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No.16894の一覧
[0] 隔離都市物語(完結)[BA-2](2010/07/10 14:34)
[1] 01 ある勇者の独白[BA-2](2010/03/02 23:23)
[2] 02 とある勇者の転落[BA-2](2010/02/28 20:44)
[3] 03 隔離都市[BA-2](2010/03/16 20:54)
[4] 04 初見殺しと初戦闘[BA-2](2010/03/08 22:41)
[5] 05 過去の過ち[BA-2](2010/03/16 20:55)
[6] 06 道化が来たりて[BA-2](2010/03/28 22:23)
[7] 07 小さき者の生き様[BA-2](2010/04/15 16:09)
[8] 08 見えざる敵[BA-2](2010/04/20 15:46)
[9] 09 撤退戦[BA-2](2010/04/20 15:52)
[10] 10 姫の初恋[BA-2](2010/05/09 17:48)
[11] 11 姫様達の休日[BA-2](2010/05/09 17:53)
[12] 12 獅子の男達[BA-2](2010/05/09 18:01)
[13] 13 戦友[BA-2](2010/05/26 22:45)
[14] 14 形見[BA-2](2010/05/26 23:01)
[15] 15 王達の思惑[BA-2](2010/06/16 08:08)
[16] 16 マケィベント戦記[BA-2](2010/06/16 08:09)
[17] 17 名声と弊害[BA-2](2010/06/16 08:10)
[18] 18 連戦[BA-2](2010/06/12 16:12)
[19] 19 まおーと勇者[BA-2](2010/06/15 18:33)
[20] 20 自称平和な日々[BA-2](2010/06/18 23:45)
[21] 21 深遠の決闘[BA-2](2010/06/23 23:24)
[22] 22 最後の特訓[BA-2](2010/06/26 12:14)
[23] 23 故郷への帰還[BA-2](2010/06/27 22:44)
[24] 24 滅びの王都[BA-2](2010/06/29 20:34)
[25] 25 これがいわゆる"終わりの始まり"[BA-2](2010/07/01 19:18)
[26] 26 決着[BA-2](2010/07/03 20:59)
[27] 27 勇者シーザー最期の戦い[BA-2](2010/07/06 18:37)
[28] エピローグ[BA-2](2010/07/10 14:33)
[29] 魔王召喚したら代理が出て来たけど「コレ」に頼んで本当に大丈夫だろうか[BA-2](2018/04/02 23:28)
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[16894] 18 連戦
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/12 16:12
隔離都市物語

18

連戦


≪勇者シーザー≫

城門が崩れ落ちた。これの意味する所を想像するのは容易い。

……門が開いただけなら閉めれば良い。門を破られたなら新しい扉を用意すれば良い。

だが、城門そのものが破壊されたとしたらそれを短期間に修復する事は難しいだろう。


そしてこの街はこの大陸の中部から南部にかけては唯一人類側に残された拠点。

当然魔王ラスボスからは目の敵にされていることだろう。

これが意味する所、それは即ちこの街に未来が無いということだ。


何故か大陸南方より集められていた人々は、とうの昔にリンカーネイト大陸側に移動している。

この街に残っているのは元々この街の住人だったか近隣に住んでいたかのどれか。

それならば、精一杯時間を稼げば逃げる時間ぐらいは稼げるのではないだろうか?


……無論、私一人で地平線の彼方まで埋め尽くさんとする魔王の軍勢を押し止められるはずも無い。

一つだけ策はあるが、それを魔王が飲むか否かで此方の命運も変わってくるだろう。


「魔王よ、一騎打ちを所望する。名誉あらば私と戦えっ!」

「……ほう?」


崩れ去った城門前に勝ち誇ったかのように立ちはだかる魔王の巨体に、私は声を張り上げた。

……乗ってくれねば私はこの大軍に蹂躙されるだけ。

だが、私にはある種の自信があった……魔王はきっと"ある意味"私の言葉に乗ってくるだろう。

そして私の予想通りに事が運べば、私の生存の目も出てくるのだが……。


「ふふふ。面白いではないか」

「魔王様。相手は勇者とて所詮は人間……魔王様がお出でになるほどの存在ではありますまい」


「ドラグニールよ。そうかもしれんな……よし、ヒルジャイアント、お前が相手をするのだ!」

「え?僕がですかー?」「それとも僕?」「私かもねー?」「わーい、決戦だ決戦だ!」


「おいおい全員は無いだろ……長男坊、お前が行けや。魔王様のご期待に背くんじゃねえぞ?」

「はーい。ま、父ちゃんにボコボコにされたようなのには負けないからね。安心してよ!」


よし、乗ってくれた!

しかも相手はヒルジャイアント。一度戦った相手だ!

これなら行けるかも知れん。


「じゃあ名乗るよ。僕はヒルジャイアント。父ちゃんとは一度戦ったんだよね?」

「ああ。君の父上だったのか……彼は強かったぞ……」


ズルズルと巨体をくねらせ迫る軟体に、私は剣を構えて相対した。

周囲の魔物たちは付近に腰を下ろして完全に観戦状態。

……これなら時間を稼げる。


「勇者様ー!やっちゃって下さい!」

「……勝手なことばかり言ってスイマセンでしたーーーーっ!」

「勝利を祈っております!」


いや、待て。

逃げろといった筈だが!?

何をやっているのだ衛兵諸君!


「ここは危険過ぎる……君達は下がるんだ!」

「勇者様万歳!」

「勇者シーザー、万歳!」

「我等に勝利を!」

「勝った!これで勝った!」


正気か!?……勝てるわけが無いだろう!?

