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No.1501の一覧
[0] ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/23 01:02)
[1] Re:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 01:22)
[2] Re[2]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 23:42)
[3] Re[3]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 01:56)
[4] Re[4]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 23:32)
[5] Re[5]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/27 18:55)
[6] Re[6]:ヴァルチャー[喫著無](2007/09/28 21:34)
[7] Re[7]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/29 17:17)
[8] Re[8]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/30 21:57)
[9] Re[9]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/02 23:27)
[10] Re[10]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/04 19:01)
[11] Re[11]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/05 23:41)
[12] Re[12]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/06 21:23)
[13] Re[13]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/08 00:21)
[14] 番外 ヤナギ[ポンチ](2010/06/08 00:04)
[15] 番外 ツバキ[ポンチ](2010/06/09 21:00)
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[1501] Re[3]:ヴァルチャー
Name: ポンチ◆ebd5b07d ID:440294e0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/09/26 01:56
※トリップを変更しました




 阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられている。
 中心は、黒の狂戦士。
 華麗に舞う剣と、血飛沫。
 はじめて、積極的に人を害した。






第四話 アホだろお前






 大穴から這い出した一人と一匹に、近くにいた誰かが悲鳴を上げた。
 このペアは、見ようによっては地獄から這い出した悪魔に見えなくもない組み合わせだった。
 食鬼と、先日投獄されたはずの狂戦士。
 真昼に這い出した彼らは、すぐに近くの城門に向かって駆け出した。
 人々の悲鳴で、衛兵がかけつけてくる。
 アギラがどうするか尋ねようとした時には、最初の犠牲者が出ていた。ユウが両手に持った剣で、衛兵の首を切り落としていた。
「突っ切るよ」
「わ、分かった」
 分かっていたことだが、恐怖があった。暫時立ち止まり、突き込まれた槍に体が勝手に反応して、衛兵の額に触手を突き刺していた。
 スキル『吸血』が、本能的に発動する。壁を登った疲労が瞬く間に癒えていく。
 ああ、これか。これが人の味か。今までのものよりも美味い。
 狂戦士ユウの動きは人間を遥かに凌駕していた。ソロプレイで、唯一ドラゴンを倒せる可能性のある職業タイプだ。第一上級職の中で、剣聖と二択で選べる狂戦士は、最もリスキーな攻撃特化タイプである。
 正確に急所を突いて一撃で倒されていく衛兵たち。いつしか、衛兵たちもその手を止めていた。
「いこっ」
「了解」
 体を犬の形に変えて走る。この形で、なんとかユウの速さについていける。悲鳴、前を歩く者たちを弾き飛ばして進む。ユウに躊躇は無い。
