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No.16894の一覧
[0] 隔離都市物語(完結)[BA-2](2010/07/10 14:34)
[1] 01 ある勇者の独白[BA-2](2010/03/02 23:23)
[2] 02 とある勇者の転落[BA-2](2010/02/28 20:44)
[3] 03 隔離都市[BA-2](2010/03/16 20:54)
[4] 04 初見殺しと初戦闘[BA-2](2010/03/08 22:41)
[5] 05 過去の過ち[BA-2](2010/03/16 20:55)
[6] 06 道化が来たりて[BA-2](2010/03/28 22:23)
[7] 07 小さき者の生き様[BA-2](2010/04/15 16:09)
[8] 08 見えざる敵[BA-2](2010/04/20 15:46)
[9] 09 撤退戦[BA-2](2010/04/20 15:52)
[10] 10 姫の初恋[BA-2](2010/05/09 17:48)
[11] 11 姫様達の休日[BA-2](2010/05/09 17:53)
[12] 12 獅子の男達[BA-2](2010/05/09 18:01)
[13] 13 戦友[BA-2](2010/05/26 22:45)
[14] 14 形見[BA-2](2010/05/26 23:01)
[15] 15 王達の思惑[BA-2](2010/06/16 08:08)
[16] 16 マケィベント戦記[BA-2](2010/06/16 08:09)
[17] 17 名声と弊害[BA-2](2010/06/16 08:10)
[18] 18 連戦[BA-2](2010/06/12 16:12)
[19] 19 まおーと勇者[BA-2](2010/06/15 18:33)
[20] 20 自称平和な日々[BA-2](2010/06/18 23:45)
[21] 21 深遠の決闘[BA-2](2010/06/23 23:24)
[22] 22 最後の特訓[BA-2](2010/06/26 12:14)
[23] 23 故郷への帰還[BA-2](2010/06/27 22:44)
[24] 24 滅びの王都[BA-2](2010/06/29 20:34)
[25] 25 これがいわゆる"終わりの始まり"[BA-2](2010/07/01 19:18)
[26] 26 決着[BA-2](2010/07/03 20:59)
[27] 27 勇者シーザー最期の戦い[BA-2](2010/07/06 18:37)
[28] エピローグ[BA-2](2010/07/10 14:33)
[29] 魔王召喚したら代理が出て来たけど「コレ」に頼んで本当に大丈夫だろうか[BA-2](2018/04/02 23:28)
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[16894] 04 初見殺しと初戦闘
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/08 22:41
隔離都市物語

04

初見殺しと初戦闘


≪勇者シーザー≫

古い灯台が私の目の前にそびえ立つ。

地下には迷宮があるとの事だが、

その他にも一階が屋台村と化している上、

二階以上はどういうわけか教会として機能している。

……不思議な建物だと思う。


「この先に下に続く階段があるお!降りれば早速迷宮だお!」

「いいっすか。王国管理下とは言え初心者殺しの即死トラップが山ほど仕掛けられているっす」

「……成る程、事実上の処刑場と言う訳か?」


「違うお!その先は危険すぎるから先に進める人か試してるんだお!」

「進めるまでは特訓あるのみっす」

「いや、それはおかしい」


即死の罠を食らったらやり直すも何も無いだろうに。


「迷宮のあちこちに救済用設備が用意されているんだお!」

「危なくなったらすぐ駆けつけるっす。それに地下一階には捕らえた山賊も配置されて無いっす」

「まるで地下二階以降にはそう言う輩が住んでいる様な物言いだな……」


いや、死刑以下の者達が集められている以上そうやって潰し合わせていると言う事か。

話から察するに鍛錬に潜るものも居るようだし、

殺しても良い敵役であり、本当の危険さをかもし出す仕掛けとしても有用な訳だな。

いや、良く考えたものだ。

……倫理観さえ無視すれば大したものだと思う。


「居るお!賞金を首にかけられても、殺されるまでは生きていていい事になってるんだお」

「まあ、問答無用で死刑よりはマシっすよね。それに」

「それに?」


「スリルを求めて他国からやって来る暇人とか、賞金目当ての狩人とかの落としてく金も美味いっす」

「戦闘を見物に来る暇なお金持ちも多いんだお。たまに返り討ちで身包み剥がされる人も居るお」


「まあ、一種のテーマパークでもあるって事っす」

「対価は自分の命だけど、無駄に人気もあるんだお。人はお馬鹿だ……ハー姉やんの受け売りだお」

「罪人の巣で命がけのお遊びか」


恐ろしい。しかも悪辣すぎる。

これを考えた輩の顔が見てみたいものだ。

こんな物を考え付くような頭の持ち主だ、きっと人間では無いだろう。

まあ、それはさておき。


「つまりだ。先に進みたくば地下一階では罠の避け方を覚えろと言う事だな?」

「そうっす。見事一番奥まで辿り着けたら、試験官兼地下よりの脱走防止用の門番と戦うっす」

「で、それに勝てたら先に勧めるんだお!」


まずは、先に進み障害を砕かねば先に進めないということだな?

