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No.11997の一覧
[0] Atlus-Endless Frontier-【VRMMORPG物】[黄金の鉄の塊](2012/01/18 00:00)
[1] Prologue Atlus [黄金の鉄の塊](2012/01/12 00:24)
[2] 第一話 ログイン エントランスレイヤー[黄金の鉄の塊](2012/01/12 01:49)
[3] 第二話 始まりの地 亡霊の荒野[黄金の鉄の塊](2012/01/12 01:50)
[4] 第三話 初戦 獣王の狩り[黄金の鉄の塊](2012/01/12 18:38)
[5] 第四話 配達任務 騎士団 修練場 商業区[黄金の鉄の塊](2012/01/12 19:57)
[6] 第五話 配達任務 神殿 外周区[黄金の鉄の塊](2012/01/19 23:25)
[7] 第六話 配達任務完了 ログアウト[黄金の鉄の塊](2012/01/12 20:00)
[8] 第七話 スキルトレーナー 熱血指導[黄金の鉄の塊](2012/01/12 22:33)
[9] 第八話 穢れた沼地 マッドスライム[黄金の鉄の塊](2012/01/12 22:35)
[10] 第九話 検証 共闘ペナルティ[黄金の鉄の塊](2012/01/13 17:52)
[11] 第十話 リベンジ マッドスピリット[黄金の鉄の塊](2012/01/14 21:34)
[12] 第十一話 ラウフニーの悲劇[黄金の鉄の塊](2012/01/14 21:35)
[13] 第十二話 新クエスト[黄金の鉄の塊](2012/01/14 21:36)
[14] 第十三話 メリルのリアル話[黄金の鉄の塊](2012/01/14 21:37)
[15] 第十四話 大蜘蛛の巣窟[黄金の鉄の塊](2012/01/18 00:21)
[16] 第十五話 マンイーター[黄金の鉄の塊](2012/01/14 21:38)
[17] 第十六話 マンイーターの事情[黄金の鉄の塊](2012/01/14 21:39)
[18] 第十七話 クラスシップ[黄金の鉄の塊](2012/01/16 22:58)
[19] 第十八話 決闘[黄金の鉄の塊](2012/01/16 22:59)
[20] 第十九話 エンチャント[黄金の鉄の塊](2012/01/18 21:38)
[21] 第二十話 魔鉱石[黄金の鉄の塊](2012/01/16 23:01)
[22] 第二十一話 お友達[黄金の鉄の塊](2012/01/16 23:01)
[23] 第二十二話 お揃い[黄金の鉄の塊](2012/01/17 21:44)
[24] 第二十三話 ずっと一緒[黄金の鉄の塊](2012/01/17 21:44)
[43] 第二十四話[黄金の鉄の塊](2012/01/20 09:28)
[44] 第二十五話[黄金の鉄の塊](2012/01/20 17:48)
[45] 第二十六話[黄金の鉄の塊](2012/01/30 20:36)
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[11997] 第十六話 マンイーターの事情
Name: 黄金の鉄の塊◆c9f17111 ID:2aca42ed 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/14 21:39
 前線基地の南門を潜り、ギルドクエストの報告と換金をするために傭兵隊詰所へとやってきた。
 冒険者ギルドと傭兵隊はあまり親密な関係とは言い難いので、冒険者ギルド所属であるメリルは外で待たせて、今回は俺が纏めて換金する事になった。
「おう、生きて戻ったか。ドラゴンの狩り見ただけでビビってた頼りねぇ新入りが、もう蜘蛛狩ってるだなんて感慨深い物があるねぇ」
「茶化すなよ。ジーファさんに娼館通いしてた事バラすぞ」
「バラすなよ!絶対バラさないでください!」
 うろたえるランクスに【大蜘蛛討伐依頼】と【大型ワーム駆除依頼】の指定収集品であるドロップアイテムを渡す。
「ほー、結構な数じゃねぇか……計算がめんどくせぇな」
 トレードウインドウを確認し、感嘆の声を上げるランクス。

