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No.16894の一覧
[0] 隔離都市物語(完結)[BA-2](2010/07/10 14:34)
[1] 01 ある勇者の独白[BA-2](2010/03/02 23:23)
[2] 02 とある勇者の転落[BA-2](2010/02/28 20:44)
[3] 03 隔離都市[BA-2](2010/03/16 20:54)
[4] 04 初見殺しと初戦闘[BA-2](2010/03/08 22:41)
[5] 05 過去の過ち[BA-2](2010/03/16 20:55)
[6] 06 道化が来たりて[BA-2](2010/03/28 22:23)
[7] 07 小さき者の生き様[BA-2](2010/04/15 16:09)
[8] 08 見えざる敵[BA-2](2010/04/20 15:46)
[9] 09 撤退戦[BA-2](2010/04/20 15:52)
[10] 10 姫の初恋[BA-2](2010/05/09 17:48)
[11] 11 姫様達の休日[BA-2](2010/05/09 17:53)
[12] 12 獅子の男達[BA-2](2010/05/09 18:01)
[13] 13 戦友[BA-2](2010/05/26 22:45)
[14] 14 形見[BA-2](2010/05/26 23:01)
[15] 15 王達の思惑[BA-2](2010/06/16 08:08)
[16] 16 マケィベント戦記[BA-2](2010/06/16 08:09)
[17] 17 名声と弊害[BA-2](2010/06/16 08:10)
[18] 18 連戦[BA-2](2010/06/12 16:12)
[19] 19 まおーと勇者[BA-2](2010/06/15 18:33)
[20] 20 自称平和な日々[BA-2](2010/06/18 23:45)
[21] 21 深遠の決闘[BA-2](2010/06/23 23:24)
[22] 22 最後の特訓[BA-2](2010/06/26 12:14)
[23] 23 故郷への帰還[BA-2](2010/06/27 22:44)
[24] 24 滅びの王都[BA-2](2010/06/29 20:34)
[25] 25 これがいわゆる"終わりの始まり"[BA-2](2010/07/01 19:18)
[26] 26 決着[BA-2](2010/07/03 20:59)
[27] 27 勇者シーザー最期の戦い[BA-2](2010/07/06 18:37)
[28] エピローグ[BA-2](2010/07/10 14:33)
[29] 魔王召喚したら代理が出て来たけど「コレ」に頼んで本当に大丈夫だろうか[BA-2](2018/04/02 23:28)
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[16894] 06 道化が来たりて
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/28 22:23
隔離都市物語

06

道化が来たりて


≪勇者シーザー≫

昔、麦畑を見ていた事があった。

……農夫が麦を踏んでいる所を見て驚き、作物を粗末にするなと叫んだ事を覚えている。

農夫は言った。

麦は踏まれて強く育つのだと。


「……私も踏まれて、強くなるのだろうか?」

「立った!シーザーが立ったお!」


人の醜さを見せ付けられたあの日より三日。

あれから何もかも嫌になり塞ぎこんでいた私だが、

それでは何も解決し無い事に気付き、再び迷宮に挑むべく立ち上がったのだ。


「……では、行って来る」

「気をつけるんだぞ。しかし、今回ばかりはどうなるかと思ったわい」


私が絶望して喜ぶのは誰か?

そんな事は決まっている。

私が立ち上がり続ける限り、魔王ラスボスとの戦いは続いているのだ。

……だから、何時までも同じ場所で座り込んではいられない。

心技体を鍛え上げ、再び来る決戦に備えるのだ!


「それでは、首輪は外しますね」

「これでお家に送ってあげる事も出来るお。どうするお?」

「……ご迷惑でなければ、これからも迷宮に潜りたいのですが」


それ故クレアさん達にお願いし、自由の身になった後も迷宮に潜り続ける許可を取った。

そう、これからは義務感で潜るのではない。

全ては己の為、故郷の為。

自らの力で道を切り開くためだ!


