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No.14030の一覧
[0] 死んで覚える迷宮探索(よしお→異世界)[汚い忍者](2010/01/07 01:11)
[1] 第一話[汚い忍者](2009/11/28 08:01)
[2] 第二話[汚い忍者](2009/12/02 10:41)
[3] 第三話[汚い忍者](2009/12/02 10:48)
[4] 第四話[汚い忍者](2009/12/02 11:11)
[5] 第五話[汚い忍者](2009/12/02 11:19)
[6] 第六話[汚い忍者](2009/12/02 11:32)
[7] 第七話[汚い忍者](2009/12/02 11:41)
[8] 第八話[汚い忍者](2009/12/02 11:47)
[9] 第九話[汚い忍者](2010/01/12 01:40)
[10] 第十話[汚い忍者](2009/12/07 00:32)
[11] 第十一話[汚い忍者](2009/12/10 02:08)
[12] 第十二話[汚い忍者](2009/12/26 10:00)
[13] 第十三話[汚い忍者](2010/01/11 00:27)
[14] 第十四話[汚い忍者](2010/01/13 01:32)
[15] 第十五話[汚い忍者](2010/04/03 19:09)
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[14030] 第十一話
Name: 汚い忍者◆64ee84f7 ID:62ef03fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/10 02:08


株式会社 ブーヘンヴァルト強制収容所。
その社内規則にも様々な黒い規則が存在する。
その一つに換金制度というのがある。
社員は総務にて迷宮内で採集した資源を換金するが、実は誰がいくら換金したかというのは全て記録されている。
それは何故か。
社員の昇格の目安にするというのもあるが、一番の目的はサボリ防止の為でもある。
精力的に働かない社員は会社としては要らない人間なのである。
そのため、総務では資源発掘部に対して最低換金制度を実施している。
即ち、1日及び、1ヶ月で換金しなければならない最低金額が設定されているのである。
配属先や勤務年数によっても異なるが、よしお達新入社員の場合、一日に最低1000マネー、1ヶ月全体では30000マネー分の資源を換金しなくてはならないという規則がある。
前者の1日に1000マネー分の資源を換金しなくてはならないという規則、これを無断で破れば勿論ペナルティーである。
しかし、日によっては採集出来た資源が1000マネー以下になることもあるだろう。
そういった場合は総務窓口に置いてある免除届を出さなくてはならない。
これを提出する事によってその日の換金額が1000マネー以下であってもペナルティが免除される。
勿論免除届ばかり出している者にはペナルティが与えられてしまうが。
だが後者、1ヶ月全体で30000マネー分の資源を換金しなくてはならないという規則、これの免除はない。
この規則を守れない者は“解雇”である。
ただし、これは真面目に採掘していれば十分クリアできる条件でもある。


さて、よしおは無断欠勤を2日間続けて行い、現在給与-80%という罰則が与えられている。
支払われる給与に対しては-80%という補正が発生するが、幸いな事に総務で記録される換金額についてはこの補正は発生しない。
つまり10000マネー換金した場合、給与は-80%補正で2000マネーしか入手できないものの、総務ではしっかりと10000マネーを換金したという記録が残るのである。
しかし、減給が与えられた者の中には、手に入れた資源を知り合いに自分に代わって換金してもらい、減給を逃れようとする者もいる。
その対策をこのブラック企業がしていないはずはない。
罰則を受ける前のよしおであれば1ヶ月で30000マネー分の資源を換金すればよかった。
しかし、罰則を受けたものは、この1ヶ月の最低換金額が引き上げられるのである。
例えば無断欠勤を1日行えばこの最低換金額が10000マネー引き上げられ、1ヶ月に40000マネー分の資源を換金しなければならなくなる。
即ち、無断欠勤を2日間行ったよしおであれば、1日に換金しなければならない金額は1000マネーそのままだが、1ヶ月全体では50000マネー分の資源を換金しなければならないのだ。