 ランクスがアイテムを鑑定しながら、首を捻りつつ買い取り金額の計算をしている間に、掲示板に貼られたギルドクエストの依頼書を確認する。
 大蜘蛛狩りは、効率も報酬も申し分無いが、正直あまりマンイーターの側には近付きたくない。
 奴は手下を殺されてもなんとも思っていないようだが、そもそも腹がいっぱいだから殺さないなどと言い出す奴だ。
 かなり気紛れな性格をしていそうだし、そもそも相手はモンスターである。
 あの言葉を完全に信用する気にはなれない。
 大蜘蛛との戦闘で片手剣術スキルも55.0近くまで上昇しているので、少し格上を相手にしてもいいだろう。
 ざっと確認した所では、【コボルト討伐】あたりが妥当だろうか。
 ランクとしては大蜘蛛に劣る相手だが、人型モンスターなので相手にするには大蜘蛛を狩れるだけの力量が必要とされている。
 スキル値55.0付近であれば丁度良い相手と言えるだろう。
 ただ、コボルトは特定の場所に密集している訳ではなく、五匹程度のパーティーを組んで前線基地の周囲をうろついている。
 倒そうと思えば、それらを探し出さなければならず、狙って狩るのは難しい。
 虚族の棲み処まで行けばまとまった数がいるが、距離がある上にオークやオーガ、リザードマンなどの強敵と行動を共にしている。
 とてもではないが、まだ敵う相手ではない。
「結局大蜘蛛狩りしか無いか……そういえば、例のクラクス村の大型モンスター討伐はどうなったんだ?」
「話し掛けんな、計算が狂うだろ……大型モンスター?あれはまだ騎士団と冒険者ギルドと調整中だ。適当に腕に覚えのある奴を送って倒せば済む話だってのに、あちらさんには色々事情があるんだとよ」
 という事は、あのクエストが発生するのはもうしばらく後か。
 しかし、クラクス村もプレイヤーのスタート地点なので、もしかしたらもう誰かに倒されている可能性もある。
「ふう……計算だけは慣れねぇな。ほら、終わったぞ。これが今回の報酬だ」
 報酬は、【大蜘蛛討伐依頼】が7sと、【大型ワーム駆除依頼】が5s、ドロップアイテムの売却額が6s70。
 倒した数から言えば、悪くない成果だ。
 ランクスに礼を述べて詰所を後にする。


「待たせたな」
 廃屋の壁にもたれかかっていたメリルに報酬の半分を渡す。
「あんがと。ねぇ、今、さっきのパーティーの人が通ったよ」
「さっきのパーティーって、マンイーターのか?生き残りがいたとは思えないが」
「いや、やっぱロストしたんじゃないかな。初期装備だったし。同じキャラデータで新しくキャラ作ったんだと思うよ」
「なるほど。ロストしてもまた闇の民で始めるっていうのは、なかなか気合入ってるな」
「うーん……けど複雑そーな顔してたよ」
「……一応顔を合わせないように気を付けるか」
 こちらの安全を考えれば仕方ない事とは言え、彼らのメンバーを見殺し同然の事をした以上、合わせる顔がない。

 ポーションの在庫確認のためにマールの道具屋に向かう途中、四神像の噴水がある広場にさしかかると、男女が言い争いをする声が聞こえてきた。
 見ると、ダークエルフの男性プレイヤーに、ライカンの女性プレイヤーが詰め寄っている。
 側には腕を組んで押し黙っているグリーンスキンの男性と、うろたえた様子で女性プレイヤーを諌めるノスフェラトゥの女性プレイヤー。
 二人欠けてはいるが、先程大蜘蛛の巣で出会ったパーティーだ。
「ほら、ガイ、あれ」
「ああ……随分と険悪な雰囲気だな」
 数こそ少ない物の、普段の前線基地からは考えられない数のプレイヤーが遠巻きに彼らを眺めている。
 プレイヤー同士の交流が希薄な前線基地ではあまり見られない光景に、好奇心が刺激されたのだろう。
 だが、当の本人達はそれどころでは無い様子で口論を繰り広げている。

