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No.15918の一覧
[0] フレイムウィンド&ケイオス  (TRPG風 異世界ファンタジー転生物)[ランダム作成者](2010/04/18 12:17)
[1] 1  チュートリアルなど無い[ランダム作成者](2010/04/11 14:23)
[2] 2  『スカベンジャーズ・マンション』 編[ランダム作成者](2010/04/04 11:49)
[3] [ランダム作成者](2010/03/05 19:59)
[4] [ランダム作成者](2010/04/04 10:57)
[5] [ランダム作成者](2011/02/18 06:32)
[6] [ランダム作成者](2010/04/04 10:59)
[7] [ランダム作成者](2010/03/05 20:47)
[8] [ランダム作成者](2010/03/27 12:51)
[9] [ランダム作成者](2011/02/18 06:30)
[10] 10[ランダム作成者](2010/04/11 14:29)
[11] 11  レベルアップ[ランダム作成者](2011/02/13 01:43)
[12] 12[ランダム作成者](2010/04/11 14:35)
[13] 13[ランダム作成者](2010/04/12 10:50)
[14] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編[ランダム作成者](2010/04/26 15:42)
[15] 15[ランダム作成者](2011/02/18 06:34)
[16] 16[ランダム作成者](2010/05/09 13:10)
[17] 17  意思ぶつけ作戦[ランダム作成者](2010/05/25 02:19)
[18] 18[ランダム作成者](2011/02/13 02:36)
[19] 19  精神世界の戦い[ランダム作成者](2011/02/13 05:10)
[20] 20  いざ、人生の再スタート      (LV 3にアップ)[ランダム作成者](2011/02/18 22:55)
[21] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)[ランダム作成者](2011/02/27 14:19)
[22] 21  『帝国からの逃避行』 編     [ランダム作成者](2011/12/07 21:52)
[23] 22[ランダム作成者](2012/03/18 15:13)
[24] 23  リンデン王国を目指して[ランダム作成者](2012/03/19 02:30)
[25] 24  グレーターデーモン     (ティーナのステータス表記)[ランダム作成者](2012/04/05 05:41)
[26] 暫定 キャラクターデータ まとめ[ランダム作成者](2011/02/13 02:00)
[27] 暫定 アイテムデータ まとめ[ランダム作成者](2010/05/20 16:57)
[28] LVや能力値などについての暫定的で適当な概要説明 & サンプルキャラクターズ[ランダム作成者](2011/02/27 14:10)
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[15918]
Name: ランダム作成者◆f9a7ea31 ID:470fdece 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/18 06:30



 ◆ 習得条件達成 攻撃を回避した事により 《回避》技能を習得しました。

 ◆ 習得条件達成 全力で走り続けた事により 《行進》技能を習得しました。



 んーむ、こりゃあ凄い。
 履き心地抜群のブーツのおかげもあって速い速い。何だか無性に漲るぞ。
 倍以上の数値になったのだから当然とはいえ、努力ってモンが虚しくなる結果だなあ。一体全体、俺の身体はどうなっちまってやがるんだ?

 うなされるウェッジを尻目に二日ぶりの温かい食事を取った俺は、その後もシャンディー姉さんの厚意に甘えてステータスに関する情報を教えてもらった。
 HPはダメージを受けると、MPは魔法を使うと、CPは特技を使うと減少するといった基本的な事や、特技と魔法はクラス固有のもの以外は一括して同じ枠内で扱われているという事。前提条件さえ満たせば枠数の限界までコストなしで覚えられるといった事等々。
 中でも一番重要な、それを知る者と知らない者では全てにおいて雲泥の差が生じてしまうであろうと思えるのが、DPの活用と取得についての事だった。
 もうね、こいつがないと話にならん。

 HP。MP、CPはレベルアップ時に能力値から算出された一定数の上昇が見込めるらしいが、その基準たる能力値を含めたアイテムやら技能やら特技・魔法やらの枠数はDPを消費しなければ変動しないというのだから。どれだけ大事なのかは自明の理というものだろう。
 俺達の命運をどうしようもなく左右するステータス。DPはその成長の鍵を握っているのだ。

