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No.18136の一覧
[0] もしもあなたが悪ならば(異世界騎士物語)[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:53)
[1] 一章 白騎士1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/05/15 16:30)
[2] 一章 白騎士2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/31 13:51)
[3] 二章 裏切りの騎士1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/09 13:18)
[4] 二章 裏切りの騎士2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/10/26 15:26)
[5] 二章 裏切りの騎士3[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/08 13:39)
[6] 二章 裏切りの騎士4[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/08 13:39)
[7] 三章 女神の盾1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/03 12:43)
[8] 三章 女神の盾2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/29 13:45)
[9] 三章 女神の盾3[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/09 13:16)
[10] 三章 女神の盾4[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/25 12:48)
[11] 三章 女神の盾5[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/13 12:19)
[12] 三章 女神の盾6[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/12/16 11:45)
[13] 三章 女神の盾7[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/27 17:48)
[14] 三章 女神の盾8[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/01/04 13:40)
[15] 四章 黒の王子・白の娘1[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/01/09 15:03)
[16] 四章 黒の王子・白の娘2(一部改訂)[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/27 17:47)
[17] 間章 騎士と主[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/25 11:36)
[18] 五章 黄昏の王[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/07/20 22:25)
[19] 五章 黄昏の王2[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/01/28 14:28)
[20] 間章 王女と従者[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/02 21:42)
[21] 五章 黄昏の王3[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/25 08:40)
[22] 五章 黄昏の王4[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/07/01 11:53)
[23] 五章 黄昏の王5[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/07/01 14:43)
[24] 五章 黄昏の王6[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/09/02 10:17)
[25] 五章 黄昏の王7[ガタガタ震えて立ち向かい](2012/09/03 12:40)
[26] 登場人物設定等[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/17 08:16)
[27] 五章 黄昏の王8[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/09/15 12:26)
[28] 五章 黄昏の王9[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/10/31 16:48)
[29] 五章 黄昏の王10[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/11/01 23:27)
[30] 五章 黄昏の王 終局[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/04 00:29)
[31] 間章 夏戦争の終わりと連合の崩壊[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/11/25 20:01)
[33] 断章 選定候[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/07/07 21:28)
[34] 断章 ロード[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/26 21:29)
[35] 断章 継承[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/09/01 08:25)
[36] 終章 アンファング[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/07/20 22:38)
[37] 第二部 一章 赤の騎士団[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/02 21:37)
[38] 一章 赤の騎士団2[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/02 21:38)
[39] 一章 赤の騎士団3[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/09 01:00)
[40] 一章 赤の騎士団4[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/19 22:33)
[41] 一章 赤の騎士団5[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/19 22:34)
[42] 一章 赤の騎士団6[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/25 01:56)
[43] 一章 赤の騎士団7[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/26 21:28)
[44] 二章 再来[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/30 20:30)
[45] 二章 再来2[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/06 13:06)
[46] 二章 再来3[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/13 12:58)
[47] 二章 再来4[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/20 12:52)
[48] 二章 再来5[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/27 12:03)
[49] 二章 再来6[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/04 14:08)
[50] 二章 再来7[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/11 15:17)
[51] 二章 再来8[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/25 15:03)
[52] 二章 再来9[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/25 15:02)
[53] 三章 王都ルシェロの戦い[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/01 12:34)
[54] 三章 王都ルシェロの戦い2[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/08 12:00)
[55] 三章 王都ルシェロの戦い3[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/21 12:30)
[56] 三章 王都ルシェロの戦い4[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/22 11:45)
[57] 三章 王都ルシェロの戦い5[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/23 19:52)
[58] 三章 王都ルシェロの戦い6[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/24 19:39)
[59] 三章 王都ルシェロの戦い7[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/25 22:42)
[60] 三章 王都ルシェロの戦い8[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/26 20:02)
[61] 三章 王都ルシェロの戦い9[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/27 19:24)
[62] 女神同盟[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:52)
[63] 女神同盟2[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:52)
[64] 女神同盟3[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/29 21:30)
[65] 女神同盟4[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/12/06 21:29)
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[18136] 三章 王都ルシェロの戦い3
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:26b38996 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/01/21 12:30