「だから、いつまで待ってたって意味ないっつってるでしょ!ここに来るつもりならもうとっくに着いてておかしくないじゃない!あいつらもあんたに愛想尽かしてどっかいったのよ!」
「そ、そうとは限らないだろう!宿命値が低い種族のスタート地点は、選択した開始地点を中心に広範囲の中からランダムで決まる!あの二人は、きっとすぐ合流できないような遠い場所に……」
「はっ!そんな能天気な考えだから、ノールの馬鹿に煽てられてあんな化物と戦おうだなんて言い出しちゃった訳ね。付き合わされるこっちの身になってもらいたいわ」
「な、の、能天気だと……!大体メイシャだってあいつに挑むのは納得していただろう!」
「それはっ……!私は最初は反対したじゃない!それなのにあんたが、俺達ならやれるとか言いだすからっ!」
「ふん、他人に意見を左右されているのはメイシャ、君のほうだろう!」
 ゼルと呼ばれていたリーダー格の男と、メイシャと呼ばれているライカンの女性プレイヤーの言い争いは熱を増すばかりだ。
 やがて、腕を組み押し黙っていたグリーンスキンの男が、溜息を吐いて踵を返す。
「おい、ラドル、どうした?どこへ行く!まだ全員集まっていないぞ!」
「付き合っていられん。俺はここで失礼する。ここに来たのもパーティーを抜ける事を伝えるためだしな。世話になった」
「ラドル?おい、待て!ラド……」
「ほら見なさいよ。私だけじゃなくてラドルも同じ考えだったって事よ!グリーヌ、あんたはどうなの?」
 突然話を振られたノスフェラトゥの女性プレイヤーは、身体を大きく振るわせ、視線を彷徨わせる。
「わ、わ、私は……みんな集まるならと思って……けど、やっぱり、もう……」
「ああもうっ!あんたのそのウザいキャラもイライラすんのよ!もういいわ、私も落ちる。落ちてキャラ作り直すわ。もう会う事はないわね。さよなら」
「な、待てメイシャ!くそっ!グリーヌ?君は違うよな?もう一度二人でパーティーを作ろう。あんな奴らは放っておいて……」
「チッ、あのヒス女、ブスのくせにふざけた口ききやがって……ああ?あんたになんかもう価値ないし。ここで私もさよならよ」
「え?おい、グリーヌ?待って、待ってくれ!」
 突然態度を豹変させたノスフェラトゥの女性が立ち去ると、四神像の噴水前には、力無く項垂れたダークエルフだけが残された。
 しばし呆然としていた彼も、やがてシステムブックを開くと、何も言わずにログアウトしたようだ。
 奇妙な静けさの中、魂が抜けたように立ち尽くすダークエルフの姿はなんとも言えない物悲しさを漂わせていた。

「うわぁ……ネトゲ怖っ!最後の女の人なんかキャラ完全に変わってたし……」
「ただ狩り場で会っただけの相手とは言え、ちょっとこれは心が痛いな……」
 彼らはパーティーとして、かなり長い間行動を共にしていたようだったが、やはり男女が六人も集まればお互い何らかの不満はあったのだろう。
 マンイーターと相対した恐怖と、キャラクターのロストは、それを爆発させるに足る起爆剤といった所か。
「やっぱ人が集まれば合わないとこってのはあるよねぇ。ガイもあるでしょ?私に対して思うところとか」
 メリルの悪戯っぽい問いに、暫し黙考する。
「突っ込みがきつい。女とは思えない。行動がガキっぽい。精神的にももうちょっと年相応の落ち着きが欲しい。今思いつくのはこんなところか」
「私はあんたのそういう所が嫌いだわ」
 ガツンガツンと二の腕を殴りつけられる。
 しかしこちらは既に金属鎧だ、軽く叩く程度では何のダメージも無い。
「おいよせ鎧がへこむだろ。そういう所が駄目だって言ってるのに」
「まったく……ほら、さっさとポーション買いにいくよ」
 メリルはそっぽを向いて商業区へと歩き出す。

