「はい!小瓶回復薬が10に毒消しが5つ、麻痺消しが5つっと、何時も通りの揃えておいたよ」
「マールさん、今、店に入って来たばかりなんだけど・・・」
道具屋『トールハンマー』武器屋の様な名称だが正真正銘の道具屋で、アズライトが冒険者として登録した頃より愛用している店である。
迷宮に潜る前に消耗品の補充をしようと考えこの店に来たのだが、扉を開け中に入った途端にカウンターの上に並べられる、自分の買おうとしていた品々、そして先程の言葉だ。
「いいのいいの、きにしない」
苦笑を漏らすしかないアズライトに向けて、そう言い放ったのはこの店の店主兼売り子である、マール=ディカーテであった。
一年以上通っている事もあり、アズライトとは顔馴染みで、この頃はこの様なやりとりから始まる事が多々ある。
金色の、腰よりも長い髪を後ろで縛りポニーテイルにし、緑色の瞳と少し日に焼けた肌、服装は上は白いシャツと青い上着を肘まで捲り上げている、下も上と同じ色の青いロングパンツ。
年の頃は20代前半と言う所であろう。
服が男物だからだろうだぼっとした、ゆとりある服装で仕事柄か化粧はなどはしている様には見えなかった。
「まぁ・・・いいけどね、でもさ、もし違ってたらどうするの?」
アズライトはその様な事を言いながら、カウンターの上に並べられた小瓶回復薬・毒消し・麻痺消し、つまり何時もファーストダンジョンに持って行く道具類の数を一応の為と確認する。
「あっはは、そんな事言ったって、君がこの時間帯に来て買う物なんて殆どがこの探索用のセットで、たまに食料を買うかどうかじゃない、というわけで300銀貨ね~」
そんな言葉にも、明るく笑顔のまま返答すると、手のひらを突き出しながら代金を要求する。
「仰るとおりです・・・それじゃあ、行ってきます」
事実を指摘され、適わないなぁという表情を浮かべた後、代金を手渡すと道具類を麻袋にしまい込み、まるで当たり前のように挨拶をすると道具屋を後にした、そう、まるで家から出掛けるように。
「はいよ、気を付けてね~」
それに当然のようにそう返すと、アズライトの背中へと手を振る。
そしてアズライトが出て行ったのを確認すると。
「さてと、弟君も仕事に行ったし、私もお仕事お仕事、っと~」
そう楽しそうに言いながら、奥の作業場へと姿を消していった。
マール=ディカーテ、勿論アズライトとの血縁関係など全くなく、知り合ったのも彼が冒険者となってからであったが、どうも、彼女の中ではアズライトは弟という位置付けにされているようだ。
スカンディアは迷宮『ニブルヘルム』を中心とし、円形に形作られた都市である。
バルドゥル大神殿もニブルヘルムの近くにあり、高名な貴族の住まいや、一流と言われる武器屋・防具屋・道具屋等も大神殿を中心として店を出している。
後は東西南北とエリア事に居住区や工房等と、大まかに分けられている。
そして北のエリアに、ファーストダンジョンは存在していた。
「やぁ、アズライト君、君を待っていたんだ」
慣れ親しんでしまったくすんだ銀色の入口を抜け、地下一階に続く階段とテレポーターがある場所へと向かう。
テレポーター、これはファーストダンジョン・ニブルヘルムともに存在が確認されている神の遺産で、文字通り冒険者を指定した階へと運んでくれる装置である。
しかし、指定できる階はその冒険者が行った事のある階で、これはパーティを組んでても適応される。
つまり、パーティの中の一人が20階まで進んでいたとしても、当人以外の冒険者は20階で降りることができない。なぜか、出入り口で外に出るのを弾かれてしまうのだ。
だからパーティを組む時には何階まで降りれるか聞くのが普通であるし、不揃いの場合は一番浅い階層より始める事となる。
尤も、アズライトはその目的と、孤児という事もあり冒険者との繋がりが無い為に、殆ど単独で潜っているのだが。
そして、アズライトに声を掛けてきた青年、銀髪の髪に細目の為に殆ど見る事はないが銀色の瞳、身長はアズライトよりも高く180cmぐらいであろう。
年齢は、アズライトの一つ上である18歳である。
雰囲気的には華奢だが、鉄の胸当てや、ガントレット等の防具に身を包んだその姿に非力さを感じる事は無い。
フリードリッヒ=ガラン=ガーディー
スカンディアでも有名な中堅どころの貴族、ガーディー家の次男である。
余談ではあるが、一般人はセカンドネームまでである、サードネームまである人は王族や貴族等の、高貴な生まれか、何らかの特別な地位に居ると見て間違いはない。
そしてこのフリードリッヒ、彼はあまり冒険者とは縁を作らぬアズライトにとっては珍しい、あまり頭の上がらない人物であった。