もしここで魔王を討てたとしてもその後配下の大軍に踏み潰されるに決まっている!

しかし、あまり逃げろと強調する訳にも……。

相手に此方の狙いを悟られるのは本末転倒ではないか。


「……なぁ、だけど本当にコイツは俺達を助けにきてくれたのか!?」

「まあ、普通はあれだけの事をして助けてくれる訳が……」

「いや、勇者ってくらいだし!」

「いいじゃん!助かるなら何でも!」


だったら早く逃げてくれ!

私の評価など後で決めてくれ。

さもなくば……。


「ところで。僕の事忘れてない?ねえねえ?」

「……はっ!」


響く地響き。

横になった軟体がゴロゴロと大地を均しながらこちらに向かってくる。


「それそれーーっ!」

「ぐっ!」


辛うじて横っ飛びで回避する。

……突進速度は父親同様か。

体は少し小さめのようだが、私から見れば大した差ではない。

つまり、直撃を受けたらどちらにせよ助からない。そういう事だ。


「父ちゃんが火傷したあの弓は持ってきてないみたいだね。それでどうやって勝つ気?ねえねえ?」

「……あの時の事は当人しか知らないはずだが?」


「うーん、僕らは父ちゃんの欠片だからね。少しは記憶も受け継いでるのさ!」

「成る程」


彼らはブルー殿に討たれたヒルジャイアントそのものと言う事か。

しかし、四等分されたにしてはそれぞれの実力は先代に近い。

全員合わせれば明らかにその"父ちゃん"より強いように思えるのだが?


「さあて、次はこれ!避けられるかな?」

「……縮んで?……飛んだ!?」


続いてヒルジャイアントは体をギュッと縮め始めた。

何をしているのかと思ったのもつかの間、それをバネ代わりにして宙に飛び上がる。

勿論、落下予定地点は私の上だ!


「グウッ!?」

「おっ?避けたね?でももう少し離れるべきだったかなあ?」


とは言え、軽く走れば避けられない訳でもない……。

そう思ってしまったのは早計だった。

反撃の為にも、とギリギリで避けた私を大規模な振動が襲う。

まるで局地的な大地震だ。

立っていられず思わず膝を付きそうになる。


「で、僕がそのまま倒れれば、と」

「……!」


そして当然のように、そこへヒルジャイアントの巨体が圧し掛かる。

私は倒れこんだまま転がって、辛うじてそれを回避した。

そしてそのまま走り、何とか距離を取る事に成功する。


「ふーん。流石にしぶといね。でも、それじゃあ何も出来ないまま死んじゃうよ?」

「……確かにこのままではな!」


とは言え、此方も前回とは違う。

火矢は持ち歩いていないが、それは別な攻撃方法がある故だ!


『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』

「!?」

「何だと!?奴め何時の間に魔法を!」


私の手から生まれた火の玉が、ヒルジャイアントの湿った体を焼いていく。

まだ致命傷には程遠いが、十分な効果があったようだ。


「ぎゃあああああ、痛いよお、痛いよお!」

「おいおい!こりゃあまずいぜ!魔王様、あのチビ助下がらせて良いですかね!?」

「ふむ。好きにせよナインテイル」


……いや、それどころではなかった。

私にすれば片腕の皮が焼けた程度の傷だが、

先代と違いあのヒルジャイアントにはそれに耐える気概がまだ無かったようだ。

痛い痛いと泣き叫びながら後方に下がっていく。


「ちっ。まずはお前の勝ちだ……だがな、コイツがまだガキだったせいだ。それを忘れんな」

「判っている。ヒルジャイアントはその倍ほどの火傷を負ってもまだ戦い続けていた」


巨大な幾つもの尾を持つ蠍が火傷をした巨大ヒルを庇うように鋏を向けてくる。

……次の相手、なのだろうか?


「婆さん。わしじゃあ婆さんには敵いませんので、わしは下がらせてもらえますかの?」

「ふむ。では顔無しゾンビは下がるが良い」

「……老師……」


一度老師が前に出てきたが、自ら敗北宣言をすると後ろに下がる。

正直戦い辛い相手でもあるし助かった、のかも知れない。

どちらにせよ、明らかに戦いたがっているように見える鉄蠍は更に格上だ。

勝てるかどうかも定かではない。


「よっしゃ!じゃあこのナインテイルの番だな?腕が鳴るぜ!」

「いや、お前では少々楽勝過ぎて詰まらんな。そうだ、奴等を使うか」


だが、予想は外れた。

魔王が手を叩くと数頭の牛の化け物が姿を現したのだ。

どうやらコイツ等が私の次の相手か。

その中の一頭が私のほうへ歩いて来た事からもそれが判る。


「……ミノタウロス。我が軍が保有する中でもトップクラスの獣人だ」

「ほほう。我がドラゴニュート族に次ぐ実力者……悪くありませんね魔王様」

「おいおい、オッサン。腕力だけなら負けてたんじゃなかったか?それにあんたら寒冷地じゃ……」

「まあ、婆さん達が寒さに弱いのは生物的に仕方ない事だからのう」


そう言えば、故郷で魔王の傍を固める牛頭の怪物が居ると聞いた事がある。

これがそれか!

騎士団の精鋭の半分はこの種の魔物に殺されたと言っても良い。

いや、だが私とてこの世界で腕を磨いたのだ。

それに一対一だ。早々容易くやられはしない!


「頑張ってくれーっ!」

「俺達まだ死にたくねえ!」


だったら早く逃げてくれ!

苦戦しているのは判っているだろう!?


