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No.16894の一覧
[0] 隔離都市物語(完結)[BA-2](2010/07/10 14:34)
[1] 01 ある勇者の独白[BA-2](2010/03/02 23:23)
[2] 02 とある勇者の転落[BA-2](2010/02/28 20:44)
[3] 03 隔離都市[BA-2](2010/03/16 20:54)
[4] 04 初見殺しと初戦闘[BA-2](2010/03/08 22:41)
[5] 05 過去の過ち[BA-2](2010/03/16 20:55)
[6] 06 道化が来たりて[BA-2](2010/03/28 22:23)
[7] 07 小さき者の生き様[BA-2](2010/04/15 16:09)
[8] 08 見えざる敵[BA-2](2010/04/20 15:46)
[9] 09 撤退戦[BA-2](2010/04/20 15:52)
[10] 10 姫の初恋[BA-2](2010/05/09 17:48)
[11] 11 姫様達の休日[BA-2](2010/05/09 17:53)
[12] 12 獅子の男達[BA-2](2010/05/09 18:01)
[13] 13 戦友[BA-2](2010/05/26 22:45)
[14] 14 形見[BA-2](2010/05/26 23:01)
[15] 15 王達の思惑[BA-2](2010/06/16 08:08)
[16] 16 マケィベント戦記[BA-2](2010/06/16 08:09)
[17] 17 名声と弊害[BA-2](2010/06/16 08:10)
[18] 18 連戦[BA-2](2010/06/12 16:12)
[19] 19 まおーと勇者[BA-2](2010/06/15 18:33)
[20] 20 自称平和な日々[BA-2](2010/06/18 23:45)
[21] 21 深遠の決闘[BA-2](2010/06/23 23:24)
[22] 22 最後の特訓[BA-2](2010/06/26 12:14)
[23] 23 故郷への帰還[BA-2](2010/06/27 22:44)
[24] 24 滅びの王都[BA-2](2010/06/29 20:34)
[25] 25 これがいわゆる"終わりの始まり"[BA-2](2010/07/01 19:18)
[26] 26 決着[BA-2](2010/07/03 20:59)
[27] 27 勇者シーザー最期の戦い[BA-2](2010/07/06 18:37)
[28] エピローグ[BA-2](2010/07/10 14:33)
[29] 魔王召喚したら代理が出て来たけど「コレ」に頼んで本当に大丈夫だろうか[BA-2](2018/04/02 23:28)
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[16894] 14 形見
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/26 23:01
隔離都市物語

14

形見


≪勇者シーザー≫

視界の先に敵と、かつて仲間だったものが消えていく。

暗い迷宮のそのまた奥に。

……そして、眼前には巨体の大熊。


「ガハハ、悪いな。こっちの都合に付き合ってもらっちまってよ」

「礼は要らん。礼を言われるほど善良な理由でこの一騎打ちを受けた訳ではないのだ……」


仲間を逃がすための決死行。

回り込んで一度戦闘をした後、再度回りこんでここに立ち塞がったワーベアの体力は消耗している。

それでもなおここに居ると言うのなら、既に覚悟は出来ている筈。


……老師の事は問題だが今は置いておこう。

一騎討ちの際に別な事を考えているのも礼を失した行いだ。

そう考え、無理やり頭を切り替える。


「アラヘンのシーザー、参る!」

「ワーベア族のハリーだ!さあ、派手に行こうぜ勇者!?」


お互いに武器を抜き軽く距離を取る。

私は盾を前面に押し出し、ワーベアは斧を振りかぶった。

そして一瞬の静寂。


我等がお互い目掛けて走り出したのはまさに同時。

……何故だろう。

私はこの光景をどこかで見た事があるような気がしていた。

いや、見た事など無い筈だ。

強いて言うなら正面ではなく背中側からなら……。


……。


≪RPG風戦闘モード 勇者シーザーVSワーベア"ハリー"≫

勇者シーザー
生命力40%
精神力30%

ワーベア
生命力80%
持久力60%

特記事項
・シーザー、ワーベア共に疲労状態
・ワーベア、精神状態"決死"により持久力(スタミナ)が一時的に増加
・シーザー、精神状態"困惑"により精神力が一時的に低下


ターン1

ワーベアの先制攻撃。

手にした斧を容赦なく振り下ろした!


「ガハハハハハハハハ!さあ受けてみろ勇者様よ!?お前なら受けてくれるだろ?」

「無論!」


シーザーは獅子の紋章盾で受け止める!

金属質の甲高い音が周囲に木霊した!


「……!?馬鹿な!これを受けきれるわけがねえのに!?」

「何を根拠に受けられる受けられないと言っている?それに私とて成長しているのだ!」


シーザーは敵の攻撃を受け止める事に成功!

盾に阻まれ斧はその動きを止めた!


「今だお!やってしまうお!」

「今度はこちらの番だ……!」

「うおっ!?あぶねえ!」


シーザーの反撃!

シーザーは盾の脇から剣で突く。

しかしワーベアは仰け反ってかわした!


「シーザーさん。頑張って……!」

「しーざーしーざー頑張るおー♪」

「おーおー。少し見ないうちに腕上げたなぁ……へっ。差は開くばかりかよ」

「「「「良いから自己主張は止せ」」」」


クレア・パトラはシーザーの勝利を祈った!

アルカナは歌っている。

コテツはぼやいている。


……。


ターン2

敵は仰け反っている。

シーザーの猛攻!

体勢を崩した敵に一歩踏み出し、渾身の力を込めて剣を振り下ろす!


「おおおおおおおおっ!」

「ぐっ!?」


ワーベアは片腕を突き出してガードした!

だが、生身の腕では受けきれない。

腱が切れ筋肉は断ち切られ、腕はだらりと垂れ下がった!

20%のダメージ!


「好機ぃぃぃっ!」

「……ちっ」


片腕が下がったのをみるや、シーザーは追撃の一撃を見舞う!