……。


「と言う訳でシーザーが復活したからアルカナも一緒に遊びに行く事にしたのら」

「もう、この子は!シーザーさん、忙しいとは思いますが私達も同行させて貰えますか?」

「構わないが……クレアさんも?」


ただ、困った事に同行者が付いて来てしまった。

アルカナ君の耐久力なら何の心配も要らないが、どう考えてもクレアさんは危険だ。

護衛の騎士達も慌てているように見える。


「押さえがいないとこの子、何処までも暴走するんです。私が手綱を握らないと」

「おねーやんには危険だお!槍で2~3回刺されたら死んじゃうお?」


私としてもクレアさんには危険な事をして欲しくない。

よって、その旨を伝えたのだが……。


「いえ、他の探索者の方が居ないこちらの管理下の迷宮なら、街中より安全かと思いまして」

「……そう言えば盛りのついたわんこみたいなのはあのエリアには居ないお……」


「それに、その……」

「どうかしたのか?」


クレアさんはちょっと迷った後、こう言ったのだ。


「私達のせいで苦労してるんですよね?だから、私にも協力させてください」

「しかし……」


「迷宮の設計図を家から持ってきました。先に進むお手伝いが出来る筈です」

「クレアさん……」



これで首を横に振れる輩が居るのなら見てみたいものだ。

ともかく、私達三人はクレアさんの護衛数名を後ろに引き連れる形で迷宮に潜る事となったのである。


……。


「はっ、とっ、ほっ!」

「バックステップからのダッシュ突きだお!」

「アルカナ。私達の出番、無いね」


とは言え、基本的には私の特訓。

地下一階でいつものカーヴァーズ・スケルトンを破壊し、

すっかり顔馴染みのようになってしまったゴーレムに剣を叩きつける。


「最初の頃は随分殴られて青痣ばかり作っていたものですが、今は攻撃を食らうことすら稀ですよ」

「成長しているんですね」


言われてみて自分がこの迷宮に入る前より強くなっている事に気付く。

確かに、先日まで苦戦していた相手に勝利できるようになった。

これは大きな進歩だと思う。


「一週間の停滞は無駄ではなかったのか……」

「挫折してた三日間は無駄だったと思うお」


痛い。痛いところを突かれてしまった。

人の黒さを見せ付けられたとは言え、今の私に三日の時間は余りに大きい。

このロスが後に響かねばいいのだが……。


「シーザーさん!?」

「落ちるお!」

「……はっ!?」


ずり落ちかけた足。

慌てて落とし穴の淵に手をかけ、すんでの所で踏みとどまる。

危ないな。

考え事をしていて見えている落とし穴に落ちるなど笑い話にもなりやしない。


「危なかった……っと、これが例のあからさまな落とし穴だ」

「確かにあからさまですね」

「何の偽装もしてないお。やる気あるのかお?」


地下二階の落とし穴はどれもこれも落としてやるぞという意気込みの伝わってくる物ばかりだった。

天井に怪しげなオブジェを配置し足元への注意をそらしてみたり、

曲がり角の先にいきなり穴があったり、

一見すると別の箇所に落とし穴があるように見える幻術がかかっていたりと言う物もあった。


挙句に偽装の強度がかなりの物で、

上で戦闘でもしない限り落ちない落とし穴、そしてその先で待つ複数のゴーレム。

等と言う反則すれすれの物まで。

まあ最低でも上に何かのシートくらいは被せている。

だというのにここを含めて数箇所は判りやすい広間の真ん中に大きく穴が開いていた。

落とそうという気が全く感じられない。


「まったく、何のためにこんな物があるのか」

「これは……この中の一つが地下四階に続く階段のある部屋に繋がっているようですね」


……は?


「ハトが豆鉄砲食らったような顔してるお」

「つまり、あからさまで"落ちる訳が無い落とし穴"こそが先に進む道と言う訳です」


そんなの、ありなのか!?


『『『蟻!』』』

「あり姉やんが何処かで叫んでるお……とりあえず、正解の穴に飛び込めばOKって事だお?」

「そうみたいねアルカナ」


そうか。落ちたく無いという先入観とこんなのに引っかかるかと言うプライドが邪魔をして、

普通は見えている穴に落ちようなどとは思わない。

それが罠に見える道、と言う凶悪な偽装を生んだという訳か!?


「ならば、恐れる事など何がある?」


そして私はあからさまな落とし穴に飛び込んで……。


「でも、外れの場合は……酷い、地下水脈直行コースや電気ナマズ入りの池に針山!?」

「とおっ……え?おおおおおおおっ!?」


「あ、シーザーが串刺しになったお」

「……え?シーザーさんがどうかし、きゃああああああっ!?」


……またやり直す羽目に陥った。

どうも司教殿。探索三日目以来だから、一週間ぶりですか?

ええ。またお世話になります……。


……。


「さて、と言う訳でこの穴は外れと。地図に書き込んでおこう」

「後で売るんだお?」


「……何をだい?」

「地図だお」


青天の霹靂である。

教会で治療を施してもらい再び元の位置にやって来ていた私だが、

そこで地図上の落とし穴に針山のマークを記入した時にアルカナ君が横から顔を突っ込んできた。

そして第一声がこれである。


「売れるのかい?こんな個人用のメモ書きが」

「前人未到の新しい迷宮の地図だお?結構な値段がつくはずなのら」

「そうですね。唯でさえ探索許可が下りているのはシーザーさんだけですし」


いや、だとすればこの場所の地図が必要になるのは私だけのはずだが?

それに、設計図をクレアさんたちは持っているはずだが。


「通行禁止区域だから、それだけに奥に何があるのか気になってる人が一杯居るお」

「私達は運営側ですので。シーザーさんが作った地図はシーザーさんの物ですよ」

「つまり、道案内としての地図と言うより迷宮の内容自体が知りたいと」


進入禁止だからこそ先が気になるのは人の常か。

さればこのメモ書きもそれなりの価値を持ってくるのだろう。


「そうですね。それじゃあ、後で地図を写させてもらいます。利益の三割を後でお支払いしますので」

「幾らの値段がつくか楽しみに待ってるお!」


予想外の所から収入のあてが出来た物だ。

一応自由の身の上になったが自由に出来るお金は一銭もなかった。

これは正直ありがたい。


「さて、でしたら早速次の落とし穴に行きましょう?」

「そうですね。次はここです……っと、これは当たりか?見覚えの無い区画に、降りる階段だ!」

「おめでとうだお!」


そして二つ目の落とし穴で地下四階に降りる階段を発見した。

うん。これは幸先がいいな。

そう考えていると上から何かが降りてくる。

見ると、アルカナ君が柱にロープを結び付けていた。

所々に結び目があるが、これを足がかりに上り下りする訳だな?


「じゃ、上がってくるお」

「……何故だ?」

「あ、その……地図は正確で詳しい方が高値が付くんです」


それはそうだろうが、他に書き込んでいない区画など、

……まさか。


「つまり!残りの穴にも落ちておくんだお!」

「なん、だと……」


こうなってはやる他あるまい。

幸いアルカナ君がロープを何本か持っているようだし、柱に括り付けてゆっくり降りていくとしよう。

そう言う訳で三つ目の落とし穴にロープを腰に巻いて降りていく。

……足元に罠が無い事にいぶかしんだ私を数十本の矢が襲った。


「……血が……」

「弓兵が一杯うろついていたのら!書き書きするお!」

「鎧が弓矢で針鼠……あの、傷薬塗りますね?」


続いて四つ目に降りようとして、


「うおおおおおおおおおっ!?」

「ロープごと流されたお!」

「折角ロープで降りていたのに!地下水脈の急流に脚を取られるなんて!」


私は溺れた。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない!だが心折れる事無かれ!女神のご期待に沿う為に!」

