さあさ、そこの旦那方!
ひとつ遊んで行かないかい?
袖振り合うも多生の縁、奇妙極まる男女の縁
刃と刃の交わりは、流血沙汰の腐れ縁。
とかくこの世は天国地獄
斬っては斬られる斬られ損
言わばこの世は戯言よ
ならば遊んで行かないか?
刀一振り地獄逝き
斬って斬られて斬り斬り舞い――――
孤剣異聞 第三十一話 知り合い?
「お前たち! 何があった!!」
慌てて駆けていた騎士を捕まえシーリアが問いただす。
「ふ、副団長」
「裏路地側を探索していた班が消息を絶ったのです」
「……例の狂信者たちか」
「はい……、恐らく」
シーリアが話しているのは異界信仰の教団の事だ。
大会中の警備のほかに、すでにラドクリフの指示により騎士団は探索に動いていた。
大会開催よりも少し前、同盟国でもある魔法王国ラシェントにおいて“異なるモノ”によってある実験施設が守備に当たっていた魔法騎士団ごと壊滅すると言う事件が発生した。
元々、この施設はある世界に逃がされていた人間を呼び戻す事を目的としていたのだが、召喚の際の次元の歪みから“異界”が侵食してきたと言うのが事件の真相だ。
だが、これは単なる事故では済まされない事情があった。
その事情とは、世界の綻び。
すでに、召喚時の小さな歪みからでさえ、神代に封じられた“異界”が侵食するほど、世界は綻び始めていたのだ……。
「場所は……、その班はどの辺りに向かっていたのだ?」
「地下、下水道です」
「分かった……お前たちはこのまま団長に報告に行け」
「副団長は……?」
「私たちはこのまま下水道に向かう。幸いここには実力者が揃っている」
そう言うとシーリアは追いついてきた刀儀たちを見る。
「すまない、緊急事態らしい。手を貸してくれないか」
「緊急事態……。シーリア、詳しく説明してくれ」
ゲイルが問いかける。
「こちらも詳しい事は分かっていないんだ……。だが、探索に当たっていた班が消息を絶った。確か下水道からはアトラの遺跡に繋がっていた筈だ」
「あの遺跡か、だけど、あれは―――」
「そこまでだ、ゲイル・ランティス。いまは議論などしている場合ではない。『大魔導』――ラドクリフ老と通じている貴様なら知っているだろう、ラシェントでの事件を」
「む…………」
割りこんできたギーズィの言葉にゲイルが押し黙る。
個人的にラドクリフと繋がりのあるゲイルは、異界関連の情報も受け取っているのだ。
「……よう分からんけど、あの異形の化け物関連なら俺も縁があんねん。協力させてもらうで」
そう言うと刀儀が歩き出す。
「む? 貴様、場所を知っているのか?」
「下水やろ? ギの字。どっか適当なマンホールから降りれば………………、ってマンホール見た事無いな、少なくともこの国では……」
「なにが言いたかったか知らんが、つまり分からんと言う事か」
「…………、すまん、ゴメン、面目無い」
案内をシーリアに任せ、刀儀たちは下水の入り口に向かい行動を開始した。
* * *
暗闇を勢い良く走る集団がある。
もちろんそれは、刀儀たちに他ならない。
「シーリア・シルス! こっちは裏路地街では無いのか?」
「消息を絶った班は裏路地を探索していた、裏路地には下水へ繋がると言う裏通路がある!」
「場所は分かっているのか?」
「大丈夫だ、そこはオレが知ってる。砦勤めになる前に、締め上げた盗賊から聞いた事がある」
「どーでもええけど、ゲイルさん結構過激派?」
入り組んだ裏路地、ある種の無法地帯であるそこはいつもはガラの悪い連中の溜まり場にもなっているのだが、大会の影響で人影は見えない。無論、居た所でこの面子を見れば逃げ出すだろう。
だが、それ以上に人の気配が無い。
「………………、人の気配、ないな。前に来た時は姿が見えんでも気配ぐらいはあった筈やのに」
刀儀は足を止め、周囲を見渡しながら人影を捜してみる。普段は身を潜めるようにしている裏路地の住人だが、それでも注意して見ればすぐに見つかる。だと言うのに、音も気配も無い。
「まさか、生贄にされたとか……あらへんよな? はは……」
「…………」
「…………」
「…………」