 最後の罵り合いを見る限り、マンイーター戦での敗北は切っ掛けでしかなく、彼らのパーティーの崩壊は遠からず避けられない物だっただろう。
 言い合いの内容が、ロストした事についてはほとんど言及する事無く、仲間に対する不満に終始していた事からも、それは容易に想像出来る。
 冷たい言い方になるが、あの程度の喧嘩別れ、ネトゲではさして珍しい光景ではない。
 ……いや、あそこまでひどいのはなかなかお目にかかれないか……。
 何にせよ、上手く戦闘を指揮するだけでなく、メンバーを纏め上げるのも、またリーダーの努め。
 となれば、あの結末はリーダーたる彼の力不足と言えよう。
 ゼルと呼ばれた気の毒な男の再起を祈り、噴水前の広場を後にする。


「おや、いらっしゃいませ。何か入用ですか?」
 マールの道具屋のこじんまりとしたカウンターの奥には、若いライカンの男性が立っていた。
 彼がマールの父親なのだろう。
「いらっしゃいませ、です」
 棚の陳列の確認をしていたマールがぺこりと頭を下げる。
 カウンターにこそ立っていないが、日常的に手伝いをしているのだろう。
「ああ、あなたがマールの言っていたドケチのお兄さんですか。当店の店主で、マールの父のマロウと申します。今後ともご贔屓に」
 爽やかな笑顔で失礼な事を言うマロウさん。
「それで、本日は?先程仕入れから戻った所ですので、在庫はたっぷりございますよ」
 表示されたショップウインドウには、言葉通り下級ポーションの在庫が復活していた。
「それじゃあ……下級ポーションを三つと、応急薬セットを貰えますか」
「私も同じのを。あ、ポーションは五つで」
 たった三つではあるが、あるのと無いのとでは心持が大分違う。
 この世界のポーションは、治癒呪文を練り込んだ水薬なので、飲んだり浴びたりするだけで瞬時に体力が回復する。
 回復手段に乏しい闇の民には、無くてはならないアイテムだ。
「はいはい、それではこちらになりますね。3s50cと5s50cですが、贔屓にして頂いているようですので、このくらいでいかがでしょう」
 ウインドウに、いくらか値引いた金額が表示される。
 マールの父とあらば、さぞや強敵かと思ったのだが、まさかこちらが言う前にむこうから値引いてくれるとは。
「お父さん、またそうやって簡単に安くして……」
「いいじゃないか、昨日はこちらの手落ちでご希望に沿えなかったのだから、このくらい」
 憮然とした表情で呟くマールを、笑いながら宥めるマロウ。
「いやぁ、しかしこの調子では、またすぐにポーションが品切れになってしまいそうです。これほど需要が高まっているとわかっていれば、もう少し多目に仕入れてこれたのですが、これも商売の難しさですか」
 まるで気にした風もなく気楽に笑うマロウと、そんな父を見て諦めたような溜息をつくマールに礼を述べ、道具屋を後にする。