「いつもすみません……」

「ごくろーさまなのら。一応、これで地下二階と三階の地図は埋まったんだお。先に進むお!」


……。


そんな苦労に苦労を重ねようやく辿り着いた地下四階。

……そこは、幾つもの立派な棺の並ぶ広大な空間だった。

奥には一際豪華な棺が静かに鎮座し、

更にその奥に地下5階へ続くと思われる巨大な鋼鉄の扉が存在している。

どうやらここは墓所のようだ。


「罠は無し……敵も無し、か。まあ、この棺にアンデッドでも入っていなければだがな」

「当然入ってるお」

「開けてみましょうか?」


今回に限りあっさりと言うものだ。

アンデッドが入っている棺を何故そうも簡単に開けようなどと言えるのか。


「おじちゃん、元気かお?」

「ヲヲヲヲヲヲヲ……」

「お元気そうで何よりです。起こしてしまって申し訳ありません。忠勇なるミーラの兵よ」


しかし、アルカナ君が軽くノックをしただけで勝手に棺が開き、

中から全身包帯姿の枯れ果てたアンデッドがその上半身を起こす。

そして二人に対し深々とお辞儀をしたのである。


「このおじちゃんはレキ大公国時代の防衛戦で死んだ英霊だお」

「そちらの方は北の皇帝との戦いで亡くなられた方ですね」

「……それは良いが……そんな英霊がなんでアンデッドになっている?」


しかも棺の中には立派な副葬品やお菓子、花まで備えられている。

しかも花は生花でその上枯れていない。

明らかに頻繁な手入れがされているように見えるのだが。


「そりゃ当然だお。一応志願制だし」

「……死霊術の餌食に志願、か……」


眩暈が、する。

何を考えているんだこの国の人間は。


「因みに一番の使い手はもう死んでるけど、かつての神聖教団大司教だお!常識だお!」

「常識!?これが常識!?頼む、これ以上揺らがないでくれ私の常識っ!?」


そしてここの世界の聖職者はどうなっているのだ!?

本当に何を考えているのか理解しがたい!


「術も道具も使い方次第です。それを理解できないようではまだまだですね」

「……誰だ!?」


落ち着いた声が何処からか響いた。

……そして、奥に鎮座していた一際豪華な棺が静かに開いていく……。


「ようこそシーザー君。私はイムセティ……見ての通りアンデッド、のミーラ兵ですよ」

「イムセティおじさん。お元気そうで何よりです」

「死人に元気も何も無いと思うお?とりあえずイムセティのおじちゃん、やっほいだお!」

「……最近のアンデッドは喋るのか……そうなのか……」


すっくと立ち上がるその姿はやはり枯れた包帯まみれのアンデッド。

しかしその上に煌びやかな鎧を身に着け、立派な槍を手にしている。

きっと、生前はひとかどの人物だったのだろう。


「イムセティおじさんは母の弟に当たる方でして、祖父の祖国を預かって貰っています」

「死んでるけど今でも総督なんだお。今回はシーザーの為に特別に来て貰ってるお!」

「そ、それは光栄です……」

「驚かれましたか。まあ気持ちは判りますね。私としても余り人前に見せたい姿ではないですから」


その後軽く自己紹介があったが、彼は10年ほど前に無くなったクレアさん達の叔父らしい。

要するに戦死したが優秀だった事もありそのまま死なすのは惜しいと復活させられたのだとか。

普通のアンデッドとは違い知能を高く残したままなのが特徴との事だ。


「幸か不幸か、術の下準備は済んでいました。私としても姪が一人前になる所を見れるのは嬉しい」

「……はあ」


良かったですね、とも酷い話だ、とも言えず私は沈黙するしかなかった。


「おじさんが、最終試験の試験官を勤めます。それにパスすれば他の迷宮の探索権が得られるんです」

「クレアの言う通り。強い武具を探すもよし、体を鍛えるも良し……帰りたければすぐに帰れますよ」


ああ、そうか。

私の罪状は消えている。送還術の準備は整っているだろうし、帰りたければ帰れるのだ。

ただ、帰ったところで今の私ではラスボスに捻り潰されるのがオチ。

国の皆には本当に申し訳ないがもう少し待ってもらわねばならない。


どうやら強力な装備品もこの迷宮には眠っているようだ。

それらを集め訓練を積み、魔王と戦いうる状態を早く作らねばならない。

その事を胸に私は口を開く。


「私が帰る時の絶対条件として魔王ラスボスに勝利出来る力を得ている必要があります」

「……ならば私の試練を突破していただきましょう。試練は二つ」


二つの試練か。

これを乗り切る事が出来ねば話自体が始まらない。


「まずは……私と戦って貰います!」

「望む所です!」

「では、私達は後ろで見ていようねアルカナ」

「シーザー、頑張るお!」


……。


≪戦闘モード シーザーVSミーラ・イムセティ≫

勇者シーザー
生命力80%
精神力90%

ミーラ・イムセティ
生命力0%
魔力60%

特記事項
・仕事の後、強行スケジュールで移動した為イムセティのステータスが低下している。
・アリサから休みを取って見て来るよう頼まれたカルマが後ろの方でこっそり観察中。


ターン1

クレアとアルカナの声援!


「シーザーさん!頑張ってくださいね!」

「ファイトだおー?」

「ああ、頑張らせてもらう!」

「やれやれ、私は悪役ですか」


声援によりシーザーの精神力が回復した!

カルマの機嫌が少し悪化。


ターン2

イムセティの攻撃。

鋭く槍を突き出した!


「さて、まずは小手調べですよ?これで落ちるようでは話になりませんが」

「心配無用!」


シーザーは盾で槍を受け流した!

