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No.15918の一覧
[0] フレイムウィンド&ケイオス  (TRPG風 異世界ファンタジー転生物)[ランダム作成者](2010/04/18 12:17)
[1] 1  チュートリアルなど無い[ランダム作成者](2010/04/11 14:23)
[2] 2  『スカベンジャーズ・マンション』 編[ランダム作成者](2010/04/04 11:49)
[3] [ランダム作成者](2010/03/05 19:59)
[4] [ランダム作成者](2010/04/04 10:57)
[5] [ランダム作成者](2011/02/18 06:32)
[6] [ランダム作成者](2010/04/04 10:59)
[7] [ランダム作成者](2010/03/05 20:47)
[8] [ランダム作成者](2010/03/27 12:51)
[9] [ランダム作成者](2011/02/18 06:30)
[10] 10[ランダム作成者](2010/04/11 14:29)
[11] 11  レベルアップ[ランダム作成者](2011/02/13 01:43)
[12] 12[ランダム作成者](2010/04/11 14:35)
[13] 13[ランダム作成者](2010/04/12 10:50)
[14] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編[ランダム作成者](2010/04/26 15:42)
[15] 15[ランダム作成者](2011/02/18 06:34)
[16] 16[ランダム作成者](2010/05/09 13:10)
[17] 17  意思ぶつけ作戦[ランダム作成者](2010/05/25 02:19)
[18] 18[ランダム作成者](2011/02/13 02:36)
[19] 19  精神世界の戦い[ランダム作成者](2011/02/13 05:10)
[20] 20  いざ、人生の再スタート      (LV 3にアップ)[ランダム作成者](2011/02/18 22:55)
[21] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)[ランダム作成者](2011/02/27 14:19)
[22] 21  『帝国からの逃避行』 編     [ランダム作成者](2011/12/07 21:52)
[23] 22[ランダム作成者](2012/03/18 15:13)
[24] 23  リンデン王国を目指して[ランダム作成者](2012/03/19 02:30)
[25] 24  グレーターデーモン     (ティーナのステータス表記)[ランダム作成者](2012/04/05 05:41)
[26] 暫定 キャラクターデータ まとめ[ランダム作成者](2011/02/13 02:00)
[27] 暫定 アイテムデータ まとめ[ランダム作成者](2010/05/20 16:57)
[28] LVや能力値などについての暫定的で適当な概要説明 & サンプルキャラクターズ[ランダム作成者](2011/02/27 14:10)
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[15918] 22
Name: ランダム作成者◆f9a7ea31 ID:e72afe49 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/18 15:13


 んーむ、色々と拾ったおかげで持ちきれそうにないな。
 DPを消費するのももったいないし、ここは早速クエスト報酬とやらの世話になるとしようかね。
 《枠数拡大ボーナス》で、アイテム枠を選択だ。



 ◆ クエストの報酬が支払われました。

    アイテムの枠数が 8 増加しました。



 おお、増えた増えた。
 DPにすると22の儲けになるのか。
 ……結構な数だが、あの一連のクソ体験の対価と言われると微妙だな。
 でもまあ、サービスみたいなもんだから文句を付けられる筋合いじゃねえやね。依頼を受けたわけでもないのに報酬が発生してんだし。

「ああ~、なんだかすっごい開放感」

 鳥籠型の檻から這うようにして出てきたティーナは窮屈に折り畳まれていた手足を伸ばし、身体の調子を整えるための準備運動を始めた。
 アイテム欄に予備の衣服を入れてあったらしく、すでに着替えは済ませている。動きやすそうなストレートタイプのトレーニングウェアっぽい格好だ。

 生地はポリエステルとかじゃなくて天然素材なのかね? 靴もゴム底のスニーカーみたいなデザインだけど革と布で出来てるし。妙なところで古臭い……というより、文明レベルに反してファッションが現代的すぎるんだな。
 恐らくはエトラーゼの影響か、こっちの世界じゃ風俗や娯楽なんかの広まりやすい分野が発展してるんだろう。
 持ち込まれた知識と技術に人の手が、生産力が追いついていない。そんな感じのアンバランスさが窺える。
 所詮は服装一つ取ってみての漠然とした感想にすぎないんだけどな。
 確認のためにも早いとこ落ち着いて世の中を見て回りたいねえ。公害が垂れ流しの途上国みたいな有り様になってなきゃあいいんだが。

「ゼイロは着替えないの?」

 無遠慮に尋ねてくるティーナを無視し、通路側の扉に近寄る。
 こっちは姉さんが誂えてくれたトランクスとアンダーシャツだけの、要するに下着姿だ。
 靴下の替えもあるんだがフライにされたせいで肝心のブーツが駄目になっちまったからな。裸足で歩く事にしたんだよ。
 もちろんフォーマルとは言い難いが、パンツ一丁でうろつくガキなんてスラムに行けばいくらでも居るはずだし、そう見苦しいもんでもねえだろう。
 少なくとも全裸よりかは遙かにマシだと断言できる。



 ◆ 鋼鉄製の四角い包丁 『ヒューマンチョッパー』 〈Dグレード〉〈中量級〉

   詳細: 膂力に富んだ者のために鍛えられた重厚な万能包丁。
        たった一本で獲物の解体から調理までもをこなせる、玄人好みの優れ物。
        凶暴な邪妖族の料理人がよく用いているというイメージから、
        このような大型の四角い物は俗に人切り包丁、ギロチン包丁などと呼ばれている。

         ダメージ修正: 突き=叩き +1D6 振り=切り +1D6+2
         ダメージ限界値: 42
         必要能力値: STR 18
         防護点: 14
         耐久度: 479/479
         特殊効果: 〈反応判定-3〉〈対ヒト族+5〉〈調理+10〉〈解体+10〉〈威圧+10〉
         制作者: 名も無きオークの刀鍛冶



