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No.15918の一覧
[0] フレイムウィンド&ケイオス  (TRPG風 異世界ファンタジー転生物)[ランダム作成者](2010/04/18 12:17)
[1] 1  チュートリアルなど無い[ランダム作成者](2010/04/11 14:23)
[2] 2  『スカベンジャーズ・マンション』 編[ランダム作成者](2010/04/04 11:49)
[3] [ランダム作成者](2010/03/05 19:59)
[4] [ランダム作成者](2010/04/04 10:57)
[5] [ランダム作成者](2011/02/18 06:32)
[6] [ランダム作成者](2010/04/04 10:59)
[7] [ランダム作成者](2010/03/05 20:47)
[8] [ランダム作成者](2010/03/27 12:51)
[9] [ランダム作成者](2011/02/18 06:30)
[10] 10[ランダム作成者](2010/04/11 14:29)
[11] 11  レベルアップ[ランダム作成者](2011/02/13 01:43)
[12] 12[ランダム作成者](2010/04/11 14:35)
[13] 13[ランダム作成者](2010/04/12 10:50)
[14] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編[ランダム作成者](2010/04/26 15:42)
[15] 15[ランダム作成者](2011/02/18 06:34)
[16] 16[ランダム作成者](2010/05/09 13:10)
[17] 17  意思ぶつけ作戦[ランダム作成者](2010/05/25 02:19)
[18] 18[ランダム作成者](2011/02/13 02:36)
[19] 19  精神世界の戦い[ランダム作成者](2011/02/13 05:10)
[20] 20  いざ、人生の再スタート      (LV 3にアップ)[ランダム作成者](2011/02/18 22:55)
[21] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)[ランダム作成者](2011/02/27 14:19)
[22] 21  『帝国からの逃避行』 編     [ランダム作成者](2011/12/07 21:52)
[23] 22[ランダム作成者](2012/03/18 15:13)
[24] 23  リンデン王国を目指して[ランダム作成者](2012/03/19 02:30)
[25] 24  グレーターデーモン     (ティーナのステータス表記)[ランダム作成者](2012/04/05 05:41)
[26] 暫定 キャラクターデータ まとめ[ランダム作成者](2011/02/13 02:00)
[27] 暫定 アイテムデータ まとめ[ランダム作成者](2010/05/20 16:57)
[28] LVや能力値などについての暫定的で適当な概要説明 & サンプルキャラクターズ[ランダム作成者](2011/02/27 14:10)
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[15918] 16
Name: ランダム作成者◆f9a7ea31 ID:470fdece 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/09 13:10

 目を覚まして真っ先に感じたのは、詰まるような息苦しさだった。

 次に全身を押さえ付ける、途方もない圧迫感。
 余りの重さに首から下の自由が利かない。周囲の状況はおろか、身体中に走る鈍い痛みの原因すらも判断できない有り様だ。
 徐々に覚醒へと向かう意識の中で俺は独り、己の身に降り掛かった災厄へのクソッタレ加減を反芻した。

「…………参ったね、どうも」

 よりにもよって生き埋めか……。
 倒壊する建物の中に居たのだから当然と言えば当然の帰結なわけだが、どうにもうんざりさせられるな。
 敵対組織の根っこを叩きにハイチに行ったら地震に遭う。スリランカの世界遺産を観に行ったら津波に遭う。紛争地域で行方不明になった恩人の捜索に行けばミサイル攻撃を受ける。本場のタコ焼きを食いに行っただけで震災に巻き込まれる。
 そしてこれで何度目だ? 数えている内に沸々と怒りが湧いてきたぞ。
 もう、不幸中の幸いとか考えるのも馬鹿らしいわ。

「んぎがががががががが…………!!!」

 俺を礎に出来上がった瓦礫の山をはね除けるべく、歯を食い縛って渾身の力を込める。

「っぷはー!」

 …………畜生め! 毛細血管が無駄に切れただけか。
 やっぱり自力での脱出は難しそうだな。ちょっとやそっとの馬力じゃどうにもならん。
 底上げしようにも、頼みの【激怒】はさっき使っちまったばかりだ。
 蟻の力の秘薬も駄目。アイテム収納の能力は両手の自由と一蓮托生だからな。首だけしか動かせない今みたいな状況じゃあ機能しねえんだよ。



 ◆ 特技 【剛力招来Lv 1】 〈低 難易度〉 〈気功術系〉

    体内の気脈を調律して永続的な追加腕力を得る技です。
    更にCPを消費すれば、一時的な腕力の増大効果が発揮されます。
    気功術においては初歩の初歩とされる単純な強化技ですが、
    それ故に応用が利きやすいとも言えます。
    優れた使い手ならば、性能以上の結果を導き出す事ができるかもしれません。

     A STRに+1の永続ボーナス。
     B STRに10%のボーナス。

     基本消費量 CP 16
     有効対象 本人のみ
     効果時間 (END+WIL)×LV×1秒



 残された手はこの特技くらいなもんだが、今の段階じゃあ如何せん上げ幅が小さすぎる。
 ここは下手に慌てず、ゆっくりと睡眠を取った後に【激怒】との併用を試みるのが最善の道だろう。
 短い効果時間の内に片手だけでも解放できればしめたもの。次の日からは秘薬と合わせての三段活用でSTRは90にもなる。
 傍で転がっている死体のお世話になりながら、最長で二週間もの生き埋め地獄に耐えた経験は伊達じゃない。今回は食料もあるし、酸素も充分に通っている。自分の手で瓦礫を撤去できる手段もある。後は根気次第でどうとでもなるはずだ。
 何日掛かろうが構わん。
 絶対に抜け出してやるぞ。
 ……本音を言うと、外部からの救出に期待したいところなんだがな。
 こんな状況だ。アヤトラ達が無事だなんて保証は何処にもない。仮に無事で俺を捜してくれていたとしても、あいつらに重い瓦礫を除けるようなパワーはねえだろうし。
 よって救助は望み極薄。

