薬を1個買って所持金が尽きた。
厳密には残り1cである。前回出発時よりも金が無い。
ちなみに、道具屋の主人は非常に丁寧な対応をしてくれた。
こんな激戦区では当然かも知れないが、何処かの爺は見習ってほしいと思う。
さて、装備の強化をしアイテムも補充したことだし、昼間よりも楽にかれるだろう。
何匹かリビを狩って新しい装備の感触を確かめたら、他のモンスターに挑戦するものいいかもしれない。
門を潜って外に出ようとすると、またしても門番の兵士が声をかけて来て止められた。
「お、お前はリビの討伐を請け負ってくれた旅人だな。
夜に街の外を出るのは危険だぞ?
昼にはいないモンスターも出現するだろう。
また、多くのモンスターは昼に比べて活発になっているだろう。
外に用事があるのなら、無理をせず朝まで待つことをオススメするぞ」
もはや、定番となった説明台詞のようだ。
用はモンスターが強くなっているから気をつけろということだろう。
ついでに昼に居なかったモンスターも登場するということか。
しかし、このゲームは現実の時間に合わせて昼夜が起こるようになってるわけだが、決まった時間しかログインできないプレイヤーから文句が出たりしないのだろうか?
VR内での日照タイミングが現実と著しくずれると、現実に戻ったときに体調を崩す可能性があることはVR黎明期から示唆されてきた。
そこまで行かなくても、寝不足や不眠、ストレスの増大など細かい影響は避けられないらしい。
そのため、VRゲームは屋内を活動圏内としたソフトが圧倒的に多い。
屋内であれば、そんなことを考えなくても問題ないからだ。
RPGゲームで言うならダンジョン探索系のゲームがとても多い。
既存のフィールドが存在するゲームも日照の差によるゲーム内での変化はなるべく無いように配慮してある。
光量の差による視界の範囲などはどうしようもないが、敵ステータスの変化などもってのほかだろう。
ましてや、特定モンスターの出現などどうなるか分からない。
運営側はどのようにこの問題に対処するのか非常に興味深い。
ただの思いつきであるだけで、そのうちいつの間にか無かったことにされる可能性も高いと思うが…
まぁ、こういったゲームは夜のほうがログイン率が良くなるのは確かだから夜が優遇されるのは良いのだろうか?
ちなみに、今も周りは暗くなっている。
当然街中なので焚き火や謎動力の街灯などで光はあるが現代社会の不夜城っぷりと比べるべくも無いのは明らかだ。
しかし、なぜか視界は昼と余り変わらないような気がする。
夜であると脳が認識すればそれでよいのは確かだが、VRならではの理不尽さも感じるな。
話を戻すと外は危ないから出ないほうが良いよと言われたわけだが、そんなのことを気にしていてはRPGなんぞやってられない。
兵士に生返事を返して街の外へ向かう。
普通の人間ならこの態度は怒りを買うだろうが、門番の兵士は特に気にしている様子は無い。
街中のNPCなどびっくりするぐらい人間くさいのに、多くの人間がかかわるイベントNPCであるこいつがそうでないのは、何か理由があるんだろうか…?
さて、街の外に出てきた。
早速、モンスターを探すとしよう。
さして探す必要も無く、近くの草むらにリビの姿を発見する。
どうやらまだ此方に気づいていない。
槍を構えてゆっくり近づき、リビに向けて素早く突き出す!