 こいつのおかげで印象は最悪だろうけど。

 俺はノックもなしに入ってきた醜い二匹の小人──ゴブリンの背後を取り、豚頭のコックから手に入れたばかりの得物を振りかぶった。
 料理の催促か、騒ぎを聞きつけての様子見か、やって来た理由は知らんが邪魔者でしかないので排除は確定。有り難く試し斬りに使わせてもらうとしようか。
 ティーナと眼を合わせて固まっている延髄へと、力強く刃を振るう。

「よいしょっ」

 手応えは文句なし。あっさりと首が飛んだ。
 もう一匹は不意打ちで呆けていたので素早く返して脳天に。食い込んだ刃はさっくりと頭蓋を通って鼻の下にまで達した。
 うん、よく手入れされている。
 前世で愛用していたマチェットや手斧に近い感覚だな。斬り合いには不向きな形状だが、そこら辺はテクニックでカバーすればいいだけのこと。化け物相手の武器としちゃあ充分な出来映えだ。
 当面はこのギロチン包丁を振り回す事になるだろう。

 この二匹が持ってた短剣は予備にでも……って、錆びまくりじゃねえか。斬った敵を破傷風にするのが目的かっての。
 三流のチンピラだって愛用のナイフは大事にしてるもんだぞ。

「使うか?」
「いらない。そこの包丁を持っていくわ」

 小物は総じて嘗められるのが嫌いだから、見てくれに気を遣うという意味でピカピカにする。俺も実用的な観点からだが、やはりピカピカにする。どっちにしろ最低限のメンテナンスは欠かさないわけだ。
 ……そう考えると、命を預けるはずの得物を錆びさせておくこいつらの感性はよく分からんな。
 種族的な価値観の相違ってやつかね? ゴブリン達の間だと錆の浮いた武器を持つのがトレンドだったりするのかもしれん。
 アレだ。ダメージジーンズとかと同じ理屈だ。ボロボロの使い古した感じが堪らないんだろう、多分。



 ◆ ケタ革のソフトレザーアーマー 〈Fグレード〉〈軽量級〉

   詳細: ゴブリンなどの体格の小さい邪妖族用に作られた薄手の革鎧。
        元々が粗悪な上にろくな手入れもされていない事が多いため、
        中古品であった場合の価値は推して知るべし。
        一般的なヒト族の商店では買取りお断りの品である。

         防護点: 2
         耐久度: 16/35
         特殊効果: 〈反応判定-2〉〈ゴブリンの臭い〉
         制作者: ゴブリンの雌



 この革鎧もあちこち擦り切れてる上に臭そうで、如何にもダメージを受けそうな見た目だしな。
 うん、いらん。
 俺も予備の武器は包丁にしておこう。


「段取りを決めるぞ。マップを見せてくれ」

 ティーナから借りたマップを自分のに写して確認し、頭の中で脱出への道筋を構築する。
 厨房からのルートは大まかに分けて二つ。通路側の扉から砦内部を抜けていくか、勝手口から裏庭に出ていくか。
 前者はマッピングがしっかりしてるから迷う心配はないが、邪妖族とやらの頭数がはっきりしないのが問題だな。最後まで見つからずに行けるなんて保証はねえわけだし、下手すると袋叩きにされかねん。
 後者も砦をぐるっと回って城門に向かう必要があるから、結局は似たような展開になるだろう。連中が集まりきる前に突破できるかどうかだな。時間との勝負になりそうだ。あんまりしつこく追い掛けてこなきゃいいんだが。

「リスクを考えると、どっちもどっちだな」
「でしょうねえ。個人的には装備を取り戻したいから中を通るルートで行きたいんだけど」
「それだと砦中を虱潰しに捜さにゃならん。脱出じゃなくて殲滅になっちまう」
「無理かしら?」

 期待を含んだ口調で小首を傾げてくるティーナを冷めた目で見ながら溜息をつく。
 恵まれた容姿で得してきた奴ってのは無意識におねだりする癖でも付いちまってんのかね? タチの悪い女だぜ。

「お前、俺をターミネーターか何かと勘違いしてないか? できるわきゃねーだろ」

 仮に液体金属製の最新型だったとしてもお断りだ。立ち向かうなんて選択肢は有り得ない。
 砦に居るのが、ついさっき始末した程度の連中ばかりなら別に怖くも何ともねえんだよ。見つけ次第に片っ端からぶっ殺していきゃいいだけの話なんだからな。何匹居ようが確実に制圧できる自信がある。

 できないと思うのは、感じ取ってしまったからだ。
 こっちの世界特有の、危険で理不尽な存在の気配を。
 正体は分からない。けど、臓腑を締め付ける重圧はシニガミよりもずっと強力で、あのクソ骨女に近い怖ろしさを含んでいる。並みの神経の持ち主なら体調を崩して反吐ぶちまけてもおかしくないレベルだ。

「そ、そう? そうよね。あーあ、やっぱり捨ててくしかないかー」

 ……なのに、何で微妙に安心したような顔で抜かしやがるのかね、この長耳女は。
 血の巡りはそこそこ良いようだが、命を張った傭兵紛いの仕事をしている割にはアレだ。危険に対する嗅覚が鈍すぎるぞ。
 ウェッジやカーリャなら……あ、いや、むしろこれくらいで普通なのかもしれん。
 やばい気配だとか嫌な予感なんてのは論拠に乏しい漠然とした感覚情報にすぎないからな。個人差もあるし、大概の奴は気のせいだと鼻で笑って済ませちまう。磨かれた勘を発揮できる人間は本当に希少なんだ。
 具体的に言うと、レジェンドサムライのアヤトラに野生の獣以上のカーリャ、生存本能の塊なウェッジみたいなのがそう。
 あいつらは一種の天才というか異常者だから、数百メートル離れた地点から狙撃されても多分死なない。悪運と閃きで生き延びる。
 偶然拾っただけの相手にそんな馬鹿げた水準を求めるのは酷というものだろう。俺がどうかしてたわ。

