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No.18136の一覧
[0] もしもあなたが悪ならば(異世界騎士物語)[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:53)
[1] 一章 白騎士1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/05/15 16:30)
[2] 一章 白騎士2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/31 13:51)
[3] 二章 裏切りの騎士1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/09 13:18)
[4] 二章 裏切りの騎士2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/10/26 15:26)
[5] 二章 裏切りの騎士3[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/08 13:39)
[6] 二章 裏切りの騎士4[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/08 13:39)
[7] 三章 女神の盾1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/03 12:43)
[8] 三章 女神の盾2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/29 13:45)
[9] 三章 女神の盾3[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/09 13:16)
[10] 三章 女神の盾4[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/25 12:48)
[11] 三章 女神の盾5[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/13 12:19)
[12] 三章 女神の盾6[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/12/16 11:45)
[13] 三章 女神の盾7[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/27 17:48)
[14] 三章 女神の盾8[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/01/04 13:40)
[15] 四章 黒の王子・白の娘1[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/01/09 15:03)
[16] 四章 黒の王子・白の娘2(一部改訂)[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/27 17:47)
[17] 間章 騎士と主[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/25 11:36)
[18] 五章 黄昏の王[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/07/20 22:25)
[19] 五章 黄昏の王2[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/01/28 14:28)
[20] 間章 王女と従者[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/02 21:42)
[21] 五章 黄昏の王3[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/25 08:40)
[22] 五章 黄昏の王4[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/07/01 11:53)
[23] 五章 黄昏の王5[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/07/01 14:43)
[24] 五章 黄昏の王6[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/09/02 10:17)
[25] 五章 黄昏の王7[ガタガタ震えて立ち向かい](2012/09/03 12:40)
[26] 登場人物設定等[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/17 08:16)
[27] 五章 黄昏の王8[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/09/15 12:26)
[28] 五章 黄昏の王9[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/10/31 16:48)
[29] 五章 黄昏の王10[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/11/01 23:27)
[30] 五章 黄昏の王 終局[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/04 00:29)
[31] 間章 夏戦争の終わりと連合の崩壊[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/11/25 20:01)
[33] 断章 選定候[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/07/07 21:28)
[34] 断章 ロード[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/26 21:29)
[35] 断章 継承[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/09/01 08:25)
[36] 終章 アンファング[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/07/20 22:38)
[37] 第二部 一章 赤の騎士団[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/02 21:37)
[38] 一章 赤の騎士団2[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/02 21:38)
[39] 一章 赤の騎士団3[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/09 01:00)
[40] 一章 赤の騎士団4[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/19 22:33)
[41] 一章 赤の騎士団5[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/19 22:34)
[42] 一章 赤の騎士団6[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/25 01:56)
[43] 一章 赤の騎士団7[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/26 21:28)
[44] 二章 再来[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/30 20:30)
[45] 二章 再来2[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/06 13:06)
[46] 二章 再来3[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/13 12:58)
[47] 二章 再来4[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/20 12:52)
[48] 二章 再来5[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/27 12:03)
[49] 二章 再来6[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/04 14:08)
[50] 二章 再来7[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/11 15:17)
[51] 二章 再来8[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/25 15:03)
[52] 二章 再来9[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/25 15:02)
[53] 三章 王都ルシェロの戦い[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/01 12:34)
[54] 三章 王都ルシェロの戦い2[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/08 12:00)
[55] 三章 王都ルシェロの戦い3[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/21 12:30)
[56] 三章 王都ルシェロの戦い4[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/22 11:45)
[57] 三章 王都ルシェロの戦い5[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/23 19:52)
[58] 三章 王都ルシェロの戦い6[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/24 19:39)
[59] 三章 王都ルシェロの戦い7[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/25 22:42)
[60] 三章 王都ルシェロの戦い8[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/26 20:02)
[61] 三章 王都ルシェロの戦い9[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/27 19:24)
[62] 女神同盟[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:52)
[63] 女神同盟2[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:52)
[64] 女神同盟3[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/29 21:30)
[65] 女神同盟4[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/12/06 21:29)
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[18136] 三章 女神の盾2
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:64249a1b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/29 13:45

