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No.15918の一覧
[0] フレイムウィンド&ケイオス  (TRPG風 異世界ファンタジー転生物)[ランダム作成者](2010/04/18 12:17)
[1] 1  チュートリアルなど無い[ランダム作成者](2010/04/11 14:23)
[2] 2  『スカベンジャーズ・マンション』 編[ランダム作成者](2010/04/04 11:49)
[3] [ランダム作成者](2010/03/05 19:59)
[4] [ランダム作成者](2010/04/04 10:57)
[5] [ランダム作成者](2011/02/18 06:32)
[6] [ランダム作成者](2010/04/04 10:59)
[7] [ランダム作成者](2010/03/05 20:47)
[8] [ランダム作成者](2010/03/27 12:51)
[9] [ランダム作成者](2011/02/18 06:30)
[10] 10[ランダム作成者](2010/04/11 14:29)
[11] 11  レベルアップ[ランダム作成者](2011/02/13 01:43)
[12] 12[ランダム作成者](2010/04/11 14:35)
[13] 13[ランダム作成者](2010/04/12 10:50)
[14] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編[ランダム作成者](2010/04/26 15:42)
[15] 15[ランダム作成者](2011/02/18 06:34)
[16] 16[ランダム作成者](2010/05/09 13:10)
[17] 17  意思ぶつけ作戦[ランダム作成者](2010/05/25 02:19)
[18] 18[ランダム作成者](2011/02/13 02:36)
[19] 19  精神世界の戦い[ランダム作成者](2011/02/13 05:10)
[20] 20  いざ、人生の再スタート      (LV 3にアップ)[ランダム作成者](2011/02/18 22:55)
[21] 20.5  かくして混沌の申し子は放たれた     (主人公以外のステ表記)[ランダム作成者](2011/02/27 14:19)
[22] 21  『帝国からの逃避行』 編     [ランダム作成者](2011/12/07 21:52)
[23] 22[ランダム作成者](2012/03/18 15:13)
[24] 23  リンデン王国を目指して[ランダム作成者](2012/03/19 02:30)
[25] 24  グレーターデーモン     (ティーナのステータス表記)[ランダム作成者](2012/04/05 05:41)
[26] 暫定 キャラクターデータ まとめ[ランダム作成者](2011/02/13 02:00)
[27] 暫定 アイテムデータ まとめ[ランダム作成者](2010/05/20 16:57)
[28] LVや能力値などについての暫定的で適当な概要説明 & サンプルキャラクターズ[ランダム作成者](2011/02/27 14:10)
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[15918] 14  『エトラーゼの旅立ち』 編
Name: ランダム作成者◆f9a7ea31 ID:470fdece 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/26 15:42

 施設内は不気味なまでの静寂に包まれていた。
 探索を開始してから30分にもなるというのに一向に敵が出てくる気配がない。何処の部屋を覗いてみても人っ子一人居ないのである。
 夥しい量の血痕、散乱した器具、派手に壊された壁や床などの様々な形跡からある程度までは推察できるものの、現在の奇妙な状況と結び付くような判断材料は未だになし。更なる発見が望まれるところだった。

 ここで戻って全員で動くってのも有りなんだけどな。手ぶらで帰るのはさすがに憚られるんだわ。
 だが、単独で深入りするのはそれ以上に間抜けな話だ。死にでもしたら目も当てられん。程々にマップを埋めて、キリの良いところで引き返すのが一番だろう。
 突き当たりの角を曲がり、駆け足で真っ直ぐ。
 少しして見えてきた左右の扉の大きさに、俺は弛み掛けていた緊張の糸を張り直した。
 どちらの部屋もかなり広い。特に右の方はマップの最南端に掛かっていると見て間違いないだろう。
 何しろ、このフロアは下と比べて非常に親切な造りをしてやがるからな。
 埋めている途中で気付いたんだが、あの端から端まで何日も掛かるようなクソだだっ広い迷宮と同じ建物だとは信じられないくらいに狭く、目的を持った建築物として規則正しくまとまっているのだ。
 それでも広いっちゃ広いんだが……俺の感覚がどうかしちまったのかね?
 丸一日も費やせばコンプリートできそうだっていう見通しが、とてつもなく甘く感じられるんだよ。