例を挙げよう。
よしおがマカライト鉱石1個(10000マネー)と鉄鉱石5個(1000マネー)を採掘出来たとしよう。
そのまま全てを換金してしまっては、給与-80%の補正により2200マネーしか手に入らない。
そこでよしおは考えた。
藤吉郎に自分の代わりにマカライト鉱石を換金してきてもらおう!
自分は鉄鉱石5個を総務で換金すれば1日に1000マネー以上換金しなければならないという規則もクリアできるし、10200マネーを手にすることが出来る。
だがしかし、前者では11000マネー分の資源を換金したという記録が残るが、後者では1000マネー分の資源を換金したという記録しか残らない。
そのままよしおは毎日1000マネー分の資源のみを総務で換金し、残りの資源は藤吉郎に代わりに換金してもったとしよう。
さて、そうして1ヶ月たった時、全体でよしおは30000マネーしか換金できておらず、クリア条件の50000マネーには届いていない。
結果、よしおは“解雇”となった。

このように下手に知り合いに換金を頼むと1ヶ月全体の最低換金額をクリアできなくなる恐れがあるのだ。
罰則を犯した者に危機意識を持たせて更生させようとする総務の粋な計らいがそこには見られる。

現在のよしおの総換金額は本日手に入れた資源を全て換金しても25000マネー程度。
今月中に更に25000マネー換金しなくてはならない。
仮に残りの25000マネー分の資源を今月中に換金出来たとしても来月も50000マネー分の資源を換金しなくてはならない。
運よくマカライト鉱石を入手できれば良いが、手に入らなければ浅い階層で真面目に採掘していても50000マネー分には届かないのだ。
実はよしお、現状がかなり危険な状態なのである。




さて、社内に帰還し、総務で本日の成果を換金したよしおは急いで購買へと向かった。
いつものように展示テレビの前に立つよしお。
時刻は午後18:45である。


(何とか間に合った…)


早速ボイスレコーダーを展示テレビの前に置いて録音を開始するよしお。


『助けてくれー炊飯ジャー!』


『ククク…さぁ、ライス博士、貴様の好きなお米をたらふく食わせてやろう…!』


『な、なんて酷い事を…!お米がベタベタじゃないか!許さんッ!』


特撮テレビ番組“圧力戦隊 炊飯ジャー”を見るのはよしおのこの世界での数少ない楽しみの一つだ。
ただの特撮テレビ番組と侮ること無かれ。この番組、なかなかにレベルが高いのである。
恐慌状態のブルーが 既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様や空中高く放り上げられたイエローが 効力射でばらばらになったシーンなどとてもCGとは思えない。
マジでこれ実写なんじゃねぇ?と思ったほどである。
果たしてそれが、退職届を作成するために有用な番組か否かは置いておくとしてだ。

“圧力戦隊 炊飯ジャー”終了後も展示テレビ前で録音を続けるよしお。
結局、その日も目的の単語を録音する事は出来なかったのだが、“圧力戦隊 炊飯ジャー”以外にもよしおの興味をひいた番組があった。
それは“衰退した魔導、発展した科学”というドキュメンタリー番組であった。


その番組によるとなんとこの世界には魔導と呼ばれる魔法のような力が存在しているというのだという。
魔導という物がいつ頃確立されたものであるのかは分かっていない。
しかし、古来より、人類は魔導と共に発展してきた。
かつての魔導は誰もが使える物であり、日常生活や学問、戦争に用いられたりなど様々な場面で活躍したそうである。
例えば直線上に炎を飛ばしたり、矢に魔力を付与して貫通力を高めたり、鎧に魔力を込めて頑丈にすることが出来た。
一方で、科学の発展が魔導と比べて遅かったという訳ではない。
魔導の発展は科学の発展に依存している部分もあり、むしろ科学ありきの魔導であったと言える。
即ち、科学の分野で新しい発見が見つかる事により、魔導もそれに引っ張られて発展するという形であったのだ。
このように共に発展してきた科学と魔導だが、その二つには大きく相違点がある。
科学は普遍的な物であり、自然の法則を利用している為、何事にも高い効果を得られる。
対して、魔導は習得にも時間がかかり、加えて魔導を覚えたとしてもその力は個人差が大きく、かつ個人の力量の範疇を越える事は無い。
それでも当時は魔導というものは便利なものであり、当時の人々にとって必須の技能であった。
しかし、一人の男が生まれたことによってその状況は大きく変わる。