「ふむ、わたしが相手を務める事となったが……早速始めるかね?」

「隊長格なのか?喋る魔物とは……」


そうこうしている内に、向こうの準備は整ったようだ。

巨大なハンマーを持った牛頭の怪物が此方にゆっくりと歩み出て、喋った。

喋るワータイガーなどは見た事がある。

そう言う輩は大抵部隊を率いていたものだが……。


「いや、わたし達一族は普通に喋る。無論竜人達もだ……言葉とは知性の証だ。そうは思わないか?」

「そうか……ならば名乗ろう。私はアラヘンのシーザー!」


「ふむ。わたしはミノタウロス族の戦士だ。名は特に無い、好きに呼べばよかろう」

「承知した。では……勝負だ!」


昔話から出てきたような牛頭の怪物は意外なほどに理知的な物言いでこちらを見ていた。

私が戦いの合図と共に剣を構えると、

相手は私の胴体ほどの大きさを持つ巨大な斧を背中から取り出してきた。

当たったらただでは済まないのは先程と一緒のようだ。


「では、まずはこちらから参る!」

「っ!?」


突然、大気が振動したかのような痺れるような感覚。

次の瞬間私は宙を舞い、崩れかけた城壁に叩きつけられていた!

……無意識に構えていた盾が無かったら即死だったぞ!?

これは一体?


「……ふむ。もしや我々が鈍重な種族だとでも思っていたのか?足の速い者が居てはおかしいかね?」

「いや、おかしくは……ぐっ……ない。私が勝手に思い込んだ、だけの事だ……」


全身を覆う筋肉とゆったりと近づいてきた事からその全力を見誤ったか!?

腕力と速度は両立しないと言う訳ではないのか。


「いや、気にする事は無い。外見を生かしたハッタリだが中々馬鹿に出来た物ではない。むしろ」

「良く受け止めた、とでも言いたそうだな……」

「ふはははは!まあそういう事だな勇者よ!」

「「「「はははははははははっ!」」」」

「……ぬ、ぐぅっ……」


魔王は砕けた城壁に腰を下ろし、その周囲を魔物たちが取り囲んでいる。

……よし、時間を稼ぐ事は出来ているな。


「な、なあ……逃げなくて良いのか?」

「え?あ。そう、そうだな……」


少し後方を見てみると、段々と衛兵達が逃げ始めていた。

……これで時間を稼いだ甲斐があったと言うものだ……が、

何故だ?何名かだけは逃げる様子が無い。


「勇者様よぉ!自分達はあんたを見捨てないぜ!」

「そうだ!石投げられてまだ俺達の為に戦ってくれてる!」

「逃げないのが俺達の戦いだ!」


いや、逃げてくれ!

むしろ今残っているような人々を私は助けたかったのだが。


「馬鹿言ってるんじゃねえよ!あんな虐殺勇者に義理立てする必要なんかねぇ!」

「阿呆に構うな!まずは生き延びる事を考えろ!」

「死に損でした!悪いな!」


……よりによってあんなのばかり生き残るのか!?

いや、世の中なんてそう言うものだと判ってはいるのだが……。

やはり辛いものは辛い。


「……気の毒にな……守るべきものに唾を吐きかけられるとは」

「いや……気にする事ではない」


挙句に魔物から同情されている!?

そんなに惨めなのか今の私は。

いや……まあ、惨めなんだろう……だが。


「気にする必要もない。彼らを助けるのは私の意志、誰に頼まれた訳でもないのだ」

「ふむ、そうか……勇者とは哀れな生き物なのだな」


そう言ってミノタウロスは斧を振り上げた。

その目には哀れみの色がある。


「ならばその不幸な人生、わたしが終わらせてあげよう!楽になれ、そして我等が元に集うのだ!」

「断る!」


丸太を一刀両断する位は出来るのでは無いかと言うほどの鋭い振り下ろしが私を襲う。

再度ステップで避けると相手は地面にめり込んだ斧を持ち上げようと力を込めようとしていた。


「好機!」

「むっ!?」


相手は両腕に力を込めた為に隙が生まれた。

その隙を突き、私はそのアバラの間に剣を走らせる!


「……見事な、ものだ」

「くっ!貴重なミノタウロスをこんな所で失ってたまるか!ええい、負けで良いから下がれぃ!」

「はぁはぁ、はぁ……さあ、次は誰だ!?」


恐らく傷が内臓に達したのだろう。

ミノタウロスの体がヨロリと揺らめく。

それを見た魔王ラスボスは血相を変えて牛頭の戦士を呼び戻した。


……これでまた、時間を稼げたが……。

ここに自ら残ってくれた者達はともかく、町の人達は無事に逃げ出せたのだろうか?

それが気がかりだ。


「……勇者よ」

「なんだ」


その時、魔王が私に声をかけてきた。


「まさか、街の者どもが逃げ出せたとでも思っているのか?」

「なに!?」


魔王はクックックと忍び笑いを浮かべると、横に居るドラゴニュートに何かを命じた。


「ドラグニールよ、勇者にアレを見せてやれ……」

「ははっ、仰せのままに!」


そして私の目の前に何かが広げられる。

それは地図。この街の地図だった。

しかし黒い三角があちこちに描かれているな。これは何だ?

……まさか!?