 実際、マップに表記されている文字の方も〝スカベンジャーズ・マンション 第1層〟から〝レドゥン帝国 第七キメラ研究所 地下1階〟に変わっちまってるしな。
 名前からして、まったく別の建物だ。
 あと、シャイターンが建設に関わっているという事はないと思う。
 リノリウム似の樹脂が張られた床にコンクリートの壁、通風口だけの前時代的な換気設備、辛うじて水洗式なトイレ、何処にも見当たらない警備システムに電化製品と、十九世紀後半の技術でも充分に建設可能な条件が揃っているからな。あんなロボットを作れる連中の研究施設にしちゃあ、お粗末すぎるってなもんだろ。
 シャイターンのではなく、ある日突然シャイターンに占拠された知らない国の怪しい怪しい研究所。
 十中八九、そんなところだろ。
 ガキでも辿り着ける、簡単な結論だ。

「よいさっと」

 クルクルと無意味な宙返りなどを入れつつ、天井から床に着地する。
 この重力が反転する感覚にもすっかり慣れちまったな。最初は随分と戸惑ったが、今じゃ遊び放題だぜ。
 俺はまず左の扉に耳を押し付け、気配はないかと探りを入れた。
 …………この微かなモーター音は、シャイターンか?
 お部屋に閉じこもって、一体何をなさってるんでしょうかねえ?
 床に付いてる死体を引き摺ったような跡が、嫌でも想像力と好奇心を掻き立てるぞ。
 ……ふむ。
 ひとまず戻るとするか。バックアップもなしに突入なんて阿呆な真似は…………ん?

 後ろに誰か、居る──!?

「ガビビビビびビびびビビビッッ!!?」

 って、いきなり電気ショックかよ!?
 背中に当たったのはスタンガンか? いつの間に接近してきやがった?
 やべえぞ。確実に100万ボルト以上ある。

「ぐぉのあああらあああああ……!!」

 痺れる身体と明滅する視界に活を入れ、天井へと緊急退避。
 それはまるで塩を掛けられて這いずり回るナメクジになったかのような、脂汗の滲む数秒間だった。
 クソッタレ! 素肌に高電圧くらうなんて何年ぶりだ? 心停止するかと思ったぞ。
 息をするのもしんどいじゃねえか。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 R1─SG001 ステルス ノッカー  LV 5

 HP ??/??  MP ??/??  CP ??/??

 詳細: ???


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



 天井で大の字になって喘ぐ俺の目の前で、襲撃者は待ち構えるような旋回運動に入っていた。
 四輪駆動で動く、盾と電磁警棒を持った体高1メートル半のドラム缶か……。如何にもガードロボットって感じの無骨なデザインだな。
 けど、こんなのが近付いてきたら──あっ、消えた。
 姿が消えた。音まで消えたぞ。
 何だ何だ、未来技術か? ステルスってそういう意味でのステルスなのか? 凄ぇな、おい。
 特許取ったらどれだけ儲かるか想像も付かん。たったの一機で計り知れない資産価値だ。
 なのに、ぶっ壊さにゃあならんとは……あ~まったく、もったいねえ話だぜ。

 10分ほど休んでどうにか動けるまでに回復した俺は、滾る復讐心のままに燃料の投下を開始。透明になっていたステルスノッカー共の位置を顕わにした。
 そうです。共です。複数形です。
 なんと8体も潜んでやがったんだよ。
 俺が天井を走ってたから手が出せずに付いてきてたんだな。別に安全な道行きでも何でもなかったってわけだ。
 ……いかん。我ながらシュールすぎる。
 俺はこめかみを解しながら火の付いた松明を取り出し、通路一面に広がったブランデー溜まりの中に放り込んだ。
 いくら見事に隠れたところで、相手に位置を悟られちまったらお終いだ。延々と敵のケツを追い回す事しかできなかった、テメェらのアルゴリズムの貧弱さを思い知りやがれ。
 炎が逆巻き、馬鹿共の姿を炙り出す。
 そこから先は実に簡単。
 足回りが台無しになって動きの鈍りまくった連中を、片っ端から懇切丁寧なバックドロップで仕留めていくだけの単純な作業だった。



 ◆ 特殊樹脂製のタワーシールド 〈Dグレード〉 〈軽量級〉

   詳細: 異世界の技術によって製造された、ガラスのように透明なタワーシールド。
        鋼鉄に匹敵する強度を備えながら、女子供でも扱える程の軽さを誇る逸品である。
         