 キルシュ王都ルシェロでの決戦を前にして合流したキルシュ王行軍を、ピザン王国軍の指揮官であるグスタフは歓迎と共に出迎えた。
 ある意味他人を値踏みすることに長けた彼のことだから、内心ではどう思っているかは分かったものではないが、それでも表面的には同盟国の王子であり次期国王をにこやかに出迎える。
 それを受けたエミリオも満面の笑みだったが、少しばかり人を見る目に長けたものにはその笑顔が胡散臭いものに見えただろう。
 やはり政治というものは面倒くさいなと思うコンラートであったが、軍人というものは時に外交の矢面にも立たされるものだし、何より今やローデンヴァルト家の当主は彼なのだから他人事ではいられない。
 伯爵位といい騎士団の長という立場といい、与えられた分不相応な地位に今更ながら辟易する。

「此度はこちらの我儘を受け入れてくれたありがとうローエンシュタイン公。不甲斐ない我らに代わりここまで戦い抜いてくれたことを感謝する」
「もったいなきお言葉。しかし私たちがここまで戦ってこれたのは、エミリオ殿下を初めとしたキルシュの諸将が影でリカムの軍勢を牽制成されていたからこそ。此度の戦の勝利の栄冠は貴方にこそ相応しい」

 遠回しな言い合いに顔が渋みに染まりそうなのを我慢するコンラートだが、隣ではゾフィーがにこやかに笑みを浮かべている。
 どうやらこの表面的に友好的でありながら、すぐそばで地獄の窯を茹でているような空気を楽しむことにしたらしい。何とも頼りになる姫様である。

「ところで……そちらは殿下の配下の者でしょうか?」

 ひとしきり歓談が済んだところで、グスタフが今気づいたとばかりにエミリオの後ろに控える者へと水を向けた。

「……」

 そこに居た人物を、この場で気にしていなかった人間などいないだろう。
 背はコンラート程ではないが人ごみの中でも頭が突き出るであろう程に高く、男性でありながら腰に届く長い紫紺色の髪を首元でまとめている。
 それだけでも目立つ容姿をしているというのに、さらに彼を浮かせているのがその相貌を隠す白い仮面だ。
 どこぞの劇場の怪人を思わせるそれは場違いにも程があり、顔を隠すという行為に疑問を抱かない人間が居るはずがない。

 不審者。
 そう評するのがこの上なく適当な男であった。

「彼の名はローシ。思うように動けない私を補佐しキルシュ軍をまとめてくれている恩人です」
「ほう。ローシか」

 エミリオの紹介を聞いて、それまで黙っていたゾフィーが意味深に舌の上で転がすようにその名を反芻した。

「で? その仮面はなんだ。昔酷い怪我をして醜いので隠しています等と言ってくれるなよ。そんなもの私は気にしないから見せろと返してしまう」
「ハハッ。だそうだよローシ」

 そうエミリオが話をふると、ローシは困ったように口元に笑みを浮かべながら首を振った。

「訳があり人前に顔を晒すことができませんので、ご無礼をお許しください」
「ほう。その訳とやらは教えてくれないのか?」
「いえ。ゾフィー殿下にならばお見せしても構いません」
「何?」

