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No.18136の一覧
[0] もしもあなたが悪ならば(異世界騎士物語)[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:53)
[1] 一章 白騎士1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/05/15 16:30)
[2] 一章 白騎士2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/31 13:51)
[3] 二章 裏切りの騎士1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/09 13:18)
[4] 二章 裏切りの騎士2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/10/26 15:26)
[5] 二章 裏切りの騎士3[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/08 13:39)
[6] 二章 裏切りの騎士4[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/08/08 13:39)
[7] 三章 女神の盾1[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/03 12:43)
[8] 三章 女神の盾2[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/29 13:45)
[9] 三章 女神の盾3[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/09 13:16)
[10] 三章 女神の盾4[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/25 12:48)
[11] 三章 女神の盾5[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/13 12:19)
[12] 三章 女神の盾6[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/12/16 11:45)
[13] 三章 女神の盾7[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/27 17:48)
[14] 三章 女神の盾8[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/01/04 13:40)
[15] 四章 黒の王子・白の娘1[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/01/09 15:03)
[16] 四章 黒の王子・白の娘2(一部改訂)[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/27 17:47)
[17] 間章 騎士と主[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/12/25 11:36)
[18] 五章 黄昏の王[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/07/20 22:25)
[19] 五章 黄昏の王2[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/01/28 14:28)
[20] 間章 王女と従者[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/02 21:42)
[21] 五章 黄昏の王3[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/25 08:40)
[22] 五章 黄昏の王4[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/07/01 11:53)
[23] 五章 黄昏の王5[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/07/01 14:43)
[24] 五章 黄昏の王6[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/09/02 10:17)
[25] 五章 黄昏の王7[ガタガタ震えて立ち向かい](2012/09/03 12:40)
[26] 登場人物設定等[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/03/17 08:16)
[27] 五章 黄昏の王8[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/09/15 12:26)
[28] 五章 黄昏の王9[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/10/31 16:48)
[29] 五章 黄昏の王10[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/11/01 23:27)
[30] 五章 黄昏の王 終局[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/04 00:29)
[31] 間章 夏戦争の終わりと連合の崩壊[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/11/25 20:01)
[33] 断章 選定候[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/07/07 21:28)
[34] 断章 ロード[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/26 21:29)
[35] 断章 継承[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/09/01 08:25)
[36] 終章 アンファング[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/07/20 22:38)
[37] 第二部 一章 赤の騎士団[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/02 21:37)
[38] 一章 赤の騎士団2[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/02 21:38)
[39] 一章 赤の騎士団3[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/09/09 01:00)
[40] 一章 赤の騎士団4[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/19 22:33)
[41] 一章 赤の騎士団5[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/19 22:34)
[42] 一章 赤の騎士団6[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/25 01:56)
[43] 一章 赤の騎士団7[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/26 21:28)
[44] 二章 再来[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/10/30 20:30)
[45] 二章 再来2[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/06 13:06)
[46] 二章 再来3[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/13 12:58)
[47] 二章 再来4[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/20 12:52)
[48] 二章 再来5[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/11/27 12:03)
[49] 二章 再来6[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/04 14:08)
[50] 二章 再来7[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/11 15:17)
[51] 二章 再来8[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/25 15:03)
[52] 二章 再来9[ガタガタ震えて立ち向かう](2016/12/25 15:02)
[53] 三章 王都ルシェロの戦い[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/01 12:34)
[54] 三章 王都ルシェロの戦い2[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/08 12:00)
[55] 三章 王都ルシェロの戦い3[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/21 12:30)
[56] 三章 王都ルシェロの戦い4[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/22 11:45)
[57] 三章 王都ルシェロの戦い5[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/23 19:52)
[58] 三章 王都ルシェロの戦い6[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/24 19:39)
[59] 三章 王都ルシェロの戦い7[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/25 22:42)
[60] 三章 王都ルシェロの戦い8[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/26 20:02)
[61] 三章 王都ルシェロの戦い9[ガタガタ震えて立ち向かう](2017/01/27 19:24)
[62] 女神同盟[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:52)
[63] 女神同盟2[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/22 21:52)
[64] 女神同盟3[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/11/29 21:30)
[65] 女神同盟4[ガタガタ震えて立ち向かう](2019/12/06 21:29)
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[18136] 二章 再来5
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:6dd4c7b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/11/27 12:03
 目を覚ました瞬間コンラートの目に飛び込んできたのは、漆黒に染まる天井と、それを遮る黒い影の輪郭であった。
 誰かが覗き込んでいる。それだけならばコンラートの反応は遅れ、その何者かに一撃貰っていただろう。
 しかし夢の中で赤い騎士から警告を受けていたコンラートは、すぐさまそれが己に害をなすものであると判断し、傍らにあった聖剣を抜き放つと黒い影を切り裂いた。

