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No.1501の一覧
[0] ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/23 01:02)
[1] Re:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 01:22)
[2] Re[2]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/24 23:42)
[3] Re[3]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 01:56)
[4] Re[4]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/26 23:32)
[5] Re[5]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/27 18:55)
[6] Re[6]:ヴァルチャー[喫著無](2007/09/28 21:34)
[7] Re[7]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/29 17:17)
[8] Re[8]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/09/30 21:57)
[9] Re[9]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/02 23:27)
[10] Re[10]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/04 19:01)
[11] Re[11]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/05 23:41)
[12] Re[12]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/06 21:23)
[13] Re[13]:ヴァルチャー[ポンチ](2007/10/08 00:21)
[14] 番外 ヤナギ[ポンチ](2010/06/08 00:04)
[15] 番外 ツバキ[ポンチ](2010/06/09 21:00)
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[1501] Re[11]:ヴァルチャー
Name: ポンチ◆ebd5b07d ID:440294e0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/10/05 23:41
 ならず者たちが砦に集まる。
 一つの都市を作るのにどれくらいかかるだろう。弱いヤツが悪い、ということをすんなりと受け入れてしまったのは、ずっとずっと昔。ここに来る前のことだ。






第十二話 ツンデレは魔界語だから気にするな






 アギラの帰還より二ヶ月が過ぎた。
 子供たちは初めての外と、亜人たちにすんなりと馴染んだ。悪徳に満ちたバロイ砦の中で、健やかに新たな暮らしに適応を始めている。
 ホドリ監獄には、当然ながら犯罪者しかいない。例外もあるが、そこで生まれ育った子供たちは、裏切り者の末路も、ファミリーの契りも理解していた。彼らは突然広がった世界にも、同じようなルールがあることを感じ取っている。
 驚くべき速度で放り投げられた薪を、ユウが細切れにする。それだけで、砦に集まっている隊商や流れ者たちからため息が出る。基本的に鎧は外さないが、ヘルメットは外しているユウ。狂戦士の素顔を一目見たいと思っている人々は、こぞって彼女を見にくる。そして、邪神の使徒とされるイーティングホラーに、シアリスの伝説にある魔神ミデも、ある意味で見世物だった。
