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No.14030の一覧
[0] 死んで覚える迷宮探索(よしお→異世界)[汚い忍者](2010/01/07 01:11)
[1] 第一話[汚い忍者](2009/11/28 08:01)
[2] 第二話[汚い忍者](2009/12/02 10:41)
[3] 第三話[汚い忍者](2009/12/02 10:48)
[4] 第四話[汚い忍者](2009/12/02 11:11)
[5] 第五話[汚い忍者](2009/12/02 11:19)
[6] 第六話[汚い忍者](2009/12/02 11:32)
[7] 第七話[汚い忍者](2009/12/02 11:41)
[8] 第八話[汚い忍者](2009/12/02 11:47)
[9] 第九話[汚い忍者](2010/01/12 01:40)
[10] 第十話[汚い忍者](2009/12/07 00:32)
[11] 第十一話[汚い忍者](2009/12/10 02:08)
[12] 第十二話[汚い忍者](2009/12/26 10:00)
[13] 第十三話[汚い忍者](2010/01/11 00:27)
[14] 第十四話[汚い忍者](2010/01/13 01:32)
[15] 第十五話[汚い忍者](2010/04/03 19:09)
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[14030] 第四話
Name: 汚い忍者◆64ee84f7 ID:62ef03fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/02 11:11


「いいかー、お前らぁ。人という字はだなぁ…」


広い教室に移動させられたよしお含む新入社員20名は資材部の教官より迷宮探索の講習を受けていた。

講習の前に厚さ2cmほどの教科書を配布されたのであるが、モンスターの姿形や迷宮の地図などが図解で説明され、教官が口頭で説明してくれたこともあり、公共語の読めないよしおでもなんとか迷宮探索についての知識を得ることが出来た。

よしおが得た情報は以下の通りである。







①社内規定

株式会社ブーヘンヴァルト強制収容所は社員の自主性を重視する会社であるそうで、その体系は非常に独特である。

まず、給与は完全に出来高制であることが上げられる。
迷宮内で収集した資源を総務窓口で提出する事により、賃金を得ることが出来る。
その為、新入社員であっても実力のある者は十分裕福な暮らしが可能であるし、逆に実力がない者はその日を食べて行くだけでも精一杯の生活しか出来ない。

社内には食堂や購買も存在しており、社員は得た賃金で食事をしたり、購買で生活品を購入している。
購買の品揃えは豊富であり、回復キット、より上質な剣や盾のみならず、銃器や防弾防刃ベスト、果てはテレビからパソコンまで、様々な商品が販売されている。
社員は社員寮に住む事になるが、料金を払えば個室に住むことも可能だそうだ。

遅刻や無断欠勤、脱走、社員同士の争いの罰則も当然存在する。
だが、その罰則は極めて厳しいものである。


(最も軽い罰則で給与5割カットって…ブラック企業ってレベルじゃねーぞ!)


あまりの会社罰則の理不尽さに戦慄するよしお。
ここで言う給与5割カットとは総務部が迷宮内部で得た資源を従来の5割の値段でしか買い取ってくれないことを意味する。
この会社のブラックさに改めて恐怖を覚えるよしおであった。




②各部門について

株式会社ブーヘンヴァルト強制収容所は迷宮探索部、拠点防衛部、資材発掘部、情報調査部、人事総務部から成り立ち、迷宮探索部、拠点防衛部及びよしお達が最初に配属される資材発掘部は併せて攻略本部と呼ばれている。
それぞれの部署は独立しているわけでは無く、互いに連携し合い、業務の効率化、コスト削減及び、社内環境の向上に努めているそうである。
週に一度、総務部以外の各部署の事業部長、部長が集まった情報交換会議が行われ、その内容は各部署の社員へ主に掲示板を介して通達される。



迷宮探索部、迷宮の最前線に立つ花形と言っても良い部署であるが、その業務内容は多岐に渡る。
迷宮のより下層への到達を最大の目的とする部署であるが、それ以外にも未知モンスターの情報収集、迷宮構造の情報収集、到達済みの階層の未探索部分の調査等が行われる。
迷宮は下層に降りる程モンスターも強くなる傾向を持ち、未知モンスターとの戦闘もある以上、最も死傷率の高い過酷な部署である。