「――ッ!」
「ぬぅ!?」

 体を両断された影が叫ぶ。
 しかしそれは言葉としての意味を持たない風の唸りのようであり、両断された体からは淀み腐った水のように血が漏れだすだけであった。
 ある意味見慣れた人間のそれではない。

「アンデッド!」

 敵を認識すると同時に、コンラートは聖剣だけを手に部屋を飛び出していた。
 現状の確認など後回しだ。今優先すべきことは、主であるゾフィーの救援に他ならない。

「ゾフィー殿下!」
「こちらだ」

 無礼を承知で部屋のドアを蹴破ったコンラートに、意外に冷静な声が返ってくる。
 無事だったかと安堵し、次いで床に何かが転がっているのに気付き息をのむ。

「……よくご無事で。ドルクフォード陛下のご加護でしょうか」
「加護などというものがあるかは分からぬが、まあ父上のおかげだろうな」

 そう言って微かに笑みを浮かべながら、ゾフィーは肌身離さず身に着けている対の聖剣の片割れを得意げに掲げて見せた。
 キルシュ防衛戦で活躍したロドリーゴ枢機卿が祝福儀礼を施したという聖剣だ。アンデッドにはさぞ効果覿面であったことだろう。
 これが普通の剣であったならば、今の魔術が使えず体の調子も悪いゾフィーでは、倒しきれず押し切られていたかもしれない。

「ともあれ敵襲だコンラート。狙いは私かそれともそなたか。ネクロマンサーめ。ようやく動きを見せたと思ったら寝込みを襲うとは品がない」
「ハッ。すぐに周囲を確認し安全の確保を……アンナ殿は何処に?」
「こ……ここにいまーす」

 そういえばと思い出し、ゾフィーと寝食を共にしていたはずの侍女の名を出せば、部屋の奥のベッドの影から何とも頼りない声が聞こえてくる。

「ああ。斬っても斬っても向かってくる死体が余程怖かったらしい。それでも健気に耐えてくれていたのだが、倒せたと思ったらあの通りだ」
「だ、だって本当にこっちが殺されるかと思ったんですよ!」

 そう言って瞳を涙で濡らしながら言うアンナだが、手にした細身の剣は死臭の漂う血に濡れていた。
 なるほど。最初はアンナが襲撃者と相対していたが、アンデッドだと分かりゾフィーが聖剣を抜いたという流れらしい。
 アンナとて決して弱くはないのだが、速さや技に重きを置いた剣術では、急所を突いても動きを止めないアンデッド相手はどうしても相性が悪い。
 むしろゾフィーが動くまでよく粘ったと褒めるべきだろう。

「他にもアンデッドが居るやもしれません。村人たちには悪いですが、何処か一ヶ所に避難させるべきでしょう。スヴェン!」
「ここにいまーす」
「ひやっ!?」

 名前を呼べば即座にベッドの下から滑り出てきたスヴェンを見て、アンナが悲鳴をあげコンラートも内心で驚く。
 半ば冗談で名を呼んだのだが、まさか本当に居たとは。
 もう二年近い付き合いになるのだが、未だにこの青年の気配と行動は読めない。

「状況は分かっているな。外の天幕で寝ている者たちを叩き起こしてきてくれ」
「もう起こしました。半分はこっちの救援に、もう半分は安全地点の確保という形で動き始めてます」
「……そなた分身でもできるのか?」
「分身はできません」

 分身はということは他に何かできるのだろうか。しかし今はどうでもいいのでコンラートは流すことにした。

「ならばおまえはその神出鬼没ぶりを生かして村人を守れ。単独で動くことになるがやれるな?」
「御意。じゃあ行ってきます」

 コンラートに命じられると、スヴェンは相変わらず雑用でも済ませるような気軽さで返事をし、そして部屋の影に紛れるようにその姿をかき消した。

「では、殿下はこちらでお待ちください」
「いや、私も行こう。一緒に居た方がよさそうだ」
「しかしそのお体では……」
「心配無用。戦うならまだしも付いていくだけならどうとでもなる。まったくそなたもマル爺も本当に心配性だな」