「ふわぁ~あ…………」
 
 独力での解決に励むより他ないというわけである。
 あー、背中と足の裏が痒い。


「ゼイロ! 返事をしろ! ゼイロ!」
「……んあ?」

 思わぬ助けの手が差し伸べられたのは、軽く夢心地に入ってからの事だった。
 俺の視界を阻んでいた瓦礫の山が次々と取り除かれ、最後に残った象よりでかいコンクリート塊までもがあっさりと持ち上げられる。
 それもなんと片手で、だ。
 どんな腕力してやがんだよ。物理的におかしすぎるだろ。
 こっちの世界の騎士ってのは人間サイズでクレーン並みとかじゃないと勤まらんのか? 宮仕えってのも大変だねえ。

「……おはようございます」
「何だ、睡眠中だったのか? 君も中々に不貞不貞しい子だな」
「おうおう、ぶてぶてしーぞ!」

 モドキの奴を肩に乗せて見下ろすは、青白き肌の聖騎士にして戦乙女。
 月の光が如き笑みは清廉なる心の表れ。背中の羽も悪魔の尾も、彼女の内より迸る気高さを曇らせるには至らない。
 白銀に輝く鎧姿が、まるで女神を象ったかのようによく映える。
 騎士団三人娘の一人、サキュバスのソルレオーネであった。

「お褒めに与り恐悦至極。今度はアストラル体じゃないんですね?」
「ああ、礼を言うぞ。君達のおかげで五百年ぶりの自由を手にする事ができた」

 どうやらアヤトラ達が解放に成功したらしい。
 俺も間接的に助けられたって事になるのかね? とにかく間に合って良かったよ。
 早速身を起こそうとして、走る違和感の正体に眉根を寄せる。
 うへー……酷い状態だな。両足揃って破れた雑巾みたいになってるじゃねえか。

「心配するな。すぐに治す」

 ソルレオーネの手の平から溢れ出た燐光が、俺の身体を苛んでいた苦痛と疲労を拭い去る。
 すげーや。完全回復だよ。
 リフレッシュストーンと似たような感触だな。これも魔法か? レベルが高いと呪文無しで使えるのか? 余りの見事さにチップを弾みたい気分だぞ。
 実際に払ったりしたら憤慨しそうだけどな。
 この人、間違いなく潔癖性だし。

「ありがとうご──おわっ!?」
「悪いが急ぐぞ。のんびりと事情を説明していられる状況でもないのでな」

 感謝の言葉を述べる間もなく彼女の肩に担がれた俺は、興る羞恥心を鎮めるためにわざと大きな溜息をついた。
 まさか、この歳で女に抱えられる羽目になるとはなあ……。
 知らない奴には年相応に映るだけだろうってのが唯一の救いかね。

 乱れた足場を物ともせず、芸術的なストライドで研究所の残骸を踏み越えるソルレオーネ。
 おお、速い速い。
 ──って、ここスカベンジャーズ・マンションじゃねえかよ。
 干されたカーペットみたいな体勢で感心半ばに流れる地面だけを見ていた俺は、床が陰気臭い石畳である事に気付いて愕然とした。
 気絶している間にここまで落ちてきたってわけか? なら、研究所は完全にお釈迦じゃねえか。
 大地震どころの話じゃない。地盤を貫通するバンカーバスター級の被害規模だ。
 しかも、まだ揺れが収まっていない。
 あの広大な迷宮が、打ち上げ間近のロケットかってくらいに鳴動してやがる。
 一体何が起こったんだ? 原因は何だ?
 頭を打ったせいか、どうもはっきりとせんな。
 確か……モドキと一緒に走ってて、それから…………?

「む、真上に来たか」

 ソルレオーネが独りごちた途端、爆発でも起こったかのような衝撃が鼓膜を衝いて脳を揺さぶる。
 身をよじって前方に顔を向けると、天井に亀裂が入って崩れ落ちるまでの一部始終を目撃する事ができた。
 トンネルや地下壕が崩落する時というのは丁度こんな感じなのだろう。爆撃を受けるゲリラ共の気分が存分に味わえる、圧巻の眺めである。
 何とも貴重な体験だが、楽しく語って聞かせられるような事じゃねえやな。
 災害やら天変地異やらに立ち会う機会に恵まれた人生で、本当に涙が出てくるよ。

「うげらぶがげががぐがげがごごぶぶげ!!?」

 …………おいおいおい、誰か降ってきやがったぞ。

「おうおう! ソルさま! ジェギさま、いしといっしょにながれてきた!」
「そうだな、カーリャ。まったく無様な格好だ」

 雪崩れ込んでくる粉末石材の滝に混じって床に転がる、やたらと大きな人影一つ。
 うつ伏せの顔を確認するまでもない。ソルレオーネと同じ騎士団三人娘の一人、ラクシャサのジェギルだった。