 隊商は日に日に増えている。露店の場所代以外に一切の税が無いここでの商売は、どのような商人から見ても美味しい。強盗の類は亜人に知らせば捕まえてくれる。さらに、勝手に住み着いてしまったならず者たちも、強盗や詐欺師の類を見つけ出して盗品を回収するという新たな仕事を作り出していた。
 午前の涼しい風の中で、ドラが鳴り響いた。
「はーい、ここに住みたいヤツ、あっちに住居作ったから、抽選するから集まって」
 山の斜面、砦周辺で新たにゴブリンたちの作った粗末な居住区域の抽選に、人々が集まる。土地だけ買って、そこに自分で建てようという者もいれば、ただ単にここに流れ着いた者もいる。
 ユウが抽選開場で、木製のクジを一人一人ひかせている。狂戦士と握手したがる者もたくさんいる。ユウが行うと、荒くれ者も素直に従うのだ。
 クジを引くのは無料だ。当たりをひいて金が無いものは、ここで当たりクジを売る。それだけで金になった。
 グレイとスレルのジ・クが、隣で地図に記しをつけている。ただの荒地に小屋を置いただけ、井戸は元々猟師の使っていた粗末なもの、そんな土地だというのに、当たりを引いたものは次々に金を置いていく。金以外の品物も多いが、グレイが首を縦に振ればそれで成立だ。
 砦近くには、人買いから娼婦館経営に転職した男の店が繁盛している。同様に、密造酒や麻薬、情報を売る店もできていた。
 この金で、デュク大河に面した形の城壁を作ろうとしている。実際、税金とその他の収益で、アーサーはすでにガザの建設会社に前金を支払っていた。
 アギラとアーサーは、測量屋と図面屋と話をつけている最中である。高さはそこそこで、できるだけ安価に。という虫のいい話に、土建屋の代表者は渋い顔だ。
「資材の手配もありますし、半年はかかりますよ」
「三ヶ月でできないの?」
「できやしませんよ。土方の手配はできますがね、こっちだってそうそう簡単にはいきません。ガザから職人を手配するのにも片道で二週間かかるんですよ」
 代表者、ウエンと名乗った両目を機械に変えた男は、じろり、とその一つ目の倍率を変えて当たりを見回している。
「その目、ガザで作れるのか」
 ガザは唯一シアリス正教を受け入れていない機械と砂漠の大国である。古代遺跡から発掘される機械を使う街、というゲームの設定と変わらない魔窟である。彼らは、あまり国の外に出かけたくないようだが、バロイ砦からの要請には快く答えた。交渉に向かった忍者たちも驚いた様子であったところからするに、普通はこのようなことはないようだ。
「太守様から、アーサー王子とアギラ様には言っていいと許可を頂いています。秘密ですよ、帝国の遺産と、太守様の許可があれば、これは取り付けて頂けるのですが、作るのは無理です」
 ウエンは自分から細作であることを告白した。アーサーも意外な顔だ。
「あのさ、そんなバラしていいの」
「王子、あなただって、我々とコンタクトを取ったのですから、そんなのご承知でしょう。ま、タイミングが早くなりましたが、ガザはバロイ砦との同盟を望んでいます。もちろん、友好的なね」
 ガザは砂漠の国だ。輸入が不可欠な国だが、今までそれは周辺区域の地元住民たちとロイス伯との間で秘密裏に行われてきたものだ。
「ガルナンディアのマーケットとして利用したい訳ね。こんなに商人が集まったのもガザの手が入ってたってことかしら」
「その通りです。わたしも色々と苦労しました。シアリスとおおっぴらに敵対できませんし、クチナワ代官の時は税やらリベートやら、アホほど搾られるだけでどうにもなりませんでしたしね」
 ひどい言われ様だが、この砦をもっと有能な人物が管理していたなら、城砦都市として繁栄してたのは自明の理だ。交通の要所であり、ロイス伯爵領は穀物の産地だ。発展を拒否してまで、クシナダ侯爵家にだけ富を送り続けた結果である。
「何を望んでるかで変わるんだけど、同盟は全然オーケーよ」
「ま、予想していた反応です。大きな声では言えませんが、竜種との敵対とシアリスへの敵対、それから我々ガザの叡知の探求に協力して頂くのが条件です。見返りは、城壁の代金をあの程度のお安い金額で受けましょう。ある程度の援助も」
「大きい声で言ってんじゃねえか。その程度のことでそんなことをするはずがない」