「しかし、ようやくポーション入手か。別ゲーじゃ腐るほど手に入る当たり前のアイテムなのに、やたら時間がかかったな」
「しかも高いしね。ほんと緊急用で、気楽には使えたもんじゃないわ」
「お前は自己回復SA持ってるからいいだろ」
「【ネイチャーリカバリー】の事?あんなのまともに使えないわよ。ディバインエナジーの消費は激しいし、瞬時回復じゃないし、回復速度も遅いし、回復量も少ないし、詠唱も長いし、再使用も長いし、周囲に植物が少ないと効果は減るし。完全に罠SAだわ」
「そりゃ最下級のだからだろ。もっとスキル値上がれば実用的なのも覚えるじゃないか」
「まぁ、確かにそうだけど。でも、ほとんどがリジェネ系だからね。やっぱ回復手段に関しては闇の民は不遇だわ」
「あるだけマシだろ。破壊神系なんて上級SAに【ライフドレイン】があるだけだぞ」
「けど、あれ説明見る限りじゃかなり使えそうじゃん。魔術は?一応治癒魔術あるでしょ」
「あれは魔術で肉体の治癒速度を強制的に速めるって設定だからな。スタミナまで消費するから戦闘中はちょっと使いにくい」
「あー、スタミナ減るのはねー。体力回復したって、スタミナ枯渇したら結局死ぬもんね」
「ま、回避するか上手く防御するかして、ダメージを抑えるしか無いって事だな。幸いステとスキルには恵まれてるんだし」
 道すがら愚痴り合っている内に、修練場が見えてきた。

「あっ!メリルと傭兵君!よかったぁ、ちゃんと帰ってきてくれたぁ」
 シャミルがこちらの姿を認めると、システムアラートがクエストの達成を知らせる。
 クエストを達成した報酬により、宿命値が50増加したが、正直感覚的には何も変わらない。
 最低でも宿命値マイナスから脱しなければ、光の民の領土に足を踏み入れる事すら出来ないので、いずれは上手く宿命値を稼ぐ方法を探さなくては。
「良かった良かった。ちゃんと言いつけ通り巣の奥には行かなかったんだね!」
「それがね、巣の奥には行かなかったけど、マンイーターってのには遭っちゃったんだよね」
 メリルの言葉にシャミルは目を見開いて驚く。
「何で!?あいつが巣の入り口まで出てきたの?……良く生きてたねぇ」
 シャミルは、メリルがマンイーターと例のパーティーについての顛末を語ると、納得したように頷く。
「シャミル……教官。マンイーターってのは一体何なんだ?何か知っているなら教えて欲しい」
 以前の口ぶりや、今の反応からして、彼女はあの化物について、何らかの情報を持っているようだ。
 もはや必要に迫られてもあいつと戦うのは拒否したいが、情報を仕入れておくにこしたことはないだろう。
 シャミルは、暫しの逡巡の後、前線基地の過去と、マンイーターについて説明してくれた。
「……この前線基地が、昔はアーカス村って呼ばれていたのは知ってるよね?」

 前線基地となる前の、かつてのアーカス村は、大陸南東部の僻地でこそあるものの、南西の鉱山資源と周囲を囲む森林資源に恵まれた豊かな村だった。
 しかしアーカス村は、かつての大戦の折に別の大陸を占領した虚族による、アトラス大陸への再侵攻の被害を真っ先に受ける事となる。
 虚族の襲撃にさらされたアーカス村は、一夜にして多くの村民が虚族の凶刃に倒れた。
 一晩の内に大陸南部を制圧されるという異常事態に、闇神の末裔四種族の酋長達は光の民に救援を要請し、光闇連合軍を投入しての大規模な大陸南部奪還作戦が決行された。
 結果、多数の犠牲を払いながらも、アーカス村の奪還に成功。
 周囲を防護柵で囲み前線基地とし、大陸南部から虚族を一掃する掃討戦が開始された。
 しかし、劣勢を悟った虚族は、異界の門を開きこの世ならざる者を呼び寄せる秘術を用いて形勢の逆転を図る。
 虚族が異界の門を開いた事により、かつての肥沃な森林地帯の一部は、未来永劫草木すら生える事無く、日が沈めばアンデッドが闊歩する亡霊の荒野となった。