 日が傾き、辺りがオレンジ色に染まり始めた夕暮れ時。焼き払われ、焼けた土と肉の臭いが漂う平野にて、千を越える戦士たちが宴を行っていた。
 彼らは巫女の名の下に集った戦士。地獄の悪鬼すらも従える、人と思えぬ一人の王の支配に抗うべく集った、人類の希望。そんな彼らが祝い騒ぐ周囲には、オークやリザードマンといった亜人たちの死体が転がっている。
 その中には少数だが、ドラゴンと呼ばれる存在も混じっていた。そしてそれを打ち倒す事に貢献した者たちは、周囲の者たちに己の武勇がいかに優れているのかを得意げに語る。

 その中でも多くの戦士が集まるのは、赤い騎士を中心とした集団であった。どうすればドラゴンを単騎で打ち倒せるのかと訪ねる若い戦士に、赤い騎士はグッと酒をあおると、笑いながら答える。

「だから、ドラゴンなんて隙を見つけたら懐に飛び込んで、心臓刺せば一発だろ」

 さも簡単そうに言う赤い騎士に、年かさの戦士から「できるわけねーだろ」と野次が飛ぶ。実際ドラゴンの懐に飛び込める者など、この場では赤い騎士を含めて五人も居まい。ましてドラゴンの体を容易く貫ける剣など、世界中を探して十もあるかどうか。
 その内の一である剣を巫女より預けられ、ドラゴンをものともしない武威と胆力を持つ赤い騎士は、皆に認められる英雄であった。そんな彼の元には、憧れから、あるいは下心から、多くの者が集った。

「ん……。悪い、ちょっと便所」

 そう言って赤い騎士は立ち上がり、足早に周囲の人垣をかき分け走り出す。そして人の輪から外れた丘の上へと登った所で、ようやく目当ての人物を見つけた。
 沈みかけた夕日を臨むその姿は、日が落ちるとともに消え去るのでは無いかという儚さを赤い騎士に感じさせた。風に靡く黒い髪が、闇色に染まり始めた空に溶けていくように見える。
 だがその見た目とは裏腹に、その内に激情を抱えるのを知る赤い騎士は、一瞬見とれた自分をごまかすように肩をすくめた。

「相変わらず陰気な奴だな。勝ち戦なんだから、酒の一杯でも付き合えよ」
「貴様は相変わらず陽気だな。人によってはそれが不快だと何故分からん」

 夜の闇を宿したような瞳に睨まれ、赤い騎士は苦笑する。初めて出会ったときに比べれば、随分と優しいものだ。憎悪と殺気に満たされたあれは、早々忘れられるものでは無い。

「おまえ顔は綺麗なんだから、周りの奴らに愛想笑いでもしてやれよ。一気に人気者だぞ」
「なってどうする。人間は騒がしく煩わしい」
「おまえも人間だろ。そりゃエルフに育てられりゃ、人間なんざ煩くてたまんないのかもしれないけどさ」

 赤い騎士の言葉に、黒い剣士は僅かに顔を歪める。虎の尻尾を踏んだかと身構えた赤い騎士だったが、黒い剣士はその顔を悲痛な色に染めると、すぐに顔をそらしてしまった。

「……悪い。無神経だった」
「……いや、良い。外に出て分かった。あんな事は、よくある事なのだろう」
「まあ確かにな」

 戦になれば、悲劇が量産される。たった今火を囲んで騒いでいる戦士たちの中にも、家族や愛する者と死に分かれた者は居るだろう。

「だけどな、よくある事だからって平気なわけがないだろ」
「……」

 赤い騎士の言葉に黒い剣士は答えない。ただ少しだけその背から力が抜けたのを感じ、赤い騎士は安堵したように吐息をついた。

「そういえばあいつとは上手くやってるのか? 同郷なんだろう?」
「知らん。確かに見た目からして同じ人種なのだろうが、私の故郷はあの里だけだ」
「いや、そりゃそうかもしれないけどな。少しは相手してやれよ。泣くぞあいつ」

 情け容赦の無い言葉に、赤い騎士は呆れながら言う。そして振り向いた黒い剣士の顔にも、呆れの色が見えた。

「そもそも、何故異教の神を奉ずる神官が、巫女に付き従っている?」
「何故って、そりゃあいつ個人が気に入ってるからじゃないか? おまえだって仇も同然な俺たちに、協力してるのはそのせいだろ?」
「……さてな」