 アギラが口を挟んだ。シキザとは違うタイプの頭の回るイヤミなヤツ、ウエンに興味が湧いた。
「ロイス伯を打ち倒して頂きたい。妖精族との戦いというのは禁忌に触れていましてね。あなた方に伯爵領を支配してもらうこと、それが条件ですよ」
「ちょっと高いわよ」
「だからこそ、その程度の金額で城壁も作るし援助もする、ってことですよ」
 予期される戦いは無数にある。避けられないものの一つに、ロイス伯とのものがあった。
「妖精王に竜に邪妖精の女王、それから古代の遺産に、あとは邪神神殿、アギラとミデを見ちゃったから信じるけど、シアリスを含めて根の深い話よね」
「はい、三百年前に均衡を崩した事件がありました。そこからですよ、たかが三百年の歴史しかもたないシアリスがあれだけの力を得てしまったのも。レミンディア王家にも伝わっているはずですよ」
「王位についたらその秘密も分かるんだと思うけど、今は知らないわ」
「おや、素直ですね」
「謎かけは後で解くわ。今は、そんなこと気にしてる場合じゃないもの」
「結構、では楽しみにしていますよ。こちらとしても、高い買い物なんですから」
「よく言うぜ。城壁と、それからお前の建築技術の一部もつけろよ。ゴブリン式だけじゃ限界があってな」
 アギラの要求に、ウエンは笑みを見せた。
 数日間で測量と図面を書き上げたガザの細作は、帰路についた。
 アーサーとアギラは、なぜか共にいることが多い。アーサーは非常に優秀で、数々の貴族を手玉にとって金品を詐取したグレイをもって天才と言わしめる男だ。最近のユウはグレイと共に行動しており、マーケットの管理に忙しい。アギラとアーサーが様々な税だとか治水だとかの問題に対処している。
 新たな井戸を掘っている現場で、忙しく働く亜人と人間を見ている。
「不思議ね。こんな風に人間と亜人が共存できてる。それに、あんたたちもアタシに素直についてくるしさ」
「アーサーは王位を取ったらいなくなるだろ」
「うん、そうね。アタシはここからいなくなる。ちゃんと対等な付き合いをするつもりよ」
「分かってるさ。仲間だろ」
「そうね」
「竜と戦うってことは、シアリスは敵ってことだな」
 生神シアリスは、千年前に戦火の渦にあったガルナンディア大陸に現れ、竜の脅威を沈め幾多の奇跡をおこし、神を名乗る男は伝説となった。そして、三百年前から土着の神を破壊しながら宣教に乗り出した。もはや、真偽のほどは分からないが、何百年か前から竜がシアリス正教の危機を救ってきた。最後に現れたのは三百年前だという。
「そうね、竜なんてただのケモノだと思うけど」
「いや、あれはケモノじゃない。竜は、強大で生物の枠から外れたモノだ。多分、本当にいる」
「ミデから得た知識ってヤツね。あんたが言うと真実味があるわ」
「邪妖精の女王も、何か関係してる。シアリスが辺境を支配しようとしてるのは、そういう話に関係があるのかもしれない」
「……ガザの扱いに注意しろってことでしょ。それから、ロイス伯爵を守護する妖精にも」
「邪妖精の女王に、もう一度会う。どうせロイス伯とぶつかるなら会わないといけないしな」
「一人で行く気ね」
「ああ、アレが何なのかも知りたい」
「死にそうになったら逃げなさいよ」
 止めるのはやめた。アギラが、自ら目的を語ること自体がアーサーには意外で、あの遺跡で何かあったとは思っていたが、彼がここまで変わるものだと思っていなかった。
 ユウも少しずつ変わりはじめている。
 しばらくして、アギラと別れたアーサーは、不意に砦を振り返った。
「いつか、敵になったりするのかしら」
 王位は取り戻せる。と確信している。根拠は何も無い。不安なのは、彼らと敵になること、ただそれだけだ。




 邪妖精に頼むと、あっさりとお目通りは許された。
 誰にも告げずに出かけたアギラは、邪妖精の案内で霧の道を進み、以前とは別の通路から女王の洞窟へ進んでいた。
 まとわりつくような、重く湿った霧に包まれながら、以前とは別の感覚がある。圧倒的な恐怖と、不思議な懐かしさを感じた。
 細い通路を何度もくぐりぬけて、ガルムの形で女王の前に立った。薄いピンク色の膜の無い、女王を直視する場所だった。