 まさかそう素直に来るとは思わなかったのか、ゾフィーが呆気にとられたように目を丸くする。
 それを見て悪戯に成功した子供のようにエミリオとローシは笑う。

「しかしお見せできるのはゾフィー殿下だけです。その上で私をどう扱うかもゾフィー殿下にお任せします」
「……なるほど。では他の者は全員壁と話していろ」

 ゾフィーに命じられ、コンラートは素直に、グスタフはややあって体を反転させて天幕の仕切りへと相対する。

「それでは。見せてもらおうではないかローシとやらよ」
「ふふ。承りました」

 挑戦的に言い放つゾフィーの言葉を受けて、ローシが仮面へと手をかける。

「……」

 そしてゾフィーがどのような反応をするかと思えば、広がったのは沈黙であった。
 微かに動揺したような空気が伝わるが、果たしてその理由は何であったのか。

「……はあ。なるほど。納得した。いや、色々と納得できんがその仮面には納得した」

 ややあってため息を漏らすと、ゾフィーは疲れたような口調でそう告げた。

「皆もういいぞ」

 許しを得て振り向けば、相変わらずにこやかに笑うエミリオとは対照的に何やら呆れたようなゾフィーの顔があった。
 一体ローシとやらの仮面の下にはどんな衝撃的な顔が隠されていたのだろうか。

「何故貴方が此処に居てエミリオ殿下に仕えているのかは知らないが、顔を隠す理由は分かった。正直なところ信用はできんが、エミリオ殿下が卸しきることを期待して私からは何も言わん」
「ハハッ。ありがとうございます」
「ふん。それでグスタフ。軍議はいつ始める?」
「半刻もすれば諸侯も集まる予定です」
「では私は少し休んで来る。いくぞコンラート」
「御意」

 天幕を後にするゾフィーを追い、コンラートも歩み出す。

「……それほど心労がたまるような相手でしたか?」
「ああ。これはもう本国の兄上か兄様に報告しないと、私一人では判断がつかない」
「それほどですか」

 一体あのローシという男は何者なのか。
 こうして見逃した以上、敵というわけではないのだろうが。

「そういえば彼の名を聞いた時、何やら意味深げに呟いていましたが。もしや本名だったのですか?」
「まさか。むしろあまりに堂々とした偽名故に笑うしかなかった」

 コンラートの問いに、ゾフィーは失笑する。

「ローシというのはな。大陸北部の古語で『嘘つき』という意味だ」





 策謀王の率いるローランド王国軍に、リーメス二十七将と並び称されるような武を誇る英雄は居ない。
 しかしだからと言って彼らが弱兵かと言えばそんなことはなく、むしろその均質化され組織化された兵たちは精鋭と言っても過言ではないだろう。

 そもそも奇策とは常道で勝てない場合に使われるものであり、平時から乱発していては悪手となりかねない。
 戦いは始まる前に勝敗が決しているというのは一つの真理だ。日頃から兵を鍛えず、いざ戦となってから策を弄する指揮官など無能以外の何者でもない。
 そしていざ策を成そうにも、兵が命令を実行できなければ本末転倒だ。

「まあ兵士が策を実行しようとしてなくても、いつの間にか策の一部になってたりするのがジェローム王の恐いところなんだけどねえ」

 そう言って馬上でためいきを漏らすのは、今ではグスタフの指揮下に入っている蒼槍騎士団の副長であるリアだ。
 あと少しすれば戦も始まろうとしている時間にこうしてコンラートと轡を並べているのは、各々の騎士団の役割の最終確認のため。
 どちらも少数精鋭の騎士団である故に、その一手が戦局を大きく左右する。策謀王の罠にはまるようなことがあれば、力技でそれを食い破ることができるのもコンラートとリアくらいのものだろう。

「ふむ。ならばローエンシュタイン公の手腕はどうだ? ここ最近はずっと指揮下にいたのだろう」
「ああ、まあ一流なんだろうねえ。順当に準備が終わって順当に戦が始まって順当に勝ってる。相手が伏兵だの罠だの巡らせても冷静に対処。頼もしすぎてつまんないほどさ」

 そう肩をすくめて言うリアだが、元傭兵である彼女がお坊ちゃんなグスタフをそう評するなら高い評価と言えるだろう。
 命あっての物種と考える彼女からすれば、一種のばくち打ちとも言えるジェロームのような指揮官こそ遠慮したいものであるはずだ。

「でもねえ。ああいう手合いは悪辣な人間相手には不覚をとるもんだよ。そんで『卑怯者!』ってみっともなく喚きながら首を落とされるのさ」
「まさか。そのような小物ではないだろう」