「ド畜生……ッ!! 好き放題してくれんじゃねえかよォォ……!!」

 赤銅色の肌を彩る真鍮の髪を乱して荒い息をつく様は、鬼気迫る精悍な美しさ。
 刺々しい装飾が施された鎧と巨躯とが相まって、焼けた鉄のような物騒な魅力を醸し出していた。

「おい間抜け! 貴様、あれだけの大口を叩いておきながら時間稼ぎも満足にできんのか!」
「うるせー色ボケ! 五百年も飲まず食わずで繋がれてたんだぞ! 仕方ねえだろうがよ!!」
「ふん、運動不足とは見苦しい言い訳だな。日頃の練気を怠るから、その程度で力を落としてしまうような醜態を晒す事になるのだ」
「なんだとォー!? テメェはなまっちゃいねえってのか!?」
「当然だ。恥を知れ、未熟者め!」

 状況も顧みず言い争いを始める二人の女騎士。どちらも声に張りがあるものだから五月蠅くて仕方がない。
 この調子で何百年も一緒にやってきたというのなら、まったく大した馬の合いようである。
 付き合わされる側にとっちゃあ、堪ったもんじゃねえやな。
 俺は軽く歯噛みしながら、丸見えになった狭間の空の景色に恐々としていた。
 宇宙によく似た暗く儚い広がりが、嫌でも死や孤独といった負の想念を喚起させるのだ。
 ……ふむ、吸い出される気配がないのは中と外の気圧が釣り合ってるからか? 気温も肌寒いぐらいで安定してやがるな。
 身を晒す事への抵抗感を抑えるには多少の度胸と順応性が求められるだろう。初体験の俺が取り乱さず冷静に観察できたのは、重力と大気があるという事前情報によるところが大きかった。

 ……でもって、アレがこの騒ぎの元凶か。

「あ、かあさま」

 そうそう、モドキの母親な。
 やっと思い出したよ。
 俺が意識を失う前に見たのは、彼女の荒れ狂う姿だったのだ。

「よぉーし! そこまで言うなら見せてもらおうじゃねえか! 騎士の鑑とやらの──」

 鼻面を突っ込んだかあさまが、その顎でもってジェギルを捕らえ、ペットボトルでも持ち上げるかのような気軽さで口内へと誘う。
 噛み砕く音、痙攣する足、牙の間から滴り落ちる鮮血。
 一連の流れに掛かった時間は、ほんの僅か。
 目の前で展開される悪い冗談を現実として認識するには、余りにも短い猶予だった。

「油断しすぎだ、馬鹿め。身体だけではなく勘まで鈍っているのか」

 呆れ調子なソルレオーネの呟きが、より一層の非現実性を助長する。
 おかげで俺は叫ぶ機会を完全に逸して、固まる羽目になっちまった。
 グチャグチャバリバリ、ボリンボリンと胸糞が悪くなるような擬音を背景に何とも言えない一拍が過ぎる。

『…………』

 俺とモドキは顔を見合わせ、ソルレオーネの横顔を窺うために首を伸ばした。

「ああ、君達は見ない方が良いぞ。子供には些か厳しい光景だからな」
「言うのが遅ぇぇ──ッ!! ウォッカでも飲んでやがんのか、お前はよォォ!!?」

 仮にも仲間が惨殺されて、その反応はおかしいだろ。
 脳の受容体に異常があるとしか思えんぞ。
 それとも何か? ここは何千年も生きてる人は違うな~とか言って感心する場面なのか?
 だとしたら、異世界の価値観恐るべし。俺みたいな常識人にはつらすぎる世の中だ。

「口が悪い。慎みたまえ」

 そんな感じで湧き上がる想いを吐露しようとしたら、即行で尻を叩かれた。
 うぬぬ……中々どうしてガキの扱いが上手いじゃねえか。
 さすがにクソ長い間、女をやっているだけの事はある。

「ジェギルの事なら気にするな。あの程度で落命するような軟弱者はレディ・ダークの騎士団には居ない」
「え? ってことはつまり、まだご存命中?」

 そう言われれば、やけにじっくりと噛み締めてやがるな。
 咀嚼に手間取ってんのか? それにしたって、とてもじゃないが生きてるようには──。

「うおおおおおメチャクチャ痛てぇぇえええぇええぇぇ────ッッ!!!」

 ……気味悪いくらいに元気だな、おい。

「準備運動はお終いだァァ!! 覚悟しやがれァ犬っころ!!」

 骨の見える傷口から盛大に血を噴きながら、ジェギルが吠える。
 口蓋に角を突き立てて踏ん張る事でかあさまの顎を押さえ、両腕でその巨大な舌を抱え込み、波打つ潮のように筋肉を隆起させる。
 間を置かずして腹に響く、肉が引き千切られる音。
 哄笑を上げる鬼女の姿はまさしくラクシャサ。羅刹の名を冠する種族に相応しいものだった。

「うわははははははっはっはっは────あらん?」

 反撃を受けるまでは、ちょっと格好良かったな。
 かあさまの喉奥から放たれた氷雪の嵐が勝ち誇るジェギルを吹き飛ばし、舞い散る花びらの要領で弄ぶ。

「んにゃろう!! 汚ねえ真似しやがって!!」

 その後の攻防は、俺の目で追うには少しばかり凄まじすぎた。
 ブリザードを吐き散らしつつ、猛然と地を蹴り挑むモドキの母親。
 霜の降りた五体を意に介さず、怒気満面でぶん殴りに行く羅刹の女。
 互いに互いを打ち砕かんと狭間の空を突き進み、震動を伴う星のような瞬きを繰り広げる。
 もはや人外魔境と言うしかない。
 神と神、魔獣と魔獣が喰らい合う、神話の世界の戦いだ。