……私とて山賊の巣となった自然洞窟の攻撃くらいこなしている。

魔王の軍勢に奪われた砦の奪還も二度三度とこなした事もある。

良かろう!この程度、今日一日で何とかしてみせようではないか!


「では、行こう!」

「おう!だお」

「さて、無事に最深部まで辿り着けるっすかね?」


「おせんにキャラメルー」

「焼き芋ー、石焼き芋ー、おいしいよー」

「一寸先は闇。迷宮に潜るならカルーマ商会の武具破損保険に是非ご加入下さい」

「女神を讃えよ!怒れる女神が再び魔王と化すのを防がんが為に!女神を、讃えよっ!」

「「「「女神ハイム万歳!ジーク・ハイム!我等に奇跡を!」」」」

「迷宮に入るならトイレットペーパーは必需品ですよー。備え付けは無い事がありますよー!?」


……周囲の喧騒に気がそがれるが、あえて気にはすまい。

そんな細かい事を気にしたら負けだ。

きっと負けなのだ……。


……。


「さて、階段を降りると早速扉か」

「ここには最初の初見殺しがあるお」

「姫様。教えちゃったら初見殺しにならないっす。今後は自重するっすよ?」


さて、灯台地下に潜ると言葉の通り大きな扉があった。

そして、備数合介武将殿が三人ほど死んでいる。

うん、間違いなく死んでいるな。

……今はそれ以上考えまい。


あ、いや、名前は武将ではなく大将だったか?

ともかく、


「見るからに危険そうだな……」

「さて、シーザー、あんたはこれをどう見るっす?」

「答えを教えちゃ駄目って言われたからアルカナは黙るお!お口にチャックだお!」


周囲は焦げ臭い。

そして死体は三つとも下半身に酷い火傷を負い、

更に脚に欠損が見られる。

と、なると。


「足元が爆発した、とでも言うのか?」

「当たりっす。入り口のすぐ奥に地雷原があるっすよ。何も知らないとここで早速お陀仏っす」

「因みに地雷とは踏んづけたら爆発する爆弾だと思えば良いお。シーザー、火薬は知ってるお?」


「……ええ、一応。成る程あれを地面に埋め込んでいるのか」

「踏んだら足が吹っ飛ぶ仕掛けっす。運が悪いと命も落とすっすよ」


足元を良く見ないと始まる前に終わると言う事か。

よく目を凝らせば、地面が僅かばかり盛り上がっているところがある。

恐らくその部分を踏みつければあのような目に遭うということだな。

……昨日知り合ったばかりだが、せめて彼等の冥福を祈るとしよう。


「とは言え、またいで通れば問題は無いのだろう?」

「そりゃそうっす。一応歩いて向こうに行ける余地は残してる筈っすよ」

「因みにアルカナならこうするお!」


そう言ってアルカナ君は走り出し、闇の中に消えていく。

……彼女の足元に幾つもの爆発音が続けざまに響いていった。

はて。あの爆発に巻き込まれたら足が吹っ飛ぶ筈では?


「アルカナ強い子元気な子!爆発なんて関係ないお!」

「強行突破っすね……それが出来るのは姫様達だけっすが」

「つまり、私の参考にはならないか」


どちらにせよあの子の真似をする訳にも行くまい。

私は普通に突破するべきなのだ。

何故ならここで今行われているのは結局の所初心者用の訓練なのだ。

ここで楽をしても、後々不必要な苦労をするだけだ。


「地道に行く。今の私に不当な近道は許されないのだ……修行でもあるのでな」

「真面目っすね。自分は姫様の進んだ跡を辿って行く事にするっす」


だから、私は……


「あ、シーザー、そこ!危険だお」

「ぐあっ!?」

「トラバサミ!?あったっすか?」


しまった、爆発を避けようとするあまり火薬の匂いのしない罠に対する警戒を忘れていた。

……まさに訓練だな。

心理的な隙を突いて隠した刃を突き立てる、まさに、

ん?