 広大な鍾乳洞のホールで、地下水に半身をつけた女王は、ゆったりとそこに鎮座していた。
「久しぶりじゃな、アギラ」
「はい、お久しぶりです」
 女王の外見は、アギラには上手く理解できなかった。ただ、大きくて恐ろしいものだが、よく分からないのだ。ちゃんと見えない。
「わらわに会いとうなったか?」
「その通りです。教えて頂きたいことがあります」
「よい、許そう」
 美しい声。これは一体なんなのだろう。
「竜は、そして俺はどういうものなのですか」
「異邦人アギラよ。お前の器であるイーティングホラーは全てを知っている。心配はいらぬ。生き残りさえすれば、答えは見出せるであろう。もう一つ、あるのじゃろう」
 邪妖精と女王はつながっている。邪妖精の一つ一つが目であり耳であり、そして小さな分身でもある。
「妖精王は現世に被さる妖精郷に篭もっておる。加護と言っても、眷族を貸す程度であろう。打ち倒すだけでよい。ホホホ、わらわと邪神は共に竜と戦った仲じゃ。わらわは戯れに現世に残ったがの。邪神の子よ、決められた道などは無い。犯し殺し破壊し尽すのも、増やし守り作り出すのもまた、アギラの自由じゃ。見守るくらいはしてやろう」
「では、この体は」
「柄にもないことを言うものではないよ。自らを縛るのは己だけじゃ。望むままにやるがいい。結果として全てをなくすのも、ただそれだけのこと」
「ありがとうごさいます」
「ホホホ、今度はわらわをちゃんと見れるようになってから来るがよい」
 謁見は終わる。
 アレの記憶が体の奥にある。




 正午、アーサー王子と、急遽作り上げた騎士団はロイス伯爵領に入っている。
 荷車に乗せられたアギラとユウ、ガファル、ガロル・オンの剣士、リザードマン、邪妖精、スレルの魔術師、後は頭数として雇ったならず者。そして、ミデがいる。
 総勢二十人で馬車は進む。
 ロイス伯の砦に向かうことになったのは、アギラとアーサーの決断によるものだ。正直な所、戦をやるだけの余力は無い。
 交渉が失敗すれば、一網打尽。まさに賭けだ。しかし、いつもと同じだと考えればさして驚くようなことでもない。
 雷鳥の騎士団は総勢五十名。竜王の騎士団に次ぐとされる騎士団である。ゲイル・ロイスも若き日の冒険譚で名を馳せた人物だ。最悪の場合、ロイス伯と騎士団の団長だけでも殺害できればいい。
 ロイス邸でもあり、辺境領主のものとは思えない砦につくと、文は渡してあるとはいえ、すんなりと通しすぎだ。
 錬兵所、あの日、ユウとガファルが決闘をした場所には、完全武装の騎士たちが並んでいた。弓兵もしっかりとこちらを狙っている。
「王子、御久しゅうございます」
「ああ、そういう喋りはしなくていいわ。話し合いにきたのに、これはどういうことかしら」
「死んだはずの王子と会うのに、それ相応の準備は必要かと思いまして」
 ゲイル・ロイスはアーサーを見据えて言い放った。ユウとアギラが隣につく。そして、その後ろにミデがついた。
「伯爵、それに団長も。どういうことですか、王子は生きておられます」
 悲壮な叫びだった。雷鳥の騎士団に所属し、王国の正義を信じるガファルには、ロイス伯の行動が信じられない。
「俺はレミンディアをシアリスに乗っ取られたくないだけだ。王子、あんたは頭が回りすぎる。王であるよりも、人であることを選ぶあんたは王にはなれねぇ」
 アーサーは、それを鼻で笑った。
「そんなとこに囚われてるのが伯爵止まりの証拠よ。雷鳥の騎士団、アタシにつきなさい」
 誰もが、唖然としていた。王子は、理由など必要ない。そう言い切ったのである。
「それ以上の愚挙は許しませんよ、兄上」
 騎士たちの後ろに待機していた男が言う。
「団長、どういうことですか」
 彼こそは、雷鳥の騎士団団長ジュリアン・イーグ・オーウエン。剣の腕、団長として騎士団を束ねるだけの統率力、王族としての気品、全てにおいてアーサーを上回るとされた第二王子である。
「ジュリアン、あんたこんなとこで何やってんのよ」
 ジュリアン・ユガ・トレイオール・レミンディア、それが真の名である。公的には病に倒れて静養中、となっている身であった。