  …………やー、とんでもねーとんでもねー。
 いきなりのドッグファイトとは恐れ入った。こっちに来てから驚きの連続だったが、今回のは特に酷い。
 酷すぎて目玉が裏返りそうだ。
 魔法か? 魔法で飛んでやがんのか?
 飛ぶならせめて、箒か絨毯くらいには乗っててくれ。
 生身で音速を超えるな。ソニックブームを起こすんじゃない。日本のアニメや漫画じゃねえんだぞ。ファンタジーだからって何をやっても許されると思うなよ。

「うぉー! すげー! かあさますげー!」

 まあ、ガキは喜ぶだろうけどな。
 スタントなし! ワイヤーなし! CGなし! なのに、とことんSFX。
 編集なしで立派な映像作品だ。興行収入1億ドルは堅いぞ。
 唯一の難点は、記録映像だって言っても誰も信じちゃくれねえだろうって事かね。

「痛い目に遭わんと力を発揮できない悪癖は相変わらずか……。
 五百年の軛も、あいつの性根を叩き直すには至らなかったようだな」

「はあ、そりゃまた大した頑迷ぶりですねえ。──ところで、見てるだけでいいんですか?」
「君達をヨシノの元に送り届けるのが先だ。あの馬鹿者もそれくらいまでは持つだろう」

 踵を返して再び走り出すソルレオーネ。

「うひゃああっ!!?」
「うぉうおー!?

 風を切るその肩の上で、俺はモドキと共にジェットコースターごっこに興じていた。

「はーい、両手を上に~高々と~……うひょおおおおおっほっほっほー!!!」
「おうおうおうお~~~っう!!!」 
「お次は左に曲がりま~す!」
「ソルさまはえー!! カーリャよりはえぇー!」

 カーブの度に仰け反らせた上半身を傾ける、お子様垂涎のイカした遊びだ。
 単純なようでいて、これが実に奥深いんだよ。
 臨場感溢れるスリルがアトラクションを盛り上げる最大の要素だって事を再認識させられたね。
 それにスピードが加われば鬼に金棒。
 シチュエーションも崩れ行く地下迷宮と非常に普遍性の高い仕上がりになっているし、忘れちゃいけない安全性も言う事なしで、お膳立ては完璧だった。
 楽しんでやらないと罰が当たるというものだろう。

「右に熱源反応有り! 総員、直ちに耐ショック体勢を取れ!! ビビる奴は敗北主義者だ!!」
「おうおうおう!! ぎゅいんぎゅいんでしゅわしゅわだ────っ!!」
「うははははははは!! 地獄に堕ちろ独裁者! 蛇と鮫の混血児が貴様の腹を食い破るぜェ──ッ!!!」

 …………現実逃避に夢中になっているわけでは断じてない。
 家ほどもある氷柱が雨霰の密度で降り注いできたり、レーザーっぽい真っ赤な何かが縦横斜めにそこら中を穿ちまくったり、挙げ句の果てには正体不明の鋭い波が迷宮を真っ二つに切り裂いたりといった事があったが、俺は正気だ。
 聖騎士様が全部防いでくれたからな。……回し蹴りとか気合いとかバリアーとかで。
 だから、肉体的にも精神的にも問題はない。

「凄いや今の! 宇宙ロケットだー!!」

 ないったらないのである。
 ついでに言うと、何がどうしてどうなっているのか尋ねる暇もなかったな。
 ……聞いたところで俺の手に負えるような事態でもねえだろうし。
 無力感ってやつも限界を突き抜けちまえば爽快の一言だ。自然と笑いが込み上げる。

「……喜んでもらえるとは予想外だったな。
 てっきり恐怖の余り我を忘れて泣き叫ぶか、気を失うものかとばかり思っていたのだが」

「うはははは、お生憎様! こちとら前世じゃ歩く火薬庫で通ってたんだ。そんな素直に出来ちゃいねーよ!」
「おう、カーリャはちがうぞ! すなおなイーコだぞ!」
「成る程……それはそれは…………ふふふははははっ! 今から将来が楽しみでならんな!」

 俺はソルレオーネの頑張りに身を任せ、ただ無心に襲い来る理不尽スペクタクルを堪能する行為に没頭したのであった。
 いやまったく、久しぶりに清々しい気持ちで脳味噌を洗わせてもらったよ。

 ジーザス・クライスト!!








 そんなこんなでようやく辿り着いた広間では、この短い間ですっかり見慣れちまった顔が勢揃いしていやがった。

「やあやあ皆の衆! どいつもこいつも服着たくらいで文明人気取りたぁ羨ましいね!
 俺が独りガラクタ共に追い回されてる間に、上手い事やってくれたみてえじゃねえか!」

「うむ、避難した先が偶々目的の部屋だったのでな。其方も相変わらずで何よりだ」
「カーリャちゃんも一緒なんですね!? よかったー! 急に居なくなっちゃったから心配してたんですよ!」
「ね? 俺っちの言った通りっしょ? どっちのお子様も殺したって死にゃしねえんだって」
「はいはい。本当にね。また元気な顔を見られて安心したわ」