「マケィベント近郊の地図だ。そして……」

「この黒三角は我が軍の配置だ!見よ、この蟻の這い出る隙も無い完璧な布陣を!」

「……確かに四方八方を完全に塞がれている」


魔王達は私の驚いた顔を見て酷く満足したようだった。

……確かに凄まじい図だ。三角形の底辺下に書かれた数字は配備された兵数だろう。

それを見ると、全方位に多重の防壁のように兵が敷き詰められている。

私が見る限り、蟻はさておき人が這い出る隙間は無いだろうと思われた。


「はーっはっはっは!見たか!?絶望したか!お前には誰も救うことなどできぬ!」

「貴様のような者が魔王様を倒す?出来る訳が無い!」

「くっ」


くっ、とは言っているが私は内心安堵していた。

魔王は忘れている。もう一つ逃げ場がある事を。

ならば私は出来うる限り時間を稼ごう。

何しろそれが私に出来る数少ない事なのだから。


「……だが、私は諦めん……諦めはしない!」

「ほう。流石に大した根性だな……我にはやせ我慢にしか見えんが」


「…………うぬぬ……ぐぅ……」

「ん?デスナイト、どうした。気分でも悪いのか?」

「オッサン、相変わらず性格悪いな……ってか、この10年で滅茶苦茶陰険になってないか?」


幸い、地図を見ているうちにミノタウロスの斧でやられた痛みは引いた。

今ならまだ、戦闘続行は可能なはずだ!


「さあ、次はどうする?此方の意図は潰したのだ……いっそ全員でかかってくるのか?」

「それも面白かろうが……ふふふ、ここまで我に逆らったお前には、絶望を与えてやろう」

「よっしゃ!俺の出番だな!?」


「いや、お前とデスナイトは戦闘能力が高いから後回し……まずはお前だ。行けドラグニールよ」

「ははっ!」


続いて出てきたのは、時々隔離都市で見かけたトカゲ型の魔物だった。

身に着けている装備から、恐らく四天王クラスだとは予測できるが……。


「私の名はドラグニール。魔王軍四天王主席、竜人ドラグニールだ。覚えておけ、人間」

「リザードマン?竜人とは大層な二つ名だな」


ピキリ、と音がしてドラグニールと名乗った魔物は怒りの表情を浮かべる。

どうやらプライドに関わるところに触れてしまったらしい。


「トカゲと一緒にするな!私はドラゴニュート……もっとも竜に近い存在なのだ!」

「ドラゴニュート!?故郷でも聞いた事が無い種族だが……?」


「……ふん、絶対数が少ないだけだ。ポコポコ増える人間どもには判らん悩みがあるのだよ」

「なあオッサン……ドラゴニュート連中、まだ10年前の痛手から立ち直ってないのかよ!?」

「婆さん。それは多分言っちゃいかん事だと思うぞい」


そうか。魔王ラスボスは幾つもの世界を侵略し続けていると言う。

つまり彼らは……。


「長い戦いの末に個体数が種族を維持できる数を下回った、と?」

「まだそうはなっていない!そもそも、それと言うのも貴様等人間のせいだろうが!?」


「……何の事だ?」

「貴様などには関係ない!」


『えせとかげ、めちゃ、おばか、です』

『人間を舐め腐ってると絶対痛い目を見るでありますがね……』


良く判らないが、このドラグニールと言う魔物は昔人間に痛い目に遭わされた事があるのだろう。

そうなればこの態度も判らないでもないが……。

何にせよ、このような敵が居る限り共存と言う選択肢はあるまい。


……何となくだが、私は敵の中で思想的に一番危険なのがこの目の前の魔物なのではないかと感じた。

だとしたら、ここで可能ならば一番に討ち取らねばならないのもまたこの魔物のように思う。


「だとしたら……ここは命の賭け時か?」

「賭ける?冗談ではない。勇者シーザー、お前の命運はここで尽きるのだ!」


敵は切れ味の鋭い曲刀を二刀流にして鞘から抜き放った。

それに対し私は盾を前面に押し出し、後方上段で剣に力を蓄える。

……まず最初の重要事項は私の剣で敵の鱗を破れるか否か、だな。


「はああああっ!」

「甘いわっ!世界最高の切れ味を誇る我が愛刀の切れ味を見よ!そんな盾など……!」


盾を前面に押し出して気に突っ込む。

敵は両手に持った曲刀を交差させるように叩きつけてきた!

盾と二振りの刀が激しくぶつかり合い、


そして、二本ほど、折れた。


「わ、私の愛刀があああああっ!?」

「隙だらけだぞ!?ドラグニール!」


続いて私が振りかぶっていた剣が敵の目掛けて振り下ろされる。

頭部には頑丈そうな兜……目標は二の腕だ!

吸い込まれるように剣は鱗に吸い込まれていき……。


思い切り刃こぼれした。


「……くっ!切れ味が足りなかったか!?」

「愚かしい!我が刃を折った事を後悔せよ!」


ドラグニールは背中に背負っていたもう一対の曲刀のうち片方を抜いて切りかかってくる。

刃こぼれの跡を見ていて反応が一瞬送れたため思い切り後ろに後ずさった。

刀は私の鎧を掠めていったが、その際胸当ての触れた部分がまるで薄布のように切り裂かれる。

……まるで抵抗が無かった。何て切れ味だ!


「どうだ人間!これが我等の刃の切れ味だ!」


三回ほど後ろに跳ね、距離を取る。

そして刃のボロボロになった長剣を鞘に戻すと盾の裏から短剣を取り出した。

こうなっては腹など、鱗の無い部分を狙うしかない。

と、その時私は気付いた。


「……片腕はどうした?」

「まあ、たいした威力だったのは認めてやる。痺れて動かんだけだがな?」


ドラグニールの腕がありえない方向に曲がっているのを。

私の一撃は鱗こそ貫通できなかったが、その下の骨には折れるほどの衝撃を与えていたのだ。

切り裂けなくとも叩き潰すのは有効なようである。

……そうなると、切れ味が幾ら良くても短剣では破壊力が足りない。

私はそっと、短剣の刃を持って投擲準備を行った。

唯でさえ刃渡りの短い短剣は致命傷を与え辛い。最早これで切りかかる事はまずありえないだろう。

これならもう一度、刃こぼれをした剣で叩き潰していた方が早い。


……それに、少し良い事を考え付いた。


「竜人ドラグニール!これで決着をつけるぞ!」

「良いだろう!人間にしては良い度胸だ!」


もう一度、盾を前面に押し出して突進する!