シーザーはダメージを受けない。


「今度はこちらから行きますよ、イムセティ総督!」

「むっ!話で聞いていたより攻撃が鋭いですね」


シーザーの反撃!

薙ぎ払われる剣の切っ先がイムセティを襲う。

剣がイムセティの肋骨を一本砕いた!


ターン3

イムセティの速攻!

イムセティは槍を振り下ろした。


「速い!だが……軽い!」

「受け止められましたか。ですが!」


シーザーは槍を盾で受け止めた!

イムセティの追撃!


「まさか一段で終わりなんて思ったわけではないですよね!?」

「盾が!?」


イムセティは受け止められたまま槍を回転させる。

そして、盾の下に柄をぶつけるとそのまま振り上げた!

シーザーの盾が腕ごと大きく持ち上がり、跳ね上げられる!


「腕が跳ね上げられた後、残るのは無防備な腹、ですよ!」

「ぐあっ!?」


盾を跳ね上げられ無防備になったシーザーの胴体に、容赦の無い槍の一撃が突き刺さった!

生命力に30%のダメージ!

シーザーは突き刺された槍を腕で掴んだ。

そして即座に反撃を試みる!


「はああっ!」

「ふむっ!?」


弾かれた盾での盾殴り!

イムセティは後方にローリングして回避!


「……申し訳ないが、槍に対して剣では不利なので」

「私は脆い。受けていたら大ダメージは必至、回避されてもこちらは武器を失う。いい判断です」


シーザーは手放された槍を後方に投げ捨てる。

イムセティは槍を失った!

カルマからの評価が上がった。


ターン4

イムセティはバックステップを繰り返し棺に戻ると銀の剣を手に取った!


「それでは、先の試練もありますし……いずれにせよここで決めましょう」

「望む所です」

「シーザー!気をつけるお!」

「シーザーさん。剣を抜いたからって剣で攻撃する訳じゃないですよ!」


イムセティは銀の剣を振り下ろす!

しかし、間合いは遠くシーザーには届かない。

シーザーは軽く腰を落とした!


「……はっ!」

「にゃあおおおおおおおん!」


横の壁が勢い良く崩れる!

側面から守護獣スピンクスが突っ込んできた!

シーザーは後ろに転がって辛くも攻撃を回避した。


「成る程、よい動きです。しかし回避運動を壁が崩れる前に始めていたようですが?」

「幾らなんでもあの距離で剣を振るっても私には届かない、つまり」


「つまり?」

「あれは兵の指揮を取る動きと見ました。少なくとも貴方からの攻撃ではない」


「それさえ見抜ければ、後は回避するだけと」

「最低限の備えですよ。何時でも一度跳べるようにしておけば動きの幅が広がりますし」


イムセティはシーザーの更に先へと視線を移した。

カルマが頷く。

イムセティは全力で突進した!


「……いいでしょう!ではこれを受けてご覧なさい。受けられるものなら!」

「真っ向勝負は騎士の誉れ!」


イムセティは△を描くような三段切りを放った!

シーザーは盾を捨て、両手で剣を握り締める!

……シーザーの力ずくの斬撃!

イムセティの剣は弾かれ、逆に鎧ごと袈裟懸けに切り裂かれた!


「……見事です。ですよね、陛下」

「ああ、正直この短期間にここまで伸びるとは思わなかった。こりゃ合格だろイムセティ」

「おとーやん!」

「お父さん、来てたの?お仕事は?」

「陛下?お父さん?……ということは、まさか……」


シーザーは一つ目の試練を突破した!