その男の名は、“斬鉄封神ディバインブレイド”。
彼は貴族の次男に生まれた魔導が全く使えない人間であった。
当時の貴族社会では魔導の力量がステータスの一種となっていた。
その為、彼は魔導が全く使えないことから落ちこぼれのレッテルを張られ、幼少期は辛い時代を過ごしたという。
必然、彼は自分を不幸にした魔導を憎み、その憎しみを全て注ぎ込むかのように科学にのめり込んでいった。

「魔導を殺す」

彼のその執念は見事実り、彼の科学分野での新発見は科学分野を爆発的に発展させるトリガーとなる。
そして、たった数十年で、これまで魔導で行ってきた事が科学で誰でもより簡単に行えるようになり、魔導で誰も出来なかった事が科学で誰でも簡単に出来るようになったのである。
数十年で爆発的に発展した科学、一方の魔導も発展が無かったというわけではない。
彼の発見は、皮肉にも彼の最も憎む魔導の発展にも確かに貢献したが、その発展は科学のそれに追いつくものではなかった。
結果、たった数十年で、科学>(超えられない壁)>魔導、という優劣が成り立ってしまったのだ。
見事に魔導に対して復讐を遂げた晩年の彼は魔導を憎むのではなく象が蟻を見るかのように見下していた。
当時の新聞記者の「魔導分野についてどう感じていらっしゃるか」という質問に彼はこう答えている。

「魔導?なにそれ、おいしいの?」

彼の没年後も科学の爆発的な発展は終わらない。
後年の彼の提唱した“科学技術最強伝説”に意を同じくした者達による新たな発見が次々と発表され、さらに戦争による軍事面での科学発展が続く。
魔導で炎を飛ばして攻撃するより、銃を使ったほうがいい。矢に魔力を付与して貫通力を高めても銃には敵わない。鎧に魔力を込めて頑丈にしても銃弾は止められない。
魔導の発展との差は開くばかりであった。

そうして現在、“斬鉄封神ディバインブレイド”の目論見通り、科学は魔導をほぼ殺し尽くしたと言ってもいいだろう。
今では魔道を覚えようとする者も僅かな人のみとなっており、魔導自体も保護指定の文化の一つとなっているとの事である。

たしかによしおの世界でも科学は爆発的に発展した。
この世界が猿頭とか馬頭とかいったファンタジー要素を含んでいるのに、現実的な科学技術ばかりで魔法的な要素がこれまで見られなかったのもこういう理由があったのだ。


もしこの世界で魔法なんて要素があるのなら自分も使ってみたいなー、なんて思っていたよしおも流石にこれでは諦めざるを得ない。
絶滅寸前の文化であるようだし、多くの時間を使って習得したとしても迷宮探索においては有効ではないのだろう。
少し残念に思いながら、よしおは社員寮の自室へと戻っていった。




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■現在位置は ブーヘンヴァルト強制収容所 自室 (K-9)です。■


「120ッ…!121ッ…!122ッ…!」


(うぉっ、ヤベっ!)


すぐに扉を閉めた。部屋を間違えたようだ。
扉を開けたらなんか上半身裸のリアルタイガーマスクがいた。凄い早さで腕立て伏せしてた。超強そうだった。
すぐに部屋番号を確認する。


(あれ、440号室?)


部屋番号はよしおの部屋で合っているはずである。
アレは一体何だったのであろうか。


(どういうことなの…)


扉の前で暫く考えていたのだが、答えは出なかった。
見間違いではないと思う。だけど、もう一度入って確認するのは怖い。


(とりあえずアレだ、1時間くらい時間潰してこよう。そしたらいなくなってるはずだ)


よしおはチキンだった。




1時間、購買の展示テレビ前で過ごして自室に戻ってきたよしお。
恐る恐る自室の扉を開いたのだが、中には誰もいなかった。
どうやら部屋を間違えていたのはよしおではなく、あのタイガーマスクだったのだろう。
安堵のため息をつきながら、自分のベッドに腰掛ける。
ボイスレコーダーに録音した言葉を勉強しなければならない。早速再生し始めたところで、