 例えば、能力値なら素の合計が80になるまではDP 1の消費で1、85までならDP 2の消費で1、90までならDP 4で1といった具合での上昇が可能なのだとか。恐らくは100までならDP 16と、能力値の合計が5上がる度に消費DPが倍々になっていくのだろう。
 同じようにアイテム、特技・魔法の枠も20までは消費DP 1で、それからは5上げるごとに倍増していく仕組みらしい。
 技能の方は30まで消費DP 1な。
 あと、特技・魔法にはレベルの付いたやつがあって、そいつを上げるのにもまた倍々の倍でDPが要る。しかも低、中、高と難易度によって消費量が変わるのだそうだ。

 言うなればアレだな。地獄の沙汰も何とやらってのが決まり文句のやつに近いかな?
 そうそう、あの文明人には欠かせないアレだよ。
 ステータス強化には、それくらいにDPの量が物を言うのである。
 ……アレもまた似たようなもんで、最も重大かつ単純明快な目安だしな。別の意味でのステータスの。
 観察技能が50.0に達して、初めてその詳細が確認できるようになるってのも……何て言うか、嫌らしい話だねえ。
 やっとこさ11.0になった今の俺じゃあ、いつの間にかHPの上に新しい数値が表示されてるな~? ってくらいにしか分かんねえし。姉さんに教えてもらわなきゃ疑問を抱えたままで放置していた事だろうよ。

 …………そういや、技能枠が埋まった時にDP振り分けがどうのってメッセージがあったな。
 今思えば、あれこそが試行錯誤のためのヒントだったのかもしれん。サラッと流しちまうなんてどうかしてたな、七日前の俺は。
 前世でもっとRPGを堪能していればよかったと、半ば本気でしみじみと思う。
 技能だとか魔法だとかクラスだとかいったゲームシステム的な事象に対して、前向きな発想がとことん欠けてやがんだよ、俺って奴は。血塗ろの抗争は程々にしてコンベンションにでも参加しときゃあよかった。
 遊んどきゃよかったってのも変な話だけどな。人生、何が何時役に立つかなんてのは分からねえもんだよ。

 ──で、大事な大事なDP様を得るにはどうすればいいかだが、これも独力では気付くのに時間が掛かっただろうな。
 姉さんから聞いた取得方法は二通りあった。
 一つはレベルアップ。上がった瞬間にレベルと同じ数のDPが支給されるんだとか。
 初期のDPが1なのは、そのおかげってわけだな。少なすぎるからオードブルみたいなもんだけど。
 メインディッシュはもう一つの方──あのマップと一緒にすべてのご同輩が所持していた謎アイテム〈フォーチュン ダイス〉を使って取得するやり方だ。
 そう、ダイスロールだよ。賽を振って決めるんだよ。
 レベルと同数のダイスを振り、出た目の数を合計した数値がそのままDPとして加算されるってわけだ。
 使用したダイスは淡い光と共に跡形もなく消滅する。振り直しはダイスが続く限りいくらでも可能だが、一度でもDPを消費すると、もうそのレベルでのダイスロールはできなくなってしまう。
 試しに三つほど一辺に振ってみたりなんて事もしたんだが、特に何も起こらなかったな。レベルと同じ数じゃないと反応しないように出来てるんだろう。
 …………何かしらの抜け道か、裏技があるたぁ思うんだがな。

 そうして湧き起こる疑念に折り合いを付けた俺は、誰が決めたのかも分からないクソルールに従って大人しくダイスを振ったってわけだ。
 もちろん、6の目が出るまでな。
 初期のと足して7になったDPは、能力値と技能枠に使わせてもらった。
 1使ってENDを10に、4使ってAGIを9に。技能枠には2ポイント使用して移動力を上昇させるという《行進》と、姉さんお薦めの《回避》を習得。
 そのために彼女のローキックを避けさせてもらったんだが…………まあ、寒気のする風圧だったとだけ言っておこうか。好奇心で人の過去なんて詮索するもんじゃない。
 とにかく俺は強くなった。……いや、速くなったのか。+3のクラスボーナスと合わせて、AGIが一気に12もの数値に跳ね上がったわけだからな。パワーアップじゃなくてスピードアップだ。
 さっきから俺が速い速いと感心してたのは、これに対しての事だったのである。