風を切る音……。


「えええええっ!?こんなの知らないお!?」

「丸太が飛んでくる罠っすか!?確か対象を吹っ飛ばす為の物の筈、っすけどこれじゃあ!」

「ぐうっ、トラバサミが外れ、ごほっ!?」


通路の先から、このトラバサミの罠に連動していたであろう丸太が飛んでくる。

いや、正確に言うと振り子のように天井から落ちてきて、動けない私の腹に突き刺さり、


「ぐはっ!」

「た、倒れちゃ駄目なのら!後ろ、後頭部のあたりにさっき避けた地雷があるお!」

「無理っす!どう考えてもこれは、ああっ!」


……仰向けに倒れた私の後頭部の後ろで、

かちりと言う音が。


後頭部からの激しい衝撃。

そして、

私の意識は、

途絶えた……。


「酷いお!ハー姉やんより酷いお!初見殺しなんてレベルじゃないお!」

「うわぁ……ミンチより酷いっすね……」


……。


あたた、かい。

ここは一体……。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない!だが心折れる事無かれ!女神のご期待に沿う為に!」

「いや、黒幕はわらわではないのだが!?聞いてるかゲン!?おい!ちょっと!」

「シーザー……治ったお?」

「ええ、直ったっす。……あの、幾らなんでもやりすぎっすよ姫様」

「仕方ないよー。あの身の程知らずがもう尖兵を送り込んできてるしねー……時間が無いよー」

「あたしら、あのていどのてきに、でるわけ、いかないです」

「もっとやばい奴、近くに沢山居るであります。気づかれる訳には行かないであります」


意識がはっきりしない。

私は、確か……。


「まだだめ、です。さいりょうのけつまつのため、まだ、めだつのはだめ、です」

「時間と歴史を操れる敵は厄介であります。こちらの最大の有利な点を潰されかねないであります」

「勝てる算段は付いてるよー。でも、勝つための準備は必要だからねー」

「てきに……まんいち、かのうせい、あったら、それを、ひゃくぱーせんとに、されるです」

「つまり、こっちの勝率100%を崩す訳には行かないでありますよ」


「辛いっすね……今や小指で捻れる相手に好き勝手させなきゃならないって」

「しかたない、です」

「シーザーには頑張ってもらうであります。せめて後で部屋にコーヒー持ってくでありますよ」


「ともかく、ひみつりのこうどう、だいじ、です」

「例え相手が一度勝った相手だとしてもであります。当時はラスボスも強敵でありましたし」

「兵数に圧倒された10年前とは違います。ですがそれを敵に悟られるのは愚策なのですよね女神様」

「ふん、わらわの張った結界の効果で敵は迷宮内部にしか門を開けん。守るだけなら楽な筈だ」

「女神様。勇者殿がお目覚めになりそうですよ?そろそろ機密の話はお控えになられないと」


……勇者。

勇者とは……ああ、私だ。

目覚める?

私は、眠っているのか?


「うむ。ゲン司教……では今後、こ奴の蘇生はお前に一任する」

「はい。しかし宜しいのですか女神様?蘇生用神器の作成は世界の寿命を大量に削るのでは……」


「はっ。これはラスボスの故郷で作った代物だ……ハピも随分乗り気だったぞ?まあ、当然だがな」

「ああ、あれは酷い戦でしたな……女神様の身内の方からも殉教者が出るほどに」


「殉教でもなんでもない。わらわの指揮がお粗末だっただけだ。それと、わらわは魔王ぞ?」

「……まおう?」

「あ、シーザー起きたお」


今、とても大事な事を彼女達が言っているような気がする。

それに、魔王?

確かこの世界にもハインフォーティンとか言う魔王が居ると言う話であったが……。


「ああ、お前が知る必要の無い汚い話だ、と言う事で"洗脳"(ブレインウォッシュ)!」

「今暫くお休みなさい。女神様の御許で……」

「せかいはすくってあげるです。まおうもたおさせてあげる、です」

「あのままラスボスに殺されるよりはずっと良い結末を用意するであります、だから……」

「もう少し、苦労して強くなってもらうよー?心さえ折れなかったら絶対強くなれるからさー」

「うむ。ではわらわは行くぞ……クレアパトラの様子も見てこねば」

「ハー姉やん。クー姉やんに元気出せーって伝えておいて欲しいお!絶対だお!」


「ああ、判った判った馬鹿妹よ」

「アルカナ馬鹿じゃないお!訂正するお!」


ああ、記憶が壊れる。

バラバラにほどけて行く。

ああ……私は……。


……。


む?

私は、一体何を考えていたのだったか?

いや、それ以前にここは……。

この壁の質感、灯台の中か。

しかも良く見ると上層階の教会内部?