そしてまず短剣を投げつけ敵の注意を惹き付けた。

続いて盾ごと体当たりを敢行、そのまま剣を再び抜いて……!

……私の腹から刀が生えた?


「こういう手もある。真似できまい?」

「足!?」


私は盾で顔を庇っていたが為に判らなかったが、

いつの間にかドラグニールの手にあった曲刀がその足に握られていた。

……人間には刀を握ったまま走る事などまず出来はしまい。

だが、敵の足の指はまるで手の指のように発達していた。

それが種族的なものかドラグニール個人の特徴なのかは知らないが、

まあ、してやられたと言う事だ。


「がはっ!?」

「肺か心臓が傷ついたようだな……血を吐いたか。まあ、人間にしては良くやった……」


そうかもしれない。息が苦しい。

……だが、まだいける!


「まだ何かやるつもりか!?」

「がああああああっ!」


短剣を投げて空いた片腕をも使い、両手で盾を振り上げる。

そして、盾の角でドラグニールの頭部を兜ごと強打した!

……盾の角は硬くて中々に鋭く、まるで鈍器のようだ。

結構な重量のある獅子の紋章盾そのものを武器として、私はドラグニールに殴りかかったのだ。

先ほど思いついたのはこれだ。並の武器よりも効くぞこれは!


「ガハッ!」

「ぐ、ぐうっ!」


兜が弾け飛び、ドラグニールは地面に叩きつけられる。

だが此方も呼吸困難に陥りかけていた。

肺の中に血が溜まり始めているのか?それとも全身に血が行き渡っていない?

どちらにせよまるで水の中にいるようだ。まるで呼吸が続かない……!


「ドラグニールよ。この10年で腕を落としたか?あまり我は気が長くないのだが?」

「ははあっ!今少しお待ち下さい!」

「はぁっ!ガ、ハァッ!?」


突然酷いめまいに襲われ、思わず膝を付く。

視界が白く染まっていく。

……その不明瞭な視界の先で、立ち上がる人影。

このままでは、いかん!


「ガアアアアアアアッ!」

「!?獣かコイツは!」


気が付くと、人影がすぐそこまで迫っていた。

刃こぼれしたままの剣を全力以上の力を込めて叩きつける。

それが……今の私に出来る、ただ一つの事と信じて!


「ガハアアアアアアアアッ!?」

「ドラグニール!?」

「へぇ。やるじゃねえかよ。絶対死に掛けてるぜアイツ。その割に……」


当たったか!?

当たったんだな!?

最早その確認も出来ない。

だがまだ耳は聞こえている。

ならば、ならばもう一撃……!


「うあっ……!?」

「なっ!?まだ動けるのかよ!?普通アレじゃ致命傷……いや普通は死んでるはずだぜ!?」

「婆さん。はさみがガチガチと五月蝿いのう……」

「……シーザー……もういい、もういいんだ……もう、ほとんど体が動いていないではないか……」

「我は奴の健闘を認める。大したものではないか。心臓が動いている事自体が奇跡にしか思えぬわ!」


周囲がざわめいている。

トンテンカンテン音がする。

だが、まだだ。


「ぐ、ぐううっ……人間相手だと舐めすぎた!私も焼きが回ったな!」

「ならば往けぃ!相手は勇者。それに相応しい見事な最後を遂げさせてやるが良い!」


「は、ははっ!」

「そうだ!相手に止めを刺すまで安心してはならぬぞ!」


多分だが未だ相手は倒れていまい。

まだだ、ま、だ…………。


……。


「まだ生きてるかよシーザーよぉっ!?」

「……牢人殿!?」


その時、頭から広がる何か冷たい感覚と共に意識が急速に引き戻された。

ゴトリと地面に落ちる何かの空瓶。全身を濡らす薬品のきつい香り。

そして……。


「間に合ったかよ?へっ、折角の礼金が全部すっからかんだぜ畜生!」

「やはり、牢人殿!?どうしてここに!?」


何故だ?何故牢人殿がここに居る!?