 ◆ 特技 【早駆けLv1】 〈低 難易度〉 〈運動系〉 〈準騎乗系〉

    CPを消費して移動力を上昇させる技です。
    消費量はクラスの恩恵や行進技能の熟練度などによって変化します。
    また、特技【騎乗戦闘】 【人騎一体】などの騎乗系特技と組み合わせる事で、
    騎乗時においての使用が可能となります。
    特技Lvを上げていけば、更なる効力が発揮される事でしょう。

     移動力に+10%のボーナス。

     基本消費量  CP 10
     有効対象  本人のみ(場合によっては騎乗生物を含む)
     効果時間  (END+WIL)×LV×1分間



 現在は特技【早駆け】の試験運転を実行中であります。
 あくまでも体感だが、これでやっと昔の俺の背中が見え始めたってところかね。

「おうおうおう! おそいぞおそいぞ! カーリャぶっちぎりだ!」

 ……モドキの奴を追い越すには、もうあと3レベルは必要かな? これも体感だが。
 しかし、いくら自分のとはいえ短い足がここまで忙しなく動きまくるってのは不気味なもんだなあ。

「おい、試しに二本の足だけで走ってみろ。絶対俺のが速いはずだから」
「なんだ、ハンデか? いいぞいいぞ。めかくしもするか?」
「…………」

 本当、若すぎるってのも困ったもんだぜ。








 数時間して目を覚ましたウェッジに仕上がった衣服を渡し、食事を取らせる。

「そういえばお兄さん…………何だか、その……少し見ない間にユニークな方が増えましたね」
「お、そいつはもしかして俺っちの事ですかい、新顔の兄さんよ? 今更嘆くつもりはねえが、見て笑おうってんなら御代は高く付きやすぜ?」
「はあ……えーと、つまり、そういった方面のお仕事を?」
「んなわけあるかーい!」
「ふふふっ、悪意がないって素晴らしいわね」

 人心地付いた後は、自己紹介やら綺麗になった頭の事やらアイテムの整理やら。
 ウェッジの奴、どういう経緯かは知らんがアイテム欄が本ばっかりだったからな。そういう余計な物を荷物袋に入れて、空きを作らせる事にしたんだ。
 俺のアイテム欄を圧迫する食料の一部を持ってもらうためにな。

「はい、大変だったでしょう。よく頑張ったわね」
「あ、どうも。いや~、無我夢中だったもんですから。おかげで細かいことは全然覚えてないんですよ。
 …………いつ、髪が抜けちゃったのか……とか、もう本当に、身に覚えがなくて……ね? アハハハハハハ!」

 まあ、大泣きしないだけマシってやつかね。
 よく似合ってるぞ、その黒いニット帽。

「はい、もっと欲しかったら言ってちょうだいね。遠慮しなくてもいいのよ」
「あいよ、ありがとさん」

 ついでに俺も一緒に、もう5枚ほど姉さんから袋をいただいておく。
 『こういう事もあろうかと』ってな心構えで作り置きしてあったみたいだしな。そうと分かれば遠慮なんぞしていられん。

「大の男がいつまでも失っちまったモンにメソメソしてんじゃねえよ。ほれ、俺の荷物だ。預かっといてくれ」
「……え? うわ!? どうしたんですか、こんなに? 何十日分もあるじゃないですか」
「もらったんだよ」
「ふわぁ~、何処にでも親切な人っているんですねえ」
「ああ、まったくだな」
「まったく……まったくもってその通りですねえ、坊ちゃん」

 弱かったり間抜けだったりってのは、敵対する側からしてみりゃあ親切以外の何物でもねえやな。
 …………よし、これで空きが三つ出来たぞ。
 とりあえずは準備完了だ。あとはウェッジの回復を待つだけ。そしたらアヤトラの顔を拝みにいくとしようかねえ。
 おっと、その間に情報収集か。

「ウェッジ、シニガミの事を聞かせてくれるか? いや、抜け毛のショックから立ち直れないのは分かるが、俺達にとっても──」
「いえいえいえ! そんなショックとか全然ないですから! 魂の無事に比べたら髪の毛なんて安いもんですよ!」
「そいつぁ結構。何の気兼ねもなく話せそうだな」