「命あっての物種だと諦めるんだな。勝手口から行くぞ。先行するから距離を置いて付いてこい」
「はーい」

 幸いにも身のこなしは中々だし、足手まといにさえならなきゃいいか。
 勝手口の戸を開けた俺は地面に残った足跡の状態から巡回がない事を確認し、そっと裏庭の土を踏み締めた。


 …………悪くない感触だ。

 石英混じりの粗く固い確かな地面。草の匂いを運ぶ風。肌に注ぐ暖かさ。

 見上げれば、空と雲と太陽が。

 ここはステイツどころか地球ですらなくて、あるのは全部異世界の自然で、景色で、しかもこっちは生まれ変わった新しい身体だってのにな。不思議なもんだよ。
 まったく違和感がない。懐かしいと感じてしまう。
 いつまでも心に留めておきたいと願う、センチメンタルな自分が居る。
 ……らしくねえが、悪くない。
 暇があったら写真……は、カメラが手に入るかどうか怪しいから、風景画でも描いてみようかね。
 せっかくの新しい人生なんだ。新しい趣味を持ってみるのも一興というやつだろう。
 先の楽しみが増えたな。

「どうかした?」
「ん、何でもない」

 俺は感傷に浸る浮ついた気持ちを切り替えて、周囲の状況を探った。

 正面にある小屋は食料貯蔵庫。少し覗いてみたが見覚えのある数種類の生き物の肉が吊されているだけだった。わざわざ中に入ってまで調べるほどのモンじゃない。
 裏庭のほとんどを占めている左手側のスペースは畑になっており、厨房で使われていた野菜が無秩序に実っている。手入れの行き届いていない様子から察するに、種を撒いておけば勝手に育つ類の作物なのだろう。味見してみたいが生で食べるとやばいかもしれん。見張りも複数居る事だし、好奇心に身を任せるのはやめといた方がいいな。
 ──で、残るは右手側。城門に一番近い方向なわけだが、

「何だありゃ?」



 ◆ フレゲレス  LV 6

   HP ??/??  MP ??/?? MP ??/??

  詳細: ???



 非常識な生き物が数匹、城壁の上で睨みを利かせてやがる。
 鋭い爪と角と蝙蝠に似た翼が生えている、典型的な悪魔の姿をした怪物だ。石で出来てたらガーゴイル像と勘違いしてたかもしれねえな。

「れっ、レッサーデーモン!?」

 高い観察技能と魔物知識技能を持っているティーナに覗かせると、かなり焦った調子で驚いていた。

「デーモンって事は見たまんまの悪魔なのか?」
「こっちじゃ魔族って呼び方が一般的だけどね。悪魔的思考で活動する魔界出身の悪魔っぽい生き物よ」

 そうかー。悪魔かー。
 まさかと思っていたシャイターンとの対面が衝撃的すぎたせいか、余り心が動かんな。何の抵抗もなく実在するモノとして受け入れてしまっている。
 明らかにふざけた存在だってのによ。短い間で随分と図太くなっちまったもんだぜ。

「やっぱり地獄の最下層で凍り漬けになってるっていうアレの手先だったりするのかね」
「何それ? そんなのが居るの?」
「……いや、知らないなら別にいい。悪魔っぽい生き物だって話だが、地球の伝承や宗教との関連性は?」
「さあ? わたし学者じゃないし」

 まあ、現場の人間はそうだよな。俺としても対処法さえ把握しているのなら文句はない。

「弱点はないのか?」
「生憎とフレゲレスは安くて飛べて弱点がないってのが売りのデーモンなの」
「安い?」
「召喚と維持に掛かるMPが安いのよ。アリュークスに居るデーモンのほとんどは使役のために誰かが召喚したものだから、あいつらも多分そうなんでしょうね」

 なるほど、悪魔を使うために召喚云々ってのは地球でも耳にする話だな。イカレた連中がよくやってる。
 もちろん成功なんざ夢のまた夢なんだが、こっちじゃ事情が違うらしい。
 喚び出したのは魔術師か悪魔崇拝者か、はたまた未知の化け物か、恐らくはそいつが砦の主なんだろう。絶対にお目に掛かりたくない相手だな。

 ……さて?

 その後、空の見張りに見つからないよう食料貯蔵庫の陰に隠れた俺は、ティーナからデーモンと邪妖族について根掘り葉掘り尋ねるのと同時進行で脱出計画を練り直した。
 背の高い城壁に囲まれた砦の出入り口は正面の城門のみ。──で、その守りはもちろん厚くて、少なく見積もっても6匹以上のオークとゴブリンが番に就いている。
 監視所で待機してる交代要員と合わせると何匹になるのかね? とにかく、ダッシュで駆け抜けるってのは無理そうだ。
 こっそり出て行こうにも死角になりそうな物陰に乏しい上に、空を飛べるフレゲレスが定期的に巡回を務めている。成功させようと思ったらリザードの透明化みたいな能力が要るだろう。

「お前ら、よく正面から挑もうなんて蛮勇が奮えたもんだな」
「ううぅっ、おかげでパーティー壊滅よぉぉ……」

 ──となると、城壁を越えるしか道は残されていないわけだが……。
 ん~、石造りの建物だから陽動に火を付けるといった真似はできないし、夜を待てるほど時間に余裕はないだろうし。そもそも連中相手に暗がりが有利に働くとは限らんし。見つかるつもりで動くしかないな、これは。
 少し大胆に行ってみよう。