 傲岸不遜などと評されていたグスタフだが、その実力は本物だ。加えて少し話した程度ではあるが、その芯には彼なりの矜持があると感じた。
 例え嵌められたとしても己の不甲斐なさを恥じ次へと生かそうとするに違いない。

「そうやって誰も彼もいい様に評価するのはアンタの甘いとこだと思うけどねえ」
「心外だ。俺とて無能を取り立てるほどお人よしではない」
「まあアンタも今じゃ一騎士団の長だしね。そこまでとは思ってないさ」

 お人よしであること自体は否定しないリアに、さりとてそれも当然かとコンラートも苦笑する。
 もしコンラートがお人好しでなければ、この世にお人よしなど居なくなってしまう。

「そういやあの黒スケはどうしたんだい? アンタらに付いて来てるって聞いたけど」
「黒……? もしやクロエ殿のことか?」
「そうそう。その黒スケ」

 仮にも司教殿を捕まえて何という言い様だと思ったが、戒めた所で目の前の女は聞きはしないだろう。
 そういう点は長い付き合いで嫌という程理解している。

「彼は神官だからな。ネクロマンサーが出てきでもしない限りは、国家間の争いに出張るつもりはないそうだ」
「そりゃあ残念。どれくらい腕をあげたのか見てみたかったんだけどね」

 そう言って笑うリアは、クロエと一度剣を交えたことがあるらしい。
 カイザーの亡命騒ぎ。そのときにカイザーの護衛を半ば騙される形で依頼されたクロエは、成り行きで蒼槍騎士団と戦う羽目になったのだという。

「いや、剣の腕自体は粗削りだったけど、体裁きや覚悟はそそるものがあったね。一端の戦士って面構えだったよ」
「なるほど。しかしこの二年でさらに腕を上げたようだぞ」

 アンデッドを容易く両断して見せたのは、聖剣の力だけではなくクロエの剣術のさえがあってのことだろう。
 あの反則的な神聖魔術抜きでも、そこらの騎士や兵士では束になっても適わないに違いない。

「ほー。そりゃあ楽しみだ」

 そしてそれを聞いて肉食獣のような笑みを浮かべるリアを見て、コンラートはやってしまったと今更ながらに気付いた。
 どうやらクロエはこの女傑に随分と気に入られてしまったらしい。

「……そろそろ始まるみたいだね」
「ああ」

 ピザン王国軍が並び立つ遥か後方。
 赤い髪を翻す王女と二人の魔術師が並び立つ。

「――土の聖霊よ。古の契約に従い我が声に応えよ」

 目を閉じ、契約の言葉を紡ぎ出すツェツィーリエ。
 彼女の役割は城壁の破壊。もしくは突破の足掛かりを作ることだ。
 土属性の魔術による大質量攻撃。例え城壁を破壊できなくとも、積み重なった瓦礫は城壁への攻撃を容易にすることだろう。
 だがそんな次善は必要ない。必ず城壁を破壊して見せるとツェツィーリエは豪語した。

「――打ち捨てよ。朽ち果てよ。地母の呼び声は叫喚となり大地を覆い、群盲は走狗となりて塵界を震駭する」

 彼女ができると言うのならできるのだろう。無理を通して無様を晒したり、偽りを口にするような女性ではない。
 この二年。ずっと己を支え続けてきたツェツィーリエの言葉ならば無条件に信じるであろう程にコンラートは信頼していた。

「――謳え。其は人界を乱じる凶報なり」

 そしてその信頼に応えるように、ツェツィーリエの詠唱は終わり奇跡が顕現した。





「やはり魔術師というのは反則だな」

 王城の遥か前方。
 堅牢なる王都の守りが地を走るように生えた幾重もの巨大な岩の槍に突き穿たれ崩れ去るのを、ジェロームは王宮を囲む内壁の上で呆れたような声を漏らしながら眺めていた。