「ロイス伯と共に、宰相を倒すために身を隠しておりました。兄上、新たな時代にあなたのような者はいらない。ここで、死んでいただく」
 動こうとしたユウの足元に、棒手裏剣が放たれた。見ると、片腕になったシキザがロイス伯の隣にいつのまにか控えている。
「アーサーを殺したら、お前ら皆殺しにするぞ」
 と、アギラは脅しになってないことをつぶやいた。
「ならば、それもよし。やってみせろ、異形」
 ゲイル・ロイスも負けてはいない。
「あっそ、じゃあ命も惜しいし、アタシはやっぱり隠退するわ。それでいいでしょ」
「兄上、戯れはやめてもらおう」
「ガキのころから変わらないわね。いいかしら、アタシが死んだら亜人とならず者たちが伯爵領を燃やしつくすし、ここでユウとアギラがあんたらを刺し違えてでも殺すわよ。あんたがそこに立った時点で、アタシに負けたってこと、分かる」
 正気を疑う言葉だ。だが、ある意味でそれは正しい。
「あなたは、レミンディアが滅んでもいいと仰るか」
「ミデ、そろそろ出ろ」
 アギラが言うと共に、ミデが荷車から這い出してくる。騎士たちの顔色に、僅かながら恐怖の色が浮かんだ。そして、ミデのひきずるものを見て、空気が変わった。
「これはマズいぞ。食えない」
 トレントと呼ばれる樹木妖精の頭部が放り投げられた。
「ロイス伯、バロイ砦をタダで手に入れようとしたあんたの負けだ」
 ここでアーサーを殺害し、アギラたちを丸め込む。それは不可能ではない。だが、その中心人物が死を覚悟していたら話は別だ。そして、国ごと刺し違える気でいる。普通の貴族はそんなことはしない。アーサーは、既に貴族ではなくなっている。
 彼らは積んだつもりでいたのだ。それが、無法者と暴君には無意味なことと理解できていなかった。
 沈黙が場を支配する。そして、ジュリアンは剣を水平に構えた。
「兄上、あなたはいつも私の上をいかれた。将軍も、学士も、……王も、本当はあなたに賛辞を与えていた。弟たちは、みなあなたが憎かった」
「腕っ節と貴族の誇りじゃあんたが上よ。アタシをやったら、あんたたちもおしまい。明日にも、総力を上げて蹂躙しにくるわよ」
「ハハハ、分かり申した。このゲイル・ロイス、この度の責任を取りましょう」
 素早く、戦士の動きでジュリアンから剣を奪ったロイスは、自らの腹に突き刺した。
「ジュリアン様、いや、我が息子よ、王都へ戻り、中から宰相を倒せ。お前が王となるならば、レミンディアは安泰だ。シアリスに、ここが奪われなければ、それでいい。先に王位に、つけ。俺は、最後の手を使う」
 ロイスは血を吐きながら、語りかける。アーサーは、それを冷たく見据えるだけだ。
「ま、いいわ。それの首とこの領地もらうかわりに、あんたと騎士団は逃がしてあげる。今からすぐに荷物まとめなさい。一時間でやんのよ」
「ロイス伯が、我が父に与えられた力、その目で見るがいい。国のために死ねぬ気狂いめ。王族たる資格無し、お前は邪神に魅入られた悪鬼だ」
 ユウがアーサーをつかんで、後ろに飛んだ。アギラの「後退」という叫びで皆が下がる。だが、それは遅すぎた。半分が巻き込まれ、地面からせりあがったものに串刺しにされる。
 物理法則を無視した奇跡がそこに為される。
 ロイス伯の肉体から、大小様々な影が這い出した。それは、妖精の加護、そして妖精の復讐。
 地面を突き破って現れた巨大な植物群、そしてミデの倒したものなど比べ物にならない大きさの、エルダートレント。十メートルの巨大な自律歩行の大樹、そして三メートルはあるウッドゴーレム、弓を構えた妖精。
「ハハハハ、楽しいな、アギラ、こいつらは美味いぞ」
 魔神と呼ばれたミデが笑う。
「こういう敵って久しぶりよね、みんな、王子を連れて逃げて」
 ユウは、言うと同時に、後退していたガロル・オンにアーサーを放り投げた。当の王子は気絶寸前だ。
「狩りの時間だ、やるぞ」
 死ぬかもしれない、不思議と冷静にそれを受け入れられた。
 すでにジュリアンと雷鳥の騎士団の姿は無い。ロイス伯は、元より死ぬつもりだったのかもしれない。いや、もう彼らの計画は分からない。
「邪妖精め、盟約を破るか」