 アヤトラ、ウェッジ、リザードにシャンディー姉さん。

「ゼイロドアレク……。火と風の精霊の名において、貴方に感謝を。
 こうしてお互いの無事を確認できた事は、わたくしにとって望外の喜びです」

 それと三人娘最後の一人、猫人間ニャンクスのヨシノ。
 白い毛並みを膨らませ、恭しく頭を下げるその姿は神秘的かつワンダフル。絵本の中から飛び出してきたお伽の国の住人のようだった。
 生身だから余計にな。見た目は可愛くて上品なのに、妙な迫力を感じるぞ。
 目とか大きいし、ずんぐりむっくりだし、目線が大体同じだし。
 存在感がありすぎて逆に困る。
 でかい動物だと思っちまってるからかね? 慣れるにはちょっとばかり時間が掛かりそうだな、こりゃ。

「そうかい。俺も直接対面できて嬉しいよ。
 現況を分かりやすく説明してもらえたら、もっと嬉しくなれそうな予感がするんだがね」

「はい、では……まず、レイシャさん──カーリャさんのお母様の事についてお話を。彼女の姿を見ましたか?」
「ああ……見た見た、間近で見たぞ。まさか、自分が怪獣映画のエキストラになるたぁ思ってもみなかったな」

 シャンディー姉さんから髪の手入れを受けるモドキを横目に、やや投げ槍な調子で頷く。
 あいつも切っ掛け次第では、あんな風にズドバラっちまう事になるのかね?

 凍りついた鋼の如き灰色の毛皮、分厚い石材を物ともせずに粉砕する爪牙、破壊衝動に凝り固まった緋色の瞳。
 そして巨大な、余りにも巨大な常識外れの体躯。
 尻尾まで含めると、全長は優に100メートルを超えるだろう。
 更にでかいだけでは飽き足らず、空を飛ぶ、口からブリザードを吐く、氷柱の雨を降らせるといったやりたい放題の超能力まで備えてやがる。
 ゴジラとだって戦えそうな、理不尽極まる大怪獣。
 それがモドキの母親だった。
 外見は、一言で言うと狼だな。
 モドキの奴もハイエナみたいなところがあるし、イヌ科繋がりで似合いの親子なんじゃねえのかね?
 ……あ、いや、ハイエナはハイエナ科か。一番の近縁はジャコウネコ科だったかな? 狼とは随分掛け離れているような気もするが、まあイメージの問題ってやつだ。適当で充分だろ。

「けど、母親の名前を知ってるって事は……お前ら知り合いだったのか?」
「おう! カーリャ、キシサマたちとおはなしたくさんしたぞ!」

「あの研究所にカーリャさんのような小さな子供が来るのは初めてでしたからね。
 短い間ながら、彼女達の元にアストラル体を向かわせては話し相手を務めていたというわけです」

「ふーん、三人ともよっぽど会話に飢えてたんだなあ」

 俺が思ったままの事を口にすると、ヨシノとソルレオーネは一瞬だけ照れ臭そうにして目を泳がせた。
 いやいや、そんな恥ずかしがるようなことじゃねえから。
 禁固五百年だろ? 詳しい心情までは分からんが、何となく想像はできるって。

「話は戻りますが……正確に言うと、あれはレイシャさん本人ではありません。
 レイシャさんの体内に封印されていた魔獣が顕現した姿なのです。
 恐らくはシャイターンの施術によって不完全な形で解き放たれてしまったのでしょう。
 本来なら彼女の意思で抑制できるはずなのですが、現在は重度の狂乱状態に陥っていますね」

「自分の身体に魔獣を封印? また随分と危なっかしい事をするんだな?」
「ええ、仰る通り大変な危険を伴う秘術です。しかし、それが彼女達〝封印の氏族〟の使命ですから……」

 首を傾げた俺にヨシノは頷き、ヒゲを揺らして厳かに語り始めた。


「始まりは遙か古、今からおよそ千億年以上も前の事。
 無限を超えて無限にたゆたう混沌の海に生じた創世という名の流れは、一つの渦を巻くに至りました。
 渦は幾億もの年月を重ねて広がり、勢いを増し、煌めく無数の星々を生み出しました。
 それは世界であり、宇宙であり、漂流する命の源が集う坩堝でもありました。
 混沌の海にまた一つ、新たな物語の舞台が誕生したのです。
 そして激しき創世の流れは時を置かず、舞台を彩る役者達を育みました。
 原初の神々の登場です。
 生まれながらにして混沌の海より際限なき力を引き出せる彼らは、絶対の万能者でした。
 因果律を操り、数多の時空間を弄び、己自身すらをも自由自在に作り替える。
 意思を備えた全知全能の存在です。
 そのような存在が、星の数ほども居たのです。
 運命の皮肉か、混沌の呪いか、過程を経ずに力を得た者の定めに従い、彼らは等しく傲慢でした。
 多くは要らぬ。全知全能は独りで良い。
 世界にはただ、己だけが在れば良い。
 戦いが始まりました。
 混沌の海を割り、我等が世界の礎となる、永い永い物語が幕を開けたのです」


「はい、替えの下着よ。これだけあれば充分でしょう」
「おおおおおおお!! エクセレン……ッッ!! 姉さん! あんた本当に良い女だよ!!」

 再び巡り会えた人と猿との線引き品に大感激。姉さんの腰にしがみ付いて心からの感謝を示す。
 やったぞ!
 穿いたぞ!
 隠したぞ!
 今はまだ復権間もないパンツ一丁の姿だが、持たざる者にとっては乾季の慈雨。青天の霹靂だ。
 もはや失う事はない。
 ここが俺のスタート地点。
 ここからが俺の新しい人生の第一歩。
 今こそ声を大にして言える。

 俺は……俺は、甦ったのだ!!!