 そう呆れた顔で言われて、コンラートは仕方ないなと苦笑した。
 何よりイクサが直接手を下しているとすれば、いつどこから奇襲されてもおかしくない。同行してもらった方がいいのは事実だろう。

「では。私が先を行きます故、後をごゆるりとお追いください」
「了解。まあいざとなれば背中ぐらいは守って見せよう」

 先ほど戦わないと言ったばかりだというのに、ニヤリと笑ってそんなことを言うものだから本当に心配だ。
 同時にどこか懐かしく思う。
 かつて今のように、誰かが追ってくるのを待ちながら、ひたすら前を向って駆けていた記憶を。





 予想通りというべきか、村の中にはアンデッドたちが地面から這い出し、生きた人間へと襲いかかっていた。
 しかし幸いというべきか、村人への被害は少なかった。
 彼らはピザン王国軍に指示されるまでもなく篝火をたき、神官からもらったというありがたい聖水を撒き、必要とあればアンデッドたちを閉じ込めた家屋に火をつけた。
 皮肉にも、十七年前のキルシュ防衛戦にてアンデッドとの戦いに巻き込まれた者が多かったが故の迅速な対処であった。

 しかしそれでも、ただの村人にアンデッドを倒しきることは不可能に近い。
 幸いコルネリウス率いる騎士団が駆け付けすぐさま村人たちの守りとなったが、相手を倒しきれないということは変わりない。
 何せ相手は腕はもちろん首を切り落としても元気に襲ってくる死にぞこないたちだ。そもそも余程の使い手でなければ、動いている相手の体を切断することすら難しいだろう。
 村の中央の広場に陣取り、周囲の家の隙間を進軍してくるアンデッドたちを堰き止めはしたものの、決定打を持たない兵士たちは徐々に後退を始めていた。

「こ、こんな相手にどうすれば」

 若手の兵士や騎士たちが狼狽えるのは当然だった。
 斬っても斬っても向かってくる死体の群れは怯むということを知らず、そして己の体を省みない力任せの突進は人間相手の戦いに慣れた者でも対処に手間取る。
 何よりアンデッドたちが動くたびに、まき散らされる淀んだ血と腐った肉の臭い。この場が初陣となる新兵は居なかったが、そうでなければ幾人かは戦意を喪失していたことだろう。
 それほどまでに、今この場を支配する空気は一般的な戦場がマシに思えるほどの地獄であった。

「なーに。こういう鈍い連中相手にはな、こうすりゃいいんだよ!」

 そんな若手の兵士たちを押しのけてアンデッドたちの前に立ちはだかったのは、騎士団の中でも年長のルドルフだった。
 彼は手にしたメイス――鉄のこん棒にオナモミを思わせる棘のついたそれを振りかぶると、全身全霊の力を込めて振り下ろした。

「――!!」
「ひぃ!?」

 そしてその先に居た痩せた男のアンデッドに鉄塊がぶつかると、泥粘土のようにひしゃげて腐った血と肉が飛び散った。
 そんな様となっても空気を漏らすような声しか出さないアンデッドではあったが、それを見て悲鳴をあげたのは若手の兵士たちだ。
 とても人とは思えない動きをしていたとはいえ、潰れたそれは間違いなく人の肉であり、漂ってくる死臭混じりの血霞は本能的な恐怖を彼らに与えた。

「ほらっ、何ビビってんだ。相手はあの通り動く死体だ。殺すんじゃなくて潰すつもりで行け!」
「ビビってんのはアンデッドじゃなくてルドルフさんにですよ」
「お?」

 そう言って腰の引けている若手たちの中から飛び出したのは、右手に剣、左手に短剣を握りしめたカールであった。
 風のようにルドルフのそばを抜けると、掴みかかってきた鎧を着こんだアンデッドを斬り伏せ、ほぼ同時に左手の短剣で喉を貫く。
 たったそれだけで、そのアンデッドは操り糸を断たれた人形のように崩れ落ちた。

「銀の短剣か。ズルいぞおぼっちゃん!」
「用意周到と言ってください。大体相手を全部力任せに潰してたら体力が持ちませんよ!」

 そんな言い合いをしながらも、ルドルフは目の前のアンデッドを叩き潰し、カールはその死角をフォローするように立ち回る。
 生まれも育ちも考え方まで違う二人ではあるが、その即席の連携はそのためにあつらえた歯車のように噛み合っていた。

