師匠がわざわざ村まで見送りに来た、その後はお祭り騒ぎで村人総出で見送られた。
とりあえず礼を言いながら手を振って<ロバ>に手綱をあてる。
旅立ちの時は何時も歌を歌うのが俺の旅のスタイルだがこんなに大勢の見送りは初めてだった。
「ここまで盛大に送り出されちゃ歌える歌は限られるよなあ」
そんな事を考えて口から出た歌は・・・・
「さーらーばラファートよー、またくるまーでーはー♪」
田中敬一郎22歳、アニオタ、エロゲオタ、ミリオタと三拍子そろった違いのわかる漢。
「まさか、ここまでJASRA○追いかけてこないだろうな?」
遠い国から 第ニ話 「会合」
その日の晩、夜営しながらちょっと後悔していた。
村から町に出るには三山越えなければならないと聞いていたのだが、バイクの三山と、非舗装荷馬車の三山では時間が違いすぎた。
「ま、念のため余裕持ってきたから大丈夫だが、道理で村の連中町に行きたがらねえわけだ」
村の連中に教わってた三山目の水場で日が沈まないうちに夜営の準備を整えた。
初心者キャンパーに多いのだが、晩にならないと食事の準備をしない連中がいる。
キャンプ場などでは問題ないが周り数キロ無人(こんな片田舎では山賊も営業できない)な所では日が出ているうちにテントは無論だが
火も起こしておかないと痛い目を見る事になる、参考までに。
「頑丈でおとなしいが足が遅いとはこういう事か」
傍らで草を食べてる<ロバ>を多少恨めしい目で見つつ、バイクもウマも動いてナンボだと自分を慰める。
なに、制空権の確保は問題ないんだ、西部のドイツ軍よりマシだわな。
晩の食事にパンと干し肉をあぶり、残り二本のジョニ黒を開けて星空を見上げた。
「こうして星空を見上げると某ネズミーランドじゃねえと痛感させられるなあ」
独り言をつぶやきながら、見知った星座が無いのを改めて確認しつつ<二つの月>を眺める。
「ラジオも聞けねえし、寝よ」
どうせこの旅の間は何度も見る事になるだろうから早めに寝る事にした。
座ってるだけでもケツが痛いというのもあったが、噂に聞く軍用輸送機の座席と荷馬車の座席、比べたらどうなのだろうか?
興味深い点ではある。
一夜明けた後日頃の行いが良いからだろうか、綺麗に晴れ渡った道をのんびりと進む。
尾根を越えると遠くに
「村よりは大きい」
町が見えてきた、昼飯は町で食えそうだ。
村の連中の話だと酒も飲めるそうだから当初の予定通りこの町で一泊する事にする。
酒も満足に飲めない生活は体に良いかもしれないが、俺的にはストレスが溜まりすぎる生活だと思う。
タバコは存在すらしてないのでだましだまし吸ってきたが、残りは後ろのリュックにある二箱だけだ。
おかげでこの二年、無理やり減酒、減煙をしいられたのだがその分体力はちょっと上がった気がする。
STR値とCON値共に1UPと言った所だろうか?
後はSANチェックが無い事を祈るだけだ。
この後は特に問題なく順調に旅を続けられた、主要街道を使えたので夜営する事なく(この時代一人の夜営はヤバイ)
ダイセの町までたどりつけた、およそ二週間と言った所だろうか?
町の人間に<閉じられた塔>の場所を聞くと半日ほどで行ける事が解ったのでその日のうちに行く事にする。
旅をしてて気がついたのだが、一般人はもとより兵士も魔術師にあまり関わりたがらない。
普通の人だと町に入るだけで税金がかかるのだが税金どころか荷物もチェックされる事が無かった。
おかげで楽に旅をする事が出来たのだが寂しかったのも事実である、宿屋でも酒場でも誰も話しかけてこないのだ。
時々大きな町で
「うちの領主様が是非にと」
などと言って来る場合があったが、碌な事になりそうにないのがたやすく予想できたので(実際師匠にも関わるなと言われた)
黙って見返してやると大体すぐに転がるように逃げて行った。(「あ?」とか言うとてきめん)
珍獣、猛獣の類と勘違いされてるのではないだろうか?
くそう、無知蒙昧の輩め、何時か粛清してやる。
町から外れた草が生茂る細い道を二時間ほど行くと大きな塔が見えてきた、師匠の塔の三倍はある。
「もしかしてうちの師匠、言うほどたいした事が無いんじゃなかろうか?」
などと考えつつ進んでいくといきなり甲高い音を立てて右手の木の幹に矢が突き立った。
「そこまでよ、それ以上塔に近づく事は許しません!」
凛とした声が森に響き渡った。
内心あせりつつ(矢を浴びせかけられる日本人などそうはいないだろ?)逆行の人影に声をかけた。
ちょっとちびりそうになったのは絶対にナイショだ。
「問答無用で矢を浴びせかけるのがエルフの礼儀かね?」
逆行の人影は耳が長かった。
暖炉の薪がはぜる音を聞きながら改めて挨拶をした。
「魔術師サバドフの弟子、魔術師ケーイチだ」
「ニアと呼んで下さい、塔の守護をしている」
俺の自己紹介より短く答えた、こやつ、なかなか出来るな・・・
茶色のセミロングの髪、目の色は明るい灰色、ちょっと緊張気味らしいが整った顔、背は俺と同じくらいかな?。
ぜひ、ノンフレームの眼鏡をかけてスーツを着て教壇に立って欲しいものである。
後は胸があれば完璧なのだが・・・・
あの後、胸のプレートを改めて見せて塔の横にあるニアの小屋へ案内してもらって今話しているのだ。
「端的に言おう、俺の役目は塔の結界を解除しあるべき姿に戻す事、だ」
俺は躊躇無くそう言った。
その言葉に彼女は複雑な表情を浮かべながら答えた。
「私の役目はこの塔を守る事だ、王国と魔術師の間で約定は交わされています」
「そしてその約定は「事態に対処できると認められるまで」となっていて、それを判断するのはサバドフ、そうだな?」
彼女が発言を終わるや否や俺はそう畳み掛けた。
「・・・対処が可能なのですか?」
彼女は暫く間をあけた後姿勢をただし問いかけてきた。
俺は両肘をテーブルの上に置き、顔の前で手を組み言った
「そのためのNervです」
こういうシュチェーションならこれしかないわな、セリフ。
案の定彼女は考え込んだ後言ってきた。
「その、ネルフとか言うのはなんでしょうか?聞いた覚えが無いのですが?」
知ってたら怖いって。
その後、二人で小屋を出て数分歩き塔の前までやってきた。
塔の扉の前には師匠に教わってた通り杖が地面に突き立っていた。
「*******」
師匠に教わったとおりワードを唱え杖を地面から引き抜いた、第一目標はクリアである。
「結界は解けたのでしょうか?まだ塔の周りが魔力を帯びているようですが?」
隣のニアが不審をあらわに聞いてきた。
「塔の加速されてた空間が、こっちと同調するまで時間がかかるだけだ。明日には入れるだろう」
丁寧に答えてやったのだが
「時間を止めたのでは?」
とか間違いを見つけた2chネラーの様に突っ込んできたので
「観測点の違いだ」
と、小屋へ向かって歩きながらそっけなく言っておいた、どうせ詳しく説明しても理解できないだろう。
俺も完全に理解してるわけではないしな。