振り下ろされた状態からV字を描くように、

天を往く燕をも切り落とすのではないかと錯覚する鋭い一閃が、

無防備になったワーベアの脇腹から肩口にかけて深く切り裂く。


「ぎゃあああああああああっ!」


ワーベアの生命力を気力諸共大幅に削り取った!

生命力に50%、持久力に50%のダメージ!

ワーベアはダメージが深すぎるため反撃不可能!


……。


ターン3

シーザーの猛攻はまだ続く!

一気に敵に肉薄し勝負を決めに行った!


「おおおおおおおおおおっ!」

「……へっ。ここまでかよ」


体当たりするように剣を相手の腹に深々と突き刺す。

剣は肉と内臓を貫き、骨をかすめて背中まで貫通した!

10%のダメージ!……ワーベアの生命力は、尽きた!


「が、ガハハハハハ!まだだ、まだ終わらねえ!」

「!?」


「やばいお!シーザー!」

「逃げて下さい!相手はまだ諦めてない!」

「斧が来るゾ!」


ワーベアの"決死"の一撃!

肉を切らせて骨を絶つ!


「ごふっ!?」

「駄目えええええええっ!シーザーさんっ!」


胴を貫かれたまま、ワーベアは気力のみで腕を振り下ろす。

少々やり辛そうに振り下ろされた斧が、シーザーの兜を砕いた!

脳震盪を起こしたシーザーはよろめいている!


「ふれー、ふれー、し、い、ざ、あ!それっ、ふれっふれっシーザー、ふれっふれっシーザー!だお」

「……何をしているのダ?」


アルカナは応援している!


「ど、どうしよう……どうしよう!?」

「まあ落ち着け。いざとなればわらわが出る」

「……つーか居るなら出て来いよ魔王」


クレア・パトラは混乱している!

魔王ハインフォーティンはこっそりと観戦している。

コテツは突っ込みを入れた。


「「「「こ、これはいけない!」」」」


十把一絡げは動揺している。


……。


ターン4

シーザーは脳震盪でよろめいている!

ワーベアは深手を負ってよろめいている!

両者行動不能!


……。


ターン5

ワーベアは辛うじて踏みとどまった。

気力を振り絞り最期の一撃を振りかぶる!


「ガハ、ガハ、がはっ!……食らえええええっ!」

「!」


シーザーは半ば無意識に盾を構えた!

斧と盾がぶつかり合う!


「あ、やっぱ、限界かよ……」

「……まだだ!」


全身を包む衝撃でシーザーの意識は回復した!

シーザーは斧を受け止め、更に腕を払っていなす!

そして、下がっていた腕に渾身の力を込めた!


「アッパースイィング!」

「ぐっ……!」


斧を振り下ろした為軽く前傾していたワーベアの顔目掛け、シーザーの剣が叩き込まれる!

だがその剣は空しく鼻先を掠めたのみであらぬ方向に外れていき……、


「からの……回転斬りだっ!」

「あ、あ……あ……」


そのまま円運動を描いて、ワーベアの胴を切り裂いた!

赤く染まった茶色い巨体が倒れこむ!


……。


ターン6

ワーベアが再び立ち上がった!

だが、その目は白目を剥き、斧すら取り落としている。


「気力だけで立っているのか……」

「だったらアルカナがやるお!」

「待てアルカナ!一騎打ちを邪魔するナ!」


シーザーが荒い息をつく中、アルカナが緑の斧を持って走ってきた。

そしてゆらりと立つワーベアに斧を振り下ろすべくよいしょと持ち上げる!

……止める暇も無かった。


「グアアアアアアアッ!」

「だお?」


野生の雄叫びと共にワーベアの残った腕が振り下ろされた!

鋭い爪がアルカナを襲う!


「だおっ!?」

「あ、アルカナ君!」

「馬鹿妹め……」


アルカナは無残に切り裂かれた!

爪は頭蓋を砕き、その傷は頭頂部から足首にまで及ぶ。

普通なら致命傷どころか挽肉と呼ばれるレベルだ!


「……い、痛かったお!」

「む?それ……爺の斧!?ちょっ!?何時の間に持ち出したあああああああっ!?」


「ハイム様ではないですか!?一体何時から!?」

「何時から、と聞くのは無駄なのだナ。望むなら何時でも何処でも、ダ」


しかしアルカナは一瞬にして全細胞から衣服まで復元した!

アルカナは致命傷を痛いの一言で済ませている!

ただし、緑の斧は取り上げられた!


魔王ハインフォーティンは涙目で"投擲斧・根切り"を凝視している。

……魔王は刃こぼれと錆を発見して泣いた!


「馬鹿者!馬鹿者!馬鹿者おおぉっ!?わらわの宝に何をする!?」

「おじーやんの遺産ならアルカナにだって使う権利はあるお!ハー姉やんはズルイお」


「阿呆か!わらわが貰った物だぞ!?それに扱いが雑すぎる!」

「雑と言うならハー姉やんのアルカナの扱いも雑だお!もっと可愛がるお!」


「出来るかーーーーーーーーっ!」

「やるのらーーーーーーーっ!?」


「まおーーーーーーーっ!」

「だおーーーーーーーっ!」


魔王と妹は争っている!

お互いにほっぺたを千切れんばかりに引っ張り合う!

……ただしお互い怪我しない程度に。


無論、この戦いの趨勢にはまるで関係が無い。

そうしている間にもシーザー達の戦いは続いていた。


「くっ!それにしてもまるで近づけん……まさに手負いの獣だ!」

「グルルルルルルルル……!」


シーザーは隙をうかがっている。

ワーベアは唸り声を上げながらも幽鬼の様に佇んでいる。


……。


ターン7

シーザーとワーベアは一定の距離を取って相対している。

……シーザーが動いた!

ゆっくりとした動きで近づき……最後は一足飛びで斬りかかる!