 然しもの策謀王とてこのような事態は予想外だったのか。
 否。可能性の一つとしては考えていた。しかしそれを実行できる魔術師が果たして今の時代に存在するのか。その確信を持てなかった。
 よしんばそのような高位の土の魔術の使い手が居たとしても、ドルクフォード亡き今のピザン王国に味方する可能性はどれほどか。

 あり得る未来ではあるが、無視していいほどの限りなく低い可能性。
 そう常識的な判断を下したジェロームは見事にあてが外れたということになるが、それでも余裕を崩さず陰湿な笑みを浮かべている。

「随分と楽しそうですね陛下」
「ああ。何だ。また私の言うことを聞かなかったのか」

 戦場に意識を裂きすぎたのか、ジェロームは姪がすぐ隣で己を見上げていることに声をかけられようやく気付いた。
 王宮の一番奥で毛布にでもくるまって震えていろと命じたというのに、一体どのような命令ならばこの小娘は聞いてくれるのか。

「いきなり策が破綻したのは窮地と言うものでは?」
「ハッ。一つ策を破られた程度で揺らぐ戦術こそが最初から破綻しているのだ。肝要なのはただ先を読むのではなくあらゆる状況を想定することだ」

 なればこそ、既にピザンは策に落ちている。
 自らを縛る檻を食い破り、解放されたと喜び勇み虎口へと落ちてきているに過ぎない。

「さあ戦だ。つまらぬ戦だ。こんなもの早々に終わらせるに限る」

 そう口では不満げに言いながらも、ジェロームの顔には泣く子も黙るであろう凶悪な笑みが浮かんでいた。





 城壁などの高所を奪い合う戦いは、大抵の場合攻め手が悲惨なこととなる。
 何せ防衛側は上方という戦場に置いて絶対に有利な場所に陣取れるのだ。そこから矢を射かけるのは当たり前だが、腐った水だの糞尿だのと言ったものを敵に浴びせかけるという嫌がらせのような戦法が当たり前のように使われたりする。
 しかし一見すればただの嫌がらせのようなそれも、士気は下がるし病気は蔓延するしで中々に厄介な問題だ。
 攻城戦が長期戦になることが多いことも踏まえれば、実に理にかなった戦法だと言える。

「矢に怯むな! やぶれかぶれに撃ちまくってるだけだ!」
「走れ走れ!」

 しかしそんな厄介な城壁も、ツェツィーリエの放った岩槍によって木っ端微塵と成り果てた。
 丁度ピザン王国側から城壁目がけて斜めに伸びた岩槍は城壁を見事に貫き、崩れ落ちた瓦礫を越える道となっている。
 中には崩落に巻き込まれながらも生き残ったローランド兵も居るようだが、皆ろくに動くこともできずに討ち取られていく。

「いやはや。レインのおかげで魔術師の凄さは知っていたつもりだけれど、単なる殲滅手段ではなく戦術に組み込むとさらに厄介だね」

 最早勝敗など決まったのではないか。そんな空気すら漂う戦場をキルシュ王国軍を率いるエミリオは自ら弓を手にしながら駆けていた。
 当初は戦意高揚のためだけに前線に出てきたのかと思われていたエミリオだが、その手にした弓は飾りではなかったらしく、先ほどから何人ものローランド兵の脳天を撃ち抜いている。

「ハッ。だからこそ魔術師はジレントに引き篭もったのだろう。これを見て彼らを利用してやろうと思わない人間が居るなら、余程の大物か愚物に違いない」

 その声に応えるのは、己の長身に見合う程の長剣を振るうローシだ。
 接近戦はからっきしなエミリオを守るように、周囲の敵兵を次々にその膂力を生かした一撃で昏倒させていく。

「なるほど。ではジェローム王は大物だろうか愚物だろうか」
「間違いなく大物だ。しかし利用してやろうと思ったからと言って、実際に利用できるほど魔術師というものは甘くない」
「うん。僕もローランドに魔術師が召し抱えられたという話は聞いたことがない。では残念ながらジェローム王もここまでだろうか」
「それこそまさかだ。かの策謀王の意地の悪さを甘く見てはいけない。きっとこの理不尽な戦況すら覆すような策を幾重も仕込んであるぞ」
「例えば?」
「そうだな。今まさに目の前で起こっているかな」