         防護点 30
         衝撃吸収点 5
         耐久度 500/500
         特殊効果 〈耐熱50%〉 〈耐冷50%〉 〈耐雷100%〉
                〈耐酸50%〉
         制作元 VRV─068─06─05 A75プラント



 でもって、こいつが戦利品だ。
 警察組織が暴徒鎮圧の時なんかに使うアクリル製の盾を一段と立派にしたような代物だが、あの火勢で傷んだ様子がまったくないところから察するに、ただの合成樹脂というわけではないらしい。
 詳細によると小銃の弾くらいは防げそうだし、何よりも俺の全身をカバーできる、そのサイズが魅力的だ。役に立ってくれるだろう。
 これで戦術の幅が大いに広がったぞ。
 え? 電磁警棒の方はどうしたって?
 ああ、あっちは外部動力だったからな。本体と切り離すと頼りないただの棒きれになっちまうんだよ。
 電気ショックがなけりゃ神ボトル以下、松明で殴るのと変わらん。よって泣く泣く諦めました。
 盾のおかげで肩を落とすような事はなかったけどな。
 今までの実入りゼロな戦いを想うと、この収穫は革新的だ。

「いやっふぅ~~ぃ!!」

 俺は嬉しさの余り、知らず知らずの内に盾を構えて踊るようなステップを踏んでいた。


『…………あの、少々よろしいでしょうか?』

 佇む新顔の存在に気付いたのは、声を掛けられてからの事である。

「んあ? ……え? うおおおおッ!!?」

 今度の不意打ちは背後からでなく傍らから、柔らかく被せるようにしてやって来た。
 いや、別に危害を加えられたわけじゃないんだがな。警戒してた分だけ盛大に驚かされたってだけで。
 まさか、時を置かずに二の轍を踏むとは思ってもみなかったぞ。
 しかもこいつは…………えーと……何だ?

『驚かせてしまい真に申し訳ありません。わたくし、ヨシノと申します』

 長靴を履いてない猫……?
 そりゃお前、ただの猫だろうが! って、違う違う。
 目の前に居るのは上等な白い毛並みを持つ、俺と同じくらいの背丈の猫。猫人間だったのだ。
 おまけに何だか半透明だし……。もしかして幽霊なのか?
 だとしたら、えらくファンシーな死人だな。怖気の走るゾンビやシニガミとは大違いだ。ディズニーからスカウトが来ても不思議じゃねえぞ。

『今は訳あってこのようなアストラル体の身の上ですが、死霊の類ではありませんのでご安心ください』

 アストラル体? 確か神秘学で言うところの魂体、幽星体、または星気体だったっけか?
 一般的に言うと幽体だな。
 つまりこいつは死者の霊ではなく、幽体離脱した生きている猫人間の霊ってわけだ。
 ……んーむ、オカルトチック。

『お疑いになられる気持ちはよく分かります。しかし、わたくしに──』
「分かった分かった。要するに敵じゃないって言いたいんだろ?
 こんなすっぽんぽんのガキ相手に遜るこたぁねえ。用件があるなら単刀直入に頼むわ」
『はい。貴方のお心遣いに感謝致します』
「へいへい。あ、その前に一つ質問だ。あんたも元地球人なのかい? 名前からすると日本人みたいだが」

 これだけは最初にハッキリさせとかないとな。違ったら違ったで色々と教わりたい事もあるし。
 俺の質問に猫人間ヨシノは金色の目を細め、すべて分かっているとでもいう風に頷いた。

「仰る通りです。今は日ノ本と呼ばれる島のとある国で、女王の侍女を務めておりました」
「女王? 日本の……? それって何年前の話だ?」
「残念ながら定かではありません。けれど、わたくしがこちらに来てから千と四百年ほどになりますから……。 少なくとも、それよりは昔の事なのでしょうね」

 ……………………今、サラッと爆弾発言を聞いたような気がするぞ。

『わたくし達の存在は先住の人々から〝エトラーゼ〟と呼ばれ、広く知れ渡っているのです。
 貴方は転生を果たして間もない同胞のようですね。オーラの揺らぎとステータスで分かります。
 …………狂戦士、ゼイロドアレク。アルジュラの子。風巻きて猛る炎の子……。
 このような恐ろしき場所で目覚めながら、よくここまで辿り着いてくれました』