しかし、迷宮の最前線に立つからこそ、そのリターンは極めて大きい。
未知のエリアに一番最初に踏み込む彼らには、貴重なアイテムを発見できる可能性が高いし、未知モンスターやその階層の構造などの情報を報告すれば会社側から報奨金が出るのだ。
しかし、もし報告した情報の虚偽が判明した場合、その報告を行った社員は「解雇」されるらしい。
ハイリスクハイリターン、それが迷宮探索部という部署の本質であると言えるのだろう。


拠点防衛部は迷宮地下4階に設立されている拠点の防衛任務が仕事である。
地上から地下9階までは迷宮探索部のエースチームが寄り道せずに向かっても一日近くかかってしまうのだ。
帰りの事を考えると拠点なしの迷宮攻略は現実的ではない、探索部のそんな意見から発足したのがこの部署である。
地下4階に拠点が設立されている理由はモンスター生息数が他階層よりも比較的少ないからである。

しかし、だからと言って安心してはならない。
下層から大量のモンスターが流れ込んでくる“忘れられた地獄チェインサッドネス”なんていう厨二的名称で称される現象が月一回のペースで発生し、拠点に駐在する社員の損耗率を跳ね上げている。
モンスター討伐数によっても給与が払われるが、“忘れられた地獄”を生き残った社員には手当てが送られる。
“生き残る事”さえ出来れば、最低限の給与は得ることが出来る安定な部署と言えるだろう。



資材発掘部は探索部からの情報を元に、各階層にてつるはし等を用いて採掘や素材の収集を行う。
浅い階層や拠点のある4階では資源は殆ど取りつくされており、高価ものは期待できないそうだ。
その為、よりお金を稼ぎたければ地下5階以下で採掘・収集を行う必要があり、地下5階で発掘できるようになってようやくヒヨッ子卒業と言われている。

お金を重視するのならより深い階層へ、身の安全を重視するならば浅い階層へと、探索部、拠点防衛部に比べて自由度が高いのが特徴と言える。
だからこそ実力のない社員は一日の食事の賃金すら稼ぐことはできない。
迷宮探索未経験であるよしお達新入社員が当分貧しい暮らしになるのは避けられないだろう。



情報調査部についてはよしお達がここに配属されることはないということもあり、詳しい説明はされなかった。
どうやら探索部が報告した情報を元にして、迷宮の地図の作成、未知モンスターの分析を行い、それを各部署へ通達する部署らしい。

また、上記の“忘れられた地獄チェインサッドネス”の発生日時の予測も業務内容に含まれ、拠点防衛部以外の社員はこの予測を元に総務へ休みの申請を行っている。
発生日時の的中率は割と高い数字を誇るが、予測が外れ、1日程度の誤差が発生する場合もある。
そのため、多くの社員は“忘れられた地獄”の予測日時の前後にも休みの申請を行っている。



人事総務部は総務、庶務、秘書、広報、人事、給与、購買センターの管理等、幅広い業務内容を持つらしい…が、詳しい事は攻略本部にも情報調査部にも殆ど知らされていないブラックボックスのような部署なのだそうだ。




③迷宮内モンスターについて(基礎編)

地下1~2Fに生息するモンスターは以下の種類である。

(a)桃色暴動マニックパーティ    
教科書に描かれている図ではどこからどう見てもゴブリンと呼ばれるであろうモンスターに対して“桃色暴動マニックパーティ”なんて厨二病的な名前が付けられている。
常に群れで行動しており、素手や噛みつきで攻撃してくるそうだ。
最近では殺した社員の剣を奪い、それを武器として使用する固体も確認されている。
自身より強そうな相手には逃走し、自分より弱そうな相手に対しては積極的に攻撃をしかけてくる狡猾ないじめっこタイプ。
その為、新入社員ばかりを狙い打ち、新人初迷宮探索の生還率を低下させている一番の原因である。
対処はこのモンスターに遭遇しても脅えを見せないことである。
要するに、このモンスターに遭遇したら、「ァンだ、こら!」と不良少年の如くメンチを切ればいいのである。
とは言っても新入社員の中にはこれまでモンスターに遭遇した経験がない者が多く、脅えの態度を見せてはいけないと分かっていても見せてしまうのは仕方ないのである。

(留置場で出会ったあの女は俺の姿形にゴブリン的な要素を見出して“桃色回路ストロベリースクリプト”なんて呼んだのか?)