あれだけ英雄暮らしに満足していたのだ。

私は当の昔に逃げきったものだとばかり思っていたのだが。


「まあ、なんだ……有名税よ」

「有名税?」


「へっ。勇者の仲間として名が知れちまったんでな。逃げようにも周囲の期待感が、なぁ?」

「……そう言う、事か」


「お前が死んじまったら勝ち目なんかゼロだからな!有り金で最高級回復剤を買ってきたわけよ!」

「一瞬、仲間意識とか友情とかと言う言葉が浮かんだ私が馬鹿だったよ……助かったがな」


つまり、だ。

なまじ名が知れてしまったせいで、一般人に混じって逃げると言う選択肢が失われてしまった訳だ。

周囲からの期待感と言う名の圧迫に耐えるには牢人殿では少々荷が重かったのだろう。

それに、もし本当に逃げたら評判は元より下がってしまうだろうしな。

……名が知れたのは良いがその後が大変と言う事か。まあ、それは何処も同じだが。


「ああやだやだ。やばくても逃げられないこの現状、やってられねぇ……旦那も叔父貴も居ないしよ」

「今居るものだけで何とかせねばならない。何時も万全の体制で戦える訳ではないだろう」


そう言いつつ、片腕で頭を押さえながら此方を睨みつけているドラゴニュートに剣を向けた。

刃は完全に欠けてしまっているが、まだ殴打武器としてなら使えるな。


そして、足元には折れた曲刀が一本。

……どうやら先ほどの一撃は本人ではなく武器を砕いたようだ。

改めてブルー殿に感謝した。

剣は折れない限り武器であり続ける。

この剣を買う時に切れ味より耐久を重視しろといった彼の助言はまさに的を得ていたのだ。


刃こぼれした剣を構えつつ、私は相対した敵を見る。

此方の傷はある程度癒えた。

疲労はさておき、息苦しさは消えている。

だが、相手は青息吐息だ。苦しそうに頭を押さえている。

これなら討つのは容易い。容易いのだが……。


「さて、此方は期せずして回復させてもらったが……そちらはどうするのか?」

「ぬぐっ……魔王様!私の傷を癒していただけませんか!?」

「……否。ドラグニールよ、お前を失う訳には行かぬ。下がるが良い」


もしやと思い軽く揺さぶってみると、意外なほどにあっさりと引き下がった。

討ち損ねたのは確かだが……だがこれでこの一騎討ちは続く。


先ほどは奴は倒さねばと思ったが、恐らく誰か一人が死んだ時点でこの"お遊び"は終わりだ。

魔王は圧倒的優位ゆえに猫が獲物をいたぶるかのように私を嬲っているだけなのだろう。

故に、あまり相手を刺激してはいけない。

出来る限り時間を稼ぎ、街の人々の逃げる時間を稼ぐのが私の役目なのだから。


「はっはっは……ではそろそろ消えてもらおうか?勇者よ……ところで……だ」

「おいおい!何かいきなりやばそうな雰囲気なんだけどよ!?」


とは言え、例えここで魔王自身が出てこようが実際の所、

少なくとも私の最低限の勝利は揺るがない。


あれから随分と時間が経った。

人々は大多数が逃げ延びた事だろう……迷宮を通って。

そう、街の四方を囲おうが迷宮と言う穴がある。

そこから逃げ出せば逃げ切れる筈なのだ。後は最後に私が逃げる際に転移門を破壊すればいい。

それが私の計算だったのだが……。


「地下から人間を逃がそうとしているな?甘いぞ、我が別働隊が転移門奪還に向かっておる」

「……ぎゃあああああっ!?やばいぜどうすんだよ!?逃げ場無くなっちまったよ畜生!」


「え?そんな……」

「そうか、勇者は迷宮に皆が逃げ込む時間を稼いでたのか……」

「だが、その逃げ道をふさがれてちゃ意味がない……」


私は何も言わない。

せいぜい絶望していると勘違いすれば良い。

……だが私は知っている。リンカーネイト王が転移門守備のための兵を常駐させ始めている事を。

この三週間良く見ていたが、その備えは万全。

今頃別働隊とやらは返り討ちにされている頃だ……。

悪いが、お前の思い通りには行かせんぞ、魔王よ!


「……我が別働隊、その数三万がな?」

「な、に?」


だが、魔王のその言葉に私は思わず固まってしまう。

三万、だと?

何故そんな大軍を。


「兵が配されている事ぐらい想定済みだ!我を誰だと考えておる?」

「ぐっ、頭が痛む……ふふ、残念だったな勇者、敵兵は僅か五百……壊滅は時間の問題だ」


馬鹿な。

いや、我ながら希望的観測に頼りすぎた。

現実が自分の思うように行く訳が無いだろうに!

私の浅知恵くらいの事、仮にも軍なのだから一人位思いつく輩が居て当然だ。

ならば当然対策も立ててくるだろうに……。


「ま、魔王軍だーっ!」

「魔王軍が来たっ!」

「魔王降臨キターーーーーーッ!」

「ヤバイ!本当に来ちゃったよ!?」


……そして。後方遥か先から人々の声がここまで響いてきた。

悲鳴と言うより歓声のようにすら聞こえるそれは守備隊が遂に打ち倒されたと言う事実に他ならない。

三万対五百……良く頑張ったのだと思う。

ただ衆寡敵せずと言う事実があるだけだ。


「ふふふ。どうした?顔色が悪いぞ勇者シーザー……やはりお前では我が倒せる訳が無かったな」

「……それでも。それでも私は諦めない!諦めてたまるか!」


既にその言葉は負け惜しみ以外の何者でもない。

だが、大人しく軍門に下る事だけは出来ない。

例え私が倒れても、その生き様が誇れるものならばその後に続くものは必ず出る!

そう、緒戦で最後まで戦い続け、力及ばず……だが誰よりも誇り高く倒れた我が兄のように……!


「では、次はメインディッシュだ……行けデスナイト」

「哀れなり人間ども!同胞同士で殺しあうが良い。このデスナイトは元アラヘンの騎士だ!」


……そう言う事もあるだろうと老師の件があってから覚悟はしていた。

やはり、魔王ラスボスは死者を兵士として再生しているのだ。

だが、私を動揺させるには足りない。そもそも祖国を裏切った者に容赦などあるものか!

誇りを示せ、シーザー・バーゲストっ!


「行け。命令だデスナイトよ」

「…………はっ」


それは見まごう事無きアラヘン騎士の甲冑。そしてそれを着込んだ騎士の姿だった。

だがその言葉は妙に反響して聞こえる。


「魔王軍四天王第二席。死霊騎士デスナイト……参る」

「アラヘンのシーザー、まい……牢人殿?」

「待てよ。人間だったら俺でも戦えらぁ」


お互いに深くお互いの事を聞こうとはしない。

静かな一礼の後、お互いに鏡合わせの様な構えを取った。


……だがそこに牢人殿が割って入る。

人間なら組し易いとでも言いたいのだろうか?

