「で、山門に行くか? 水門に行くか?
どっちも和風の、時代劇に出てくる様な町だが、山門は城下町で、水門はその名の通り港町だ」
「ああ、その件だが、馬に金を使いすぎたんで、今度にするよ」
「そうか、まあ焦る必要もないしな。
今日は騎獣の試し乗りでもすればいいんじゃないか?」
「そうだな、じゃあ態々すまなかったな」
兎に角、馬に名前を付けようかな。
サムライの馬だし、品種は外国種っぽいけど、和名がいいよな。
む、む、む、よし。
命名、月白(げっぱく)。
こいつは白馬だから丁度いいだろう。
「よし、いくぞ月白!」
ぽっくり、ぽっくり、ぽっくり。
町中で走らせると危ないからな、うん。
…… ちゃんと走らせるまで、かなり時間がかかったよ。
翌日。
「まあ、騎獣を買ったのですね」
チルヒメが開口一番にそう言った。
「うん、月白って言うんだ、グラニって品種だって」
「俺のはランドドラゴンのブルームだ」
「…… グラニ? って、スレイプニルの劣化版だっけ?」
え? れ、劣化版?
「ミッシェル、その言い方はどうかと思いますよ」
「…… ああ、思い出した」
思い出したって、マテ、グラッチェ。
「グラッチェ…… 」
「いや、グラニは良い騎獣だぞ。
確かに能力的には、スレイプニルより全体的に落ちるが、あれは課金アイテムだからな。
しかも1ヶ月毎に、課金が必要になるタイプだ。
つまり電子マネーが切れた時点で、持っている人が居なくなる。
それを考えたら、馬型の騎獣でグラニ以上の物は無いって事だ。
すごいじゃないか」
「馬じゃなきゃ、もっと凄いのもいるんだろ?」
「そこのランドドラゴンだって、速さじゃグラニに負けるけど、硬さや攻撃力じゃ勝てるからね」
ミッシェル、教えてくれてありがとう。
「まあ、ランドドラゴンはグラニより高いしな。
それよりも、ランドドラゴンは普通に売っているが、グラニはレア種だ。
あそこは、買いで間違いなかったさ」
「大丈夫ですよ。
ランドドラゴンくらいの値段でしたら、レベルが上がれば1日の狩りで稼げますから。
グラッチェさんの言うとおり、レア種が出たのならば、積極的に買いですよ」
「まあ、チルヒメまでが、そう言うなら、これで良かったと思うことにするよ」
「しかし、2人が騎乗を取ったのであれば、僕たちも移動手段を考えた方がいいかもしれませんね。
僕たちの移動に併せたら、せっかくの騎獣が無駄になりますよ」
これはキールの言。
「私はもう直ぐ永続召喚を修得するはずですから、そうしたら召喚獣に乗って移動もできます。
選ぶつもりの召喚獣は、グラニには勝てないでしょうが、ランドドラゴンくらいのスピードは出ます。
そうしたら、移動手段が3つに増えますので、1人ずつ相乗りすればいいかと」
「あ、実はあたしのブラウンも、もうすぐ人を乗せて移動が出来る様になるんだよね。
1人乗りだけど、普通の馬くらいの速度は出るから」
「うーむ、それなら僕も騎乗スキルを持った方がいいでしょうか」
「いや、デス娘がチルヒメの召喚獣に乗るとして、キールは俺かヨシヒロが運べば済む事だ。
まあ、自分で騎乗スキルを持ちたいのなら別だが」
「そういえば、デス娘はもうアサシンになったの?」
「…… まだ」
「デス娘は武器に大鎌を使っていますから、”短剣マスタリー”も修得しないと、アサシンにはなれないのです。
デス娘にとっては捨てスキルですが」
「なるほどねー」
「と言う事は”隠身”を取ったのか」
コクリと頷くデス娘。
「隠身って何?」
「隠身は書いて字の如く、シーフの身を隠すスキルだ。
軽身と併せて、更に回避力が上がるが、タゲを取り難くなる。
これから、お前の前衛としての必要性が、上がるって事だな。
それに隠身の一番の特徴は、ハイディングの技だ。
ハイディング中は、探知能力を持った敵以外はノンアクティブになる。
しかも他プレイヤーからも見えなくなる」
「それは凄いな」