「!?」

「グァァアアアアアアッ!」


ワーベアは動くものに反応した!

丸太のような腕がシーザーを襲う。

シーザーは構わず剣を振りぬいた!


「ぎゃっ……!?」

「シーザーさん!」

「吹っ飛ばされたゾ!?」


「ぐぬぬぬぬ……まだ懲りぬか!このぷにぷにほっぺめ!ぷにぷにほっぺめ!」

「ぼ、暴力には屈しないんだお……でもお菓子になら屈するかもしれないお」

「童たち。いい加減にせんか」


剣はワーベアの指を一本斬り飛ばした!

だがシーザー自身も腕で薙ぎ倒され近くの地面に転がる。

剣は弾き飛ばされ、シーザーから見て丁度ワーベアと反対側に転がった。


……。


ターン8

ワーベアは不気味な沈黙を保っている。

シーザーは朦朧とした頭を振りながら起き上がった。

……剣の回収はひとまず諦め、盾の裏から短剣を取り出す。


「大した、執念だ」

「……グルルル……ルル……」

「シーザーよぉ。お前も人の事は言えないと思うがな?」

「「「「だから自己主張禁止だ」」」」


「だが、私達もここで止まっている訳にはいかない……!」

「……!」


シーザーは走り出した!

真っ向から突撃し、手にした短剣を投げつける!


「グアアアオオオオオオオッ!?」

「まだまだぁっ!」


短剣はワーベアの肩に突き刺さる!

シーザーはもう一度短剣を盾から取り出すと、そのまま突撃する!


「駄目!シーザーさん!相手はシーザーさんしか見てないです!」

「言っても無駄なのだナ……これは正面対決。口出しするだけ野暮なのだゾ」

「ふむ。牽制の短剣は避けもせんとはのう。意識も満足に無かろうに大した勝負強さじゃ」

「いや。ありゃ野生の勘だな。旦那、このままじゃシーザーの野郎やばくないか?」


ワーベアは突っ込んでくるシーザー目掛けて爪を突き出した!

シーザーは盾を構えてそれに正面から突っ込む!

鋭い爪と堅固な盾が正面から激突!

そして、


「……防ぎきったゾ!」

「凄いよ、正面からあの巨体を受け止めるなんて……」

「んー、あれ計算づくじゃねえのか?」

「そうじゃのコテツ。敵に振りかぶる暇を与えずシーザー自身は全体重を乗せて突っ込んだからのう」


「だおだおだおだおだおだお!だ……だ、お……」

「まっおーまおまお!まおーまおーっ!」

「「「「お二人とも落ち着いて。特にアルカナ姫。首を絞められて顔が青いですぞ!?」」」」


外野の茶々はさておき、シーザーは突き出された爪を受けきった!

そしてそのままずるり、と巨体が揺れ……そのまま大地に倒れこんだ。

ワーベアの気力が、尽きたのだ……!


「私は貴殿に敬意を表する!ワーベア殿……貴殿はまさしく武人の鑑であった……!」


シーザーは賞賛と共に手にしていた短剣でワーベアの喉笛を切り裂いた。

ワーベアの呼吸が、停止した。

シーザーの勝利だ!


……。


≪勇者シーザー≫

息が荒い。叩きつけられた全身が痛む。だが、それでも最後に立っていたのは私だった。

倒れたワーベアを介錯し、落とした剣を回収する。

……そして、戦った相手の完全なる沈黙を確認すると、

安心感に疲れがどっと押し寄せてきただろう……私は思わずその場に座り込んでいた。


「予想以上に、強敵だった……」

「シーザーさん、大丈夫ですか!?」

「良くやったゾ。敵四天王を逃がしたのは惜しいが、まあ止むを得ないナ」

「ふふ、見事な戦いじゃったわい。だが今後も精進は忘れぬようにのう」


周囲に仲間達が駆け寄ってくる。

その声を聞いて、私はようやく勝利を実感したのである。

……しかし、同時にこうも思って居た。


「そうだ。敵はまだ居る……こんな所で満足している場合ではない」

「……うむ。それが判っているなら問題無さそうだな。今後も頑張ってたもれ?」


「え?そう言えばハイム様。何時から、そしてどうしてここに?」

「うむ、少しな。……時に、中々見事であった。一騎討ちを後ろで観戦させてもらっていたぞ」


独白をポツリと口にすると、何故かハイム様から返答が帰ってきた。

驚いて問いただすと、どうやら先ほどから私の戦いは見られていたようである。

何故ここまで来られたのかは判らないが、ともかく私の戦いはお眼鏡にかなったようである。


アルカナ君がズタボロになっているのが少し気になるが、あの戦いに割り込んだ代償だろう。

決闘の礼儀など知る由も無いのだろうが、

今後は流石に一騎討ちの邪魔だけはしないようにして貰いたいものだと思う。


「それにしても地面に叩きつけられてボロボロだな。どれ、見せてたもれ。怪我は治してやろう」

「あ、はい。お願いします」


ハイム様が私に手をかざし何やら唱えると、全身から痛みが消えていく。

成長の事を考えるのなら自然治癒に任せるべきなのだろうが、現状はまだ奥に進みたいと考えている。

それなら治して貰っていた方がいいだろう。


回復した体を軽く動かして調子を確かめていると、ズボンの裾が引っ張られる感覚があった。

……アルカナ君だ。何か泣きそうになっている。


「アルカナ君。一騎討ちに割り込むのは礼を失する行為なんだ。斬られたのも自業自得なのだよ」

「シーザー……そうじゃないお。斧取り上げられたお……ハー姉やんは横暴だお……」

「やかましい!わらわの部屋から爺の形見の斧を持ち出しよってからに……」


ああ、そうか。

あの緑色の斧はハイム様の持ち物だったのか。

ならばハイム様はあの斧を取り戻しに来たのだろう。

しかもこんな暗い迷宮にまでやって来るくらいだ、きっと大事な物に違いない。


「申し訳ない。アルカナ君の年齢で武具を持っているのがおかしい。そう思わねばなりませんでした」

「いや、わらわの管理不行き届きだ。斧も、馬鹿妹の行動もな」


お互いに頭を下げあう。

良く見るとハイム様は小脇に大量の書類を抱えていた。

仕事を途中で抜け出してきたようだ。

やはり……色々とお忙しいのだろう。


「お忙しい中、こんな所まで……」

「ん?これか?一時期はこの三億倍はあったからな。まあ心配するな」

「……仕事中に気付いて慌てて追いかけてきたの?姉さん……」


これの三億倍?