 超が付くほどの大先輩ってわけか。……やりにくいねえ。
 観察技能もクソ高いんだろうな。ぜ~んぶ見透かされてやがる。

『しかし、これから先に待ち受けるのは本当の無理難題。
 生まれたての雛に等しき身と心では、邪悪なるシャイターンの魔手より逃れる事はできません。
 わたくし達が手を携えて挑む必要があるのです。……貴方の助けが要るのです』

 なるほど、大体分かったぞ。
 昔人間の性で白猫ヨシノは大仰に言っちゃいるが、要は施設内にある牢屋から助けを求めて幽体離脱してきたって事だ。
 で、互いに協力し合って脱出しましょうと。
 まあ、捕虜はできる限り救出する方針だったし、大先輩の助言が聞けるなら渡りに船。非常に有り難い話と言えるだろう。
 メチャクチャ疑ると、こいつの存在自体が真っ赤な嘘、シャイターンが投射した立体映像だって可能性もあるわけだが……連中に、そんな回りくどい手で俺を騙すメリットは欠片もねえだろうしな。まったくの被害妄想だ。
 …………今のところ、敢えて拒む理由はないか。
 俺は頷き、ヨシノに話の続きを促した。

『ヨシノォォォォッ!!! なに、まどろっこしい事言ってやがる!』

 ──直後、南側の壁を抜けて新たなアストラル体が現れる。
 推定身長250センチ、赤銅色の肌に施された豪快なタトゥーが素敵すぎる、筋骨隆々の女妖怪だ。

『不躾ですよ、ジェギルさん! お話はわたくしに任せると仰ったじゃないですか!?』
『うるせえ! お前は若いくせに話が長すぎんだよ!
 コナ掛けるなら引っ浚うくれぇの気持ちでやりやがれ! 聞いててムズムズするわ!』
『ジェギルさんこそ、お歳の割に落ち着きがなさすぎです。この子を怯えさせてしまっては元も子もないでしょう』

『ハッ! だったら尚更、話が早くて助かるじゃねえか!
 おい、小僧! オレに身体を貸せ! なぁに悪いようにゃあしねえよ。魂の安全は保証してやる』

 牙を剥き、血の色の瞳を歪めて笑うその顔は、大の男でも失神してしまうほどのド迫力に満ち溢れていた。
 ……いやまったく、シニガミ以上のプレッシャーとは恐れ入った。
 存在感からして格が違うぞ。
 だが、怖いってのとはまた別物だな。
 何ていうか……ドでかい火の玉の傍に居るみたいな感覚だ。眺めていると奇妙な安心感が湧いてくる。

「ヨシノさん、こちらの方は山姥の怨念か何かですか? 是非、紹介してください」
『何だとぉコラ!?』

 ふむ、挑発には根っから乗りやすい性格ですってか。思った通りの単細胞だねえ。
 表情も豊かだし、意外と可愛い奴なのかもしれん。

『……ほっほー、どうやら肝は据わってるみてぇだな。ガキのくせして一丁前に──っべげはぉ!?』
『ジェギル、貴様ぁ! 曲がりなりにも諸人の範となるべき騎士の身で、幼き子供を脅すとは何事か! 恥を知れ!』

 そして更に、もう一人か。
 大女の横っ面に壁を抜けての跳び蹴りをかました三人目の登場に、俺は無言で天を仰いだ。
 ……まだ潜んでるなんてこたぁねえよな?








 俺の心配も虚しく、現れたアストラル体は三人目の乱入で打ち止めだった。
 三人とも女性で、ご同輩──エトラーゼはヨシノだけとの事らしい。
 分かりやすく簡単に紹介するとしよう。