 笑みを浮かべて言う赤い騎士に、黒い騎士は短く言った。そしてこれ以上相手をする気は無いと言わんばかりに目を閉じる。

「つーかな、あいつを巫女として崇め奉ってる連中以外は、あいつ個人が好きだから、あんな胸糞悪い神官連中と協力してんだよ。巫女が世界を救うだのなんだのってお告げは、俺たちには関係無いのさ」
「……では貴様は何故巫女に従う?」
「誰があんなガキに従ってるって? 危なっかしくて見てられねえから、世話やいてるだけだぜ?」
「個人として……か。ならば忠告しておくが、ガキ等という呼び方は、一人の女性に対して失礼だと覚えておけ」
「ああ、確かに。どうにも会ったときの印象が強くてな。……あいつも、もう大人だよな。そういえば」

 思い出し、変わらぬように見えたその笑顔が大人びたものになっていた事に、今更ながらに気付く。出会った当初から保護者気分であったがために、気付けなかったのか、あるいは気付こうとしなかったのか。
 
「一人前の女として扱う……か」
「言っておくが、妙な真似をしたら叩き切るぞ」
「おお、恐い。おまえも結構変わったな」
「かもしれんな」

 そう言って赤い騎士は笑い、黒い騎士も口元に微かに笑みを浮かべた。





 少々窮屈なベッドの上で、コンラートは目を覚ました。教会の裏手にある井戸で顔を洗い戻れば、クロエでは無くコンラートと同じ年頃の神官が出迎える。この教会を切盛りするその神官は、コンラートに気付くと愛想よく笑い、朝食の用意をしてくれた。
 出されたスープは豆ばかりの質素なものであったが、香ばしい臭いを漂わせるパンは焼きたてらしく、手で裂けば糸を引くのではというほど弾力があった。それをわざわざ自分のために用意してくれたのだと思うと、コンラートは自然頭が下がる。それを見て神官は目を丸くすると、「これも私の仕事ですので、遠慮せずどうぞ」と朗らかに笑った。

「ところで、クロエ……殿はどちらに?」

 食事が終わり人心地ついた頃に、コンラートは姿の見えない若き神官の名を出した。敬称をつけるべきか迷ったが、神官としての身分があるならば気安く呼んでいいものでは無い。いささか間が空いてしまったが、目の前の神官は気にした風も無く、コンラートの質問に答える。

「クロエ司教ならば、鍛錬をすると言ってどこかへ行かれました。すぐに戻られるかと」
「なるほ……クロエ殿は司教なのか?」

 聞き流しそうになったクロエの呼び名に、コンラートは違和感を覚え問いかけた。
 神官の階位には厳密には司教、司祭、助祭の三つしかなく、枢機卿や大司教といった役職にある者も階位の上では司教となる。そして大司教でなくとも、司教の階位を持つならば、一つの教区の管理を任せられるはずだ。
 一つの教会を任されるのならばまだ在り得る。だが教区の大小の違いはあれ、他の神官をまとめなければならない地位を、例え有能であっても、年若い神官に与えるものだろうか。

「コンラート殿のおっしゃられているのは、教区司教ですね。クロエ司教は修道司教……その能力と信仰の証、神聖魔術の使い手として優れていると認められ、司教の叙階を与えられたそうです」
「そのような制度があるのか」
「元は魔物や異端狩りを行う方々に、一定以上の権限を与えるために始まったそうです。もっとも、過激な思想の方も居り問題になっていますが」

 教会の恥。そう神官は言い捨てたが、それは仕方の無い一面もあるのだろうとコンラートは思う。
 魔物はともかく、異端というのは外道に堕ちた魔術師の類だ。人間を狩るなど、正義感だけでやれる事では無いだろう。言い方は悪いが、汚れ役も必要だ。
 しかしあの子供とも言っていい歳の神官に、果たしてそのような役目が全うできるのだろうか。

「ああ、クロエ司教が戻られたようです」

 立ち上がった神官を目で追えば、その言葉の通りにクロエが扉を開けて入って来る。頭を下げて何事かを伝える神官に、クロエは頷きながら耳を傾ける。堂々としたその姿に、コンラートは感心し、己の若い頃と比べて苦笑する。