「ここを抜けたら東の街道だ。こっちでいいのか」
「ここじゃなかったらどこでもいいって」
 門の衛兵はユウが片付けた。通り過ぎざまに、適当に切り裂いたようだが、二人とも重傷を負っている。あれでは助かるまい。
 アギラは触手でユウの肩をポンと叩いた。触手で目的を指差すと、彼女も気づいたようだ。
 貴族のものらしい装飾つきの馬車だ。馬が三頭も使われている。御者が逃げようと鞭をしならせた所に飛び込んで、そのまま走り出す。
 適当に馬を蹴ると、最高速度で走り出した。
「アハハ、楽できたねえ」
「しばらくは追いつけないだろ。それに、外国にいったらあいつらもそこまでは来ないだろうしな」
 監獄で聞いた所によると、ハジュラはそこまで熱心な国ではない。何かお宝でも盗んでいれば別だが、そんなものは何一つ持っていない。
「そういえば、ユウは馬とかの技能持ってるのか?」
「アギラさん持ってんじゃないの?」
「ハハハ、そんなの取れる訳ないだろ」
「ほっといたら疲れて止まるんじゃない? ま、適当にいこうよ」
「そうだな」
 楽天的とは言えない。現実を遠くしないと、血の匂いに余計なことを考える。闘技場の英雄は、二ヶ月でそれを理解している。
 しばらく馬車は暴走していたが、道を外れて森に突っ込む手前で、馬車の連結をユウが破壊した。それはそれで馬車は横転するはずだが、飛び降りて馬車を自力で止めたのもユウだった。
「凄いな」
「ちょっとは手伝ってよ。アギラさん、いつもこういう時手伝ってくれないよ」
「次からはちゃんとするよ」
 日本でも、それがちゃんとできていなかったな。
「お金はあって困らないしね」
 言い訳めいたことを言って、ユウは馬車のドアを叩き壊した。物色するつもりだ。
「金はわりと持ってるんだが、あって困るもんでもないか」
 先に馬車に入ったユウから「ああーもうっ」という声が聞こえた。
「あーあ、これは最悪だ」
「この馬車選んだのアギラさんでしょ。どうすんのよ」
「こういうの苦手なんだよなあ」
「あたしも」
 暴走馬車に揺られて気を失っている身分の高いであろう少女と、お付きの者らしい侍女が短剣を構えてブルブルと震えている。
「よ、寄るな化物め」
 否定はできない。見た目でいうなら確実に悪魔超人コンビだ。黒の狂戦士とイーティングホラー、普通は気絶している所である。
「いや、まあ危害を加える気は無い。あんたたちは街道に出てどこへなりともいってくれ。街道はあっちに歩いたらある」
「アギラさん、口封じは?」
 お醤油取って、という軽さでユウは言った。不安なのだな、殺さないと。今まで、ユウは裏切られている。特に身分の高い連中にだ。
「よせよ。恨みは充分買っただろ」
「でも、絶対あたしたちに敵がくるよ」
「殺す必要なんて無い」
 納得はしていない様子だが、ユウはそれ以上言わなかった。
「ユウ、あんまり殺すなよ。味方はいないんだ」
「でも、敵になるヤツなんていないよ」
「そういう意味じゃねぇよ。お前、一人でどうするつもりだ」
「大丈夫裏切るヤツはみんなみんな」
 そこまで言ってから、剣を抜いたユウは馬車に叩きつけた。
「悪い、そんなつもりじゃなかった。とにかく、余計な敵は作らない方がいい」
「分かったよ。いい人だね、アギラさん」
 ユウは背を向けて、近くの木の下に座り込んだ。
「ま、そういうことで、特に危害は加えない。街に戻るなりしてくれ、悪かったな」
 侍女は未だ震えていたが、ぺたんと座り込んで大きく息を吐き出した。
 立ち去ろうと思った時、侍女が口を開いた。
「待って下さい。ここらは賊も多いのです、何卒、街道までお送り下さい」
「悪いが、相棒があの調子だ。よした方がいい」
「いえ、私にはお嬢様を送り届けねばならない義務がございます。報酬はお支払い致しますので、何卒」
 この辺りに賊が出る、というのは嘘ではないだろう。ハジュラの都に潜伏していた数日で、街に向かう行商たちは例外なく傭兵をつけていた。普通は、馬車に入った時点で傭兵も待機しているものだが、あの時は傭兵の姿はなかった。
「傭兵は雇わなかったのか?」
「言うに言えぬ事情がございます。報酬で裏切る傭兵には頼むことができませんでした。この馬車も、とある筋から手に入れた存在しない貴族のものです」
 どういうつもりだろう。侍女はぶっちゃけている。切羽詰った事情があるとして、こんな化物にまで頼るのは普通ではありえない。まさか、震えていたのも演技だろうか。
「何よ、イベント発生?」
 ユウが割り込んできた。機嫌は直ったのだろけうか。いや、直ってないな。
「ま、そんなとこだ。この人たちを目的地まで護衛する。やるか?」
「45レベルには軽すぎる気がするけどね」