自身の二つ名と何処か似た不思議な響きを持つこのモンスターは別の意味でもよしおを不安にさせた。



(b)ポチ
見た目は柴犬に似ているが、素早い動きで飛び掛り、噛み付いてくる名前に似合わない非常に獰猛なモンスターである。
幸いな事に一匹で行動していることが多く、脅威度はゴブリンに比べて低いが、足の速さと嗅覚が鋭い事からこのモンスターから逃げ切るのは至難の技と言えるだろう。



(c)アオジタリザード
巨大なトカゲのようなモンスター。
鋭い牙を持ち、見た目以上に素早く動く。
天井に張り付いていることもあり、迷宮に潜る社員は上方に対しても注意を払う必要がある
このモンスターの皮は総務で買い取ってくれるので、自分の実力に自信があるのなら討伐するのもいいだろう。



(c)クロウラー
姿かたちは大きな緑色の芋虫である。
動きが遅く、テリトリーに入らなければ攻撃してこないため、脅威度は低い。
しかし、絶命時に何故か爆散して非常に悪臭な体液を撒き散らすので遠隔攻撃で倒すことが薦められているモンスターである。



(d)モー
牛に似た温厚かつ臆病な性格なこのモンスターは迷宮内ヒエラルキーが社員のそれよりも低く、脅威度は0である。
だが、その肉は美味な為、見かけたらラッキーである。
満腹度に貢献するこのモンスターは社員から敬意を込めて“業務用食品部 事業部長”と呼ばれてもいる。



(e)社員殺し
姿形はゴリラに似ているが、それより遥かに巨大で四本の腕を持つ。このモンスター相手に戦ったら死ぬ。
稀に浅い階層に現れ、そのフロアにいる社員を殺し尽くす。
強さのレベルが他のモンスターに比べて圧倒的に違い、討伐不可能とさえ言われている。
もし見かけたらすぐに引き返し、情報調査部まで一報することが義務づけられている。



その他、採集できる資源や今回の実践で採掘を行う場所の説明を経て、2時間に及ぶ初心者向け迷宮攻略講習は終了し、その後社員証が配布された。




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さて1時間休憩を挟んだ後はいよいよ生存率60%の実践である。

(早速、退職届をだしてこんな場所からさっさとエスケープだぜ!)

なんて甘い考えを抱きながら、早速退職届を書こうとしたよしおであったが、ここに問題が発生する。

(日本語で良い訳ないよなぁ…)

公用語を読むことすらできないよしおは当然書くことも出来ない。
口頭で伝えようにも公用語の話せない現状ではどうしようもないであろう。
よしおはどうしようもない現状に焦りを感じていた。
当然、仮に退職届が受理されたとしてもすぐに退職できるわけではない。
関係各所への通達など、色々な過程を経てようやく退職できるのが会社というものなのであるが、異世界への転移という大きすぎる環境の変化はよしおにそのことすら失念させていた。

(脱走…いや、あの警備をくぐるのはさすがに無理な気が…)

会社の入り口の警備の厳重さを思い出す。
教室の入り口も締め切られ、脱走を防止する為なのか社員が立っている。
初日からの無断欠勤も出来そうになかった。

結局、打開策が思いつかないままタイムアップとなり、よしおは実践の参加を余儀なくされたのだ。

“幸運”なことに、よしおの退職届の提出は今暫く先になりそうである。








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■青銅の剣 を装備しました。■
■青銅の盾 を装備しました。■
■社員用リュック を装備しました。■
■アイテム:つるはし の使用が可能です。■