 騎士となった後に、世話になった兵士長に何度へりくだるなと注意されただろうか。騎士というのは単に武を振るえば良いという存在では無く、他の兵を纏める役割を担っている。傲慢であってはならないが、必要以上に遠慮して下の者に侮られては勤まらない。
 理解はしていても、平民出のコンラートには厳しい要求であった。今ならば周囲に侮られる事は無いだろうが、それは己の実力と経験に裏打ちされたものであり、立場を弁えた故と言うには弱い。
 そういう意味で、ゾフィーは立場に足る威厳を既に持っていた。コンラートの能力や実績を評価しつつも、決して自らの上には置かない。人の上に立つ者の振る舞いを崩さなかった。それは資質だけでなく、生まれついての王たる彼女の立場故だろう。

 それではクロエはどうなのだろうか。コンラートのように経験に裏打ちされるものが無い以上、やはりゾフィーと同じく生まれついてのものなのか。
 そう思いながらコンラートがクロエを見守っていると、神官が何事か謝るのに対し、慌てたように頭を下げ返していた。それを見て、コンラートは口元がにやけるのを自覚する。
 どうやらクロエも、司教という自分の立場を演じきれてはいないらしい。それが分かると、親子ほども歳の離れた司教殿に親近感がわいた。





 ゼザの山を貫くように存在するという遺跡は、町からそう遠くない、何の変哲も無い岩陰に入り口が隠されていた。杖を手にしたクロエが開錠の呪文を唱えると、重い音をたてて黒く巨大な岩が左右へと割れていく。

「まるで子供向けの昔話だな」

 コンラートは呟き、中へと入るクロエの後ろへ続く。昔話ならば、秘密の呪文で開く扉の中には宝物があるものだが、果たしてこの遺跡には何があるのか。

「探せば宝もありますよ。ここはお墓ですから」
「墓?」

 コンラートが聞き返したのにクロエが頷いた所で、二人の背後で独りでに岩戸が閉じ始める。徐々に太陽の光は削られ、周囲が闇に落ちそうになるが、クロエが壁の何かへと触れると辺りに光が漏れ始めた。

「……石?」

 急激な光度の変化に目を薄めながら、コンラートは光の発生源を見やった。波を複雑に交差させたような装飾の施された壁。その壁に二、三歩ほどの間隔ごとに、光を放つ石が埋め込まれていた。

「光を蓄え放出する石です。もっとも、ここでどうやって光を蓄えているのかは、誰にも分からないそうですが」

 クロエがコンラートの疑問に答えるように言い、遺跡の奥へと歩き始める。その後を追いながら、コンラートは遺跡の通路の細さに辟易しそうになった。
 通路の幅は、壁際から手を伸ばせば反対側の壁に手が付くほど狭い。クロエのような小柄な者ならともかく、コンラートのような大男では、壁際にへばりつかないとすれ違う事すらできないだろう。不幸中の幸いは、天井がコンラートの背の倍はあることだろうか。
 はぐれる心配が無いのは良い事だが、万が一襲われるような事があれば、満足に剣を振れそうに無い。クロエの言う通り襲撃が無い事を、コンラートは祈った。

「墓というのは、一体誰の? 山を横断する程の大きさならば、さぞ立派な御人の墓なのだろうが」
「人ではありません。ここは黒き民に信仰されていた、太陽神の墓です」
「神の……? ではこの遺跡が作られたのは」
「千余年前。まだ一つだった世界が、四つに別たれた時代です」

 千年。一つの言葉にしても遠く感じるその時代は、神に愛されたという巫女が伝説を遺した神話の時代だ。
 そしてその時代には、様々な神が各地にて奉られ、今日において世界中で信仰されている女神も、一部地方で信仰される土着の神にすぎなかったという。

「黒き民というのは、私のように黒髪黒目の一族の事です。本来ならば、北大陸の多島海と呼ばれる地域に住んでいます」
「随分と遠い。何故このような異国の地に、信仰する神の墓を建てたのだ?」
「一族の一部は、巫女と共に各地を巡り、魔の者との戦いを手助けしたそうです。しかし聖戦の終結と同時に世界は裂け、砕かれ、別たれた」
「世界が砕けた……か。何とも信じがたい話だな」

 四つの大陸は、かつて一つの世界だった。しかし巫女と魔の者共との戦いの結末において、天に届くほどの巨大な魔神が呼び出され、神々を屠った。そしてその魔神は巫女たちに打ち倒されたが、その力の余波は凄まじく、世界を四つに砕いたという。