「お久しぶりですフリードさん、どうしたんですか?いまさらこんな場所に来て」
「うん、実は君に頼みたい事があってね」
いつものように柔和な顔を浮かべている彼が、自分の名の呼んだ事から自分に用があるのだろうと言う事は理解していた。
しかし、呼びつけたり、宿の方に尋ねるのではなく、ファーストダンジョンで待っていたと言う事を不思議に思った為だった。
「今、私の家にね、別の国よりこの地に移住してこられた方々がいてね、落ち着いた生活が出来るまで案内や説明も兼ねたお世話をしているんだが・・・」
フリードリッヒはそこまで言うと、自分の後ろに控えたまま、一言も喋っていない人物を紹介する。
「この都市に来たからには是非、冒険者として活躍したいと言ってね、見ての通り今日初めてファーストダンジョンに潜るんだが・・・」
「初めまして、ユウキ=ベルケルドと申します。よろしくお願いします」
どこか冷たい表情を浮かべているユウキは、そう挨拶すると頭を下げた。
髪も瞳も黒で、色白の肌、特徴は自分と同じながらも、髪には艶があり、肌も透明感があった、特徴が同じであろうともアズライトには無い華やかさがあり、その顔立ちも女性と間違えてもおかしくない程、中性的なものだった。
そして、装備品も自分と同じ皮でまとめられた防具を全身に身につけ、ブロードソードと思わしき剣を腰に下げている。
それらの装備は新品で傷一つ無くぴかぴかと光りを照り返していた。
フリードリッヒが言った「見ての通り」という言葉は、この装備の事を指している。
というのも、実は冒険者にはそのクラスに応じて装備品に制限があるのだ。
ノービスの装備できる防具は皮や布といった、一般的な物ばかりで金属を用いた防具等は装備できない。
武器も棍棒や木刀等の非金属品か、ナイフなどの簡易な短剣、そして神の慈悲かは解らないが例外としてブロードソードのみが剣でありながら装備できる様になっている。
戦士は軽鎧と武器全般、剣士は軽鎧と一部特殊な防具と剣全般、騎士は鎧全般と武器全般、と、クラスの難易度が上がるにつれて、装備できる品物の幅が広がっていく。
そしてこの装備制限、なにも販売制限とか、能力値的に無理の無いように制限されている訳ではなく、装備ができないのだ。
というのも、自分のクラスに合ってない物を使おうとすると拒絶されるのだ。
違和感がずっと付きまとい、静電気のような微弱な電気が絶えず流れるのである。
そのような物を装備して探索に集中できる訳もなく、敵に集中できる訳もない。
故に、装備品からクラスの推察が可能となっている。尤も騎士でも軽鎧を好んで着る者もいるし、戦士でありながら剣士が持つ様な武器を持つ者もいるので当然ながら絶対ではないのだが。
しかし、新品の皮の防具を身にまとっていれば初心者のノービスで殆ど間違いはない。
ちなみにアズライトの装備であるが、レザーメイル・皮のアームガード・皮のバンダナ・皮のレッグガード・ブロードソード、である。
この装備は、金貨一枚でセット販売されており、まず初心者が初めに買う物であると言われている。
もちろん多少の割引がされており、全てを単品で買い揃えると金貨一枚以上の出費となるのである。
武器がブロードソードと決まっているのは、他の物ならば簡単に用意できるし、なにより攻撃力が一番高いからだ。
「でね、アズライト君、すまないがこの子に君の戦い方を見せて欲しいんだ」
「えっ!?・・・でもフリードさんがいるなら、俺とパーティを組んでも意味なんて無いと思いますが・・・」
アズライトはそのフリードリッヒの発言に不思議そうにそう返答する。というのも、このフリードリッヒ、アズライトが初めてファーストダンジョンに来たときにはもう剣士にクラスチェンジしていたからだ。
改めてレベルを上げる為にファーストダンジョンに来た時、初めての探索でガチガチに緊張していたアズライトに声を掛け、右も左も解らないアズライトに基本的な事を教えてくれた人物、それがフリードリッヒなのである。
だからこそ頭があがらない人物でもあるわけだが。
しかし、なればこそ未だノービスで他人の事まで気が回せない自分よりも、剣士として十分経験を積んだであろうフリードリッヒが一緒にいる方がよっぽど効率が良いと思ったのだ。
「いや、パーティを組んで欲しいとか、そういう事ではなくてね?この子の面倒は僕がきちんと見るから、ただ純粋に、君の戦闘の仕方を見せて欲しいんだよ」
「はぁ・・・フリードさんがそこまで言うなら、別に構いませんけど」