人間がこなせる仕事量では無いぞ?

いや、きっと3~6倍の聞き間違いだろう。

先ほども思ったがそんな量の書類を人類が処理できる訳が無い。


「でも姉さん。わざわざその為にここまで来たの?念話を飛ばしてくれれば私が……」

「いや違うぞクレアよ。ついでに馬鹿妹に忘れ物を届けようと思ってな」

「……別に忘れ物なんかしてないのら」


む。ハイム様がニヤリと笑った?


『来たれ。馬鹿妹のコケトリスよ』

「……コケーーーーッ!」

「あ、ピヨちゃん。……な、なんで突っつくんだお!?痛いお!痛いお!」

「置いてけぼりにするからでしょアルカナ」

「……はい?ピヨって……あの、ひよこ!?」


詠唱と共に虚空から巨大ニワトリが降ってくる。

しかも一ヶ月ほど前、牢人殿に騙されて購入していたあのひよこらしい。

たった一ヶ月で犬並みのヒヨコが……幾らなんでも馬ほどの巨体に育つものなのか!?


いや、これも私の考え違いだろう。


きっとあれだけ巨大に育つのは特別な例に違いない。

さもなくば特別に成長の早い固体だったのだ。

そうでなければこのような迷宮に連れて来たりはしまい。


「とおっ!着・席!ピヨライダー!……だお」

「コケッ!」

「ギャアアアアアアアアアアアッ!?クロレキシハダメダーーーーーーッ!」

「血は争えないのだナ……恐ろしいゾ」


しかし突然ハイム様が絶叫したが……一体どうしたのだろうか?

何か思うところでもあるのだろうか?少し心配になる。


「お、おい童!?大丈夫かの!?」

「姉さん!?どうしたの姉さん!?」

「……私は口をつぐむのだナ……それが忠義なのだナ……」


まあ、アルカナ君が楽しそうだから良しとしようか。

恐らくだが、本人も触れて欲しそうに見えない事だし。


……。


「う、うむ。それではわらわはそろそろ帰るぞ。お前らも頑張ってたもれ?」

「お任せ下さいなのだナ!」

「ありがとう姉さん。何かあったらまたよろしくね?」


そして、少しばかり話し込んだ後、ハイム様は地上に戻る事になったのだが……、

実はあの後、ワーベアの遺体を埋める所まで手伝って頂いてしまった。

心苦しかったが、向こうは気にしていないようなので正直助かったと言うのが本音だ。


「だお……ところでハー姉やん」

「なんだアルカナ。手など出して?」


「代わりの武器ちょうだいだお?アルカナ武器無いお」

「お前に武器は要らんだろう?被害担当よ。後、重いから降りてたもれ」


ただ、それでは腹の虫がおさまらない者も居る。

今アルカナ君が不満そうにして、ハイム様の頭の両脇から下げられた長い髪にしがみ付いている。

どうやら武器を取り上げられたのが不満なようだ。


「何か欲しいお。くれなきゃゆさゆさするんだお?」

「毛が抜けるわーーーーっ!?いい加減にしろっ!」

「姉さんの言うとおりだよアルカナ。良い子だから降りてね?」


「大丈夫だお。こんなのハー姉やんにしかやらないお!」

「……そう。人様に迷惑かけないの?なら良いんだけど」

「良いわけ無いだろう!?クレア……わらわとて痛いものは痛いのだぞ!?」


「大丈夫。だって姉さんは最強の魔王じゃない」

「だおだお。ハー姉やんより強いのはおとーやんとおにーやんだけだお!」

「……のおぉぉぉ……し、信頼が重い……後、馬鹿妹もな」


しかし……あまり姉君を困らせても仕方あるまい。

幸い私には予備武器もあるし……短剣の一本でも持たせておくべきか。


「アルカナ君、もし良ければ私の予備武器を……」

「駄目ですよ。この子に予備武器を渡していざと言う時足りなくなったら後悔どころじゃないです」

「うむ。自分の切り札は何時も手元に置いておくべきだナ」


全員から反対されたのでアルカナ君のほうを向くと、差し出した短剣を押し戻された。


「シーザーの物を貰う訳にはいかないお……人様の財産に手を付けたら駄目なんだお!」

「妙な所で律儀じゃのう」

「おいおい。姉の財産は良いのかよ?」


「その通りだ。第一、最初から誰にも相談せずにわらわの宝を持ち出したお前が悪い」

「だおー。それは悪かったお……謝るから代わりの武器ちょうだいなのら」


しかし、だ。

両手をピンと差し出しておねだりする姿は可愛らしいが、

少なくとも子供の欲しがる物では……いや、子供だから欲しがるのか?

兎も角その場の全員が少し困った顔をする羽目になったのだ。


「あの……ねえアルカナ……武器庫から適当に槍でも召喚する?」

「えー。出来れば魔剣。せめて曰く付きの業物がいいお!」

「わらわでさえ魔剣クラスの武器は持っておらんのだぞ!?いつもみたくお前を武器にするぞ馬鹿妹?」

「まあ、父親や兄が持っておるからのう……欲しがっても無理は無いが」


おもちゃを欲しがる子供のような我が侭。

遂には地面を転がってむずがりはじめたアルカナ君に周囲一同本気で困り果てる。


「欲しいお!欲しいお!用意してくれなきゃ泣くお!暴れるおーっ!」

「……じゃあよ。そこの斧じゃ駄目なのかよ?」


そんな事を考えていると、そこに牢人殿の声がかかった。

何時の間に?……ハイム様に付いて来たのだろうか?