「い、いや、なんか言うてや、俺的には小粋なジョークやで、いまの……」
「…………」
「…………」
「…………」
「う、い……すんません」
普段なら軽く流せるかもしれないが、今の雰囲気では無理らしい。
そもそも、刀儀の発言自体、そう言う不安が表に現れたものなのだから救い様が無い。
「急ごう、部下が心配だ」
シーリアが、先を促した……。
* * *
「……ひとつ訊かせろ。トウギクサビ、貴様は一体何だ?」
走っている最中、ギーズィが唐突に囁いてきた。
言葉自体は全然足りていないが、ある種の確信を込めた雰囲気があるので、ただの雑談と言う訳では無さそうだ。
「? なんやいきなり」
刀儀も雰囲気を悟り、質問の意図を訊き返す。
「確かにいきなりだな、だが、貴様の存在もいきなり過ぎると俺は思う」
声量を抑えているので、二人の会話は先導しているシーリアとゲイルには届かない。
ギーズィは言葉を続ける。
「『刻印』すらも持たず、俺を倒すほどの腕前。多少調べたが、冒険者ギルドに登録したのは最近で、ランクはC。……こんなデタラメな奴が噂に上らない筈が無い。さらには今回の事件にも関係している口ぶり、貴様は一体何処の誰だ?」
「あいたた、俺ってば信用性なし?」
「茶化すな、実力は信頼している。だが、貴様には信じきれんところがある。」
「なんや?」
一端視線を刀儀に向け、ギーズィが口を開く。
「俺には、貴様が何故戦っているのか皆目見当がつかん。そんな貴様は最後まで戦えるのか?」
その言葉は、意外なほど深く刀儀の心を貫いた。
* * *
(なんでって……、あれ? なんでやろ?)
心の水面に落ちたのは、疑念と言う名の一滴。
波紋を広げ、静寂の水面を掻き乱していく。
(まてまて、そう―――、ミリアに頼まれたんや! あ、いや、それ以前に俺は赤瀬の付き合いで……って、最初はここまでついて来るつもりはなかったし、大体、あの化け物が出てけぇへんかったら単なる見送りで終わってた筈やしな……)
『戦う理由』
行動の根源的な部分の欠落。
事実、刀儀には、大切な人を取り戻しに来た赤瀬のような、あるいは『神剣』の打倒を頼んできたミリアのような、切羽詰った事情が存在していない。
(なら、剣術は……)
剣術はそう言った意味では理由にならない。
なぜならそれは、人生における命題。
何をどうしようと一生ついて回る概念だから。
そう……例えばラエリやアリーシャを例にとってみよう。
彼女らにも、今の時点ではそれほどの事情は存在してしない。
因縁を持ちそうなラエリは運命を知らず、アリーシャの方は単なる冒険者のひとり……。
……しかし、彼女らには確かな理由がある。この世界で生きていると言う明確な理由が。
(……俺は、別にこっちの世界に対して縁も所縁も義理もない身や)
対して、この世界において、刀儀楔という存在はひどく薄っぺらい。
彼が生きてきた背景、人と人との繋がり、文化。
目指してきたもの、道、価値観。
それら全てと断絶された遠い場所。―――――故にここは異世界なのだ。
「やば……俺って、なにがしたくて戦ってるんやろか?」
そして生まれたのは疑問。
もし答えられなければ迷いとなり、心を鈍らせる一滴の毒。
それは剣士として、あまりに致命的なものだった。
「なにしているっ!」
いつのまにか足を止めかけていた刀儀に、先頭を走るシーリアが声を飛ばす。
「……あ、すまん」
短時間だが、自失していた刀儀。声に反応して再び走り出す。
「…………」
その隣で、ギーズィはなにも言わなかった。
その居心地の悪さに刀儀は思わず言い訳の言葉を紡ぐ。
「……いまは、ええやろ? 後でキッチリ考えるか…ら……!?」
だが、言葉はそこで止まった。
怪鳥の如く頭上から迫り来る、異質な剣気と人影に―――――。
* * *
――――目が合った。
喜びに満ちた黒瞳。
引き裂くような笑みの口元。
攻撃的で好意的な――異様な剣気。
「―――シッ!」
刹那。
人影が中空から抜き打ちに放った一撃を、鞘ぐるみ引き抜いた刀で受け止める。そのまま刀を腰まで戻し、人影が降りるより早く今度は刀儀の刀が鞘走る。
そこから先の攻防を、理解しきれたのは何人か?