「あ」


ガチャリと扉を開いて入ってきたタイガーマスクとよしおの目が合った。
でかい。身長190cmくらいはあるんじゃなかろうか。

――お互い固まったまま無言が続く。


『い、いけません。秀雄さんっ!』『はぁはぁ、奥さん、見てください!奥さんの魔法ですっかりぬるぬるですよ!』
『ああっ!ごめんなさいっ!秀雄さん!私の魔法であなたの忍者服がぬるぬるに…!』


ボイスレコーダーだけが卑猥な声を出していた。


「えっと、あの…」


タイガーマスクも戸惑っているのか気弱な声を出している。
よしおも今の状況が理解できない。
だけど何かヤバい。だってあのタイガーマスク筋肉ムキムキなんだもん。


「ゴメンナサイ」


とりあえず公用語で謝罪するよしお。ごめんなさい、とさえ言っておけば何とかなる。
彼の機嫌を損ねるのは拙いのだ。食物連鎖的な意味で。


「え、あ?あ、いえ、こちらこそ、すいません…」


なぜかタイガーマスクも謝罪した。
超強そうなタイガーマスクが気弱な声を出しているのは少しシュールだった。

―そしてまたしても二人は無言となる。


『あぁっ!もうダメ!魔法の呪文唱えちゃうっ!』『くっ…忍者服がからみついてっ…!』


いい加減五月蝿くなってきたので慌ててボイスレコーダーの電源を切る。


「……」


「……」


「あ、あの!桃色回路ストロベリースクリプトさんですよね?」


直後、いきなりの大声で自身の二つ名を呼ばれ、ビビるよしお。
初対面の人からも“桃色回路ストロベリースクリプト”なんて呼ばれるとはどこまでこの二つ名が広まっているのだろうか。
よしおはげんなりとした顔をしながら頷いた。


「自分、あの、虎次郎って言います。今日は助けていただいてありがとうございました!」


タイガーマスクの大きな体が深く折り曲がり、何故か自分に頭を下げたのだ。


(え?ヤダ…何…何なの…?怖い…)


頭を下げられる覚えのないよしおは明様にうろたえた。
そんなよしおの様子を見て、虎次郎と名乗った男は続ける。


「あの…今日、迷宮内で桃色暴動マニックパーティに襲われてたところを…」


そういえば、今日新入社員が桃色暴動マニックパーティに襲われていたのを助けた覚えがある。
このタイガーマスクもその中の一人だったのだろう。
しかし、


(どう見てもタイガーマスクの方が強そうじゃねぇか…)


この筋肉モリモリタイガーマスクが桃色暴動マニックパーティに負けるとはよしおには思えなかった。


(―擬態、擬態なのか)


何らかの目的のため敢えて自分を低く見せるタイガーマスクとそれを看破しようとするよしおの相手の裏の裏を読み合う極めて高度な心理戦、知能戦がきっと始まるのだ。


「ええと、すいません。今日から自分もこの部屋で暮らすことになりまして…あの…よろしくお願いします」


タイガーマスクはそう言ってよしおに握手を求めてきた。


(マジか…)


なんとこの筋肉タイガーが自分のルームメイトになるのだという。
もしかしたら握りつぶされるんじゃね?と引き攣った笑みを見せながらもよしおは彼の握手に応じるのだった。


結局、その日は隣の彼が怖くて殆ど勉強出来なかった。






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■現在位置は ブーヘンヴァルト強制収容所 自室 (K-9)です。■


翌日AM6:44、奇妙な音によしおは目が覚めた。


「シッ…!シッ…!シッ…!」


眠気眼を擦りながらむくりと起き上がるよしお。
目に入ったのは筋肉ムキムキのタイガーマスクがスクワットしている光景だった。
眠気が一気に吹き飛ぶ凄惨な朝の情景だった。
その光景に、うわぁ…、な視線を向けるよしお。
そんなよしおに気付いた虎次郎はスクワットを中断して、申し訳なさそうに声を掛けた。