 まず一人目はヨシノ。
 こちらに来てから1400年以上も経つ、アヤトラよりも昔々の元日本人だ。
 種族はニャンクスという名の猫人間。その低い身長とフサフサの毛皮が相まって、かなりユーモラスな外観に仕上がっている。
 やはりと言うべきか、猫らしくマタタビとイヌハッカの匂いには弱いらしい。
 ……手に入ったら試してみよう。
 クラスは、《カーディナル/アガスティア》とか何とか。
 そう、二つ持ってるんだよ。
 何でも、5レベルになるとマルチクラスとかいう特典が付いて、二つのクラスを同時に設定できるようになるのだそうな。
 つまり、ヨシノは最低5レベル以上。
 これについて尋ねると『自分のは参考にならない。貴方にはまだ早い』ってな感じの物言いではぐらかされて、結局レベルが幾つなのかは教えてもらえなかった。
 ──が、大層なクラス名からして強力な魔法使いである事は間違いないだろう。
 とりあえず、今はそれで充分だ。

 二人目はジェギル。
 話の途中で怒鳴り込んできた、アマゾネス風の大女だ。
 種族はラクシャサ。ヒンドゥー教で悪鬼にして半神の扱いを受けている連中と同じ呼び名である。
 ……うん。まあ、立派な角も生えてる事だしな。概ねそんな感じだったよ。
 ちなみに女性形だとラクシャシーになるんだが、そこら辺は臨機応変に使い分けるのが常識というやつらしい。
 クラスは《ドレッドノート/ジェノサイダー》。

 ヨシノ曰く『エトラーゼとこちらの世界の住人の違いは、自己と他者の能力をシステム的ステータスとして認識できるかどうか』といった程度の事なのだとか。
 だから、本人に自覚がないというだけで、クラスや特性などの恩恵自体は誰にでも公平に存在するのだそうだ。
 ジェギルのようなエトラーゼでない者は、自然な成り行きの中で無自覚にステータスが形成されていくのである。
 俺達は認識できるからこそ、ある程度自分の裁量で伸ばす事ができるってわけだな。
 あと、便利な便利なアイテム収納もエトラーゼ特有の能力らしいが、くれぐれも過信は禁物との事だ。
 エトラーゼだとバレれば当然警戒される上に、観察技能が高い相手には中身が筒抜け。そうでなくても、対抗手段はいくらでもあるとかどうとか。
 特に厳重な警備が敷かれた施設に入る時、公の場で要人に会う時、監獄行きになる時なんかは、まず例外なくアイテム欄を空っぽにされると覚悟しておいた方がいいそうだ。
 ……この利便性に慣れちまった後だと、余計に苦しく思えてくらぁな。

 ──で、最後に出てきた三人目の名前がソルレオーネ。
 ジェギルを蹴っ飛ばした勇ましいお嬢さんだ。
 凛々しく引き締まった表情と、高い位置で結んだ後ろ髪が醸し出す印象通りの人柄の持ち主だな。
 ビジュアル、スタイル、スピリッツ、すべて破格の超美人。
 …………肌が病的を軽く超えて非人間的に青白かったり、背中に蝙蝠の物らしき小さな羽が生えてたり、尻尾がまんま悪魔のソレだったりしなけりゃあ、世の野郎共の大半は参っちまうのではなかろうか?
 そんな彼女の種族はサキュバス。
 キリスト教において夢魔と呼ばれる悪魔の一種で、その女性型だな。
 夜な夜な健康的な男性の夢枕を訪れては、アレをアレしてゴニョゴニョして精気を奪っていくという、クソ坊主共の旺盛な妄想力が生み出しやがった負の存在だ。

 ラクシャサもそうだが、本来は神話や伝説にだけ出てくる想像の産物なんだよなあ……。
 ……もしかして、こっちの住人がその原型にされているとか?
 それとも、こちらの世界の固有名詞が元地球人の俺にも分かりやすいようにと訳されているだけなのだろうか?
 或いは、その両方が…………?
 ま、いずれにせよ深く考えるような事じゃねえやな。

 とにかくソルレオーネはサキュバスで、サキュバスとは女悪魔的な外見をしたエロっちぃ種族の事なのだ。
 少なくとも、こちらの世界においてはそれが常識。厳然たる事実なのである。
 まあ、実際は意外と身持ちの堅い奴も居るらしいんだがな。
 でなきゃあ、《ヴァルキュリア/パラディン》なんていうイメージ的に似つかわしくないクラスには成らんだろ。どう足掻いても。

「……はあ、そりゃまたさぞ苦労した事でしょうねえ」

『うむ。どいつもこいつも我等サキュバスの事を色眼鏡で見てくるから困る。
 ただ、生物から精気を吸収する能力を有しているというだけで、決して好色なわけではないのにな。
 現に聖騎士にして戦乙女である私などは、6500年以上もの間、純潔を守り通しているのだぞ』