だが、相手はアンデッドだ。

普通の人間の常識など……と言う暇も無く牢人殿は刀を抜いて歩き出す。


「へへっ!勝てそうな所で点数を稼がせてもらうぜ!?」

「まあ良い。デスナイト、まずはその身の程知らずから斬れ!」

「……感謝する」


敵の獲物はアラヘン騎士団の基本装備である剣と盾。

牢人殿は相変わらず刀一本だ。


「では改めて……デスナイト、まい……!?」

「うらあああああっ!奇襲砂かけーーーーーーーーっ!」

「いきなり卑怯な!?」


しかも相手が礼をしている隙を狙って顔面に砂を浴びせた!?

二重の意味で卑怯すぎではないのか牢人殿!

いや、まさかこれが伝説の東方武芸者集団の精神的支柱たるブシドーなのか!?

……何か違う気もするが。


「更に顔面突き入れだーーーーーっ!くたばれやーーーーーっ!」

「鎧の隙間から、刀を突っ込んだのか!?」

「おいおい!あの馬鹿卑怯すぎじゃないのか!?鎧の隙間からの攻撃は見事だけどな!ガチガチ!」

「見苦しい!見苦しすぎる!人間どもにしても見苦しすぎる!」


そしてデスナイトと名乗った魔物が砂を払っている隙に兜の隙間から剣を中に差し込んだ!

あまりにも酷すぎるが同時に見事でもある。

……ただ、その割に牢人殿の顔色が優れないのが気にかかるが……。


「何で、何でだよ畜生……なんで手応えが無えんだ!?」

「手ごたえが無いのは、手ごたえを与える物が無いからだ。何もな」


なっ!?顔に刃を突き立てられた筈のデスナイトが普通に喋っている!?

あの剣の動かし方からすると、目から口にかけてかき混ぜられてしまっている筈。

幾ら腐り果てていたとしても損傷は免れない筈だが……。


「……私には肉体が無い。鎧そのものが私の体なのだ……残念だったな」

「えええええええっ!?じゃあ俺には打つ手無しじゃねえか!」


デスナイトは己の兜を外した。

……そこには何も無い空間が広がっている。

無論、鎧の中も空であった。


「ちっ!幽霊じゃなくて九十九神かよ!?清めてもいない刀じゃあ相手にもならねえ!」

「……そういう事だ」


それが死霊騎士たる所以か。

続けてデスナイトは牢人殿を蹴り飛ばした。

牢人殿はゴロゴロと転がってこちらに戻ってくる。


「イテテテ……あんなの反則だぜ畜生!」

「蛮勇だけは認めるが、命を粗末にするな……さあ、改めて始めるぞ、シーザー」

「応!」


相手は盾で守りを固めつつ剣を振るう隙を狙う、アラヘン騎士伝統の構えをしている。

成る程、確かにアラヘンの騎士だったと言うのは嘘ではないのだろう。


……。


動きの一つ一つにも見覚えがあった。


「しかし何故だ。何故王国を裏切るような真似を!?」

「……答えても理解は出来まい。する必要も無い」


どちらとも無く前進し、お互いの剣がぶつかり合う。


「アラヘンの騎士の王道は忠誠にあり。時に友を、時に肉親を。全てを切り捨てても王家への忠誠を」

「……そうだ。それがアラヘンの騎士たる者のあり方」


響く剣戟。飛び散る火花。


「ならば何故!祖国を蹂躙せし者に従う!?」

「っ!?……お前が知る必要は無い!」


僅かな隙を突いて切りかかる。

避けられる、

いなされる、

そして弾かれる。


「もういい、もう良いんだ……終われ、これ以上苦しむ必要は無い!」

「勝手な事を!私は勇者シーザー、決して諦めはしない!」


私は知っている。

この剣閃を。

私の体に染み込んでいる。

この剣の軌道、

そして突破できない盾の動きを。


「判っているのか?アラヘンは滅びた。もうどうしようもない」

「まだだ!知っているのか!?王はまだご存命なり!」


……私は信じられない。


「無論だ!私はその為に魔王軍に身を投じたのだから!」

「故に、故に最後まで付き従うと?望んだ忠誠ではないと言うのに!?」


だが私には理解できる。

この人は、そう言う人だと。


「騎士たる者は誓いを違えてはならぬ!例えそれが、何一つ良い結果をもたらさないとしてもだ!」

「それは判っている……判っているのです!ですが、ですがっ!」


剣が疾る。

叩き付け合う金属質の音が周囲に響き渡る。


「何故、王を救わない!?貴方なら出来る筈だ。国への忠誠は全ての誓いに優先する筈!」

「出来るならとうにやっている!」


幾度と無く叩きつけた剣が、遂にデスナイトの、いや、あの人の盾にヒビを入れた。

そして、砕け散る。

守りの騎士たるアラヘン騎士団の象徴たる盾が。


「抗えば死とでも言うのか!?何時から貴方は自分の命と王の命を天秤にかけるようになった!?」

「見くびるなシーザー!私が消えて済むならとっくに逃がしていたに決まっている!」


剣がぶつかり合う。

だが、僅かに、僅かに私が優位だ。

それは私の技量が上回ったからではない。

あの人の剣は私の盾に阻まれる。

以前ならとっくに盾を弾き飛ばされていた頃だ。


そして、それを掻い潜った一撃を、

へこみ、砕け続けながらも私の体を守り続ける勇者の鎧。

そう、私の劣る技量でも猛攻を受け止めうるだけの装備の差。

それが私とあの人の絶対的な技量差を埋めている。


「そも、お前は私にどうやって勝つつもりだ?」

「砕く体が無いならば……寄り代の鎧を破壊するのみ!」


勝機を見出し、盾を前面に押し出しつつ突進。

走る、走る、走る。


「そして……お前は判っているのか?」

「無論!ここで勝てるとは最初から思っていない……だが、まだ逃げる訳には行かなかった!」


相手にはもう盾が無い。

剣を盾で受け止めきれればそれで良し。

剣を剣で受け止められても、盾を叩きつけてその鎧を砕くのみ!