「あ、す、すいません。起こしてしまいましたか」


彼は急いでタオルを取り、鍛え上げられた鋼の肉体に光る汗を拭き始める。


「おはようございます。桃色回路さん」


「…オハヨウ」


公用語で朝の挨拶をするのだが、部屋内のほのかに香る漢の匂いに早朝の清々しさを全く感じ取れないよしおであった。





AM8:45。
業務開始時刻の15分前である。
しかし、集合場所に集まっているのは同期の者達だけではなく、昨日の新人達も揃っていた。
彼らの教育を担当する教官が「今日はこいつらに付いていって勉強してこい、な!」とよしお達に新人の世話を丸投げしたのだという。
しかし、これはよしお達にとっても悪い事ではない。戦力が増えることは歓迎すべきだ。
ただし、彼らが戦闘時に使い物になるという前提が必要だが。
新人達にとっても自分達だけで潜るよりも少しでも経験のあるよしお達と潜ったほうが安全だろうし、加えてモンスターの対処法についても学ぶことが出来るだろう。
そういう訳で、今回の迷宮探索は先輩、後輩の合同で行う事となったのである。





地下3階の採掘場へ向かう一行。
その道中によしお達にとってはもはや雑魚となってしまった桃色暴動マニックパーティ達が立ちはだかったのだが…


桃色暴動マニックパーティ共が来やがったぞッ!」


「脅えてんじゃねぇよッ、新人共ッ!舐められたら“不運ハードラック”と“ダンス”っちまうぞ!あ?分ってんのか!?」


「オラオラ!新人共ッ、お客さんが襲ってきたぞッ!奴らの首をぶった切ってやる事だけを考えろッ!」


「そこッ!蹲ってんじゃねぇッ!立ちやがれ!心の中でブッ殺すと思え!そしたら既に行動は終了してんだよッ!」


初の合同迷宮探索は何か軍隊の訓練のような有様であった。
新入社員達はよしお達とは違い、脅えを見せる者が多かったのである。
必然、襲いかかってくる桃色暴動達。
昨日の迷宮探索で彼らを助けた時、よしお達は自分達だけで桃色暴動を殲滅してしまった。
つまり、新入社員達は自らの力で桃色暴動を倒すいう経験を積めなかった。
その結果、新入社員達は桃色暴動が1体1体ではそれ程強くないということを知識で知っていても体では理解できてはいないのだ。
理論と実践は違う、それが現状にまざまざと表れていた。

対してよしおと同期の皆は入社してからまだ8日目であるものの、幾度も共に死線を越えてきた者達でもある。
彼らの後輩を死なせたくないという思いは自然、厳しい教育姿勢となって現れていた。
先輩頼みではなく自分達で処理する。その事を覚えなければ迷宮探索を行うにおいて生きていけないのだ。


「そこの図体でかいヤツ!さっきから桃色暴動マニックパーティにローキックばっか喰らってんじゃねぇよ!その筋肉は飾りか?あぁん?」


よしおが見ると丸い筋肉の塊に向けて桃色暴動マニックパーティがひたすらローキックを放っていた。
しかし、何故ローキックなのだろうか。意味が分からない。
さらにもっと意味不明な事に、桃色暴動がローキックを放っている対象が頭を抱えて蹲った筋肉モリモリの虎次郎であるという事だ。


(シュールだ…)


恐らく虎次郎は桃色暴動マニックパーティより遥かに強い。
というか、このパーティ全体の中でも誰よりも強いのだろう。
しかし、誰よりも臆病なのだ。
その気になれば桃色暴動マニックパーティなぞ秒殺できる。
しかし、彼の臆病すぎる性格がそれをさせないのだ。
よしおに対してもキョドっていたあの態度はその臆病さから来るものだったのだろう。

確かにその気持ちも分かる。よしおだって慣れない内は桃色暴動マニックパーティが怖くてならなかった。
しかし、慣れてしまえばどうってことはない存在なのだ。


(どうしたもんかね…)


彼がその臆病さを克服してくれれば凄まじい戦力になってくれるのに、と溜息をつくよしお。

結局、蹲ったままローキックを喰らう彼を放っておけず、その桃色暴動の頭をマシェットナイフで叩き割る。
マシェットナイフの切れ味は上々だったのであるが、よしおはそんな事も気にならず如何に彼に臆病さを克服させるかを考えていた。