……。


≪勇者シーザー≫

私の目の前に王がいる。

……正確に言えばこの地は隣国からの租借地との事なので、

正確に言えばこの国の隣国の国王と言う事になる。


「それで?こいつの実力は扉の向こう側に居る連中に通じるのか?」

「はい。大丈夫でしょう……敵将にさえ会わなければ」

「それってボスには勝てないって聞こえるお」


「にゃおおおおおん……ごろごろごろごろ」

「スピンクス、元気そうね?ふふ、巨体のゴーレムの癖に甘えん坊さんなんだから」

「クレア、スピンクスはサンドール王家の守護者。真に女王たるお前にならば傅いて当然なのです」


しかし良く判らない。

この国はトレイディア、クレアさん達の国はリンカーネイトと言う筈。

なのにクレアさんの事を人はサンドールの王女と呼ぶ。

はて、いったいどうなっているのやら。


「しりたい、です?」

「ならば教えてあげるであります」


背後から声がかかる。

いつの間に後ろにいたのかアリシアさんとアリスさんがニマニマしていた。

子供に見えるが彼女達はクレアさん達の叔母に当たる。

私よりも年上の可能性もあるならば一人前のレディとして扱わねば失礼に当たるだろう。


王宮勤めで一番最初に身に付いた出来る限りの優雅な一礼。

各家のご婦人方のご機嫌を損ねないよう必死に覚えたものだが世の中何が役に立つか判らないと思う。


「これはアリシアさん、アリスさん。ご機嫌麗しゅう」

「いえいえ、どういたしまして、です」

「シーザーは真面目でありますねぇ。とりあえず、細かい所はごにょごにょ……」


……聞かないほうが良かったかも知れない。

本国は公国級なのに王国級の支配地域を幾つも持っている連合王国。

それがリンカーネイトの正体なのだ。


現在存在する構成国家はレキ大公国・ブラックウイング大公国・シバレリア大公国・モーコ大公国。

そしてサンドール王国・ルーンハイム王国(旧マナリア王国)の六カ国。

更に、次期国王であるグスタフ王子と、トレイディアのガーベラ王女との婚約により、

数年後にはこのトレイディア王国もその版図に加わる事になっているのだという。

しかもそれでこの大陸が一つに纏まるとの事。


……もしかしたらいずれアラヘンのように世界が一つに、

などと思ったが、それについては否定された。


「うちのやりかた、こくみんにあまい、です。ちいさなくにのうちは、よかったです、が」

「今のままだと次の世代辺りから増えてくる増長した連中に、国ごと食い潰されるであります」


何故それが判っていて変えられないのだろうか。

いや、一度上げた生活水準をそう容易く落とせはしないか。


昔……アラヘンに手漕ぎポンプの井戸が無かった頃、水汲みは重労働だった。

城で使う水を、井戸に桶を下ろし持ち上げる労働を幾度と無く続けるだけで用意せねばならないのだ。

私が子供だった当時、その仕事は嫌われ者や立場の弱いものの仕事だった。

立場の強い使用人はそれよりは楽な仕事に従事していたのを覚えている。


……水が楽に汲めるようになった途端それは一変し、今度は立場の強い使用人が水を汲むようになった。

そしてポンプが壊れた時、

直るまでの間また立場の弱い使用人が桶を井戸に下ろすことになったのだが、

その時彼らはこういったのだ。


"早くポンプが直らないかねぇ"と。


ポンプが直れば結局別な仕事に回されるだけだ。

彼らに益は無い。

元よりは楽な仕事では?と言う意見もあるが、

なれない仕事は却って大変そうに私には見えていたのだ。


だが、彼らに言わせればもっと楽に出来るのにこんな苦労をするのは馬鹿らしい、との事だった。

……長年勤しんで来た仕事だと言うのに。


「何時か、ご飯を貰えるのが当たり前だと思う連中が出てくるであります」

「そして、もっともっと、いろんなもの、ほしがるです」


「そのときは、くになんか、すてちまえって、にいちゃ、いうです」

「大切なのは家族の幸せ。こっちを敵対視する国民なんてもう家族じゃないでありますからね」


しかし、だからと言って国ごと捨てようという彼女達の言い分は良く理解できないが。


「いまさら、しょくりょうはいきゅう、やめられない、です……はんぱつ、すごくなる、です」

「今は嗜好品の為に働くから一応バランスが取れてる。でも何時かそれもただで欲しがるであります」

「……あなた方は人を信じているのですね。人の悪意を」


だから何の気負いも無くそんな事をいえる彼女達に私は空寒い物を感じたのである。

国民は国と共にあるものだ。例え王が王足りえずとも臣たれ。

私は子供の頃からそう教えられてきたのだから。


……。


「……では、陛下ご自身が出られるのですか?」

「不服かイムセティ?」


「いえ。陛下がお出でとあれば何の心配もありません。ご武運を」

「よし!では試練の第二部は俺が引き継ぐ。シーザー・バーゲスト!」

「は?……はっ!」


はっとした。

国王陛下が私を呼んでいる。


「ちょっと、はなしこみすぎた、です」

「長い説明ゴメンであります」

「いえ、大変ためになりました。有難う御座います。それでは!」


小さなレディ達にまた一礼をすると私はリンカーネイト王の元に向かう。

……武人肌の王のようだ。黒と金の鎧をまるで普段着のように着こなしている。

さて、次の試練とは一体?


「さて。俺がリンカーネイト王カール・M・ニーチャだ。カルマで良い」

「はっ!陛下。ご尊顔を拝する栄誉に預かり光栄至極」


「……ではシーザー。お前にはこの先に何が見える?」

「はっ!扉ですね。それもかなり大きく頑丈な」


地下4階の最奥部にはその先へと続く階段を塞ぐかのように巨大な鋼鉄の扉が……、

……今、振動しなかったか!?


「気付いたな?」

「は、はい……揺れております国王陛下」


やはり、揺れているのだ。

しかし何故!?


「……この先に身の程知らずにもここに攻め込んできた馬鹿の軍勢が居る」

「まさか!魔王ラスボス!?」


リンカーネイト王がゆっくりと頷いた。

……奴等、もう来ていたのか!


「陛下!奴等は私を追ってここまで来たものと思われます!私は奴等と戦わねば!」

「馬鹿言うなお!扉を開けたらなだれ込んでくるお!」


無茶は承知だが、私がやらずして誰がやる!?

元々私が呼び込んだ災厄なのだ。せめて数秒の時間があれば表には出られる。

元よりその後は扉を閉めてもらっても構わない……!


「……シーザー。ラスボスの軍勢を突破し敵将に到達せよ。これが第二の試練だ!」

「おとーやんが無茶苦茶言ってるお!?まあ何時もの事なのらけど……」

「お父さん!シーザーさんに死ねって言うの!?」


クレアさん達が抗議の声を上げるが、

どちらにせよ、私は駄目と言われても突っ込んでいく気だった。

それが試練だと言うのなら丁度良い。


「行きます。行かせて下さい国王陛下!」

「そんな!?」


「クレアは心配するな。俺が引率するから」

「本当に心配なくなったお!」

「なんだ。それなら問題ないね。シーザーさん、父に付いて行けば大丈夫ですよ」

「え……と。それは国王陛下直属の軍勢が共に来て頂けると言う事ですか?」


それならば確かに心強いが、それでは試練にならないような気も。

いや、侵略軍が迫っているのだ。

細かい事など言っている場合ではないのか?


「いや?付いて行くのは俺一人だが」

「むしろ陛下の突撃についていける兵はそう多くないですからね」

「……あの、国王が敵軍に単騎突入すると言っているように聞こえるのですが?」


正気か!?いや、本気なのか!?

確かに今も扉からかんぬきが抜かれようとしているし、

クレアさん達も後ろの方へ下がっていった。

更に兵達が半円の陣を組んで敵の突破を押さえようとしているのはわかる。

だが、王自身が敵陣へ突入。だけでも理解しかねるのに、

しかも単騎で……など、無謀以外の何物でもない!