 ……本人は何だか誇らしげに言ってるが、それって自慢できるような事なのかね?
 異世界の異種族で異文化人の価値観はさっぱり分からん。

『なぁにが純潔だ、このムッツリスケベ! そういうのはな、万年男日照りっつーんだよ!
 オレより年上のババアのくせしやがって自称乙女とか、吐き気がして鳥肌も立つわッ!!』
『誰がムッツリだ!? それに自称ではないぞ! 小説でも演劇でも吟遊詩人達が奏でるサーガでも乙女と呼ばれているだろうが!』
『ああ、そりゃアレだ。きっと竜帝よりも希少な生き物だって意味で謳われてるんだろうよ』

『……何だ、そうだったのか。ハハハッ! 中々婉曲な褒め言葉だな』
『皮肉も通じんのか、ボケ!!』

 このように幽体離脱中とは思えないほどにかしましい連中だが、元々は何処ぞの国で騎士としての宮仕えをしていたらしい。
 人々から〝レディ・ダークの騎士団〟と呼ばれ、大層畏れ敬われていたのだそうな。
 もちろん、俺は知らんがな。
 そんなピンと来ない勇名を馳せた彼女達が囚われの身となったのは、今からおよそ500年ほど前の事。
 数カ国の軍事力が入り乱れ、際限なく化け物が湧き、天が割れて地が裂けてといった理不尽系エフェクト満載で盛り上がる大戦の末期に、同じ騎士団の仲間であった一人の女の裏切りに遭ったせいなのだとか。
 内輪揉めかよ! ──とは敢えて言うまい。
 かの有名なアーサー王と円卓の騎士達だって、思い入れ抜きで見りゃあ似たような結末だったからな。
 古来より英雄と呼ばれる人物には、残念無念かメデタシメデタシかといった両極端な最期しか待っていないものなのである。

 ……というわけで、裏切りに遭い、祖国を追われ、傷付いた身で絶望的な戦いを強いられる羽目になった彼女達は、紆余曲折の末にレドゥン帝国という国家に捕らえられた。
 そして極秘裏に、この第七キメラ研究所へ。
 キメラというくらいだから生物学的な遺伝子の研究でもしているのかと思ったが、単純に生物兵器を作るための施設だったみたいだな。
 魔法技術で異なる種の遺伝子を掛け合わせ、時には成長した生物同士の肉体を直接合成するなんていう、某蠅人間が出来そうな無茶な実験を行っていたらしい。
 そんなマッドな所で彼女達が500年近くもの間無事だったのは、生物として強すぎるから並みの技術では分解も合成も不可能だからなのだとか。
 更に言うと、研究員達が必要以上にレディ・ダークの騎士団の力を恐れていたから。
 脱出の機会を虎視眈々と窺っているのは明らかだったので、団長以外は一度も牢から出してもらえなかったそうなのだ。
 まあ確かに、アストラル投射なんて非常識な事をしてくる連中にゃあ近寄りたかぁねえやな。いつ身体を乗っ取られるか分かったもんじゃない。
 恐らく研究所なんてのは半ば名目で、この施設自体が彼女達を幽閉しておくための物だったんじゃねえかな?

 悪い冗談みたいな外の景色を眺めていると、何とはなしにそう思えてくるんだよ。








「うっへぇ~~~っ!! こいつぁたまげた! 凄ぇや、宇宙ステーションだよ!!」
「うぅむ…………まさか星の海を間近で眺める事に為ろうとはな……」
「いやぁ感動的ですねえ……」
「おう、かんどうか! かんどうなのか! カーリャはくらくてちょっとやだぞ!」

 まあ、無理もない反応か……。
 一斉に窓に張り付いては口々に感嘆の声を上げる四人の背中を見やり、俺は苦笑いを浮かべた。

「ふははははは!! 然り然り、感無量! 驚天動地とは正に此の事か!
 ……所で是色よ、月はどの辺りに在るのだ? 某は月の都を見てみたいぞ」

 けど、人の話くらいはしっかり聞いとけよな。

「だぁから、宇宙空間とは別モンだって言ってるだろうが。
 狭間の空って名前の魔法的なアレだ。異次元とか異空間とかそういう感じのやつ。
 ほら、暗黒物質のはずなのにオーロラみたいに色合いが変化してるだろ? だから、違うんだよ」