「シーザー!目、覚めたのら!?」

「いやあ、まさか入り口でいきなり死んでしまうとは予想外だったっすね……あはははは……」

「おお、勇者よ死んでしまうとは情けない!だが心折れる事無かれ!女神のご期待に沿う為に!」


確か私は、

そうだ。地雷と言うもので頭を吹き飛ばされて……。


「我ながら、よく生きていたものだな」

「いや、死んでたっすよ」


そうか。そんな大怪我を負っていたか。

しかしその割りに怪我の跡なども無いな。

……さて、私は一体どれだけの期間眠っていたのか。


「30分も目を覚まさないから心配したお」

「……ということは、迷宮にはまだ潜れるな?」

「時間的には可能っす……つーか、普通なら気持ちが折れてる所っすが大丈夫っすか?」


「今更折れるプライドなど、私には無い」

「誇りの問題じゃないっす……いや、大丈夫ならそれで良いっすがね」

「じゃあ早速また潜るお!ゲン司教。シーザーの治療、大義であったお!」

「はい。お気をつけて」


軽い問答の後、この教会の責任者だと言うゲン司教と言う老人に礼を言うと、

私達は再び地下へと足を進める。

それにしても私の首輪を見ても気にせず治療を施してくれるとは。

何とも心の広い教団だと思う。

実際の所はアルカナ君の七光りなのだろうが、それでも今の私にはありがたいことに変わりない。

感謝をしつつ再び地下に挑もうではないか。


「今度は引っかからないように注意するお!あ」

「……姫様が引っかかってどうするっすか」

「いや、それ以前に助けないと!」


先ほどの罠に今度はアルカナ君が引っかかる。

体が小さいせいでトラバサミが首に食い込み、

丸太が顔面に直撃し、

だが、その小さな体のお陰で地雷が爆破せずに済んだようだ。

頭部の上の方で、待ち構えていた爆発物が何処か寂しそうにしているように私には見えた。


「……痛いお」

「私としてはあれを痛いの一言で済ませる君が恐ろしい」

「まあ、アルカナ姫様っすからね」


なんにせよ、最初の罠を乗り越えた私達は迷宮の奥へと進んでいく。

……ん?

今足に何か引っ掛けたような。


「トラップワイヤーを切っちゃったのら!」

「こんな普通の通路に仕掛けるとかなに考えてるっすか!?」

「何が起きるのだ?」


ころころ。


「わかんないお!でも何かの罠が起動したのは間違いないお!」

「唯の警報とかだといいんすけどね……あ、自分は巻き込まれるとやばそうだから一時退避するっす」

「ん?足元に何かが転がってきたが」


拾い上げる。

何だろう、この手のひらサイズの物体は?


「パイナップルだお!」

「……随分小さいな。食える所があるのか……などと言うか!」

「当たりっす!投げるなり何なりして体から離すっす」


また火薬の匂いがしていたぞ!

っと、爆発だ。予想通り。


「グレネードが天井からぶら下がってたみたいっすね」

「おとーやんの言う、剣と魔法の世界にあるまじき代物だお!」


グレネードと言う代物もまた、爆発する武器だったのか。

警戒していなければ珍しい物だなと、掌で転がして鑑賞していた所だ。

流石にそこで爆発されたら命はないだろう。

だが、似たような罠に一日に二度も引っかかるものか。


「ともかく、焦げ臭い匂いには要注意と言う事だな?」

「少なくともそれは当たりっす。でも、それ以外にも」

「部屋入り口の血痕を見落としてるお!良く見るお!」


確かに今入った部屋の入り口付近に血痕が残っているな。

……近くに敵でも潜んでいるのか?二人とも部屋に入ろうとしないが。

ん?地震……?