「……すげえ」
「ぼさっとしてんな! 俺たちだけじゃ全部は防げねえぞ!」
「え? うわああ!?」

 しかしそんな二人に群がっていたアンデッドの一部が、よろけた拍子にようやくきづいたとばかりに後方へと向かい始める。
 ルドルフもカールもその気になればそれを押しとどめることはできたが、かと言ってこのまま向かってくる全てのアンデッドの相手をしていては身が持たない。
 そうして少しずつ、暴れまわる二人の後ろの兵たちにもアンデッドが集り始める。

「……あちらはルドルフたちに任せるしかないか」

 一方コンラートは、ルドルフやカールとは丁度反対方向からまろび出てきたアンデッドたちを処理していた。
 そう。その動きは戦いというよりは処理に近かった。何せ手にしているのは正真正銘神話の時代の残り香ともいえる聖剣だ。急所を突くどころか、掠めただけでも死者をあの世に叩き返すには十分である。
 故にコンラートの居る東方面のアンデッドはほぼ彼一人によって殲滅されていたのだが、問題は他の場所だった。

 北と南はそれぞれ副団長であるコルネリウスと古株であるトーマスが頭となり対処していたが、いかな猛者でもアンデッドを通常の武器だけで潰し続けるのには限度がある。
 西からくるアンデッドに対処するルドルフとて、カールの予想以上の奮戦が後押ししているとはいえ、全てのアンデッドを押しとどめ続けるのには限界があるだろう。
 村人たちの守りにはエーベル卿たちがついているが、その数も質も頼りになるとは言い難い。
 突如現れたアンデッドたちに四方を囲まれた今の状況では、どこか一ヶ所が破られればそのまま部隊は崩壊し、村人たちも虐殺されるだろう。
 
「うわあ!?」
「何だ!?」
「む?」

 どうしたものかと考えていると、突如背後から驚き戸惑う声が聞こえて、コンラートは周囲のアンデッドをまとめて斬り捨てると視線を向けた。
 確認できたのは一瞬であったが、トーマスたちの担当する南方面のアンデッド目がけて炎が雨のように降り注いでいた。
 周囲への被害を考慮したのだろうか、一つ一つの火は地面にぶつかればすぐさま散ってしまうような小火で頼りない。しかし魔力で編まれたその種火は、アンデッドを浄化するには剴切であった。
 雨に濡れて萎れる草花のように、アンデッドたちが次々とその場に倒れていく。

「ツェツィーリエか」

 誰がやったのかと言えば、コンラートの従者しかおるまい。
 姿こそ見えないが、恐らく村の外から援護を始めたのだろう。最悪彼女が切り開いた一角から逃げられるか。そう思ったコンラートだったが、その希望はあっさりと覆される。

「団長! 焼けたアンデッドの下から新しいアンデッドが生えてきました!」
「死人は生えるものではないだろう!?」

 部下からの報告に思わずそう言ってしまったコンラートだったが、目の前の敵たちを斬る合間に視線を向けてみればその報告に納得してしまった。
 ボコボコと、倒れ伏したアンデッドを押しのけるように、別のアンデッドが雨後の筍のように頭を突き出し這い出して来る。
 どうやら未だ姿を現さないこの狂宴の主は、客を休ませる気がないらしい。

「団長。魔術師殿から伝言です」
「ッ!? 言え!」

 突然耳元で囁くように言われて、コンラートは驚きながらも先を促す。
 少しだけ視線を動かせば、己に背を合わせるようにスヴェンが短刀を振るっていた。余程切れ味のいい短刀なのか、それとも彼自身の腕か、それほど刀身が長いとは言えない得物で次々とアンデッドたちの四肢を切り落としていく。

「このまま援護してもキリがないので、死人を操っているであろうイクサを見つけ出すのを優先するそうです。勝てなくても意識を反らせばアンデッドの召喚は止まるだろうと」
「しかし彼女一人では……」

 ツェツィーリエの魔術師としての実力は信頼しているが、魔術師として最高峰の使い手であるイクサを相手取るにはあまりにも実戦経験が不足している。
 しかし本人が言う通り、このまま援護を続けてもイクサよりも先にツェツィーリエの魔力が尽きるだろう。