「その異界の門から呼び出されたのが、あのマンイーターだよ」
「じゃあ、あいつは虚族の手下なのか?なら、いくら犠牲を嫌うといっても、あんな近くに放置しておくのは危険なんじゃないか?」
「確かにあいつを呼び出したのは虚族だけど、あいつは虚族の言うことなんて聞かないんだ。異世界の生物であるマンイーターにとって、生意気に命令する虚族も、周囲を鬱陶しく取り囲む連合軍も大差無かったんだろうね」
 敵味方の区別無く、手に掛けた者の生気を啜るその姿から、付いた呼び名がマンイーター。
「私もマンイーターとの戦いに参加したけど、形勢は圧倒的に不利だった。どれだけ捨て身で攻撃したって、相手は殺せば殺すほど回復しちゃうんだからね」
「そんなのを、どうやって追い払ったの?」
「追い払ってないよ。君達の時と同じ。連合軍の大半がやられて、私達が全滅を覚悟した時、あいつはもう食べれない、眠いって言い残して、突然森の奥に引き篭もったんだ」
 そして山奥に巣を構え、山の麓を子蜘蛛達のねぐらとし、巣の奥で子蜘蛛が運んでくる餌を食べるだけの生活を送るようになったのだという。
「その後、何度か討伐隊や腕自慢の傭兵や冒険者があいつに挑んだけど、結果は全滅。巣に引き篭もって出てこないから、下手に手出しせず静観せよっていう指令が出て、以来あいつはずっと巣の奥に引き篭もったまま」
「なるほどね。序盤のボスどころか、ラスボスより強い裏ボスって奴か」
 最も強いボスは、実は序盤のマップに封印されていました、なんてのは、そう珍しくも無い展開だが、あんな誰でも手を出せる状態で配置しておくのは卑怯だろう。
「基本的にぐーたらな性格なんだろうね。満腹だから帰れとか、お喋りしたら満足したから帰れとか言われて、君達みたいに生還したケースもあるけど、やっぱ殆どの場合は殺されて吸われちゃう。運が良かったね」
 確かに、期せずして奴と遭遇したのは不運ではあったが、今こうして生きている事を思えば不幸中の幸いか。

 しかし、話を聞く限り、マンイーターはボスの中でも特殊な存在なようだ。
 これから先、あんな化物を相手にしなければならないのかと思うと暗澹たる気分だった。
 しかし、どうやら全てのボスがあんな桁違いの存在である訳ではないようでほっとする。
「あいつの処遇にはお偉いさん方も頭を悩ませてるみたいね。今は引き篭もっているからいいけど、あいつが本気を出したら、倒せるのかわかんないよ」
 仮にも、現時点で一線級のプレイヤーを一撃で屠る相手だ。
 しかも奴の口ぶりから言って、ただ周囲に群がるうるさい虫を払った程度の感覚なのだろう。
 スキルが上昇し、ステータスが完成したとして、あんな化物を倒す事が出来るのか?
 むしろ交渉術スキルをマスターして、懐柔する方が現実的とすら思える。
「ともかく生きててよかったよ。一度遭ったのならあいつの恐ろしさは十分わかったよね?これからも巣の奥へは行っちゃ駄目だよ。約束だからね」
 再びあいつと相対する事を想像するだけで怖気が走る。
「頼まれても遠慮するよ」
「にゃははは、ですよねー。さて、蜘蛛狩ってまたスキルが伸びたみたいだね。SA覚えていく?」
 目の前に習得可能スキルアーツリストが表示される。
 今回も相変わらずの擬音指導だったが、どーん!とかグシャア!などといった擬音の飛び交う力の抜ける指導は、マンイーターの恐怖に蝕まれた心には、どこか心地よかった。