 付け加えると、重力と大気までもが存在しているらしい。
 この研究所を始め、他にも小惑星や廃墟らしき物体がいくつも浮かんでいるというのに変な話だが、とにかく無重力でも真空でもないんだよ。
 ……自分の身体で確かめてみる気はねえけどな。

 騎士団の三人から詳しい事情を聞いた俺は急いで穴空き倉庫に戻り、待っていた四人に報告を済ませた。
 その後、自分達が置かれた現状を呑み込んでもらうために地下1階南端の部屋までの案内を務めたというわけである。
 あっちの、聞き耳をしなかった方の部屋な。
 牢屋になってたんだけど誰も居なかったし、壁にでかい窓ガラスが嵌ってたから、外を眺めるの丁度良かったんだよ。

 現在、この研究所は〝狭間の空〟と呼ばれる異空間を漂っている状態だ。
 ヨシノの話によると、大きな組織が危険を伴う実験施設や廃棄場、監獄なんかを狭間の空に建設するのは珍しい事じゃないらしい。
 特に一流の魔法使いならば、個人で様々な好き勝手空間を所有していたりする場合もあるのだそうな。
 例えば、真っ当に秘密の研究室を作ってみたり、立派な屋敷を拵えて愛人を複数囲ってみたり、倉庫を建てて箪笥の裏よりも確実なエロ本の隠し場所にしてみたり……。
 遊び心からスカベンジャーズ・マンションなんてクソ迷宮を造ってみたり……なんて事までしちまうわけだ。
 大昔に流行ったらしいんだよ。ああいう実益無視の悪趣味に走った物を建てるのが。
 そしてそれは、熱が冷め、流行が廃れ、持ち主が儚くなっても消えやしない。
 下手に心血注いで造ったモンだと尚更にな。
 要するにアレだ。身も蓋もなく言ってしまうと、今の狭間の空はバブル期の建設ラッシュの後みたいな様相を呈しているのである。
 この研究所がスカベンジャーズ・マンションの上に建てられたのも、それが理由だ。
 よく分からんが、基礎がしっかりしてるとかでゼロから新しく建てるより楽なんだと。
 つまりは経費削減、バブル期の遺物の再利用。道理で上に行く道が見つからなかったわけである。
 迷宮自体はあくまでも土台でしかなかったのだ。

 ……何とも世知辛い話だが、少し考えるとゾっとするぜ。
 もし上に研究所がなかったら? もしシャイターンの襲撃が起きなかったとしたら?
 在るかどうかも分からん迷宮の出口を探して、延々と彷徨う羽目になるところだった。

「しっかし、シャイターンってのはマジでイカレた連中ですねえ。
 ここの職員も囚人も、み~んなリビングデッドに改造されちまったんでしょ? 一体何がしたいんだか……」
「リザードさん! ダメですよ、カーリャちゃんの前でそんなこと言っちゃあ」
「おっと、すまねえ。失言だった」
「おう、なんだなんだ? ナイショばなしか?」
「ち、違うよ、カーリャちゃん! ただ、あそこの星が綺麗だな~って話してただけだよ! ──ね? そうですよね!?」
「えぇっ?! まあ、そうなるのかねえ……」
「おうおう、そうなのか? おまえらキモチわるいな!」

 じゃれ合うウェッジ達の様子を横目に、格子のひん曲がった牢屋の並びに視線を走らせる。
 シャイターンの一群が研究所を襲ったのが約一ヶ月前、ここから無理矢理に引きずり出された囚人達は全て向かいの部屋で改造ゾンビにされちまってた。
 モドキの母親がこのフロアの何処かに囚われていたとしたら、生存は絶望的。
 施設全体で見ても、生き残ってるのは厳重極まる特別待遇を受けていた騎士団三人娘くらいなもんだろう。
 あと可能性があるのは100年以上も前に連れ出されて以来、消息不明だっていう騎士団長さんとやらか。