まあ兎も角、牢人殿の指差した方角を全員が見る。

するとそこには、確かに業物の斧が一振り落ちていた。


「……これは、ワーベアの斧だナ!」

「成る程。業物じゃの」

「これなら良いよね。アルカナ?」


「……だお!これは今日からアルカナのだお。貰ったお!もう返さないお!」

「ユニーク武器など10年早いわ馬鹿妹め。まああれだけ喜ぶならそれも良い、か」


先ほどの戦闘で打ち捨てられていたそれを嬉々としてアルカナ君が持ち上げる。

どうやら投げ斧だった先ほどの斧より重かったらしく、左右にヨタヨタとよろめくが、

すぐに慣れたのか、柄を肩に乗せてコケトリスに飛び乗った。


「まさかり担いだアルカナだお~♪」

「うんうん。可愛いよアルカナ」

「はは。確かに良く似合っておる……脳筋的な意味でな」


そしてアルカナ君はだおだおと言いながら上機嫌で新しい武器を私に見せつけて来た。

……しかしこれ、武器ではなく木こりが木を切る為の斧ではないか。

まあ、喋ってアルカナ君の機嫌を悪くする事でもあるまい。

何せ私は丁度こんな斧一本で魔王の城まで乗り込んだ木こりを一人知っているのだ。


……そう言えば彼の遺品も回収出来ていない。

何時か遺品か遺髪か何かだけでも取り戻して墓の一つも作ってやりたい。

そう思いながら、私はワーベアの為の簡素な墓に手を載せた。


「……結局、奴は最後まで気付かなんだか……ま、その方が幸福なのだがな」

「姉さん?」


「いや、何でもない……知れば知るほど嫌になる事もあるという事だ……ではさらばだ」

「うん……じゃあね姉さん。アルカナは後で叱っておくから……」

「サラダバー、だお」


そして、私達はハイム様と判れ再び無銘迷宮の奥へと潜っていく事となる。

……それにしても、魔物に墓を作ってやる、か。

幾ら好感を抱いたとは言え……老師の事が予想以上に堪えているな。

私は敵に情けをかけられる程、強くは無いというのに。


「まあ。なるようにしかならない、か……」


しかし今までの会話で何か違和感があったような気がする。

何か大事な情報を聞き漏らしている気がするのだ。

まあいい、本当に大事ならそう遠くないうちに気付くだろう……。



……。


≪アラヘン王都にて≫

どんよりとした雲に覆われた世界。全てが搾取されつつある世界でただ一つ。

このかつてアラヘン王都と呼ばれた街だけは論外の活気に包まれていた。

ただし、それはまともな"活気"ではない。

街を行く魔物や獣人達と、道の脇をこそこそと早歩きする人間、

だけならば魔王軍支配化の街としてありがちなレベルであろう。


だが、街を埋め尽くさんばかりに積み上げられた物資の山。

そしてそれを上回らんばかりで増殖していく放置されたゴミ。

更に街の中がそんな状態であるにも拘らず、

街の外に一歩踏み出すと……一面の荒野が広がるばかりで街道すら消えかかっていると言う現状。

これがこの世界の異常さを示していた。


滅び行く世界から取り残された街。

そう、ここもまた隔離された都市なのだ。


そんな街中で目立つのは、年端の行かない人の子供達が重い荷物を背負いながら歩いている事だ。

代わりに魔物の子供達が歓声をあげて遊び歩いている。

魔王ラスボスは人に容赦しないが同族である魔物たちには優しかった。

確かにそれもまた一つの正しい形だろう。


そも、そのあり方は他ならぬカルマ一党のやり方と被る。

違いはただ一つ、異種たる者達を認めるか否か……それだけ。


だがその違いは余りに大きい。排除される方は笑えもしないだろう。

故にそれを認められる人間はさほど多いはずもなく。

第一人間でその存在を考慮されるのは戦える者ばかり。当然街を行く人間はチンピラ紛いばかりだ。

自分勝手なものばかりが生き残るのは古今東西良くある話だが、ここではそれが徹底している。

心ある物は消され、心技体備えし者達は無残に改竄された。

終わりの無い悪夢に無力な人々は怯えるばかり。

そんなある意味ありがちな終わった世界だが……無論、それを是とする者ばかりではなかった。


「こらぁ!そこのガキ……魔物様の荷物を落っことしてるんじゃねえよ!」

「ひいいいいっ!」


だが、そんな人々はやはり少数派だ。

どこにでも、上に媚びへつらい下にきつくあたる者はいるもので、

ここにもそんな連中の見本のような男が存在していた。


「へっへっへ……俺様がちょいとキョーイクってもんをしてやんよ……」

「や、止めてください!早く持っていかないとご飯も貰えないんです!」


明らかにチンピラ風の男が、転んでしまった少年に因縁をつけている。

……少年は荷運びをする代わりに僅かな食料を与えられ生かされていた。

対して男は一応は戦えそうだと言う理由で人としては優遇されていたのだ。


戦えない人間に存在意義は無い。

この魔王ラスボスの方針に従い、ろくでもない人間ばかりが生かされる状態が続いている。