「とりあえず、城壁を越えて森にでも逃げ込むか。外は森で間違いないんだよな?」
「う、うん。でも、越えるってどうやって?」
「登ってに決まってるだろ」
「えぇ?! なんだか凄く適当な気がするんだけどっていうか無理よ! 途中で見つかっちゃうわ!」

 もっともな懸念だな。何処から登ってもフレゲレスの目に留まるのは避けられない。そうなったら妨害されて真っ逆さまだ。

「対策はある」

 だがそれは、あくまでもバカ正直に登攀を試みたらの話である。
 俺はティーナにアイテム欄から取り出した〝蜘蛛の歩みの秘薬〟を渡した。
 接地面がそのまま足場になるこいつは飲めば、全速力で城壁を駆け上る事ができる。五秒と掛からずにクソッタレ共の根城からオサラバってわけよ。
 発見されるリスクを最小限に抑えられるし、されたとしても追ってくるのは空を飛べる連中だけだろう。厄介だが遮蔽の取れる森の中に逃げ込めばいくらでもやりようはある。
 八方塞がりの現状から抜け出すための最善の方法だ。
 正直、これ以外の手だと余り自信がなかったりする。魔法の秘薬様々だな。

「……これも初期アイテム? あなた、よくよくアイテム運に恵まれてるのね」
「そうか? 余り自覚がないんだが」
「なら、少しは物の値段を覚えた方がいいわね。それ、いくらするか知ってる?」

 羨ましそうに言うティーナによると基本取引価格1万グローツらしいし。大事に使わんと。

 ちなみにグローツってのはこっちの世界──アリュークスの基軸通貨で、感覚的には最盛期のUSAドルと考えて差し障りない代物なのだそうな。
 非現実が跳梁跋扈するクソファンタジーな世の中で一体何処のどなた様がどんな信用でもって発行しているのかは知らんが、とにかくつまり、蜘蛛の歩みの秘薬には1万ドル相当の価値があるという事だ。一服限りの消耗品にしては中々のお値段と言えるだろう。
 大量生産が利くならもっとお手頃な価格になっているはずだから、その希少価値は言わずもがな。容易に想像が付く。
 そんじょそこらの浮浪児が持っていていい物じゃない。

「じゃあ、リフレッシュストーンなんかはもっと高いのか?」
「ええ、最低でも100万グローツ。古代遺跡とかでしか手に入らないアイテムだから、冒険者の間では一攫千金のお宝の一つとされてるわね」
「100万ドルかー。奇跡としか思えん効き目を考えると、安すぎるくらいだな。買い手次第で何倍にも跳ね上がりそうだ」
「……もしかして、まだ持ってる?」
「ああ、もしかしてな。誰かに喋ったら例の肉詰めをご馳走する事になるだろうな」
「…………」

 欲に目が眩んだ連中から狙われないためにも、アイテムの管理にはせいぜい気を付けるとしよう。

「一万ドルのアロエジュースだ。有り難く味わって飲めよ」

 しかめっ面で秘薬を流し込むティーナに吐き出さないよう釘を刺し、俺は厳めしく積み上げられた石材の連なりへと足を着けた。

 さ、日光浴の次は森林浴と参りましょうかね。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 レドゥンは古い国だ。

 吹けば飛ぶような一都市国家に過ぎなかった頃の事まで合わせれば、その歴史は四千年にもなる。
 周辺の都市国家群を平定し、内海の向こうへと食指を伸ばし、大陸中の種族と文明を征服し、取り込み続けて築いた歴史だ。
 最も偉大な皇帝の野心より端を発した覇業の系譜は今なお続き、エゼルシャと呼ばれる大陸を染め上げている。
 戦争と属領によってもたらされる莫大な消費と利潤を前提に巡り巡った経済が、燃え盛った欲望が、勝利者であり続けた国家の威信が更なる拡大を推し進めるのだ。
 それはさながら嵐の大河。手を付ける事すら適わぬ巨大で濁った世の流れ。
 逆らえば速やかに、帝国の名を冠した古い船は千々に乱れて消え失せるだろう。

 故にレドゥンは歩みを止めない。
 横行する汚職と賄賂、蔓延する禁制品、腐敗する貴族階級、虐げられる三等臣民、絶える事なき反旗の萌芽。星の数ほどの問題を内包しながら、帝国という名の風船は膨張を続けていく。
 もはや伝統行事とも言える極端な拡大政策は国境線が変わる度に新しい要地を生み出し、年月と共に戦略的価値のなくなった廃墟が点在する歪な国土を形成していく。

 この砦も、そうして造られ、打ち捨てられた中の一つだ。
 エゼルシャ随一の実績を誇るレドゥンの建築技術は、どんな小さな城であろうとも徹底した水準を追求する。襲撃を恐れる後ろ暗い輩にとって、高い耐久性と居住性を備えたそれらが格好の拠点となる事は言うまでもないだろう。
 邪妖族や賊徒などの不穏分子が居着いたところで、別に珍しくはない。
 むしろ、よくある話と言ってもいいくらいで、冒険者ギルドでは各町村からの討伐依頼が後を絶たないのが現状だ。目に余る悪事を働く連中は軍事演習の対象にもなる。
 ティーナ達が邪妖族退治を請け負ったのも、ある程度の実力を持った冒険者なら当たり前にする仕事だと思っていたからである。
 更にギルド御指名の依頼ともなれば気も逸るというもの。結果として彼らは面白いように上がるステータスと評判に浮かれ、油断し、事前の調査を怠って破滅した。