「あっ」

「部屋ごと落ちて行くお!」

「ああ、あれっすか」


突然、足元が消えたような感覚。

いつの間にか床が凄まじい勢いで下降している。

しかし一体何を……。


「あれ?落ちきってもトゲトゲが出てこないお?」

「おかしいっすね。あ!判ったっす姫様、身を乗り出すと多分危険っす!」


突然急降下した床に驚いていると今度はガコン、と言う音がした。

じわっと床が競り上がり、元の位置に戻らんと加速していく、

そして、今度は元の高さを超え更に上に……。


「あ、天井にトゲっす。中央から円を描くようにぎっしりっすね」

「あちゃー、だお」

「うあああああああああっ!?……ぐばっ!」


そうして私は意識を失う。

最後に見た光景は、私を天井のトゲに突き刺したまま、勝手に元の高さに戻っていく部屋の床。

そして、眼下で頭を抱えるレオ殿の姿であった……。


……。


「さて、と言う訳でまたあの部屋に戻ってきたお!」

「今度は引っかかりはしない……だが、どうやって先に進むのか」


「答え言うっすか?」

「いや、私自身が解決せねば意味が無いのだろう?」


目覚めると、また教会。

司教殿の激励に礼を言うと私はまた先ほどの部屋の前までやってきていた。

しかし、足を踏み入れるとまた同じ目に会うのは明白。

どうやって突破するべきか……。


「……ここは強行偵察だお!」

「あ、アルカナ君!?」


考え込んでいるとアルカナ君が部屋の中に駆け込んでいく。

そして、部屋の中央付近に達した時、また部屋が沈み込んでいった。


「くっ、このままでは!」

「いや、あれもまた一つの回答っす」

「だおーーーーーーっ!」


しかし、部屋が沈み始めてもアルカナ君は止まらない。

走って走って部屋の逆側に……、


「ジャンプだおーーーーーッ!」

「向こう岸に手が掛かった!?」


そして落ちていく部屋を尻目に出口に飛びついてよじ登り、

無理やり突破したのである。

成る程、これなら部屋ごと落ちようが持ち上がろうが関係ない。

正しく力押しだが目的を果たせているのだからそれでいいのだろう。

しかし、重装備の私には出来ない真似だな。

私自身はどうやって先に進めばよいのやら……。


「さあ、シーザーも同じようにやるんだお!」

「ん?今またガコンと音がしたような」

「ああ、成る程。二段落ちっすか」


二段落ち?

いや、むしろ落ちているというよりは、


「あるぇええっ!?この部屋も持ち上がって……ぷぎゃあああああっ!?痛いお!痛いおーーーッ!?」

「ふ、二つ目の部屋が持ち上がった……アルカナ君!?大丈夫なのか!?」

「罠を乗り越え安心した所に追撃のトラップ……相変わらず勇者育成コースは鬼のような難易度っす」


私達が見ているしか出来ない所で、二つ先の部屋の床が持ち上がり、

ぐしゃりと言う嫌な音を響かせた後、元に戻った。


「ふえええええぇぇん!痛いお!体中穴だらけで痛いんだお!」


……アルカナ君が血塗れで泣き喚いている。のは無事生きていたのでとりあえず良いのだが、

あの子は何故あんな目にあって無事なのだろうかとふと疑問に思う。


「やれやれ、あのままあそこに居たら時間が経てばもう一回巻き込まれるっす」

「なっ!?何とかできないのかレオ殿!」


「じゃあ自分ちょっと姫様を迎えに行くっすね」

「ここを通り抜ける術があるのか?」


レオ殿なら突破法を知っていてもおかしくは無い。

本当なら私自身で考え付かねばならないのだろうが、子供の命がかかっているのだ。

ここは仕方ない。彼にお任せしよう。


「ちょっと助走付けて……飛ぶっす!」

「同じ作戦か…………どころじゃない!?」


任せたのは良いが、レオ殿は軽く後ろに下がって助走を付けると、

ダンッ!と言う勢いの良い音と共に吹っ飛んでいった。

そして、部屋に足すら付けずにアルカナ君の襟首を掴んで、

そのまま二部屋分を跳び越してしまった。

……そんなの有りなのだろうか?


「た、助かったお!酷い目に遭ったお!」

「さあ、シーザーもやってみるっす!」

「……出来る訳無いだろう!?」


しかし本当に人間なのかこの御仁は!?

さっきのアルカナ君以上に非常識な……いや、まさかこの世界ではこれが普通!?

まさか住んでいる人々全員が怪物じみた力の持ち主なのか!?


「ああ、まともな人じゃ無理っすよね」

「じゃあ大ヒント!上のトゲをよく観察するお!」


部屋の上のトゲ?

見上げると先ほど私を串刺しにしたトゲが相変わらず刺々しい姿を見せつけている。

トゲは部屋の中央から円を描くように均等に配置され死角など何処にも……あ。

円を描くように配置されていると言う事は。つまり。


……私は部屋に足を踏み入れる。

そして部屋のはじを壁伝いに進んで、部屋の角に陣取った。


「おっ、判ったっすね」

「ああ」


部屋が落ち、そして持ち上がる。

金属質の音が響く中、部屋が落ち、一気に急上昇。

そして、棘の先端と部屋の床がガキンと音を立てる。


「そうっす!罠ってのは製作者は素通りできるように出来てるものっす!」

「きっと突破口はあるのら。何事でもそうなのら。覚えておくのら!」


だが、私は部屋の隅でしゃがみ込んでいる。

円を描いて配置されたトゲはその形状ゆえに部屋の四隅には存在していなかった。

そう、そこに居れば取りあえず串刺しにされることは無い。


「後は、部屋が落ちてまた登るまでに先に進めばよい、と」

「そうだお!」

「さ、次の部屋っす。降りて……が無いから時間制限厳しいっすよ!」


先刻承知だ。

私は次の部屋に足をかけると一気に部屋の隅に走りこみしゃがむ。


「あ、やらかしたお」

「……まあ、想定内っすね」

「ん?」


不審に思い天井を見上げる。

……迫り来るトゲ。


「なあっ!?今度は隅にもトゲがある!?」

「今度の安全地帯は真ん中だお!因みに隅っこでしゃがんだ後だと間に合わないようになってるお!」


くそっ!同じ手は通用しない。

そう言う事なのだな!?