「35だけど、新鮮だぞ俺は」
「でも、裏切ったら」
「分かってる。どうせ、あそこから逃げるのが目的だったんだ。やっても損は無いだろ」
 アギラはやる気になっている自分に疑問を感じた。よくある話の導入みたいな状況に流されてしまったのだろうか。いや、多分、ユウと二人でいる自信が無いせいだ。何か目に見える目的がないと、これ以上は一緒にいるとこができない。そう感じている。
「そうだね、別に悪くないかな」
 怯えている侍女だが、気を失ったお嬢様を介抱しながら、安堵の息も漏らしていた。
「名前は、なんて呼べばいい? 俺はアギラ」
「あ、あたしはユウね」
「ま、まさか、闘技場の優勝者」
「それより名前」
 侍女はたたずまいを直して、咳払いで仕切りなおした。
「お嬢様は、ミレアネイス家の四女、マルガレーテ・ナハシュ・イル・ミレアネイス様にございます。私は侍女のアンジェ・マルート。ロイス伯爵領まで送り届けて頂きたいのです」
 聞いたことがあるような。
「アギラさん、たしかロイスって神聖属性のとこよ。いったら不味いんじゃない?」
「ゲームとは違うだろ。それに送るだけだ。そこからは、またどこかに行けば問題ないんじゃないか」
「そうだね、目的もないし」
 こうして気を失ったマルガレーテお嬢様をユウが背負って、一行は歩き始めることになった。
 お嬢様が目を覚ますまでは、平穏な道のりだったと言える。
 夕暮れ時に目を覚ましたお嬢様は、盛大なパニックを起こした。我慢しそうにないユウをアギラがなだめて、お嬢様はアンジェがなだめた。
「知らぬこととはいえ、護衛を引き受けて下さったあなた方に失礼を致しました」
 焚き火を囲んで、落ち着いたお嬢様は貴族そのものの洗練された口調で言った。と、言っても本物の貴族など見るのは初めてなのだけれど。
「ま、いいけどね」
 ユウは答えて、兜を脱いだ。兜というよりは、バイザーつきの未来的なヘルメットなのだが、それは二人に驚きをもって迎えられた。
「に、人間だったのですか」
 アンジェが呆然と言う。あの戦いぶりを見ていたら、こういう形の悪魔だと思うのも無理は無い。
「うん、多分ね」
「俺は見た通りだ」
 狩りの風景を見ていた二人が神に祈っていたのは見ている。四本足にも二本足にもなれて触手を出す化物は人間には見えまい。
 イノシシに似た動物を焼きながら、ユウを含めた女三人が男にはついていけない跳び方をするよく分からない話で盛り上がっている。
「見回りをしてくる」
 この分だと、斬り殺すようなことはないだろう。顔つきも、監獄で暮らしていた時に戻っている。ハジュラの街では気負っていた所もあったのだろう。
 この辺りもまだ熱帯の空気だが、普通の木しかないし、妙な生物はいない。邪神神殿と比べると、平和すぎるくらいだ。
 耳を作り出して、音を聞く。この体の使い方は自然と理解できた。単一で生きていく生物に必要なものは全て持っている。
「捜せ」
 人の声だ。
 四足歩行で駆ける。
 なぜか、ユウに知らせようとは思わなかった。これ以上殺させるのはよくない気がした。それに、人の血を吸い上げるのも、『採食』するのも見られたくなかった。
 目を作り出す。それは、梟の瞳。夜目の効く瞳。
 総勢五人。見た目は狩人だが、手には狩りに使いそうにない武器を持っている。小ぶりのハンマーに槍。安全で、確実に殺す気の装備だ。
 先頭の男に飛び掛った。相手は最初狼とでも思っただろう。それでも、致命的だ。喉を食いちぎり、触手を伸ばす、二人目は脳をかき回されて悲鳴を上げる。
「ば、化物だっ」
「任せろ」
 まだ少年と言っていい声が聞こえた。
 本能的に、その気配に距離を取った。
 チリチリと、体の先端が焼け付くような感触。
「化物め、シアリス神の加護に震えるか」
 少年、見誤っていた。総勢六人、一人だけ気配がつかめなかった。その手に薄青く輝く剣を握った騎士である。
 神聖属性攻撃で200パーセントダメージ。ゲームの中では数字だったが、ここでは『あれに斬られると治らない』と本能が告げている。それと同時に、あれを滅ぼすべきものだと直感もできていた。
 神聖属性の騎士の肉を想像すると、意識に激しい快楽が走る。
「やる気か、化物め。みんなは目的を果たせ。あいつはぼくがやる」
「なめんなよぉ、ガキがぁっ」
「な、喋った」
 土を投げた。
 目に土が入ったのだろう、隙が出来た。こんなのは街のケンカでよくやった。大体は、逃げるふりをしてゴミを撒いてひるんだ所を殴りにいくのが常だったけれど、土というのも悪くない。
 あの剣さえなければ、こんな人間には負けない。剣を握る右手を触手で刺し貫く。篭手と鎧の隙間を貫かれた少年は、叫んで剣を取り落とした。
 体当たりで組み敷くと、その瞳を見つめる。