 これもまた、珍しい話ではない。
 冒険者という職業が戦う何でも屋であり続ける限り、死は常に警戒すべき隣人として付きまとってくるのだから。
 依頼を達成できずに死んでしまう。ある日、突然行方知れずになってしまう。罪を犯して処罰されてしまう。
 どれも有り触れた出来事だ。
 特に此処、レドゥン帝国では尚更に。
 ひときわ激しく理不尽に、命と魂を弄ぶ闇に気を付けなければならない。


 その点において、ゼイロドアレクの取った行動は大正解と言ってもいいだろう。

「おや、秘薬を使うのか。随分と物持ちが良いのだな、彼は」
「お召し物には不自由していらっしゃるようですけれどね」

 とにかく逃げる。できるだけ速やかに遠くへ。何が何でも。
 少しでも逡巡や遅滞があれば、退屈を嫌う魔の手が伸ばされていたかもしれなかった。

「どうする? まだ観るのか? いい加減、腹が減ったぞ」
「…………」
「あー、もしもし?」
「う、家の料理人が……」

「残念でしたわね。味覚や痛覚を持たないアンデッドでは、どうしても調理などのデリケートな技術は劣化してしまいますし」
「いやー、腐った舌を洗い落とすいい機会じゃないのか?」
「まったくだ。オーク料理は下品で大味、ゴブリン共のは悪趣味に過ぎる。これを機にもう少しマシなのを雇うべきだな」

 彼が危険と断じた通り、砦の上階には抗いようのない力を持った闇の怪物達が屯していたのである。
 朽ちた広間には似付かわしくない清潔なロングテーブルを囲んで頬杖を突き、椅子を傾け、髪の毛を弄りと思い思いの格好でくつろぐ、数体の怪物が。
 男も女もヒト族の若者の姿をしている。しかし、優れた勘と洞察力を備えた者ならば気付くだろう。
 否が応でも震えが走る、その気配。喉に詰まる違和感に。

「……何だ、誰も行かんのか。小僧はともかく、メンヘラのエルフ娘はここで喰っても構わんだろうに」
「確かに期待できる素材とは言い難いが、敢えて摘み取る理由もあるまい」
「あの状況で命を拾ってみせた事に対しての、ささやかな祝辞とでも申しましょうか」
「天文学的確率で起こった偶然に助けられる。幸運もまた立派な才覚の一つでございますわ」
「そうだな。運の良い奴は化けるからな。エルフだし、気長に考えるとしようや」

 ──魔族(デーモン)。

 それがアリュークスにおける彼らの総称である。
 だが、フレゲレスのような有象無象の下位魔族(レッサーデーモン)ではない。世間一般で広く恐れられる上位魔族(グレーターデーモン)とも違う。討てば英雄と讃えられる魔界騎士(デモンナイト)よりも格上の存在だ。
 もし、この場に悪魔学の研究者が居れば狂喜と恐怖でショック死していたかもしれない。
 スタート地点近くのダンジョンにラスボス級の敵が固まっているようなもので、本来ならこんな場所に居ていいはずなどない大物達。

 魔領主(デーモンロード)。

 それが彼らの正式名称。
 地獄と同義語の地に己の領土を有する、魔の貴族達。
 巨大な帝国の闇に蔓延る、悪徳の権化だ。


 どのような国家であろうと人の思惑が絡む以上、大なり小なりの裏事情や暗部といったものを抱えて成り立っているわけなのだが、レドゥンのそれは一等ドス黒く深刻に屋台骨を蝕んでいるのである。
 果たして見逃された事を幸運と喜ぶべきか、視界に入ってしまった事を不運と嘆くべきか。
 それとも、勝手に覗くなと抗議するべきか。
 何にせよ、与り知らぬゼイロにはどうでもいい事であろう。

「では、後のことは使い魔に任せて適当に……」
「ええ、解散致しましょう」

 知っていたら、天に向かって思い切り肉詰めを投げていたかもしれない。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 作戦は大方の予想通りに上手くいった。

 秘薬の力で城壁を駆け上って飛び降りる。まあ、これだけで外に出られるわけだからな。この段階で失敗する奴は居ないだろう。
 見つかりさえしなければ安全確実迅速に済む話なんだよ。
 ……うん。
 そう思って注意してたはずなんだがなあ。

「おい、何か反撃できるような魔法はないのか?」
「あるけど、MPがないの!」

 どういうわけだか現在、あのフレゲレスって悪魔っぽいのから逃げ回ってる。
 城壁に足を掛けた途端にぶわぁーっと飛んで来やがったんだ。連中、視覚や聴覚以外の超感覚でも持ってんのかね? それか、あの砦に魔法的な警戒システムが仕掛けられていたとか。リザードみたいな通常では感知できない見張りが居たか……。
 気にしても始まらんな。
 分からんもんは分からんし。対処のしようがない。
 とっとと切り替えて、切り抜けるための知恵を絞ろう。

 敵の数は七体、走る俺達の頭上を旋回するような形で追跡中。
 度々魔法で威嚇射撃を行ってくる。
 握り拳大の真っ黒い球電みたいなやつだ。ティーナによると【闇の魔弾(ダークショット)】とかいう名前で、くらうと精神力が削られるんだとか。
 精神力ってのは有り体に言うとMPの事だな。MPの数値にダメージを受けるんだよ。ゼロになったら気絶しちまうらしい。
 身体には一切傷が付かないから、相手を捕獲する時とかによく用いられるんだそうな。

「試しに一発くらってみてくれるか?」
「なんでよ! MPないって言ったでしょ! 当たったらスッ転んで起きないわよ、わたし!」
「そのMP切れで気絶ってのを見てみたいんだがな。後学のために」
「バカ! 悪趣味っ! その後はどうすんのよ!? わたしのこと置き去り!?」