リビは攻撃を始めた段階で此方に気づき回避行動を取り始める。
残念ながら奇襲は失敗したようだ。
リビの反撃を避けることを意識しつつ突き出した槍がリビに大きく傷をつけた。
残心しつつ、足に力をためリビの攻撃に対応しようと構える。
しかし、クリティカルに失敗したはずだがリビは短く声を上げ地に伏した。
俺は驚いて構えを解く。
どうやら、強化したことによってクリティカルでなくても一撃で倒せるようになったようだ。
向こうも夜の時間の効果でステータスが上がってるはずなのだから自分もなかなか強くなったのだろう。
こう自分の成長が目に見える形で現れるのはうれしいものだ。
どうやら、リビは今の俺の敵ではなくなったらしい。
少し街を離れて新たな敵を探すとしよう。
目に付いたリビを虐殺しながら、移動していく。
こういうときに間合いが広い槍は便利だ。
まぁ、虐殺といってもそう対して数が狩れたわけでもない。
なぜなら、同じフィールド内に人が多いからだ。
ステータスボードで確認すると現在夜8時過ぎ。
いわゆるゴールデンタイムに突入している。
注目を集めていたゲームのオープンβ初日に人があつまらないわけがない。
現実で休憩していたときに確認した、某巨大匿名掲示板で血の涙を流していた面々もきっとゲームに参加できて感涙していることだろう。
これから、まだまだ人が増えるだろう。
運営も予想していた様でいくつかワールドを開設していたはずだがそれでも足りなかったようだ。
運営としてはうれしい悲鳴とやつだろう。
はじめから閑古鳥が鳴いているゲームに先があろうはずがない。
リビの屠殺場と化している南門近縁を抜け、まだ余り人が増えていない範囲にたどり着いた。
ここら辺に居るのは、リビが大きくなったリビリオン。
でかくなったハエのようなチェンパーというモンスターらしい。
他にも居るかもしれないがとりあえず見える範囲に居るのはこの二種類だ。
リビリオンはリビが大きくなったといっても常識的なサイズだ。
昼に追い回されたユニークほど埒外な大きさはしていない。
昆虫系はモンスターの定番だが、デカイ姿は生理的に気持ち悪い。
何であのサイズの物体が、あの薄い羽で飛んでるんだよ!と思わず突っ込まずには居られない。
最も、『日本人は竹槍で戦車に突っ込むの訓練をしてるのだ』と海外から揶揄されるところである、某国民的狩猟VRゲームの開発陣は翼があれば何でも飛べると思ってるので、それに比べればましかもしれない。
余談だが、この某狩猟VRゲームの大会優勝者が、大会の帰り道に事故に巻き込まれトラックに引かれそうになったが、華麗な飛び込み前転で難を逃れたというのは伝説になっている。
ちなみに、モンスターの名前はそいつに視点をあわせると頭に表示される用になっている。
さて、まばらに居る人が狩っているのを観察していると、どうやらどちらともノンアクティブであるようだ。
此方が不意打ちを食らうことはないのは非常に助かる。
まずは近くに居るリビリオンを相手にすることにする。
此方に背を向けているのでいつもどおり構え、突きで奇襲を狙う。
しかし、行動を開始した直後に気づかれ奇襲は失敗。
突きはリビリオンの体に刺さるが大きな傷とはいえなさそうだ。
右手で刺さった槍を引きながら、左手を槍から離して弾きやすい体勢を作りつつ回避に備えて足に力を入れる。
リビリオンは前足を大きくあげて殴りつけてきた。
槍を引きつつバックステップでその攻撃を避ける。
離していた左手を槍に戻し構えるが、右手だけでは槍を引ききれなかったため攻撃後の隙を突くことは出来なかった。
両手に持ち直した槍を大きくふるってリビリオンの頭を打ち据える。
これがいい所に入った様でリビリオンがよろけ隙をさらした。
その隙を見逃さず俺はリビリオンの頭に向かって気合と共に槍を突き出す!
槍は見事に頭に刺さり、脳髄を破壊したと思える一撃だった。
会心の手ごたえを感じ、仕留めたと気を緩める。
だが、脳髄などあるわけが無いリビリオンをその突き一つで殺しきれるとは限らない。
ここは現実ではなくVR空間なのだ。
殺しきれてなかったリビリオンは最後の足掻きとばかりに、こちらに向かって猛然と突進してきた。
完全に気を抜いていた俺はとっさに避けることができず、苦し紛れに篭手ではじこうとする。
だが、払おうとした腕は逆に弾き飛ばされ体勢が崩してしまった。
何とかクリティカルは回避できたが、ダメージを受けてしまう。
リビリオンは瀕死であるためか、突進の後に足がもつれて倒れこんでしまった。
その隙に俺は崩れた体勢を立て直すことに成功する。
体に走る痛みを堪えて流されてしまっていた槍をしっかりと握りなおし、踏み込みと共に横なぎに槍を振るう!
穂先が風を切り、立ち上がろうとしているリビリオンに一撃を叩き込む。
その一撃を受けたリビリオンは鳴き声をあげて地に伏せた。
今度は油断せず、俺は残心を意識して構え続ける。
やがて、リビリオンの体が光の粒となり消えていく段になって、俺は漸く構えをといた。
さて、例のごとく回復を待ちながら今回の戦いの反省をしないとな…。