「でもPT狩りの最中は、ハイディングは使えませんよ。
前衛なのに、タゲを取れないんですから。
まあ、やるとしたらバックスタッブくらいですかね。
それもPTで対応出来ない程の敵に、当たった時くらいですが」
「キール君、PTで対応出来ない程の敵なら、ハイディングしたまま逃げた方がいいって。
まあBOSSになると、ハイディング効かないけどね」
「なるほどねー」
今日の狩場はオーク村。
単体でも、それなりに強いオークたちが、ワラワラと湧いて出る危険地帯。
でもPT数も多いので、敵が分散されてちょうど良い湧き具合だ。
PT狩りに騎獣は邪魔になると言うので、インベントリ(手荷物)に突っ込む。
すごい事できるな。
出てくる敵はオークばかり。
刀も使いやすい身長だし、充分に狩りきれるハズ。
「ぐっ、避けれないと痛いな」
軽身に続いて隠身を取ったデス娘は、ひらりひらりと避けていく。
騎士になって鎧と盾を新調したグラッチェは、当たっても対して痛くなさそうだ。
「…… ぐはぁっ、サムライ弱えぇぇ」
「ヨシヒロ君、サムライが強さを発揮できるのは、もう少し後になってからですよ。
スキルの取り方如何によっては、PT最強も夢じゃない…… かもしれませんよ」
「かも、ってなんだよ」
「単純に他の人たちも、強いですからね。
正統派騎士のグラッチェ君はPT最強の壁である事は変わらないでしょう。
デス娘さんもアサシンになって、スキルを修得したら更に殲滅力を増すはずですし。
殲滅力だけで言うならチルヒメさんが、範囲攻撃である水の大魔法を覚えたら最強でしょうね。
ミッシェルさんも弓スキルが伸びてますし、ペットもそのうち増えるでしょうからね。
バランス的には一番良いかもしれません。
僕ですか? 役割が違いますからなんとも」
やっぱり、サムライって弱い?
「大丈夫ですよ、ヨシヒロさん。
前にも言った様に、見切りスキルを取れば攻撃力も回避力も上がります。
それに足りないと感じたなら、忍者の”忍遁”スキルも修得できますし」
「忍遁? それってどんなスキル?」
「忍者用の隠身と言った処だな。
サムライでも修得が可能だ。
隠身との違いは、回避力は上がるがタゲを取り難くなるような効果は無いことだな。
それにハイディングは、忍遁の方が効果が高い。
その分、隠身の持つ敵を探知する技術を修得しない」
「忍者の場合は、敵の探知系は別のスキルで覚えるからねー。
全体的に忍者は、ソロで隠れながら狩る時と、PTの一員として狩る時の戦法って言うか。
狩り方がハッキリと変わるのよ」
「なるほど」
それにしても、ミッシェルはグラッチェと話す時は下っ端言葉なのに、俺とか他の人に話す時は違うのな。
つまりサムライとしては、このレベル帯は我慢の子って事だな。
いつかは輝く時が来ると信じて、黙々と狩っていく。
できるだけ長く輝きたいな……
「ヨシヒロさん! 後ろ!」
へ?
あ、死んだ。
何だ?
「散れ!
ヨシヒロ、そのまま町には戻るな!」
そう言ってグラッチェが、あ、死んだ。
ナニコレ。
デカくてクロいオークが、いっぱい仲間を引き連れて、踏みつけて行った。
「村長さんは無理だねー」
ああ、ミッシェルも死んでる。
「村長?」
「…… BOSS」
あ、デス娘は生きてる。
「こんな処でBOSSなんか出てくるのか」
「本当の名前はオークキングだ。
村長と呼ばれてるが、高レベルダンジョンのBOSSと同等の強さだからな。
俺たちじゃ、触れた瞬間にこうなる」
「でも何で死に戻りしないの?」
「高レベルの奴等が何人かいただろ?
BOSS狙いで来てる奴等だから、倒した後に蘇生を頼むんだ」
「なるほど」
……。
……。
……。
……。
あ、キールが高レベルっぽい司祭さんを連れて来た。
「ありがとうございます」
「いえいえー」
俺たちは無事に蘇生された。
「これで、しばらくは村長は出ない。
デスペナを取り戻すぞ」
おー!