「やめろおっ」
「ハハハ、俺がそう言ってもやめないだろ」
 我慢できん、食おう。
 ふと、ゲームで最後のイベントになった、バルガリエル殺害を思い出した。彼はあの女騎士、クシナダ令嬢を殺さなかった。
「お前、なんで俺を殺そうとした」
「ぼくの仲間を殺しただろうっ」
「俺の仲間を殺そうとしていたからだ」
「ミレアネイス家は反逆者だ。その上、お前のような悪魔を使役しているっ」
 ああ、そういうことか。中立のハジュラに逃げていたのだな。
「お前は人質だ」
 頚動脈を締めると、簡単に意識が落ちた。柔道をやっていてよかった。
 どうやって引きずろうかと考えていると、血塗れのユウがやってきた。
「捜したよ、あ、ここで半分やってくれてたんだ」
「ああ、こいつが神聖属性の剣を持っててな、ちょっと手間取った」
「これだね」
 細身の片手剣は輝きをなくして転がっていた。ユウは何度か振ってから、首をかしげた。
「これさ、多分ゲームの剣だよ」
「どういうことだ」
 ユウはてきぱきと騎士の鎧を剥がして、傭兵の死体から拝借したロープで縛り上げると、肩にかついだ。
「うん、あたしの剣もゲームからのだけど、なんていうかここの剣とかと感触が違うの。刃こぼれもしないし、なんか雰囲気っていうかさ」
 アギラには『斬られたら治らない』という感覚が、ユウには『違った武器』として認識されるのかもしれない。
「この世界の武器でも、技能は可能だろ?」
「うん、だけど、分かるよ。これだけマーカーのついてる感じっていうのかな」
「そうか、……誰かの持ち物がこいつに流れたか」
「あっ、アレだって鍛冶モンク」
「ああ、なるほど」
 ヴァルチャー・オンラインでのアイテム精製職だ。カザミのようなポーションではなく、武器や防具である。鍛冶僧という名前だったが、モンク技能を持っているため鍛冶モンクと呼ばれることが多かった。
「あたしの属性だとこの剣は使えないし、正直レベル10クラスの剣だからいらないけど、こっちに来てる人の手がかりにはなるね」
「ま、こいつが持ってるってことは敵だろうけどな」
 ふと、口をついた。
「えー、でも鍛冶モンクって商売の人ばっかりじゃない。多分、そんな神様に捧げるようなつもりでやったんじゃないと思うよ」
 神聖属性に対する嫌悪から、見えなくなっていた。それもそうだ。それに、日本から来た者がこんな世界の野蛮な宗教になびくとは思えない。
「お嬢様たちは無事だったか?」
「うん、すぐ片付けたから。ザコ敵だったしね」
 ああ、ユウはこいつらを『ザコ敵』として殺して、我慢しているのだな。
「なあ、あんまり無理するなよ」
「うん、天国にはいけないね。でも、これが正しいんだよ」
 兜を外したままのユウは、頬についた血飛沫をそのままににっこりと笑った。彼女の二ヶ月は、闘技場の奴隷だった。きっと、一生消えないだろう。
「お爺ちゃんとかお婆ちゃんのしてた戦争ってこんな感じだったのかな」
「さあ、どうだろう」
 生きるために戦う。異形の体に依存しているアギラには、ユウの感じる汚れは理解できない。
「アギラさんさあ、人間だったら、わたし抱かれてたかも」
「アホだろお前」
「ちょ、ひどくない?」
 今、少しずつ理解できてきた。アギラはユウが必要になってきた、友達として、仲間として。今になって、二ヶ月一緒にいて、ようやく仲間だと思えた。多分、それはユウも同じだったのかもしれない。
 意気揚々と引き上げると、アンジェラとマルガレーテお嬢様は抱き合って、死体を見ないようにしている所だった。
「あ、こいつ人質」
 手首の傷はそのままだが、取り立てて命に関わる傷ではない。何かあったら困るということで、簡単に応急処置はしてある。化膿しなかったらなんとかなるだろう。
 縛り上げた騎士を乱暴に地面に降ろしたユウは、マルガレーテに詰め寄った。
「あのさあ、マルちゃん。こいつらアンタのこと殺しに来て、それで死んだのよ。ちゃんと見ないとダメ。だって、マルちゃんもこっち側なんだから、殺したって理解しないとだめだよ」
 最初、何を言われたか分からなかったのだろう。それから、少しの間があってから、マルガレーテは嗚咽を漏らした。
「な、お嬢様にこのような無頼のことなど」
「ダメだって。こいつら、そんなに弱い連中じゃなかったよ。次はもっとくるよ。人質は取ったけど、あんまり意味ないかもしれない」
 この世界にくる前も、この少女は強かったのだろう。冷静だ。
「強いな、ユウちゃんは」
「ストリート系だったもん」
「俺のころはチーマーとかが流行ってたな」
「アハハ、オッサンだね」
 今時はギャングだったはずだ。
「こいつら馬で来てると思うんだが、馬は乗れるか? ああ、俺は無理だぞ」