―――――ィ!
―ン―――チィ―――
―――ンィ――
―――――――――ギィン!!
最後に凄絶な火花を散らして、人影と刀儀が離れる。その間、僅か一呼吸。
あの刹那、抜き放たれたは刀儀の居合。
応じた人影は中空にて受け流す――――
―――――どころか、それに留まらず、刀の峰を滑走路にした居合の如き太刀を返す。
刀儀も負けじと秘剣を披露。
飛び立つ刃はただ迅く、そしてそれよりなお早く、秘剣『骨喰』が牙を剥く!
しかし敵もさるもの、『骨喰』の骨子である巻き技の妙、それを変化と絶妙な引きで見事相殺!!
影が笑い、刀儀が目を見開き―――――
――――――交錯、そして連撃の応酬。
一瞬の剣閃が幾重にも交わり、静寂を経て今へと到る。
「……化け物め、足場も定まらん空中で、どこまで自在に動く気や。しかも、その動きに使った力は全部、本来その刀に掛かる筈やった負担。羽毛にでもなったつもりか……」
一足一刀の間合を外し、ようやく口を開いた刀儀。
本人さえ気付かないが、瞳に僅かに焦燥の色。
「っておい、おれの連撃、そんだけ見事に捌いた奴が言う事かよー!」
同じく離れた人影、刀を納め自然体。
……闘気は一切納めずに。
「…………日本刀、やな、その手にあるの」
刀儀は疑問を口に出す。
なぜなら人影が握るのは日本刀、島国の独自の文化が生んだ剣。
それが何故……?
「おーい、日本刀なんて言うなよ。こいつは刀だろ? 人斬り包丁でも美術品でもなくてな」
対して人影が返したのは答えではない答え。
しかし、刀儀はその言葉を聞き慣れていた。
「あれ? わっからねぇか。そんなんじゃ油が巻いた刀みたいになるぜ?」
笑う人影は男。
ひたすら楽しそうな雰囲気は意図したものではなく本質から涌き出た風に見える。
「そういやさ、実はさっきそこの黒い人と刀儀くんの会話聞いてたんだけどさ、おれが思うに闘うのに難しい理由はいらないって。実際はとことんシンプルに考えりゃいいんだ。そう―――――」
男は言葉を一拍溜め
「―――――必要、不可欠!!」
言うが早いか無駄の無い疾走。
刀儀もよく知る古流の歩法。
だが、その端々に見え隠れする実力はあるいは刀儀よりも――――。
踏み締める足が大地を噛む、毒蛇の如く手が撓る、
「さあッ! 闘ろうぜ!! そいつがおれたちの、存在意義だ!!!」
そして――――――――――
「ぎにゃああぁああ!!?!」
「飛んだーーーーーーっ!?」
横合いから迫った黒刃が、謎の男をふっ飛ばした。
* * *
「ぎ、ぎぎ、ギの字……。今のはちょっとあんまりとちゃうんか……?」
「今は非常事態だ」
「ひ、一言で……」
正々堂々な感じを持っていた人物の暴挙に刀儀は開いた口が塞がらない。
ちなみに男は飛んでいった。
「仕方ないよ。非常事態だし」
「非常事態だからな」
さらにゲイルとシーリアも口を揃える。
ただし、視線は向けてくれない。
思わず刀儀は口を開く。
「…………い…いや、あの刀に、あの台詞。つ、ついでに俺の名前まで言っとったやん! もう少し考えて行動しようや!!」
「考えるのは貴様だ、物事には優先順位をつけろ」
しかし、元凶に遮られた。
「現状を見失うな」
強い言葉だった。
「せ、せやな、確かに今はそれどころとちゃうな……」
刀儀も洗脳された。
これでさっきの男が二度と登場しなかったら、正直笑える。