「死ぬ気ですか貴方は!?」

「むしろ殺る気が満ち満ちているが何か?」


しかも周囲が"またか"とでも言いたげなほどに慣れているのが恐ろしい。

彼らは自国の王が戦死されたらとか考えないのか!?


「ふう、意外と扉が早く破られそうだな。こりゃ俺が出張ってきて正解だ」

「アリサ様の見立てが間違っていなかった、と言う事でしょう。さすが我が国の黒幕様ですね」


「違いない……アリサの奴、後で小突いておくか。せめて俺には正確な情報を寄越せと小一時間……」

「あり姉やんだったら、全部知ったら面白くないとか言い出すお。無駄な事は止めるお、おとーやん」

「あの!?本気で王が単騎突入する気ですか!?後詰の兵は!?」

「シーザーさん?父なら何の心配も要りません。むしろ貴方が付いて行けるかが心配なくらいですよ」

「まあ、心配は無用です……陛下!ご武運を!」


そして本当に巨大な鋼鉄の扉が開かれていく。

迷宮の上層より兵士が駆けつけてきたが、彼らは本当に迎撃に専念する気のようだった。

……信じたくは無いが、これは本気だ。

私はリンカーネイト王と共にたった二人で敵陣に攻め入らねばならないのだ。


「シーザー、とりあえず俺は軽く流していく。遅れるなよ」

「……魔王ラスボスは軍勢も強力無比。決して侮られませんように」


私の言葉に国王は笑う。


「ああ。知ってるよ……確かに一般兵には相手にさせられないな。確かに強力な兵が多い」

「一般兵には、ですか?・・・・・・くっ、敵がなだれ込んできたか!」


私がその言葉の意味を本当の意味で知るのは、

そのすぐ後の事であった。

そして私は思い知る事になる。

不条理とは本当に何処までも不条理であると言う事を。

そして、何故彼の王が魔王の軍勢の強さを知っているのかと言う事を……。



『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』



開きかけていた扉が外側に吹き飛ぶ。

まるで時が止まったかのような一瞬の停滞。

火の玉のような何かが下階へと飛んで行き、そして消えていく。

そして肌に痺れが走った瞬間、

……視界全てが白く染まった。


……。


「い、一体何が……!?」

「……!……!?」


気が付くと迷宮の床に仰向けに倒れていた。

イムセティ総督が私の肩を強く揺さぶっている。

何か叫んでいるようだが、何も聞こえない。

……ああ、耳をやられているのか。


「……すか?……いじょうぶですか!?」

「大丈夫、です……」


頭を振って起き上がると鋼鉄製の巨大な扉がひしゃげて転がっていた。

国王陛下は既に先に進んだのだと言う。

総督に肩を貸してもらい先に進んで、

壊れた扉の先、焼け焦げた階段を降りていくと……私は圧倒された。


「これは……」

「地下5階は異世界からの侵攻に対する防衛ラインなのですよ」


生気を失った両腕を大きく広げ、イムセティ総督が少し自慢げに言う。

そこは、まさに巨大地下空洞と呼ぶに相応しい空間だった。

これといった罠は無い。代わりに天井に小さな穴が空いていて、そこから矢が降り注いでいる。


「第一王女様のお力により異界よりの侵入者はこの迷宮奥地にしか転移出来ないようになっています」

「それなら完全にシャットアウトした方が有効なのでは?」


「完全に入れないのなら敵対者は結界破りをしますよ。穴があったほうが御し易いのです」


そう言って総督は迫ってきたワーウルフに槍を突き立てる。

そう言うものなのだろうかと思いつつ、私も剣を振るった。

次々と攻め寄せる敵を切り伏せつつ少しづつ先に進もうとしていると、

突然前方に巨大な火の海が出現し、魔王軍の流入が止まった。


「陛下の"火球"(ファイアーボール)でしょう。さて、これなら先に進めますね。武運を祈ります」

「有難う御座います……奴等は私が呼び込んだようなもの。この世界の方々には本当に……これは?」


総督に礼を言い、先に進もうとした私に差し出される小瓶。


「傷薬です。姪を助けて頂いたせめてもの礼ですよ……今日でなくとも何時かきっと必要になるから」

「宜しいのですか?」


「ええ。クレアは我がサンドールの希望。アルカナ様は第一王妃殿下の愛娘ですからね」

「感謝します!」


それを受け取り、私は走り出す。

これは魔王ラスボスとの戦いであり、同時に私に対する試練でもある。

本来試験官であるイムセティ総督がここまで着いて来て、

更に薬まで用意してくれたのは本来良く無い事のように思う。


「では、私はここまで……さあ、行きなさい。私は後続が来るまで地下四階を守らねば」

「お世話になりました!」


それでもここまでしてくれたのだ。

その心意気に応えずして何が勇者か!


……。


所々に焦げ跡の残る地下迷宮を行く。

目印は視線の先で時折上がる炎。

時折ワーウルフや更に強力な亜人種であるワータイガーが襲い掛かってくるが、

敵が傷ついている事もあってか何の問題も無く先に進める。

特にワータイガーは本来一対一でようやく倒せるレベルの相手のはずが、

かなり弱っているのか4~5回の斬り合いで討ち果たせていた。


「お。追いついたか?」

「国王陛下……」


そしてリンカーネイト王に追いついた所で私が見たもの。

それは。


「お前……お前は一体何者なんだよぉ!?」

「カルマだ。覚えておけ」


大地にのたうつ巨大な……ヒル。

体の太さだけで私の倍もある文字通りの巨大な軟体生物だった。


「俺は魔王ラスボス様に仕える四天王ヒルジャイアント!」

「第何席だよ。言ってみろ巨大ナメクジ」


「……四天王だ」

「つまり第四席か。四天王では下っ端なんだな?そうなんだな?」


「うがああああああああっ!うるせえええええええっ!」

「そら、デコピン」


「ウギャアアアアアアアアッ!?」

「そういや10年前、上司見捨てて泣きながら逃げてなかったかお前……」


あの巨体がひしゃげて吹っ飛んだ!?