「結果彼らはこの南大陸へと取り残され、故郷へ帰る術を失った。故郷の人々に、信じる神が死んだ事を伝えられなかった彼らは、せめて自分たちの手で神を慰めようとした。太陽神の御霊が天へと昇れるように、天へと向かう山に墓を作り」
「なるほど。しかしそのような場所に、俺のような者が立ち入って構わないのか?」

 話を聞く限り、ここは墓であると同時に聖域でもあるのだろう。クロエは黒の民の一族なのだろうが、部外者であるコンラートが、おいそれと踏み荒して良い場所だとは思えない。

「構いませんよ。この大陸に居る一族は、今や私を含め数人だけ。文句を言う人間は居ません。他の大陸と容易に連絡が取れるようになってからは、北大陸の方々にも墓の存在は知らされましたが、元々ひきこもりな気質なので、わざわざ参ってくるような人は皆無です」
「……そうか」

 勿体無いと、コンラートは思った。
 周囲にあまり存在が知られていないという事は、ゼザの街が今よりも小さかった頃に、外部の者たちの手を借りず、黒き民たちはこの墓を建てたのだろう。そして建造物の知識の無いコンラートでも、この墓がかなりの手間をかけて作られた事が分かる。
 どれほどの労力と年月をかけて、この墓は作られたのか。どれほどの思いを込めて、彼らはこの墓を作ったのか。
 人々にこの墓の存在が知られず、また彼らの意思も忘れ去られてしまうのは、コンラートにはとても残念な事に思えた。





 通路はどこまでも伸び、同じような景色ばかりが続いた。時折見られる分岐点も、クロエは迷い無く進み、案内役を黙々とこなしている。
 コンラートはそれほど口数の多い方では無く、自然両者の間に会話は少なくなった。ただコンラートが何か疑問を抱き口を開けば、クロエは打たれた鐘のように素早く応えてくれた。

「クロエ殿は、赤い騎士について詳しいだろうか。巫女に付き従った英雄だと、寝物語に聞かされたのだが」
「赤い騎士……ローラン王国の騎士ですね。巫女の下に集った勇者たちの中でも、最も勇敢な戦士であり、戦場では自ら先陣をきることにより巫女の身を守ったと言われています」

 その短い説明の中に、既に知らない情報が含まれており、コンラートは自分の知識があてにならない事を思い知った。
 コンラートが知るのは、赤い騎士の戦場での活躍を断片的に語った英雄譚だけ。赤い騎士がどのような立場にあったのかすら、まったくと言っていいほど知らない。

「教会の聖典の中では、一騎当千の兵であり、礼節にも気を配った騎士の中の騎士であると記されています。しかし民間レベルで伝わる話の中では、気さくで巫女に対しても気安かったというものもあります。教会の影響の少ない地域ほど、その手の伝承が多いので……まあそういう事なのでしょう」

 最後は言葉を濁したクロエだが、要は教会による情報操作があったという事なのだろう。
 夢の中での赤い騎士の言動を思い起こし、コンラートは納得し、だがすぐに馬鹿馬鹿しくなり苦笑した。己の曖昧な妄想とも言える夢を基準に、英雄を語るのは失礼だろう。

「詳しくは、ピザン王家の方のほうが詳しいかと。ピザンを建国したのは、赤い騎士の妹にあたる方ですから」
「そうなのか?」

 予想外の情報が、ある意味身近な場所にあることを知り、コンラートは驚いて聞き返していた。そもそも、赤い騎士に本当に妹が居た事すら知らなかった。案外あの夢も、まったく的外れなものでは無いらしい。

「そのために、リーメス二十七将に数えられたクラウディオ王子は、一部で赤い騎士の再来と謳われたとか」
「ああ。だが本人が……少しらしからぬ性格であったからな。どちらかというと、クラウスの方が赤い騎士の再来に相応しいと、周囲に言って聞かせていた」

 しかし赤い騎士が本当に気さくな人物であったのなら、確かにクラウディオはその再来と呼ぶに相応しいと言える。案外コンラートも、クラウディオをモデルにしてあんな夢を見ているのだろうか。

「クラウス・フォン・ヴァレンシュタインですか。リーメス二十七将の一人であり、祖父の代に爵位と領地を失った没落貴族。その活躍から爵位の返還が検討されたものの、大戦末期のロートヴァント逃亡戦において戦死したとか」
「……君は学者でも志しているのか?」