「私の服も頼めるだろうか? 素肌に鎧のままというのは、さすがにどうも落ち着かんのでな」
「ふふっ、張り合いのある仕事になりそうね。喜んでお引き受け致しますわ」
「そういや、何で鎧なんか着てんだ? あんたら確か下着だけの格好じゃなかったっけ?」
「ん? ああ、これは【練気外装】という技で具現化した気を纏っている状態なのだ」
「ほへー」

 豊かな胸を張るソルレオーネの鎧姿を改めて観察し、感嘆の息をつく。
 気の具現化か……。 そこまで行くと、もはや魔法と変わらんな。

「もしかして、気功術技能を上げたら気でビームとか撃てるようになるのか?」
「ビーム? 君の言っている事はよく分からないが、気功術に励んで撃てるものというと……」

 疑問符を浮かべながら、左手を適当な壁に向けるソルレオーネ。
 そこから軽く数発に渡って放出された情熱的な輝きに、俺の目は否応なく釘付けにされた。

「……………………バトル漫画ですねえ」
「だなあ」
「いやいや、むしろCGアニメの世界じゃねえですかい?」
「だなあ」
「某が云うと滑稽に聞こえるかもしれぬが、人間業とは思えぬな」
「だなあ」

 黙って経緯を眺めていたアヤトラ達と横並びで放心する。
 断言しよう。
 これはやばい。
 繰り出されるハンドビームマシンガン、壁を貫くフィンガービーム、放物線を描いて飛ぶのはホーミングレーザーか? 
 想像はしていたものの、実際に拝むのとでは大違い。本能が刺激されて無性に熱く滾ってくるのだ。
 是が非にでも習得しなければ、男が廃るというものだろう。

「……とりあえず、暇が出来たら全員で練習だな」
「うむ、楽しみだな」
「俺っちにもできますかねえ?」

「えぇ!? みなさん本気ですか!?」
「当たり前だ。男なら誰しもああいうのに憧れるモンだろうが」
「でも……恥ずかしいですよ?」
「大丈夫だってー。別に○め×め波コンテストに出ろって言ってるわけじゃねえんだ。
 人目に付かない場所でやってみりゃいいんだよ。……もちろん、気合いは精一杯込めてもらうがな」
「気合い……?」
「大声を出せって事だ」
「どうして!?」

 どうしてって……声を出して練習するのに理由が要るのか?
 俺とアヤトラとリザードは当惑の視線を交わし合い、嫌がるウェッジの様子に肩をすくめた。
 何だか知らんが、理解に苦しむメンタルをしている奴だな。

「…………今更ですが、初めて文化の違いってやつを感じましたよ。みんな外国の方なんですよね……」
「阿呆、お前一人が変なだけだ。同じ日本人のアヤトラだって賛成してるだろうが」
「左様。丹田より気勢を上げぬ修練など言語道断ぞ」
「うう…………分かりました。お付き合いさせていただきます」
「よぉし、よく言った! それでこそ男だ!」

 項垂れるウェッジの肩──は届かないので、腰を叩いて激励する。
 これで当面の目標は〝諦めません。手からビームを撃つまでは!〟に決定である。
 とりあえずは気功術技能を上げつつ、〈気功術系〉の特技を習得していく事になるだろう。
 ステータスという要素をを視野に入れた、エトラーゼらしい現実的な取り組み方だ。
 ……何だか、3レベルになるのが待ち遠しくなってきたな。
 ゲームに打ち込むナードの心境ってのは、こんな感じなのかね? 早く成長させたくて適わんぞ。


「…………原初の神々の争いは大きな大きな波紋となり、混沌の海に様々な命を生み出しました。
 全知全能には及ばぬながらも偉大と呼ぶに値する力を秘めた彼らは、世界を導く新しき神々でした。
 わたくし達にも馴染みの深い、イェセル、バルセル、ガゥ・ハーの三大祖神もこの時に誕生したと言われています。
 新しき神々は、まず争いを続ける原初の神々を止めるべく、手を携えて事に挑みました。
 挑むと言っても直に矛を交える訳ではありません。戦い以外の手段で対抗しようというのです。
 彼ら新たなる神々には、己の力を活かすための知恵がありました。
 それはまた、全知全能である創造主達が最後まで持ち得なかった、唯一無二のものでもありました。
 すべては混沌の海の静謐を保つため、荒れ狂う渦の崩壊を防ぐため。
 即ち、世界を守るため。
 幼き子供等が愚かな親達を懲らしめる、第二幕の始まりです」


「ところで、他の連中はどうしたんだ?」
「危ないからヨシノさんの魔法で先に脱出してもらったんですよ」
「なにぃー? またえらくあっさり解決したもんだな……。行き先は分かるのか?」
「はい。リンデン王国っていう所なんですけど。
 何でも、代々の王様がエトラーゼで……地球の人には親切にしてくれるみたいですね」

