ステータスの上昇が一段落したのでいよいよスキルの修得を行う。
スキルは大きく2つに分類できる。
パッシブスキルとアクティブスキルだ。
さらにアクティブスキルは技と術の2つに分けることが出来るだろう。
技はスタミナを消費して発動し、術はマインドを消費して発動する。
一方、パッシブスキルはそういった消費を伴う行動ではなく、修得すれば常に効果を与え続けるものである。
アクティブスキルは信仰神によってバリエーションに富んでいて数も多い。
パッシブスキルは信仰神同士で共通のものが多い傾向がある。
また、アクティブスキルの特殊なものとしてエンチャントスキルがある。
術に属するエンチャントスキルは他のアクティブスキルと同じように、マインドを消費して指定したキャラに一定時間継続する効果を与えるものである。
しかし、技に属するエンチャントスキルは少々性質が変わっている。
自動回復が無効になることで発動し、制限時間が無く永続的に効果が続く。
ただし、自分にしかかける事が出来ず複数のエンチャント技を重ねがけることが出来ない。
VIT型では自動回復が止まるのは致命的であるために、あまり人気の無いエンチャント技であるが回避型の俺は有効に使えるだろう。
「スキルとは、信仰を捧げる神の力の一端を借りさまざまな奇跡を起こすことです。
人の身で一端とは言え神の力を借りて行使することは、貴方の体に負荷をかけることでしょう。
強力な力ですが、その反動も大きいので使用する際には注意が必要ですよ。
また、神からの加護をよりいっそう願うものも有ります。
こちらは常に貴方の力になりますし、体への付加も少ないでしょう。
より強い加護を得た身でなければ耐えられない奇跡なども存在します。
まずはより強い加護を得るスキルを覚えた方が良いかもしれませんね」
一応シスターにも確認したがクローズから大きな変更は無いようだ。
細かい調整などは入っているだろうが、シスターはスキルを個別に詳しく説明してくれるわけではないのでそれを知るすべは無い。
ゲーム内外の掲示板で情報を集めようにも始まって間もないこの時点ではさすがに有益なものは少ないだろう。
さらに、俺はマイノリティーなAGI型であるし、情報量が少なくなるのは仕方ない。
とりあえず無難なところから取得していくことにしよう。
俺は階位が3になったので新たに2つ修得することが出来る。
長物修練: 槍、棍の武器攻撃力にプラス補正、武器熟練度にボーナスおよび熟練成長率にプラス補正
足捌き : 回避力にプラス補正。複数の敵に囲まれたときの回避力減少を軽減
この二つのパッシブスキルをとりあえず取得することにする。
多くのスキルは性能が5段階まであげることが出来き、入門、門下、熟練、達人、皆伝と段階をあげるごとに性能が強化されていく。
また、他のスキルの修得に関して前提条件となることもある為、計画的に取得していかないと後で取り返しのつかないことになったりする。
情報がある程度そろうまで温存するのが正しいのかも知れないが、AGI型の情報が早々出てくるとは思えないので振ってしまう。
手探りでやっていくことになるが、それを楽しむためにマイノリティーな型を選んだわけであるし。
とりあえず、この2つなら無駄になることは無いだろう。
足捌きを拾得したことで、回避と攻撃が上昇するエンチャント技が修得できるようになったが、残念ながら信仰度が足りないたので、修得することが出来ない。
しょうがないので次の機会に回すとしよう。
さしあたり神殿でやることを終えたため、武器屋に向かうことにする。
なんだか、神殿に入る前とくらべて一回り強くなった感じがする。
こういう感覚が直接味わえるのがVRPRGの醍醐味だろう。
平面の向こうにいるキャラの数字が上がっただけではこういう感覚は味わえない。
武器屋への道すがら、周りを見回しながら歩く入ってきたばかりであろう人にちょっとした優越感を抱いてしまうのもしょうがないだろう。
彼らも是非がんばってほしいものだなどと上から目線で物を考えて…、自重しようと反省する。
俺もまだ始めてからさして時間がたっていないのだ、彼らはすぐに追いついてくるだろう。
武器屋に着き、中に入ると街の外に出る前に寄ったときと全く同じ場所に店の親父が座って新聞らしきものを読んでいた。
どうも俺が入ってきたことに気づいていないようだ、今度はこちらから声をかけることにする。
「よう、さっきぶりだな」
「ん…?ああ、あんたか。どうした、買った槍に何か問題でもあったか?」
「いや、確かにぼろいが世話になってるよ。特に問題ない」
