序章
―――光が流れる
呆れるほどに美しい軌跡を描き刃が疾る。
「悪足掻きもええ加減にしときや…」
自身に目掛けて放たれた無数の攻撃、それに僅か一太刀で応じて少年が呟く。
それと同時に極々自然な動作から、敵対する異形の眉間に棒手裏剣を打ち込む。
その一瞬の攻防の中で、無造作に伸ばされた黒髪が風になびき
いつも通りの半目がちの黒い眼は満身創痍で崩れ落ちる『敵』の姿をただ見届ける。
そして少年の言葉通り、ただの悪足掻きだった『敵』は腐った木材のように崩壊した。
終わりまで見届けてから、刀は静かに鞘に納まった。
戦いは終わった。
「さて、この場合、俺は一体どうするべきなんやろなぁ」
どこか途方に暮れたような調子で少年は空を見上げてみるが空は鬱葱とした森の木々に阻まれて僅かしか見通す事はできない。ただ、降り注ぐ木漏れ日に関しては素直にありがたく思えた。
ふと思い出したように少年が口を開く。
「しっかし、この状況…赤瀬の奴は無事なんやろな……?」
頭をガシガシと掻きながら周囲を見渡すが友人の姿は無い。
思い返せば、この世界に来る際、途中に潜んでいた異形の妨害は自分が退けた。
だから、多少のずれはあるかもしれないちゃんと目的地に着けただろうと思う。
どちらにせよ、その際に明らかに変な方向に流された自分に比べればマシだろう。
何しろ自分はここに来る予定ですらなかったのだから。
まぁしかし、少年はそんな事は気にしない事にした。
なぜなら今のところ彼の関心事はひとつ
たった一人の女の為に無謀も無茶も厭わない。
そんな風に不器用で、おまけに職業までマイナーな友人の恋愛成就である。
まぁ兎に角そう言う訳で……
「助太刀は無理っぽいな、けど、物語の主役はお前や、頑張れよ赤瀬夕凪」
苦笑いで隙間から見える空にぼやいてみた。
余談だが、こんな見知らぬ場所で独り言を呟く以外できない彼の名前は刀儀 楔
古流の剣術家で17歳、微妙に甘党
異世界に帰った幼馴染の少女を探しに行こうとする友人の、更にそれを見送りにきたという物語の本筋から随分離れたであろう微妙な立場で首を突っ込んだ主人公である。