……。
「なあ、チルヒメ」
「何ですか?」
「水の魔法を覚えたんだよな。
召喚魔法ばかり使っているのは、早く永続召喚を修得したいから?」
「いえ、それも一応はありますが、オークは土属性ですからね。
水魔法は効果が薄いのです」
「なるほど。
でも、何で水を取ったの?
魔術師の人って火が多いみたいじゃない」
「ええ、低レベル帯では、基本的に威力の強い火、そしてオークやオーガ、トロールと言った土系に強い風が好まれます。
でも高レベル帯では、火系の敵が多く出ますし、範囲魔法の使い勝手は水が一番なんです。
私は本職の魔術師にはならないので、1系統を選ぶなら水になりますね」
「なるほど、レベルが上がった時のためか」
「僕なんかは、レベル80くらいまでの上がりやすいレベル帯を、何度も繰り返す遊び方をしてましたから。
火風の方が有効な様にも思えますが、もうやり直しは利きませんからね。
水魔法の選択は当然とも言えますか」
キールは遠い目をして言う。
今、職業を選びなおせるとしたら、司祭にはならないんだろうな。
夕方には、もう一度村長の襲撃を受けたが、それでもミッシェル以外はレベル32になった。
「ミッシェルはブラウンがいるから、上がりにくいのか」
「私も永続召喚を今日で修得しましたから、明日の狩りからはミッシェルと同じペースになりますよ」
「まあ、レベル差が5くらい開いた跡で、ブラウンをインベントリに入れて狩れば、直ぐ追いつくからね」
「そうなの?」
「お前も猪狩りで、俺に直ぐ追いついただろ?」
「…… ああ、そうだった」
「いっそ、僕とデス娘さんが騎獣かペットを飼えば、みんな同じ負担にできますが」
「そこまでする必要は無いんじゃないかな?
…… いや、飼いたいなら別だが」
「うーん、飼うとしても、もう少し司祭のスキルを充実させての方がいいですから、あまり意味はありませんね」
「まあ、先の話だな」
「姐さん、今日は合戦に出るッスか?」
「だから姐さんは止せと…… まあ折角、騎士になったしな。
そうだヨシヒロ、お前も来るか?
ギルドに入らなくても、合戦は出れるから」
「合戦かー。
月白も、荷物の中だけじゃ可哀想だしな」
「いやいや、出るなら弓で後衛だぞ。
俺だって後方から、指示を出すだけだし。
馬で特攻なんかしたら、瞬殺されるからな」
「…… そうなんだ」
「大した戦力にはならないけど、雰囲気くらいは知ることができると思うよ」
「まあ、まだ33だしな」
俺はグラッチェのギルドと一緒に合戦へ出た。
「よろしくお願いします」
「おお、初陣だってな、まあ死ななければOKだと、思ってればいいさ」
「よろしくな、まあ、運がよければ敵に当たらない裡に終わるからな」
「そうなんですか?」
「ウチは一応、上位ギルドだからな。
マスターが不在になってるんで、大将は別のギルドだが、位置は大将のすぐ近くにいる。
魚鱗の陣だから、なかなか敵には当たらないさ」
流石に多数のギルド同士が、一同に会する合戦。
千人超えているんだろうな。
こっちの大将はディレイⅩⅧ世と言う騎士だ。
レクイエムとトップを争うギルドのマスターらしい。
「敵は鋒矢か…… 」
「鋒矢?」
「魚鱗は三角形の形で、弱い部隊を先頭に徐々に強い部隊を充てていく陣形だ。
鋒矢は本来は矢印型なんだが、このゲームでは大将以外のトップ陣を先頭に持って行く陣形だな。
ちょっと不利だな。
よし、ディレイに連絡だ、ウチが回って敵大将に突っ込む。」
…… マジ?
「ヨシヒロはどうする?