何故ならまともで、かつ戦える者は既に大半が倒されてしまっていたからだ。

そんな訳で、この男のように振舞う連中も増える一方。


「おらおらおら!蹴っ飛ばすぞコラぁ!?」

「うわああああああっ!?」


「ガル?」

「グルルルルル……フン」

「ギャギャギャギャ!」


……無論、この男に少年を罰する資格や権利などあろう筈も無い。

だが、その横暴を罰する者もまた……無いのだ。

魔物たちは人間同士の諍いを面白そうに見ているばかり。

さもなくば無関心が普通。それがこの世界の現状だった。


「ガオオオオオッ!何をやっていやがる……邪魔だ!」

「へっ!?こ、こりゃあ魔物様!いえね、このガキがあなた方の荷物を粗末に」


……その筈、なのだが。

この時は少し様子が違った。街中では見た事も無いような獣人が、男の前に立ちはだかったのだ。

それは筋骨粒々で首から上が獣と言う、比較的人に近い形をしている。


「応……俺は邪魔だって言ったんだ!道を開けやがれ!」

「ぐはっ!?ひっ!……通行の邪魔をして申し訳ありませーーーーん!」


それは道を塞いだという理由で男を殴り飛ばすと、少年の襟首を掴む。

そして少年を吊り下げたまま歩き出したのだ。


「ひいいいっ!?」

「……ちっ……こらぁ!ガキめ!俺の道を塞ぐとはな!食ってやる!」


「ガウウウウウッ♪」

「ガッオオオオオオオン!」


顔色を失う少年を見て、周りの魔物たちは面白そうに囃し立てる。

"それ"はその有様を見てふう、と息を吐くと少年の襟を掴んだまま近くの廃屋に消えていった。

……だが、それに疑問や異議を挟むものは誰も居ない。

何故なら、それもまた魔王支配下たるこの街での"良くある光景"だったのだから……。


……。


「ぼ、ぼくは美味しくないよぉ……食べちゃ嫌だよ……ごめんなさぁい!許してくよぉ……!」

「……あー、心配すんな。死にたくないなら黙っとけ」


そして先ほども言ったのだが、

そんな惨状の中、それでも必死に戦う者達もまだ存在していたのだ!


「旦那。毛皮を取りますぜ」

「え!?……人間……?」

「応よ。俺は正真正銘人間だぜ。まあ、異邦人だがな」


獣の皮を被り、魔物のふりをしながら人々を助ける抵抗勢力。

国も、軍隊も頼りにならないこの悪夢の中で絶望に対し必死に抗い続ける、

それはこの世界に残された数少ない希望の一つ。


「いいか。もう少ししたら俺の仲間がこの街を混乱させる……その隙に逃げ出すんだ」

「え?でも街のお外にはもう食べる物が無いんだよお爺さん……」

「いや、ところがそうでもない。坊主は運が良いぜ……逃げ出せるのは多分、最初で最後だからな」


主な活動は、同じ人間に虐げられた者を見つけたら魔物に扮して暴漢を討つ事。

そして僅かばかりの食糧の配給と、敵戦力へのゲリラ戦である。

……抵抗勢力総帥の名は、ライオネル。

そう、かつてカルマに戦い方を教え、導き、時として敵として立ちはだかった"兄貴"だ。

また、レオの父親でもある。

そんな彼は老境に差し掛かった髭もじゃの顔で少年の頭を撫でていた。


「まあ、俺の故郷まで辿り着けりゃ食うのにだけは困らんからよ」

「本当!?本当なのお爺さん!?」

「ああ。何せ俺達の食い物を提供しているのがこの旦那だからな」


何故彼がこの世界でこんな事をしているのか。

それはまた後ほどとしよう。

ともかく彼らは王都に激増した廃屋に散らばって人々を匿い、王都からの脱出を計画していた。

……そしてこの日はその決行当日だったのだ。


「旦那ぁあああああっ!城門の辺りが騒がしいですぜ!?」

「竜が来たとか何とか……街は大混乱ですよ!」

「来た!本当に助けが来たんだああああっ!」


その時、彼らが隠れていた廃屋に何匹かのワーウルフ、

いや、犬の被り物をした男達が駆け込んできた。


「へへへ。奴等意外とドン臭いですぜ……何人くらい助けられそうですかね?」

「応……だいたい100人弱か。それと被りもんは取るな。お前らじゃばれたら助からねぇぜ?」


彼らは元々一般市民。戦える筈も無く、こうして敵に化けて妨害活動が精一杯。

歯がゆかったであろう。

だが、その苦労もようやく報われようとしていたのだ。


「ふう。短いが辛い日々でしたねえ……旦那に半死半生で助けられたのが昨日の事のようでさ」

「言っとくがな、お前らにとっちゃ辛いのはこれからなんだぜ?まだ何も終わっちゃいねぇ」


「ま、その通りでさ。でも反撃の糸口もつかめない状況は終わりますぜ」

「そうかい……大した根性だ。流石は勇者の仲間、って訳だなぁ、ラビットよぉ?」


「自分は足をやっちまって、もう大した事は出来やせんがね。盗賊ギルド一の凄腕が泣きますわ」

「へっ。勇者の仲間の底意地、期待させてもらうぜぇ?……俺も一応、勇者の弟子って奴だからな」


グスタフ一行の侵入と言う名の乱入に合わせ、大脱出作戦が幕を開ける!