「こっちの世界の住人もシャイターンについては異世界からの襲来者ってだけで、よく分かっていないそうだ。
 意思疎通は無理、分解してもテクノロジーの違いでチンプンカンプン。
 確かなのは見掛け次第ぶっ壊すか逃げるかしねえと、こっちがぶっ殺されちまうって事だな」

「それだけ分かっておれば充分ぞ。寧ろ、明快で心地良い」
「平和主義者の俺っちとしては勘弁してほしいんですけどね……。それで、早速これから上に向かうってわけですかい?」
「ああ、所長室に行って騎士団の三人が閉じ込められている牢の鍵を探す」
「その三人なんですけど……坊ちゃんの妄想の産物なんてこたぁねえですよね?
 いや、別に疑ってるわけじゃねえんですよ? けど、500年も牢の中で生きてるって、いくら何でも嘘臭いっていうか……」

「だったら、どうする?」
「うそー!?」

 跳び上がるリザード。
 予想通りの反応だが……お前、段々リアクションがカートゥーンじみてきてるぞ。

「冗談だよ。んなわきゃねーだろ。連中なら自分の身体に戻って休んでるところだ。
 施設全体が結界とかいう力場に包まれているらしくてな。そのせいで短い間の幽体離脱しかできねえんだと」

「じゃあ、助けは期待できねえっつー事ですかい? それはそれで不安ですね」
「阿呆、脱出はヨシノの知恵と魔法だけが頼りなんだぞ。いっそ貸しを作るくらいの気概で行け」

「おう! いくぞいくぞ! かあさまたすけて、だっしつだ!!」

 本来なら正規の出入り口から脱出と行きたいところなんだがな。その辺は当然シャイターンの警備も厚いだろうから、利用するのはやめといた方がいいって事になったんだよ。
 ……そもそも、使い方が分からねえし。
 研究所と外界を繋ぐポータルと呼ばれる門は、プロテクトの掛かった魔法装置によって管理されているらしいのだ。
 門外漢にも程がある俺達の力だけでは、最初から脱出は不可能だったというわけである。


 まあ、ようやくもって筋道が見えてきたってところかね。
 やるべき事は決まった。
 悪魔共の目を盗んで囚われの姫君達を救い出し、地獄の淵から手に手を取って生還を果たすだけ。
 後は行動在るのみだ。
 意気揚々と逸るモドキを先頭に、俺達五人は勇者となって突き進んだ。

 ……………………クソ、服がないと締まらん。

















 あとがき

 今回は状況説明です。ほとんど動きがありません。
 指針も固まったので次回からはガンガン行きたいと思います。

 はやくそといきてー。



  ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


 現在の所持品  19/20

 パーソナル マップ  (72)
 フォーチュン ダイス  (483)
 豊穣神の永遠のボトル
 特殊樹脂製のタワーシールド  (5) 〈Dグレード〉 〈軽量級〉 敵の残骸から8入手 アヤトラ、ウェッジ、リザードに渡して3消費 

 丈夫で軽くて滑らかで愛が込められた高品質の スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スパイダーシルクの子供用胴衣 〈Eグレード〉 〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクの子供用手袋 〈Eグレード〉 〈超軽量級〉
 入)スパイダーシルクの子供用肌着 〈Eグレード〉 〈超軽量級〉
 入)ケタの干し肉  (38)
 入)他の袋4枚

 丁寧な作りの軽くて丈夫な スパイダーシルク製の背負い袋

 入)スマイリーキャベツ  (5)
 入)オミカン  (10)

 丈夫な革製の背負い袋

 入)陽光のカンテラ
 入)水筒 〈空〉
 入)丸い水筒 〈湧き水〉
 入)大きめの水筒 〈井戸水〉

 ヒール ストーン
 ヒール ストーン
 リフレッシュ ストーン (4)
 冒険者の松明  (32) 対ステルスノッカーに1消費
 火の付いた冒険者の松明
 麻製のロープ  (71)
 蜘蛛の歩みの秘薬  (9)
 蟻の力の秘薬  (9)
 蜂の一刺しの秘薬  (3)
 蝗の躍動の秘薬  (3)
 ケタ肉の塊  (24)
 月光鱒の切り身  (58)


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



 ようやく初の装備品ゲットです。フリチン小僧の全身を守れる透け透けの盾です。
 もうすっかり全裸主人公が板に付いてきましたね。
 狙ってやったわけじゃないんですけど……。






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