程なくして戦闘が終わり、新入社員の何人かは恐れながらもどうにか桃色暴動を倒して、それ程強くないということを体でも学んだようである。
対して、虎次郎はと言うと戦闘が終わってもずっと蹲ったままである。
同僚から戦闘が終わった事を告げられて漸く起き上がった彼のその顔は大粒の涙でぐしゃぐしゃであった。
猫背の姿勢のまま袖で涙を拭う彼の姿によしおは何処か自分の姿を重ねてしまうのであった。




■現在位置は ブーヘンヴァルト迷宮 3F (D-11) です。■


どうにか地下3階の採掘場まで辿り着いた一行。
それぞれが早速採掘を開始した。

そして、採掘を続けて5時間、帰還の時刻と相成った。
本日のよしおの採掘結果は以下の通りである。

石つぶて × 10 = 50マネー
鉄鉱石 × 1 = 200マネー
銀鉱 × 3 = 1800マネー
銅鉱 × 15 = 750マネー

銀鉱の出が良かった為、マカライト鉱石は取れなかったもののかなり良い成績である。
ただし、減給によって、口にするのは憚られるような補正がされてしまうが。
昨日の迷宮探索でマカライト鉱石を入手出来たものの、アレは滅多に採掘できるものではない。
減給2ヶ月なんて生活できるはずがないのだ。

一刻も早く退職届を提出せねばならない、と改めて決心するよしおであった。




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■現在位置は ブーヘンヴァルト強制収容所 自室 (K-9)です。■


迷宮探索を終え、無事社内に戻った一同。
よしおはと言うと、総務で資源を換金した後、購買でのいつもの日課を終え、自室へ向かっていた。
そして、自室の扉を開けると、目に入ったのはどんよりとした空気を纏ってベッドに座っているタイガーマスク。
思わず扉を閉めて逃げ出したくなったが、彼は同じルームメイトなのだ。問題を先延ばしにしても意味が無い。
仕方なくよしおは部屋に入る。
そんなよしおに気が付いた虎次郎はよしおの方向に顔を向け、


「あ、あの…桃色回路さん。今日はお恥ずかしい所を見せ、見せてしまいまして…あの、すいませんでした」


と暗い顔をしたまま謝り、俯いてしまった
今日の桃色暴動との戦闘でずっと脅えて蹲っていたことを謝っているのだろう。
しかし、脅えてしまうのも仕方ない事だろう。
よしおだって初めて桃色暴動と戦ったその夜は布団に包まってガタガタ震えていたものである。
よしおにとっては彼の悩みは共感できることだ。

暗い俯いたままベッドに座っている彼の肩によしおは手を置く。
そうして、顔を上げた彼の目の前でグッと親指を上げて見せた。

気にする事は無いぜ!という意味が伝わってくれればいいのだが、とよしおは心配していたのだが、彼が「ありがとうございます」とよしおにお礼を言った事からどうやら伝わったようである。

少しばかりか、明るくなった彼の顔を見て、よしおは頷いてみせた。




自分のベッドに戻り、ボイスレコーダーを用いて言葉の勉強を開始するよしお。
翻訳ピアスを外してボイスレコーダーから流れてくる音声を自分の口でリピートする。


『おまえ……!『再点火』したな!』


「オマィエ シャイセンカ シナナ!」


『お前の信じるお前を信じろ!』


「オマィエ ヒンズズ オマエオヒンジオ!」


『SHINと繋がったままこんな街中歩くなんて頭がフットーしそうだよおっっ』


「シント ウナガッママ コンナ マチヌカアルンナテ タマガフトー シソーダオォ」


公用語は中々発音が難しい。キチンと発音出来ているのかよしおにはわからないのが辛いところだ。
暫くそうやって勉強を続けていたよしおであったが、


「afe yoshioskfepo saeriojiog fepakeo was feowpakvff?」


「ん?」


隣で虎次郎が自分に話しかけていることに気が付いた。

待ってくれ、という意味を込めて掌を前に突き出すジェスチャーをして、急いで翻訳ピアスを耳に装着する。
ピアスを耳に装着し終わったので、親指と人差し指で輪っかを作り、OKサインを出す。