(けど、絶対もう一度会うやろな……。って言うか俺自身、訊きたい事が山ほどある)
男が吹っ飛んだ方向をちらりと見て、刀儀は先に走り出した三人を追った。
* * *
「あいててて、ったく、こっちの技は相変わらずデタラメだぜ、あれも魔法剣とかの一種かぁ?」
瓦礫の中、先程の男が立ち上がる。
多少の傷があるが、どれも深くはなくせいぜい擦過傷がいいところだ。
「とと、おれも行かなくっちゃな。話の内容からして、あっちも遺跡を目指してるみたいだし、どうせまたすぐ会うだろ……。しかし」
首をコキコキと言わせて呟く。
「意外とフツーだな、仁斎さんの孫。
なんか他の連中に聞いた話よりも随分と浮ついた感じだしよー。
ま、いいか。
追いついてもっかい喧嘩売ればハッキリするし、ヒヒッ」
悪戯を思いついた子供のように楽しそうに男は笑う。
「さーて行きますか、しかし、他の三人も強そうだったなぁ、いっひひ、浮気しちまいそうだぜ。たーまんねーなぁ……」
男が刀儀たちが向かった方角とは別方向に走り出す。
下水へ向かうルートはなにもひとつではない、先回りできるルートも存在している。
どうやら男はそれを知っているらしい。
男と刀儀。
もしも刀儀が余裕のある状況で遭遇したなら確実に気付いただろう。
男の言葉に所持する刀。
そこから見えてくるのはとある人物。
ひたすら刀に拘った異端の鍛冶師。
その名は―――――
『刀匠・真兼鉄心』
裏路地の闇に消えていった男との次の邂逅。
それは、刀儀に一体何をもたらすのだろうか……?
* * *
「こっちだ」
シーリアが無人の建物へ入り、床を勢い良く踏み抜く。
「これ……地下道なんか?」
現れたのは、人一人がなんとか通れる程度の通路。
それを見て刀儀は顔を顰める。
「まさか、これは地下道へ逃げ込む為の隠し通路だ。我々が把握している以上、ほとんど使われていないがな」
そう言うと、先頭を切って入っていく。
「度胸一番やな、かっこええわ……」
素早い行動に刀儀が思わず呟く。
下水道内部は暗い。
シーリアがランタンに火を灯し、辺りがぼんやりと照らされる。
「暗いな……、視界が限定された中で戦うのは結構難しいで……」
「ほう、トウギ・クサビ。貴様は暗闇は苦手か?」
「苦手やないけど、地形の把握がしにくなるからな。襲って来られる分には気配で察知すればええけど」
山に篭って修行していた経験のある刀儀だが、暗闇と言う状況下では暗黒剣の習得の為に闇に身を置いてたギーズィに劣る。
「陣形をとろう。オレがランタンを持つよ」
「ゲイルさんがか?」
「ああ、ランタンが壊れると拙いだろ? 昔から躱すのは得意なんだ」
ゲイルにしては珍しく、少し得意げに言った。
それを見て何を思ったのか、シーリアが口を開く。
「そうだな、私がどんなに剣を振ろうとゲイルは軽々と避けてしまった……。同じ様に高速の戦闘を得意としているのにな、才能の差か……」
シーリアの言葉には、どこか諦観めいた空気を孕んでいた。
それに何かを思ったのか、刀儀が口を開く。
「速さの質とちゃいますか? 普段の動きと筋肉の付き具合から見てシーリアさんの動きは多分反動を使った……それも連撃。でも、動きそのものが速いゲイルさんなら反動を溜める瞬間に動けば間合を外せる」
慰めなど含まない、剣術家としての考察。
「……ッ! 私を見ただけでそこまで分かるのか?」