くっ!?トゲが、迫って……!


……。


「……さて、次は何だ?」

「精神力は物凄いっすね。普通はもう心が折れてるっす」

「お次はバトルだお!用意された敵と戦うんだお!」


結局、また教会から出直した私は再々度の挑戦であの落ちる部屋を突破する事に成功した。

多少眩暈のする中、それでも次なる試練は迫る。

次は、戦闘か。


「私とて基本は押さえているし実戦経験もある。流石にここは……いや、油断は禁物だな」

「当然っす」

「あ、ほねほねが出てきたのら」


大きな広間の先に骸骨が骨だけで立っている。

そして、その奥には鉄格子があり更にその先に更なる地下への階段が見えた。


「あのスケルトンを倒せばいいのだな?」

「そうっす。ただしかなり魔法で強化されてる筈っすから気をつけるっすよ?」

「はいはいはーい!その前にやっておくべき事があるのら!」


相手は向こうから動かないようだし、戦闘準備か?

しかし今回は剣を抜けばそれで準備完了なのだが。


「おトイレがそこの部屋にあるんだお!先に済ませておくべきだお!」

「喉が渇いたら近くに自動販売機もあるっすね」

「……すまない。私には君達が何を言っているのか良く判らない」


ここは迷宮ではなかったのか?

どうしてトイレが?

それに自動販売機とは何だ?

自動?で何かを販売する、キ、とは何だ?


「お金を放り込んで欲しい商品のサンプル下のボタンを押すと買い物が出来るっす」

「ジュースとかコーヒーとか……あ、要は缶詰が売ってるお」

「缶詰?」


「そこからかお!?……食べ物や飲み物が鉄とかの缶に詰まってるから缶詰だお」

「姫様、カルチャーショック受けてる場合じゃないっす。この世界でも歴史の浅い代物っすからね」

「何故そんな面倒なことを。貴重な鉄をコップに使うなど……木製で十分と私は思うが?」


……殺気!?


「おばかなこと、いわないで、です」

「あたしらがこれを実用化するためにどれだけ苦労したと思ってるでありますか」

「何時の間に後ろを!?」


ふと気が付くと先ほどの子供達だ。

全く気配を感じさせないまま私の背後に回りこんでいる。

……何者なんだ?


「あり姉やん。シーザーが困ってるお。自己紹介するお!」

「アリシア、です」

「アリスであります。あーちゃんのおばさんに当たる……ねえちゃであります」


アルカナ君のように小さな姿。

突然現れた彼女達は怒りを隠そうともしないまま、

ぷんすかと両手を上げ下げしながらいきり立っている。

そして自動販売機の開発に当たっての苦労話と缶詰の有用性について熱く語りだした。


「つまり、缶に封印した食料品は腐るのが遅いと」

「そう、です」

「泥棒とかが出たり、色々大変なのでありますが利便性には変えられないであります」


「理解した。暴言を許していただきたい」

「おーけー、です。わかればいい、です」

「じゃ、頑張るでありますよー」


そうして、先ほどの自動販売機という大きな箱の前に連れてこられ、


「とくべつさーびす、です」

「ぺたっとな、であります!」


50%特別割引、と言う札を貼って、


「「じゃ!」」

「バイバイだおー」

「お疲れ様っす」

「凄い足の速さだな……」


二人のお子様は風のように去っていった。

……一体なんだったのだろう。あれは。

まあ、考えるだけ無駄な事なのだろうがな。


「取りあえず一息ついたら気を取り直してまた行くっす」

「おごるお!安売りで助かるお」

「これを持ち上げると……成る程、缶の上部に穴が開いた。良く考えられている、ぶはっ!?」


な、何だこの味は!?

しかも、舌が痺れる!

まさか毒か!?

それとも腐っているのか!?