 若干の疑念を抱きながらコンラートは問うた。二十七将の一人に数えられているものの、終戦を待たずして亡くなったクラウスの知名度は低い。あと数十年も経ち、関係者が全て死んで全てが歴史として語られるようになれば違うのかもしれない。しかし今の時点では、クラウディオやコンラートといった存命している者の方が、人気も知名度も高いのが現状だ。

「学者肌ではありますが……キルシュ防衛戦に詳しいのは、知り合いのせいでしょうね。どういうわけか、知り合いに二十七将が数人いるので」
「何? ……ジレントといえば『埋葬』で知られる魔術師フローラ殿だが」
「そのフローラさんです。あとは『鉄拳』ロッドさん。素手で鎧を打ち抜ける、コンラートさんと並ぶ非常識の塊です」
「……俺は非常識か?」
「甲冑着込んだ兵士を片手でぶん投げたと聞きましたが?」

 否とは言えなかった。むしろ当事立ち回りが下手だったコンラートは、周囲を引かせるために、その怪力を誇示するような行動を多用した。敵兵を掴んで他の敵兵に投げつけた事など、幾度行ったか覚えていない。

「だが素手で甲冑を貫くよりは常識の範囲内だろう」
「どちらも常識の範囲外です」

 冷たいとすら思える断言に、コンラートは呆気にとられ、すぐに苦笑した。礼儀正しい神官だと思っていたのだが、存外に容赦が無い。
 そもそも、キルシュ防衛戦には多数の魔術師――歩く非常識が参加していたのだ。その中で、コンラートやクラウディオといった騎士や戦士は二十七将に数えられた。そんじゃそこらの非常識では、太刀打ちできない程度には非常識に違いない。

「……やってくれる」

 突然足を止め、クロエが唸るように呟いた。コンラートからは後姿しか見えないが、その背中から立ち上る怒りにも似た気配が、尋常でない雰囲気を感じさせる。

「どうした?」
「……何でもありません。先を急ぎます」
「先を急がなければならない事態だという事か?」
「……」

 重ねて問うたコンラートの言葉を無視するように、クロエは歩き始める。コンラートはその拒絶ともとれる姿に戸惑い、後ろを追従しながらどうしたものかと考える。
 本人が何でも無いと言っているのだから、例え何かがあるのだとしても触れるべきでは無いのかもしれない。コンラートに不利益があるようならば、クロエは素直に事情を話すだろう。放っておいても、特に問題は無い可能性が高い。
 しかしクロエの今の様子からして、クロエ自身には大問題が起きている可能性もある。それを放っておくのも、個人的には気分が悪い。

「推測だが、現在この墓を管理しているのは君なのだろう。もしかして墓に異常があれば、君にはわかるようになっているのではないか?」
「……ええ」
「ならば、俺に遠慮せずその異常を解決すると良い。俺に手伝える事があればそうしよう」
「……しかし」
「遠慮無しというのは問題だが、遠慮するなと言っている相手にまで遠慮する必要は無い。特にそれが年長者ならばな」

 慎重に言葉を選びながら、コンラートは言った。要は子供は遠慮するなと言いたかっただけなのだが、そう言うとクロエは子供扱いするなと反発する気がしたのだ。
 果たしてそれは正解だったのか、立ち止まって振り返ったクロエの顔は、不満と諦観が入り混じったなんとも不思議なものになっていた。

「姉さんといいロッドさんといい、何故私の周りにはお節介な大人が多いのでしょうか」
「それは君が素直で人の話をよく聞くからだろう。年寄りは忠告を受け入れてくれる若人を好むものだ」
「……私は自他共に認める捻くれ者なのですが」

 クロエはそう言ったが、コンラートの言葉にも納得できるものがあったのか、その顔には苦笑が浮かんでいた。

「墓の中心部、太陽神の祭られた祭壇に複数の侵入者が居ます。汚れたものを感じますから、十中八九イクサの手の者でしょう」
「この遺跡の中で追いつくのは無理だと判断し、墓を荒らして君をおびき寄せようといった所か」
「そんな所でしょう。まったく、相変わらずやる事が一々腹が立つ。少し戻る事になりますが、それでも行きますか?」
「無論だ」

 力強く頷くコンラートに、クロエも頷いて返す。二人は合わせたように踵を返し、向かう先にあるのは罠であると承知しながら、狭い通路を駆け抜けた。


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