 あと、魔法は基本的にMPを消費して使うものだから、魔法使いに対する牽制にもなる。
 調子に乗って派手な魔法を撃ちまくってると【闇の魔弾】でオネンネする羽目に……なんてのは、まあ少なからずある話なんだとか。
 冒険者とかの荒事に慣れた連中の間じゃあ、随分昔から定石の一つとされてる戦術みたいだな。

「俺の言葉を悲観的に捉えすぎだ。考えてみろって。あいつら何で殺さずに寝かせるような魔法ばっかり使ってくるんだ?」
「えー? それは……やっぱり、料理するなら食材は新鮮な方がいいから……?」

 口と頭を働かせながら腐葉土を踏み締め、スピードを保ちつつ、できるだけジグザグに森の中を走り抜ける。
 今のところはどうにか回避できているが、そろそろ狙いが正確になってきてもおかしくない頃合いだ。なのに、木々の深さはまだまだ不充分。空から見下ろす七対の眼から完全に逃れられるほどじゃない。

「かもしれんが、答えはもっと単純で、要するに俺達を捕まえたいからだ」
「そんなの、わかりきってることじゃないの」
「そうだな。なら、仕留めた獲物を持ち帰るには近寄る必要があるってのも分かるよな」

 しかも、フレゲレス共は生のまま人を食いそうな見た目に反して意外と知能が高いらしく、俺達を見失わないよう互いの死角をカバーし合って飛んでいる。
 狼やライオンみたいな群れで狩りをする動物特有の本能なのかもしれねえがな。上手いこと連携がとれてるんだよ。

「なるほど! タヌキ寝入りで誘き寄せようってわけね」

 だから、一匹でも多く数を減らしたい。
 このままじゃ厳しそうだし。逃げるにしろ迎え撃つにしろ、できる事は何でもやってみねえと。

「でも、それだったら本気で当たらなくてもいいのよね。フリでいいんだし」
「いや、少しでも疑われると困るから本気で気絶してくれ。俺がその様子を参考にして連中を騙す」
「んんん?」
「──で、のこのこと地上に降りてきたところを素早く片付けるわけだが、質問はあるか?」
「片付けられなかったら?」
「逃げるよ」

 俺がさも当然のように言うと、ティーナは疲れてきたのか泣きそうな顔になった。

「その時わたしは?」
「寝てるだろうな」
「……運んでくれるの?」
「無理だろうな」

 って、本当に泣き出しやがったし。

「結局置き去りじゃないの! 嘘つき嘘つき! 手を貸してくれるって言ったのにぃぃ!!」
「所詮は口約束だからなあ。状況次第でどうとでも……」
「変えないでよ、そこは!」

 終いにはボキャブラリーが続く限りの罵声を浴びせてきたんだが、そういうのは前の人生で聞き飽きてるからな。今更どうってこたぁない。馬耳東風ってやつだ。
 しかしとなると、どうしたもんかね? 
 無理矢理こかして盾にしてもいいんだが、当面のガイドを失う危険を冒してまで強行するほどの窮地じゃないような気もするし。微妙なところだな。
 ……迷うくらいなら別の手で行くか。
 あのシャイターンから奪ったタワーシールドで【闇の魔弾】が防げるかどうか試してみよう。

「わかったわかった。じゃあ、この盾を使ってみてくれ」
「何これ? ノーマル品じゃない。物理防護点だけじゃMPダメージは防げないわよ」
「ノーマル?」
「魔法が掛かってないとダメってこと!」

 いきなり駄目でした!

「そんなら、残るは【咆哮】だけだな」

 これもMPダメージらしいから、景気良く魔法を撃ってきてる連中には絶好のカウンターストライクになるはずだ。
 肝心なのは射程と使用回数だが……大体30メートルで8回か。1レベルの時が10メートルで2回だけだったのに比べれば雲泥の差だな。いけるいける。
 充分に届くし、範囲型にすれば回避される可能性も大幅に減少する。一石二鳥以上を狙っていこう。

「そうねそうね! 賛成だわ! って、最初っからそれでよかったんじゃないのよぉぉ!!」
「リソースの問題だ。特技を使ったらCPが減るだろうが」
「わっ、わたしのMPは減っても構わないのね……」
「まあな。ほれ、ボサっとしてたら本当に減るぞ」

 目に見えて落ち込むティーナを蹴って転がし引きずって、身を隠せそうな岩陰に移動する。
 隠せそうっつっても頭上を抑えられてるわけだから気休めにしかならねえんだけど、そこはそれ。こっちの武器は声で音速だ。時速で言うと120キロくらいの魔弾よりもずっと速い。このアドバンテージは大きいぞ。
 銃撃戦のノウハウがあれば尚更だ。弾数さえ充分なら圧倒できる勝負だな。
 まあ、【咆哮】そのものが効かないとかだったら即退散ってことで……。
 反撃開始だ。

 旋回するフレゲレスが交差するタイミングを見計い、

「っしゃ、くら──」

 横っ飛びに遮蔽を移りながら特技を使おうとしたギリギリのところで、踏み止まる。
 追っ手側の些細な気配の変化を感じ取っての事だ。
 ほとんど勘だが、間違いなく何かあった。

「なに、どうしたの?」
「……ん、誰かが狙撃してる」

 目を凝らした先に映るのはステレオタイプな悪魔の翼を貫く、見事な放物線。
 薄い皮膜の部分を狙って放たれた十数本の矢が瞬く間に次々と、空の狩人を地に叩き付けられた肉塊へと変えていく。