新入社員たちは五人一組のパーティとして4つに分けられていた。
よしおを含むパーティの顔ぶれは頭が猿だったり馬だったり豚だったり半漁人だったりと全く統一されていない。


「よぉぉーし、みんな!これ見ろ!」


腰に手を当て、もう片方が空を指差しているオークの銅像の隣に立ち、教官が声を放つ。


「この会社を設立した初代社長の像だ!よく知らんけど偉いんだぞぉ」


「それじゃぁ偉大なる初代社長の栄誉を称えて、一同万歳ぃ~!」


いきなり万歳なんて言われたので、新入社員の中に反応できた者はいなかった。


「お前らぁー、ちゃんと万歳しろよ!俺が総務に怒られるだろぉ。はい、せーの!初代社長万歳ぃ~!」


「「バンザーイ!!」」


「もっと大きい声でッ!ばんざぁぁ-い!」


「「「「バンザーイ!!!」」」


某半島北部の将軍に送るかの如く新入社員たちは像に向けて万歳する。
この会社の教育方針に対しても凄まじいブラックさを感じるよしおであった。


■ホームポイントが設定されました!■
■現在位置は ブーヘンヴァルト強制収容所 迷宮前 (D-9) です。■


(ん?)








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■現在位置は ブーヘンヴァルト迷宮 2F (E-2) です。■




「マカライト鉱石キタコレ!」


採掘場まで1時間、つるはしで掘り始めて2時間。地下2階に位置する採掘場で掘りあげた青い鉱石を手によしおは叫ぶ。
先程から石つぶてや鉄鉱石しか掘れていなかったのであるが、地下1~2Fで掘れる事は非常に珍しいと言われるマカライト鉱石が採掘できたのだ。
それなりに高く売ることが出来るだろう。

「よしおは壁を掘るゥ~ヘイヘイホ~ヘイヘイホー」

迷宮に入って3時間。
道中や採掘中に何匹かのポチやトカゲが襲い掛かってきたものの、単体であったことと4つのパーティと教官を含めた20名余りが固まって行動していたこともあり、多少の怪我人は出たものの現在のところ、迷宮探索は極めて順調と言えた。
初めて見るモンスターに最初は恐慌状態に陥り、教官以外動けなかった面々であるが、何度か戦闘をこなすうちにそれぞれのモンスターに対する対処の仕方を覚えてきたようである。

よしおは現在までに石つぶて12個、鉄鉱石6個、マカライト鉱石1個と中々の成果をあげていた。

新人生還率60%というには余りにあっけない迷宮探索によしおを含む新入社員の多くは油断していたと言っていいだろう。
状況の変化は他の面々より少々離れた位置にて採掘を行っていた一人の新入社員の小さな叫び声から始まる。


「ぎぃあっ!痛っ、やめッ…ッ!ッ……!」


大声を出す余裕すらないようで、その悲鳴は酷く小さなものだった。だが、その声は本当に命の危機に陥ったときに出すであろう切羽詰った声である。

見ると四尺ほどの小さな人影達が倒れた一人の新入社員に群がっているではないか。
その数13匹。
二十秒足らずで人の形をしていたその新入社員は、小さな人影達により肉片へと分解されてしまった。

さて、肉片と化した同僚の小さな断末魔を偶々耳にしたただ一人の新入社員。
目前で分解されていく同僚を目に、彼の起こした行動は、脅えを見せてはならないというルールを無視しての大絶叫であった。
彼が次のターゲットとなり、犠牲となるのは自明である。

かくして恐怖は伝播する。

大絶叫を耳に振り向けば、叫びを発した同僚が小人に群がられ、小さく分割させられていく光景。
最初は鼓膜が破れるかと思われた大絶叫も時間が経つごとに小さくなっていった。

新人殺害数NO.1と謳われる”桃色暴動マニックパーティ”達との初遭遇はこうして始まったのだ。






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2名の同僚の犠牲を対価に、モンスターの襲来を知った新入社員18名と教官1名。
彼らの取った行動は以下4つに分けられる。


一つは余りの出来事に茫然自失となる8名
一つは我先に逃げようとする3名。
一つは犠牲となった同僚と同じく大絶叫し、次の犠牲となる確率を上げる7名
最後に今回は例年より数が多いな、と冷静に現状を把握する教官1名