 ほほう、エトラーゼってのは余所者のくせして国家元首になれるくらいに定着してるもんなのか。

 ウェッジの受け売り話によると、リンデン王国とやらは異世界──地球の技術や知識を活かす事によって発展してきた国家で、エトラーゼに対する福利厚生の徹底が国策として執り行われているのだとか。
 つまり、右も左も分からぬ哀れな子羊に、無償の愛を恵んでくださるというわけだ。
 具体的には、教育と衣食住の保障といったところかね?
 どの程度の水準なのかは不明だが、少なくとも『素っ裸でクソ迷宮に放り出される』よりかはマシな待遇が望めるだろう。
 俺達みたいな宿無し文無しロクデナシには願ってもない好条件だ。
 唯一の気掛かりは、教えてくれたのが五百年も現世と隔絶されていたニャン公だって事なんだが……まあ、敢えて文句は言うまい。
 ぶっちゃけ、選り好みする余裕どころか、選択肢すらない境遇なわけだしな。
 ここから出られるなら、行き先は何処だっていい。
 第四世界の紛争地域にだって喜び勇んで赴いてやるぜ。
 太陽と大地があるというのは、それくらいに重要な事なのだ。

「じゃあ、一緒に向こうで待ってりゃよかったんじゃねえのか? 何でお前ら残ってんだ?」
「そりゃあもちろん、カーリャちゃんのお母さんを助けるために決まってるじゃないですか」
「おう、かあさまたすけるぞ!」
「はぇ? アレって助けられるようなモンなのか?」
「らしいですよ」
「どうやって?」
「さあ? ヨシノさんはお兄さんとカーリャちゃんが戻ってきたら説明するって言ってましたけど……」


「……放逐された原初の神々が残した、悪意の生き写し。
 星を喰らい神を喰らい、混沌の海を飲み干さんとする魔物達の出現です。
 試練と呼ぶには過酷な、余りにも過酷な仕打ちと言えるでしょう。
 それは、まさしく災厄でした。
 しかし、負ける訳にはいきません。
 逃げ場など何処にも無いのです。
 新しき神々は疲弊した身を推して迎え撃ち、我々も未熟な力を振り絞って抗いました」


『……………………』

 そこでようやくと言うべきか、全員の視線が心地良さそうに謳っている白猫に集中する。
 次いでソルレオーネを凝視すると、ヒゲを引っ張れとのジェスチャーが返ってきたので、遠慮なく力を尽くす事にした。

「おお、見よ! あの光を! 偉大なるアリュークスに夜明けが──にゃげっ!?」

 ……チッ、抜けなかったか。運の良い奴め。

「何をするんですか!? 不躾ですよ!」

「うるせえ!! 教会で聖書の朗読会を開いてるんじゃねえんだぞ!
 何でそんな長ったらしい話を聞かされにゃあならんのだ!? 要点を言え! 要点を!
 怪獣ママをどうにかするのに俺達の協力が要るのか!? 要らねえのか!?
 要らねえんなら脱出だ! お前の魔法で外に飛ばせ! お願いします!
 また長話なんかしやがったら、その尻尾を固結びにしてやるから覚悟しろよ!!」

 距離を詰めて真ん丸い猫の瞳を圧迫し、一息で捲し立てる。

「ジェギルさんみたいな事を仰いますね……」

 あるのかどうかも分からん眉毛近辺の筋肉を動かして、ぼやくヨシノ。
 自分が話し出すと長い生き物である事は心得ているのだろう。それから後の話は、少しだけ聞き手への配慮が窺えた。

「あの魔獣の名はマーナガルム。一部の方達からはフェンリル狼とも呼ばれていますね。
 創世記最後の戦いで猛威を振るった、邪悪なる神々の落とし子です。
 基本的に不死の存在ですので、通常の手段で滅ぼす事はできません。
 力を弱め、封印するしかないのです。
 封印と一口に言っても、方法は様々です。
 身体をバラバラに引き裂いた上で、それぞれの部位を別々の地に封印する。
 遙か彼方の星々を媒介にして封印する。
 異次元世界に隔離幽閉という形で封印する。
 中でも一風変わった方法を用いたのが、レイシャさんとカーリャさんの一族でした。
 彼女達の祖先は、魔物の存在を幾つかに分割して、自らの身体に封じる術を編み出したのです。
 封じられた魔物の一部は、更に細分化されてその子へ。そのまた子へと、子々孫々に渡って受け継がれていきます……」

 …………結局、長い事には変わりなかったんだけどな。
 しかし、なるほどねえ。
 そうして世代を経れば経るほどに魔物の力は弱まり、いつかは消えちまうだろうってわけか。
 気の遠くなるようなスケールだが、それなりに合理的な方法ではあるな。
 封印する側にとってもデメリットばかりじゃないってところがいいね。
 そう、魔物の力の恩恵に与れるという憎いメリットもあるのだ。
 モドキの爪とか牙とか怪物じみた身体能力とかの原因は、これだったんだよ。
 身体に宿した超常的存在の力を操るクラス《マトリクサー》。
 《マトリクサー》カーリャは、母より受け継いだ魔獣マーナガルムの力を引き出して使っていたのである。
 種族ではなく、クラスの問題だったのだ。

 え? それならモドキの種族は何なんだって?
 信じられんが人間らしいぞ。
 それだけ魔獣の影響が大きいって事なんだろうが……こういうのを狼少女って言うのかねえ……?