「っしゃああ、改めてくらえっ!!」

 実際に肉塊にしたのは俺なんだけどな。
 墜落したフレゲレスが悶えてる隙に片っ端から捌いていったんだ。
 思い切り踏み付けてのブツ切り千切り微塵切り。噴き出した血で泥濘が出来るくらい激しくギロチン包丁を振り下ろしてやった。
 少々やりすぎかもしれんが仮にも悪魔と戦ってるわけだからな。スーパーヘビー級の格闘家を余裕で上回る頑丈な骨格に硬い筋肉、外皮の強度は牛革のベルト以上。そんな化け物を殺そうってんだ。念を入れるに越した事はないだろうよ。
 神ボトルじゃあ途中で反撃されてただろうし。こっちに来てすぐに重さと鋭さを備えた刃物を手に入れられたのは僥倖だったな。
 ……フライヤーで揚げられた時は地獄にでも堕ちたのかと思ったけど。

「来たわよ! 頑張ってー!」

 しかしもちろん、戦闘における神ボトルの出番が無くなったわけではない。
 このままでは撃ち落とされるのを待つだけだと思ったのか、残り三体となったフレゲレスが甲高い威嚇の声と共に降りてくる。

「手が届くならこっちのもんよ」

 すかさずダッシュで距離を詰める俺。
 迎撃の魔弾が飛んできたが避けるまでもない。
 神ボトルでしっかりと防いだからな。
 これこそまさに魔法の掛かったスーパーアイテム。〈永久不変〉なんて効果が付いてるだけあって、思った通りにエネルギーの塊を打ち消してくれたよ。
 サイズ的に盾として扱うにはアレなんだが、俺自身が小さいから特に不足はない。万全の使い心地だ。
 問題があるとすれば見た目の悪さくらいなものだろう。

 想像してみろって。左手に芸術的な意匠が施された酒瓶、右手に刃渡り50センチ弱のゴツイ包丁を握り締めて暴れる8歳児だぞ?
 しかも半裸でプリミティブなペイント付きだ。贔屓目に見ても、あんまり行儀の良い姿だとは思えねえやね。
 人里で文化的な待遇を得る前に、狼娘のカーリャみたく野生に目覚めちまいそうだぜ。
 ……いや、さすがにあそこまでには成りようがないけどさ。

「おらぁぁ! 死ねっ!!」

 でも、この懸念は本物だ。
 心の底から闘争を楽しんでいる自分が居る。
 昔から本能に任せて荒れ狂うのは嫌いじゃなかったんだが、ガキの身体のせいか余計に好ましく感じる。血が滾るんだよ。

「ヴォオオオオォォォ!!」

 もういっそのこと開き直って、一人のモホーク戦士として生きていった方が楽かもしれんな。
 …………あー、そういや、今の俺はアメリカ・インディアンの血とは無関係だった。
 とりあえず保留にしておくか。

 【咆哮】の直撃で膝をついたフレゲレスに突進。飛び膝蹴りで顎を砕きつつ馬乗りになり、予備の包丁でもって凶悪な面を滅多刺しにする。
 鉈に近い形状のギロチン包丁だと刺せないからな。この体勢なら先の尖った刃物の方がいい。 アイテム収納の能力のおかげで切り替え自体は一瞬なわけだし。これからも複数の武器を使い分けていくとしよう。

「ヴォオオォォオッガァァ!!!」

 最後の一体も【咆哮】からの畳み掛けで楽に片付ける事ができた。
 一、二発で腰砕けになってくれるもんだから、つい調子に乗っちまったぜ。MPを削ろうとしたのに、やり返されてあっさり撃沈。終わってみると存外だらしない連中だったな。


「今度のは魔法じゃないから役に立つだろ」

 姿の見えない狙撃手の方が遙かに厄介だ。
 俺は油断無くタワーシールドを構えながら、もう一枚を青い顔で震えているティーナに放り渡した。
 フレゲレスを攻撃してくれたのは有り難いが、如何せん正体不明なわけだからな。
 姿を見せずに、一方的に攻撃できる手段を持っている相手を手放しで迎えられるほど俺は寛容に出来ちゃいないんだ。

「…………」

 果たして敵か味方か、通り掛かりのお人好しか
 俺の勘は、そのどれでもないと囁いている。

「ブラッド! ブラッドなんでしょ!? ねえ、返事してよ!」

 三分以上続く無言の緊張に耐えかねたのか、ティーナが悲鳴じみた声で呼び掛ける。
 まあ、この長耳女のお仲間のブラッドは《ローグ/アーチャー》で弓が得意だったそうだから、普通はそう考えるわな。
 けれども木立をぬって漂ってくる威圧感。こいつは冷徹なプロフェッショナル特有のものだ。
 殺気こそ感じられないが、俺達の事を窺い、見定めるかのような視線が肌を刺激し続けている。
 だから、どうしてもアレだ。

「助けに来たってもう遅いわよ! わたし以外みんな死んじゃったんだから!」

 こいつ違うだろ。
 厨房でグロく仕上げられたヒヨッコ共と肩を並べて戦うような奴か? どうしても人物像が浮かんでこねえぞ。

「あんたのせいなんだからね! あんなので罠がないなんてよく言えた──っもう、なに?」
「ブラッドだと思う根拠はあるのか?」
「それ、あいつの矢。わざわざ自分で作ってたから覚えてるわ」

 なるほど、じゃあ十中八九本人か。
 自作以外の矢も当然用意してるはずなのに使ったって事は、ティーナに自分の存在を報せたかったからと見ていいのかね? なのに顔を合わせようとはしない、と。
 こいつ一体、俺達をどうしたいんだ?