一体国王陛下は何をしたんだ?

飛び掛られたところに軽く腕を伸ばしたように見えたが。


「くそっ、何もんだお前!このヒルジャイアントが手も足も出ないとは!……元々無いが」

「なんと言うかご愁傷様だな。とりあえず、飛んでけ」


そして無造作にそのぬめぬめとした体を親指と人差し指で掴むと、

まるで小石を放り投げるように吹き飛ばした!

飛ぶ、飛ぶ、落ちる、轟音と共に転がる。

そして多分仰向けで痙攣し……暫くしてからようやく起き上がった。

まるで相手になっていない!


「さて、シーザー。コイツがここの指揮官のようだ」

「は、はい。そのようですが」


……もう、私の出る幕など無いのではないだろうか。

どう見ても国王陛下は余裕そのもの。

今もワータイガー三体の攻撃を平然と受け続けている。

まるで、居ても居なくても変わらないとでも言うかのように。


「しかし、流石にうざったいな……それ、パチンとな」

「指を鳴らしただけで吹き飛んだっ!?」


そしてまるで馬が尻尾でハエを払うかのように面倒そうな動作で指をパチリと鳴らすと、

次の瞬間、私のところまで届く激しい衝撃。

鎧がグワングワンと音を立て、全身には張り倒されたような痛みを覚える。

衝撃に弾き飛ばされた兜を急いで拾い上げると、

気付けば至近距離に居たワータイガー達は全員死ぬか泡を吹いて気を失っていた。


「この微妙なレベルの相手だと加減が難しいな」

「化けもんだ!化けもんが居る!」


巨大な軟体動物が何を言っている!?

という気もするが、正直私も同意見だ。

何者なんだろうこの方は?


「さて、シーザー……お前の出番だぞ」

「……はっ」


そうだ。驚いている所ではない。

奴等はアラヘンを滅ぼし、今この世界に攻め込んできた侵略者だ!

国王陛下の自信の理由は判った。

これだけの力があれば、

魔王ラスボスはともかくとして配下の四天王などは文字通り一人で倒せてしまうのだろう。

だというのに今まで戦闘を長引かせていたのは……。


「私に、国の皆の仇を取らせて頂けるのですか!?」

「それもあるが……実際の所、主な理由はあまり褒められたものじゃないな」

「おいお前!俺を馬鹿にしてるのか!?手を抜いていたというのか!?」


……幾らなんでもそれに気付いていなかったのか!?

腰の剣は抜いていないしあの恐るべき威力の炎の魔術も使用していない。

その上明らかに体中の筋肉が弛緩しているではないか。

いや、違うか。そんな所まで見ている余裕が無いのだ。

迫り来る死の実感……受けた事が無くばその重圧に耐え切れまい。


「私はアラヘンの勇者シーザー・バーゲスト……四天王ヒルジャイアント、勝負だ!」

「……まあいい。ならせめてこの負け犬だけでもぶっ潰させてもらうか」


「負け犬か……」

「そうだ!お前の故郷は滅んだぜ、そして……次の標的を見つけてくれた以上お前はもう、用済みだ!」

「「「「「ブッツブセーーーーーッ」」」」」


国王陛下が後ろに下がったのを見計らったかのようにワーウルフとワータイガーの混成部隊が現れる。


「……卑怯な!」


圧倒的強者の影に怯えて主君を見捨てて戦いもせず逃げ!

挙句に与し易い相手と見るや出てきて徒党を組む、か。


私は盾を背中に背負うと剣を両手で構え、力を貯める。

卑怯者め!

我が家に伝わる家伝の妙技を……食らえええええいっ!



「秘剣、回・転・斬りぃっ!」

「「「「グヤアアアアアアアアッ!?」」」」



全身を一回転させ、全方位を一度に切り裂く!


その剣閃が舞った後、生きて残る敵は無し。

場合によっては敵から背中を切り刻まれる危険を孕むが威力は抜群、

そして360度を一度に切り払うが故に一体多数でその真価を発揮する。

これこそ我が家に伝わる奥義、回転斬りなり!


「ふん。人狼に虎人どもが一撃か」

「次は貴様だ、ヒルジャイアント!」


血糊で濡れた剣を三回ほど振り払って血を飛ばす。

そしてヒルジャイアントに向かって切っ先を突きつけた。


「魔王様に傷を付けたと言うのも頷けるな。丁度いい、お前を倒して今回の失態の穴埋めとしよう」

「舐めないで頂きたい!」


私の剣がヒルジャイアントの体に吸い込まれる!

切り裂かれた部分より血飛沫が飛ぶ!

……が、すぐに傷口は塞がり血も止まった。


「なっ!?」

「この再生能力こそ俺が魔王軍四天王になれた理由だ……残念だったな!」


そして、ゴロリ、と言う音と共に。


「その重装備では、避けきれないよなぁ?」

「うわああああああっ!?」


迫る巨大な影。

体勢は剣を振り切ったまま。

確かに避ける事も、防御を固める事も、出来ない。


私は、黒い影とその巨体に飲み込まれ、

……押しつぶされた。


……。


それからどれくらい経っただろう。

私は迷宮で誰かに背負われている事に気付いた。


「まさかあの攻撃から生き延びてくれるとはな……嬉しい誤算だ」

「国王陛下……?」


私は国王陛下に背負われ、地下四階への道を戻っている所だった。

全身の感覚は無い。

ただ、明らかにひしゃげている鎧兜の感覚から、己の敗北を知るのみだ。


「命も危ない所だったがな。まあ紙一重って奴だ」

「……私は、負けたのですか」


悔しいとかそう言う気持ちも湧いてこない。

ただ、あれだけ無様な所を見せていた相手にすら瞬殺される自分が惨めで、悲しいだけ。


「まあ正直あいつにはまだ勝てる訳が無い。気にするな」

「そうだ。ヒルジャイアントはどうなったのですか!?」


「……逃げた」

「そんな!国王陛下なら幾らでも倒せた筈……」


まさか、私を逃がすために止めを刺しそこなったとでも言うのか!?