「そいつぁ、良かった。不良品を売ったとなるとうちの信用にかかわるからな。
しかし、そうじゃないとすると何のようだ?」
「さっき外で狩りをしてきてリビの素材を手に入れたんだが、こういうものは顔なじみを通すといいと聞いたんでな。
あんたのところに持ってきてみたわけだ」
「ほぉ、うちじゃあんまりそういう買取はして無いんだが、とりあえず物を見せてみな」
快活に笑いながらのやり取りだったが、商売の話になったら目の色が変わった。
さすがに大通りに店を構えるくらいだからなかなかやり手の商人なんだろう。
俺は言われるとおり3種類の素材をカウンターに載せる。
「へぇ、毛と皮もそれなりの数あるのか。
なかなかの数を狩って来た様だな…。
…よし、牙は俺が買い取ろう。一本4cで20本で80cといった所だな。
毛と皮は防具屋の爺に持っていったほうが俺より高く買ってくれると思うぞ。
こういったものの相場は大体決まってるんだが、一見の店に持っていくと足元を見られる場合がある。
特にこの街に着たばかりの旅人だと分かればなお更だな。
その依頼主の兵士が買い取ろうと申し出たのはその対策だろう。
一度適正な売値が分かれば早々だまされることもなくなるからな」
「なるほどな…、ところで話は変わるんだが俺が使えそうな槍を見繕ってくれないか?」
「ん?なんだ?やっぱりさっきの槍に問題があったか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、さっき神殿に行って階位も上がったしスキルも得たからな。
俺の使える槍が増えてるんじゃないかと思ってな」
「ほう、確かにあれだけ素材を持ってくれば上がりもするか。加護を得たての癖に無茶をするやつだな。
そういうことなら、武器屋としては願ったりだ。ちょっと待ってろ」
そういって俺のことをじっと見てくる。
親父に見つめられてもうれしいことは何も無いが、熟練度やらなにやらを確認してるんだろう。
はじめてあった時にも一目で加護を受けてないと看過したことだしな。
「む?おまえさん、槍使いにしては熟練度の上がりが早いじゃないか。
訓練所の案山子でもたたいてきたのか?」
「そうなのか?俺は外に行ってリビと戯れてきただけだぞ?」
「ふーむ、もしかしておまえさん元々槍の心得があったりするのか?
そういった場合は自分の意思で体を動かすことが多いから熟練度が上がり易いと聞いたことがあるが」
「俺はいままで槍を使ったことはあまり無いが…。
そういわれると確かに槍を使うときにいろいろ考えて試しながらやってた気がするな」
「じゃあ、多分そのせいだな。なんにしろ熟練度の上がりが早いのはいい事だ。
よし、槍を持ってくるからちょっと待ってろ」
そういっておっさんは奥へと引っ込んでいった。
何気ない会話だったのだが、すごく重要なことを聞いた気がするぞ…
補助機能に頼って漫然と振り回すよりも、ちゃんと自分の動きを意識しながら扱う方が熟練度が上がりやすいということなのだろうか?
言われると確かにありそうな話だが、完全に盲点だった。
これは掲示板なんかで報告した方が良いんじゃないだろうか…?
数本の槍を抱えて戻ってくる親父を見ながら俺は考え込むのだった。
「ここら辺が今のお前に使えそうなところだな。大体1s前後といったところだ」
カウンターに槍を並べながら親父が説明する。
熟練度の件を掲示板に報告するか否かを悩んでいた俺はその声で新しい槍に意識を戻した。
命を預けるものを選ぶのだから真剣に選ばないとな。
俺は5本ほど並んだ槍の中から、今まで使っていた槍と同じようなサイズの物を手にとって見る。
ずっしりと手に感じる重みは今まで使っていた槍と比べるとさすがに強そうに思える。
「ふむ、それが気になるか。
今まで使っていたものと似た大きさだしな、取り回しもさして変わらないだろうし無難なところだろう。
使っていた槍で何か気になったところとかあるか?」
「そうだな…。特に不満は無かったがあえて言うなら切断するような攻撃がしにくい所だな」
「それはこういった直槍ではしょうがないところでは有るな。
薙刀や戟、十字槍なんかだと切断するのも容易になるが、残念ながら今のお前の技量で扱えるものは無いな。
それ以外に不満が無いというなら、その槍で良いだろう。
1sと言いたい所だが、負けて90cにしてやるよ」
そう言って槍をこちらに渡してくる。
金と引き換えにして受け取った槍の手に感じる重みはとても力強い。
「ところで今まで使っていた槍はどうする?