「重ねて訊くが、ブラッドの弓の腕前は? あんなイングランドの長弓兵も形無しな達人だったのか?」
「えぇ? わかんないけど……そういえば、あいつが的を外したの見たことないかも」

 んーむ、やっぱり偽物って線は無さそうだな。
 膠着状態にも焦れてきたことだし、そろそろ何かアクションを起こそうかね。

「ひゃっ!?」

 ──と思ってたら、先に向こうから来やがった。
 ティーナの盾に弾かれた矢を拾って結び付けられた紙を確認。そうしてようやく遠ざかっていった気配に心から安堵の息をつく。

 ……にしても、矢文たぁ古風な真似をしやがるな。
 こっちじゃ普通なのかもしれんが、俺にしてみりゃあ原始的すぎて逆に斬新すぎる連絡の仕方だ。アヤトラじゃあるまいし、こんなのが来るなんて予想外だっつーの。

「なに? 何て書いてあるの? っていうか読めるの?」
「英語だから問題ない。けど……」
「けど?」

 俺は広げた紙に書かれていた文章に軽く目を通し、その内容が示唆するこれからの道行きについて想像を巡らせた。

「読めば分かる」
「……うん…………ん!? んぇぇぇっ!?」

 少なくとも、こいつに付き合って帝都に向かうという選択肢だけはないか。すっかり打ちのめされた面してやがる。
 この国──レドゥン帝国とやらに留まるのもやめた方がいいだろう。
 事の重要性に関する知識がないせいで余り穿ったことは言えんが、もうしばらくは足に負担を強いる日々が続きそうだな。

 …………そう悲観した状況でもねえやね。


 膝にまで響く冷たい石畳で敷き詰められたクソマンションに比べりゃあ、お外はずっと明るくて華やかで清涼だ。ああ、飢え死にする心配も多分ないな。最高じゃねえか。
 差し当たってはアレだ。今夜は星を眺めて過ごす事にしよう。
 ファンタジーな異世界の星空は地球のよりもエキセントリックに違いない。
 気持ち良く晴れてるから、すげー楽しみだぜ。

 神ボトルで返り血を洗い流した俺は、優しく注ぐ木漏れ日に手をかざしながら口元を綻ばせた。













あとがき

 砦から脱出。お外に出られて上機嫌なゼイロです。
 思いの外コメントが多かったので驚きました。皆さん結構昔の作品をチェックしてるんですね。
 次はまたいつになるか分かりませんが、ageて投稿しようと思います。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 現在の所持品  27/28  New +8枠と20品目

 パーソナル マップ (76) ティーナのお仲間の残骸から4入手
 フォーチュン ダイス (478) 同上で7入手
 豊穣神の永遠のボトル
 New 鋼鉄製の四角い包丁 『ヒューマンチョッパー』 〈Dグレード〉〈中量級〉 オークチーフから入手
 New 鋼鉄製の万能包丁 (7) 厨房で入手 色々あったけど使いやすくて数がまとまっていたのでこれに
 New 鉄製の鋭い串 (64) 厨房で入手 沢山あるとかなり使い勝手が良かったり
 特殊樹脂製のタワーシールド (5) 〈Dグレード〉〈軽量級〉

 丈夫で軽くて滑らかで愛が込められた高品質の スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スパイダーシルクの子供用肌着 (4) 〈Eグレード〉 〈超軽量級〉 着替えたので1消費
 入)スパイダーシルクの子供用下着 (7) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉 着替えたので1消費
 入)スパイダーシルクの子供用靴下 (4) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉
 入)ケタの干し肉 (37)
 入)他の袋3枚  厨房のアイテムを入れるのに使っているので1消費扱い

 丁寧な作りの軽くて丈夫な スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スマイリーキャベツ (5)  入)オミカン (8)

 丈夫な革製の背負い袋

 入)陽光のカンテラ
 入)水筒(1200ml)〈空〉  入)丸い水筒(1500ml)〈空〉
 入)大きめの水筒(2500ml)〈井戸水800ml〉
 New 入)10グローツ銀貨 (94) 初めてのお金、こっそり入手
 New 入)100グローツ金貨 (19) 銅貨もありましたが枠を考えて取りませんでした

 New スパイダーシルク製の肩掛け袋  中身は全部厨房で入手

 入)ニンニク(12)の入った袋  入)ショウガ(13)の入った袋  入)塩の袋  入)胡椒の袋
 入)唐辛子の袋  入)香草の袋  入)陶器製のクッキングピッチャー〈オーキッシュソース 3259ml〉
 入)ガラス瓶〈オークピクルス〉  入)鋼鉄製の最高級お玉  入)鋼鉄製の最高級広東鍋
 入)竜積岩製の煌く砥石 『ドラゴニック・シャープ』 〈Bグレード〉  つまり、すげー砥石

 New 冒険者のテント  組み立て用の部品が専用の鞄に一式入っているタイプ
 New 冒険者の寝袋  入)冒険者の毛布 (2) 枠1扱い。折り畳まれた寝袋の中に薄手の毛布が二枚入っている

 ヒール ストーン   ヒール ストーン
 リフレッシュ ストーン (3) 前回で大火傷を治すために1消費
 冒険者の松明 (32)  火の付いた冒険者の松明  麻製のロープ (71)
 蜘蛛の歩みの秘薬 (6) 城壁を登るのに2消費
 蟻の力の秘薬 (9)  蜂の一刺しの秘薬 (3)  蝗の躍動の秘薬 (2)
 ケタ肉の塊 (24)  月光鱒の切り身 (58)

 New 1グローツ銀貨 (364) 1グローツ=百円くらいです
 New オーキナスの肉詰め ヒト族の断末魔風 (4) ゴブリン垂涎、食べるデスマスク。食べなくても収納してる時点で正気じゃありませんね

所持金 3204 グローツ  約32万円ですね。四人分ですから結構な額になりました


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



 クエスト報酬でアイテム枠が一気に8も拡大されました。
 けど、相変わらずカツカツです。
 新しいメインウェポンも手に入りましたから、これからは包丁と神ボトルの二刀流が基本スタイルになるでしょう。


 それでは、楽しみにしていたスカイリムに行ってきますね。




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