 既に日は完全に沈み、篝火が灯されている。
 俺達は夕食を取るために、再び中央区の酒場へとやってきた。
 この世界で食事を取っても現実では何の意味も無いが、味覚はあるので美味しい料理を楽しむ事は出来るし、何より空腹というパラメータが存在するので食事を取るのは欠かせない。
 空腹は明確に数値化されておらず、長時間食事を取らないと空腹状態という状態異常に陥り、ステータスの低下とスタミナの減少率増加というペナルティを負う。
 通常であれば、空腹感に耐えかねて何らかの食事を取る物だが、空腹状態を放置し続けると餓死する。
 現実と同じような空腹感を感じるので、気付いたら餓死していた、という失態はそうはないが、それでも定期的に食事を取り、携行食を常備しておくのはこの世界で生き抜くための基本である。
 今宵のメニューは、メリルは様々な野菜と、何の肉かよくわからない分厚いハムをパン挟んだミックスサンド、俺はフリッグのシチューと、昼にメリルが食べていたでかい貝入りのパスタ。
 値段の割に味は可も無く不可も無くといった程度だが、保存食と比べれば月とスッポンである。
 食事を楽しみながら、今後の狩り場について話し合う。

「やっぱ大蜘蛛狩りだろ。マンイーターと遭遇したのは不幸な事故だし、入り口で蜘蛛を狩るだけなら問題は無いはずだ」
「うーん、私はマンイーターの側は避けたいけど……他に良い狩り場が無いんだよねぇ」
「無い訳じゃないが、やっぱりスキルの問題とか、かなり遠い場所だったりで、一番安全で効率が良いのが大蜘蛛狩りなんだよな。マンイーターがいなければ、だが」
「ま、あのパーティーが連れてこなければ遭遇しなかっただろうしね。もし遭遇しても、話は通じる相手みたいだし」
「どうかな。空腹だったら問答無用で襲ってくるかもしれないぞ」
「人がなんとか折り合い付けようとしてるのになんで邪魔すんのよ」
 脛を蹴られた。
 食事中は鎧を着込んでいないので、強い衝撃を感じる。

 現在の俺の装備はプレートアーマーではなく黒地に赤糸で刺繍が施されたノスフェラトゥの民族衣装だ。
 重い鎧を常に着込んでいれば、普通に歩いているだけでもSTRやVITなどのステータス上昇が見込める。
 なのでなるべくなら鎧は常に着ていた方が良いのだが、流石に食事時くらいは楽な格好でいたいので、酒場に来る前にラウフニーの店に寄って安い私服を購入したのだ。
 前回の嫌がらせに近い5sの値切りの埋め合わせのためにも、今回は大人しく定価で買おうと思っていたのだが、ラウフニーは俺の姿を見た瞬間悲鳴を上げやがったので、お望み通りガッツリ値切ってやった。

「ともかく、マンイーターに関しては遭遇しないのを祈るとして、とりあえず大蜘蛛で50後半、出来れば60越えるくらいまでは狩りたいな。そうすれば鉱山周辺でゴブリンを狩れるはずだ」
「ゴブリンかぁ。そういえばまともな人型モンスターってまだ戦った事ないね。スピリットは、人型っていうか人形だったし」
 かつてアーカス村の主要産業を支えた鉱山地帯は、現在虚族の雑兵であるゴブリンに占領されている。
 ゴブリンは小型の人型モンスターで、ドワーフよりも低い身長とやせ細った身体を持つ小鬼だ。
 知能は低く、戦闘技術は然程高くはないものの、素早い動きが厄介で、見た目に反して力も強い。
 略奪した棍棒やナイフ、ショートソードなどで武装しており、粗末ながらも防具も着込んでいる序盤の強敵だ。
「それと、出来ればゴブリンに行く前に神術スキルの修行をしたいな。スピリットあたりを相手に」
「確かに、神術スキルって戦闘中にたまに使うくらいだからなかなか上がらないもんね。そろそろちゃんと修行しないとマズいか。私まだ30.0にもなってないよ」
「俺はキャラメイクの時に取ったからな。35.0は超えてるが、スピリットで45.0くらいまでは上げられるはずだ」
 スピリットを相手にするならば、報酬の美味い【ソウルジェム収集】が残っているうちにやるべきだったのだが、残念ながらもう締め切られている。
 蜘蛛狩りに行く前に、金策も兼ねてスピリットで神術上げをするのが最善の手だったが、あの時はあれ以上スピリット狩りを続ける気にはなれなかったので仕方ない。
「じゃ、近接スキル60.0程度まで大蜘蛛、その後神術スキルを修行して、その後ゴブリン。これでOK?」
「そうだな。それを当面の育成スケジュールにしよう」