シーリアの投げやりな言葉に対して、刀儀は冷静な言葉を返していた。
さらにそのまま独り言のように呟く。
「剣に捧げた人生なんで……。ま、見切りに関してはそれなりの自信がありますわ」
剣に捧げた人生。
自分で言っておきながら、実に的確に自分の心を突いていた。
(ギの字も言ってたけど…戦う為の理由かぁ、所詮俺は巻き込まれ型のキャラやしな)
大体からして刀儀は赤瀬の事情に巻き込まれてこの世界に来ている。
さらに赤瀬と出会う切欠になった事件でも主役は赤瀬だった。
彼が主役の話は確かに皆無。
そう、彼には剣が在っただけで…………
「おい、貴様等。さっさと進むぞ、陣形はどうする」
「ん、―――ほな、暗闇に慣れてる俺とギの字が先行しよか?」
思考から立ち戻った刀儀が提案する。
「いや、トギ殿は後に、漆黒殿は前に分かれてくれ。ゲイルはランタンを持っているから前に行ってくれ……あと、下水にはギズモが棲みついている。それは漆黒殿に任せてもいいだろうか?」
「なるほど、それで俺が前衛か」
シーリアが役割を振り分ける。
奇しくも赤瀬たちとは真逆の前衛職のみの構成。
ひたすらバランスが悪い。足して2で割りたい。
「じゃあ、行こう。あんまり長居はしたくない場所だ」
ゲイルが先頭に立ち歩き出した。
ギーズィも続き、シーリアと刀儀も歩き出す。
時折出現するギズモも、ギーズィの一閃で消え去り、一行は着実に赤瀬たちに迫っていく。
暗い下水道だが、実力者4人のパーティにはそれほど苦にもならないらしい。
「…………おかしいな」
「ん? どしたん、シーリアさん」
「いや、部下の痕跡が見当たらないと思って。殺されていても死体がある筈なんだが……」
刀儀はシーリアからするりと出た言葉に価値観の違いを実感する。
……と言うか怖い発言だった。
「貴様等は夜目が効かん。だが、俺の目には一応見えている。……途中、戦いの痕跡があったがギズモを魔法で退けたのだろう」
「魔法……。私の部下には魔法使いはいない。魔法石なら携帯していたが……」
「魔力の残滓がかなり強い。魔法石の威力ではないな」
「そうか……」
シーリアの声に落胆が窺える。
状況が不透明なほうが精神的には辛いのかもしれない。
「こうなると遺跡の中まで入らないといけないな……」
「どんな所なん?」
「いや……、何もない遺跡だった筈なんだけどね」
ゲイルの答えに刀儀は言う。
「なんもないなら、後はそこの奥まで行くしかないか」
「そいつぁいい。でもよ、その前に――――――そこの旦那方、ちょいと遊んで行かないかい?」
『!?』
闇の向こうから声が来た。
それは先程聞いたばかりの声。
それがゆっくりと近づいてくる。
「…………」
誰も声を出さない。
なぜか、出そうとしても逆に呑みこんでしまうのだ。
やがてランタンの明りが届くほどに近づいた男が朗らかに笑う。
「ようよう刀儀くんにお仲間の皆さん、遊んでいきなよ、たのしいぜー」
なんの気負いも無い、悪戯が成功した時の子供のような笑い。
……だが、四人とも気付いていないが、この場はすでに目前の男の闘気で満ちている。
ひどく攻撃的なのに威圧的でなく、周囲を昂揚させる熱のような闘気。
それが、個々人の闘争本能をさりげなく刺激している。
しかし、それすら気に留めず男は言った。
「おれの名前、もう分かったかい?」
その言葉は刀儀に向けられていた。