「唯の炭酸だお」

「いや、知らない人だと驚くと思うっすよ?あ、それでいいんす。なれると癖になるっすよそれ」


……世界は広い。

いや、異世界だったなここは。

取りあえず酒の泡を強くしたような物だと考えよう。

多分だが、順応できないと数日以内に狂ってしまうような気もするし。


「兎も角そろそろ行こう。目的地はすぐそこなのだから」

「だお!取りあえず安売りの内に買いだめしてから行くお」


「やれやれ……卸売市場で箱買いすれば良いっすよ」

「それは盲点だったお!」

「……取りあえず行こう。時間が勿体無い」


私は剣を抜き放ち歩き出す。

……時間が無いのだ。

魔王ラスボスがこの世界に何時来るのかは判らない。

私はそれまでに、せめて彼の者を相打ちに出来るだけの実力を身に付けねばならないのだから。

そして、願わくば元の世界へと続く道を見つけ逆にこちらから攻め込みたいが、

そのための時間は、それほどあるとは思えない。

何度も言うが、私は時間が、惜しいのだ。


……。


殊更大きく作られた大広間。

その奥にて地下二階に降りる階段を守るのは骨のみで体を構成されるスケルトン。

魔王ハインフォーティンが髪のセットの片手間で作成したと言うそれは、

霊的な物ではなくむしろゴーレムなどに近い物だと言う。


「あれが門番か……シーザー、参る」

「自分達は見物っす。まさかあれに勝てない事もないと思うっすがね」

「あれはカーヴァーズ・スケルトン。特殊な攻撃はしてこないから頑張るのだおー」


私は剣と盾を構えながら部屋の中央へ進む。

それに反応したスケルトンもまた、階段の脇に立てかけられていた幾つもの武器の中から、

似たような剣と盾を持って前へと進んできた。


「行くぞっ!」


正面から突っ込んでそのまま必殺の刺突を……と考えて、

骨相手に当てるのは至難の業である事に気付き、

代わりに盾を構えたまま全体重を敵に叩きつける。


「シールドバッシュっすか」

「体当たりだお!」


……手ごたえが、無い?


「なっ!?」


サイドステップで回避されている!?

あんな骨だけの体でよくもあんな動きを!

いや、それだけで終わりのわけが無い。

振り上げられた剣が前のめりにつんのめった私の背中に叩きつけられる。


「……ぐうっ!」

「体制の崩れた所に一撃!まあ基本っすね」

「あれ?でも追撃できるのに下がったお」


筋肉が無いせいだろうか、その一撃は軽い。

一撃は鎧に跳ね返され大したダメージを受ける事もなく私は体勢を立て直した。

……スケルトンは後ろに下がって身構えている。


「一応訓練っすからね。いきなり即死コンボは使ってこないっすよ」

「……そう言う事か」


剣を構える。

こちらが武器を構えるのを見ると、敵はゆっくりとした足取りでこちらへと歩を進めた。


「威風堂々、だお」

「あれで生前はお山の大将だったんだって言うんだから驚きっす」


待っていても仕方あるまい。

また、こちらから仕掛けるか!


……。


≪RPG風戦闘モード 勇者シーザーVSカーヴァーズ・スケルトン≫

勇者シーザー
生命力95%
精神力40%(軽い衰弱)

カーヴァーズ・スケルトン
生命力0%
魔力90%(今回の戦闘用割り当て分)

特記事項
・カーヴァーズ・スケルトン手加減モード実行中
・ステータスのパーセンテージには深い意味はありません。目安程度にしてください。


ターン1

勇者シーザーが敵目掛けて突進!

スケルトンはシールドを前方に構えた。


「このおおおおっ!」


シーザーの攻撃は盾で防がれた。

スケルトンは相手の実力を測っている。

アリシアは手加減モード続行を指示した。

アリシアは壁の中に居る。


ターン2

スケルトンは無造作に剣を突き出す!


「私がそんな攻撃に当たると!?」


シーザーは剣を薙いで弾いた!

そして、その勢いのままシールドバッシュで敵を弾き飛ばす!

スケルトンは吹き飛んで壁にぶつかり、床に落ちた。

破損部品修復と再稼動に魔力を消費!


『おお、やるです。でもまだまだ、です』


アリシアは戦力評価を一段階引き上げた。

スケルトンの手加減モードが緩和された!


ターン3

スケルトンの攻撃!

スケルトンは立ち上がるや否や盾を構えて突進した!


「動きが変わった!?」

「少し本気出してきたお!気をつけるお!」

「さて、自分の戦術をどういなすっす?」


シーザーも盾を構え、正面から迎え撃つ!

盾と盾がぶつかり合った!


「おおっ!勝ったお!」

「骨だけじゃあ、重さが全然違うっすからね」


全重量が軽いスケルトンが一方的に吹き飛ばされる!

床に落ちた衝撃で大腿骨などの各部位が破損、

破損部品修復と再稼動に魔力を消費!

……手加減モード、解除!

アルカナは踊っている。


ターン4

双方、剣を振り上げる!

剣と剣がぶつかり合い、そして鍔迫り合いに発展する!