 トラウマも特になさそうだったので、冗談を挟みつつ伺ってみる。
 ウェッジは固く目を瞑った後に少しだけ肩を震わせ、程なくして噛み締めるように話し始めた。

「……レギオン・ゴーストって名前でした。レベルとか詳細は分からなかったんですけど、
 見た目はですね……その、幽霊軍団? いや、悪霊の集合体かな? とにかくそんな感じでしたね。
 何処まで逃げても追い掛けてきて、やっと逃げ切ったかと思ったら壁を抜けて襲ってきて…………。
 はっきり言って悪夢でしたね。さっきまで見てた夢との区切りが曖昧すぎて笑えてきますよ」

 ほう、レギオンでゴーストで幽霊の集合体ねえ……。
 マルコによる福音書に出てくる悪霊レギオンと、軍団を表すレギオンを掛けた名前なのかね? 
 第五章九節──『主が「何という名前か?」とお尋ねになると、それは「レギオン。我らは大勢であるが故に」と答えた』──この後イエスが叫んで、天が裂けたり湖が揺らいだりする超展開が勃発。神父様の説教なんかじゃ特に盛り上がる山場の一つだな。
 ウェッジの話だとゾンビやネズミの魂まで取り込んで肥大化していく、壁をすり抜けるような実体のない霊魂の集まりだそうだし。大勢の悪霊ってのは想像しにくいが、多分そんな感じの奴なんだろう。
 対抗策は……火しかないか。



 ◆ 特技 【咆哮】 〈音声系〉 〈準射撃系/放出〉

    自らの声に原始的な生命エネルギーを込めて、敵の精神を撃ち払う技です。
    本来は円錐状に広がる無差別攻撃ですが、集束させて単体の対象を狙う事もできます。
    湧き上がる情念を叩き付けるかのような魂を震わず雄叫びは確かに強力ですが、
    ただダメージを与えるばかりが能ではありません。
    その真価は【一喝】などの特技との併用によって初めて発揮される事でしょう。

     A 範囲内の対象に 1D6×LV+STRボーナス のMPダメージを与える。
     B 単体の対象に 1D6×LV×STRボーナス のMPダメージを与える。

     A、B共に対象は精神抵抗に成功するとダメージ半減。通常の防護点は無効。
     抵抗の正否に関係なくWILボーナス値がそのまま防護点として適用される。

     基本消費量  CP 8
     有効対象  本人以外
     有効射程  (LV×STRボーナス)×5メートル
     効果範囲  使用者を頂点として拡大する円錐形
             1メートルごとに底部の直径が30センチずつ広がっていく
     効果時間  一瞬



 もしかしたら、こいつも使えるのかもしれんが……過度の期待は禁物だな。
 今の俺のCPだと三回までしか使用できねえみたいだし。いざという時の目眩まし程度に考えておいた方がいいだろう。それで逃げられりゃあ万々歳だ。
 出くわさねえのが一番なんだがな。

「姉さん、陸に上がったオランダ人が彷徨ってるそうだけど網に反応はあるのかい?」
「んー、今のところ大した獲物は掛かってないようだけれど……。
 壁を抜けられるような相手には意味がないかも? 私の特技レベルだと、まだ糸に伝わる振動までしか感知できないはずだから」

 そのための唯一の予防線はアテにならず、か。
 そう、アテにしてたんだよ。ウェッジを休ませてからだなんて悠長なプランを練られるくらいに。
 どうやら今の姉さんの糸では位置情報と震動だけしか掴めないらしい。本来なら充分すぎる能力なんだがな。この場合は相手が悪い。非常識にも程があるぞ。
 ある意味、悪魔より有り得ん。ゾンビもそうだが何でうろついてんだよ? あの世で誰かが怠けてんのか? クソッタレめ。相談窓口は何処にありやがる。

「撃退する手段がないのなら、今すぐにトラちゃん達と合流した方がいいかもしれないわね。
 その場合は私がウェッジくんを背負っていこうと思うのだけれど、どうかしら?」
「え? あ~……オレ、歩くくらいなら多分、平気かと思うん──おわとたっ!?」
「阿呆、お前は無理すんな」