だとしたら、私はとんだ道化だ。


「勘違いするなよ。どちらにせよあいつはここでは逃がす予定だった」

「え?」


敵を逃がす?しかも四天王を。

あいも変わらずこの世界の人間は何を考えているのか判らない。

ただ、どちらにせよ私には判らない理由がある事だけは判った。


「一つだけいえるのは、大事な事は与し易さだって事だ……で、どうする」

「どうする、と言いますと?」


そして、国王陛下はぴたりと立ち止まると真剣な面持ちでこう言われた。


「諦めるならそれも良しだ」

「……」


「俺達の力は良く判ってくれたと思う。お前が諦めてもこの世界は問題無い事もな」

「その場合、私はどうなるのです……元の世界に送り返されても居場所などありません」


そうだ。このまま諦めるというのなら私という存在はどうなる?

ここで逃げを打ったら私はもう勇者とも騎士とも名乗れない。

勇者でもない、騎士でもない私とは一体?


「唯の人として生きればいい。市民権はやるからごく普通に生きればいいさ」

「お断りします……私は、諦めない。一度折れても最後には必ず立ち上がってみせます!」


聞くまでも無い。

そうなったら私は死ぬ。間違いなく自分で自分を許せないだろう。

生きた屍となるくらいなら、最後まで戦って前のめりに倒れたい!

……そうだ。一度や二度の敗北で諦めていられるか……!



「よし、合格だ!」



と、そう考えた時だ。

国王陛下の何処か嬉しそうな声が聞こえてきたのは。


「いいだろう。ならばこの迷宮を有効に使い、魔王ラスボスと戦えばいいさ」

「宜しいのですか?国王陛下が直接動いた方が楽に問題が片付くのは間違いないように思いますが」


それは私の本心だった。

どう考えても国王陛下だけで四天王の一人や二人は倒せそうだ。

勇将の元に弱卒無し。

魔王ラスボスといえど、彼の王に仕える騎士達なら全力で挑めば間違いなく勝てる。

私に戦わせるなど無駄の極みのような気がするのだが。


「最近小うるさい利権団体が五月蝿くてな……どっちにせよ暫くは守りを固めるしかないのさ」

「国内の意見集約ですか」


なるほど。私に許されたタイムリミットは、国王陛下が国論を統一するまでの間と言う訳か。

いいだろう、やって見せようではないか。

我が名誉のために!


「別に強権発動してもいいんだが、そうなると連中鬼の首を取ったかのように喜びやがるからな」

「何処の世界にも自分の事しか考えない連中は居るものです。ご心痛お察しします」


「まあ、いざとなったら国の方を切るから問題は無い……さて、立てるか?」

「は、はい」


そういえばまだ背中に背負われたままだった。

ゆっくりと降ろされると、国王陛下はニヤリと笑う。


「そうだ。丁度いい……お前、魔法に興味はあるか?」

「はあ。魔法ですか?」


魔法か。確かに使えるのなら使えた方がいい。

しかし、今まで剣術一本で来たのだ。

今更それに時間をかけるよりは剣を降る時間を増やした方がいいと思うのだが。


「もし興味があるなら俺が使えるようにしてやるが?お前には確実に才能があるはずだからな」

「……はあ、では一度だけ試してもらって宜しいですか?」


とは言え、折角の国王陛下の行為を無にするのもな。

とりあえず一度だけ教わってみるか。

結局私の非才により出来ませんでした、なら向こうの面子も潰さないだろう。


「よし、では『管理者ファイブレスの名の下に彼の者に魔力の使用権限を与える』っと!」

「はい。ではまずどうすればいいのですか?とりあえず今日は体がボロボロで余り無理は……」


そう思っていたのだが……。


「うん。では両手をこう組んで……とりあえず、で、こう叫べば……よし、やってみろ」

『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』


組み上げた手の先から炎が飛んで行く。

勿論国王陛下のものには遠く及ばない。

だが、全くの素人であるはずの私の腕から魔法が……。


「……なんですかこれ?」

「火球(ファイアーボール)の魔法だ。まあ基本中の基本だと思ってくれればいい」


「いえ、そうでなくてなんでこんな簡単に」

「俺が認めたからな。魔力の自然回復はしないから切れたら……話は通しておくから教会に頼め」


「……いえ、ですから……いえ、なんでもありません……」

「よし。今度会う時は別な魔法を授けよう……魔法も使い方次第だからな。頑張れよ」


「は、はい」

「今後は地下一階から行ける別なフロアへも入場可能だ……この奥へは自信が付いたら潜るといい」


そう言って、呆然とする私を尻目に国王陛下は行ってしまった、


しかし何故あんな簡単に……いや、細かい事は考えるな。もっとポジティブに行こう。

即物的だが新たなる力が手に入ったのだ。

あのヒルジャイアント、あの軟体具合では炎が弱点の可能性は高い。

魔王軍に一矢報いる切り札が増えたと思えばいいのだ。

うん。理不尽だと思うべきではないな。


「魔王ラスボスーっ!母の仇なのだナーっ!」


む?

今誰か私の後ろを通り過ぎなかったか?

誰も居ないか……きっと気のせいだ。

ああ、今日は疲れているな。

もう部屋に戻ってゆっくりと休む事にしよう……。


続く


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