「勝負だ!…………兄さんっ!」

「応!シーザーっっ!お前のその勘違い……せめてここで終わらせる!」


突き出した盾にかかる圧力。

受け止めて、見せる!


「そう言えば、お前にこの戦法は見せていなかったな」

「手?」


盾の端に掛かる兄さんの手。

そして、


「知っていたかシーザー……盾が邪魔なら退かせば良いだけだと!」

「うわっ!?」


思い切り横にかかる力に盾を持っていかれる。

手を離すような真似はしない。

だが、腕は確実に外に開き、


「戦場で無防備に開いた胴体……それが致命的な、隙」

「!?」


そこに、間髪居れずに突き出される剣の切っ先!

胸元から背中に、衝撃が突き抜ける!


「終わりだ……せめて何も気付かずに、逝けっ!」

「がはああああああっ!?」


背中から生えた剣の切っ先。

更にそれは勢いをつけた蹴りで私の体から抜けていく。

……ドサリ、とした音。

それが私の体が倒れこんだが故のものである事に気付いたのは……何時だったろうか?


「……なあ、シーザー……お前は魔王様を倒せば本当に陛下が助かると思っているのか?」

「……」


兄さんが……かつて兄さんだった魔物が何か言っている。


「それに例え陛下を救えたとして……アラヘンにはもう何も無い。終わっているんだよ、我等が祖国は」


その顔にはもう表情が無い。

顔どころか体すらない。

けれど、その仕草だけは間違いなく兄さんのものだった。


「はっはっは!良くやったぞデスナイトよ」

「……はっ」


「これならまだあの元王を生かしておいてやる価値はありますね魔王様」

「うむ。我の軍勢を率いるものとして相応しい」


全身から血が流れ出す。

周囲に血が水溜りを作っていく。


「……思えば哀れなものよ。王の命はあくまで我の思いのままだというのに」

「知らずに死んだ方が良いのです魔王様。余り頑張りすぎると当の陛下の命が危なくなるなど……」

「その程度、気付いてもおかしくは無いと思うのだが。まあ所詮は人間か」

「人には気付いていても気付きたくないと心を偽る時があるのじゃ、婆さん」

「オッサン達、それよりここまで頑張ったんだ。せめて健闘を讃えてやろうぜ?」


空が青い……。

駆け抜ける一陣の風が心地よい。


「さて、最後ぐらいは我が止めを刺してやるか……魔王の魔力をその身に受けて消えよ、勇者!」

「…………シーザー……済まん、シーザー……!」


遠くから、魔王が覗き込んでいる。

私を、

魔王が。


「……覇あっ!」

「その流れは阻止するお!」


何だ?

視界が……。


「突然飛び出した子供が盾になった、だと?」

「良い根性してるぜ……弾け飛んじゃ意味無いがね」


べちゃりと私の上に覆いかぶさる暖かな何か。

交じり合う。私の血と、その何かが。


「中々良い見世物であった。だが、奇跡は二度は起こらぬ……我の魔力で、今度こそ消え去れっ!」

「負けないおっ!」


「なっ!?」

「……馬鹿な!?あれだけの傷で何故動ける!?」

「本当に人間なのかよ」


これが、走馬灯だろうか。

今まで辿った軌跡が、思い出が私の脳内を駆け巡る。

五月蝿いほどに響く金槌の音が私の全身を包み込む。


【そんな事は無いお!シーザーが勇者だから特別に難易度が高いコースなんだお!】

【そうなのか……ところで】


その時、痛みが全身を包んだ。


【なんだお?】

【何で君まで一緒に落ちているんだアルカナ君!?】


視界が開ける。


【ノリと勢いだお!】

【何を言ってるのか判らないのだが】


そして、私は立ち上がった。


「私は、勇者……勇者シーザー」


「むっ!?時を与えすぎたか!?」

「魔王様よ!そんなレベルじゃねえぞあれ!」


「だおっ!無事だったお!?」

「普通は明らかに死んでいるはずじゃよな、小さな婆さん」

「くっ、暴れるな!大人しく拘束されていろ!」


全身を包む痛みはもう既に何処が痛むのかを特定するのも難しいほど。

頭は常に鈍器で殴られ続けているのかと勘違いしかねない有様。

だが、その痛みは生きていると言う証拠だ。

ボロボロでもまだ体は動く。

ならば足掻こう、最後まで!


「シーザー……お前は……!」

「兄さん。私は諦めない……この身が砕け散るその時まで。諦めない限り終わりはしない!」

「そうだおっ!シーザーが死んだらおねーやんが悲しむお!」


そして私は兄さんに剣を向ける。


……判っていた。魔王ラスボスの軍勢はまるで蝗。

人が生きていける環境が残っているかは疑問だ。

だからもし、倒せた所でアラヘンと言う国が再興できるかは判らないし、

そもそもまともな生き残りが居るかどうかすら不明だ。


だが、それでも私は諦めない。

陛下さえご無事なら……祖国は蘇ると信じて。

この身が動く限り、私は戦い続けよう!


続く


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