「ライオネルの旦那!ラビット先輩……街が騒がしいぜ!」

「城門が突然崩れたとか……」

「残りの連中も来やがったな!おい、お前らラビットとの打ち合わせ通りに動けよ?」

「パン屋と魚屋は陽動!渡し守の親父さんは動けない奴を船に乗せて移動開始ですぜ」


「老人会のお達者爺さん達はどうするんだよ!?」

「…………打ち合わせ通りに……お願いしや、します…………」

「あい判った!さあ、行こうかのう?」

「この年寄りの最初で最後の大戦じゃあ!」

「孫達を頼むぞ、遠くから来た方よ!」


彼らはただの、普通の人々だった。


「おい、靴屋の兄さん!子供達と一緒に逃げろ!お前さんはまだ若すぎる!」

「冗談!やつらの言いなりにデカイ靴ばかり作ってたのはこの日のためなんだぜ!?」

「息子に伝えよ!父は騎士として誇り高く逝ったと!」

「手前ぇの仕事は罠作りだろうが執事さんよ!?」


ただ、日々の暮らしを守りたかっただけのただの人間だった。


「……はっはっは。一度言ってみたかったのですよ。どうせ、これが最後ですし」

「オラの畑と牛返せこの獣野郎どもーーーーっ!」

「おいこら!まだ早いっての!?」


……別に立ち上がりたかったわけではない。

ただ、立ち上がらねば何も残せない事に、

戦えるのが自分達だけだと気付いてしまっただけ。


「……集まったのはたったこれだけかよ。世界を統べしアラヘンの人間様ともあろうもんが」

「いや?こんなにいるじゃぁないか……戦える奴は殆ど残ってないってのによ!」

「応。お前らは強ぇ!勝ち目は無いが戦わにゃならない時、立ち向かえる奴は……強ぇ!」

「旦那!自分等もそろそろ行きやしょう?今回は仮面も無しでさ。正面で奴等の注意を引き付けないと」


蟷螂の斧は容易に折れるだろう。

だが、彼らは行く。その小さな刃が憎い敵に僅かばかりの傷を付け、

彼らの守りたい未来を欠片なりとも守れると信じて。


「人は無力なんかじゃないんじゃーーーーーッ!」

「おじいちゃん……」


各地のアジトから飛び出し、見境無く周囲の魔物たちに襲い掛かる抵抗勢力。

無論それは数えるほどの間に鎮圧されていく。


だが、街は元々大混乱の渦の中に陥りつつある。

巨大な竜が暴れ周り、小柄な竜が荒らし回っている。

しかも魔王は竜にご執心で不殺命令が出る始末だ。


そんな中、ある者は河を下りある者は被った毛皮を頼りに走る。

そして必死に逃げる者達を死に場を定めた者達が囮になって逃がして行く。


「ぐああああああっ!?」

「ガ、ガルルルル!?」

(知らないお爺ちゃん……ありがとう!)