その言葉を聞き、ほっとしたものの、自分の戦闘なんかを見せてどうするんだろうという考えが浮かぶ。
「そういう事なら、一階から行きますね」
「うん、申し訳ないけどお願いするね」
そう思いながらも、自分には解らないが何か考えがあっての事だろうと、考えるのを止め、そのまま一階への階段へと向かう。
フリードリッヒとユウキもその後ろを付いてくる、ちなみにユウキは二人の会話の最中は口を挟まず、観察するような目つきでずっとアズライトの事を伺っていた。
おそらくはフリードリッヒからなにか聞いてたか、ファーストマスターという呼び名を知っていたか、はたまた両方か・・・どのみち不当な評価を聞き、それを見極めようとしていたのだろうと考え、アズライトは別段何も声を掛けなかった。
「あ、一応の確認ですけど、リトルバグとブラッディバットが出て来ますが、毒消しと麻痺消しの用意は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だろうとは思うんだけど・・・自分だけじゃあないからね、用心の為にとそれぞれ20個づつ用意してるから、逆に分けられるぐらい持ってるよ」
「そうですか、解りました・・・余計な心配でしたね」
「いやいや、そういう把握も大事な事だからね、気にしなくて良いよ」
アズライトは、少しばかり申し訳なさそうにそう謝ったが、フリードリッヒは逆に機嫌を良くするとそう返す。
(ふんっ、最初から状態異常になる事を前提として考えるなんて、なんて弱気な・・・)
しかし、それを側で聞いていたユウキは、視線に少しばかりの呆れを含ませてアズライトを見つめていた。
そして、三人は地下へと続く階段へと進んでいく。
ここで、このファーストダンジョンに出現するモンスターについて説明しよう。
リトルバグ、ファーストダンジョンの1.2階に出てくるモンスターで、50cmぐらいの緑色の虫、体長が小さい為に気を付けていないと足元から忍び寄られる。
その噛み付き攻撃には毒性があり、毒消しを持っていないと探索はかなり厳しいものになり、最悪の場合死に至る・・・もっとも、一週間なにもしなかったら死ぬというぐらいの毒性なので、死ぬのは希ではある。
ファーストダンジョンにはこのリトルバグを始めとして4種類のモンスターが出てくる。
ブラッディバット、ファーストダンジョンの全階に出てくるモンスターで、こちらも50cmぐらいの血吸いコウモリである。
リトルバグとは逆に、天井に待機している為に上の方に注意を向けておかなくてはいけない、その牙には麻痺毒があり、麻痺を受けると普段よりも行動が鈍くなるので注意が必要なのだ。
しかし、こちらは感染力が弱く、10度噛み付かれて1度掛かるか掛からないかの為に過度の心配は必要ない、しかし、全階通して出現する為、麻痺消しを持たずに戦うのはかなり危険な行為だ。
コボルド、ファーストダンジョンの2.3.4階に出てくるモンスターで、犬の顔を持つ二足歩行のモンスター、身長も人と変わらず160~180cmぐらいである。
毒や麻痺はないが、人型モンスターの為、リトルバグやブラッディバッドよりも高い攻撃力を持つ。
コブリン、ファーストダンジョンの3.4.5階にでてくるモンスターで、緑色の肌、人型ではあるが小柄で100~130cmぐらいの身長である。
手には棍棒を持ちコボルドと同じように高い攻撃力を持つ、コボルドとの違いは体力の多さである、コボルドよりも体力が高いために倒すのに時間がかかってしまう。
尚、『ゴブリン』でなく『コブリン』である、姿形はゴブリンと同じなのだが、こちらの方が弱い為か、それとも若いのか肌の色がゴブリンよりも淡く、その身長も若干だが低いと言われている。
以上がファーストダンジョンのモンスターである、人型モンスターに上空からの敵、そして下方向からの敵、と、モンスターの種類は少ないものの前後左右に上下と、冒険者は全方位に注意を向けていなければならず、まさに冒険者としての基本を鍛える為のダンジョンとなっている。
後書き
どうも、K・Yです。
・・・迷宮部分、書けたけれども潜ってないわ敵との遭遇もしてないわ・・・
ま、まぁ、ようやく他の冒険者とかも出ましたし、次からですよ次から!!うんうん!!
しかし、ようやく登場ユウキ君、前読んでた方は色々思う所・・・思う所?、うん、とりあえず、新たに読んでくれてる人もいるみたいなので今更ながらですが、ネタバレとか、先の展開とか控えめでお願いします。
控えめと言ってるのは、後書き読んでなかったり、つい書いてしまったりとかがあると思うからです。
荒れる要因になってもいやですからねぇw