「……スヴェン。アンデッドたちを操っている者を探し出せるか?」
「もうやりました。その上で最悪のお知らせとちょっといいお知らせがあるんですが」
「何だ?」
「魔術師殿は諦めていないみたいですけど、これ付近に潜んでる人間とか居ませんよ。かなりの遠隔、それこそキルシュ国外からアンデッドを操っています」
「……」

 あり得ないという思いは、相手が相手である故に抱けなかった。
 キルシュ防衛戦でも同じようなことは何度もあった。だというのに、イクサは自ら現れた時以外は一度もその姿を捕捉されなかったのだ。
 各国の精鋭が斥候や間者を放っても見つからなかったのだ。ならばイクサは絶対に見つかるはずがない場所からアンデッドを操っているというスヴェンの結論にも納得がいく。

「突破して逃げるだけならどうとでもなるが、村人をどうするか」
「そんでちょっといい知らせなんですが」
「む? 何だ?」

 最悪の知らせの印象が大きすぎて、ちょっといい知らせとやらを聞き逃していた。
 我ながら余裕がないと自嘲しながら、向かってきたやけに派手な服を着たアンデッドの首をはねる。

「神官らしき人間が一人この村に向かって来てます。もしかすれば救世主かもしれません」
「神官か……。いや待て。こんな夜更けにか?」

 その神官が神聖魔術の使い手ならば、この土地自体を浄化してアンデッドの出現を止められるかもしれない。
 しかしコンラートの疑問通り、こんな時間にこんな場所を神官が一人で出歩いているのは明らかに異常だった。
 今のキルシュは戦場だ。一人でのこのこと歩いていい場所ではない。

「あー多分まともな神官じゃないんでしょうねアレ。何か全身黒っぽかったし、危うく追いつかれかけましたもん」
「何だと?」

 この目の前にいるかも怪しいような青年を捉えかける。確かにそれだけで異常と言えるだろう。
 さらに気になったのはその印象だ。全身が黒っぽく、異常な速さを誇る神官。
 そんな存在に、コンラートは一人だけ心当たりがあった。

「あ、噂をすれば影が」
「何?」

 風のようにアンデッドを切り刻むスヴェンの視線を追う。
 すると雲の切れ目を纏った月を背負うように、黒い影が空から降ってくる。

「うわあ!?」
「な、何者だ!?」

 その影が降り立ったのは、最も守りが薄くなっているトーマスたちの陣だった。
 兵たちが驚き、トーマスが戸惑いながらも誰何するが反応はない。

「……」

 無言で佇む黒い神官服を纏った何者か。その左手には神官には不似合いな宝石のあしらわれた直剣が握られていた。
 そして動揺する周囲をよそに、神官はこれこそが答えであるとばかりにその直剣を抜き放った。

「……なっ!?」

 驚きの声は誰のものだったのか。
 抜きざまに放たれた一閃。ただそれだけで神官の目前に迫っていたアンデッドたちが両断され、そのまま壊れた人形のようにその場に落ちる。

「あの剣は!」

 今にも飛び出しそうになっていたゾフィーか叫ぶ。
 驚いて当然だ。
 何故ならその剣は、ゾフィーが肌身離さず持っている父の形見と同じだったのだから。

「――女神よ、私たちが罪を許すように、私たちの罪をお許しください」

 アンデッドの壁を切り崩した青年神官は、そのまま剣を地面に突き立てると、両手を包み込むようにかざして祈りの言葉を口にした。
 懐かしい、しかし以前より低くなった声を聞き、コンラートは確信する。

「――誘惑より導き出し、私たちを災厄からお救いください!」

 ――帰ってきたのだと。





「クカ……クカカカカカッ!」

 笑う。哂う。嗤う。
 闇の中で、灰色の髪の老人が、ぜんまい仕掛けの人形のように痙攣しながら声をあげる。

「来た! 来たぞ! 烏の片割れが、運命に縛られた忌み子が帰ってきた!」

 クルクルと狂ったように踊りながら歓喜の声をあげる老人。
 ああまだだ。未だ狂うわけにはいかない。
 やっと始まったのだ。終わったはずの――が。

「クカッ! ああ、今日は何という日だ! 吉日か! やはりおまえはあんな出来損ないとは違う! ……なあ、テラスよ」

 そう言うと、老人は黒い青年を映し出す水晶を愛おし気に撫でた。


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