下取りするなら15cになるが」
「いや、予備に持っておくよ。最初に手に入れた武器だから思い入れもあるしな」
「そういうなら無理強いは出来ないな。だが、たまにはそいつも使ってやれよ」
どこと無くうれしそうな顔をして親父は引き下がった。
「ところでこの槍はどこに保管するのが良いんだ?」
「そうだな…。まぁ、うちで預かってやっても良いんだが金は取るぞ。
腰の袋に入れることも出来るだろうが、重いものを入れておくには不向きだしな。
街の倉庫サービスを利用するかのが良いんじゃないのか?」
「倉庫か…。それはどこに有るもんなんだ?」
「中央公園と四方の街門の近くにあるぞ。ここからなら一番近いのは中央公園だな」
倉庫か。そういえば、その手のシステムが無いはずが無かったな。
これからいろいろと物も増えてくるだろうし、確認しておくか。
とりあえず、古い槍は袋に入れておくことにする。
次の目標が決まった俺は、親父に別れを告げ新しい槍を担いで中央公園に向かうことにした。
中央公園への道すがら、宿屋を見つけることが出来た。
そういえば、ゲーム内の掲示板を確認するのは宿屋でしか出来なかったはずだ。
さっき発見した熟練度のことも有るし、少しよって確認してみよう。
中に入るとカウンターに恰幅のいいオバちゃんが座っている。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
「ああ、一泊いくらだ?」
「15cだよ。一週間なら1sだね」
俺は一泊分の金を払い、案内された部屋に入る。
中には質素なベットと机、小さな棚が置いてある。
こじんまりとしているが掃除は行き届いていて、ベットにも洗い立てのシーツが置いてあり気分の良い部屋だ。
小さな棚の上には水差しと小さな花瓶が置いてあった。
俺は懐に入れたまますっかり忘れていた一輪の花を取り出し、花瓶に生けると机に向かう。
この宿屋の部屋でのみゲーム内掲示板の確認が可能だったはずだ。
ステータス画面を表示した透明な板を取り出すとページを切り替えていく。
やがて目的のページが見つかり、早速内容を読むことにする。
やはり、序盤であるので余り活発な意見交換はまだ行われていないようだ。
めぼしい情報が無いか探していくが大した情報が無い。
やがて一つのスレッドにたどり着いた。
熟練度の上昇に関して
1: Aurore 20XX/6/22 15:34:56
宿屋のNPCに聞いたんだけど、ずっと狩りをし続けてると熟練度の伸びが悪くなっていくんだって。
宿屋に泊まって休むとリセットされてちゃんと熟練度が伸びるようになるらしいよ。
2: クルーズ=ジョーンズ 20XX/6/22 15:44:32
その話、マジなのか?
俺も宿屋にいるけどそんな話聞かなかったぞ。
ほんとだとすると宿屋すげぇ重要じゃん!
3: Luda 20XX/6/22 16:01:43
宿屋にいるのはみんな同じだろ、システム的に考えてw
その話聞くと宿屋の重要さがわかるけど、このスレッド見てるってことはみんな宿屋にいるってことだろw
宿屋にとまって無いやつこそ、この情報が必要だとはとんだ皮肉だなw
掲示板を確認するために入った宿屋だったが、なんともまぁ重要な仕様が隠されていたものだ。
街に戻ったときは宿屋によって休むのを心がけた方が良いみたいだな。
いいことを教えてもらったし、さっき武器屋で聞いた話を書き込んでおこう。
4: ジスティア・ネイシー 20XX/6/22 16:23:16
いいことを聞いた。情報提供感謝。
俺からも一つNPCから聞いた話を書いておくよ。
武器を使うと熟練度が上がるわけだけど、動作補助に胡坐をかいて漫然と振り回してるよりも、
ちゃんと自分で考えながら使ったほうが武器熟練度の上がりが良いらしいよ。
俺は槍使ってるんだがいろいろ試しながらリビ狩ってきたら熟練度の上がりが良いって、
武器屋の親父にほめられた。
さて、他にめぼしいスレッドも無いようだから中央公園に倉庫を探しに行くことにしようかと思ったが、
せっかく宿屋にいるので一端ログオフして雑事を片付けることにした。
朝10時にサービス開始だったから、結構な時間入っていたことに掲示板の日付で気づいたというのも大きい。
俺はステータスボードのメインメニューからログオフを選ぶ。
意識が遠くなる感覚に身を任せて夢の世界から戻ることにした。