 ふらついてんじゃねえか。この調子じゃあ軽く小突いただけで脳挫傷確定だぞ。
 姉さんの言う通り、合流を急ぐんなら任せるしかねえやな。リザードはSTR 4で腕力の方はからっきしだし、俺は身長差のせいでどうしても引き摺る羽目になっちまうし。

「念のために訊くが、アヤトラは悪霊共が相手でも頼りになるのかい?」
「それは私が言う事じゃないわね。貴方の目で直接確かめた方がいいわ」

 ふむ、そうくるか。
 確かに言葉だけで保証されても俺は信じねえしな。姉さん、よく分かってらっしゃる。
 シニガミがどんな奴だか判明した今となっちゃあ座して待つのは論外だし。対処の可能性がある方にとっとと移動するとしようかね。

「よし、いいだろう。案内を頼む」

 大所帯だそうだから、期待外れでも最悪囮くらいにゃなってくれるだろ。








 結果として、俺が下した出発の決断は正しかったと言えるだろう。
 加えて言うなら、タイミングも悪くはなかったと思う。
 ウェッジを背負ったシャンディー姉さんを先頭に、リザード、モドキ、俺の順で歩を進める事およそ二時間弱。そろそろアヤトラ達の居る部屋に着こうかってな辺りで、アレが来ちまったわけだからな。
 少しでも出発が遅れていたら、さぞ見通しの暗い逃避行になっていたに違いない。
 あそこに残っていたら? 余り想像はしたくねえやな。そもそも、とっくの昔に通過した分岐点の事なんて考えちゃいかんよ。

「う…………シニガミ……シニガミ、またきた」
「今度は俺にしがみつくんじゃねえぞ。逃げるなら自分の足で逃げろ」

 何メートル離れているのかは知らねえが、背筋にゾクゾク伝わってくる。たったの二日で忘れ去るには、この怖気は強烈すぎた。
 間違いない。シニガミだ。前みたいに背後から迫ってきてやがる。

「うわぁ……。確かにこりゃ無茶苦茶やばい感じですね。鳥肌が立ってきやしたよ」

 放射される寒い気配に腕をこすりながら、リザードが軽口を叩く。こいつは小心者に見えて意外と肝が太いな。普通なら恐慌状態になってもおかしくないと思うんだが。
 姉さんも冷静だ。ウェッジの奴は……片手で頭を抑えてるな。もう抜けようがないから安心しろ。

「俺が残って時間を稼ぐ。姉さん達は先に行ってアヤトラを連れてきてくれ」

 強張ったモドキの背中を押しやりながら、一人一人の目を見て言う。
 決して自己犠牲の精神とかに目覚めたわけではない。ただ単に全員が生き残れるであろう最善の道を選んだだけの事である。
 みんなで仲良く全力疾走となると、お荷物抱えた姉さんが真っ先に脱落するだろうからな。
 借りを作っている身としちゃあ、それだけはできねえんだわ。
 まあ、シニガミ除けにアヤトラを頼ろうってんだから姉さん捨てちゃ不味いだろって打算もあるんだが……。間違いなく理由の八割は俺の矜持から来るものだった。

「……そうね。分かったわ。無理しちゃ駄目よ」
「お兄さん、本当に四方八方から襲ってきますから気を付けてくださいね」
「おう、しんだらコロスぞ。わかったか?」
「はいはい、分かった分かった。また後でな」

 追い払うように手を振って、駆け出す背中に背を向ける。

「お前は行かねえのか?」
「いや~、お言葉に甘えたいところなんですけど、坊ちゃんが居ないと肩身の狭い思いをしそうな気がしやしてね」
「なるほど。じゃあ独りで残れ。俺は逃げる」
「えぇ!? そんな殺生な!」

 酔狂にも残ったリザードの奴に後事を託して逃げようとしたら、物凄い勢いで回り込まれた。
 別れる前にウェッジが掛けてくれた、あの速度アップの魔法が効いてるからなんだろうが……ちょっと驚いたぞ。速すぎるだろ。カートゥーン・アニメか、お前は。