 ちらりと三人を見ると、アンジェラは大丈夫なようだ。
「当然あたしも無理。彼は騎士だからいいだろうけど、うん、あたしがこの坊ちゃんの後ろに乗るから、アギラさんは犬で走ってよ」
「多分、それが一番だな。途中で馬車があったらジャックするか」
「話あうなぁ、あたしもそれ考えてた」
 気がついた騎士は喚いたが、視線を向けた方向があったのでその辺りを捜すと馬が見つかった。アンジェラは馬にも慣れているようで、走りも速い。
 街道に出たのは夜明け前。目当ての馬車は見つかり、金を渡してジャックした。殺すのが一番なのだろうが、ユウも口を出さなかった。
 馬車を森の近くに止めて数時間の仮眠の後で、アンジェラの手で馬車が走り出す。
 街道を素直に行くというの正解だったらしく、特にトラブルもなく進んでいく。マントをつけて兜を外したユウも御者の手ほどきを受けて昼間は走らせることになった。
 体力という意味で、寝ずに走らせるのはキツかったが、真夜中はアギラが御者をしたり、馬にも慣れ始めたころには、ロイス伯爵領も目前に迫っていた。
 アンジェラが御者をして、幌馬車の中には転がされたままの騎士とお嬢様、ユウ、アギラでたわいもない話をしている。
「騎士さま、わたくしは人間です。信じられないのですか?」
 お嬢様は、このように、騎士に語りかけるが、騎士は返事をしない。ちゃんと傷も手当てしてやっているというのに酷いガキだ。
「ぼくは、お前たちの敵だぞ」
 唐突に、騎士が言った。
「あのさあ、坊ちゃん。人質に取ってるのよ。それに、マルガレーテお嬢様のさじ加減で決まるんだし、無茶言わない方がいいよ」
「違う、お前たちが聞くほどの悪人ではないというのには気づいた。しかし、僕はシアリス正教騎士の一人として、ミレアネイス家には賛同できない」
「お父様は道を誤りました。負けた者が言葉を持たぬのは貴族の常でしょう」
 お嬢様も随分と言う。
「ぼくを殺せ。生き恥はさらしたくない」
「その前に、剣を作ったヤツのことを教えろ。俺たちに関わりのある者かもしれない」
「任務にあたって配備されたものだ。詳しくは知らないが、奇跡を行う旅の僧が神より賜ったと聞いてはいる」
「それはどこの話だ」
「シアリス教国だ」
 敵地のど真ん中、ということになる。ユウも外見とこの行動では行けそうにない場所だ。
「今回は無理っぽいね。多分、あたしもそこに行くまでに悪魔にされちゃいそう」
「ま、俺は無理だな」
 押し黙っていたお嬢様が口を開く。
「アギラさま、ユウさま、今までありがとうございます。お二方がいてくれなかったら、ここまでたどり着くことはできなかったでしょう」
「馬車を乗っ取ったのはあたしたちだし、そんなこと言う必要はないよ」
「いえ、お助け頂いたのは事実ですわ。よければ、わたくしと共に来られませんか。ロイス伯爵領は未だ妖精族の住まう土地です。きっと、あなた方も」
 苦笑を浮かべてユウはアギラと視線を交わした。
「アギラさん、あたしは少し休むのはいいと思うけど、次は北東のガザの都に行きたいんだけど、どう?」
 ガザの都、機械の大国、古代文明の恩恵による機人の住まう土地。ゲームではそうだったが、現実はどうなのだろう。
「いけませんわ、あの国は内戦が起こっております。何かお礼がしたいのです、ロイス伯爵ならば、あなた方を」
「お礼はもらうけど、そこからは自分で決めるよ。お嬢様、お仕事で守ったの。あたしもアギラさんも、基本は非道なんだからさ」
「おいおい、俺はいつも大人しいだろ」
「そう? 結構ひどいと思うけど」
 マルガレーテお嬢様は力なく微笑んで、頷いた。
「狂戦士、お前たちは何者なんだ?」
 騎士は、年若い少年は気づいていた。アギラとユウが、マルガレーテのために離れようとしているのを。自身のためでもあるが、そこにあるのは彼らが乱を呼ぶ者だという自覚だ。使役された者はそんなことはしない。
「坊ちゃん、俺たちは見た通りだ。お前を殺さなかったのも気まぐれだ。それに、お前らの権力闘争にも興味はない」
 彼らは気づいていない。
 ハジュラのホドリ監獄からの脱獄の持つ意味を。西の大国レミンディアの反逆者を助けたことを。レミンディアは宰相によって乗っ取られた古い歴史を持つ大国である。ミレアネイス家は、忠臣として名高い侯爵家だ。
 ユウの助けたクシナダ侯爵令嬢、彼女こそ宰相に味方した逆臣クシナダ侯爵の長女である。そして、その婚約者はレミンディア国第四王子、王を討ち、玉座に登らされることになる傀儡であった。
「ロイス伯爵領に入りましたよ、お嬢様っ」
 アンジェラの明るい声が響いた。


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