 そう言われてエミリオが市街地の先へと目を向ければ、先ほどの意趣返しのように瓦礫がピザン王国軍を襲い始めた。





「……まさかずっと準備していたのですか?」
「もちろんだ。何もせずに町が崩れるはずがなかろう」

 シドニーの呆れたような言葉に満面の笑みで答えるジェローム。
 二人の視線の先。眼下の城内町の一角の建物が支えを抜かれた積み木のように次々と崩れ落ち、雪崩のようにピザン王国軍に降り注いでいる。

「ハッハッハ。他人の国だからこそできる策よ。後片付けのことなど考えたくもないな」
「まだしばらく滞在するつもりではなかったのですか?」
「それはそれだ。街に一般人などもう住んでいないのだから、別に困りはすまい」

 そう悪びれもせずに言い放つジェロームに、シドニーはやはりこの人は性格が悪いと再確認する。
 手柄欲しさに先行していたピザン諸侯の軍は見事に瓦礫の一部となったらしく、遠目でも阿鼻叫喚の有様が見て取れた。
 加えて崩れた建物の残骸が大通りを完全に塞いでおり、即席の壁となっている。
 さらに一度ことが起きればもう一度起こるのではと思うのが人間だ。ピザン王行軍の進行は確実に遅れるだろう。
 魔術という反則によって勢いを得た敵方の出鼻を、ジェロームは見事に挫いた形になる。

「さて、城壁は破られたが内に一つ即席の城壁ができた。ならばやることは同じだ」

 そのジェロームの言葉を合図にしたように、建物の屋上に次々とローランド王国の兵が現れ、立ち往生するピザン王国軍目がけて矢を射かけ始めた。





「おい! 誰か手を貸せ!」
「無理言うな! あんな矢衾の下に出ていくとか殺す気か!」

 城壁を乗り越え快進撃を続けていたピザン王国軍であったが、それ故に調子に乗って先行した部隊はジェローム王の策にまんまと嵌ってしまっていた。
 瓦礫の下に埋まった上司を助けようと声をかける忠義溢れる兵も居たが、怒鳴り返したルドルフの言葉通りローランド王国軍の兵士が雨あられと矢を射かけてくる中では蛮勇でしかない。

「さーて、どうしますか。攻城兵器の類は外に置いて来てるし、持って来れても相手が瓦礫じゃ崩してもまた埋まるだけですぜ」
「仕切り直しが妥当では? 城壁を突破できただけでも御の字でしょう」
「さて。我々はそれでいいが、他のお偉方が何と言うか」

 何とか原形を保っている建物の影に隠れながら交わされたルドルフとトーマスの言葉に、コンラートは難しい顔をした。
 確かに城壁を突破し、城内町の半ばまでこちらの手に入ったのは一定の戦果を挙げたと言えるだろう。しかしそれに気をよくして己も手柄をあげようとした一部諸侯の軍は、ろくに戦果を挙げることなくむしろ敵の策に嵌まるという失態を演じている。
 総指揮官であるグスタフが撤退を指示しても、果たして素直に退いてくれるだろうか。

「別に馬鹿が突撃して死んでも俺らにゃ関係ないでしょう」
「その馬鹿も頭数に入れないとリカムとの戦いに影響するのだ。それに馬鹿に付き合わされる兵が哀れだろう」

 コンラートたちのような生粋の軍人たちとは違い、諸侯の率いる兵の多くは傭兵か徴兵された民だ。
 小金のために命をかける傭兵はともかく、民をいたずらに死なせるような国に未来はない。

「じゃあどうすんですかい。正面から撃ちあうとかごめんですぜ」
「うむ。そうだな……」

 ルドルフの言葉にコンラートは少し悩む素振りをすると。

「ここは一つ無茶をしてみるとしようか」

 そう散歩にでも行くような気軽さで口にした。


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