「あ、もう大丈夫ですか?」


「ハイ」


よしおは虎次郎のその質問に頷きと共に答える
一体どうしたというのだろうか。


「あの…公用語の勉強をされているんですよね?」


(あ、もしかして煩かったのかな)


隣にルームメイトがいるのも気にかけず、声に出して公用語の勉強をしていた。
煩わしく思われるのも仕方がないのかもしれない。
よしおは自身の配慮の無さを謝ろうとしたのだが、


「自分でよろしければ…その、お手伝いしましょうか…?」


なんと藤次郎は自分の勉強を手伝ってくれると言ってくれたのだ。非常にありがたい。
なんと良い奴なのだろうか。見た目は強面でムキムキな筋肉であるが、彼は優しい筋肉だった。
よしおがそれを断るはずも無い。


「アリガトウ、ハイ、アリガトウ」


「い、いえ!気になさらないでください!」


「アリガトウ、アリガトウ」


こうしてよしおは虎次郎に公用語を教えてもらえる事となったのである。




そうして、虎次郎に家庭教師をしてもらって約1時間が経った。


「オ前ノ信ジウお前ヲ信ジオ!オ前ノ信ジウお前ヲ信ジオ!」


「大分良くなってきましたね」


やはり講師がいるのといないのとでは大きく違う。
特定の言葉に対してのみだが、よしおの発音も大分良くなってきたようであった。


「アたマやフットーシそーだオーっ」


「あ、そこ違います。ピアス外してください。…OKですか?頭がフットーしそうだよおっっ、です」


「アタマがフットーしそーだオーっ」


「Good!」


果たしてこの言葉は日常会話に有用かどうかは考えてはいけない。
どんな言葉でもいざという時は使い道があるものなのである。
覚えておいて損はないはずなのだ。


桃色回路とムキムキ臆病タイガーマスクとの夜はこうして更けていくのであった。








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設定

斬鉄封神(ディバインブレイド)…トマース エソジン。某発明王がモデル。二つ名は斬鉄封神(ディバインブレイド)


科学と魔導…魔導とは生物の精神力なんていう曖昧なものを利用する力。その為、科学で魔導を再現することは出来ない。魔導科学みたいな二つを組み合わせたものは無い。


圧力戦隊 炊飯ジャー…よしおの楽しみの一つ。リアリティを追求するため、CGは一切使わないという監督のこだわりが見れる特撮番組。以下、圧力戦隊炊飯ジャー設定。

戦隊紹介
圧力戦隊炊飯ジャーは敵の命乞いを聞くため淡々と死と隣り合わせでいるのだ!

隊員
ジャンケン弱いぜ炊飯レッド!
親が金持ち炊飯ブルー!
節約上手な炊飯グリーン!
ピクルス大好き炊飯イエロー!
男の前では甘えん坊炊飯ピンク!


宿敵冤罪財団ゲッゲッはノリがいいぜ!

合体ロボ
名称 スーパー炊飯U
データ 身長:70メートル 馬力:63万馬力
各隊員マシン
炊飯レッドアーツ号(リムジン)
炊飯ブルーセレブ号(スノーモービル)
炊飯グリーンフォックス号(戦車)
炊飯イエローファニー号(潜水艦)
炊飯ピンクハニー号(スクーター)
合体決めゼリフ やればいいんでしょやれば!

テーマソング
人に辛くペットに優しく
言葉責めで倒していくぜ
駆けろ!嵌めろ!かき混ぜろ!
地球のためなら不正にも目をつぶる

”オカネデナントカナリマセンカネ”
勝利の為の合い言葉

アウェイ&スモール
昨日の晩飯なんだっけ

またお前か!炊飯ジャー!
あっち行け!炊飯ジャー!

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あとがき
仲間に資源渡して換金すりゃいいんじゃね?という意見がありましたが。

そ の 発 想 は な か っ た。

急遽、それを防止するためのシステムを考えることに。
一応作っては見たものの何か穴がありそうで怖いのさ。

圧力戦隊炊飯ジャーは戦隊メーカーでの変換を参考にしつつ作成。
二つ名メーカー以外にも色々あるんですねぇ。




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