 トレントのテノールが木霊する。言葉まで喋れて巨大な動く樹木、どうやって倒したらいいか、今ひとつ方法は思いつかない。
 ガルムと化したアギラは、先に槍を持った妖精に体当たりをして、その喉笛を噛み千切る。
「ハハハ、木はミデがやるぞ」
 ユウに鋭い枝を向けたトレントに、ミデが襲い掛かった。その両手には、神の戦槌ヒロシの使っていた炎をまとう戦槌、アグニハンマーが握られていた。重すぎて誰にも扱えなかったものだが、ミデのサイズにはぴったりだ。
 炎と共に枝を砕かれたトレントが後退する。下がれと命じていたガロル・オンや傭兵たちも、妖精に斬りこんでいる。
「生き残れば伝説になるぞ、みな、ユウ殿とミデ様に続けっ」
 ああ、そうか。そうだな、バロイ砦がなくなったら、彼らにも明日はない。
「アギラさん、こいつら結構強いっ」
「クソ、わらわら出てきやがる」
 新たなウッドゴーレムが、ロイス伯を中心として形成された森から飛び出してくる。
「門を閉じよ」
 邪妖精が一匹いつのまに寄ってきたのか、かアギラの耳元で囁いていた。
「女王」
「見守ると言うたであろう。さあ、後は貴様ら次第じゃ」
 邪妖精の瞳から力が消えて、普通の邪妖精に戻る。こんなところに放り出されて混乱している。
「ロイスが門だ。とにかくぶっ壊せ」
「オッケー、突っ込むから援護よろしく」
 妖精の放った弓矢が、ユウの背中に突き刺さっている。それでも、彼女は応えた様子が無い。ガルムのままユウに追いつく。今は、アギラの足が速い。閃くものがあった。
 体積を移動させて足を少し伸ばした。
「ユウ、乗れ」
「あ、オッケー」
 背中に飛び乗ったユウは、妖精たちの放つ矢を剣で叩き落とす。アギラも、触手を伸ばして、無尽に放たれる矢を叩き落す。しかし、走ることに特化したせいか、刺さる矢があまりにも痛い。
「クソっ、めちゃくちゃイテー」
「速い代わりに薄いってどういうことか分かってくれた?」
「嫌ってほど分かってきたよっ」
 もうすぐだが、そこまで大きくないがトレントが立ちはだかっている。その背後には、異界と通じる穴と化したロイス伯の死体がある。
「あれ、どうやって潰したらいいのよ」
「しるかっ。刻んだらいいんじゃねえのか」
「もうっ、アギラさんのバカ。飛ぶよ、トレントの相手してて」
「ちょ、おい、俺一人でか」
「大丈夫、すぐに済ませるから」
 アギラはそのままトレントに体当たりをしかけ、ユウはその直前に高く飛んだ。トレントの頭を踏み台にして、ロイス伯の死体目掛けて飛び降りる。
 異界のゲートと化しているのは、物言わぬ屍としなったロイス伯の胸元、緑色に輝く巨大な宝石からだ。
「え、なにあれ、文字」
 それは、電子機器に表示されるシステムのように、宝石の中で文字が凄まじい早さで明滅している。ユウは、落下の加速度をつけてその宝石に剣を突きたてた。ヒビが入り、そこに収束されていたエネルギーが弾ける。
 破壊されたゲートから放たれた圧力で、ユウは吹き飛ばされる。回り込んでいたアギラが触手で彼女をキャッチする。当然、クッションとして一緒に飛ばされた。
「増援止まった、後は倒すだけか」
「いたた、アギラさんいなかったら、死んでたかも」
「ユウ、さっきの爆発で鬱陶しいトレントも少しは潰れた。あとは、あのでかいヤツと残りだけだ」
「分かってるって、休まないよ」
 ミデは相変わらず、一騎打ちの様相で巨木のエルダートレントにハンマーを打ち付けている。
 手のような無数の枝と、刃と化す木の葉。ミデの着ている鎧も、その攻撃ではしばしが砕けていた。
「あいつ、顔があるぞ」
「え、どこ、見えないよ」
「木の上の方、でかい一つ目とそれ以外は皺だらけの顔。ユウ。見えてないんだったら、俺がその辺りに飛ぶから」
「りょーかい、こういうのお約束だよね」
 アギラの体も、吸血や採食ができないために傷だらけである。ユウをのせてのジャンプは正直辛い。
「おい、ミデも仲間にいれろ」
 トレントの体当たりでぶっとばされ、こちらに倒れてきたミデが叫ぶ。
「あの辺に俺とユウを投げてくれ」
「ミデもそろそろ辛い。決めろよ、ユウ」
「ん、……分かったよ、ミデ」
 突進してくるエルダートレントにハンマーを投げつけて隙を作り、ミデは二人を投げ飛ばした。