「何だよ、そんだけの足があるなら俺は居なくてもいいだろ。大丈夫だ。お前ならやれるって」
「坊ちゃんが逃げるんなら俺っちだって逃げやすよ! 死なないように程々に付き合うつもりで言ったのに!
 曲解するなんて酷い! ──って、うわおおお!? 来ました! 来ましたよォォ! 後ろ後ろ後ろ後ろ!!」

 あークソ。本気で逃げ損ねた。
 うわ、やべえ。
 ほんの少しの脱力と共に振り返った俺は、通路の彼方から迫る怖気の原因を見て口元の歪みを最大限に強めた。
 薄ぼんやりと気味悪く輝く、半透明な悪霊の塊。造形の方は一カ所に向けて何十何百もの人間が飛び降り自殺をしたかのような惨たらしさと、予想を大きく裏切るようなモンじゃなかったんだが……。

「……ほとんど壁じゃねえか」

 そのサイズだけが想定外だった。
 聞いた話より随分とでけえじゃねえか。一体、どれだけの魂を取り込んだんだ? 通路の向こうまで埋まってやがるぞ。
 火炎ファイヤーを繰り返しながらの後退戦術でいこうかと思ってたんだが、こりゃあ別の手を講じる必要があるな。

「どどどど、どうしやす、坊ちゃん!? アレはかなり危険だと思うんですけど」
「そうだな。ひとまず場所を変えるとしようか」
「はぇ? という事は──」

「逃げるんだよォォォォ!! 風のようになァァァ!!」
「お供しやすぅぅぅぅ!!」

 思い付くまでは、ひたすら逃げる。
 喧嘩の基本だな、新しい対策なんてのぁ逃げてる内に何となくまとまってるもんだ。
 行き当たりばったり? 違う違う。臨機応変ってやつだよ。そりゃ思い通りかっちり進められるに越した事はねえんだけどな。理不尽と不確定要素の連続で出来ている人生には、そうじゃない場合の方が多いだろ?
 だからこれは、あくまでもプロセス。その辺の諸々を自分の有利なように調整するための作業過程ってわけだ。

「ぬああああックソ、速えェ────ッ!? 図体の割に大したスピードじゃねえか!」
「坊ちゃん、もっと急いで!」

 途中でやられちまったら元も子もねえんだがな。
 加速度的に下がっていく体感温度を振り払うようにして足を動かす、俺とリザード。なのに出るのは冷や汗ばかり。ゲロンチョのシニガミから流れてくるのは吹雪さながらの猛威だった。
 この分だと、捕まったら寒くて死ぬな。悪霊に取り殺されるってのは凍死に近い感覚なのかもしれん。

「リザード、左だ! 左の方に広間がある! そこで迎え撃つぞ!」
「えっ!? まだヤル気だったんですかい!?」
「当然だ、ボケ! このまま連れてったら顰蹙どころじゃ済まねえだろが!」

 とりあえず俺は時間を稼ぐために、できるだけ広い場所へと移る事にした。
 あのサイズ相手だと逃げ場のない通路じゃどうにもならんからな。何とかして全容を明らかにしねえと攻撃を避ける事すらできねえんだわ。
 しかし、参ったな。

「ひいぃぃ!? 言わんこっちゃねえ!」

 回り込まれたぞ。
 いや、挟み撃ちか。壁をすり抜ける事で曲がり角をショートカットしたんだな。にも関わらず、後ろから追い立ててくるシニガミは消えていない。
 二体居たのか? それとも分離でもしたのだろうか? 歪な形に伸びてるだけって線も有り得るな。
 何にせよ、ここは前進あるのみだ。

「リザード! 俺の後ろに付けてろ!」

 特技【咆哮】、吠え猛るぜぇ!!