 封印の氏族ってのは、ご先祖様が封印した強大な魔物の力のせいで、モドキみたいな天然マトリクサーばかりになっちまった連中の事を言うのだそうな。
 要するに、生まれながらの責任とギブ&テイクを科せられた一族ってわけだな。
 先祖代々の使命で宿命と言えば聞こえは良いが、随分と難儀な話である。
 ……モドキにとっても、巻き込まれた俺達にとってもな。

「どうする? 別に命懸けでカーリャの母親を助けるような理由はないと思うんだが?」

 ヨシノから怪獣ママを鎮める手立てを聞いた俺は、努めて軽く振り返り、残った一人一人の顔を見回しながら言葉を紡いだ。

「何言ってるんですか!? やりますよ! カーリャちゃんは仲間じゃないですか! 協力するのは当然です!」
「某も同意見ぞ。非才の我が身にまだ役割が残されていると云うのだ。力を惜しんでいては亡き母と姉に合わせる顔が無いわ」
「カーリャちゃんって良い子よね~。理由なんてそれで充分だと思わない?」

 三人は即答か。……だろうと思ったよ。

「確かに、とっととずらかりたいってのが本音ですけどねえ……。坊ちゃんはどうするんです?」
「決まってんだろ。姉さんに服の借りを返さにゃあならんからな」
「あら? ゼイロくんは偉いわねえ。でも、無理する必要はないのよ? 嫌々じゃあ嬉しくないもの」

「ハハハハハ! ご安心ください、レディ。
 何を隠そう、魔物退治と人助けは私めのライフワーク。物の見事に勤め上げてみせましょうとも!」

「お子様がパンツ一丁で格好付けても虚しいだけですぜー」
「お前は来なくていいぞ」
「ハハハハ! 何を仰いますやら! 魔物退治と人助けは俺っちのライフワークでもあるんですぜ?」
「嘘吐きめ」
「ひどっ!?」

 リザードは、もう少しごねるかと思ったんだがな。
 妙なところで付き合いの良い奴だ。

「というわけで全員一致だ。指示を頼む」
「はい。では皆さん、こちらの魔法陣の中心に入っていただけますか?」

 ヨシノに促され、広間の中央に身を寄せる。
 ソルレオーネが俺とモドキを連れてくるまでの間に用意していたんだろう。呪文を唱えたら本物の悪魔が出てきそうな、雰囲気たっぷりの円形不思議模様だった。
 心なしか発光しているようにも見えるな。蛍光塗料で描いたのかね?

「肩の力を抜いてください。楽な姿勢で大丈夫です。すぐに術式を施しますので」

 おお、光った光った。
 如何にも魔法の儀式って感じで、盛り上がってきたじゃねえか。

「っしゃー! ここから出たら俺は日光浴がしたいぞ! ウェッジ、お前は何かあるか!?」
「え? あ……魔法の毛生え薬が欲しいですっ!!」
「うははは! 何だそりゃ!? リザードは!?」
「このナリで可愛いセニョリータを口説けるかどうか、試してみたいッス!!」
「諦めろ! シャンディー姉さん!」
「ブティック経営! 行く行くはオリジナル・ブランドの設立よ!!」
「夢があって大いに結構!! アヤトラはどうだ!?」
「そうだな……旅がしたいぞ! 日ノ本以外の世界を見てみたい!!!」
「旅か! いいねえ! 最高だ!! さあカーリャ!! お前が主役だ! ビシッと決めろ!!」

「ヤケニクくいてぇ────────ッッッ!!!!」

 輝きを増す魔法陣の中央でスクラムを組んだ俺達六人は、高揚する想いに任せて誓いの言葉をぶつけ合った。
 些細な儀式ってやつだ。
 内容なんざどうでもいい。
 何が何でも生還してやるっていう気迫を込めてるだけなんだよ。


 ヤケクソ気味に揃った俺達の笑い声は、少しずつ溶け合うように集束し、狭間の空へと響き渡った。

















 あとがき

 大変お待たせしましたあああああ!!

 16話です。
 説明を詰めるのに苦労しました。
 連休中は仕事でした。
 敵の強さがドラゴンボール並みのインフレになっていますが、恐らく17話でピークを迎えて一気に下降していくものと思われます。
 主人公が強くなったわけじゃありませんからね。
 19話くらいでは初心に返って山賊やチンピラを虐めているはず!



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 現在の所持品  19/20

 パーソナル マップ  (72)
 フォーチュン ダイス  (483)
 豊穣神の永遠のボトル
 特殊樹脂製のタワーシールド  (5) 〈Dグレード〉 〈軽量級〉

 丈夫で軽くて滑らかで愛が込められた高品質の スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スパイダーシルクの子供用胴衣 〈Eグレード〉 〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクの子供用手袋 〈Eグレード〉 〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクの子供用肌着 〈Eグレード〉 〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクの子供用下着  (8) 〈Eグレード〉〈超軽量級〉 シャンディーからもらって9入手 1枚は装備中です。

 入)ケタの干し肉  (37)
 入)他の袋4枚

 丁寧な作りの軽くて丈夫な スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スマイリーキャベツ  (5)
 入)オミカン  (9)

 丈夫な革製の背負い袋

 入)陽光のカンテラ
 入)水筒 〈空〉
 入)丸い水筒 〈湧き水〉
 入)大きめの水筒 〈井戸水〉

 ヒール ストーン
 ヒール ストーン
 リフレッシュ ストーン (4)
 冒険者の松明  (32)
 火の付いた冒険者の松明
 麻製のロープ  (71)
 蜘蛛の歩みの秘薬  (8)
 蟻の力の秘薬  (9)
 蜂の一刺しの秘薬  (3)
 蝗の躍動の秘薬  (2)
 ケタ肉の塊  (24)
 月光鱒の切り身  (58)


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 次回、遂に脱出!?

 開放的なフィールドでの冒険が、きっと俺を待っている……。



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