 空中でユウに絡みつき、目の所で触手を伸ばす。ユウもそれに合わせて、剣を投げた。目玉に、触手が突き刺さる。そして、驚くべき膂力で放たれた剣が、トレントの内部をえぐった。
 叫びのようなものを上げたエルダートレントは、緩慢な動作で後ろによろけると、そのまま倒れていった。
「あたしの剣っ、取るの超苦労したブレインイーターが」
「後で回収するから、残りのヤツをやるぞ」
 一番やっかいな敵が倒れて、仲間たちから歓声が上がる。残りの妖精たちは、ほどなくして一掃された。
 バロイ砦の中で精鋭と呼ばれる者たちの半分が死んだ。そして、アーサーも無茶な受け渡しと流れ矢の毒で、全身打撲の上に左目を失ってしまった。幸いなことに、毒は邪妖精がいたために、素早く対処されていたが、いなければ手遅れになっていたレベルだった。
 砦には一般の使用人たちしか残っていなかったが、王子のこともあり逃げ帰るようにしてバロイ砦に戻るハメに陥る。
「いたた、ほんっと最低」
 ゴブリンの作り上げた車椅子に乗ったアーサーは、人買いから買い求めたメイドに椅子を押させて、森の民謹製の怪しげな塗り薬で包帯を巻いている。左目の視力を失ったというのに、感想は「慣れるまで辛いわねぇ」だけであった。
「住民が武装して、俺たちを拒絶してるみたいだけど、どうするんだ」
「穀物は貰うし、税率も変えないけど、歯向かうんならちょっと痛い目みせといて」
 砦の、新たに設けられた高台で、アギラ、ユウ、アーサーで広がるマーケットを眺めている。
「弟さん残念だったね。やっぱ、難しいよねー、一回仲悪くなっちゃうと」
「分かったようなこと言っちゃって、お子様なのにさ」
「それなりに経験してます」
 ふん、とそっぽを向いたユウは、マーケットを眺めるアギラに視線を向けた。本当に化物だなぁ、このヒト、と思う。
「そういえば、アーサーは年下なんだよなあ。もう少し楽にしろよ。ダメなもんはダメな時もある」
「あんたたちの気遣いってホント気持ち悪いわ」
「なんか友情っぽいと思ってたんだけど、アーサーは冷めてるから。ていうか、それもツンデレ」
「ツンデレは魔界語だから気にするな」
「あーっ、もうっ、あんたらなんなのよっ」
 意味の分からないことばっかり言って、何がしたいんだ。と、元気付けようとしていることに気づく。
「中途半端に優しいの、やめなさいよ」
「本気の悪のアーサーに言われたくないよね、アギラさん」
「うん、お前みたいな悪党がそんなこと言うなよ」
「バカねぇ、ほんとに」
 弟たちは憎んでいるのだな、と思うと、捨てたはずなのに、少し悲しくなった。
 ロイス伯爵領は、亜人に制圧された、ということになっている。実際は、ほとんど手がつけられていない。彼らは領民に略奪者と呼ばれ、統治するだけの人員を送るだけの余裕もない。砦に備蓄してあったものや財産は略奪したが、それだけだ。立場の悪化、領地を持て余している現状、ロクなことがない。
「しっかし、あの娘どうしようかしら」
 マルガレーテ・ナハシュ・イル・ミレアネイス侯爵令嬢である。ユウとアギラがロイス伯爵領まで護衛した少女である。そして、その気丈な侍女、アンジェラ・マルートも、残しておく訳にはいかず軟禁している。
 ロイス伯はあの時から、ずっと彼女を保護していたようだ。目的は同じだが、彼女たちはロイス伯を殺害しジュリアンを侮辱した彼らに憎悪を抱いている。
「身代金でも取るのがいいんじゃない?」
「余計な火種だ。助けたのは俺たちだけど、行くべきとこに引き渡すんだろ」
「そうは言うけどね、色々と使い道はあるような、迷うとこなのよ。つーか、あんたたちも悪党よ、アタシだけ悪者にしないでよ」
 爽やかな風が吹いた。
「そろそろ、秋だね」
 蜥蜴山脈の秋は、落ち着いた気候で過ごしやすい。そして、山の実りや収穫のある黄金の季節だ。隊商たちで賑わうことになるだろう。
「細作入り放題なのもなんとかしなきゃなんないし、ニンジャたちみたいなのどっかで雇えないかしら」
 時は過ぎ行く。
 希望は、ゼロではない。


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