そして、逃がされた者達はその背中を記憶の奥深くに刻み込んでいった。

それは形見だ。

誇り高き生き様と言う、形の無い無二の財産だった。


「アッパースイング!……クソッ!動きが鈍いぜ……力任せで生きてきた結果がこれかよ!」

「自分ももう手投げ弾がありやせん!今回はここまででさぁ」


「……応!さあ全員逃げろやぁぁああっ!ここはこの俺が任されたぜっ!」

「足引きずりながら逃げるのはきついんで自分は先に行きやす!」


街の外へ人々が逃げていくのを見て、抵抗勢力は少しづつ姿を消していく。

何故なら彼らの戦いはまだ終わっていないからだ。

逃がせるだけの数は逃がした。だが大多数の人間はまだこの街で生きていかねばならない。


「……はぁ、はぁ。歳は取りたくないもんだぜ……俺の唯一の武器が、腕力が衰えていくとはな……」

「流石ですねライオネル将軍。父上の兄貴分と言うだけの事はあります」

「お爺様。ご無事で?」


まあ、だからこそ彼らが来たのだが。


「応。グスタフに……アオか。悪ぃな、無理して呼んじまってよ」

「ええ。残念ながら父上は国から動けないため僕が名代として参りましたが」

「あたしらも、いるです」

「逃げた人達はうちの国に亡命扱いで受け入れるでありますよ」


理不尽をそれを上回る理不尽な力で叩き潰す法外の権化達が。


「しかし、この騒ぎは何なのですか?」

「細かい事は良いんだよ!……ただ、お前らが来る時絶対騒ぎになると思ったからよ……」

「そのすきをみて、ひとを、にがした、です?」

「ま、とりあえずどっか隠れるでありますよ」


……。


それから30分ほど経過したライオネルの隠れ家。

竜達も適当に暴れまわって満足したのかさっさと帰ったため、王都も静かなものだ。

そんな中、彼らは今回の件について話をしている。


「まあ、と言う訳で俺はこの国に骨を埋めるつもりでよ……」

「手紙を見た時は信じられませんでしたが、本気なのですね?」

「でも、なぜです?(棒読み)」

「アリシア。あからさま過ぎでありますよ?」


はっ、とライオネルは笑う。

だが、それは酷い自重の笑みだった。

正直彼に似合う笑い方ではない。


「……ちびリオはこの世界に飛ばされ、この世界で生き、この世界で死んだ。皆俺のせいだ」

「そうですね。貴方が皇帝の甘言に乗りさえしなければマナリア王都は落とされなかった」

「殿下!幾ら事実でも言って良い事と悪い事があります!」


「いや、構わねぇよアオ。馬鹿貴族の嫌味にぶち切れて国を出て行ったのは他ならぬ俺だからな」

「はい。ですが、僕は貴方が責任を感じる必要は無いと思います。戦争でしたし」

「それに世界の崩壊の一環で出来た時空の穴にリンが落ちるなんて誰も予想できなかったであります」

「まあ、いまのあたしらなら、はなしはべつ、ですが」


「リン様……世界統一を成し遂げた伝説の女傑でやすね。まさか縁者が異世界にまでおられるとは」

「そうだなラビット殿……それにしても会えて嬉しかった。シーザーが……世話になったな」


「いえいえ。自分は王の依頼に従っただけでさ、じゃなくて……です」

「敬語は必要ない。私は……アオだ。シーザーとは…………うん、遠い親戚に当たる」


リン。もしくはフレアさん……。

そう呼ばれる彼女は先ほどのライオネルの娘であり、レオ将軍の姉でもある。

前作終盤でオークの群れに襲われるままフェードアウトした彼女ではあったが、

どう言う訳か100年以上前のこのアラヘンに流れ着き、伝説を築いていたらしい。


「……伝説の女傑は良いがよぉ。手前ぇの不始末で娘にえらい苦労をかけちまったと思ってな」

「ちなみに、みつけたのも、あたしら、です」

「10年前の戦争後、馬鹿のアジトを探してたら偶然この世界を見つけたであります!」

「それで姉上達から話を聞いて、娘さんが骨を埋めたこの国の為に働いている。と言う訳ですね」


そして、話を聞いてこの世界に渡ったライオネルだが、

それから暫くして魔王ラスボスの侵攻があったというわけだ。

残念ながら、体力の衰えた兄貴ではかつてのような無茶は出来なかったらしい。


「応。でもな、体がもう自由に動かねぇんだわ……俺も歳って事か」

「いえいえ!旦那のお陰で助かった奴は百人を越えます!十分過ぎるほど助かってますぜ?」

「魔王打倒どころでは無いと言う訳ですね。それで僕達を呼んだ、と」


ライオネルは無言で首を縦に振った。

力自慢の豪傑だった身の上としては忸怩たる想いがあるだろう。

だが、そんな事を言っている場合でもない、と言う訳だ。


「ですが、お断りします。我が国の国益になりませんし」

「おいおい!俺はまだ何も言ってないぜ?」


とは言え、グスタフは問答無用で切り捨てる。


「大方ラスボスの打倒か、奴の支配下からこの世界の解放を、と言う事でしょう?」

「応よ。そんで復興はカルーマ商会主導でやりゃお前らの利益にもかなうぜ?どうよ?」


「お断りします」

「……何でだ?ちびリオの子孫達が一杯住んでるんだぞ?住んでる奴等も気の良い奴が多いんだぜ?」


兄貴の疑問ももっともだ。

だが、それに対し彼らは明確な理由を持って否定をする。


「それが良い結末に繋がらないからです。恐らく、僕らの介入で幸福になる世界ではない」

「相手は世界政府でありますから。こっちの存在を認められないであります」

「まあ、シーザーがくるから、それをまつ、です」

「お爺様。そうして下さい……アラヘン王の面子を守るためにも……」


王の面子、の言葉に段々と熱くなっていたライオネルが矛を収めた。

どさりと背もたれの壊れた椅子に腰を下ろし、何処とは無く上のほうを向いて疲れたように言う。


「そうか。この国のお偉いさん方の面子もあるもんなぁ……」

「ちからおしで、かいけつできない、むずかしい、もんだい、です」

「後々リンカーネイトが怨まれる事態は認められないでありますからね?」


つまり、天に日輪は二ついらないという訳だ。

プライドが高いと思われる連中を無闇に刺激したくは無いという事なのである。


「まあ、一応これからアラヘン国王陛下にお会いする予定なのでその際に支援の話はしてみますが」

「なんだと?だがどうやっていくつもりだ?王様は占拠された城の奥に幽閉されてるって噂だぜ?」


……その至極当然な疑問に対し、グスタフ達はきょとんとして言う。


「そんな事。普通に城門を通って歩いて行くに決まってるじゃないですか」

「いま、おしろにいる、てきのかず、たった、いちまんさんぜん、です」

「ぐーちゃんには余裕でありますよね!」


「いやいやいやいや!ちょっと待って下さいよ!?それの何処がたった、でやすか!?」

「ラビット、諦めろ。この方達の前に常識は通用せん」


どうやら、性格は相変わらずのようである。


「とりあえず国王陛下には僕らの支援が必要かお伺いします。それで嫌なら彼らが決めた事です」

「ほろんでも、しかたなし、です」


ライオネルも思わず苦笑しつつ、

煙突に隠していた、と言うよりは煙突以外に隠しようの無かったある物を指差した。


「……相変わらず微妙に人情を理解しないやつだなぁ。まあ、いい……アオ!これをやる」

「これは、お爺様の長々剣!?」

「旦那!?その糞長い剣、手放すんでやすか?」


ライオネルは少しばかり遠い目で、未だ煙突に収まったままの剣の柄を指差す。


「……応。俺にはもう、重すぎらぁ……形見だと思って良いぜ」

「形見、などと……」


「へっ。俺はもうここで死ぬ事に決めてるんだ。故郷には帰らねぇからな」

「では……お預かりします」


それを受け取ったアオは柄を握り締め、煙突内部に消えていった。

……そうでもしないと取り出せないから仕方ないのではあるが。


「では、僕達は行きますね」

「ばいばい、です」

「応。達者でな……」

「勇者様のご帰還を楽しみにしてますぜ!」


そして、不条理の塊は去っていく。


「ところで。最初から僕らに依頼してくれれば、脱出作戦も犠牲者無しでいけたと思うのですが」

「……ぐーちゃんが動く以上大騒ぎになる事は理解していたでありますよね?」

「それ、りようする、さくせんは、おもいついたのに……なんで、です?」


「応……そういや、そうだな……?」

「思い付かなかったんですか」

「おばか、です」

「まあ、判ってて言わなかったあたし等も大概でありますが」

「いやいやいや!判ってたなら言って下さいよ!?自分等の犠牲は何だったんでやすか!?」


全てを台無しにしながら。


「……それにしても、酷い光景ですよね」

「おうねんの、えいが、まったく、みるかげなし、です」

「もう、焼け落ちた廃墟にしか見えないでありますね」

「数時間前までは一応その面影を偲ぶ事は出来たのですがね……」


「わーい。アオが、おこった、です!」

「逃げろでありまーす」

「姉上!敵に見つかったらどうするのですか!?まあ、その時は皆殺しにするだけですが」

「殿下……ご自重を!……さあ、道案内いたしますので私に付いて来てください!」


何処かのんびりとした空気をかもし出しながら、彼らは街の奥へと消えていった。


周囲は悲鳴と怒号の木霊する現出した地獄のような光景。

その中をまるで観光客のように行く彼らは非常に目立ったが、

彼らを押し止めようとする者は一人としていなかった。


……居たとしても一瞬で消し飛ばされたが。


ここはアラヘン。

かつてこの世界を治めていた街。

今は魔王ラスボスが鎮座する街。

そして……勇者シーザーの目指す場所である。


変わり果てた故郷を見た時、

果たして勇者は何を思うのだろうか……。


続く


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