ここに残ってもいいが、多分敵はここまで来るぞ?」
「うーん…… 付いて行く」
「よし、大将の許可は出たな。
馬に乗れ、レクイエム! 遊撃隊となって、敵大将に突撃する!」
「「「応!!」」」
うひょー。
月白がスピード型なので、レベルが低くても充分について行けるが、俺はギリギリだ。
いや、速いって。
もちろん速度が勝負の別働隊だから、仕方ないといえば仕方ない。
先頭のグラッチェが、ギュンギュンとカーブして行くのに併せて、みんな曲がって行く。
俺の技能じゃ無理だから、月白に全部まかせる。
賢い月白はみんなに併せて、ギュンギュンと曲がってくれる。
俺はしがみついているので精一杯。
おおお、敵の後部が見えて来た。
…… 。
「ヨシヒロ君、俺たちはここで待機だ。
グラッチェたちが突っ込むのに併せて、弓で援護するんだ」
アーチャーの、ぱぴっとさんが指示をくれた。
「了解です」
よし、俺も弓を撃つか。
おお、グラッチェが突っ込んでいって…… あ、瞬殺。
弓を撃ちながら、ぱぴっとさんに聞いてみた。
「勝てそうですか?」
「判らんね。
俺たちが敵の大将を潰すのが先か、敵の先頭がディレイを潰すのが先か。
俺たちが敵を殺し切れなきゃ、そこで負けだね」
「分の悪い賭けですか?」
「いや、むしろ分は良い方かな。
まず殺し切れない事はないだろうし、大勢同士の激突になっている向こうと、小勢同士のこっちを比べたら。
まあ、こっちの方が有利だね」
「へぇ」
あ、終わった。
「今日は随分と楽に勝ったな」
「そうなんですか」
「普段はもっと梃子摺るかな。
敵が極端な作戦にでたからね。
決着もあっけなく付く」
「そういうものですか」
「みんな良くやってくれた!」
俺は合戦が終わって、レクイエムのギルドアジトにいる。
終わった後のミーティングに、出るように言われたんだ。
「今回のレクイエムの働きを評価して、いくつかのレアアイテムを提供されている。
まずは第1功のレティーに、この中の一つを進呈する。
選んでくれ」
レティーシャさんはギルドの副マスターで、マスターが別キャラになった今、1番の実力者だ。
「じゃあ遠慮なく、この回復の指輪を貰うわね。
それから、ヨシヒロ君を連れて来たのはマスターだから、言いにくいと思うので私が言うけど。
彼に対する礼として、この千鳥を進呈しようと思うけど、どうかしら」
「いいのか?」
と、グラッチェ。
「ヨシヒロ君の、ビギナーズラックに助けられたと思えばいいじゃない」
ギルドのみんなは、レティーシャさんが言うなら、それでいいと言った感じだ。
「え、でも、俺は本当に何もしてないですし」
俺は遠慮しようとしたのだが。
「いいのいいの、ギルドがゲストで呼んだ人には、呼んだギルドがお礼を渡すのが慣例だしね。
合戦に勝てば、ギルドの経験値は増えるけど、ギルドに入ってない人には関係ないし。
ここで只で返したら、レクイエムがケチって事になっちゃうわよ。
それに、ぶっちゃけギルド内の刀を使える人は、全員もっと良い物を持ってるしね」
「そうそう、他のキャラが使えるなら、そっちに回す手もあるけど、そうもいかないしな」
「気にせず持っていけって」
…… 。
「ありがとう」
「ヨシヒロ、その刀は確かレベル50まで使えないから、銀行にでもしまって置いたほうがいいな」
「へー。
クリティカル率が上昇して、実体を持たない敵や魔法を斬れる…… か」
「昔、ベッキーとか言う人が、雷を斬った刀らしい」
ベッキー? 外人さん?
昨日は得したし、結構楽しかった。
でも、暫くは合戦に行くのは止めよう。
少なくとも、レベル60↑、まともに動けるのは70↑でなければ、お荷物にしかならないみたいだ。
「お、チルヒメ、それが永続召喚した召喚獣?」
チルヒメはデス娘と一緒に、白地に黒い縞模様の虎に乗ってやって来た。
「はい、白虎で、名前は桔梗です」
「強そうだね」
「いえ、実はレベルが低いので、とても弱いです。
でも高くなれば、BOSS戦にも耐えられますし」
「今日一杯は、召喚獣の援護は無いと考えた方がよさそうだね。
ヨシヒロ、その分頑張ってくれよ」
「オマエモナー」
何とか狩れてるな。
召喚魔法の援護は無くなったが、代わりに弓準備も修得しているチルヒメの、風属性矢が敵を倒していく。
オークを倒す度に、どんどんレベルが上がっていく桔梗を見て、チルヒメはうれしそうだ。
これなら、そう遠くない裡に桔梗も参戦できるだろう。
更なる効率アップが望めそうだ。
…… 村長がこなければな。
本日も村長に潰されました。