さて、よしおはどれに含まれるかというと最初の茫然自失組である。
同僚が肉片へと変わっていく光景が、出来の悪いスプラッター映画を髣髴とさせる。
あまりの現実感の無さに叫ぶことも逃げ出すことも思いつかず、よしおはただじっとその光景を見ていた。


今回襲撃して来た“桃色暴動マニックパーティ”13体。
新入社員20名で撃退可能か否かと問われれば可能である。
“桃色暴動”の最も恐ろしい点は数の暴力である。
社員一人に対して数体で襲い掛かるからこそ恐ろしいのだ。
ならば一体一体分断して対処すればば、ワンパターンな攻撃しかしてこない桃色暴動を相手にするのは新入社員と言えども容易いことであろう。
対して、実力もない新入社員パーティの強みは何であろうか。

答えは“桃色暴動”同様、数の暴力である。
実は桃色暴動一体一体の実力は、実力がないと言われる新入社員と比べてもさらに下なのである
犠牲となった最初の1名を別としても、新入社員19名 対 実力が新入社員より劣る桃色暴動13体との戦闘で勝てない道理はない。
各々が冷静に桃色暴動達を分断させて戦えば、犠牲なしで勝利することも十分可能なのだ。
だが、そこには新入社員が冷静に対処できるという前提が必要だ。
初めてスプラッタな光景を実際に目にして冷静にいられる者は果たして多いのだろうか。
現状はその答えを正しく示していた。





茫然自失なよしおが次の行動に移ったのは犠牲者数が3名に達したときである。
その理由は桃色暴動達の一体がよしおのふくらはぎに蹴りを放ったことによる。


「痛っ…!何よ…ちょッ…痛いってば!やめてよ」


親の仇と言わんばかりにただひたすらによしおのふくらはぎにローキックを放つ桃色暴動。


(え?何?なんでゴブリンみたいな生き物にローキックされてんの?)


ひたすらにローキックを放つゴブリンとそれを一心に受けるよしお。
かなりシュールな光景であった。

よしおの脚へのダメージ蓄積が狙いか、はたまたガードの意識を下に散らすのが目的であろうか、ひたすらにローキックを繰り出すゴブリンの攻撃を受け、よしおのストレスも溜まっていく。


「痛ぇッつってんだろうがッ!」


さすがに頭にきたよしおは手にしたつるはしで目の前のゴブリンを何度も採掘する。
瞬く間に小人は血に塗れた何かへと変貌した。


「……」


多少冷静さを取り戻し、辺りを見回すと、中々に地獄絵図である。
何人かは剣と盾を持ち、恐れながらも戦闘しているようだが、恐慌状態に陥りただ泣き叫ぶ者は我先にと死者の仲間入りを果たす。


教官に至っては、戦々恐々ながらも戦闘をしている者に対しては


「がんばれがんばれできるできる絶対できるがんばれもっとやれるって!!
やれる気持ちの問題だがんばれがんばれそこだ!そこだ!
諦めんな絶対にがんばれ積極的にポジティブにがんばれがんばれ!!
俺だって新人の教育研修なんて殆ど手当てが出ないのに頑張ってるんだから! 」


などとエールを送り、泣き叫び今にも殺されそうな者に対しては


「諦めんなよ
諦めんなよ、お前!!
どうしてそこでやめるんだ、そこで!!
もう少し頑張ってみろよ!
ダメダメダメダメ諦めたら。
周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって。
あともうちょっとのところなんだから。
俺だってこの地下2階なのに、もしかしたらダイヤモンドとか採れるかもって思って頑張ってんだよ!
ずっとやってみろ!必ず目標を達成できる!
だからこそNever Give Up!!」