「ウラァァァァァァァァ────────ッッ!!!!」

 放たれた大音量の雄叫びは通路を塞ぎ始めたシニガミを見事に散らし、俺達の活路を開いた。
 ……いやー、我ながら五月蠅い五月蠅い。口から心臓が飛び出るかと思ったぞ。
 だが、予想以上に効き目有りだな。あと二発、慎重に使わせてもらうとしようか。

「どけ、コラァ!」

 雪崩れ込んだ広間は既視感たっぷり。死体とキノコに彩られたネズミ共の栽培場だったが、怯んでいる暇はない。ダッシュの勢いに任せて邪魔なネズミを蹴り飛ばす。
 蹴って蹴って蹴飛ばして、真っ直ぐ広間の中央へ。死体の山の天辺へ。
 追い縋る畜生共には踏み付け、爪先、踵落とし。
 そして素早く左手に松明、右手に神ボトルを構えて、いつなりと全方位に火炎ファイヤーを浴びせられる準備を整えた。
 
「坊ちゃん! ちょっとここ、危険すぎやしやせんか!?」
「百も承知だ! 危ねえ事をやってるんだよ!」

 適当に火を付けながら、意気込み盛んに待つ事しばし。……実際は十数秒ってところなんだろうが、やたらと長く感じたな。
 ようやく全容を顕わにした悪霊レギオンを睨み据える。

「うはははははは!! 笑えるじゃねえか! ええ、おい!?」
「んなわきゃねーでしょ! 頭の何処をどう繋いだら、そんなセリフが出てくるんですか!?」

 直径いくつだ? アメーバ状の不定形だからよく分からんぞ。
 とにかくでかい。圧倒的だ。
 はっきりとした悪夢の産物が、フットボールの試合ができるくらいに広大な空間の三分の一近くを占有していた。
 まったく大したド迫力だよ。改めて地獄に堕ちたような気分だぜ。

『さむい…………さむい……さむさむさむさむさむいさむいさむいさむいさむさむいさむい…………』

「ん、何か言ったか?」
「いえ……多分、アレから聞こえてきたんじゃないですかねえ……?」
「ってことはつまり、亡者の声か。死んでまで泣き言たぁ、情けねえ連中だな」

 俺は挑発混じりに肩をすくめ、一瞬で引き締めて、こちらに伸びる悪霊の塊に火を吹き掛けた。
 ……いけそうだな。
 ダメージの有無は分からんが、散らす事はできる。今のところはそれだけで充分だ。
 
 「この幻が! ニューヨークへ帰りやがれ!!」

 減らず口は欠かさずに死骸と死骸を踏み締めて、縦横無尽に逃げ回る。
 アヤトラが来るまでの時間を稼ぐついでに、じっくりと弱点を探らせてもらうとしようかね。
 来るかどうか、来たところで倒せるかどうかってのは完全な賭けになるだろうけどな。
 それも、かなり分の悪い。


 …………ああ、もちろん。負けるだなんて、これっぽっちも思っちゃいないさ。


















 あとがき

 お待たせしました。
 感想数が100を突破したので、次はキャラデータも一緒に投稿しますね。
 ご声援、どうもありがとうございます。

 ご指摘のあった、蜘蛛の歩みの秘薬を飲んでも天井を走ると落ちるといった問題点については、2話での主人公の検証部分を少し修正する事で対応させていただきました。

 タイトル決定しました。
 特に深い意味はありません。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 現在の所持品  14/17

 パーソナル マップ  (72)
 フォーチュン ダイス  (504) 6が出るまで振り直して3消費  今回ようやくの出番です
 豊穣神の永遠のボトル

 丈夫で軽くて滑らかで愛が込められた高品質の スパイダーシルク製の背負い袋

 入)ケタの干し肉  (38)
 入)他の袋4枚

 丁寧な作りの軽くて丈夫な スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スマイリーキャベツ  (5)
 入)オミカン  (10)

 丈夫な革製の背負い袋
 入)ヒール ストーン
 入)ヒール ストーン
 入)リフレッシュ ストーン (5)
 入)陽光のカンテラ
 入)水筒 〈空〉
 入)丸い水筒 〈湧き水〉
 入)大きめの水筒 〈井戸水〉

 拳大の石  (347)
 冒険者の松明  (243)
 火の付いた冒険者の松明
 麻製のロープ  (186)
 蜘蛛の歩みの秘薬  (6)
 蟻の力の秘薬  (6)
 ケタ肉の塊  (25) 
 月光鱒の切り身  (58)


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



 ナングの卵と豚肉とキャベツとオミカンはウェッジに預けました。
 主人公の睨んだ通り、フォーチュンダイスにはまだ未知の効果があります。

 明らかになるのは……多分、この調子だと100話くらい先かなあ…………?



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