そこはある種の楽園だった。
剣を振るい魔法の飛び交う、
空を駆け風と踊り、炎を吐いて天を焦がす。
なんというファンタジー。
そんなファンタジー世界にログインして早1年、今日も僕は割と元気です。
とあるVRMMOのはなし2
VRMMOというジャンルのゲームをご存知だろうか。
このヴァーチャルなリアリティでマルチなメンバーのオンラインゲームというジャンルは、世に広まり既に10年は経過していた。
栄枯盛衰の理に従い、現れては消えていく仮想世界の数々。
そんな中、正式スタートから8年以上は経つというのに今なお生き残っている
老舗ゲーム、『風前の灯火オンライン』。
命名した奴とか超死ね、と思ったが多分既に死んでいる。
というのも、このゲーム。
なんと終末期医療の一環なのである。
金とか地位とか有り余っているが身寄りのないご老人たちが大量の資金人材を注ぎ込んだ結果がこれだよ! とばかりに
豪勢な仕様なのである。じじい超スゲー。
なんせアカウント取得こそ自由に出来ないものの、
プレイするにあたり必要な機材一式無料配布、クライアント使用料も無料、
全てタダ。商売っ気ナシである。
リアルで手足欠けていようが目が見えなかろうが風前の灯火(笑)だろうが関係なしに
ゲーム内では(特殊な設定をしない限り)五体超満足。
おまけに体感時間10倍速というちょっと余命が気になるお年頃の方にも安心な設計。
あんなにボロボロだった現実の1年がすっきりと頑丈な仮想の10年に! なんということでしょう!
正に至れり尽くせりである。
リアルでは管に繋がれジェルベッドでプカプカ浮かぶ枯れ果てた肉体を介護士が必死こいて世話してる気もするけど、
そんな事からは全力で目を背けて僕らはぬるっとファンタジー世界を満喫してます。
「満喫してます、まる。っと」
「坊主なにしよるん?」
「今回実装された奴。中からネットにブログ上げられるんで始めてみたり」
「日記みたいな奴やったっけ。よう解らんしええわ」
「ブログが解らないのにゲームシステムは使いこなすこのジジイ、只者ではない、まる」
はたかれた。