などと檄を飛ばし、モンスターが新入社員を狙い撃ちしているのを尻目につるはしで採掘を続け、手助けをしようとする素振りすら見せない。


そんな非現実的な光景にまたしても呆然となるよしおであったが、その目に桃色暴動のある一体が移る。


「ああっ!」


先程のローキックを食らったからであろうか、よしおは手に持っていたマカライト鉱石を放り投げてしまっていた。
そのマカライト鉱石を運び去ろうとする桃色暴動の一体。
自身の持ち物を持ち去ろうとする狼藉者を見てハイになったよしおは恐怖も忘れ、ただマカライト鉱石を取り返すことしか考えられない。


「てめっ!返せよッ!」


つるはしの変わりに床に置いていた剣を拾い、持ち去ろうとする桃色暴動を追いかけようとする。
が、目の前に尻餅をついた同僚と彼に今にも襲い掛かろうとする桃色暴動が行く手を阻む。


「だぁッ!邪魔だってッ!こんのヤロッ!」


行く手を阻む桃色暴動に向けてつるはしで採掘するように剣を両手で振り下ろす。
振り下ろされた剣は桃色暴動の頭頂から半ばまでめり込み、よしおの顔に血の化粧を施す。


「げっ…!抜けん!」


頭蓋の半ばまでめり込んだ剣は中々抜けなかった。
桃色暴動の死体に足をかけ、力を入れて引き抜こうとする。


「ふッんッ!」


よくやく剣を引き抜いたと共にどろりとした脳液がよしおの靴を汚す。
しかし、よしおはそんなことは気にならなかった。
気になるのは唯一つ、自信の持ち物を奪い去ろうとした不届き者のことだけだ。


「ああーッ!!」


しかし、どこを見渡してもよしおの心を奪ったあの桃色暴動は見つからない。
よしおが少し目を放した隙に奴はマカライト鉱石奪取という任務を見事果たし、戦場から離脱したのであった。


マカライト鉱石を奪われたよしおはあまりのショックに三度目の茫然自失となるのであった。





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さて、今回の新人初迷宮探索実践の結果がどうなったかというと、新入社員20名のうち生還者12名という中々の戦績である。
帰還の際、ポチやトカゲと何度か戦闘はあったが、桃色暴動との戦闘はなく、これ以上の人員の欠損を出すこともなかった。
桃色暴動の数が前回より多かったにもかかわらず、生還率は例年通りといったところか。
その要因はよしおの功績が大きい。
よしおが率先してあっけなく2匹の桃色暴動の命を奪った事から、生存していた新入社員一同は相手が個々ではそれほど強くない事を知る。
落ち着きを取り戻した一行が桃色暴動を全滅させるのにそれ程時間がかからなかった。
ちなみに敵前逃亡をした3名については食い荒らされた死体となって見つかった。その原因はポチである。
ポチは嗅覚が非常に優れ、獲物感知能力が高い。尚且つ足の速さも人間とは比べるべくも無い。
故に見つかってしまえば逃げ切るということはほぼ不可能なのである。

さて、率先して敵を倒し、いち早く同僚に落ち着きを取り戻させたよしおはこれ以降同僚からも教員からも一目置かれ、新人のエースとして期待をかけられていくことになる。
それはよしおが言語を話せない、書けないというハンデの克服に大きく貢献する事になるのだが、逆にエースとして率先して前に立ち、結果を出すことも求められてくる。

そんなことを知ってか知らずか無事帰還を果たし、自身の寮という安全な場所に到着した途端、迷宮探索中はハイな気分で実感できていなかった恐怖を今更ながらに実感し、布団を頭から被り、二度と行きたくねぇ、と恐怖に震えるよしおの姿があった。

彼の受難はまだまだ始まったばかりである。








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第四話設定

第4話の誤変換

津波…二つ名メーカーでは“忘れられた地獄(チェインサッドネス)”。下層から大量のモンスターが流れ込んでくる現象である。事前準備なしに巻き込まれればほぼ死ぬ。拠点防衛部はこの”津波”という現象から拠点を破壊されないよう守りきらねばならない。

ゴブリン…二つ名メーカーでは”桃色暴動(マニックパーティ)”。変換してみたらよしおの二つ名と似た響きを持っていたので採用。弱点はメンチビーム。不良相手には勝利を知らない哀れなモンスターである。


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あとがき
これからは更新が多少遅れることになります。


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