 席を立つ前にシステムブックを開き、リアルの時刻を確認する。
「とりあえずリアルで昼の十一時半くらいまでは狩り続けたいが、そっちは平気か?」
「あー、家事当番なんだっけね。んじゃ私もそのへんで落ちるわ。どうも時間の感覚狂うなあ」
「こっちで一日経過しても、リアルじゃ六時間だからな。ま、いずれ慣れるだろ。それじゃ、早速行くか。昼飯前に60.0目前までは上げておきたい」
 席を立ち、再び大蜘蛛の巣へと向かう。

 大蜘蛛狩りは、問題無く進んだ。
 マンイーターに挑戦するパーティーも現れず、マンイーターが姿を現す事も無かった。
 時折ソロのプレイヤーの気配を感じるが、どうやら危機探知スキルを伸ばしているプレイヤーは少数派なようで、大抵ワームの奇襲を受けて逃げ帰るか、廃村の至る所を這い回る大量の蜘蛛とワームに手を出しあぐねて諦めて帰っていった。
 小川の冷たい水は、水筒に入れたぬるい水よりスタミナ回復効果が高い事も判明し、大蜘蛛狩りは当初の予定を大きく上回る効率を出している。
 メリルも最初こそ山道の方を気にして動きに精彩を欠いていたが、大蜘蛛と戦っている間にマンイーターに対する負けん気でも出てきたのか、目に見えて動きが良くなっていた。
 気がつけば予定時刻である十一時半よりも前に、片手剣術スキルは60.0目前、他の戦闘技術スキルや生物学スキルも57.0に届こうとしていた。
 初期に格闘術を取ったメリルとは、大分差が詰まったとはいえ、まだ彼女のほうがスキル値は高い。
 早ければ、今戦っている大蜘蛛を倒す頃には、メリルは格闘術が60.0を超えるだろう。

「へっ?」
 不意に、大蜘蛛を殴りつけたメリルが、呆気に取られたような声を上げて動きを止める。
「おい、何ぼけっとしてる。攻撃食らうぞ」
 大蜘蛛の節足を防御しながら檄を飛ばすと、メリルは慌てたように一度大きく下がって距離を取る。
 しかし、一度集中力を欠いたせいか、動きにいつものキレがない。
 様子がおかしいので、手っ取り早く戦闘を終わらせるため、【シールドチャージ】で大蜘蛛の動きを止め、【チャージストライク】に繋げる連携技で蜘蛛の息の根を止める。
 この連携技だけでもかなり有効だが、さすがに盾防御SAの手数不足を感じる。
 資金不足で盾防御SAの習得を後回しにしていたが、次に基地に戻ったら盾防御SAもいくつか習得しなければ、大蜘蛛より格上の相手は厳しいだろう。
 解体を済ませてドロップアイテムを回収すると、メリルもなんとか大蜘蛛を倒した所だった。
 しかし、ドロップアイテムの回収もせずに、システムブックを開いて首を傾げている。
「どうした?」
 メリルは、無言でシステムブックの一部を指差す。
 背後に回って覗きこむ。
 メリルが指差していたのはスキル情報ログ。

【格闘術スキル0.1上昇】
【格闘術スキル値が60.0に達しました】
【スキル60.0達成により、クラスシップシステムがアンロックされました】
【格闘術スキル60.0達成により、クラスシップ【格闘家】を獲得しました】

 そこには、これまでに見た事が無い情報が表示されていた。


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