「正面からの斬り合い!騎士はかくあるべし!」


勇者シーザー、士気高揚!

相手の本気を物ともせず一気に体重をかける!

押し勝ったシーザーが体制の崩れたスケルトンに重い一撃!

胸部に命中!

スケルトンの肋骨が数本砕けた!


しかし、スケルトンはそもそも生きては居ない。

怯む事もなく踏みとどまると、そのまま反撃に移った。

振り下ろされる剣がシーザーの兜を強打し金属音が周囲に響き渡る!


「だから、何だというんだあああああっ!」


勇者の誇りがダメージと恐怖を押し止める!

勇者シーザーの再攻撃!

シーザーは更に一歩踏み出すと、渾身の力を込めて剣を振り上げた!


「このアッパースウィングで、終わりだっ!」

「いったお!」

「頭蓋骨を砕いたっすね!」


クリティカルヒット!

カーヴァーズ・スケルトンの頭部を粉砕した!

イエローアラート!

割り当て魔力残存量が50%を下回った!

修復、再起動用の魔力が足りない!

スケルトンは完全修復の為の休眠モードへ強制移行。


「……もう、動かない、な?」

「まあ、あれだけぶっ壊したら内部に込められた魔力も尽きるってもんっす」


破損部分の修復の為にスケルトンはその機能を停止した。

戦闘続行不能!


『あいてがつよいほど、もえるですか。すごい、です。ごうかく!』


勇者シーザーの、勝利だ!

勇者の精神力が30%回復した!


……。


≪勇者シーザー≫

ようやく動きを止めたスケルトンの首からぶら下げられていた鍵を取り外す。

これで、地下二階へいけるのだろう。

しかし、唯の骸骨かと思ったら中々の兵だった。

成る程、門番と言うのも伊達ではないらしい。


「しかし、門番を破壊してしまって良かったのだろうか?」

「すぐ直るっす」

「次のお客さんが何時来るか判らないから当然だお」


そう言えば残骸がさっきからカタカタと僅かに振動している。

残骸同士でくっ付いて再び本体目掛けて集まりはじめていた。

これなら心配は必要ないか。


さっそく鍵を開けて鉄格子を開ける。


「では、早速地下二階に」

「あ、だお」


そして一歩踏み出した時、私の体は床をすり抜けて落ちていった。

……何故だ?


「罠だお!初見殺し最後の刺客だお」

「門番を倒し、安心した所でか?」


「そうだお。見えてた床は幻だお!通路のはじっこしか通れないんだお!」

「……この迷宮、絶対に生かして帰す気がないだろう?」


「そんな事は無いお!シーザーが勇者だから特別に難易度が高いコースなんだお!」

「そうなのか……ところで」


「なんだお?」

「何で君まで一緒に落ちているんだアルカナ君!?」


「ノリと勢いだお!」

「何を言ってるのか判らないのだが」


そう、私達は落ちている。

ずっと、ずっと落ちているのだ。

む。下に何か見え、


……。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない!だが心折れる事無かれ!女神のご期待に沿う為に!」

「はい、装備だお。直しておいたお!」

「……取りあえず。今日はもう遅いし帰って休むとしようか」


気が付いたら私達はまた教会に居た。

何とか地下一階を突破した事だし、今日はもう休む事にする。

……心底疲れた。


「おう!だお。帰っておとーやんのお仕事手伝うお!お小遣い貰うんだお!」

「ところでアルカナ君はどうして無事……いや、何でもない」


こうして私の迷宮探索一日目は終わったのだ。

一体何度死に掛ければ気が済むのだろうか?

何にせよ、強くなったかどうかはともかく、罠に対する知識は増えたと思う。

まあ、悪い事ではないだろう。


「じゃあ、頑張るっすよ。また今度様子を見に来るっす」

「レオ殿。今日は本当にありがたく思う。また何かあった時は宜しくお願いする」

「かえるが鳴くから帰るんだお♪」


とにかく、さっさと部屋に戻ろうか。

それだけで地下奥深くまで潜らねばならないしな。


……。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない!だが心折れる事無かれ!女神のご期待に沿う為に!」

「……日に何度もすみません司教殿……」


余談ではあるが、宿屋の地下45階ほどでミミズの化け物に襲われ、

気付いたらまた教会の世話になっていた。


「あの。司教殿……」

「何も言いなさるな。貴方を助けるのは女神のご意思なのですから」


……心遣いがありがたいが、それ以上に申し訳ないと感じる。

既に夜はすっかり更けてしまっている。

朝までに部屋に戻れるのかと心配していた私がエレベーターなる施設の存在を知って愕然とするのは、

それから暫くしての事であった……。

続く


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